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2013年6月21日金曜日

鮮新世の北極圏の気温とその後の寒冷化(Brigham-Grette et al., 2013, Science)

Pliocene Warmth, Polar Amplification, and Stepped Pleistocene Cooling Recorded in NE Arctic Russia
北東北極圏ロシアで記録された鮮新世の温暖化・極増幅と段階的な更新世の寒冷化

Julie Brigham-Grette, Martin Melles, Pavel Minyuk, Andrei Andreev, Pavel Tarasov, Robert DeConto, Sebastian Koenig, Norbert Nowaczyk, Volker Wennrich, Peter Rosén, Eeva Haltia, Tim Cook, Catalina Gebhardt, Carsten Meyer-Jacob, Jeff Snyder, and Ulrike Herzschuh
Science 340, 1421-1427 (21 June 2013)

より。

鮮新世(Pliocene)の温暖期は現在から最も近く、かつ大気中CO2濃度が380 - 450 ppmであったと推定されていることから、地球温暖化の最適なアナログの一つとされている。

極域の気候は、’極増幅(polar amplification)’と呼ばれる、アイス-アルベド・フィードバックなどの機構によって変動が増幅される。
そのため、将来の人為起源の気候変化においても大きな変化が予想され、それが大気-海洋の熱輸送を介して全球にもたらす影響も無視できない。

しかしながら北半球の極域(北極圏)は極限環境のためアクセスが悪く、現在の観測および古気候の理解が十分とは言えない状況にある。

そうした中、ツンドラ地域の湖の堆積物は重要な過去の環境指標になる。


本論文では、ロシア北東部の、ベーリング海峡にほど近いEl’gygytgyn湖の堆積物コア中の花粉分析をもとに、過去3.6Maの’気温’と’降水量’を復元している。

浮遊性有孔虫などと同じく、植物の組成が気温と降水量によって決まる、という経験則をもとにしている。

今回の焦点は主に「’気温’と大気中CO2濃度の関係性」およびそれが「全球の気候変動(特に北半球の氷河化のタイミング)と時間的にどう対応しているか」、にあてられている。

今回は軽くその要点をまとめてみたい。

ちなみにEl’gygytgyn湖はもともとは隕石クレーターで、3.58Maの隕石衝突後の窪地に水が溜まり、その後堆積物が連続的に堆積している。

堆積物の記載については2012年にScienceに投稿された論文に詳しいので参照されたい。
2.8 Million Years of Arctic Climate Change from Lake El’gygytgyn, NE Russia
Martin Melles, Julie Brigham-Grette, Pavel S. Minyuk, Norbert R. Nowaczyk, Volker Wennrich, Robert M. DeConto, Patricia M. Anderson, Andrei A. Andreev, Anthony Coletti, Timothy L. Cook, Eeva Haltia-Hovi, Maaret Kukkonen, Anatoli V. Lozhkin, Peter Rosén, Pavel Tarasov, Hendrik Vogel, and Bernd Wagner
Science 337, 315-320 (20 July 2012)


彼らの花粉分析に基づくと、最温暖期には気温が’+7〜8 ℃’高く、降水量は’+400 mm’多かったとされる。

現在の同地域の気温は夏が+8℃、冬が-35℃程度であり、
降水量は年間200mm程度である。

そのため当時は北極圏全体に森林が広がっており、氷期-間氷期サイクルで重要になってくる北半球の大規模な氷床はまだ存在していなかった。

ここで重要になってくるのがモデルによって予測されている当時の気温との比較である。
PlioMIP (Pliocene Model Intercomparison Project)に用いられている9つの気候モデルの結果よりも’〜1.5℃’高い気温が得られた。
これは、モデルの気候感度が過小評価されていることを意味し、言い換えると、「CO2濃度が上昇した際に、モデルが予測する温暖化の程度が過小評価されている」ということになる。

また興味深いことに、鮮新世中期の温暖気候から、その後の更新世(Pleistocene)の寒冷気候へと向かう際、次第に気温が低下するのではなく、段階的に低下するという特徴が確認された。
これは北大西洋の東部で得られた堆積物コア(ODP982)のアルケノン古水温計に基づいた水温復元とも非常に良く特徴が一致している。
High-amplitude variations in North Atlantic sea surface temperature during the early Pliocene warm period
Kira T. Lawrence, Timothy D. Herbert, Catherine M. Brown, Maureen E. Raymo, Alan M. Haywood
また第四紀を特徴付ける北半球の氷河化(Northern Hemisphere Glaciation; NHG)が起きたとされる~2.7Ma以降にも、依然として北極圏の気温は高く(~2Maまで)、従来考えられてきたよりも’遅く’北極圏が寒冷化に向かったのではないか、という新たな知見が得られた。

またNHGの開始とともに海水準の変動振幅も大きくなるが(~80 m)、更新世後期の振幅(120 - 140 m)に比べて小さいのは、極域が十分寒冷になりきらず、氷床の成長が妨げられていたことが原因かもしれないと考察されている。