Volume 485 Number 7399 pp415-540 (24 May 2012)
Editorial
A charter for geoengineering
地球工学に対する不正認可
先週行われる予定だった、地球工学の一種である成層圏へのエアロゾル注入による寒冷化に先立って行われた、高度1kmへの水滴のばらまき実験も抗議運動によって中止せざるを得なかった。地球工学は様々な道が提唱されていながら、そのほとんどが実現されていない。一般市民の意見との擦り合わせや、インフォームドコンセントなど、実現には様々な障壁が存在する。
Research Highlights
Groundwater down, sea level up
地下水位は下がり、海水準は上がる
Nature Geosci. http://dx.doi.org/10.1038/ngeo1476 (2012)
海水準上昇の原因として考えられるのは「氷床融解による淡水流入量の増加」「温暖化による海水の熱膨張」「人間による陸水利用の変化」であるが、モデルシミュレーションから、1961-2003年にかけては3番目の陸水利用の変化が海水準の上昇の50%を説明することが示された。特に灌漑やダム建設などが原因らしい。
発電機としてのウイルス
Nature Nanotechnol. http:// dx.doi.org/10.1038/ nnano.2012.69 (2012)
圧電力の原理を利用してウイルスの一種から発電を行うことができるらしい。液晶を灯すくらいの発電力があるのだという。このウイルスは環境には極めて無害であるため、環境に優しい発電法として期待が寄せられている。
気候変動に追いつけない
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1116791109 (2012)
ほ乳類は思っていたより気候変動について行けないかもしれない。493種のほ乳類に対し気候変動に対する生息地の変化をモデリングしたところ、9.2%の種は気候変動に追いつけない可能性が示唆された。霊長類が特に危機的だという。
白い屋根を使った寒冷化効果
Environ. Res. Lett. 7, 024004 (2012)
Environ. Res. Lett. 7, 024004 (2012)
都市部の屋根や舗装道路を太陽光を反射しやすい白などの色にすることで、全球の気温に対して300年間で0.1℃ほどの寒冷効果があることが気候モデルを用いたシミュレーションから分かった。自然の気温の変動に比べればわずかであるが、節電やヒートアイランド緩和策としては低価格で有効な手段らしい。
News & Views
Flowering in the greenhouse温室効果のなかで花開く
This Rutishauser, Reto Stöckli, John Harte & Lara Kueppers
温室効果によって温暖化した世界で植物がどのように対応するかはよく分からない。温暖化実験では必ずしも植物の応答を捉えきれないかもしれない。
Astrophysics: Startling superflares
宇宙物理学:驚くべきスーパーフレア
Bradley E. Schaefer
我々の太陽にきわめてよく似た恒星では、太陽でかつて見られた最大のフレアよりもエネルギーが100万倍以上高いフレアが発生することがある。このようなスーパーフレアを詳しく調べることが、ケプラー衛星によって初めて可能となった。Maehara et al. (2012)の解説記事。
Geochemistry: Portrait of Earth's coming of age
地球化学:成人式当時の地球の肖像
William M. White
William M. White
25億年前にマグマの組成が突如変わり、この時期は地球の大気と気候が激変した時期と一致している。Keller & Schone (2012)の解説記事。
Letters
Superflares on solar-type starsHiroyuki Maehara, Takuya Shibayama, Shota Notsu, Yuta Notsu, Takashi Nagao, Satoshi Kusaba, Satoshi Honda, Daisaku Nogami & Kazunari Shibata
フレアは多くの恒星で観測されており、さらに大規模な「スーパーフレア」はさまざまな星で見られ、それらの星には高速自転しているものや、標準的な太陽型のものがある。120日にわたって観測された約83,000個の星の365例のフレアの観測から、特に高速自転する恒星でスーパーフレアがより多く発生していることが分かった。またホットジュピターの存在は必ずしもスーパーフレアの発現には必要ないかも?
C. Brenhin Keller & Blair Schoene
約70,000個の大陸火成岩試料の地球化学的データベースに統計的標本抽出法を適用し、地球史における地球化学的進化の記録を復元した。約25億年前に広範にわたって地球化学的な不連続が生じていることが分かった。この時期に大気の酸化が起きていることから、地球深部の化学が大気の酸素濃度上昇に関係していたことを示唆している。
Warming experiments underpredict plant phenological responses to climate change
E. M. Wolkovich, B. I. Cook, J. M. Allen, T. M. Crimmins, J. L. Betancourt, S. E. Travers, S. Pau, J. Regetz, T. J. Davies, N. J. B. Kraft, T. R. Ault, K. Bolmgren, S. J. Mazer, G. J. McCabe, B. J. McGill, C. Parmesan, N. Salamin, M. D. Schwartz & E. E. Cleland
温暖化実験で将来の植物の応答に関して意味のある予測を得るには、花成および展葉の時期の前倒しなどの、気温変動および近年の温暖化に対する応答の実証的記録が実験に反映されていなければならない。しかしながら、温暖化実験では気候変動に対する植物の生物季節学的応答が過小に見積もられている可能性が示唆された。この結果は、モデルを用いて予測された、気候変動への生物応答を再評価すべきであることを示唆している。