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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年10月11日木曜日

新着論文(Nature#7419)

Nature
Volume 490 Number 7419 pp143-304 (11 October 2012)

RESEARCH HIGHLIGHTS
Mouse eggs from stem cells
幹細胞からできたマウスの卵
Science http://dx.doi. org/10.1126/science.1226889 (2012)
日本の京都大学の研究チームがマウスの幹細胞から卵の細胞を作り、それを母親のマウスに移植したところ、健康な子供が生まれた。不妊症治療に対して光明となる可能性がある。

Contemplating a coral comeback
サンゴの回復を熟慮する
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1208909109 (2012)
214のサンゴ礁における2,000を超える調査から、グレートバリアリーフのサンゴは過去27年間にその半数が失われていたことが分かった。原因は主にオニヒトデによる補食と台風による物理的破壊。ローカルな脅威を改善することでサンゴ被覆の増減のバランスを増加側にずらすことも可能かもしれないと筆者らは指摘している。水質改善によって栄養塩の流入を抑えることでオニヒトデの異常繁殖を抑えることができれば、サンゴは回復する可能性が残されている。しかし長期的には気候変動(温暖化による白化現象など)を安定化させない限り、この戦略は実現しないだろう

The 27–year decline of coral cover on the Great Barrier Reef and its causes
Glenn De’ath, Katharina E. Fabricius, Hugh Sweatman, and Marji Puotinen
1985年から2012年にかけて行われた観測(12ºS〜24ºS)からサンゴの被覆度が28.0%から13.8%へとその半数が失われていることが分かった。その原因としては「台風」「オニヒトデ(crown-of- thorns starfish; Acanthaster planci)による補食」「白化現象」がそれぞれ48%、42%、10%と推定される。比較的元の状態が保存されている北部のサンゴ礁においては白化現象が被覆度減少の原因のほとんどを担っており、回復の可能性がある。オニヒトデの駆除や水質の向上などの手段を取ることでさらなる減少を抑えることが可能かもしれない。しかしながらそうした状況は気候が安定化した状態でしか実現しないだろう

Different webs snag different prey
異なる蜘蛛の糸が異なる獲物を捕まえる
Nature Commun. http://dx.doi.org/10.1038/ ncomms2099 (2012)
一般的な家グモは自分が歩く用と獲物を捕らえる用の2種類の糸を使い分けていることが知られている。クモの一種(Achaearanea tepidariorum)は異なる糸の使い方をしている。「ガムを踏んだ足」状の糸は地面に繋げており放しやすくできている。一方で「足場」状の糸は飛んでいるハエを捕まえるようにできている。それらを電子顕微鏡で観察すると糸の太さには10倍もの違いがあり、さらに異なる張り付き方をしていることが分かった。それを真似て化学合成されたナイロンが作られ、性質は類似しているらしい。

Planetary wanderlust
惑星の放浪
J. Geophys. Res. http://dx.doi. org/10.1029/2011JB009072 (2012)
地殻は自転軸に対し百万年に0.2度の割合で西側に移動しているらしい。太平洋・インド洋のホットスポットの位置の移動を利用した計算から。

Questioning tuna marine reserves
マグロの海洋資源量に疑問を呈する
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1209468109 (2012)
太平洋のメバチマグロ(bigeye tuna; Thunnus obesus)は巾着網漁と延縄漁法によってその数が激減している。そのため2009年に巾着網漁を行っていた2カ所は政府によって閉鎖されたが、その閉鎖の効果をモデルシミュレーションを通して評価したところ、中央太平洋西部の公海において飛び地的に閉鎖をしても資源量保全の効果はほとんどないことが分かった。抱卵期の延縄漁法や魚を寄せる機器類の使用を抑えることで保全に繋がる可能性がある。

Echolocation for communication
コミュニケーションのためのエコロケーション
Proc. R. Soc. B http://dx.doi. org/10.1098/rspb.2012.1995 (2012)
社会的なコウモリの一種(Saccopteryx bilineata)はエコロケーションによって位置を特定するだけでなく、コウモリ同士でコミュニケーションを取っているらしい。オスのコウモリは少なくとも5m先から近づく別のオスを察知し、自分の縄張りを主張するために攻撃的な鳴き声を発する。しかしメスが近づく場合には求愛の鳴き声を発するという。つまり見た目でも匂いでもなく性別を見分けることのできるものが彼らの発する音に含まれていることになる。

SEVEN DAYS
※省略

NEWS IN FOCUS
Hyped GM maize study faces growing scrutiny
誇大に世に広められた遺伝子組み換えトウモロコシに関する研究が拡大する精査の動きに直面している
Declan Butler
食品安全機関が「遺伝子組み換えトウモロコシはマウスのガンの発生率を増やす」とした研究を閉め出す。

CORRESPONDENCE
Environment in Queensland at risk
クイーンズランドの環境が危機に
Andrew Chin, Jimmy White & Nick Dulvy
オーストラリアのクイーンズランド州は今年4月に政府が新しくなり、開発や鉱業に前向きな姿勢を取っている。こうした活動が近年増加しつつあり、UNESCOがグレートバリアリーフなどを危機にさらされている世界遺産のリストに追加するかどうかを検討する動きへと繋がっている。新政府はWild River Actを廃止しようとしており、この制度によってクイーンズランドに唯一残された自然の河川が守られている。この河川はオーストラリアで最も生物多様性に富む淡水魚を有する。特にノコギリエイ(sawfish; Pristis microdon)やスピアートゥース・シャーク(speartooth shark; Glyphis glyphis)などはそれぞれ非常に危機的な、危機的な絶滅危惧種に指定されており、世界中でオーストラリアにしかもう残っていない。さらには水系の環境保護や漁業管理に携わる人員の削減までも同時に行われている。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Cambrian nervous wrecks
カンブリア紀の神経系の残存物
Graham E. Budd
カンブリア紀に相当する地層から驚くほど保存状態の良い節足動物の化石が見つかり、脳と神経系までもが保存されていた。通常化石として残るのは硬組織で、軟組織が化石として保存されるのには極めて特異的な環境が必要となる。例えば、血管などといった組織が砂岩層に残るとは考えられない(エネルギーが高い環境のため、堆積後の物理的な破壊や劣化が速やかに進行する)。化石の保存条件を考えることは化石を解釈する上でも大切で、例えば腐食の過程を実験によって再現することも行われている。その実験では腎臓や性腺が保存されることはないが、無脊椎動物の場合は脳や神経系が保存する可能性がわずかながら存在することが分かっていた。しかしながらそれを完全に証明したのが今回のMa et al.の研究で、澄江動物群の一つであるフキシャンフィア(Fuxianhuia)の化石が脳と神経系を保存していたのである。この種の分類についてはまだ議論の最中にあるが、現存する節足動物の最近の共通祖先であると考えられている。つまり節足動物の神経系の系統発生学上、非常に重要な位置づけにある。
 化石を観察してみると、足の間に目があり、そこは鉄に富んでいる。Ma et al.はそれを「神経線維網(neuropil;ニューロピル)」と解釈しており、視神経と脳を繋いでいたものと考えられる。またその構造はさらに3つに細分されるが、神経の一部は触覚へと繋がっており、これまで存在するかどうかも議論の的になっていた触覚の存在までも明らかになった
 この化石記録が重要である点は、神経構造が現存する節足動物(昆虫や甲殻類など)と非常に類似していることである。フキシャンフィアが節足動物の直接の祖先だとすると、神経系は進化の初期において既に獲得されていたことになる。となると、脳や神経系があまり発達していない節足動物の他の種(ミジンコ、サソリ、クモなど)はその進化の途中で神経系を単純化したことになる。ただし、一度失われれたものが後から再登場した可能性やフキシャンフィアの系統学的な位置づけが間違っている可能性もある。

Catching the wave
波に乗る
John M. Fryxell & Tal Avgar
ノルウエーのアカシカの長距離移動パターンの観察から、春の訪れとともに緑が増すとその波に乗って移動をするものもいれば、さらなる良質のエサが得られるのを見越してそれに先立って移動するものもいることが分かった。

When an oceanic tectonic plate cracks
海洋のテクトニックプレートが壊れるとき
Jean-Yves Royer
最近起きた2つの巨大地震(2012年4月のスマトラ地震)の分析から、「海洋上部地殻の破壊がいかに複雑であるか」、「それがどのように以前の巨大地震とリンクしているか」、「それが世界中の地震をどのように誘発しているのか」などが分かってきた。

LETTERS
April 2012 intra-oceanic seismicity off Sumatra boosted by the Banda-Aceh megathrust
バンダ・アチェ巨大逆断層地震により後押しされた2012年4月のスマトラ沖海洋プレート内地震活動
Matthias Delescluse, Nicolas Chamot-Rooke, Rodolphe Cattin, Luce Fleitout, Olga Trubienko & Christophe Vigny

En échelon and orthogonal fault ruptures of the 11 April 2012 great intraplate earthquakes
2012年4月11日巨大プレート内地震の雁行状の断層破壊とこれに直交する断層破壊
Han Yue, Thorne Lay & Keith D. Koper

The 11 April 2012 east Indian Ocean earthquake triggered large aftershocks worldwide
2012年4月11日の東インド洋における地震が世界中で大きな余震を誘発した
Fred F. Pollitz, Ross S. Stein, Volkan Sevilgen & Roland Bürgmann

Closing yield gaps through nutrient and water management
肥料と水の管理を通して作物生産量の溝を失くす
Nathaniel D. Mueller, James S. Gerber, Matt Johnston, Deepak K. Ray, Navin Ramankutty & Jonathan A. Foley
 人類にとって今後数十年間の重大な難問の1つは、環境をこれ以上破壊することなく将来の食糧需要を満たすことである。農業システムはすでに地球環境を悪化させる大きな要因となっているが、人口増加やカロリーの高い・肉類の食物の消費量増大により、2050年には人類の食糧需要が約2倍になると予想されている。そうした圧迫を受け、農業による環境への影響を減らすと同時に生産性の低い農地における食料生産量を増加させる方法として、「持続可能な農業生産力の強化(sustainable intensification)」がしだいに関心を集めるようになってきた。しかし、そうした取り組みが世界中の農地に将来何を引き起こすかはよくわかっていない。
 「作物生産量の溝」(ある地域の実際の生産量と実現可能な生産量との差)を縮めることで実現する農業生産強化の見通し、農業管理法および生産量限界の空間的パターン、ならびに生産量を増大するのに必要な管理法の変更を全球規模で評価した結果を示す。それにより全球収量の変動は「肥料の使用」「灌漑」および「気候」に強く支配されていることがわかった。作物生産量の溝を埋めることで、生産量の大規模な増加(多くの作物で45~70%増)が可能である。また溝を解消するのに必要な管理法の変更は、地域と現在の生産力の強化の程度によって大きく異なる。さらに肥料の過剰利用をやめることで農業の環境への影響を軽減しつつ、主要穀物(トウモロコシ、小麦、コメ)の生産量を約30%増加できる可能性が十分あることが分かった。今後数十年間の食糧の確保およびその持続可能性という困難を乗り切ることは可能であるが、肥料および水の管理方法には大幅な変更が必要だと考えられる。

Complex brain and optic lobes in an early Cambrian arthropod
カンブリア紀初期の節足動物の複雑な脳と視葉
Xiaoya Ma, Xianguang Hou, Gregory D. Edgecombe & Nicholas J. Strausfeld
中国のカンブリア紀初期に相当する地層から節足動物(Fuxianhuia protensa)の化石が発見され、現在の昆虫や甲殻類に類似した神経系の存在が明らかになった。このことから昆虫や甲殻類の神経系は共通祖先の比較的複雑な神経系から進化したこと、ミジンコのような単純な生き物はそうした複雑な神経系を簡略化するように進化してきた可能性が示唆される。