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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年6月28日金曜日

新着論文(Science#6140)

Science
VOL 340, ISSUE 6140, PAGES 1489-1604 (28 JUNE 2013)

EDITORIAL:
The Science of Sustainability
持続可能性の科学
Christopher Dye and Marcia McNutt

Editors' Choice
Teething Signs
歯が生えることの兆候
Am. J. Pathol. 183, 109 (2013).
Bisphenol A (BPA)はプラスチック製造に使われる薬品の一種だが、内分泌系に影響することが知られている。近年、途上国におけるBPA汚染が深刻になっており、不妊・肥満・ガンなどの健康被害につながる可能性が指摘されている。マウスの子宮内の胎児にBPAを投与したところ、歯のエナメルの無機質減少(hypomineralization)が確認された。6~8歳の子供に見られている前歯の病気(molar incisor hypomineralization)と類似した点が確認された。

Siderite in Time
ちょうどいい時にsiderite
Nat. Comm. 4, 1741 (2013); Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 10.1073/pnas.1308958110 (2013).
 縞状鉄鉱床は地球大気が酸素で満ちる前の堆積過程を記録しており、カンブリア爆発前の海水の化学組成を記録していると思われる。しかし、生物過程・非生物過程が入り交じっておりその形成のメカニズムはまだ紐解けていない。
 高温高圧の鉄炭酸塩鉱物(siderite; FeCO3)の沈殿実験から、反応には有機物の量が重要であることが分かった。従って、球状のsiderite粒子は微生物活動の指標になる可能性がある。
 また別の室内実験から、カンブリア爆発前の水柱中のsideriteは光酸化して水素分子と鉄酸化物を形成することが示された。これは縞状鉄鉱床の形成の材料になった可能性がある。この現象が全球規模だったとすると、初期大気の酸素濃度上昇過程においては非生物過程が重要な役割を負っており、嫌気的微生物のエネルギーソースとして寄与していたのかもしれない。

Green Gains
緑の獲得
Geophys. Res. Lett. 10.1002/ grl.50563 (2013).
陸上の植物量は近年増加傾向にあることが人工衛星観測から示されている。しかしそれには光・水・栄養・土地利用などの様々な要因が関係していると思われるが、中でもCO2による施肥効果(CO2 fertilization)の役割が大きいのではないかと考えられている。理論予測からは1982-2010年のCO2濃度上昇によって5-10%緑化すると考えられたが、それは人工衛星観測による乾燥域(CO2以外の要因があまり影響しない)の11%の緑化と整合的な結果となった。この結果を他の地域に応用することは難しいものの、CO2が緑化に与える影響を考える上で重要な知見になると思われる。
>話題の論文
Impact of CO2 fertilization on maximum foliage cover across the globe's warm, arid environments
Randall J. Donohue, Michael L. Roderick, Tim R. McVicar, Graham D. Farquhar

News of the Week
House Panel Seeks Changes In NASA Programs
議会のパネルがNASAの計画の変更を求めている
NASAは小惑星を捕獲して月の軌道に持ってくる計画ではなく、月に基地を設立する計画の方に変更を余儀なくさせられるかもしれない。
>より詳細な記事
House Science Committee Wants NASA to Return to the Moon
Yudhijit Bhattacharjee

New Treasures at Angkor Wat
アンコール・ワットの新しいお宝
航空機を用いたレーザー観測から、世界最大の宗教構造物であるアンコール・ワットの周辺に中世の大都市が存在した可能性が明らかに。
>より詳細な記事
The Hidden City of Angkor Wat
Richard Stone

Voyager’s Not Gone Yet
ボイジャーはまだ遠くへ行ってしまっていない
ボイジャー1号は地球を離れてから35年が経過し、太陽-冥王星間の距離の3倍も離れた地点を飛行しているが、太陽風が急激に減少し、銀河線が急激に上昇したというデータを昨年夏に送ってきた。しかしまだ太陽圏を脱出していないことを示すデータを示した論文が今週Scienceのオンライン版に公表された。まだ磁場の変化が確認されていないことがその根拠とされている。現在太陽圏と星間のハイブリッド空間にいるが、それがどれほど広がっており、ボイジャーがいつそれを脱出するかは前例がないため分からない。

Letters
Coral Diseases Cause Reef Decline
サンゴの病気がサンゴ礁の減少を招く
Caroline S. Rogers and Jeff Miller
近年サンゴの白化現象によるサンゴ礁の減少が議論されているが、病気による減少にはあまり注目が寄せられていない。1970-1980年代にはカリブ海のミドリイシ類(Acropora palmata; A. cervicornis)に対する病気によってサンゴ礁が大きく姿を変えた。近年でもイシサンゴ(Scleractinia)が一つ以上の病気に感染している。通常白化現象は温度上昇によってもたらされるが、温度が元に戻れば回復する例もある。しかしながら病気の場合は組織が失われるため、白化現象とは全く異なる現象である。気候変化によって白化現象はますます増加すると考えられているが、温暖化・白化現象・病気の関係性についてはまだよく分かっていない。それぞれの関係性をよりよく研究する必要があるが、汚染水の流入や土砂堆積量を減らすことでも白化現象や病気のリスクを軽減することができると思われる。

Reversing Excess Atmospheric CO2
過剰の大気CO2を逆転する
Greg H. Rau and Klaus S. Lackner
Matthews & Solomonは記事の中で、"少なくとも千年スケールでは過去のCO2排出は打ち消せない"と述べているが、大気中のCO2を「直接捕獲」あるいは「陸や海に吸収させて減らす」術はある。しかしながら、そうした人間の炭素循環への野心的な介入に対するコスト・安全性・能力・環境的社会的な好ましさといったことはまだ十分に評価されておらず、今後大気中のCO2濃度が加速的に上昇することはないと結論づけるのは時期尚早である。
>話題の記事(Science#6131 "Perspectives")
Irreversible Does Not Mean Unavoidable
不可逆性は不可避性を意味しない
H. Damon Matthews and Susan Solomon
 「全球気温の上昇はもはや避けられない」「これまでに出されたCO2が原因で起きている温暖化は1,000年は打ち消せない」といった誤解があるが、過去の変化が打ち消せないことは、将来のさらなる温暖化が避けられないということにはならない。
 炭素循環・気候の慣性(inertia)を考える必要がある。海によるCO2の吸収には時間がかかるため、現在CO2の排出を停止すれば、次第に大気中のCO2濃度は低下するはずである。例えば現在CO2の排出が急激にゼロになったとしても、気温は数世紀はおおよそ現在のレベルに維持されるだろうと思われるが、少なくとも上昇することは考えにくい。CO2の排出量が低下した場合、最悪のシナリオに比べて温暖化が抑えられることになり、温暖化がなくなるわけではない。つまりこれまでの排出を打ち消すことは難しいが、これからの排出とそれに伴うさらなる温暖化はコントールすることができる。
 将来の温暖化は全体を通して排出されたCO2の総量によるが、現在は先進国が途上国に比べて多くのCO2を放出している。しかしあと数十年でその関係は逆転すると考えられている。うまく低炭素社会が先進国・途上国で実現すれば破滅的な地球温暖化は防げるが、うまくいかないか、或いは対応が遅れた場合、地球はよりいっそう温暖化する。
 排出削減だけで産業革命以前のレベルまで気温を低下させることは不可能だが、将来の温暖化の程度は現在の排出によって決まるのであって、もはや人間が手の届かないところにあるというわけではない。

Reversing Excess Atmospheric CO2—Response
Rau & Lacknerに対する返答
Damon Matthews and Susan Solomon
 確かにCO2濃度を減少させる技術の可能性や効果を議論することは重要である。しかし、我々が考えている時間スケールにおいては関連しないと思われる。
 太陽放射反射を含む地球工学技術は一時的に地表気温を操作するだけで、大気中のCO2濃度上昇をそのままにしておくと海洋酸性化や降水パターンの変化は避けられない。地球工学技術の中には大気中のCO2を取り去るものもあるが、そうした技術をテストすることも現在かなわず、発展する・実行する見込みは薄いと思われる。さらに地球システムへの介入が招く他の環境被害は大気中CO2を減らすことの恩恵よりも大きい可能性もある。
[以下は引用文]
In a discussion of the potential for immediate or near-future action to slow the growth of atmospheric CO2, we suggest that consideration of carbon dioxide removal (or other geoengineering) technologies would at best be not very relevant, and at worst could distract from the imperative of decreasing investment in energy technologies that lead to large CO2 emissions.
大気中CO2濃度の増加を遅らせる中期的・短期的未来に向けた行動の可能性という議論において、大気中のCO2捕獲(或いはその他の地球工学)技術を考えることはものすごく意味のあることではないだろうと思われる。むしろより多くのCO2排出へと繋がるエネルギー技術への投資を減少させるという喫緊の課題から気をそらすことになりかねない。
※誤訳あるかもしません

Policy Forum
The Global Prevalence of Intimate Partner Violence Against Women
女性に対するドメスティック・バイオレンスの世界的な蔓延
K. M. Devries, J. Y. T. Mak, C. García-Moreno, M. Petzold, J. C. Child, G. Falder, S. Lim, L. J. Bacchus, R. E. Engell, L. Rosenfeld, C. Pallitto, T. Vos, N. Abrahams, and C. H. Watts
81カ国のデータから、女性に対するドメスティック・バイオレンスの世界的な蔓延の程度が推定された。

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Research
Perspectives
Eliminating Malaria
マラリアを排除する
David A. Fidock
マラリアを根絶するためには抗マラリア作用の可能性のあるアーテミシニンに対する、生まれつつある抗性を打ち消す集中的な努力が必要である。

Some Like It Hot, Some Not
あるものは暑いのを好むが、またあるものはそうではない
Jayne Belnap
乾燥地域の土壌中の微生物同士の競合は地域的な気候に左右される。
Garcia-Pichel et al.の解説記事。

Solving the Mascon Mystery
Masconの謎を解く
Laurent G. J. Montesi
MasconとはMass Concentrationの略で、月の地殻で確認されている重力異常を指す。月の質量集中形成のモデリングが初期の熱史の新たな推定につながるかもしれない。Melosh et al.の解説記事。

Review
From Gas to Stars Over Cosmic Time
宇宙的時間をかけてガスから星へ
Mordecai-Mark Mac Low
銀河における星の形成のレビュー。

Reports
The Origin of Lunar Mascon Basins
月のMascon地形の起源
H. J. Melosh, Andrew M. Freed, Brandon C. Johnson, David M. Blair, Jeffrey C. Andrews-Hanna, Gregory A. Neumann, Roger J. Phillips, David E. Smith, Sean C. Solomon, Mark A. Wieczorek, and Maria T. Zuber
衝突盆地形成の詳細なモデルが2つの月のクレーターの地殻に見られる重力の特徴を説明するかもしれない。

Continuous Permeability Measurements Record Healing Inside the Wenchuan Earthquake Fault Zone
連続した透磁率測定が四川地震の断層帯内部の回復を記録する
Lian Xue, Hai-Bing Li, Emily E. Brodsky, Zhi-Qing Xu, Yasuyuki Kano, Huan Wang, James J. Mori, Jia-Liang Si, Jun-Ling Pei, Wei Zhang, Guang Yang, Zhi-Ming Sun, and Yao Huang
四川大地震の際に破壊された断層帯が、その後急速に回復しつつあることが透磁率測定から明らかに。

Dynamic Topography Change of the Eastern United States Since 3 Million Years Ago
300万年前からのアメリカ東部のダイナミックな地形変化
David B. Rowley, Alessandro M. Forte, Robert Moucha, Jerry X. Mitrovica, Nathan A. Simmons, and Stephen P. Grand
これまで非活動的だと考えられてきた北米大陸の東部が、過去500万年間にマントルの流れによって変形していたことが示された。
>関連した記事(Science#6134 "News of the Week")
U.S. East Coast Not So Passive
アメリカの東海岸はそんなに受動的ではない
「火山活動や地震がないような大陸棚縁辺は、河川や海による堆積場で、海水準変動のいい指標になる」というのが従来の地質学の常識となっていたが、アメリカ東海岸は実はそうではないらしい。非常にゆっくりとした深部のマントル対流が東海岸の地形形成にとって重要であることが新たな研究から示されている。さらに北米で伸縮を繰り返した更新世の氷床の存在もまた話を複雑にしているらしい。過去の海水準変動を正しく理解するには、全球的なマントル対流や氷床変動まで理解する必要があると研究者らは語る。

Varied Response of Western Pacific Hydrology to Climate Forcings over the Last Glacial Period
最終氷期の間の気候フォーシングに対する西大平洋の水循環の様々な応答
Stacy A. Carolin, Kim M. Cobb, Jess F. Adkins, Brian Clark, Jessica L. Conroy, Syria Lejau, Jenny Malang, and Andrew A. Tuen
 西太平洋の暖水域は全球の熱と水蒸気輸送において中核的な役割を担っているが、氷期-間氷期スケール・千年スケールの気候変動に対する応答はよく分かっていない。
 ボルネオ島の北部から得られた複数の鍾乳石のδ18Oから過去100kaの降水を復元。歳差運動(21ka周期)にはよく応答しているが、氷期-間氷期の変化にはほとんど応答していなかった。氷期のハインリッヒ・イベント時には地域的な減少していた可能性が高いが、他の北半球の急激な気候変動(D/Oイベント、YDなど)のシグナルはほとんど確認されなかった。

Temperature Drives the Continental-Scale Distribution of Key Microbes in Topsoil Communities
温度が表土コミュニティーにおける重要な微生物の大陸規模の分布を決める
Ferran Garcia-Pichel, Virginia Loza, Yevgeniy Marusenko, Pilar Mateo, and Ruth M. Potrafka
 気候変化の結果、植物や動物がより寒冷な地域へと移動すると考えられているが、微生物もそうなるかはよく分かっていない。
 北米大陸を対象にした土壌中の微生物コミュニティーの調査から、気候変化の中でも特に’温度’の変化が原因で、2種の表土中のシアノバクテリアが緯度方向に移動していることが分かった。この観測事実は温度を変えた飼育実験からも支持された。将来数十年間に渡ってMicrocoleus steenstrupiiMicrocoleus vaginatusに置き換わるかもしれず、その結果土壌中の生態系、ひいては土壌の栄養度や浸食度に影響すると思われる。