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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年6月13日木曜日

新着論文(Nature#7453)

Nature
Volume 498 Number 7453 pp137-266 (13 June 2013)

RESEARCH HIGHLIGHTS
Birds’ mysterious missing penises
鳥の謎めいた失われたペニス
Curr. Biol. http://dx.doi. org/10.1016/j.cub.2013.04.062 (2013)
ニワトリには明瞭な陰茎が見られないが、体長の半分の長さもあるアヒルと、それぞれの胚の発達過程を調査したところ、ニワトリは初めペニスを持っているものの、発展の途中でそれが縮小していることが分かった。細胞の死を促進するBmp4という遺伝子が関与していると思われる。クチバシの成長もまたこの遺伝子が関与していると考えられている。
>より詳細な記事
How the chicken lost its penis
Helen Shen

Sea stars shed too-hot arms
ヒトデは暑すぎる腕を切り捨てる
J. Exp. Biol. 216, 2183–2191 (2013)
ヒトデの一種(ochre sea star; Pisaster ochraceus)を飼育水槽内で、低潮位時の高温状態を想定して放置したところ、コアの温度が35℃を超すとほとんどのヒトデが死ぬことが分かった。生き抜いた個体はコアよりも腕の温度が上昇しており、おそらく体液を循環させてコアの温度を冷やしたのだと思われる。それでもコアの温度が上昇すると、彼らは最も暑い腕から順に切り捨てることが分かった。

Reindeer keep the ground cool
トナカイが地面を冷たく保つ
Remote Sens. Environ. 135, 107–117 (2013)
ツンドラ地域では、高く・密度の高い低木類があった方が地面が熱をより吸収し、結果的に雪解けが早まる。スカンジナビアにおける人工衛星観測記録から、フィンランドではトナカイの群れがツンドラの植物を食むため、雪解けが遅くなっていることが示された。一方で牧草が食べられずに残っているようなノルウェーの内陸部では雪解けは早まっていた。

Trap holds protoplanet dust
罠が始源星の塵を捉える
Science 340, 1199–1202 (2013)
惑星形成は未だ謎とされている。一般的な理論に基づくと、始源星の周りを周回するダストは軌道上で集積して惑星になるよりも、螺旋状に恒星に落ちてしまうはずだからである。そのため天文学者は密度と圧力の傾きがあり、長きにわたってダストを捕獲することのできる’圧力のこぶ(pressure bumps)’があるのではないかと考えている。地球から120パーセク離れた星(Oph IRS 48)の周りにそうしたトラップがある可能性が、チリのALMA宇宙望遠鏡の観測から明らかになった。
>問題の論文
A Major Asymmetric Dust Trap in a Transition Disk
変遷円盤の中の主要な非対称ダスト捕獲
Nienke van der Marel, Ewine F. van Dishoeck, Simon Bruderer, Til Birnstiel, Paola Pinilla, Cornelis P. Dullemond, Tim A. van Kempen, Markus Schmalzl, Joanna M. Brown, Gregory J. Herczeg, Geoffrey S. Mathews, and Vincent Geers
Radio interferometry観測から、若い星を取り囲むmmスケールの粒子がかなり非対称に分布していることが明らかに。

Big lizard among mammals
哺乳類の中の巨大トカゲ
Proc. R. Soc. B 280, 20130665 (2013)
ミャンマーで発掘された歯や顎の化石から、植物を食べる巨大な(体重27kg)トカゲが40-36Maに生息していたことが明らかに。現存する草食性トカゲの2倍ほど大きいことから、’トカゲの王’と呼ばれたロック歌手のJim MorrisonにちなんでBarbaturex morrisoniと名付けられた。トカゲは変温動物であるため、大きな身体の体温を保つために当時の温暖な気候が一役負っていたと考えられている。

SEVEN DAYS
Brazil emissions
ブラジルの排出
ブラジルの温室効果ガス排出量は2005年から2010年にかけて39%近く減少した。急激な低下は主として森林破壊が抑えられたことが原因と思われる。しかし一方で農業やエネルギー生産部門の排出量は増加しており、ブラジル政府はさらなる削減を試みている。2009年のコペンハーゲンにおける気候サミットの削減目標を達成できそうな道筋を辿っている。
>より詳細な記事
Brazil reports sharp drop in greenhouse emissions
Jeff Tollefson
森林破壊の劇的な軽減によってCO2排出量は減ったが、一方で農業(食料生産+バイオ燃料生産)とエネルギー生産(ブラジルではバイオ燃料と水力発電が主流)による排出は増加するなど、将来の課題はまだ残されている。急速な経済発展が後押しして、カーボン・ニュートラルなバイオ燃料ではなく、従来の化石燃料の使用量が増加したと考えられている。
[以下は引用文]
The fastest emissions growth last year occurred in Brazil’s energy sector, although it is still eco-friendly compared with the energy sectors of most other major economies. Brazil boasts the world’s most advanced bioethanol industry, and produced roughly 85% of its electricity from hydropower in 2010. But Brazil has increasingly turned to fossil fuels to drive an ever larger share of its economic growth in recent years. Emissions from the energy sector increased 21.4% between 2005 and 2010, translating to an increase of 399 million tonnes of CO2.

“This is the key to fixing international diplomacy — we need a few big emitters to demonstrate credibly how successful international coordination would tangibly lead to extra efforts,” says Victor. “Brazil, as a big emitter and an emerging country, is in a special position to do that.”

Eye in the sky
空の目
アメリカ地質調査所は、ランドサット8の衛星画像が利用可能になったと発表した。ランドサット・シリーズは1972年以来連続して地球の表層環境の変化を観測し続けており、得られた画像は370万枚にのぼる。ランドサット8は16日かけて地球を一周し、一日に400枚の可視・赤外画像を撮影する。

Montreal accord
モントリオール合意
中国は6/8にアメリカと協力してモントリオール議定書で定められている温室効果ガスの一種でもあるフロンガス(HFCs)の排出を規制することに同意した。以前はオゾン層破壊物質として名高かったが、温室効果もあるということで国連の気候枠組みに組み込まれていた。

Accelerator shut
加速器の閉鎖
放射線漏れの事故を受けて、日本の茨城県にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)は少なくとも2014年はじめまではメンテナンスのために実験を行わないと発表した。今年5/23に金の標的に陽子ビームを打ち込んだ際、放射線が漏れ、作業員34名が弱い放射被爆を受けた。

How to cut carbon
どのように炭素を削減するか
国際エネルギー機関(IEA)が6/10に公表した報告書によると、2012年の世界の炭素排出量は1.4%増加し、31.6Gtとなった。現在世界は3.6-5.3℃温暖化する未来へと向かっている。IEAは「温暖化を2℃以下に抑える」ための4つのシナリオを提示しており、その主要な推奨は、’照明・加熱・乗り物のエネルギー効率を向上させること’としている。他に、’化石燃料型の火力発電の新設を制限すること’、’石油・天然ガスプラントからのメタンのリークを抑えること’、’化石燃料から撤退すること’としている。
>関連する記事(ナショナル・ジオグラフィック)
IEA、CO2排出削減の鈍化に警鐘
Thomas K. Grose in London (June 12, 2013)

US RESEARCH FLEET NEEDS RESUPPLY
アメリカの観測船団は再補給を必要としている
2003年以降、船の燃料価格が4倍に高騰したために科学予算を圧迫しているため、アメリカの海洋研究船の一部は処分されるか、お蔵入りとなってしまうと政府の報告書は述べている。新たな船舶が加入するか、或いは古い船舶が修理されることがなければ、2026年には全船舶数がおよそ半減する(~20隻)と思われる。
>より詳細な記事
US science fleet's future is far from ship-shape
Daniel Cressey

>関連した記事
Push the boat out
船を漕ぎ出す
Nature (28 March 2013) "Editorial"

NEWS IN FOCUS
China gets tough on carbon
中国は炭素で大変になる
Jane Qiu
中国では国を挙げてのキャップ・アンド・トレードの試験運用が導入が始まる。6/18にはじめに深圳州にて、今年の終わりには北京・上海などの大都市でも導入される。対象となる炭素の量は864Mtであり、中国全土の排出量の7%、ドイツの排出量に相当する量である。2020年までに経済成長を鈍化させぬように、排出量を削減することを目標としており(減らすわけではないことに注意)、2020年以降は全排出量を低下させることが目標に組み込まれている。
[以下は引用文]
Researchers say that China has reasons beyond climate change to implement emission caps. In the past few years, rampant air pollution has caused increased public resentment and social unrest across the country.
中国には気候変化以上に排出量制限を設けるのに足る理由がある、と研究者は言う。過去数年間に、猛威を振るっている大気汚染が人々の怒りを買っており、国家に対する社会的不安が増加している。

Kelly Sims Gallagher, an expert on energy and environmental policy at Tufts University in Medford, Massachusetts, says that an ambitious emissions cap from China “would send a strong political signal to the world” and would make it easier to pass more aggressive climate legislation in the United States, where there is strong political resistance to national climate regulations.
エネルギー・環境政策の専門家であるマサチューセッツ州MedfordのTufts大のKelly Sims Gallagherは、「中国における野心的な排出量制限は世界に強い政治的メッセージを送ると思われ、国家的な気候調節に対して政治的な強い反発があるアメリカ合衆国においても、より意欲的な気候法案が通りやすくなるかもしれない。」と述べる。

Speed test for wild cheetah
野生のチーターに対する速度試験
Devin Powell
最新技術の首輪によって、動物のすばやいリラックスと驚くほどの加速の実態が明らかに。

FEATURES
Science prizes: The new Nobels
科学賞:新たなノーベル賞
Zeeya Merali
最近導入されたいくつかの科学賞が数名の科学者を億万長者にしているが、そうした報償が科学分野を振興するのに最良な方法かどうかを疑うものもいる。

Drones in science: Fly, and bring me data
科学におけるドローン:飛んでデータを私に持ってきて
Emma Marris
無人飛行機が科学研究の人気のある手段になりつつある。

COMMENT
Astrophysics: Time for an Arab astronomy renaissance
天文物理学:アラブの天文学が復興すべきとき
「アラブのイスラム教国家は天文学の第一線に復活するための新世代の観測所を必要としている」と、Nidhal Guessoumは言う。

CORRESPONDENCE
Brazil: Save Caatinga from drought disaster
ブラジル:カーティンガを干ばつの災害から守れ
Roberto Leonan Morim Novaes, Saulo Felix & Renan de França Souza

Food security: Curb China's rising food wastage
食の安全:中国の増え続ける食料ゴミを減らせ
Gang Liu, Xiaojie Liu & Shengkui Cheng

Education: Science literacy benefits all
教育:科学リテラシーはすべてに恩恵をもたらす
Aaron C. Hartmann

Climate and war: A call for more research
気候と戦争:より研究する必要性
Neil Adger, Jon Barnett & Geoff Dabelko

Climate and war: No clear-cut schism
気候と戦争:明確な対立はない
Michael Brzoska & Jürgen Scheffran

Women in science: Gender equality in Australian academies
科学の中の女性:オーストラリアの学術界の性の平等
Alan Finkel

Transgenic fish: European concerns over GM salmon
遺伝子組み換え魚:遺伝子組み換え鮭に対するヨーロッパの関心
J. Robert Britton & Rodolphe E. Gozlan

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Cosmology: Hydrogen wisps reveal dark energy
宇宙学:水素の筋がダークエネルギーを明らかにする
Tamara M. Davis
観測された広い宇宙の中のわずかな水素ガスが、宇宙の膨張の加速を引き起こしていると思われる、未知の宇宙エネルギーである「ダークエネルギー」を測定するための物差しとして初めて使われた。

Conservation: Spare our restored soil
保全:回復した土壌を守れ
Johan Six
実りの悪い耕作地を草原へと変えることで土壌流出が抑えられ、炭素が貯蔵されてきた。そうした土地が再び耕されると(特に’すき’で)、温室効果ガスが排出されることが明らかに。

Earth science: Water may be a damp squib
地球科学:水は見当違いかもしれない
John Brodholt
かんらん岩のケイ素の拡散実験から、上部マントルの流体力学に多大な影響を及ぼしていたと広く信じられてきた’水’の役割について疑問が投げかけられている。Fei et al.の解説記事。

ARTICLES
Locomotion dynamics of hunting in wild cheetahs
野生のチーターの狩りの運動力学
A. M. Wilson, J. C. Lowe, K. Roskilly, P. E. Hudson, K. A. Golabek & J. W. McNutt
最新技術が結集した首輪によって、5匹の野生のチーターの計367回の走行の正確な位置・速度・加速度が得られた。最高時速は92.8kmだが、ほとんどの場合は時速72kmを下回り、平均時速49.6kmであった。狩りが成功するかどうかは、その際立ったスピードというよりはグリップ・操作性・筋力であると思われる。

LETTERS
Sodium content as a predictor of the advanced evolution of globular cluster stars
球状星団の発達した進化の指標としてのナトリウム存在量
Simon W. Campbell, Valentina D’Orazi, David Yong, Thomas N. Constantino, John C. Lattanzio, Richard J. Stancliffe, George C. Angelou, Elizabeth C. Wylie-de Boer & Frank Grundahl
漸近巨星分岐(AGB)フェーズは、低質量星にとって核燃焼の最終段階である。球状星団NGC 6752の70%を占める第二世代の恒星が、AGBフェーズに達していないことが示された。分校観測から、どのAGB星もナトリウム存在量が低いことが見いだされ、それらが例外なく第一世代の恒星であることが分かった。

Small effect of water on upper-mantle rheology based on silicon self-diffusion coefficients
ケイ素の自己拡散係数に基づいた上部マントルの流体力学に対する水の小さな影響
Hongzhan Fei, Michael Wiedenbeck, Daisuke Yamazaki & Tomoo Katsura
従来、かんらん岩の変形は水の濃度がほんのわずかに変化しただけで劇的に変化すると考えられてきた。しかし、それは高圧下での実験結果ではなかったため、従来研究の一般化には限界があった。高温におけるかんらん岩のケイ素の自己拡散係数の測定から、岩石変形に対する水の影響は驚くほど小さいことが分かった。従って、上部マントルの流体力学における水の影響は極めて小さいと結論づけられる。プレートテクトニクスに重要な知見が得られた。

Barium distributions in teeth reveal early-life dietary transitions in primates
歯のバリウムの分布が霊長類の初期の食性の変化を明らかに
Christine Austin, Tanya M. Smith, Asa Bradman, Katie Hinde, Renaud Joannes-Boyau, David Bishop, Dominic J. Hare, Philip Doble, Brenda Eskenazi & Manish Arora
歯のエナメルのバリウムの分布が、ヒトとマカク属(macaque; サルの一種)の区別の信頼のおける指標になることが示された。さらに、絶滅したネアンデルタール人の子供の歯の分析から、離乳の過程も明らかに。