Main contents


☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English

2013年6月23日日曜日

海洋酸性化が最も早く進行するのは実は中層(Resplandy et al., 2013, GRL)

Role of mode and intermediate waters in future ocean acidification: analysis of CMIP5 models
将来の海洋酸性化におけるモード水と中層水の役割:CMIP5モデルの分析から
L. Resplandy, L. Bopp, J. C. Orr, J. P. Dunne
GRL 40, doi:10.1002/grl.50414 (2013)

海洋酸性化は実は水面下で最も進行している。

Hawaiiの定点観測所ALOHAの長期観測記録も物語っているように、表層で生成された有機物が分解される深さ200-500mの中層水での酸性化が顕著に現れている。
Physical and biogeochemical modulation of ocean acidification in the central North Pacific
John E. Dore, Roger Lukas, Daniel W. Sadler, Matthew J. Church, and David M. Karl
PNAS 106, 12235–12240
[論文概説「ハワイ発の海洋酸性化の記録〜ハワイの海で有名なのはビーチだけではない〜」]

Dore et al. (2009)を改変。
表層0-30mよりも235-265mでのpH低下の傾きが大きいことが見てとれる。

右から2番目のデータがpHの低下の速度(つまり酸性化)を表す。表層よりも中層が大きい。

Hawaiiにおける定点観測は北太平洋亜熱帯域のある1点にすぎないが(※それでも継続して測定するのには多大な労力が必要)、より広い範囲でもそうした現象が起きていることをモデルシミュレーションから示したのが本論文である。

本論文で用いられているモデルはCMIP5で用いられている地球システムモデル7つのアンサンブル平均である。
特に将来の排出シナリオ(RCP 2.6・4.5・6.0・8.5)に基づいて、どの海域のどの深度が早く酸性化するかを予想している。

彼らは海をおおまかに4つの水塊に分けている(※下の図を参照)。
STW; Stratified Tropical Waters
熱帯〜亜熱帯の表層0 - 200 m深

MIW; Mode and intermediate Waters
熱帯〜亜熱帯〜亜寒帯の温度躍層下部〜1,000 m深

DW; Deep Waters
南大洋の大部分と、全球の1,000〜3,000 m深

BW; Bottom Waters
全球の>3,000 m深

Resplandy et al. を改変。
太平洋の190ºEに沿った南北断面図。
上から、現在のpHの分布、RCP2.6シナリオの21世紀末のpHの低下、RCP8.5シナリオの21世紀末のpHの低下
図のb)とc)を見て明らかなように、亜熱帯域の200 - 500 m深に大きな酸性化が生じることが見てとれる。

また海洋循環は非常にゆっくりしているため、CDWやBWには酸性化がなかなか生じないことも見てとれる。

「何故中層水が早く酸性化するのか?」

答えは、同じDICが取り込まれたとしても、それが炭酸系の平衡に変化を来した際に、pHの変化として異なる応答をするということである。
例えば、DICの変化に対する水素イオン濃度の感度(∂[H+]/∂DIC)はMIWがSTWの1.5倍と推定されている。

STWとMIWを比較した場合、温度が全く異なる
STWは表層の温かい水(10~30℃)であるが、MIWは非常に冷たい水(~4℃)である。

また、MIWのアルカリ度がSTWよりも低いことも影響している(らしい)。


さらに、それぞれの水塊の表面積(CO2を交換する領域)には大きな開きがある。
例えば、MIWは南大洋のかなりの部分を占め、そこで大量のCO2を取り込み、沈み込む(大気から隔離される)が、DWやBWはほとんど大気と接触しない。
この沈み込みが効果的に働くことが、SAMWやAAIWといった南大洋における沈み込みが全球の海洋による人為起源CO2取り込みの4割を担っていることの説明として報告されている。
エクマン流によって駆動される南大洋における人為起源二酸化炭素輸送
T. Ito, M. Woloszyn & M. Mazloff
Nature 463 (7 January 2010), doi:10.1038/nature08687
[論文概説「南大洋における人為起源CO2吸収(Ito et al., 2010, Nature)」]


彼らの解析では、表層および中層の海洋酸性化を支配するのは主としてCO2の大気から海洋への無機的な溶解であって、生物活動や海洋循環の変化は小さな寄与しかしていないという。
しかし、Dore et al. (2009)では生物活動と海洋循環の変化(特に遠くで沈み込んだ水塊の水平方向の移流による)とされ、食い違っている。

メカニズムの解明については今後さらなる研究が必要と思われるが、重要な示唆としては、より長い時間スケールではこれら生物活動や海洋循環の変化が出てくる可能性があることである。

また、モード水・中層水が低緯度に輸送され、再び表層にもたらされる際に(30-100年後)、酸性化を強める効果があることも決して無視できない。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
※コメントと補足

先日、セミナーでの後輩の論文紹介(Druffel et al., 2002, Oceanography)で、サンゴ骨格に刻まれたボム・ピーク(核実験由来の放射性炭素が海水や石灰化生物の殻に取り込まれ、1970年頃をピークとする高いΔ14Cが観察されること)が、異なる海域において必ずしも同じ形で現れていないことが紹介されていた。
Ellen R.M. Druffel
Oceanography 15, 122–127 (2002)

Druffel (2002)を改変。
太平洋の様々な海域でサンゴ骨格に記録されたボム・ピーク。

特にガラパゴスにおけるボムピークの立ち上がりは遅く、さらにΔ14Cが低いことが図から見てとれる。
おそらくガラパゴスにおいて湧昇する水塊が遠く南大洋のSAMWを起源としていることがこうしたラグや希釈を生む原因となっていると思われる。

Extratropical sources of Equatorial Pacific upwelling in an OGCM
Keith B. Rodgers, Bruno Blanke, Gurvan Madec, Olivier Aumont, Philippe Ciais, Jean-Claude Dutay
GRL 30, dio: 10.1029/2002GL016003 (2003)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

海水炭酸系はわりとよく理解されており、モデルでもうまく再現できているため、観測記録だけでなく、モデルシミュレーション側からのアプローチもよくとられる。

観測ではDIC、TA、pH、pCO2 (fCO2)のうち、2つを測定することで、残り2つは理論計算から推定する場合が多い。しかし、厳密にはそうして計算された値には少なからず不一致が見られる(例えば、pHでも0.02程度の誤差が生じる)。
そのため、モデル計算の方がそうした測定に伴う誤差が影響せず、かつより広い範囲を、高分解能でカバーすることができるという特徴がある。

ただし、特に南大洋周辺や北大西洋の沈み込み帯などの海洋物理がうまくモデル内で再現できていないことを反映して、深層循環がうまく再現できていないことも多い。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

むろん、生物が主に棲息しているのは中層ではなく光の射す表層なので、より短い時間スケールでは、海洋酸性化の生態系の影響という意味においては、やはり表層が重要と言えそうである。(※生涯において中層水で一時を過ごす生物も少なからずいるとは思われるが)