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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年10月4日木曜日

新着論文(Nature#7418)

Nature
Volume 490 Number 7418 pp5-136 (4 October 2012)

Editorials
The price of progress
進展の価格
米原子力規制委員会(NRC)がウラン濃縮の新技術を認可したが、核拡散問題を考えると望ましい方向ではない。

Research Highlights
Mother’s stress slows learning
母親のストレスが学習を遅らせる
Biol. Lett. http://dx.doi. org/10.1098/rsbl.2012.0685 (2012)
メスのトゲウオ(sticklebacks)が産卵時に捕食者の危機にさらされていると、生まれた子供は学習能力に障害が出るらしい。実験で抱卵したメスのトゲウオ(threespined sticklebacks; Gasterosteus aculeatus)を捕食者に似せた物体で追いかけてストレスを与えた状態で産卵させると、生まれた子供は学習能力を試す実験において平和に生まれた子供に比べて成績が劣ったという。

Feeding habits of the vampire squid
コウモリダコの食性
Proc. R. Soc. B http://dx.doi.org/10.1098/ rspb.2012.1357 (2012)
深海を漂うコウモリダコ(vampire squid; Vampyroteuthis infernalis)はイカとタコの両方の性質を持つ。彼らはイカのように触手を伸ばして獲物を捕るのではなく、代わりに伸縮自在の2本のフィラメントを用いて、動物プランクトンや甲殻類の残り、フンなどを食べているらしい。フィラメント自体はタコや他の頭足類の腕と相同だが、食性は非常に異なっている

Bendable battery yields flexible LED
曲げることの出来る電池が柔軟なLEDを作る
Nano Lett. 12, 4810−4816 (2012)
柔軟なリチウムイオン電池が開発されたことで、薄く・曲げることが可能な有機LEDが開発された。回転可能な電子機器や体内に移植された電子機器類に応用される可能性がある。

Zebrafish find light without eyes
ゼブラフィッシュは目なしに光を見つけることができる
Curr. Biol. http://dx.doi. org/10.1016/j.cub.2012.08.016 (2012)
目のないゼブラフィッシュ(zebrafish; Danio rerio)の幼魚は脳深部の光に敏感なニューロンを活性化させることで暗闇でも方向が分かるらしい。目を切除した幼魚が見せた光の方向に進むという行動は、視覚的な器官以外に光を感じることのできるニューロンが存在することを示唆しており、それにはOpn4aと名付けられた遺伝子が関与しているらしい。

Seven Days
Nuclear concerns
核の問題
議論を呼んでいたアメリカのウラン濃縮プラント建設にゴーサインが出た。核兵器の拡散に繋がる可能性もあるという批判も。

Fusion failure
核融合の失敗
アメリカ点火施設(National Ignition Facility)は国会が定めていた9/30の締め切り日までに点火する(自発的な核融合を開始させる)ことができなかった。レーザーによる点火のエネルギーが不足していたようだ。

Mars mission plan
火星探査計画
9/25に出された研究によると、NASAの火星探査は「現在火星に存在する生命の探査」よりも寧ろ「過去に火星に存在した生命の探査」に焦点を当てるとのこと。また次の火星探査計画は2018年の軌道衛星の打ち上げか、2020年の地上探査機の着陸のいずれかになるとNASAのMars Program Planning Groupの報告書の中で示唆されている。

Saved species list
守られた種のリスト
先日韓国のチェジュ島で行われた国際自然保護連合(International Union for the Conservation
of Nature; IUCN)の会合において、十分に保護された種に対して’グリーン’リストを作ることに決定した。絶滅危惧種がリストアップされたレッドリストに対して作られたらしい。

Ancient stream on Mars
古代の火星の小川
火星探査機キュリオシティーは数億年前のゲールクレーターの底を流れていたと思われる水の証拠を発見した。この発見がある以前から火星に液体の水があった可能性は指摘されていたが、円摩された小礫は地球の露頭で見られるものと類似している。おおよそかかとまでの深さの水が秒速1メートル程度で流れていたと予想される。

Ape habitat shrinks
猿の生息域が縮小
アフリカ全土にまたがる大型類人猿の生息域の調査から、1995年から2010年にかけて生息域が激減していることが分かった。ゴリラ(Cross River gorillas; Gorilla gorilla diehli)、ボノボ(bonobos; Pan paniscus)、チンパンジー(central chimpanzees; Pan troglodytes troglodytes)でそれぞれ59%、29%、17%の減少が見られたという。

Comet discovery
隕石の発見
C/2012 S1 (ISON)と名付けられた隕石が新たに見つかった。2013年11月に太陽とすれ違い、昼間でも見えるほど明るく光ると考えられる。ただし、これほど早い発見は時折疑わしいことが後で判明したりするので注意。

Element 113
第113番目の元素
日本の理化学研究所が113番目の元素の生成に3回成功し、新元素の発見が確定したと発表した。名称を与える権利が与えられるだろう。ロシアとアメリカの研究グループも以前の実験で発見したと主張していたが、確定はしていなかった。名称は「ジャポニウム」が最有力?

Polar expert cleared
北極の専門家が身の潔白を晴らす
アメリカの研究者Charles Monnettは「4匹のホッキョクグマが海氷を求めて泳いでいる最中に死亡した」とする誤ったデータを公表したことで科学的に誤った行いの責任を問われていたが、政府の調査ののち身の潔白が晴らされた。しかしながら彼は政府の公文書を環境団体にリークしたことで叱責を受けている。

NEWS IN FOCUS
The telescopes that came in from the cold
冷戦から来た2つの望遠鏡
Eric Hand
NASAが、米国家偵察局から譲られた2個の偵察衛星の利用方法を検討へ。


CORRESPONDENCE
Biodiversity needs a scientific approach
生物多様性には科学的なアプローチが必要
David A. Westcott, Frederieke J. Kroon & Andy W. Sheppard
生物多様性保全のために政策と科学の間の垣根をなくすために、Intergovernmental Platform on Biodiversity and Ecosystem Services (IPBES) は「市民の知識」と「非金銭的な価値」を考慮すべきだとするEsther Turnhoutほかに対しては我々も同意する。しかしながら、政策に訴える知識は客観的な過程を通して得られるべきだ。そしてそれを実現するには科学ベースのアプローチが必要である。

European biodiesel can be sustainable
ヨーロッパのバイオ燃料は持続可能である
Rod Snowdon & Wolfgang Friedt
online News report(Nature http://doi.org/jdn; 2012)の中で、予察的な研究の疑わしい図に基づいてヨーロッパのバイオ燃料は持続不可能であると指摘されているが、正しく評価を行ったところ、ヨーロッパのセイヨウアブラナを原料に用いることで持続可能なバイオ燃料となる。再生可能なバイオ燃料を巡る物議をかもす話題に対する政策決定はきちんと理由付けられた、またしっかりとピアレビューされた科学に基づいてなされるべきだ。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
FORUM
The aerosol effect
エアロゾルの効果
Bjorn Stevens & Olivier Boucher
大気中の人為起源エアロゾルは疑いの余地なく気候に影響を与える。しかしエアロゾルの効果を考慮した気候モデルはエアロゾルの効果を十分に見積もれているのだろうか?2人の気候学者が意見を述べる。
Grains of salt
真に受けない
Bjorn Stevens
二酸化炭素が温室効果を発揮し地球温暖化に寄与する過程は割とシンプルでよく理解されているが、エアロゾルが雲の形成や降水過程にどのように寄与するかについてはエアロゾルの組成などの様々な要因によって異なり、よく分かっていない。気候モデルはエアロゾルと雲の反応過程において必要な多くの因子を有しているものの、一般的にスケールの大きな現象しか再現できない。逆に雲の微物理過程に関する理解を深めるために気候モデラーは暗中模索している。個々の現象については理解が進んでいるものがあるものの、エアロゾルが全球の雲の過程に与える影響に関する定量的な理解は進んでいない。従ってモデルに詳細な過程を含ませたとしても、それはモデルを根本から改善することにはならず、ただより複雑にしてしまうだけである。

An essential pursuit
必要不可欠な追求
Olivier Boucher
大気大循環モデルが開発された当初はエアロゾルが持つ放射強制力の複雑さはまだそれほど認識されていなかったが、その後の20年間の研究でパラメタリゼーションの試みがなされてきたが、大規模なモデルの中での再現は単純すぎるものがある。しかしそれは価値がないということでも、役に立たないということでもない。人工衛星を用いた観測によってもエアロゾルによる放射強制力が見積もられているが、エアロゾルと雲の形成過程は気象状態に大きく依存するため、それだけでは機能しないことが認識されてきた。その中で気候モデルはエアロゾル-雲フィードバックを再現できる唯一の手段であり、それを用いて将来の全球の気候変動予測や地域的な数十年先の気候変動予測がなされている。また微物理過程こそが重要であることが分かってきた。近年高解像度のシミュレーションが可能になり、より広い範囲で・より細かく・より長期間にわたってエアロゾルと雲の形成場を再現できるようになり、溝を埋めてくれることが期待される。

LETTERS
Sulphate–climate coupling over the past 300,000 years in inland Antarctica
南極内陸の過去30万年間における硫黄と気候の関わり
Yoshinori Iizuka, Ryu Uemura, Hideaki Motoyama, Toshitaka Suzuki, Takayuki Miyake, Motohiro Hirabayashi & Takeo Hondoh
 硫酸塩エアロゾル(特に粒径の大きい硫酸塩粒子と硫酸塩が付着したダスト)は雲の凝結核として働き、太陽光散乱を増加させることで地球の気候を寒冷化させる作用を持つ。硫酸塩エアロゾル-気候カップリングの証拠は極域の氷床コアに残されている可能性がある。
 Dome Fujiアイスコアから過去30万年間の硫酸塩と硫酸塩が吸着したダストのフラックスを復元。氷期にはダストのフラックスが増加するものの、氷期-間氷期においてはほぼ一定であることが分かった。しかし硫酸塩のフラックスは気温との逆相関が見られ、気候的にカップリングしていることを示唆している。LGMには完新世の約2倍に相当する硫酸塩エアロゾルのフラックスが得られた。氷期から間氷期にかけては硫酸塩が低下しており、それがエアロゾルの間接的な効果(雲の寿命やアルベドへの影響)を弱めていたために、南極の気温を0.1~5.0℃温暖化させたと考えられる。

Natural and anthropogenic variations in methane sources during the past two millennia
過去2,000年間の自然起源・人為起源のメタンの放出源の変動
C. J. Sapart, G. Monteil, M. Prokopiou, R. S. W. van de Wal, J. O. Kaplan, P. Sperlich, K. M. Krumhardt, C. van der Veen, S. Houweling, M. C. Krol, T. Blunier, T. Sowers, P. Martinerie, E. Witrant, D. Dahl-Jensen & T. Röckmann
 メタンは、複数の自然の生成源と人為的生成源から放出される重要な温室効果ガスである。大気中のメタン濃度は過去に様々な時間スケールで変化してきたが、これらの変化を起こした原因は必ずしも十分に解明されている訳ではない。メタンのあらゆる放出源と吸収源には特定の同位体的特徴があるため、メタンの同位体組成は大気中のメタン濃度変動を引き起こす環境要因を特定するのに役立つ。
 グリーンランド氷床のアイスコアから得られた過去2000年間の高分解能のδ13CH4から、BC100年~AD1600年の間にδ13CH4が100年スケールで変動していたことが分かった。2ボックスモデルによる計算からδ13CH4の100年スケールの変動の原因は、発熱性の(pyrogenic)放出源と生物源の放出源の変化であると考えられる。これらの放出源の変化は「自然の気候変動(中世の気候変調期や小氷期など)」と「中世の人口変化・土地利用(ローマ帝国や漢の衰退)・人々の広がり」などと相関していることが分かった。

Dynamical similarity of geomagnetic field reversals
地磁気逆転の力学的類似性
Jean-Pierre Valet, Alexandre Fournier, Vincent Courtillot & Emilio Herrero-Bervera
火山岩に記録された地磁気の逆転イベントは、通常の逆転の継続期間を仮定すると得られている記録を非常に良く一致させることができ、共通の力学的性質が明らかになることが分かった。また逆転する磁場は、3つの連続した段階によって特徴付けられることを提案する。すなわち、「前兆現象」、「180°の極性の逆転」、「回復」である。2つの極性の間を移行する期間は短く(1,000年以下)、そのような変化が堆積物に正確に記録されることは稀である。

A Silurian armoured aplacophoran and implications for molluscan phylogeny
シルル紀の殻を持つ無板類と軟体動物の系統発生学に対する示唆
Mark D. Sutton, Derek E. G. Briggs, David J. Siveter, Derek J. Siveter & Julia D. Sigwart
軟体動物は、無脊椎動物の門の中でもきわめて多様かつ重要で研究が進んだものの1つだが、その中の主要な分類群どうしの類縁関係は、長年にわたって議論の的になってきた。海洋生物相を保存するシルル紀堆積層であるヘレフォードシャー化石鉱床(約4億2500万年前の地層)から見つかった新属新種「Kulindroplax perissokomos」について記載。