Main contents


☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English

2012年10月3日水曜日

新着論文(Ncc#Oct2012)

Nature Climate Change
Volume 2 Number 10 (October 2012)

Research Highlights
Non-solar warming
太陽のせいじゃない温暖化
Environ. Res. Lett. http://doi.org/jb3 (2012)
推定法?(inferential method)を用いて太陽総放射量と温室効果ガスによる放射強制力が全球の気温を予測できるかどうかを統計的に処理したところ、1960年代以降、太陽総放射量と気温との間には相関が見られず、一方で1940年代以降は温室効果ガスによる放射強制力と気温との間に強い相関が見られた

Personal experience matters
個人的な経験が関係する
Glob. Environ. Change http://doi.org/jb2 (2012)
日々変わる天気から気候変動を直接経験することは難しいが、一部の人は地球温暖化を感じ取っているという。ミシガン州における聞き取り調査において、人々が「どのような気候変動を感じ取っているか」「なぜ気候変動だと思うのか」「それがどう問題なのか」などを訪ねてみたところ、27%の成人男性が温暖化を経験していると答え、その内訳は「季節の変化(36%)」「天気の変化(25%)」「湖の水面の高さの変化(24%)」「降雪の変化(19%)」と答えた。そのうち季節・嵐の頻度・湖の水面の高さの変化についてはそれを裏付ける観測記録が得られているという。

Shrubby Arctic carbon
低木の茂った北極の炭素
Ecol. Lett. http://doi.org/jb4 (2012)
北極周辺のツンドラ(コケ類、スゲ類、低木類などに覆われる低地)を構成する植生は次第に低木の被覆度が増しつつある(’shrubification’)。しかしこうした植生の変化が生態系・炭素循環・気候変動に与える影響はよく分かっていない。北極のツンドラにおける野外調査から、夏には10℃以上(以下)の温度を持つ土壌に根付く低木はCO2の放出源(吸収源)として寄与していることが分かった。低木が多い植生に変化することで炭素循環の速度が増すこと、温度が上昇し続けるとCO2の放出源となり炭素が失われてゆく可能性が示唆される。

Permafrost heats up
永久凍土が暖まる
Nature Geosci. http://doi.org/jbz (2012)
永久凍土の土壌には現在大気中にある炭素の2倍もの炭素が眠っており、地球温暖化によって永久凍土が融けることで大気へと炭素が移動し、温室効果によって正のフィードバック(より温暖化を進行させる)と考えられている。異なる排出シナリオに基づいたモデルシミュレーションから、永久凍土は1,700PgCの推定貯蔵量のうち「68 - 508 PgC」を2100年までに放出する可能性があることが分かった。これは排出シナリオに関わらず、全球の気温を2,300年までに0.13-1.69℃さらに上昇させる効果があるという。

News and Views
Science literacy and climate views
科学の知識と気候に関する見方
Adam Corner
サイエンスコミュニケーターは気候変動のリスクに関する科学的な証拠を強調することが必要だと確信しているが、調査によって科学の知識を持っている人ほど必ずしも地球温暖化に最も関心を抱いているわけではないことが分かった。

Soil mediation in grasslands
草原における土壌の仲介
Howard Epstein
 大気中のCO2濃度は植物の光合成の際のCO2の取り込み速度に影響するが、単純に「CO2が増えれば光合成も活発化するか」というとそうでもないようである。テキサス州におけるCO2増加野外実験から、CO2上昇に対する草原の応答(葉の生産量)は草原の根付く土壌のタイプによって決定されることが分かった。粒径の荒い土壌に根付く草ほど細粒の土壌に根付く草に比べてより成長するという。
 CO2を取り込む際には植物は葉の気孔を開くが、この際に水蒸気が気孔から逃げてしまうため、植物はジレンマを抱えて生きている。光合成によるこの問題を解決するために植物の中には水を節約するのに適した進化を遂げたものがいる。光合成の仕方に応じて「C3植物」「C4植物(光合成の効率が良く、水分の節約に適している)」「CAM植物(主に砂漠の多肉植物に見られる)」と大別される。また他にも葉の面積(つまり気孔密度)を減少させた植物や葉ではなく根から水と栄養塩を吸収する戦略を取る植物も存在する。CO2が上昇した場合、恩恵を被るのはC3植物(光合成の効率が比較的悪いため、エネルギーを消費することなくCO2を取りこめる)だと考えられてきたが、現実にはC3・C4植物ともに恩恵を被るらしい。
 土壌から吸収される水分もまた植物に水分を供給しているが、植物の高さや土壌の物理特性(特に保水率、粒度)に応じて植物ごとに葉/土壌から水分を取り込む比率は異なるらしい。粒径の細かい(泥・シルト)土壌は乾燥に強く(空隙が少ない)、一方で粒径の荒い(砂)土壌は乾燥に弱い(空隙が多い)。結果として土壌の状態もまた植物に対する水分の供給量を変え、それに適した植物ほど変化した環境下で繁栄することになる。
※コメント
余談ですが、植物化石の葉の気孔密度を利用して過去の大気中のCO2濃度を復元する試みもなされています。

Perspectives
Stratospheric aerosol particles and solar-radiation management
成層圏のエアロゾル粒子と太陽放射管理
F. D. Pope, P. Braesicke, R. G. Grainger, M. Kalberer, I. M. Watson, P. J. Davidson & R. A. Cox
成層圏にエアロゾルを直接注入することで気候を安定化させる太陽放射管理技術(solar-radiation management techniques)の際に、どのような特性を持ったエアロゾル粒子が最適化について調査。硫酸エアロゾル以外が良さそう

The need for new ocean conservation strategies in a high-carbon dioxide world
CO2高濃度環境で新たな海の保全戦略を取る必要性
Greg H. Rau, Elizabeth L. McLeod & Ove Hoegh-Guldberg
大気中のCO2濃度の上昇によって引き起こされている海洋環境に対する脅威は歴史的に見ても例がなく、型にはまらない、非・消極的な手段を取る必要がある。コスト・安全性・効率を評価することが保全には重要であろう。

Review
Climate change impacts on glaciers and runoff in Tien Shan (Central Asia)
テンシャン(中央アジア)における気候変動が氷河と河川流量に与える影響
Annina Sorg, Tobias Bolch, Markus Stoffel, Olga Solomina & Martin Beniston
中央アジアの水の塔(’water tower of Central Asia’)とも称されるテンシャンの山岳氷河は流域の国々へ飲用水・かんがい・水力発電を提供している。特に夏は暑く乾燥するため、山岳氷河の雪解け水が水利用を支えている。河川流量が最大になる季節が変化している河川も報告されており、降水と永久凍土の融解を起源とする水が十分にそれを補わない限り、夏の河川流量は減少し続けると考えられる。また水不足が地域的な紛争をより悪化させると考えられる(特にソ連崩壊後に河川の上流と下流に分かれた自治共和国)。

Letters
The polarizing impact of science literacy and numeracy on perceived climate change risks
科学の読み書き・計算能力が認知されている気候変動の脅威に対して与える影響の分極化
Dan M. Kahan, Ellen Peters, Maggie Wittlin, Paul Slovic, Lisa Larrimore Ouellette, Donald Braman & Gregory Mandel
気候変動に対する人々の無関心はしばしば理解の欠如や技術的な理由付け(technical reasoning)に対する制限の原因となる。しかしながら、科学の素養が最もある人々、技術的な理由付けの能力がある人々が必ずしも気候変動に関して最も興味を持っている訳ではなく、むしろそうした人々ほど文化的な分極化(cultural polarization)が最たるものである。

Asymmetric European summer heat predictability from wet and dry southern winters and springs
冬と春の南部の湿潤・乾燥状態から予測されるヨーロッパの夏の熱波の予測精度の対称性
Benjamin Quesada, Robert Vautard, Pascal Yiou, Martin Hirschi & Sonia I. Seneviratne
ヨーロッパにおいては夏の熱波の頻度が将来増加することが予想されているが、それらを予測する能力は限られている。夏に先立って降水量が少ないと夏の熱波の頻度が上昇することが知られている。しかし夏に先立った季節の降水の多寡が夏の熱波の到来を予測できるかについては研究例が少なく、ほとんど研究されていない状態である。64年間のヨーロッパにおける観測記録の解析から、夏に先立った季節に降水量が多いと夏の熱波は抑制され、一方で夏に先立って乾燥していると熱波は頻繁である時と少ない時と両方あることが分かった。CMIPではヨーロッパ南部が将来乾燥化することを予測しており、夏の熱波の範囲や頻度が上昇する可能性がある。

Soil-mediated effects of subambient to increased carbon dioxide on grassland productivity
増加した二酸化炭素が草原の生物生産に与える土壌を介した副作用
Philip A. Fay, Virginia L. Jin, Danielle A. Way, Kenneth N. Potter, Richard A. Gill, Robert B. Jackson & H. Wayne Polley
大気中のCO2濃度が上昇することで草原の生態系に影響が出ると考えられている(土壌が湿度に与える影響、窒素の利用効率、種組成など)。野外において行われたCO2増加実験から、植物による一次生産量は土壌のタイプに強く依存していることが示された。

Eco-evolutionary responses of biodiversity to climate change
気候変動に対する生物多様性の生態-進化的な応答
Jon Norberg, Mark C. Urban, Mark Vellend, Christopher A. Klausmeier & Nicolas Loeuille
気候変動は全球の生物種の多様性、人間に対する感染症の分布、生態サービスを変化させると予想されている。そうした変化を予測し的確な管理を行うためには最も根本的な生態作用を組み込んだモデルが必要である。しかし多くのモデルで「進化」や「競合」といった要素は抜けている。それらを組み込んだモデルを用いて気候変動に対して多くの種がどのように応答するかを調査。「遺伝的な多様性に富むこと」と「分布域が狭いこと」が絶滅リスクを最も低減することが分かった。逆に分布域が広いほど絶滅の危険性は高まる。さらに競合なしに絶滅は起きないため、いかに競合という要素がモデルで重要かが分かる。特筆すべきは気候変動が絶滅野心家に対して’負債’を与えることで、気候が安定化した後しばらくしてからも種の豊かさなどに変化が生じる。従っていま気候変動が完全に止んだとしても、数世紀に渡って全球の生物多様性は動的に変化し続けることになる。

Changes to dryland rainfall result in rapid moss mortality and altered soil fertility
乾燥地域の降水の変化がコケの急速な死亡率と土壌の豊かさに影響する
Sasha C. Reed, Kirsten K. Coe, Jed P. Sparks, David C. Housman, Tamara J. Zelikova & Jayne Belnap
地球の大陸の4割は乾燥-亜乾燥地域で覆われているが、気候変動がこれらの乾燥地域にどう影響するかはほとんど分かっていない。アメリカ南西部のコロラド平原は、他の多くの乾燥地域のように、気温が上昇し降水の起きる時期と量が変化すると考えられている。コロラド平原における野外実験から降水の変化がコケ類の死亡率に大きく影響することが示された。一方で温度の変化は影響しなかった。コケは乾燥地域の生態系において重要な構成要素であり、わずかな気候の変化が生態的な構造や機能にたいして驚くほど短い時間スケールで影響を与える可能性を示唆している。さらに降水の時期と量のわずかな変化が与える影響も看過できず、我々の乾燥地域の生態系と気候との関係に対する理解がいかに不適切かを浮き彫りにしている。

Decline of forereef corals in response to recent warming linked to history of thermal exposure
熱暴露史と関係した近年の温暖化に対する前礁のサンゴの減少
Karl D. Castillo, Justin B. Ries, Jack M. Weiss & Fernando P. Lima
海水の温暖化がサンゴ礁生態系を脅かしているが、サンゴの温度上昇に対する応答が同じサンゴ礁内でも空間的にどれほど変動するかを理解することはサンゴ礁保全の点でも重要である。カリブ海のforereefに生息するSiderastrea siderea群体の骨格の成長速度を調べたところ、1982年から2008年にかけて温度上昇とともに成長速度が遅くなっていることが分かった。一方でbackreefと岸近くに生息するS. sidereaの成長速度は影響を受けていない。考えられる原因としては、サンゴ礁内のほうが温度の日・季節変動が大きく温度耐性がある程度備わっていることが考えられる。この知見はサンゴ礁内での環境に応じてサンゴが「現在の温暖化に対してどのように対応してきたか」、「将来どのように応答するか」を予測する上で重要である。