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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年10月18日木曜日

新着論文(Nature#7420)

Nature
Volume 490 Number 7420 pp309-440 (18 October 2012)

EDITORIALS
特になし

WORLD VIEW
特になし

RESEARCH HIGHLIGHTS
Signs of asteroid magnetic field
小惑星の磁場の徴候
Science 338, 238–241 (2012)
太陽系で2番目に大きい小惑星であるVestaはかつてコアに回転する金属流体があり、ダイナモによって発生した磁場が表面の岩石に記録された可能性がある。Vestaから来たと考えられている隕石(Allan Hills A81001)の分析から、その磁場は3.69Gaに形成されたものと推定されている。他の小さな分化した天体にもダイナモがある可能性がある。

Tool use takes more than brains
道具の使用は脳以上のものを要求する
Nature Commun. http://dx.doi.org/10.1038/ ncomms2111 (2012)
ニューカレドニアカラス(New Caledonian crow; Corvus moneduloides)は枝などからできた道具を使って小さな穴や割れ目から獲物を搔き出すことができる。道具を使わない他のカラスと嘴や視野を比較してみると、ニューカレドニアカラスは視野が狭い部分を見るのに適しているために道具のコントロールが上手く、さらに真っ直ぐな嘴の形状も道具のコントロールに向いているという。高い知能というよりも寧ろ物理的に道具の使用に向いた適応をした結果と考えられる。

Remains of the moa
モアの残骸
Quaternary Sci. Rev. 52, 41–48 (2012)
モアは1300年代にニュージーランドに移住してきた人類のせいで絶滅した。ニュージーランドの遺跡から出てきたモアの骨と卵の殻のDNA分析から、当時の人類がモア本体だけでなく卵も同様に狩っていたことが絶滅速度を早めていたことが分かった。特にオスのモアの遺骸が多く、オスが卵を温めていたことが原因の一つと考えられる。さらに人間の遺体と共にモアの遺骸が産出することから、当時の人類がモアを価値のあるものとして扱っていたものと推測される。

Humble arthropod beginnings
謙遜した節足動物の始まり
Proc. R. Soc. B. http://dx.doi. org/10.1098/rspb.2012.1958 (2012)
クモや昆虫、カニなどを含む節足動物の外骨格はもともとは泳ぐために発達したものであるらしい。カナダのバージェス頁岩から発見されたNereocaris exilisは節足動物の中でも特に原始的な種であるが、頭には二枚に分かれた甲羅を持ち、胴は長く固い外骨格で覆われていた。それらは歩くには適しておらず、泳ぐためのものであったらしい。また現在と違い、節足動物はおもに補食される側であったことが解剖学的に示唆されている。

La Niña made the oceans fall
ラニーニャが海を低くした
Geophys. Res. Lett. http://dx.doi.org/10.1029/2012GL053055 (2012)
2010年3月から2011年5月にかけて生じたラニーニャによって、赤道東太平洋に冷たい水が湧昇し、陸上の降水量が上昇し、結果的に海水面は5mm低下していたらしい。ここ18年間海水準は年間3mmの割合で上昇しつつあるが、2010年のラニーニャの始まりにはどういうわけか海水準が低下していた。主にオーストラリアと南米北部、東南アジアの陸の淡水リザーバーが増加していたことが原因と考えられる。2010-2011のラニーニャはここ80年間では最大規模のものであったが、2012年の初めには海水準はもとのレベルに戻ったという。

SEVEN DAYS
ORCID launch
ORCIDの開始
ORCID(Open Researcher and Contributor ID)は世界各国の研究者に識別IDを与えることで、大学や研究費助成機関が研究者の出版物などを管理しやすくする。www.orcid.orgで自らの出版リストなどの情報を登録することができる。

Supersonic skydive
超音速のスカイダイビング
オーストラリア人スカイダイバーのFelix Baumgartnerはニューメキシコにおいて地上39kmの高さからのスカイダイビングを実行し、世界記録を打ち立てた。落下スピードは音速を超えたという。このデータは高地用のパラシュートや宇宙船の脱出システムの開発に役立てられるという。

Nuclear failings
核の失敗
福島第一原発のメルトダウンから19ヶ月経って、東京電力は津波などの災害に対する安全基準をより検討すべきだったと認めた。

TREND WATCH
ANTARCTIC OZONE RECOVERING
回復しつつある南極のオゾン
南極では春に最もオゾン濃度が低下し、オゾンホールが広がるが、それらは近年改善に向かいつつある。25年前に締結されたモントリオール議定書はオゾン破壊につながる塩素や臭素などの化学物質の大気中の濃度の削減に寄与したようだ。しかしNASAのPaul Newmanは2065年までは塩素と臭素の濃度は1980年のレベルまでは戻らないだろうと試算している。

NEWS IN FOCUS
Politics holds back animal engineers
政治は動物工学に尻込みする
Amy Maxmen

Stem-cell fraud hits febrile field
幹細胞詐欺が白熱した分野に痛手を与える
David Cyranoski

The exoplanet next door
お隣の系外惑星
Eric Hand

Antarctic seas in the balance
バランスしている南極の海
Daniel Cressey

COMMENT
特になし

CORRESPONDENCE
Citizens add to satellite forest maps
市民が衛星の森林マップに地図を追加する
Marijn van der Velde, Linda See & Steffen Fritz

Rural factories won't fix Chinese pollution
田舎の工場は中国の汚染を改善しようとしない
Hong Yang, Roger J. Flower & Julian R. Thompson

Clean stoves benefit climate and health
クリーンなストーブは気候と健康に良い
Susan Anenberg
現在30億人もの人間が原始的なストーブを使って石炭やふん、木などを燃やしており、それによって発生するブラックカーボンが全球の20%を占めている。さらには煙の吸入によって毎年200万人が命を落としている。そのためストーブの改良が気候変動緩和と人々の健康の改善に大きく寄与すると考えられる。従来のストーブからはブラックカーボン・ブラウンカーボンだけでなく、気候変動に寄与する二酸化炭素・メタンなどの気体も発生するが、最新のストーブは燃焼効率もはるかに高く、発生する有害物質も少なくて済む。液化天然ガスやエタノールなどの’綺麗な’燃料を使うことでさらに改善する。Global Alliance for Clean CookstovesClimate and Clean Air Coalition to Reduce Short-lived Climate Pollutantsなどがその改善に尽力している。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Galvanized lunacy
亜鉛メッキされた月
Tim Elliott
 月は非常に乾燥し、表面にはマグマ由来の火山岩が覆っている。月の石の亜鉛の同位体は地球のそれに比べて非常に重い値を持つ。また亜鉛は揮発性物質でもある(天文学的には1,000℃という比較的低温で気化する物質は揮発性らしい)が、各惑星間で含有量が大きく異なることも知られている。しかしそのような多様性を生む原因についてはよく分かっていなかった。
 Paniello et al.はアポロ計画の際に得られた月のサンプルの亜鉛の’同位体’分析を行った。亜鉛は高温のマグマ状態では揮発してしまうため、冷えて固まった後の岩石から月の内部全体の組成を推定するには難しいため、含有量ではなく同位体に着目している。同位体はマグマの過程において同位体分別を起こすが、その後の過程では保存されると考えられるからである。その証拠に、月のあらゆるサンプルを分析しても同様の同位体比が得られたという。その値は地球や火星とは同位体的には’大きく’異なっていた。解釈としては、ジャイアント・インパクトでメルトとガスが形成され、主にメルトから月が形成された際に、軽い同位体をもつガスが宇宙空間に散逸し、重い同位体を持つメルトが選択的に月として集積した可能性である。この可能性は20年も前から提唱されていたものの、カリウム同位体の高精度の分析などでも実証されていなかった。従来の月形成モデルでは月と地球を構成する元素の同位体比はほとんど均質と見なしていたが、今回の発見によってその見直しが必要となるだろう。

The big picture of marsh loss
湿地帯の消失の全体像
Steven C. Pennings
広い土地のスケールの研究から過度な栄養は塩水沼地の消失を招くことが分かった。これは小さなスケールの研究では示されていなかった。生態系の研究ではより大きな・より長期の研究の価値が大きいことを意味している。

ARTICLES
特になし

LETTERS
Zinc isotopic evidence for the origin of the Moon
月の起源に対する亜鉛同位体の証拠
Randal C. Paniello, James M. D. Day & Frédéric Moynier
月の火山岩の亜鉛同位体は重い元素に富んでおり、地球や火星のものに比べると濃度が低い。そうした多様性は、小さなスケールの火山活動などによって生じた結果ではなく、月が形成されるきっかけとなったジャイアント・インパクトの際に亜鉛が大規模に揮発した結果と考えられる。

Coastal eutrophication as a driver of salt marsh loss
塩水湿地の消失を招く沿岸の富栄養化
Linda A. Deegan, David Samuel Johnson, R. Scott Warren, Bruce J. Peterson, John W. Fleeger, Sergio Fagherazzi & Wilfred M. Wollheim
現在世界中の沿岸生態系で問題となっている、富栄養状態は塩水沼地の消失へとつながることが9年間にわたる生態系全体を考慮した野外実験から明らかになった。

Delayed build-up of Arctic ice sheets during 400,000-year minima in insolation variability
日射量変動の40万年に一度の最小値が訪れる際の北極の氷床の形成の遅れ
Qingzhen Hao, Luo Wang, Frank Oldfield, Shuzhen Peng, Li Qin, Yang Song, Bing Xu, Yansong Qiao, Jan Bloemendal & Zhengtang Guo
 過去の間氷期における北半球高緯度域の気候変動を明らかにすることは将来の気候変動を考える上でも重要である。しかしそうした記録は氷床コアを除くと限られており、そうした中、アイスコア記録(~800ka)よりも古い時代の高緯度域の記録は中国のレス平原の風成塵に記録されている。というのも、風成塵は高緯度のシベリア高気圧がもととなって吹く、冬期アジアモンスーンの影響を大きく受けるからである。
 中国のレス平原に平行して存在する2つの地点(Yimaguan、Luochuan)から得られた古土壌中の粒度から過去900kaの冬期アジアモンスーンの強度を復元。400kaに一度訪れる離心率が大きく低下する間氷期においては、従来考えられてきたよりも冬期アジアモンスーンは弱かった可能性?原因としては高緯度域に氷や雪が夏にあまり融けずに残っており、結果的にシベリア高気圧(とそれによる風)が弱まっていたことが考えられる。