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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
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2012年10月17日水曜日

新着論文(Ngeo#Oct 2012)

Nature Geoscience
October 2012, Volume 5 No 10 pp675-754

Focus: Rivers

Editorial
Focus: Rivers
Rivers in transition
変化する川
 川は地球上のほとんどすべての陸地を流れる。川は物質の輸送として重要であるだけでなく、大気とも物質のやり取りをしている。さらには、川の流れが炭素循環に与える影響を明らかにすることが気候システムの完全な理解には必要である。河川に入った有機物は必ずしも海にすべてが堆積するわけではなく(炭素のシンク)、例えばアメリカの例では毎年97TgCもの炭素が大気へと放出されている。特に小さな小川や流れが特に大きな炭素の放出源であることが近年指摘され始め、そうした小さいものほど評価がなされていないことが多い。また河川は炭素以外の物質輸送も担っているが、例えば人間活動の結果である肥料や汚水、工業廃水なども河川を通じて輸送され、それらは温室効果ガスの一つである一酸化二窒素(N2O)の潜在的な放出源となる。
 河川が生物地球化学循環に与える影響はまだよく分かっていないだけでなく、今後数十年間で変化し続けると考えられる。気候変動や人口増加、水資源への圧力の増加などがすべて寄与すると考えられる。

Correspondence
特になし

Commentary
Focus: Rivers
An expanded role for river networks
河川ネットワークの拡大した役割
Jonathan P. Benstead & David S. Leigh
小川と河川の地球化学的な役割の推定は荒い解像度の観測記録に基づいている。最も小さく・最も大きく変化している小川が従来考えられていた以上に全球の生物地球化学循環において大きな役割を持っていることが分かった。

In the press
The state of the seas
海の状態
Mark Schrope
現在の海の状態はひどく悪い状態ではないが、誇れるほどでもない」これが研究者や環境保護論者が作った海の健康度(Ocean Health Index)の出した結論である。これは様々な沿岸国に対する10にわたる項目の評価が元になっている。評価対象は観光やレクリエーションから生物多様性、炭素貯蔵能力など多岐にわたる。全世界の平均点は100点満点の60点で、70点を超える国家は稀であった。その中で人類も海洋の生態系の一部とされ、人類が海洋に与える影響や逆に人類が海洋から被っている恩恵を評価する手段が模索された。研究チームの望みは研究と保護の長期的な目標設定として海の健康度が利用されることと、限られた資源の分配を管理する助けとなることである。

Research Highlights
Onshore shake-up
陸の振動
Geology 40, 887–890 (2012)
津波堆積物は従来砂浜や海岸の堆積物で構成されると考えられてきたが、東北沖津波の場合は岸から離れた陸の砂や土壌によって構成されていることが分かった。特に仙台平野は水田が多いため、水田の下の砂が地震により液状化し、その後の津波によって内陸部へと流された可能性が高いとされている。

Circulation shrinkage
循環の縮小
Clim. Past 8, 1323–1337 (2012)
白亜紀中期の超・温室効果時代として知られる125Maから90Maにかけては、熱帯・亜熱帯の大気循環はそれ以前の寒冷な時代に比べて大きく変化していた可能性が白亜紀の砂漠の分布から示唆される。アジアに広がる白亜紀時代の砂漠の分布と風向の履歴から、ハドレー循環セルが現在よりも3~6ºほど緯度方向に膨張していたことが分かった。しかし、白亜紀の中期の極端に暑い時代には逆に5ºほど縮小していたことが分かった。そのことは同時代に比較的低緯度でも乾燥していたことと整合的である。現在、ハドレー循環セルは大気中のCO2濃度の上昇とともに拡大しつつあるが、筆者らはハドレー循環セルが縮小に転じる気候的な閾値がある可能性について指摘している。

Mars bedevilled
悪魔に取り憑かれた火星
Icarus http://doi.org/jc6 (2012)
ダストデビルは火星と地球の乾燥地域で見られる塵旋風であるが、アメリカ南西部におけるおよそ100個のダストデビルの観察から、ダストデビルが地域的な風と同じ向き、ほぼ同じ速度で進行していることが分かった。火星の地表にはダストデビルの通過した跡が衛星画像上で残されており、この知見を使えば、逆に火星の風を復元できる可能性がある。

Arctic nitrogen fix
北極の窒素固定
Glob. Biogeochem. Cycles 26, GB3022 (2012)
海洋のバクテリアは全球の海水に生物が利用可能な形の窒素をかなりの量供給しているが、その多くは熱帯や亜熱帯、温帯域に棲息していると考えられてきた。しかし北極海のBeaufort海においても窒素固定をしているバクテリア・コミュニティーが見つかった。北極圏カナダの様々な地域の調査から、特に淡水流入の多いMackenzie川の河口で最も大きな窒素固定が起きていることが分かった。さらに従属栄養バクテリアが窒素固定を担っていることが分かった。

News and Views
Uninhabitable martian clays?
生命が住めない火星の粘土?
Brian Hynek
火星の粘土鉱物の存在は暖かく・湿潤な気候があったことの指標と考えられてきた。しかし新たな仮説では短期間のマグマの脱ガスによって粘土鉱物が形成された可能性を提唱している。そうした状況下では生命痕跡が見つかる可能性はほとんどなくなる。

Focus: Rivers
Riverine carbon unravelled
ベールを解かれた河川の炭素
Anna Armstrong
河川が輸送する炭素のほとんどは陸上の植生や土壌が起源であるが、一部は炭酸塩岩の浸食によってももたらされている。しかしそれらの相互作用についてはよく分かっておらず、河川の炭素のソースを明らかにすることは難しい。比較的若い有機物プールはバイオマーカーを利用することで検出することが容易だが、一方で古い有機物プールは化学的に多様であり扱いにくい。
 ガンジス川に流れ込むNarayani川の懸濁粒子を集め、それを1,000℃まで熱することで燃焼させ、発生したCO2の放射性炭素を測定することで、非常に若い炭素から30,000年という古い炭素も含まれていることが分かった。Gaussian decomposition modelでこれらの炭素プールの起源の分布を調べたところ、堆積物中の(pedrogenic)炭素は懸濁粒子の0.067 - 0.17%であることが2回の調査から分かった。比較的ゆっくり流れるMississippi–Atchafalaya水系と比較すると、Narayani川の懸濁粒子の放射性炭素年代の分布の方が広がりが大きい(植物〜土壌〜炭酸塩)ことが分かった。Narayani川の全球の炭素循環における寄与は小さいものの、河川によって運ばれる炭素の起源は小さな河川ごとにも大きく異なる可能性があることが示された。

Emissions versus climate change
放出 v.s. 気候変動
Christian Hogrefe
汚染物質の放出量の低下によって起きると予想される、空気の質の改善を気候変動は相殺すると思われる。北米における総括的な分析から、来る数十年間は空気はより綺麗になるだろうことが示された。

A volcano's sharp intake of breath
火山の早い息の吸い込み
Andrew Hooper
規則的に噴火する浅部のマグマは一度噴火するとその後は安定して成長すると考えられてきた。しかしながらギリシャのサントリーニ島のマグマは休火山化から半世紀経ってから急激なマグマの蓄積を見せている。

Focus: Rivers
Tectonically twisted rivers
テクトニックに曲げられた川
Eric Kirby
アルプス南部、ニュージーランドの集水域の進化の数値モデリングによると、河川は地質学的な時間スケールではテクトニックなマーカーとして振る舞う可能性が示唆される。

Tropical extremes
熱帯の極端な気象
Geert Lenderink
気候モデルを用いた将来の熱帯域の極端な降水減少の予測は非常に不確かである。極端な降水の1年ごとの観測記録によると、1℃の温暖化ごとに6-14%ずつ’増える’ことが示唆される。

Progress Article
An update on Earth's energy balance in light of the latest global observations
最近の全球の観測に基づいた地球のエネルギーバランスに対するアップデート
Graeme L. Stephens, Juilin Li, Martin Wild, Carol Anne Clayson, Norman Loeb, Seiji Kato, Tristan L'Ecuyer, Paul W. Stackhouse Jr, Matthew Lebsock & Timothy Andrews
 気候変動は全球のエネルギーバランスの変化によって支配される。大気上層のエネルギー収支は人工衛星によってモニタリングされ、よく分かっているが、地上のエネルギー収支については観測されている地域が限られており、結果的に大気内部と地表のエネルギー収支についてはよく分かっていない。その結果、地球の気候が温室効果ガスの増加に対してどのように応答するかの理解に対して大きな障壁となっている。
 最近の人工衛星・地上観測記録を総合すると、地表のエネルギー収支は見直す必要がある。従来考えられていたよりも地表はより長い波長を受け取っており(10 - 17 W/m2ほど大きい)、蒸発熱によって生まれる潜熱フラックスにより多くの降水が起きている。

Letters
Sensitivity of tropical precipitation extremes to climate change
気候変動に対する熱帯の極端な降水現象の感度
Paul A. O’Gorman
地球温暖化によって世界中で極端な降水現象が増加することがシミュレーションで予想されているが、必ずしもモデルごとに一致しない。モデルの予測する経年変化の結果と気候変動との密接な関係と、観測による制約から、温暖化に対して熱帯の極端な降水現象が高い感度を持っていることが示唆される。

Modelled suppression of boundary-layer clouds by plants in a CO2-rich atmosphere
CO2に富んだ大気においては植物によって境界層の雲が抑制されることがモデルによって示された
Jordi Vilà-Guerau de Arellano, Chiel C. van Heerwaarden & Jos Lelieveld
境界層の雲は地表付近の気候を調整し、水-炭素循環と相互作用する。生物・物理循環モデルから、中緯度域において、大気中のCO2濃度上昇が植物の気孔を閉じさせ、境界層の雲の形成に必要な水蒸気の放出を抑えることが示唆される。このことは生物的な側面と物理的な側面とが気候システムにおいていかに絡み合っているかを物語っている。

Elevation-dependent influence of snow accumulation on forest greening
雪の蓄積が森の緑化に与える、高度に依存する影響
Ernesto Trujillo, Noah P. Molotch, Michael L. Goulden, Anne E. Kelly & Roger C. Bales
ここ半世紀においては気温の上昇と水の利用可能量の減少が山の森林の生産性に影響してきた。25年間に渡る分析と人工衛星観測から、中程度の高度の森の緑化の程度は雪の蓄積によって強くコントロールされていることが示唆される。

Focus: Rivers
Biogeochemically diverse organic matter in Alpine glaciers and its downstream fate
生物地球化学的に多様なアルプスの氷河の有機物とその下流における運命
Gabriel A. Singer, Christina Fasching, Linda Wilhelm, Jutta Niggemann, Peter Steier, Thorsten Dittmar & Tom J. Battin
氷河は有機炭素を蓄積し、変質させ、それが放出されることで下流の微生物活動を支えていると考えられる。ヨーロッパアルプスの26ヵ所の氷河における分析から、氷河から出てくる有機物のうちのかなりの量が微生物にとって消費することのできるものであることが示された。

Focus: Rivers
Dependence of riverine nitrous oxide emissions on dissolved oxygen levels
河川の一酸化二窒素の溶存酸素レベルに対する依存性
Madeline S. Rosamond, Simon J. Thuss & Sherry L. Schiff
 一酸化二窒素(N2O)は成層圏のオゾンを破壊し、強力な温室効果ガスでもある。農業起源のN2Oの放出は、溶出や汚水の河川への流入の結果、その17%が河川水から生じている。IPCCでは全球のN2Oの排出量は溶存体の無機窒素量に比例して増加することを推定しているが、データは不足しておりで不一致も見られる。
 カナダのGrand川から放出されるN2Oを2年間にわたって測定したところ、都市部の夏の夜に最も大きなN2O放出が確認された。N2Oの排出量と硝酸・溶存無機窒素との間に有為な相関は認められなかった。逆に溶存酸素との間に負の相関が認められた
 そのため将来の河川への硝酸流出量の増加は必ずしもN2O放出に寄与しないと考えられる。それよりも寧ろ、広い地域で貧酸素状態が起きることでN2Oがより多く放出される可能性が高いことが示唆される。

Significant contribution to climate warming from the permafrost carbon feedback
永久凍土の炭素フィードバックによる気候の温暖化への相当な寄与
Andrew H. MacDougall, Christopher A. Avis & Andrew J. Weaver
 永久凍土には現在の大気の炭素量の約2倍もの炭素が存在する(1,700PgC)。温暖化とともにこれらの永久凍土が融解し、土壌から炭素が大気へと放出される正のフィードバックが存在する可能性が提唱されている。
 気候モデルによるシミュレーションから、永久凍土から2100年までに68 - 580 PgCの炭素が放出され、それによって起きるフィードバック過程によって、2300年までにさらに0.13 - 1.69 ℃温暖化する可能性が示唆される(ただし、人間活動による今後のCO2放出については考慮していない)。人為起源の排出があまり多く起こらないシナリオに基づいた場合でも大きな温室効果が起きることが考えられる。

Contributions to late Archaean sulphur cycling by life on land
始生代後期の硫黄循環に対する陸の生命の寄与
Eva E. Stüeken, David C. Catling & Roger Buick
生命は少なくとも27億年前には陸上に存在したが、陸上の生命圏が生物地球化学循環に与えた影響についてはほとんど制約できていない。海洋の硫黄のデータと地球化学モデリングから、少なくとも25億年間は微生物源の硫化鉄の風化によって、かなりの量の硫黄が海へと輸送されていたことが示唆される。

Articles
Magmatic precipitation as a possible origin of Noachian clays on Mars
火星のNoachianの粘土の起源の’マグマ性の沈殿’という可能性
Alain Meunier, Sabine Petit, Bethany L. Ehlmann, Patrick Dudoignon, Frances Westall, Antoine Mas, Abderrazak El Albani & Eric Ferrage
古代の火星の地殻から検出された含水粘土鉱物が温暖で湿潤だった初期の火星の風化によって作られたと考えられてきた。しかし、地球の粘土鉱物と火星の粘土鉱物の比較から、Noachian(4.1 - 3.7 Ga)の粘土鉱物はマグマ流体からの沈殿によっても形成される可能性があることが示された。

Focus: Rivers
River drainage patterns in the New Zealand Alps primarily controlled by plate tectonic strain
プレートテクトニクス的な張力によって主としてコントロールされているニュージーランド・アルプスの河川流域のパターン
Sébastien Castelltort, Liran Goren, Sean D. Willett, Jean-Daniel Champagnac, Frédéric Herman & Jean Braun
樹枝状の河川流域パターンが長期間持続することは河川がテクトニックな擾乱を受けて改変された後、テクトニックなイベントを長期間経験することなくその状態を維持してきたことを暗示している。しかしながら、ニュージーランド南部のアルプスの流域パターンの進化に対する数値シミュレーションから、テクトニックな改変にも耐え、1,000万年間以上プレートテクトニクス的な張力を保存し続けている河川があることが分かった。

Evolution of Santorini Volcano dominated by episodic and rapid fluxes of melt from depth
間欠的で急激な深部からのメルトのフラックスによって支配されるSantorini火山の進化
Michelle M. Parks, Juliet Biggs, Philip England, Tamsin A. Mather, Paraskevi Nomikou, Kirill Palamartchouk, Xanthos Papanikolaou, Demitris Paradissis, Barry Parsons, David M. Pyle, Costas Raptakis & Vangelis Zacharis
ギリシャのSantorini火山は連続的に少量のマグマが注入されていると考えられてきた。しかし、地表の変形の測定から、前回の噴火によって放出されたマグマの10 - 50%に相当する大量のマグマが、2011年1月以来Santorini火山の地下に注入されてきたことが明らかになった。このことはこの火山は急激で間欠的なメルトのフラックスによって満たされていることを示唆している。