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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
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2012年6月30日土曜日

新着論文(Ncc#May 2012)

Nature Climate Change
(May 2012)

東大のアクセス権が復旧したので再開。個人的には非常に重要な雑誌なのでとても嬉しい。

Editorial
Guilt Trip
罪深い旅
温室効果ガスと気候変動との繋がりが明瞭になってきた。科学者と雑誌の編集者は情報の拡散を加減しなければならない。

Commentary
Emergence of the carbon- market intelligence sector
炭素市場の情報部の出現
新しく設立された「economic phenomenon carbon-market intelligence(経済現象炭素市場情報部?)」は350億ユーロの価値があり、2倍成長を続けている。

Interview
Offsetting under pressure 
圧力のもとでオフセットする  
イギリスのTyndall CentreのKevin Andersonは、カーボンオフセットに対し「害はあっても益がない」と考える理由についてNature Climate Changeに語った。

Policy Watch
Climate battle for the skies
空に対する気候の戦い
航空機を使って放出された炭素を追いかけることは非常に難しいが、ヨーロッパは基盤を作りつつある。

Market Watch
Sweetening the dragon’s breath
ドラゴンの息を甘くする
世界最大の炭素放出国である中国が、排出取引の新しい実験的な枠組みを構想している。

Research Highlights
Antarctic warming
南極の温暖化
Geophys. Res. Lett. 39, L06704 (2012)
南極の気温は北極とは異なる歴史を歩んできた(バイポーラーシーソー)と考えられている。しかしながら、限られたデータと気温の復元データを用いて解析を行ったところ、南極の気温は北大西洋というよりは寧ろ赤道太平洋の気温とよく相関していた。近年の南極の気温はバイポーラーシーソー仮説では説明できない可能性を示唆している。

Women and climate change
女性と気候変動
Soc. Sci. Res. http://doi.org/hsx (2012)
女性は男性よりも気候変動に対する関心が高い。統計データの解析から女性の政治的な地位が高い国ほど二酸化炭素排出量が低いことが分かった。

Monitoring forest carbon
森林の炭素をモニタリングする
Environ. Sci. Policy 19–20, 33–48 (2012)
森林破壊による二酸化炭素放出を抑えることに活発な発展途上国の多くは政府によるモニタリング能力が低い。99の途上国のうち48がそれに相当することが分かった。

Carbon tax revenues
炭素税による収入
Energ. Econ. http://doi.org/hsz (2012)
炭素税は貧困層に与える影響が大きいことから特に途上国で反対されることが多い。メキシコにおける炭素税の影響をモデルでシミュレーションしたところ、炭素税を製造分野に還元する場合と助成金に還元する場合とで結果が逆転することが分かった。炭素税の実行可能性はそれが経済にどう還元されるかに大きく依存する。

Ocean oxygenation
海の酸素化
Biogeosciences 9, 1159–1172 (2012)
温暖化が進行すると海水温上昇に伴う酸素の溶解の低下と海洋の成層化が進行することで外洋の多くの場所で酸素欠乏が発生し、生物を脅かす可能性が高い。しかしながら最近のモデリングの研究からそうした海域は必ずしも全球的ではないことが示された。むしろ太平洋の貧酸素水塊は鉛直混合によって酸素濃度が上昇する可能性があるらしい。

Predicting rain
雨を予測する
J. Clim. http://doi.org/hs2 (2012)
将来雨は多くの地域で増えることが予測されている。地域的な気候モデルでは降水の日周期などを上手く再現できていないが、過去の降水を再現することでモデルの信頼性を高めることができる。イギリス気象庁の研究チームは1989-2008年の20年間の降水データとモデルの再現とを比較したところ、モデルがよく現実の降水を再現できていることが分かった。

Exactly what don’t we know? 
本当に我々が知らないものとは?
Nature Geosci. 5, 256–260 (2012)
将来の温暖化が何℃の上昇になるかを予測するのには大きな不確実性があるが、主に3つの要素の理解が不足していることが原因として考えられている。(1)平衡状態の気候感度(2)海洋の熱の吸収効率(3)エアロゾルの放射強制力。オクスフォード大の研究チームによる1000ものモデルを用いたアンサンブル予測から、中程度の排出シナリオでは21世紀中頃に1.4-3.0℃の温暖化になる可能性が示された。

US coastal flooding
アメリカ沿岸部の氾濫
Environ. Res. Lett. 7, 014032 (2012) 
海岸における氾濫のリスク評価における不確実性は、海水準上昇が嵐による高潮の程度と頻度にどう影響するかにある。モデルと潮位計のデータと歴史的な高潮のデータとを併せて2050年までのアメリカ沿岸部における海水準上昇と高潮の影響を評価したところ、将来100年に一度の高潮が毎年起きる(現在は10年に1回は起きているらしい)可能性が示された。これは過去の変動から将来のリスク評価を行うことの危険性を示している。

Release from the cold
冷たいものからの放出
Glob. Change Biol. http://doi.org/hs3 (2012) 
 北半球における泥炭地の植物生産は一般的には窒素に律速されている。ツンドラの永久凍土の融解によって植物に利用可能な形態の窒素が放出されるかどうかに関心が寄せられている。スウェーデンの泥炭地の調査から7倍もの窒素がもたらされる可能性が示された。植物の窒素の取り込み量は8倍に増加するらしい。窒素放出が植物生産や種組成を大きく変える可能性を秘めている。

News & Views
Arctic warming favors extremes
北極の温暖化は異常気象を好む
Vladimir A. Semenov
Dowsett et al.の解説記事。
21世紀は北半球のあらゆる地域における異常気象で特徴づけられる。北極周辺の大気力学を理解することが近年の異常気象の原因の解明に繋がるかもしれない。

Looking back to the future
未来のために過去を振り返る
Tim Naish & Dan Zwartz
Pliocene(鮮新世)の温暖な気候だった時代を調べることで、将来の温暖化した世界を気候モデルを用いて予測する手助けとなるかもしれない。

Melting biodiversity
融水の生物多様性
Leopold Füreder
Jacobsen et al.の解説記事。
氷河からの融水が河川に流入し、それが河川の生態系にどのような影響を与えるかはよく分かっていない。定量的な分析から、その規模について明らかになった。

Perspectives
Reconciling top-down and bottom-up modelling on future bioenergy deployment
Felix Creutzig, Alexander Popp, Richard Plevin, Gunnar Luderer, Jan Minx & Ottmar Edenhofer
IPCCの再生可能エネルギーと気候変動緩和に対する特別報告書(SRREN)は気候変動緩和におけるバイオ燃料の役割について評価している。バイオ燃料は二酸化炭素排出削減にも重要な貢献をするとしているが、一方で二酸化炭素の重要な排出源かつ環境に対する害をなすもの(土地利用の変化など)ともしている。双方の視点を持つというバランスは重要だが、この相反した考えをうまく合わせる方法を模索する必要がある。

Review
Realizing the electric-vehicle revolution
Martino Tran, David Banister, Justin D. K. Bishop & Malcolm D. McCulloch
完全にバッテリー化した自動車(BEVs)は気候変動緩和において重要な役割を持つと思われるが、どの時期に、どれほどの規模で市場に参入するかという不確かさがある。可能性や重要性はあるものの、消費者側のふるまいという視点が議論には不足している。技術だけでなく、消費者側の視点(電力需要、充電施設のインフラ整備、乗り心地、運転パターン、個々人の適応)の双方を考慮することが必要である。

Letters
Climate response to zeroed emissions of greenhouse gases and aerosols
H. Damon Matthews & Kirsten Zickfeld
二酸化炭素排出が完全にゼロになった地球の気候状態をモデリングすることは我々の経済発展の道筋を考える上で非常に重要な目標を与えてくれる。これまでに二酸化炭素をゼロにすることで気候が安定化することが示された。我々の研究において他の温室効果ガスとエアロゾルの両方の排出を削減することで、10年間で数10分の1℃温暖化することが分かった。主な原因はエアロゾルによる寒冷化の効果が打ち消されてしまうこと。その後数世紀かけて産業革命前のレベルに戻って行くことが示された。しかしモデルの中では現在のエアロゾルに対する気候感度に大きく依存してしまう。

Vulnerability of coastal aquifers to groundwater use and climate change
Grant Ferguson & Tom Gleeson
気候変動と人口増加が地下水資源に大きな影響を与えると考えられている。海水準上昇及び地下水の過度な使用は沿岸地域の氾濫と地下水資源への塩害をもたらし、既に帯水層に悪影響をもたらし始めている。それぞれの影響を定量化することはこれまでされてこなかったが、我々の研究から帯水層は海水準上昇よりも地下水の過度な利用の方に影響されることが示された。従って、海水準上昇に対する適応のみを考えている水資源管理の施策は誤りだ。

High sensitivity of the continental-weathering carbon dioxide sink to future climate change
E. Beaulieu, Y. Goddéris, Y. Donnadieu, D. Labat & C. Roelandt
21世紀初めのレベルに対し2倍の二酸化炭素濃度になった場合、最悪6℃の温暖化が予測されており、それは全球の水循環と植生に影響すると考えられ、さらに化学風化にも大きく影響することが予想される。プロセスに基づいたモデリング研究から、北米のMackinzie River流域で風化が50%強化されることを示す。次の世紀においては風化が炭素循環にも大きな役割を占める可能性がある。

Impacts of incentives to reduce emissions from deforestation on global species extinctions
Bernardo B. N. Strassburg, Ana S. L. Rodrigues, Mykola Gusti, Andrew Balmford, Steffen Fritz, Michael Obersteiner, R. Kerry Turner & Thomas M. Brooks
森林破壊は二酸化炭素排出の重要な構成要素であるとともに、種の絶滅の最大の原因である。モデルと種の分布データを用いて将来の森林破壊の種の絶滅に与える影響を評価。森林破壊と森林の劣化がこれまでの絶滅の主要因であり、将来これらを起源とする二酸化炭素放出を削減することが、種の保全に重要な要素であることが分かった。森林を保有する国が適切に与えられた基金をもとに森林を保全できれば、気候変動緩和に繋がるとともに、生物多様性も保護されることを示している。

Temperature-related changes in polar cyanobacterial mat diversity and toxin production
Julia Kleinteich, Susanna A. Wood, Frithjof C. Küpper, Antonio Camacho, Antonio Quesada, Tancred Frickey & Daniel R. Dietrich
温暖化が最も激しく起きるのは北極と南極であることが知られており、南極半島では過去50年間で10年に0.5℃の上昇率で温暖化していることが知られている。南極周辺の淡水システムにおいてはシアノバクテリアのマットが底層における一次生産を担っている。採取したシアノバクテリアを半年間様々な温度で培養したところ、8-16℃付近で多様性が増すことが分かった。毒性のあるシアノバクテリアが優勢になることで毒の生産量が増えることも分かった。南極では既に夏にはこれらの温度に達している?

Biodiversity under threat in glacier-fed river systems
Dean Jacobsen, Alexander M. Milner, Lee E. Brown & Olivier Dangles
淡水の生態系は温暖化によって脅威にさらされているが、氷河の融水によって支えられている氷河性の水生生態系は氷河の縮小に伴い影響を受けている可能性が高い。水生生物の中でも比較的大きな生物(昆虫の幼生など)に焦点を当てた調査から、氷河の縮小とともに多様性が減少していることが分かった。氷河が完全に消失することで固有種を含む11-38%が消えると予測される。

Assessing confidence in Pliocene sea surface temperatures to evaluate predictive models
Harry J. Dowsett, Marci M. Robinson, Alan M. Haywood, Daniel J. Hill, Aisling M. Dolan, Danielle K. Stoll, Wing-Le Chan, Ayako Abe-Ouchi, Mark A. Chandler, Nan A. Rosenbloom, Bette L. Otto-Bliesner, Fran J. Bragg, Daniel J. Lunt, Kevin M. Foley & Christina R. Riesselman
古気候データを用いてモデルのチューニングを行ったり、様々なモデルを用いて計算した結果を比較することで、モデル特有のバイアスの議論が広く行われている。データとモデルの双方にある不確実性を考慮する必要がある。最も最近の温暖化した世界はPliocene(鮮新世)であるが、4つの気候モデルを用いて計算したPlioceneの気SSTとプロキシを用いて求められたSSTのデータを比較。一般によく再現されたが、特に北大西洋の中緯度域で食い違いが見られた。