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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年6月22日土曜日

新着論文(QSR, EPSL, GRL, PO)

◎QSR
North Atlantic forcing of millennial-scale Indo-Australian monsoon dynamics during the Last Glacial period
Rhawn F. Denniston, Karl-Heinz Wyrwoll, Yemane Asmerom, Victor J. Polyak, William F. Humphreys, John Cugley, David Woods, Zachary LaPointe, Julian Peota, Elizabeth Greaves
インド・オーストラリア・モンスーン変動は両半球とローカルな海の両方によって駆動されている。特にハインリッヒ・イベントの際のITCZの南北移動に注目が寄せられている。オーストラリア北部に位置するBall Gown洞窟の鍾乳石から、40-31ka、27-8kaのITCZの挙動を復元。北半球の変動とは逆位相で降水量が変動していた。

A composite pollen-based stratotype for inter-regional evaluation of climatic events in New Zealand over the past 30,000 years (NZ-INTIMATE project)
David J.A. Barrell, Peter C. Almond, Marcus J. Vandergoes, David J. Lowe, Rewi M. Newnham, INTIMATE members
過去30kaのニュージーランドの陸上古環境記録(主に花粉)のレビュー。

Seasonality of UK′37 temperature estimates as inferred from sediment trap data
Antoni Rosell-Melé , Fredrick G. Prahl
アルケノン古水温計がどの季節を反映するかという問題はプロキシの誕生当時から議論されてきた。34カ所のセジメント・トラップ記録から、アルケノンの生産量が極大となる季節は各海域で異なり、緯度や光だけでなく、ローカルな海洋環境が大きく影響していることが分かった。すべてのデータを年平均SSTと比較するとよい相関が見られることから、いくつかの例外を除いては、アルケノン古水温計が使えることが示された。

◎EPSL
Opening the gateways for diatoms primes Earth for Antarctic glaciation    
Katherine E. Egan, Rosalind E.M. Rickaby, Katharine R. Hendry, Alex N. Halliday
始新世・漸新世境界における急激な南極の氷河化はpCO2の減少との関連性が示唆されているものの、そのメカニズムはよく分かっていない。一つの仮説は、珪藻の生物生産が増加したことによって生物ポンプが強化され、炭素が堆積物として固定されたことである。南大洋・大西洋セクターの堆積物コア(ODP1090)のδ30Siを測定したところ、始新世後期からδ30Siが減少し始め、珪藻によるケイ酸利用効率に変化が生じたことが示唆される。また、31.5Maころに中層水のケイ酸濃度は極大を示した。これらの観測事実から、南極周回流の速度上昇(spin-up)が表層・深層循環に影響し、珪藻の増加を招いたものと考えられる。もしかすると南極の氷河化を招くのに必要なpCO2の減少がこのメカニズムで説明できるかもしれない。

Recognition of Early Eocene global carbon isotope excursions using lipids of marine Thaumarchaeota
Petra L. Schoon , Claus Heilmann-Clausen , Bo Pagh Schultz , Appy Sluijs , Jaap S. Sinninghe Damsté , Stefan Schouten
PETMとETM2においては急激な温暖化と海洋底の炭酸塩の溶解が起きており、δ13Cの負のエクスカージョンで特徴付けられる。そうしたδ13Cの変動は炭素循環を制約する上で重要であるが、指標によってその変動幅が異なるという問題がある。北海と北極海から得られた堆積物コア中のGDGT(タウムアーキオータ; Thaumarchaeotaがつくる脂質)のδ13Cを測定した。ETM2の場合、炭酸塩δ13Cに比べて低い値を示したことから、表層水と亜表層水の13Cに欠乏した海水との混合の影響が見られる。PETMの値はそれぞれ一致した。従って、GDGTがDICのδ13Cの制約に使える可能性がある。

◎GRL
North Atlantic circulation and reservoir age changes over the past 41,000 years
Joseph V. Stern, Lorraine E. Lisiecki
北大西洋から得られたさまざまな堆積物コアの底性有孔虫δ18Oを繋いで年代モデルを作成し、それとは別に得られている浮遊性有孔虫Δ14Cを用いて海洋表層のリザーバー年代の過去41kaの推移を推定。現在は400年程度であるが、HS1の初期には1000年を超すほど古くなっており、原因としてはAMOCの変動が考えられる。HS1を招いたと思われる北大西洋高緯度域への淡水注入によって、IRDのピークの直後にリザーバー年代も急激に減少するが、これは淡水が招いた成層化によって気体交換が活発化したことが原因と考えられる。

Nutrient variability in Subantarctic Mode Waters forced by the Southern Annular Mode and ENSO
Jennifer M. Ayers, Peter G. Strutton
WOCE/CLIVARのデータを用いて最近のSAMWの栄養塩濃度変動の要因を評価したところ、Southern Annular Mode (SAM)と子午面循環の強化に伴う風応力カール・アノマリとの良い相関が見られた。子午面循環の強化は高緯度域の栄養塩の湧昇を強化し、エクマン輸送によってより低緯度側に輸送され、より高濃度の栄養塩がSAMWに取り込まれたと考えられる。SAMWの栄養塩変動が最大で5-12%ほど低緯度域の年間export productionを変化させていると考えられる。

The intensity, duration, and severity of low aragonite saturation state events on the California continental shelf
C. Hauri, N. Gruber, A. M. P. McDonnell, M. Vogt
カリフォルニアの大陸棚における海洋酸性化の規模・継続期間などが2050年までにどのように変化するかを、SRES A2シナリオに基づいてモデル予測したところ、1750年と比較して、アラゴナイト不飽和イベントの数と継続期間が4倍になることが予想された。変化量という意味においては来る20-40年間に大きいと思われる。2030年には大陸棚の底層水の不飽和が定常状態になると思われる。大気中CO2濃度が500ppmを超すようなシナリオでは、不飽和は永続的になると思われる。不飽和が石灰化生物に多大な影響を与え、生態系の構造を根本から変えると予想される。

◎Paleoceanography
Southwest Pacific Ocean response to a warming world: using Mg/Ca, Zn/Ca and Mn/Ca in foraminifera to track surface ocean water masses during the last deglaciation
Julene P. Marr, Lionel Carter, Helen C. Bostock, Annette Bolton, Euan Smith
太平洋南西部(ニュージーランド周辺)から得られた堆積物コア中のGlobigerinoides bulloidesGlobigerina ruberのMg/Ca, Zn/Ca, Mn/Ca, Ba/Caを測定。コアトップ試料を用いてプロキシを構築し、さらにそれを用いて最終退氷期における水塊移動を推定。Zn/CaやMn/Caは亜寒帯水塊・亜熱帯水塊を見分ける指標になる可能性がある。またそれぞれの種間でMg/CaとZn/Caが異なる値を示すのは、水塊の鉛直方向の熱構造と栄養塩の成層化を示していると思われる。氷期には6-7℃、SSTが低く、成層化は最小となっていた。成層化が崩壊するのはACRのときであった。

Evidence of silicic acid leakage to the tropical Atlantic via Antarctic intermediate water during marine isotope stage
James D. Griffiths, Stephen Barker, Katharine R. Hendry, David J. R. Thornalley, Tina van de Flierdt, Ian R. Hall, Robert F. Anderson
AAIWやSAMWは南大洋から低緯度域にケイ酸を輸送しているため、低緯度域の珪藻の生物生産をコントロールしていると思われる。赤道大西洋西部で得られた堆積物コアのεNdとδ30Si分析から、MIS4(60-70ka)にSilicic Acid Leakage Hypothesisを示唆する証拠が得られた。北西大西洋や赤道大西洋東部でも珪藻のフラックスが増加していることから、大西洋の広い範囲がSALHを通して氷期の大気CO2濃度の低下に寄与していた可能性がある。

◎Others
Assessing possible consequences of ocean liming on ocean pH, atmospheric CO2 concentration and associated costs
François S. Paquay, Richard E. Zeebe
International Journal of Greenhouse Gas Control 17 (2013) 183–188
地球温暖化と海洋酸性化を抑制するための地球工学の一つとして提案されている、海洋表層水へのアルカリ添加の効果とコストをモデルシミュレーションで評価。1500-5000 PgCを海洋に吸収させる場合、2011年のGDPの0.8-4.6%のコストがかかると推計された。CO2が1トンあたり144米ドル(日本円で15,000円くらい)となる。
※アルカリ度を増すことのメリットは生物への影響を最低限に抑えられること、温暖化だけでなく海洋酸性化も軽減できることにある。ただし、いくらアルカリ度を加えたとしても、産業革命以前の大気中CO2レベルには戻せないらしい。