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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
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2012年10月4日木曜日

新着論文(Geology, EPSL)

Geology
1 September 2012; Vol. 40, No. 9 
Coral reefs at 34°N, Japan: Exploring the end of environmental gradients
Hiroya Yamano, Kaoru Sugihara, Tsuyoshi Watanabe, Michiyo Shimamura, and Kiseong Hyeong
サンゴ北限の34ºNに相当する日本の壱岐・対馬のサンゴ礁は一般的に受け入れられているサンゴの温度耐性の下限(18℃前後)を遥かに下回る温度(冬には13℃まで低下する)で生育している。濁度も高く、低温であるにも関わらずサンゴ礁を5.5m掘削したところ、4300年前からずっと継続的に成長していることが分かった。サンゴは主にキクメイシ(Fabiidae)で構成されるが、このサンゴ礁の進化には対馬海流とアジアモンスーンが影響を与えてきたはずである。サンゴ北限のサンゴ礁はSSTと濁度に対する分布の基本的な考えを与えてくれると期待される。

Glacier expansion in southern Patagonia throughout the Antarctic cold reversal
Juan L. García, Michael R. Kaplan, Brenda L. Hall, Joerg M. Schaefer, Rodrigo M. Vega, Roseanne Schwartz, and Robert Finkel
最終退氷期の高緯度域の氷床・氷河と気候変動との関係を明らかにすることは地球システムの理解に非常に重要である。チリのパタゴニア氷河の後退を10Beを用いて復元。ACRの際に氷河は最も拡大していた(14.20 ± 0.56 ka)。おそらくYDよりも前で、ACRの始まりに一致していると考えられる。同時期に大気循環が変化し、南半球の偏西風帯が北へと移動していた?

EPSL
☆Volumes 337–338, Pages 1-252 (1 July 2012) 
Temporal variations in lake water temperature: Paleoenvironmental implications of lake carbonate δ18O and temperature records
Michael T. Hren, Nathan D. Sheldon
湖の水温と気温との関係を調査。湖の炭酸塩が形成される時期は炭酸塩のδ18Oなどを用いた古気候復元の解釈に影響を与えるので重要。古気候復元には正しい伝達関数を用いることが必要。

A new model of cosmogenic production of radiocarbon 14C in the atmosphere
Gennady A. Kovaltsov, Alexander Mishev, Ilya G. Usoskin
大気上層における放射性炭素(14C)の生成率の新たな計算手法について。エネルギーが0.1 - 1,000 GeVの銀河宇宙線から計算。計算された値は炭素循環リザーバーの収支と整合的。一時的な太陽からの高エネルギー粒子の寄与は全体の0.25%と小さい。逆に過去の太陽の活動度を復元するのにも使えるかもしれない。

☆Volumes 339–340, Pages 1-164 (15 July 2012)
Pronounced subsurface cooling of North Atlantic waters off Northwest Africa during Dansgaard–Oeschger interstadials
Jung-Hyun Kim, Oscar E. Romero, Gerrit Lohmann, Barbara Donner, Thomas Laepple, Eddie Haam, Jaap S. Sinninghe Damsté
北西アフリカ沖(20ºN)から得られた堆積物コアのアルケノンとTEX86から過去50kaのSSTを復元。MIS3において7℃という規模でD/Oサイクルに対応したSSTの振動が見られた。グリーンランドが温暖化する時に逆に赤道大西洋は寒冷化していた。LGM背景で行われたGCMを用いたシミュレーションではAMOCを介した似たような振動が見られた。D/OイベントにおいてAMOCは非常に重要な要素であることが示唆される。
Kim et al. (2012)を改変。
D/Oサイクルに対応した温度低下(グリーンランドの温度上昇)が確認された。

☆Volumes 341–344, Pages 1-268 (August 2012)
A boundary exchange influence on deglacial neodymium isotope records from the deep western Indian Ocean
David J. Wilson, Alexander M. Piotrowski, Albert Galy, I. Nicholas McCave
ネオジウムの同位体(εNd)は海洋深層水循環のトレーサーとして重要である。しかしながら海洋の沿岸部における堆積物を起源とするネオジウムが付加される過程('boundary exchange')も重要であることが近年の研究から分かってきた。マダガスカルの西岸境界流の流れる海域において得られた堆積物のコアトップ(完新世に相当)の底性有孔虫の被覆とバルク堆積物をリーチングして得られたεNdを比較したところ、非常に良い一致を見せた。マダガスカル海流の上流部分付近のコア深部の記録も併せて見てみると、εNdに変化が見られたが、これは先行研究による南大洋の周極深層流(Circumpolar Deep Water; CDW)のεNdの変化とも整合的である。一方でマダガスカル近傍で得られた堆積物コアの深部の記録は上流のεNdからは一定の差異が見られ、boundary exchangeが寄与している可能性がある。つまりεNdを解釈し、深層水の質量収支を計算する際には最初にboundary exchangeの有無を調べる必要がある。しかしながらLGMでも完新世でも差異は一定で、boundary exchangeの寄与率は時間変化しなかったと考えられる。よってLGMから完新世に向かってεNdが上昇するのは、深層水の素となる水の供給源が変わったか、組成が変わった可能性を示唆している。
Wilson et al. (2012)を改変。
各サンプリング地点間の差異はあるものの、すべてLGMから完新世へ向かう過程で増加傾向にある。

Flux and provenance of ice-rafted debris in the earliest Pleistocene sub-polar North Atlantic Ocean comparable to the last glacial maximum
Ian Bailey, Gavin L. Foster, Paul A. Wilson, Luigi Jovane, Craig D. Storey, Clive N. Trueman, Julia Becker
北大西洋の堆積物コア(52ºN)から得られた堆積物コア中のIRDのfelspar(長石)中の鉛同位体をLA-ICPMSで測定し、IRDの起源となった母岩を推定。特に北半球の氷河化が始まった最初の頃に対応するMIS100(~2.52Ma)に注目。氷期初期と極大期とでIRDの起源が変化。LGMの時のIRDと似た性質のものが運搬されていたことが分かった。またMIS100には氷山が多く発生していたことが示唆される。

The evolution of pCO2, ice volume and climate during the middle Miocene
Gavin L. Foster, Caroline H. Lear, James W.B. Rae
現在表層水のpCO2が大気と平衡になっている海域において得られた堆積物コア中の浮遊性有孔虫(G. sacclifer)の殻のδ11Bを用いてMioceneの気候温暖期(Miocene Climatic Optimum; MCO, 17-15Ma)の海洋表層のpHを復元。さらにアルカリ度を仮定することで大気pCO2を推定。全球の気候とpCO2とは密接に関係していたことが示された。またpCO2の変動に対する南極氷床量の変動はモデル研究から言われているようなヒステレシスは確認されなかった。当時のpCO2は温暖期で350-400ppm、通常で産業革命前よりもやや低い200 - 260 ppmと推定され、低いpCO2でも南極氷床もしくは北半球の氷床がダイナミックに変動する可能性があることが示唆される。最近行われた南極近傍の掘削では当時南極の縁辺がダイナミックに変動していたことが示されており、結果として当時の気候と南極氷床とはともに現在よりもダイナミックに変動していたと考えられる。
Foster et al. (2012)を改変。
Mioceneの温暖期において大気中のpCO2は高く、その後は280ppmよりも低かったと推定される。

☆Volumes 345–348, Pages 1-220 (September 2012)
Boron incorporation into calcite during growth: Implications for the use of boron in carbonates as a pH proxy
E. Ruiz-Agudo, C.V. Putnis, M. Kowacz, M. Ortega-Huertas, A. Putnis
原子力間顕微鏡(Atomic Force Microscopy; AFM)を用いてカルサイト沈殿実験に対するホウ素の取り込みを調べた。高いpH(9.5)でホウ素の取り込みがほぼ平衡状態で起きた。さらに結晶格子外へのホウ素の取り込みも確認された。また石灰化速度とカルサイトの結晶形もホウ素の取り込みに影響するため、ホウ素濃度やホウ素同位体をpHプロキシとして使用するにはこれらの要素も考慮する必要があるかもしれない。

Glacial Southern Ocean freshening at the onset of the Middle Pleistocene Climate Transition
Laura Rodríguez-Sanz, P. Graham Mortyn, Alfredo Martínez-Garcia, Antoni Rosell-Melé, Ian R. Hall
MPT(Middle Pleistocene Transition)の時には南大洋が気候変動において重要な役割を担っていたと考えられる。南大洋の大西洋セクター(42.5ºS)から得られた堆積物コア中のN. pachyderma (sinistral)のMg/Caとδ18Oを用いてMPT前後のSSTと海水のδ18Oを復元。1.25Ma頃からSSTが約2℃低下し、δ18Oが約0.4‰軽くなった。ともに100ka周期で変動し、氷期には南大洋の深層水循環は弱化していた。氷期には水柱の表層の淡水化が南大洋の成層化を促進し、南大洋の海洋表層におけるCO2交換を妨げていたと考えられる。
Rodríguez-Sanz et al. (2012)を改変。
MPTの始まりに大きな表層水の淡水化が起きた。最下部は深層水の湧昇の強弱の指標として用いられている深層水(底性有孔虫)のδ13C

The planktic foraminiferal B/Ca proxy for seawater carbonate chemistry: A critical evaluation
Katherine A. Allen, Bärbel Hönisch
浮遊性有孔虫のB/Caは温度が二次的に寄与しているが、一次的にはpH若しくは[CO32-]のプロキシになると提唱されている。飼育実験と野外の試料とはともに[B(OH)4-/HCO32-]の増加とともにB/Caが増加しており、理論的な予測に符合する。しかしながら、得られたデータを精査してみると、ホウ素の経験的な分別係数(KD)は[B(OH)4-/HCO32-]とB/Ca以外の他の変数によっても変化していることが示される。もしB/Caの寄与が小さいとすると、B/Caから過去の情報を引き出すことはできないということになる。化石のB/Caから炭素循環に関する情報を引き出すためのこれまでのキャリブレーションの方法を評価し、新たな枠組みにの構築を試みた。多くの解決すべき課題は残されているものの、B/Caは海水の炭酸系の変数と同期して変動しており、また過去の記録も重要な気候変動が知られている時期に変動している。現在の不確実性を解決し、B/Caをより厳密な間接指標にするための推奨を行う。