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2012年6月21日木曜日

231Pa/230Thが何故AMOC強弱の間接指標になるのか

McManus et al. (2004, nature)で一躍有名になった231Pa/230Thを用いたAMOC(Atlantic Meridional Overturning Circulation; 大西洋子午面循環)などの深層水循環の復元の原理について。



231-プロトアクチニウム(Protactinium; Pa)230-トリウム(Thorium; Th)はともに放射性核種で、半減期はそれぞれ32.5ka, 75.2kaであり、海水中での滞留時間は50〜200, 5〜40年である。

ともに海水中のウラン(235U, 234U)の娘核種であるが、海水中のウランの濃度分布は過去10万年間はほとんど均質と考えられているため、ウランから生成される231Paと230Thの比(231Pa/230Th)は「0.093」という一定値をとる。

PaとThは沈降粒子に捕獲されやすい性質があるため、水柱から堆積物へと沈降除去される(堆積物中のPaとThは231Pa-excess, 230Th-excessなどと呼ばれる。ともに放射壊変で徐々に量が低下するため、経過時間を用いて補正されたのちの値を用いる)。

PaとThの沈降粒子に対する捕獲されやすさには違いがある。
231Paは鉛直方向に輸送され堆積物に残るよりも、水平方向に輸送されやすい。
一方で230Thは沈降粒子に対して活性度が高く、ほとんどが鉛直方向に輸送され、堆積物に保存される。従って、230Thの海底へのフラックスは一次生産量とほとんど等しくなる

現在深層水が形成されている現在の北大西洋においては、231Pa-excessはその半分ほどが北大西洋の深海底に堆積するのではなく、水平方向にゆっくりと輸送され南大洋まで運ばれると考えられている。

従って、深層循環の停止は水平輸送の低下を意味し、231Pa/230Thは「0.093」という一定値に近づくはずである。
逆に深層循環の強化は231Pa/230Thを小さくさせる231Pa-excessが減るため)。

McManus et al. (2004, nature)ではこの原理を利用し、231Pa/230Thを北大西洋における深層水形成の強弱(つまりAMOCの強弱)と見なしたわけである。


しかしながら、231Paと230Thの沈降粒子への吸着は粒子の組成や沈降フラックスに依存する。
中でも生物源オパール231Paの沈降に支配的であることが知られており、231Pa/230Thに影響する。それを反映し、231Paは表層において珪藻が卓越し、生物源オパールの輸送量が多い南大洋まで運ばれた後に堆積物に保存される
結果、南大洋の堆積物の231Pa/230Thは「0.093」よりも’高い’値をとり、海水の231Pa/230Thはより’低い’値をとる。
逆に北大西洋の堆積物の231Pa/230Thは「0.093」よりも’低い’値をとる。

231Pa/230Th法は様々な仮定のもとで成り立っている。
  1. NADWが形成されている北大西洋において、表層水が沈み込むことで231Pa/230Thの収支は一度リセットされる
  2. 231Paは北大西洋の外で沈降し、堆積する
  3. 沈降粒子フラックスがある程度大きく、230Thはすみやかに除去される必要がある。また230Th-excessが時間的に変化しないことが望ましい。
  4. 堆積物中において二次的に生成される231Paや230Thがない

McManus et al. (2004)を改変。
北大西洋で採取された2本の堆積物から得られたPa/Thはそれぞれ同じ傾向を示し、この手法がAMOCの強弱を表していることを支持している。最終退氷期において特にH1とYDのときにAMOCが弱化していた可能性を示唆している。