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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年6月30日日曜日

新着論文(Ngeo#July2013)

Nature Geoscience
July 2013, Volume 6 No 7 pp505-584

Focus issue 'Bombardment of the early Solar System(初期太陽系の爆撃)'
※後ほどupします

Correspondence
Air quality by urban design
都市デザインによる空気の質
Yunwei Zhang & Zhaolin Gu
近年、中国のような大都市での大気汚染が問題視されている。大気汚染の原因物質は工場からの排出、乗り物、料理や暖などからもたらされるが、それは都市のデザインによっても大きく影響されている。例えば、高層ビル群は風の妨げとなることで汚染物質が拡散するのを妨げたりしている。そうした都市のレイアウトを工夫することで大気汚染を軽減できる。

Commentaries
China's carbon conundrum
中国の炭素の難問
Ye Qi, Tong Wu, Jiankun He & David A. King
中国の炭素排出量は急速に増加している。しかし、一人当たりのGDPやエネルギー消費量はアメリカに比べてほんのわずかに過ぎない。都市部の中流階級が増加するにつれ、排出量は増加している。しかしながら、低炭素経済に向けた改善も見られている。

In the press
Lost city found?
失われた都市が見つかった?
Nicola Jones
航空機のレーザー観測から、カリブ海に面したMosquitiaに失われた都市(Ciudad Blanca)が存在する可能性が指摘されている。

Research Highlights
Isoprene and agriculture
イソプレンと農業
Atmos. Chem. Phys. 13, 5451–5472 (2013)
食料とバイオ燃料への需要増加によって、森林や草原が農地へと変化している。数値モデルを用いてそうした土地利用の変化が植物によるイソプレン排出量に与える影響を評価したところ、北半球におけるバイオ燃料栽培の増加がイソプレンの排出量を増加させ、逆にブラジルやアフリカのサハラ地域においては森林や草原が農地に変わることでイソプレンの排出量が低下していることが分かった。打ち消し合いの結果、全球的にイソプレンの濃度が対流圏オゾンの生成量に与える影響は小さいものの、ローカルなレベルでは(北米・中国・アジアなど)大きいことが示された。

High turnover
高い回転率
Geology http://doi.org/md8 (2013)
西オーストラリアで得られた岩石のジルコンとトリウムの濃度、さらに世界中の岩石のジルコン中のδ18Oから過去の大陸地殻のリサイクルを評価したところ、およそ30億年前にリサイクルの間接指標の値が増加し始めたことが示された。さらにピークが11-12億年前に見られ、超大陸Rodiniaの集合時期と一致している。当時はテクトニックプレートは既に巨大になっていたが、マントルはより高温で、対流がより早かったと考えられている。そのため大陸衝突とリサイクルの速度も増加していたと思われる。その後マントルが冷えたことで、プレートの衝突が制限されたのではないかと考えられる。

Sea-ice effects
海氷効果
Palaeogeog. Palaeoclim. Palaeocean.
Pliocene(鮮新世)の温暖期には北極圏の気温は10-12℃高く、極増幅によって全球平均気温(2〜4℃高かった)よりもはるかに高かったと考えられている。大気海洋循環モデルを用いてPlioceneの北極圏の気温と北極海の海氷とを再現したところ、北極海に海氷がない状況では、北半球高緯度域の気温の復元結果と整合的であることが示された。また北極圏の気温の季節変動も減少し、いくつかの記録と整合的となった。
>話題の論文
The amplification of Arctic terrestrial surface temperatures by reduced sea-ice extent during the Pliocene
Ashley P. Ballantyne, Yarrow Axford, Gifford H. Miller, Bette L. Otto-Bliesner, Nan Rosenbloom, James W.C. White

Core merger
コアの合併
Icarus 226, 20–32 (2013)
火星においては誕生から5億年以内にジャイアント・インパクトがあったと考えられており、その時の衝突天体と火星のコアとが合併したと考えられている。その際に熱的な傾きが生じたことで、短期間のコアのダイナモが生じた可能性がある。数値モデルを用いたシミュレーションから、コアの合併は衝突から100万年後に生じ、その際の熱の混合によってコアマントル境界をまたぐ熱フラックスが増加したと考えられる。熱フラックスはさらに1億年に渡ってダイナモを駆動したのではないかと考えられる。

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Research
News and Views
Core processes: Earth's inner weakness
コアプロセス:地球の内部の弱さ
Sébastien Merkel
Gleason & Maoの解説記事。
コアを通過する地震波の解析から、固体の内核の内部で鉄の結晶が並んでいることが示唆される。高温高圧実験から、内核は従来考えられていたよりも弱く、簡単に鉄の結晶が変形することが可能であることが示唆されている。

Marine biogeochemistry: The ups and downs of ocean oxygen
海洋生物地球化学:海洋の酸素の上下動
Scott C. Doney & Deborah K. Steinberg
Bianchi et al.の解説記事。
海洋の小動物の鉛直運動は有機炭素を表層から深層へと運ぶ役割を担っている。音響データの解析から、そうした鉛直運動が海洋全体で深部の酸素濃度と強く関係していることが明らかに。

Deep Earth: Mantle fabric unravelled?
地球深部:マントルの繊維が明らかに?
John Hernlund
Dobson et al.の解説記事。
マントルの流れのパターンは鉱物の並びから復元することができるかもしれない。高温・高圧実験から、高圧状態のポスト-ペロブスカイト(post-perovskite)はより低圧側から構造を引き継ぐことができることが明らかに。地球最深部の流れを解釈するのに新たな手段になるかもしれない。

Palaeoclimate: The mummies' tale
古気候:ミイラの物語
Alicia Newton
ナイル川の流量は約5,000年前頃から流域に栄えたエジプト文明の盛衰をも左右した。5.0-4.4kaには歴史記録が残っているが、それ以外の期間には限られているため、間接記録から流量の復元をする必要がある。動物の骨や歯といったリン酸塩鉱物のδ18Oはそれらが飲んでいた水、さらには降水のδ18Oを反映していると思われ、河川流量の復元に使える可能性がある。フランスに保管されているエジプト文明のミイラの歯のδ18Oから、6.0ka-1.3kaの古環境と当時の人々の暮らしの復元がなされた。気温(最大2℃上昇)と降水量(最大140mm低下)は大きく変化していたと思われる。また87/86Srの分析から、当時48人に1人くらいしかナイル川流域を長距離移動しなかったことなどが明らかになった。
>話題の論文
Egyptian mummies record increasing aridity in the Nile valley from 5500 to 1500 yr before present
Alexandra Touzeau, Janne Blichert-Toft, Romain Amiot, François Fourel, François Martineau, Jenefer Cockitt, Keith Hall, Jean-Pierre Flandrois, Christophe Lécuyer
Earth and Planetary Science Letters, in press

Atmospheric science: Aerosol alteration of Atlantic storms
大気科学:エアロゾルが大西洋の嵐を変える
Johannes Quaas
Dunstone et al.の解説記事。
大気中のエアロゾルは太陽光を散乱・吸収あるいは雲を変えることを通して気候にも影響する。モデルシミュレーションから、20世紀のほとんどを通して、人為起源のエアロゾルが大西洋全体で熱帯域の嵐の活動度を抑制されていたことが示唆される。
>関連した記事(Nature "RESEARCH HIGHLIGHTS")
Aerosols suppress hurricanes
エアロゾルがハリケーンを抑える
Nature Geosci. http://dx.doi. org/10.1038/ngeo1854 (2013)
ダスト粒子がハリケーンの活動度に与える影響は知られているものの、人為起源のエアロゾルが与える影響はよく分かっていない。イギリス・ハドレーセンターの研究グループによるモデルシミュレーションから、20世紀前半に人為起源のエアロゾル排出量が急増したことで、大西洋の嵐の活動度が減少し、また20世紀後半に排出量が減少したことで逆に増加したことが示された。雲を介したフィードバックが原因と考えられている(エアロゾル強化→雲が明るく+滞留時間が長くなる→地表温度低下→ハリケーン弱化)。

Letters
Atmospheric dynamics of Saturn’s 2010 giant storm
土星の2010年の嵐の大気力学
E. García-Melendo, R. Hueso, A. Sánchez-Lavega, J. Legarreta, T. del Río-Gaztelurrutia, S. Pérez-Hoyos & J. F. Sanz-Requena
2010-2011年にかけて土星の大気に巨大白班(Great White Spot)が出現した。東西方向に広がる、長さ数千キロメートルの巨大嵐だと考えられている。観測衛星の画像データと数値モデリングから、嵐の先頭(storm head)は土星大気の東西方向の流れの中の対流活動によってエネルギーを得ていることが示された。

Degradation of terrestrially derived macromolecules in the Amazon River
アマゾン川内部における陸源の巨大分子の分解
Nicholas D. Ward, Richard G. Keil, Patricia M. Medeiros, Daimio C. Brito, Alan C. Cunha, Thorsten Dittmar, Patricia L. Yager, Alex V. Krusche & Jeffrey E. Richey
 温帯域・亜熱帯域を流れる河川は大気へと大量のCO2を放出しているが、それを可能にする河川水中の有機物の起源はあまりよく分かっていない。リグニンやセルロースが巨大分子の大半を担っているものの、これらは安定で簡単には分解しないと考えられている。
 アマゾン川の懸濁粒子の有機物分析から、陸源のリグニンと他の巨大分子の分解がCO2の脱ガスに大きく貢献していることが明らかに(30-50%)。

Anthropogenic aerosol forcing of Atlantic tropical storms
大西洋の熱帯低気圧の人為起源のフォーシング
N. J. Dunstone, D. M. Smith, B. B. B. Booth, L. Hermanson & R. Eade
 大西洋の熱帯低気圧(ハリケーン)は社会経済的に大きな影響を与えている。海表面温度との関連性は報告されているものの、その他の自然・人為起源のフォーシング(火山性エアロゾル・人為起源エアロゾル・ダスト・温室効果ガスなど)との関係性についてはまだよく分かっていない。
 気候モデルを用いて、個々の気候ドライバーが1860-2050年までの北大西洋の熱帯低気圧の頻度に与える影響を評価したところ、人為起源のエアロゾルが頻度を低下させていることが示された。20世紀末に急激にエアロゾル排出量が低下したことが頻度の増加を招いたことが分かった。エアロゾルがハドレー循環に影響することで嵐の頻度に影響したと考えられるが、将来もエアロゾル排出量とともに変化すると思われる。
>Nature 関連誌注目のハイライト
北大西洋の暴風のエアロゾルによる抑制

A combination mode of the annual cycle and the El Niño/Southern Oscillation
年周期とエルニーニョ・南方振動の組み合わさったモード
Malte F. Stuecker, Axel Timmermann, Fei-Fei Jin, Shayne McGregor & Hong-Li Ren
エルニーニョは通常冬から始まるが、何故季節変動がENSOと関連しているのかはよく分かっていない。観測記録と気候モデルを用いた実験から、SSTの季節変動と年々変動とが非線形に繋がった結果、10-15月という周期を持った気候モードが生まれることが示された。特に、北半球の冬と春の偏西風の南方へのアノマリが大きなエルニーニョ現象のきっかけとなっていることが分かった。

Intensification of open-ocean oxygen depletion by vertically migrating animals
鉛直移動する動物による外洋の酸素極小の強化
Daniele Bianchi, Eric D. Galbraith, David A. Carozza, K. A. S. Mislan & Charles A. Stock
外洋では、日中無数の小動物(動物プランクトンなど)が捕食者を避けて深部へと移動している。ドップラー・プロファイラーを用いた後方散乱のデータ解析から、そうした鉛直移動が酸素極小層の酸素濃度の減少を強化していることが明らかに。
>Nature 関連誌注目のハイライト
海洋動物の移動が海洋酸素損失を増大させる

Contribution of ice sheet and mountain glacier melt to recent sea level rise
近年の海水準上昇に対する氷床と山岳氷河の寄与
J. L. Chen, C. R. Wilson & B. D. Tapley
海面の高度観測から、2005年から2011年にかけて年間2.4mmの割合で海水準が上昇していることが示されている。しかし、海洋の熱膨張と質量増加がどの割合で寄与しているのかについてはよく分かっていない。Argoによる海水温観測記録と人工衛星GRACEによる重力観測記録から、観測されている海水準上昇のうち、75%が質量増加(氷床と山岳氷河の融解)であることが示された。

Barbados-based estimate of ice volume at Last Glacial Maximum affected by subducted plate
沈み込むプレートによって影響されるバルバドスに基づいた最終氷期極大期の氷床量の推定値
Jacqueline Austermann, Jerry X. Mitrovica, Konstantin Latychev & Glenn A. Milne
 赤道大西洋のバルバドスから得られたサンゴ記録によって、最終氷期極大期の全球の平均的な海水準(eustatic sea level)は現在よりも120m低かったと推定された。しかし、この記録は他のfar fieldの記録よりも10mほど小さく見積もられていた。
 同地域のマントルの3Dシミュレーションから、この推定値はSouth AmericanプレートのCaribbeanプレートへの沈み込んだ際の高粘性のスラブの存在によってややバイアスを受けており、新たな推定値は130mであることが示された。南極の氷床量の寄与が従来考えられていたよりも小さかったとする先行研究が正しいとすると、北半球の氷床がより大きかったということになる。
>Nature 関連誌注目のハイライト
最終氷期極大期の海水面

Atlantic cooling associated with a marine biotic crisis during the mid-Cretaceous period
白亜紀中における海洋生物危機を伴う大西洋の寒冷化
A. McAnena, S. Flögel, P. Hofmann, J. O. Herrle, A. Griesand, J. Pross, H. M. Talbot, J. Rethemeyer, K. Wallmann & T. Wagner
白亜紀の温暖期は何度かの寒冷化を経験した。海洋堆積物の分析とモデルシミュレーションから、116-114Maの浮遊性有孔虫と石灰質ナノプランクトンの一種(nannoconids)の減少が海表面温度の寒冷化と関連していたことが示唆される。

Noble gas transport into the mantle facilitated by high solubility in amphibole
角閃石の高い溶解度に手助けされるマントルへの希ガス輸送
Colin R. M. Jackson, Stephen W. Parman, Simon P. Kelley & Reid F. Cooper
大気とマントル間の希ガスのリサイクルについてはよく分かっていない。高圧実験から、変成した海底地殻中の水和鉱物に対して希ガスが高い溶解度を持っていることが示された。海底地殻の沈み込みが希ガスがマントルへと戻る上で重要だと考えられる。

Episodic fault creep events in California controlled by shallow frictional heterogeneity
浅い摩擦の不均質性によってコントロールされるカリフォルニアの段階的な断層クリープ現象
Meng Wei, Yoshihiro Kaneko, Yajing Liu & Jeffrey J. McGuire

Strength of iron at core pressures and evidence for a weak Earth’s inner core
コアの圧力での鉄の強度と地球の内核の弱さの証拠
A. E. Gleason & W. L. Mao

Strong inheritance of texture between perovskite and post-perovskite in the D′′ layer
D"層におけるペロブスカイトとポスト・ペロブスカイトの間の構造の強い引き継ぎ
David P. Dobson, Nobuyosihi Miyajima, Fabrizio Nestola, Matteo Alvaro, Nicola Casati, Christian Liebske, Ian G. Wood & Andrew M. Walker

Article
The acceleration of oceanic denitrification during deglacial warming
最終退氷期の温暖化における海洋脱窒の加速
Eric D. Galbraith, Markus Kienast & The NICOPP working group members
海洋表層の一次生産は生物が利用可能な窒素の量によって制限されている。海洋堆積物のδ15N記録は最終退氷期に窒素循環が変化したことを示しているものの、窒素循環における窒素同位体が複雑な挙動を示すことから、その定量的なメカニズムはよく分かっていない。2,329地点のコアトップ記録と過去30kaをカバーする76の堆積物コア記録から、最終氷期でも完新世初期でもδ15Nは全球平均でほとんど変化していなかったことが示された。大陸棚が海水準上昇によって浸水したことで、海底の脱窒が増加し、やがて海水準の安定とともに窒素循環も安定化したと考えられる。δ15Nが2つの安定状態で変化しなかったことを説明するためには、外洋の脱窒が30-120%増加していたことになる。