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2012年5月12日土曜日

アイスコア中の気泡から最終退氷期の炭素循環を解明する

Carbon Isotope Constraints on the Deglacial CO2 Rise from Ice Cores
Jochen Schmitt, Robert Schneider, Joachim Elsig, Daiana Leuenberger, Anna Lourantou, Jérôme Chappellaz, Peter Köhler,Fortunat Joos, Thomas F. Stocker, Markus Leuenberger, and Hubertus Fischer
Science 336, 633-760 (2012)

とその解説記事
CLIMATE CHANGE:The Ice Age Carbon Puzzle
Edward Brook
より。



自分の研究と非常に密接に関わっている「最終退氷期における炭素循環」の謎の解明の、大気中二酸化炭素のd13C側からのアプローチ。

最終退氷期において、大気中の二酸化炭素濃度は17.5ka頃から10kaにかけて~85ppm上昇した(180→265ppm)。しかし何故このような上昇が起きたのか、またそれを説明するための詳細なメカニズムは未だによく制約できていない。おそらく1つのメカニズムだけでは単純に記述できず、複数のメカニズムが複雑に絡み合っていると考えられる。

炭素循環に関わるメカニズムを解明するために、同位体(ここでは13C)が役に立つ。何故なら炭素循環の様々な局面において、同位体分別が生じるためである。
例えば、光合成は選択的に12Cを使用するため、生物固定が進むほど大気のδ13CO2は’重く’なる。

アイスコア中の二酸化炭素のδ13Cは全球の炭素循環の情報を含んでいるが、これまでに報告された値には測定精度が大きな障壁となっていた。アイスコアから得られる二酸化炭素の量はほんのわずかであるため、測定の誤差が大きく、自然由来の同位体変動を見分けることが困難だったのである。
さらにアイスコアの深部では気泡がクラスレートへと変化してしまい、さらなる同位体分別が起きてしまうという問題もあった。

今回、彼らは従来用いられていた’氷の昇華を利用した二酸化炭素の抽出法’をさらに改良することで、1,000年スケールの変動も解像できる確度の高い記録を得た。
使用されたアイスコアは2本(Dome C, Talos Dome)で、3つの異なる方法によって復元されたデータをスタックしている。
復元手法による系統誤差はほんのわずか(0.16‰程度)で、相互比較には補正後の値を使用している。また系統誤差の他に、万年雪が氷になる際の気泡を取り込む過程においても多少の寄与が考えられる。
Brook (2012)を改変。最終退氷期において、二酸化炭素濃度上昇とδ13CO2の負の変化は同時に起こっていたことが以前から知られていた。
注目すべきは最終退氷期における最初のd13Cの大きな低下が二酸化炭素濃度上昇と同時期(17.5-14ka)に起きていることで、これは「氷期に深層水に蓄えられていた大量の溶存炭素が表層にもたらされた」という説に整合的である。
しかしこの説については様々な賛成・反対意見が依然として存在する。

もう一つの重要な特徴は12-7kaにかけてのδ13Cのゆるやかな増加で、「陸上の生物圏による炭素固定」が示唆される。

また最終氷期においてはδ13Cは安定しており、HS2・DO2に相当する時代の変動も顕著には見られない(一方でΔ14Cには変動が確認されている)。

B/Aと同時期に起こるδ13Cのわずかな増加はSST上昇に伴い、主に北半球の生物圏が増加したことが原因?


最終退氷期の炭素循環の解明にはまださらなる研究が必要である。
この時期の炭素循環の解明は、現在の人為起源の炭素循環への擾乱に対する自然界の応答を考える上で重要な知見を与えることが期待されている。