Science
VOL 337, ISSUE 6098, PAGES 1009-1136 (31 August 2012)
Editors' Choice
Unlocking the Secrets of a Lost World
失われた世界の謎を紐解く
Curr. Biol. 22, R589 (2012).
南米ギニアの砂岩でできたtable mountains(tepuis)はそのアクセスの困難さ、数百万年間の隔絶などから’lost world’と呼ばれている。そこには固有種が多数生息していると考えられている。ヘリコプターで上陸し17種の両生類の遺伝子を解析したところ、峰と峰で従来考えられていたよりも近い遺伝関係があることが分かった。地理的な障害は遺伝子を隔絶させるほどには寄与していなかったことが分かった。遺伝的な分離が起きたのはPleistoceneからHoloceneへと入る約1万年前らしい。
How Bananas Weather a Drought
どうやってバナナは乾燥を乗り切るのか
Front. Plant. Sci. 3,176 (2012).
バナナの栽培は乾燥に弱い。ただし、バナナの遺伝子組み換え技術は未だ課題となっている。最近バナナの種には従来考えられていたよりも豊かな多様性があることが分かってきた。ある程度乾燥に強いことが分かっているバナナのある特定の種の葉のプロテオームの解析から、この種は一時的に乾燥したとしても生産速度を変えずに水不足に耐えることができることが分かった。
Slide Hazards
地滑り
Geology 40, 10.1130/G33217.1 (2012).
地震や台風などと同時に発生するために地滑りの死者数を定量化することは難しい。しかしながら重要な仕事となっている。2004年から2010年にかけて起きた地震起源の地滑り発生数のデータベースから2,620回の地滑りについて調べたところ、死者数は32,322人にのぼり(ほとんどが中国とヒマラヤ地域)、従来の想定の1桁以上の数字となった。地滑りは降水量や環境破壊などの人為改変の結果生じるため、今後の気候変動と都市化によってもその死者数は増えていくと考えられる。
News of the Week
割愛。
News Focus
In the Hunt for the Red Planet's Dirtiest Secret
火星の最も汚い謎の狩りの中で
Richard A. Kerr
Curiosityが火星の生命の有機物の残りを探査するのにより大きな障害が現れ、すでに出ばなをくじかれている。
(※コメント:ちゃんと読まないと何のことを言っているのか分からないですね)
Letters
The Scientific Whaling Loophole
科学的捕鯨の抜け道
LEAH R. GERBER
Iconic CO2 Time Series at Risk
アイコン的なCO2のタイムシリーズが危機にさらされている
Sander Houweling, Bakr Badawy, David F. Baker, Sourish Basu, Dmitry Belikov, Peter Bergamaschi, Philippe Bousquet, Gregoire Broquet, Tim Butler, Josep G. Canadell, Jing Chen, Frederic Chevallier, Philippe Ciais, G. James Collatz, Scott Denning, Richard Engelen, Ian G. Enting, Marc L. Fischer, Annemarie Fraser, Christoph Gerbig, Manuel Gloor, Andrew R. Jacobson, Dylan B. A. Jones, Martin Heimann, Aslam Khalil, Thomas Kaminski, Prasad S. Kasibhatla, Nir Y. Krakauer, Maarten Krol, Takashi Maki, Shamil Maksyutov, Andrew Manning, Antoon Meesters, John B. Miller, Paul I. Palmer, Prabir Patra, Wouter Peters, Philippe Peylin, Zegbeu Poussi, Michael J. Prather, James T. Randerson, Thomas Röckmann, Christian Rödenbeck, Jorge L. Sarmiento, David S. Schimel, Marko Scholze, Andrew Schuh, Parv Suntharalingam, Taro Takahashi, Jocelyn Turnbull, Leonid Yurganov, and Alex Vermeulen
(※コメント:おそらくマウナロアにおけるCO2モニタリングの資金源の確保のことを言っているのだと思います。近いうちに解説します。)
Comment on “Intensifying Weathering and Land Use in Iron Age Central Africa”
Jean Maley, Pierre Giresse, Charles Doumenge, Charly Favier
Bayon et al. (2012, science)は2.5kaに古代の中央アフリカ人が移植し森林を破壊したことが’熱帯雨林危機’の原因だとする主張をしているが、古生態学者の間では危機の原因は降水量の季節性が強化されたことだという共通見解がある。
Response to Comments on “Intensifying Weathering and Land Use in Iron Age Central Africa”
Germain Bayon, Bernard Dennielou,
Joël Etoubleau, Emmanuel Ponzevera, Samuel Toucanne, Sylvain Bermell
気候もある程度寄与していた可能性はあるが、依然として人間活動の影響が根源的であったに違いない。
Policy Forum
Climate Negotiators Create an Opportunity for Scholars
気候の交渉者が学者に対する機会を作る
Joseph E. Aldy and Robert N. Stavins
研究は先進国・発展途上国の両方が二酸化炭素排出削減にどのように寄与することができるかを評価しなければならない。
Perspectives
Bad News for Soil Carbon Sequestration?
土壌への炭素貯留への悪いニュース?
George A. Kowalchuk
アーバスキュラー菌根菌(Arbuscular mycorrhizal fungi)は土壌中での有機炭素の分解を促進させ、それは総じて二酸化炭素の放出源となる。
Reports
Interception of Excited Vibrational Quantum States by O2 in Atmospheric Association Reactions
David R. Glowacki, James Lockhart, Mark A. Blitz, Stephen J. Klippenstein, Michael J. Pilling, Struan H. Robertson, and Paul W. Seakins
振動によって励起された中間物質が大気中の化学反応において従来考えられていたよりも大きな役割を果たしている可能性がある。
Biogenic Potassium Salt Particles as Seeds for Secondary Organic Aerosol in the Amazon
Christopher Pöhlker, Kenia T. Wiedemann, Bärbel Sinha, Manabu Shiraiwa, Sachin S. Gunthe, Mackenzie Smith, Hang Su, Paulo Artaxo, Qi Chen, Yafang Cheng, Wolfgang Elbert, Mary K. Gilles, Arthur L. D. Kilcoyne, Ryan C. Moffet, Markus Weigand, Scot T. Martin, Ulrich Pöschl, and Meinrat O. Andreae
アマゾンの熱帯雨林において雲の凝結核として寄与している細粒の粒子はほとんどが二次的な有機物エアロゾルで構成されている。しかしそれらの起源に付いては謎のままである。熱帯雨林に生息している生物由来のカリウム塩に富んだ粒子が有機物エアロゾルの成長を促進していることが分かった。雲形成の微物理や降水過程に寄与していると考えられる。
Radiative Absorption Enhancements Due to the Mixing State of Atmospheric Black Carbon
Christopher D. Cappa, Timothy B. Onasch, Paola Massoli, Douglas R. Worsnop, Timothy S. Bates, Eben S. Cross, Paul Davidovits, Jani Hakala, Katherine L. Hayden, B. Tom Jobson, Katheryn R. Kolesar, Daniel A. Lack, Brian M. Lerner, Shao-Meng Li, Daniel Mellon, Ibraheem Nuaaman, Jason S. Olfert, Tuukka Petäjä, Patricia K. Quinn, Chen Song, R. Subramanian, Eric J. Williams, and Rahul A. Zaveri
大気中のブラックカーボンは地球の気候を暖める効果があるため、短期的な排出削減目標の中に組み込まれている。カリフォルニアの大気の直接観測からブラックカーボンの吸収促進(absorption enhancements;Eabs)と混合状態(mixing state)を推定。Eabsは想像以上に小さく、また時間とともに化学劣化反応によって減少した。またEabsは従来考えられていた理論値よりも小さく、ブラックカーボンによる温暖化は過大評価されている可能性がある。
Arbuscular Mycorrhizal Fungi Increase Organic Carbon Decomposition Under Elevated CO2
Lei Cheng, Fitzgerald L. Booker, Cong Tu, Kent O. Burkey, Lishi Zhou, H. David Shew, Thomas W. Rufty, and Shuijin Hu
陸上生態系がどれほど多くの炭素を吸収することができるかが気候変動緩和のための議論の的となっている。アーバスキュラー菌根菌(Arbuscular mycorrhizal fungi; AMF)は大気中の二酸化炭素濃度が上昇すると土壌への炭素の蓄積を促進させる(有機物分解を抑える)と考えられてきた。しかしながら、野外における実験から二酸化炭素の増加がAMFの活動を促進し、土壌中の有機炭素量を大きく減少させることが分かった。これは将来の二酸化炭素濃度が増加した世界で「AMFが有機物分解を抑える」という予想に反するとともに、陸域生態系の炭素バランスの将来予測に疑問を投げかけるものである。
How the Cucumber Tendril Coils and Overwinds
Sharon J. Gerbode, Joshua R. Puzey, Andrew G. McCormick, and L. Mahadevan
植物の螺旋状の巻きは何世紀もの間、科学者を魅了し続けてきた。キュウリがツタを巻くメカニズムについて。
Synthesis of Methylphosphonic Acid by Marine Microbes: A Source for Methane in the Aerobic Ocean
William W. Metcalf, Benjamin M. Griffin, Robert M. Cicchillo, Jiangtao Gao, Sarath Chandra Janga, Heather A. Cooke, Benjamin T. Circello, Bradley S. Evans, Willm Martens-Habbena, David A. Stahl, and Wilfred A. van der Donk
海水中のメタンは大気に対して過飽和の状態にあるが、重要な温室効果ガスの一つであるメタンの放出源は謎のままである。海水中の微生物によるメチルホスホン酸の異化が原因として考えられてきたが、メチルホスホネートは自然界で生産されるものではないし、自然界で検出されたこともない。古細菌のNitrosopumilus maritimusはメチルホスホネートの生合成のパスをエンコードし(?)、メチルホスホネートエステルを合成できることが分かった。海の微生物の中では一般的に行われている生合成であるかもしれず、メタン生成の謎を解くカギになるかも?
Technical Comments
Comment on “Intensifying Weathering and Land Use in Iron Age Central Africa”
K. Neumann, M. K. H. Eggert, R. Oslisly, B. Clist, T. Denham, P. de Maret, S. Ozainne, E. Hildebrand, K. Bostoen, U. Salzmann, D. Schwartz, B. Eichhorn, B. Tchiengué, and A. Höhn
Bayon et al. (2012, science)は大西洋で採取された堆積物コアのAl/K比の異常を2.5kaのアフリカにおける人為起源の森林破壊と結びつけたが、森林破壊を証拠づける陸域の記録は得られておらず、気候変動が主要因であると思われる。
Comment on “Intensifying Weathering and Land Use in Iron Age Central Africa”
Jean Maley, Pierre Giresse, Charles Doumenge, and Charly Favier
Bayon et al. (2012, science)は2.5kaのいわゆる’熱帯雨林危機’は気候変動ではなく人為起源の森林破壊だと主張しているが、古生態学者の共通見解では、降水量の季節差が強化したことによる地形と風化速度の変化が主要因であると考えられている。
Response to Comments on “Intensifying Weathering and Land Use in Iron Age Central Africa”
Germain Bayon, Bernard Dennielou, Joël Etoubleau, Emmanuel Ponzevera, Samuel Toucanne, and Sylvain Bermell
Newman et al.は陸域の記録は我々の解釈を支持していないと主張しており、Maley et al.は風化の間接指標に関する疑問点を挙げている。存在する古気候のデータを考慮し、誤解を紐解くと、人類が植生の変化に根本的に寄与していたという結論になる。
地球の「過去」「現在」「未来」の気候変動・環境問題などを書き綴ります。人為的気候変化への適応・緩和が緊急性を帯びている昨今、人間活動の影響がない地質時代の古気候・古海洋研究もまた多くの知見を提供しています。
2012年8月31日金曜日
2012年8月30日木曜日
新着論文(Nature#7413)
Nature
Volume 488 Number 7413 pp557-690 (30 August 2012)
RESEARCH HIGHLIGHTS
Jagged jaws identify mollusc
ギザギザの口がそれが軟体動物だと特定する
Proc. R. Soc. B http://dx.doi. org/10.1098/rspb.2012.1577 (2012)
505Maの口の部分の化石は軟体動物の一部であることが分かった。世界で最も古い証拠らしい。カンブリア大爆発で有名なBritish ColumbiaのBurgess頁岩から得られた化石とのこと。
Rodent that cannot gnaw
齧ることのできないげっ歯類
Biol. Lett. http://dx.doi. org/10.1098/rsbl.2012.0574 (2012)
臼歯がなく、前歯の形が異常なshrew-rat(東南アジアの高地に生息する)は他のげっ歯類とは進化的に異なる位置づけになるらしい。他のげっ歯類は物を齧るために歯を進化させたが、このネズミはミミズなど齧る必要のない餌を選択的に探すのに特化して進化したものと思われる。
SEVEN DAYS
割愛。
NEWS IN FOCUS
Calorie restriction falters in the long run
カロリー制限は長生きを阻害する
Amy Maxmen
霊長類を扱った一連の実験や観察から、カロリー制限は寿命を縮める効果があることが分かった。人間に対しても同じことが言えるかどうかはまだ分からない。遺伝子や健康な食事がどうやら寿命と深く関わっていそう。
Brazil unveils tool to track emissions
ブラジルが排出を追跡するための手段を公表する
Jeff Tollefson
ブラジルにおける熱帯雨林の森林破壊はこの7年間で77%減少したが、一方で衛星観測やモデルのデータからは二酸化炭素の排出量はそれほど大きくは減少していない。その一つの原因は森林に蓄えられた炭素(落ち葉、木、根など)が腐食し大気中に二酸化炭素として排出されるまでの時間的な遅れの存在である。単純に失われた森林量を二酸化炭素に換算すると、2004年には11億トンであった排出量は2011年には2億9800万トンへと「74%減」したことになるが、実際にはこの計算は間違っており、森林破壊量から排出量を計算するのは未だ課題となっている。ブラジルのNational Institute for Space Research (INPE)による最新の推定値では「57%減」と推定されている。また森林破壊はより’密度の濃い’森林へと向かっている。ここで、密度が濃いとは、単位ヘクタールあたりの排出量が多いということを意味する。周期的に伐採される二次林の成長による二酸化炭素吸収の効果は推定値にはほとんど影響しないらしい。もし伐採されることなく成長するなら大きな効果が見込めるという。
Comments
Time to raft up
こぎ上がるとき
気候学者は気候変動に対して強く否定的な人々から学び、伝えたいことを伝えるために協力すべきだ、とChris Rapleyは言う。
Correspondence
Biomass energy holds big promise
バイオマス燃料は成功のカギを握っている
Andrew Lang, Heinz Kopetz & Albert Parker
オーストラリアは再生可能エネルギーに対して積極的であるものの、バイオ燃料については未だコストが高い段階にある。もし既存の海外の技術が取り入れられれば森林維持や廃棄物から出されるバイオマスを利用して1次エネルギーの20%を賄うことができるほどである。’オーストリア’はオーストラリアの国土面積の1%程度しかないが、バイオ燃料を用いた1次エネルギーは全体の30%の再生可能エネルギーのうちの半分程度を占めている。こうした国を見習う必要がある。
Institute to continue climate monitoring
気候のモニタリングを続けるための機関
Olaf Morgenstern, Richard McKenzie & Vanessa Sherlock
ニュージーランドのNational Institute of Water and Atmospheric Research (NIWA)の気候モニタリング体制について。
NEWS & VIEWS
Scorecard for the seas
海の健康診断の結果
Derek P. Tittensor
海洋の健全性を評価する指標の1つでは、世界全体の海に対する採点として100点満点の60点という値が出た。だが、1つの数字で環境状態と海が人間に与える恩恵の両方を包括できるという考え方は、議論を呼ぶかもしれない。
Ancient burial at sea
古代の海への埋没
Heather Stoll
太平洋の深海底への生物源カルサイトの沈殿率は43-33Maの間周期的に変化していたらしい。この期間、地球は温暖化した状態が終わり極に氷床が発達した状態へと寒冷化していった。
Collision course
衝突への道
R. Brent Tully
今から40億年後に、アンドロメダ銀河は天の川銀河と接近遭遇すると予想される。これら2つの銀河は崩壊に向かうダンスを踊り始め、そのさらに20億年後には2つが完全に一体化するだろう。
Antibiotics and adiposity
抗生物質と動物性脂肪
Harry J. Flint
ある種の抗生物質を少量投与されているマウスは体重が増え、脂肪が蓄積する。これは、腸内細菌の一部がほかの細菌よりも抗生物質の投与に耐えて生き残りやすく、消化をエネルギー供給が増える方向にシフトさせるためらしい。
ARTICLES
A Cenozoic record of the equatorial Pacific carbonate compensation depth
Heiko Pälike, Mitchell W. Lyle, Hiroshi Nishi, Isabella Raffi, Andy Ridgwell, Kusali Gamage, Adam Klaus, Gary Acton, Louise Anderson, Jan Backman, Jack Baldauf, Catherine Beltran, Steven M. Bohaty, Paul Bown, William Busch, Jim E. T. Channell, Cecily O. J. Chun, Margaret Delaney, Pawan Dewangan, Tom Dunkley Jones, Kirsty M. Edgar, Helen Evans, Peter Fitch, Gavin L. Foster, Nikolaus Gussone, Hitoshi Hasegawa, Ed C. Hathorne, Hiroki Hayashi, Jens O. Herrle, Ann Holbourn, Steve Hovan, Kiseong Hyeong, Koichi Iijima, Takashi Ito, Shin-ichi Kamikuri, Katsunori Kimoto, Junichiro Kuroda, Lizette Leon-Rodriguez, Alberto Malinverno, Ted C. Moore Jr, Brandon H. Murphy, Daniel P. Murphy, Hideto Nakamura, Kaoru Ogane, Christian Ohneiser, Carl Richter, Rebecca Robinson, Eelco J. Rohling, Oscar Romero, Ken Sawada, Howie Scher, Leah Schneider, Appy Sluijs, Hiroyuki Takata, Jun Tian, Akira Tsujimoto, Bridget S. Wade, Thomas Westerhold, Roy Wilkens, Trevor Williams, Paul A. Wilson, Yuhji Yamamoto, Shinya Yamamoto, Toshitsugu Yamazaki & Richard E. Zeebe
大気中の二酸化炭素濃度は地質学的時間スケールにおいては火山と変質による二酸化炭素放出と風化による除去によってバランスされている。こうした影響は新海底への炭酸塩の保存度(炭酸塩補償深度;CCD)として記録される。赤道太平洋の深度方向に沿って堆積物を採取し、過去5300万年間のCCDの変化を復元したところ、CCDは新生代を通して3.0-3.5kmから現在の4.6kmへと徐々に深まっており、風化が促進してきたという事実とも整合的である。またEoceneの初期〜中期にはCCDが周期的に変動することが確認され、地球システムを用いてメカニズムを明らかにしたところ、「風化」と「有機炭素輸送量」の2つが重要な因子であることが分かった。
An index to assess the health and benefits of the global ocean
Benjamin S. Halpern et al.
海洋は、食料、暮らし、およびレジャーの機会の提供から地球全体の気候の調節まで、人類の幸福を支える重要な役割を果たしている。海洋から広汎な恩恵の享受を維持することをめざして持続可能な管理を行うには、結合された人類–海洋系の健全度を測定および監視するための、包括的で定量的な方法が必要である。我々は、健全な結合された人類–海洋系に関して、多様な10項目の公共的目標からなる指標を作成し、海洋に接するすべての沿岸国に関してこの指標を計算した。世界全体で見ると、この指標の総合スコアは100点中60点(36~86点の範囲)となり、概して先進国のほうが開発途上国よりも高かったが、明らかな例外もあった。スコアが70点を超えた国は5%しかなかったが、50点に満たない国は32%にも上った。この指標は、一般社会の意識向上、資源管理の方針決定、政策の改善、および科学研究の優先順位付けのための強力な手段となる。
LETTERS
Potential methane reservoirs beneath Antarctica
J. L. Wadham, S. Arndt, S. Tulaczyk, M. Stibal, M. Tranter, J. Telling, G. P. Lis, E. Lawson, A. Ridgwell, A. Dubnick, M. J. Sharp, A. M. Anesio & C. E. H. Butler
南極においてはこれまで生命はほとんど存在しないと考えられてきたが、最近ではメタン分解古細菌(methanogenic archaea)が氷の下で有機炭素分解を行っていると考えられているが、これまで評価がされて来なかった。南極氷床の下には21,000PgCもの有機炭素が埋没している。他の氷河における実験によって氷床の下でメタン生成に繋がる有機物分解があることを示し、数値モデルから南極におけるメタンハイドレートの埋没量を推定。西南極氷床の下には300m深に、東南極氷床の下には700m深にメタンハイドレート形成に適した温度・圧力条件が実現していることが分かった。北極周辺の永久凍土に匹敵する埋蔵量かも?南極氷床融解時には温室効果に正のフィードバックをもたらす重要なメタンの放出源となる可能性がある。
Volume 488 Number 7413 pp557-690 (30 August 2012)
RESEARCH HIGHLIGHTS
Jagged jaws identify mollusc
ギザギザの口がそれが軟体動物だと特定する
Proc. R. Soc. B http://dx.doi. org/10.1098/rspb.2012.1577 (2012)
505Maの口の部分の化石は軟体動物の一部であることが分かった。世界で最も古い証拠らしい。カンブリア大爆発で有名なBritish ColumbiaのBurgess頁岩から得られた化石とのこと。
Rodent that cannot gnaw
齧ることのできないげっ歯類
Biol. Lett. http://dx.doi. org/10.1098/rsbl.2012.0574 (2012)
臼歯がなく、前歯の形が異常なshrew-rat(東南アジアの高地に生息する)は他のげっ歯類とは進化的に異なる位置づけになるらしい。他のげっ歯類は物を齧るために歯を進化させたが、このネズミはミミズなど齧る必要のない餌を選択的に探すのに特化して進化したものと思われる。
SEVEN DAYS
割愛。
NEWS IN FOCUS
Calorie restriction falters in the long run
カロリー制限は長生きを阻害する
Amy Maxmen
霊長類を扱った一連の実験や観察から、カロリー制限は寿命を縮める効果があることが分かった。人間に対しても同じことが言えるかどうかはまだ分からない。遺伝子や健康な食事がどうやら寿命と深く関わっていそう。
Brazil unveils tool to track emissions
ブラジルが排出を追跡するための手段を公表する
Jeff Tollefson
ブラジルにおける熱帯雨林の森林破壊はこの7年間で77%減少したが、一方で衛星観測やモデルのデータからは二酸化炭素の排出量はそれほど大きくは減少していない。その一つの原因は森林に蓄えられた炭素(落ち葉、木、根など)が腐食し大気中に二酸化炭素として排出されるまでの時間的な遅れの存在である。単純に失われた森林量を二酸化炭素に換算すると、2004年には11億トンであった排出量は2011年には2億9800万トンへと「74%減」したことになるが、実際にはこの計算は間違っており、森林破壊量から排出量を計算するのは未だ課題となっている。ブラジルのNational Institute for Space Research (INPE)による最新の推定値では「57%減」と推定されている。また森林破壊はより’密度の濃い’森林へと向かっている。ここで、密度が濃いとは、単位ヘクタールあたりの排出量が多いということを意味する。周期的に伐採される二次林の成長による二酸化炭素吸収の効果は推定値にはほとんど影響しないらしい。もし伐採されることなく成長するなら大きな効果が見込めるという。
Comments
Time to raft up
こぎ上がるとき
気候学者は気候変動に対して強く否定的な人々から学び、伝えたいことを伝えるために協力すべきだ、とChris Rapleyは言う。
Correspondence
Biomass energy holds big promise
バイオマス燃料は成功のカギを握っている
Andrew Lang, Heinz Kopetz & Albert Parker
オーストラリアは再生可能エネルギーに対して積極的であるものの、バイオ燃料については未だコストが高い段階にある。もし既存の海外の技術が取り入れられれば森林維持や廃棄物から出されるバイオマスを利用して1次エネルギーの20%を賄うことができるほどである。’オーストリア’はオーストラリアの国土面積の1%程度しかないが、バイオ燃料を用いた1次エネルギーは全体の30%の再生可能エネルギーのうちの半分程度を占めている。こうした国を見習う必要がある。
Institute to continue climate monitoring
気候のモニタリングを続けるための機関
Olaf Morgenstern, Richard McKenzie & Vanessa Sherlock
ニュージーランドのNational Institute of Water and Atmospheric Research (NIWA)の気候モニタリング体制について。
NEWS & VIEWS
Scorecard for the seas
海の健康診断の結果
Derek P. Tittensor
海洋の健全性を評価する指標の1つでは、世界全体の海に対する採点として100点満点の60点という値が出た。だが、1つの数字で環境状態と海が人間に与える恩恵の両方を包括できるという考え方は、議論を呼ぶかもしれない。
Ancient burial at sea
古代の海への埋没
Heather Stoll
太平洋の深海底への生物源カルサイトの沈殿率は43-33Maの間周期的に変化していたらしい。この期間、地球は温暖化した状態が終わり極に氷床が発達した状態へと寒冷化していった。
Collision course
衝突への道
R. Brent Tully
今から40億年後に、アンドロメダ銀河は天の川銀河と接近遭遇すると予想される。これら2つの銀河は崩壊に向かうダンスを踊り始め、そのさらに20億年後には2つが完全に一体化するだろう。
Antibiotics and adiposity
抗生物質と動物性脂肪
Harry J. Flint
ある種の抗生物質を少量投与されているマウスは体重が増え、脂肪が蓄積する。これは、腸内細菌の一部がほかの細菌よりも抗生物質の投与に耐えて生き残りやすく、消化をエネルギー供給が増える方向にシフトさせるためらしい。
ARTICLES
A Cenozoic record of the equatorial Pacific carbonate compensation depth
Heiko Pälike, Mitchell W. Lyle, Hiroshi Nishi, Isabella Raffi, Andy Ridgwell, Kusali Gamage, Adam Klaus, Gary Acton, Louise Anderson, Jan Backman, Jack Baldauf, Catherine Beltran, Steven M. Bohaty, Paul Bown, William Busch, Jim E. T. Channell, Cecily O. J. Chun, Margaret Delaney, Pawan Dewangan, Tom Dunkley Jones, Kirsty M. Edgar, Helen Evans, Peter Fitch, Gavin L. Foster, Nikolaus Gussone, Hitoshi Hasegawa, Ed C. Hathorne, Hiroki Hayashi, Jens O. Herrle, Ann Holbourn, Steve Hovan, Kiseong Hyeong, Koichi Iijima, Takashi Ito, Shin-ichi Kamikuri, Katsunori Kimoto, Junichiro Kuroda, Lizette Leon-Rodriguez, Alberto Malinverno, Ted C. Moore Jr, Brandon H. Murphy, Daniel P. Murphy, Hideto Nakamura, Kaoru Ogane, Christian Ohneiser, Carl Richter, Rebecca Robinson, Eelco J. Rohling, Oscar Romero, Ken Sawada, Howie Scher, Leah Schneider, Appy Sluijs, Hiroyuki Takata, Jun Tian, Akira Tsujimoto, Bridget S. Wade, Thomas Westerhold, Roy Wilkens, Trevor Williams, Paul A. Wilson, Yuhji Yamamoto, Shinya Yamamoto, Toshitsugu Yamazaki & Richard E. Zeebe
大気中の二酸化炭素濃度は地質学的時間スケールにおいては火山と変質による二酸化炭素放出と風化による除去によってバランスされている。こうした影響は新海底への炭酸塩の保存度(炭酸塩補償深度;CCD)として記録される。赤道太平洋の深度方向に沿って堆積物を採取し、過去5300万年間のCCDの変化を復元したところ、CCDは新生代を通して3.0-3.5kmから現在の4.6kmへと徐々に深まっており、風化が促進してきたという事実とも整合的である。またEoceneの初期〜中期にはCCDが周期的に変動することが確認され、地球システムを用いてメカニズムを明らかにしたところ、「風化」と「有機炭素輸送量」の2つが重要な因子であることが分かった。
An index to assess the health and benefits of the global ocean
Benjamin S. Halpern et al.
海洋は、食料、暮らし、およびレジャーの機会の提供から地球全体の気候の調節まで、人類の幸福を支える重要な役割を果たしている。海洋から広汎な恩恵の享受を維持することをめざして持続可能な管理を行うには、結合された人類–海洋系の健全度を測定および監視するための、包括的で定量的な方法が必要である。我々は、健全な結合された人類–海洋系に関して、多様な10項目の公共的目標からなる指標を作成し、海洋に接するすべての沿岸国に関してこの指標を計算した。世界全体で見ると、この指標の総合スコアは100点中60点(36~86点の範囲)となり、概して先進国のほうが開発途上国よりも高かったが、明らかな例外もあった。スコアが70点を超えた国は5%しかなかったが、50点に満たない国は32%にも上った。この指標は、一般社会の意識向上、資源管理の方針決定、政策の改善、および科学研究の優先順位付けのための強力な手段となる。
LETTERS
Potential methane reservoirs beneath Antarctica
J. L. Wadham, S. Arndt, S. Tulaczyk, M. Stibal, M. Tranter, J. Telling, G. P. Lis, E. Lawson, A. Ridgwell, A. Dubnick, M. J. Sharp, A. M. Anesio & C. E. H. Butler
南極においてはこれまで生命はほとんど存在しないと考えられてきたが、最近ではメタン分解古細菌(methanogenic archaea)が氷の下で有機炭素分解を行っていると考えられているが、これまで評価がされて来なかった。南極氷床の下には21,000PgCもの有機炭素が埋没している。他の氷河における実験によって氷床の下でメタン生成に繋がる有機物分解があることを示し、数値モデルから南極におけるメタンハイドレートの埋没量を推定。西南極氷床の下には300m深に、東南極氷床の下には700m深にメタンハイドレート形成に適した温度・圧力条件が実現していることが分かった。北極周辺の永久凍土に匹敵する埋蔵量かも?南極氷床融解時には温室効果に正のフィードバックをもたらす重要なメタンの放出源となる可能性がある。
2012年8月29日水曜日
新着論文(Coral Reefs)
Coral Reefs
2012 1 May 2012- 21 August 2012
Salinity thresholds of Acropora spp. on the Great Barrier Reef
R. Berkelmans, A. M. Jones and B. Schaffelke
2010-2011年にかけて起きた大洪水によるサンゴ礁への淡水流入を利用して、グレートバリアリーフのKeppel Islandsに生息するミドリイシの塩分耐性を調査。塩分22で3日間、塩分28で16日間は耐えることができるらしい。
Pole-ward range expansion of Acropora spp. along the east coast of Australia
A. H. Baird, B. Sommer and J. S. Madin
ここ50年間で全球の海水温は約0.35℃上昇し、サンゴ礁の生物もより極側(熱帯→温帯)に移動しつつある。例えばオーストラリア東岸では冬の最低水温が上昇した結果、これまで熱帯にしか生息できなかった熱帯魚が温帯でも生息できるようになっている(Figueria and Booth 2010)。また日本でも熱帯性ミドリイシの一種が1930年代以降より北上しつつある(Yamano et al. 2011)。2011年12月に、これまでオーストラリアのSolitary Islandsで確認されていなかったサンゴの種が初めて確認された。同地では冬の平均水温は1975年以来0.5℃上昇している(Figueria and Booth 2010)。オーストラリア東岸全体でこうしたサンゴの生息域の北上が温暖化によって起きている可能性がある。
Potassium and other minor elements in Porites corals: implications for skeletal geochemistry and paleoenvironmental reconstruction
T. Mitsuguchi and T. Kawakami
ハマサンゴ骨格から得た粉中のK/Ca, Na/Ca, Mg/Ca, Sr/Caが化学処理によってどう変化するかを調査。処理の順番としては(1)脱イオン水、(2)過酸化水素水(H2O2)、(3)0.004 mol/L硝酸。K/Ca, Na/Ca, Mg/Caは(1)と(2)の処理で減少し、(3)後は増加。一方Sr/Caは(1)(2)(3)を通して減少した。つまりK, Na, Mgは骨格の表面や石灰化中心(COC)に濃集しており、一方でSrは骨格中に均質に存在していると考えられる。続いて成長線に沿って2mmごとに削って粉を採取し、種々の濃度比を測定したところ、支配要因は特定できないものの、K/CaとNa/Caにも季節変動が見られ、また最低値を示す部分は密度バンドが濃い部分に相当していることが分かった。もしかすると骨格中の不均質性を拾っている??プロキシの解釈に必要な知見。
Pulsed 86Sr-labeling and NanoSIMS imaging to study coral biomineralization at ultra-structural length scales
C. Brahmi, I. Domart-Coulon, L. Rougée, D. G. Pyle, J. Stolarski, J. J. Mahoney, R. H. Richmond, G. K. Ostrander and A. Meibom
海水中の元素の同位体比を変化させることで、サンゴ骨格に同位体のラベリングを行う技術が進展してきた。86Srでラベリングされた骨格をNanoSIMSを使って詳細に(数μmスケール)分析し、ハナヤイシサンゴ(Pocillopora damicornis)の骨格成長速度を推定。Rapid Accretion DepositsとThickening Depositsという2つの重要な構成成分に分けることができ、前者は後者の4.5倍の成長速度であることが分かった。86Srのラベリングは生理学プロセスにも影響しないことが分かったため、広く炭酸塩を形成する生物の石灰化を調べるのに有効。
Large-scale stress factors affecting coral reefs: open ocean sea surface temperature and surface seawater aragonite saturation over the next 400 years
K. J. Meissner, T. Lippmann and A. Sen Gupta
世界のサンゴ礁の3分の1が既に消滅し、残りの3分のⅠが危機に瀕している。脅威の原因としては表層水温(SST)と炭酸塩の不飽和度(Ωarag)の変化が主要因とされている。3つの二酸化炭素排出シナリオ(RCP 3PD/4.5/8.5)に基づいて、EMICs(UVic Earth System Climate Model)を用いて将来400年間のSSTやΩaragの変化をシミュレーション。RCP 4.5と8.5というシナリオではΩaragが3.3(※サンゴの石灰化に対する閾値と考えられている)を下回るのは今世紀の中頃と推定される。2030年までには66-85%のサンゴ礁で10年に1回の頻度で白化現象が起きる可能性がある。また2050年までにはすべてのシナリオにおいてSSTに対する閾値を超えると考えられ、Ωaragの低下がSSTの上昇よりも先に訪れると予測される。
Detecting coral bleaching using high-resolution satellite data analysis and 2-dimensional thermal model simulation in the Ishigaki fringing reef, Japan
A. P. Dadhich, K. Nadaoka, T. Yamamoto and H. Kayanne
2007年には温度上昇が原因の大規模なサンゴの白化現象が石垣島で確認された。白化現象の前後で撮影されたQuickbirdの衛星画像データを用いて2次元的な範囲を調査。0.6mという空間解像度を有する。観測水温を詳細に分析したところ、「積算された1日ごとの水温(daily accumulated temperature)」は白化現象を予測する上で重要な指標となることが分かった。
2012 1 May 2012- 21 August 2012
Salinity thresholds of Acropora spp. on the Great Barrier Reef
R. Berkelmans, A. M. Jones and B. Schaffelke
2010-2011年にかけて起きた大洪水によるサンゴ礁への淡水流入を利用して、グレートバリアリーフのKeppel Islandsに生息するミドリイシの塩分耐性を調査。塩分22で3日間、塩分28で16日間は耐えることができるらしい。
Pole-ward range expansion of Acropora spp. along the east coast of Australia
A. H. Baird, B. Sommer and J. S. Madin
ここ50年間で全球の海水温は約0.35℃上昇し、サンゴ礁の生物もより極側(熱帯→温帯)に移動しつつある。例えばオーストラリア東岸では冬の最低水温が上昇した結果、これまで熱帯にしか生息できなかった熱帯魚が温帯でも生息できるようになっている(Figueria and Booth 2010)。また日本でも熱帯性ミドリイシの一種が1930年代以降より北上しつつある(Yamano et al. 2011)。2011年12月に、これまでオーストラリアのSolitary Islandsで確認されていなかったサンゴの種が初めて確認された。同地では冬の平均水温は1975年以来0.5℃上昇している(Figueria and Booth 2010)。オーストラリア東岸全体でこうしたサンゴの生息域の北上が温暖化によって起きている可能性がある。
Potassium and other minor elements in Porites corals: implications for skeletal geochemistry and paleoenvironmental reconstruction
T. Mitsuguchi and T. Kawakami
ハマサンゴ骨格から得た粉中のK/Ca, Na/Ca, Mg/Ca, Sr/Caが化学処理によってどう変化するかを調査。処理の順番としては(1)脱イオン水、(2)過酸化水素水(H2O2)、(3)0.004 mol/L硝酸。K/Ca, Na/Ca, Mg/Caは(1)と(2)の処理で減少し、(3)後は増加。一方Sr/Caは(1)(2)(3)を通して減少した。つまりK, Na, Mgは骨格の表面や石灰化中心(COC)に濃集しており、一方でSrは骨格中に均質に存在していると考えられる。続いて成長線に沿って2mmごとに削って粉を採取し、種々の濃度比を測定したところ、支配要因は特定できないものの、K/CaとNa/Caにも季節変動が見られ、また最低値を示す部分は密度バンドが濃い部分に相当していることが分かった。もしかすると骨格中の不均質性を拾っている??プロキシの解釈に必要な知見。
Pulsed 86Sr-labeling and NanoSIMS imaging to study coral biomineralization at ultra-structural length scales
C. Brahmi, I. Domart-Coulon, L. Rougée, D. G. Pyle, J. Stolarski, J. J. Mahoney, R. H. Richmond, G. K. Ostrander and A. Meibom
海水中の元素の同位体比を変化させることで、サンゴ骨格に同位体のラベリングを行う技術が進展してきた。86Srでラベリングされた骨格をNanoSIMSを使って詳細に(数μmスケール)分析し、ハナヤイシサンゴ(Pocillopora damicornis)の骨格成長速度を推定。Rapid Accretion DepositsとThickening Depositsという2つの重要な構成成分に分けることができ、前者は後者の4.5倍の成長速度であることが分かった。86Srのラベリングは生理学プロセスにも影響しないことが分かったため、広く炭酸塩を形成する生物の石灰化を調べるのに有効。
Large-scale stress factors affecting coral reefs: open ocean sea surface temperature and surface seawater aragonite saturation over the next 400 years
K. J. Meissner, T. Lippmann and A. Sen Gupta
世界のサンゴ礁の3分の1が既に消滅し、残りの3分のⅠが危機に瀕している。脅威の原因としては表層水温(SST)と炭酸塩の不飽和度(Ωarag)の変化が主要因とされている。3つの二酸化炭素排出シナリオ(RCP 3PD/4.5/8.5)に基づいて、EMICs(UVic Earth System Climate Model)を用いて将来400年間のSSTやΩaragの変化をシミュレーション。RCP 4.5と8.5というシナリオではΩaragが3.3(※サンゴの石灰化に対する閾値と考えられている)を下回るのは今世紀の中頃と推定される。2030年までには66-85%のサンゴ礁で10年に1回の頻度で白化現象が起きる可能性がある。また2050年までにはすべてのシナリオにおいてSSTに対する閾値を超えると考えられ、Ωaragの低下がSSTの上昇よりも先に訪れると予測される。
Meissner et al. (2012)を改変。 モデルシミュレーションに用いられた将来の二酸化炭素排出シナリオ。 |
Detecting coral bleaching using high-resolution satellite data analysis and 2-dimensional thermal model simulation in the Ishigaki fringing reef, Japan
A. P. Dadhich, K. Nadaoka, T. Yamamoto and H. Kayanne
2007年には温度上昇が原因の大規模なサンゴの白化現象が石垣島で確認された。白化現象の前後で撮影されたQuickbirdの衛星画像データを用いて2次元的な範囲を調査。0.6mという空間解像度を有する。観測水温を詳細に分析したところ、「積算された1日ごとの水温(daily accumulated temperature)」は白化現象を予測する上で重要な指標となることが分かった。
2012年8月28日火曜日
新着論文(PNAS)
PNAS
☆14 August 2012; Vol. 109, No. 33
LETTERS (Online Only)
Hurricane wind fields needed to assess risk to offshore wind farms
Mark D. Powell and Steven Cocke
Reply to Powell and Cocke: On the probability of catastrophic damage to offshore wind farms from hurricanes in the US Gulf Coast
Stephen Rose, Paulina Jaramillo, Mitchell J. Small, Iris Grossmann, and Jay Apt
アメリカ東岸におけるハリケーンによる突風が洋上風力発電のタービンを損傷する確率についてのモデルシミュレーションの予測結果に対する間違いの指摘とその返答。
PNAS Plus (Author Summaries and Research Articles)
The urgency of the development of CO2 capture from ambient air
Klaus S. Lackner, Sarah Brennan, Jürg M. Matter, A.-H. Alissa Park, Allen Wright, and Bob van der Zwaan
二酸化炭素の捕獲・貯留技術(CO2 capture and storage; CCS)は気候変動問題に取り組む上で重要なツールの一つである。現在の人類の化石燃料への依存性を考えると、厳しいCO2削減目標を達成するにはもはやCCSは必要不可欠にも思われる。従来のCCSが成功するためには「大気中のCO2を直接捕獲し、隔離する技術」が同時に行われる必要があることを主張する。CO2の大気捕獲はCCSによるCO2のリーク(漏れ出し)に対する保険として、さらには自動車や航空機による排出に対処する上でのオプションとして寄与すると考えられる。
☆21 August 2012; Vol. 109, No. 34
LETTERS (Online Only)
Age models and the Younger Dryas Impact Hypothesis
Maarten Blaauw, Vance T. Holliday, Jacquelyn L. Gill, and Kathleen Nicoll
Inconsistent impact hypotheses for the Younger Dryas
Mark Boslough
Suspect cubic diamond "impact" proxy and a suspect lonsdaleite identification
Tyrone L. Daulton
Paleoecological changes at Lake Cuitzeo were not consistent with an extraterrestrial impact
Jacquelyn L. Gill, Jessica L. Blois, Simon Goring, Jennifer R. Marlon, Patrick J. Bartlein, Kathleen Nicoll, Andrew C. Scott, and Cathy Whitlock
Inconsistent redefining of the carbon spherule "impact" proxy
Mark Hardiman, Andrew C. Scott, Margaret E. Collinson, and R. Scott Anderson
Reply to Blaauw et al., Boslough, Daulton, Gill et al., and Hardiman et al.: Younger Dryas impact proxies in Lake Cuitzeo, Mexico
Isabel Israde-Alcántara, James L. Bischoff, Paul S. DeCarli, Gabriela Domínguez-Vázquez, Ted E. Bunch, Richard B. Firestone, James P. Kennett, and Allen West
すべてヤンガードリアス期の原因が「隕石衝突」とする仮説を巡る議論。タイトルだけで判断するに’批判側’の論文が主でしょうね。今回は割愛。。
☆14 August 2012; Vol. 109, No. 33
LETTERS (Online Only)
Hurricane wind fields needed to assess risk to offshore wind farms
Mark D. Powell and Steven Cocke
Reply to Powell and Cocke: On the probability of catastrophic damage to offshore wind farms from hurricanes in the US Gulf Coast
Stephen Rose, Paulina Jaramillo, Mitchell J. Small, Iris Grossmann, and Jay Apt
アメリカ東岸におけるハリケーンによる突風が洋上風力発電のタービンを損傷する確率についてのモデルシミュレーションの予測結果に対する間違いの指摘とその返答。
PNAS Plus (Author Summaries and Research Articles)
The urgency of the development of CO2 capture from ambient air
Klaus S. Lackner, Sarah Brennan, Jürg M. Matter, A.-H. Alissa Park, Allen Wright, and Bob van der Zwaan
二酸化炭素の捕獲・貯留技術(CO2 capture and storage; CCS)は気候変動問題に取り組む上で重要なツールの一つである。現在の人類の化石燃料への依存性を考えると、厳しいCO2削減目標を達成するにはもはやCCSは必要不可欠にも思われる。従来のCCSが成功するためには「大気中のCO2を直接捕獲し、隔離する技術」が同時に行われる必要があることを主張する。CO2の大気捕獲はCCSによるCO2のリーク(漏れ出し)に対する保険として、さらには自動車や航空機による排出に対処する上でのオプションとして寄与すると考えられる。
☆21 August 2012; Vol. 109, No. 34
LETTERS (Online Only)
Age models and the Younger Dryas Impact Hypothesis
Maarten Blaauw, Vance T. Holliday, Jacquelyn L. Gill, and Kathleen Nicoll
Inconsistent impact hypotheses for the Younger Dryas
Mark Boslough
Suspect cubic diamond "impact" proxy and a suspect lonsdaleite identification
Tyrone L. Daulton
Paleoecological changes at Lake Cuitzeo were not consistent with an extraterrestrial impact
Jacquelyn L. Gill, Jessica L. Blois, Simon Goring, Jennifer R. Marlon, Patrick J. Bartlein, Kathleen Nicoll, Andrew C. Scott, and Cathy Whitlock
Inconsistent redefining of the carbon spherule "impact" proxy
Mark Hardiman, Andrew C. Scott, Margaret E. Collinson, and R. Scott Anderson
Reply to Blaauw et al., Boslough, Daulton, Gill et al., and Hardiman et al.: Younger Dryas impact proxies in Lake Cuitzeo, Mexico
Isabel Israde-Alcántara, James L. Bischoff, Paul S. DeCarli, Gabriela Domínguez-Vázquez, Ted E. Bunch, Richard B. Firestone, James P. Kennett, and Allen West
すべてヤンガードリアス期の原因が「隕石衝突」とする仮説を巡る議論。タイトルだけで判断するに’批判側’の論文が主でしょうね。今回は割愛。。
2012年8月25日土曜日
新着論文(Science#6097)
Science
VOL 337, ISSUE 6097, PAGES 877-1008 (24 August 2012)
Editors' Choice
Allergenic Terpenoids
アレルギー性のテルペノイド
北アメリカの固有種であるブタクサが世界中の温帯域へと拡大している。この植物は強いアレルギー性があり、花粉症やひどい気管支炎を招く可能性がある。ヨーロッパにおけるブタクサのアレルギー物質の調査から、アレルゲンの候補となる化学物質が特定された。花粉などにも含まれるテルペノイドが主な原因物質と考えられる。
News of the Week
InSight to Probe Martian Innards
火星内部を調べるためのInSight
2016年にNASAは火星の地殻・マントル・コアを調査し、火星がいかにしてマグマ玉から進化したのかを調べるミッション(InSight)を実行する。地上探査機はPhoenix着陸船を用いて火星へと輸送される。努力を最低限に抑えるため、小規模の地震や隕石衝突によって起きる振動を探知し、火星内部を探る計画。温度計は数m掘削して地下に据えられ、火星の熱史を明らかにする。
BRCA Genes Ruled Patentable
BRCA遺伝子は特許可能だと決定された
乳がん・卵巣がんに関するBRCA遺伝子の特許がアメリカの最高裁判所において認可された。アメリカでは2度目の遺伝子工学における特許認可となる。
Court Halts Construction Of Amazonian Dam
裁判所はアマゾンのダムの建設を中断させた
Xingu川流域の土着の先住民との協議が適切になされていないとして、Belo Monteダムの建設の中止をブラジルの連邦裁判所が決定した。このダム建設によって数万人の先住民が居住地を追われ、数百km2の熱帯雨林が水没する。ブラジル国会がダム建設を認めたのは2005年で、2011年から建設が始まっていた。建設を請け負っているNorte Energia S.A.は多くの労働者が職を失い、地方政府は2,200万ドルもの税を我慢することになり、地方の開発もなくなるだろう、という声明を出している。
Zoos Help Germs Jump Species Barrier
動物園が病原菌が種の壁を越えたことを助けた
国際研究チームは2010年6月にドイツの動物園で死亡した20歳のシロクマの死因に対して「シマウマのウイルス」が原因とする驚くべき結論を出した。シロクマの脳の解剖から、EHV1とEHV2という2つの死因の候補となる病原菌(シマウマに特有のヘルペスウイルス)が見つかった。シロクマとシマウマの檻は隔離されていたため、げっ歯類が菌を運んだ可能性が考えられている。動物園における動物の死はその後深く調査されることは少ないため、こうした感染は過小評価されている可能性があるとAlex Greenwoodは指摘する。“This case illustrates that when you are bringing animals from different continents together in a zoo, you are also giving pathogens the opportunity to recombine and jump to another host(この事案は動物を違う大陸から運んできて同じ動物園で一緒に飼育すると、病原菌に対して遺伝子変異の機会とホスト間を移り変わる機会とを与えることになることを明瞭に示している。)”
No Star Left Behind
後に残される星はない
AD1006年に観察されたオオカミ座の超新星爆発は有史以来最大のものであったが、爆発後には期待に反して星は残らなかった可能性がある。この超新星爆発はタイプ1aという最も明るい爆発に属し、小型で高密度の白色矮星の爆発であった。こうした種類の超新星爆発は隣接する星の物質が白色矮星へと降着し、その結果暴走核反応が起き、小型の星を吹き飛ばすというメカニズムで考えられていたが、爆発を生き抜いたと考えられるもう一方の星は見つからないという研究結果が報告された。
Rare Bird Learns to Fly Away Home
珍しい鳥は故郷に飛んで帰ることができる
数世紀前に野生では絶滅し、人間の手で保護されているホオアカトキ(northern bald ibisl; Geronticus eremita)は人間の手を借りずに、本来の故郷へと渡ることができることが分かった。超小型の装置を用いて追跡していたところ分かったらしい。
News & Analysis
Panel Says NSF Should Shutter Six U.S. Instruments
パネルはNSFはアメリカ国内の6つの機関を閉鎖すべきだと言っている
Yudhijit Bhattacharjee
NSFのお粗末な予算の見通しを受けて、科学者のパネルは天体望遠鏡の閉鎖の可能性に備えるよう、科学者達に推奨している。
Dinosaur Kingpin Opens Fossil Bonanza to Science
恐竜のボスが化石の王国を科学へと開く
Richard Stone
中国人のZheng Xiaotingは世界で最も重要な化石コレクションを自らの手で作り出した人物である。中国の田舎のこれらの宝物が、古生物学者を至る所に惹き付け始めている。
News Focus
The Great Guppy Experiment
偉大なグッピーの実験
Elizabeth Pennisi
小さな魚が生態系と進化の力がどのように我々の住む世界を形作っているかを見せている。
Eco-Evo Effects Up and Down the Food Chain
生態系-進化が食物連鎖の上流・下流に影響する
Elizabeth Pennisi
北米東部の湖に住む魚(alewife)がどのように淡水の生態系を形作り、また形作られているのかを研究者が調査している。
Policy Forum
Water Security: Research Challenges and Opportunities
水の安全:研究目標と機会
Karen Bakker
水の安全性を分析する新たな戦略が、研究者-政策決定者-医者の協調を改善し、新しいシナジーを生み出す可能性を秘めている。
Perspectives
Probing Black Hole Gravity
ブラックホールの重力を証明する
Jonathan C. McKinney
集積しつつあるブラックホールから放出されるX線の振動は、我々の宇宙を超えてアインシュタインの一般相対性理論を証明するヒントを与えてくれるかもしれない。
A Long View on Climate Sensitivity
気候感度に対する長期的な視点
Luke Skinner
古気候記録は気候変動のある側面は気候感度という一つの値だけでは解決することが難しいことを示唆している。
Reviews
Luminous Supernovae
Avishay Gal-Yam
超新星爆発は古代から観察され続けてきたが、非常に明るい超新星爆発は最近になってから発見された。証拠の集積から、こうした明るい超新星爆発は「放射性物質によって駆動されるSLSN-R」「水素に富んだSLSN-II」「水素に欠乏したSLSN-I」という分類に分けられることが分かってきた。SLSN-ⅠとSLSN-IIはより一般的だが、SLSN-Rのほうがより理解されている。現在の研究では極端な明るさの物理的な起源が焦点となっている。
Gamma-Ray Bursts
Neil Gehrels and Péter Mészáros
ガンマ線バーストとは宇宙からやってくる明るいガンマ線の閃光である。およそ1日ごとに起き、10秒程度持続する。発見から30年あまりが経過しており、宇宙空間と地上からの観測がなされ革新的な進展があるものの、謎に満ちたままである。2004年のSwift、2008年のFermi人工衛星の打ち上げは新しいデータを数多くもたらした。このレビュー論文では、こうした近年の観測結果と数値モデルとの相互作用を調査する(一瞬の煌めきとその後の余熱)。
VOL 337, ISSUE 6097, PAGES 877-1008 (24 August 2012)
Editors' Choice
Allergenic Terpenoids
アレルギー性のテルペノイド
北アメリカの固有種であるブタクサが世界中の温帯域へと拡大している。この植物は強いアレルギー性があり、花粉症やひどい気管支炎を招く可能性がある。ヨーロッパにおけるブタクサのアレルギー物質の調査から、アレルゲンの候補となる化学物質が特定された。花粉などにも含まれるテルペノイドが主な原因物質と考えられる。
News of the Week
InSight to Probe Martian Innards
火星内部を調べるためのInSight
2016年にNASAは火星の地殻・マントル・コアを調査し、火星がいかにしてマグマ玉から進化したのかを調べるミッション(InSight)を実行する。地上探査機はPhoenix着陸船を用いて火星へと輸送される。努力を最低限に抑えるため、小規模の地震や隕石衝突によって起きる振動を探知し、火星内部を探る計画。温度計は数m掘削して地下に据えられ、火星の熱史を明らかにする。
BRCA Genes Ruled Patentable
BRCA遺伝子は特許可能だと決定された
乳がん・卵巣がんに関するBRCA遺伝子の特許がアメリカの最高裁判所において認可された。アメリカでは2度目の遺伝子工学における特許認可となる。
Court Halts Construction Of Amazonian Dam
裁判所はアマゾンのダムの建設を中断させた
Xingu川流域の土着の先住民との協議が適切になされていないとして、Belo Monteダムの建設の中止をブラジルの連邦裁判所が決定した。このダム建設によって数万人の先住民が居住地を追われ、数百km2の熱帯雨林が水没する。ブラジル国会がダム建設を認めたのは2005年で、2011年から建設が始まっていた。建設を請け負っているNorte Energia S.A.は多くの労働者が職を失い、地方政府は2,200万ドルもの税を我慢することになり、地方の開発もなくなるだろう、という声明を出している。
Zoos Help Germs Jump Species Barrier
動物園が病原菌が種の壁を越えたことを助けた
国際研究チームは2010年6月にドイツの動物園で死亡した20歳のシロクマの死因に対して「シマウマのウイルス」が原因とする驚くべき結論を出した。シロクマの脳の解剖から、EHV1とEHV2という2つの死因の候補となる病原菌(シマウマに特有のヘルペスウイルス)が見つかった。シロクマとシマウマの檻は隔離されていたため、げっ歯類が菌を運んだ可能性が考えられている。動物園における動物の死はその後深く調査されることは少ないため、こうした感染は過小評価されている可能性があるとAlex Greenwoodは指摘する。“This case illustrates that when you are bringing animals from different continents together in a zoo, you are also giving pathogens the opportunity to recombine and jump to another host(この事案は動物を違う大陸から運んできて同じ動物園で一緒に飼育すると、病原菌に対して遺伝子変異の機会とホスト間を移り変わる機会とを与えることになることを明瞭に示している。)”
No Star Left Behind
後に残される星はない
AD1006年に観察されたオオカミ座の超新星爆発は有史以来最大のものであったが、爆発後には期待に反して星は残らなかった可能性がある。この超新星爆発はタイプ1aという最も明るい爆発に属し、小型で高密度の白色矮星の爆発であった。こうした種類の超新星爆発は隣接する星の物質が白色矮星へと降着し、その結果暴走核反応が起き、小型の星を吹き飛ばすというメカニズムで考えられていたが、爆発を生き抜いたと考えられるもう一方の星は見つからないという研究結果が報告された。
Rare Bird Learns to Fly Away Home
珍しい鳥は故郷に飛んで帰ることができる
数世紀前に野生では絶滅し、人間の手で保護されているホオアカトキ(northern bald ibisl; Geronticus eremita)は人間の手を借りずに、本来の故郷へと渡ることができることが分かった。超小型の装置を用いて追跡していたところ分かったらしい。
News & Analysis
Panel Says NSF Should Shutter Six U.S. Instruments
パネルはNSFはアメリカ国内の6つの機関を閉鎖すべきだと言っている
Yudhijit Bhattacharjee
NSFのお粗末な予算の見通しを受けて、科学者のパネルは天体望遠鏡の閉鎖の可能性に備えるよう、科学者達に推奨している。
Dinosaur Kingpin Opens Fossil Bonanza to Science
恐竜のボスが化石の王国を科学へと開く
Richard Stone
中国人のZheng Xiaotingは世界で最も重要な化石コレクションを自らの手で作り出した人物である。中国の田舎のこれらの宝物が、古生物学者を至る所に惹き付け始めている。
News Focus
The Great Guppy Experiment
偉大なグッピーの実験
Elizabeth Pennisi
小さな魚が生態系と進化の力がどのように我々の住む世界を形作っているかを見せている。
Eco-Evo Effects Up and Down the Food Chain
生態系-進化が食物連鎖の上流・下流に影響する
Elizabeth Pennisi
北米東部の湖に住む魚(alewife)がどのように淡水の生態系を形作り、また形作られているのかを研究者が調査している。
Policy Forum
Water Security: Research Challenges and Opportunities
水の安全:研究目標と機会
Karen Bakker
水の安全性を分析する新たな戦略が、研究者-政策決定者-医者の協調を改善し、新しいシナジーを生み出す可能性を秘めている。
Perspectives
Probing Black Hole Gravity
ブラックホールの重力を証明する
Jonathan C. McKinney
集積しつつあるブラックホールから放出されるX線の振動は、我々の宇宙を超えてアインシュタインの一般相対性理論を証明するヒントを与えてくれるかもしれない。
A Long View on Climate Sensitivity
気候感度に対する長期的な視点
Luke Skinner
古気候記録は気候変動のある側面は気候感度という一つの値だけでは解決することが難しいことを示唆している。
Reviews
Luminous Supernovae
Avishay Gal-Yam
超新星爆発は古代から観察され続けてきたが、非常に明るい超新星爆発は最近になってから発見された。証拠の集積から、こうした明るい超新星爆発は「放射性物質によって駆動されるSLSN-R」「水素に富んだSLSN-II」「水素に欠乏したSLSN-I」という分類に分けられることが分かってきた。SLSN-ⅠとSLSN-IIはより一般的だが、SLSN-Rのほうがより理解されている。現在の研究では極端な明るさの物理的な起源が焦点となっている。
Gamma-Ray Bursts
Neil Gehrels and Péter Mészáros
ガンマ線バーストとは宇宙からやってくる明るいガンマ線の閃光である。およそ1日ごとに起き、10秒程度持続する。発見から30年あまりが経過しており、宇宙空間と地上からの観測がなされ革新的な進展があるものの、謎に満ちたままである。2004年のSwift、2008年のFermi人工衛星の打ち上げは新しいデータを数多くもたらした。このレビュー論文では、こうした近年の観測結果と数値モデルとの相互作用を調査する(一瞬の煌めきとその後の余熱)。
新着論文(Nature#7412)
Nature
Volume 488 Number 7412 pp429-550 (23 August 2012)
Editorials
Social dimensions to biodiversity
生物多様性に対する社会の側面
生物多様性が失われることを評価するために設立された国際管理機関は科学以上のものを考慮しなければならない。
'The desire of the IPCC to produce standardized assessments (it is now working on its fifth) has limited its success, the authors argue, because it has “overshadowed arguably more important tasks: synthesizing wider perspectives about changing climates and spurring action by multiple policy actors”.'
標準化された評価を設けるというIPCC(現在第5次報告書が作成されている)の目標そのものが成功を束縛したと、作者らは主張する。何故ならばIPCCはほぼ間違いなく、“より重要な課題の重要性を薄めたからである:その課題とは、変わりゆく気候に関する幅広い観点を総合的に扱い、様々な政策者による行動を促すことである。”
'Yet critics of the IPCC too often overlook its heterogeneous nature: goals and practices vary across the three separate working groups, so much so that some have argued convincingly that the IPCC should release not a combined report but three distinct ones.'
しかしIPCCに対する批判はあまりに頻繁にその不均質な性質を見落としている。中には「IPCCは結合された報告書ではなく、3つ別々の報告書を公表すべきだ」と確信を持って主張する人もいるほど、3つの異なる作業部会における目標と方法は異なるのである。
Research Highlights
Cigarette smoke boosts biofilms
タバコの煙が菌膜を増大させる
Infect. Immun. http://dx.doi. org/10.1128/IAI.00689-12 (2012)
タバコの煙に含まれる物質が鼻の粘膜中のバクテリアによる菌膜(バイオフィルム)の形成を促進し、感染症のリスクを高めるらしい。タバコの煙は免疫を弱め、肺の内側に炎症を起こさせることが知られているが、肺の細胞に対するバクテリアの粘着性も増す。この知見は、何故喫煙者や受動喫煙者が呼吸器系の感染症を起こしやすいのかという疑問に答えてくれるかもしれない。
Dark matter hugs the Sun
ダークマターが太陽を抱く
Mon. Not. R. Astron. Soc. http:// dx.doi.org/10.1111/j.1365-2966.2012.21608.x (2012)
宇宙における質量の85%はダークマターが占めているが、従来考えられていたよりも、ダークマターは太陽の近傍にあるかもしれない。ダークマターの球場の光輪が銀河を取り巻いているという従来の考えに食い違う観点が得られた。
Molecule blocks sperm production
分子が精子の生産を妨げる
Cell 150, 673–684 (2012)
精子の数を不可逆的に減らすことができ、精子を動かないようにすることのできる小さな分子は、男性の避妊具としての可能性を秘めている?JQ1と呼ばれる分子は精巣中のBRDTと呼ばれるタンパク質と結合するが、JQ1を注射されたオスのマウスはメスと交尾するものの睾丸が縮小し、精子数も減少、メスを妊娠させることはなかった。4ヶ月間JQ1の注射を控えると、生殖機能が回復したという。男性用の避妊薬として使えるかもしれない?
The spread of herpes in zoos
動物園におけるヘルペスの蔓延
Curr. Biol. http://dx.doi.org/10.1016/ j.cub.2012.07.035 (2012)
2010年にドイツの動物園で死んだシロクマの死因として、シマウマから感染したヘルペスウイルスの可能性が指摘されている。死んだシロクマと他のシロクマのウイルスの遺伝子を分析したところ、EHV1というシマウマのヘルペスウイルスが同定されたという。しかし完全には同一種ではなく、遺伝子を組み替えられた種であったことはウイルスが種を超えて感染したことを説明するかもしれない。げっ歯類の動物が檻から檻へとウイルスを伝搬させた可能性がある。動物園では他の動物にも感染していないかどうかを現在モニタリングしているという。
Textbook encoded in DNA
DNAの中に暗号化される教科書
Science http://dx.doi. org/10.1126/science.1226355 (2012)
53,000語の文字と11のデジタル化された画像を含む、5.27M bitの本とプログラムがDNAの中に暗号化された。それぞれ159個のヌクレオチドを組み合わせ、55,000のDNAを作成。うち96は「1」か「0」を表現し、19は並び順、残り44が読み方を表現しているらしい。現在は非実用的な段階であるが、従来法よりも密に情報を記録できる技術として期待されているらしい。
Graphene, heal thyself
グラフェン、自己修復機能
Nano. Lett. 12, 3936–3940 (2012)
単原子の厚みを持つグラフェンは非常に特異な性質を多数持つが、それにさらに「自己修復」機能が付け加わった。グラフェンのシートにある金属を置き、触媒作用によってグラフェンの分解を促進させ、穴を空ける。その後金属を取り去ると、穴は自動的に修復された。ただしこの時に他の炭化水素があると穴は様々な大きさを持つ他からやってきた炭素原子の輪っかで埋められてしまうが、炭化水素がない場合では元々の炭素原子が戻ることで、二次元構造が修復されたという。この知見はナノメートルスケールでのエッチング技術に応用が期待されている。
Melting triggers more melting
融解がさらなる融解を招く
Cryosphere 6, 821–839 (2012)
グリーンランド氷床に置ける過去12年間の夏のアルベド・気温・日射量の観測記録とモデル結果から、アルベドのポジティブ・フィードバックによって2000年以降の氷床表面の融解速度が倍増していることが示された。特に夏の気温上昇によって「雪の結晶が大きくなり、それが日射をあまり反射しない」、「雲量が減り、日射が地面を暖める効率が増す」、「夏の降雪量が低下したことで雪がより汚く(黒く)なる」などのフィードバックが働いている。そのため、今後の温暖な時代でもグリーンランド氷床は温度上昇に対して耐えるのではなく、むしろ融解するだろうという予測がなされている。今年7月には約97%の氷床表面の融解が起きていたと推定されている。
Seven Days
Gene patent boost
遺伝子特許が増大している
アメリカにおいて2回目となる、生体工学産業の遺伝子特許が認可された。「DNAは自然の産物であり、特許で制約を与えることはできない」とする反対意見もあったが、最終的に「単離したDNAを読む技術は自然の産物ではない」として、特許を認めた。
Tobacco control
タバコの制御
オーストラリア政府は、「タバコの包装からタバコ会社のロゴや商標をなくす」という法廷での戦いに勝利した。2012/12/1より、タバコ製品はタバコの健康被害の注意喚起が大きく書かれたオリーブグリーンの箱でのみ販売されることとなる。WHOは他国にもオーストラリアに従うよう、促しており、「“public health enters a brave new world of tobacco control” 公共衛生はタバコを制御する新しい勇敢な時代へと突入している」という声明を出している。
Telescope sale
望遠鏡セール
NSFは天文学者のパネルに対し、チリに建設予定の総観規模の望遠鏡の費用を捻出するためにも2017年までに6つの望遠鏡を売却するようアドバイスした。NSFの宇宙分野の責任者は施設そのものが閉鎖されないように、18ヶ月以内に望遠鏡を運営する候補を挙げるとしている。
Heliophysics plan
太陽物理学の計画
次の10年間のアメリカの太陽物理の研究計画は地球に宇宙天気が与える影響を調べることなどを含む、小-中規模のミッションに集中するという。
Amazon’s giant dam halted again
アマゾンの巨大ダムが再び建設中断に
ブラジルの連邦裁判所は、流域周辺の先住民族へのさらなる協議が必要だとして、Belo Monteダムの建設を一時的に中止させた。このダムは水力発電用の施設で、世界で3番目に大きい水力発電所となることが期待されている(総工費130億ドル、発電力11GW)。
West Nile virus
西ナイル・ウイルス
アメリカのダラス・テキサスにおいて西ナイル・ウイルスに対する非常事態宣言が出された。今年に入って693人が発症、26人が死亡している。このウイルスは元々1999年に初めてもたらされたもので、以来毎年発生している。US Centers for Disease Control and Preventionによれば、今年の発症者数は過去最多であるという。
Mars laser
火星のレーザー
火星探査機のCuriosityは「Coronation(戴冠式)」とニックネームを付けられた火星の岩石に対し、レーザー照射のテストを行い、発生した火花のスペクトルを記録した。このテストは探査機が移動する前の最終テストであり、この後探査機は3種類の地形が合流する地点に向けて、東〜南東方向に400mほどの移動を予定している。
Hypersonic flight
極超音速飛行
マッハ6の極超音速飛行のテスト飛行において、X-51A Waveriderが空中分解した。垂直尾翼の欠陥が原因だとされている。X-51は4機製造されたが、アメリカ空軍には残り1機しか残されていないという。
Forest emissions
森林の排出
ブラジルに置ける森林破壊の厳しい措置のおかげで、ブラジルアマゾンの森林破壊起源の二酸化炭素の排出は57%減少し、2004年から2011年にかけて986Mtから420Mtへと減少したことが、ブラジルのNational Institute for Space Researchの研究より分かった。森林破壊の減少率(77%)ほど早くは減少しておらず、これは土壌や植物中の炭素がそれほど速やかに大気中へと移動しないこと、また残りの森林破壊が炭素を多く貯蔵している密度の濃い森林へと移動していることが原因と考えられる。
(※コメント:密度が濃いというのは大気に放出されにくいという意味か?)
Next Mars mission
次の火星探査計画
2016年に火星の赤道に深部の振動を探知する探査機を送り込む、とNASAが発表した。InSight (Interior Exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transport:地震波を用いた内部調査、測地、熱輸送)と呼ばれる探査計画で、2年間のミッションの期間中にマグニチュード5程度の地震を対象に調査する予定。
NASA contract
NASAの契約
Curiosityが製造されたCalifornia Institute of Technology (Caltech)のJet Propulsion Laboratory (JPL)はゆく5年間はNASAが運営を継続することをNASAが公表した(運営費:約85億ドル)。JPLは1958年以来ずっとNASAによって運営されていたが、今後は5年ごとにopen competition(運営の競合?)することになるという。
News in Focus
Test lakes face closure
試験湖が閉鎖に直面している
カナダ・オンタリオ州の環境汚染の生態系への影響を調べる試験用の湖が、予算削減を受けて閉鎖の危機に瀕している。
US telescopes face up to agency cuts
アメリカの望遠鏡が機関の削減に直面している
NSFによって運営されている6つの天体望遠鏡施設は、新しい望遠鏡の建設を受けてNSFから運営放棄すべきだ、とNSFの宇宙部門に外から集められた天文学者パネルは主張する。
Space missions trigger map wars
宇宙探査が地図戦争を招く
惑星探査を行う科学者達は、従来の命名体型に反対している。「Vestaの地形に対して緯度・経度をどう定めるか、また子午線をどこに引くか」「火星の地形の名称をどうするか」などを巡る論争について。火星の山などの大規模な構造は、19世紀にそれらを色の明暗で発見した過去の天文学者にならって、ラテン語で名付けられる必要があるらしい。Curiosity計画の科学者の一人であるJohn Grotzingerは、法に触れたくはないが、人に馴染み深い名称にしたいと語る。例えば、火星探査機SpiritがColumbia Hillsを発見した時、その1年前のColumbia号のスペースシャトル事故を受けて、その追悼の意を表して「Columbia Hills」と名付けたように。ただしこの名称は非公式の名称であるという。
Companies set to fight food-label plan
企業は食品にラベルをつける計画に対する戦いを始めた
カリフォルニア州の議題番号37は遺伝子組み換えによって作られた作物すべてにラベルを付けるだろう。主に有機作物を作る農家や、環境保護主義者によって支持されている。一方でそれに反対するものたちは、そうしたラベルが消費者に対する警告として捉えられないか、遺伝子工学に対する警戒心を煽らないかと懸念している。アメリカで生産される大豆の94%、トウモロコシの88%が遺伝子組み換えによって除草剤や害虫に対する耐性を強化されており、アメリカ全土でこうしたラベリングが採用されればその影響はとてつもなく大きい。ラベルには遺伝子組み換えの方法や使用している遺伝子組み換え食品の内容量を明記する必要はない。また遺伝子組み換え作物を飼料として飼育された家畜の肉にはこうした表示は必要がないという。こうしたラベルに対して、干ばつに強い、栄養価の高い作物を作る技術に対する’反科学’だとする科学者もいれば、遺伝子組み換え食品の健康被害は長期にわたって常に警戒すべきだとしてラベリングの必要性を主張する科学者もいる。
Comment
Listen to the voices of experience
経験の声を聞け
Esther TurnhoutほかはIntergovernmental Platform on Biodiversity and Ecosystem Services (IPBES)はIPCC以上にはるかに幅広い知識と遥かに多い出資者を得なければならないと主張する。
Correspondence
Stricter management of organ transplants
臓器移植のより厳密な管理
臓器密売や臓器移植患者待機リストの改ざんなどの問題を受けて、臓器移植が人々の不信や臓器提供の提供の減少へと繋がっている。
News & Views
Himalayan glaciers in the balance
ヒマラヤ氷河は均衡している
J. Graham Cogley
人工衛星によって高度を測定した観測結果からは、ヒマラヤの氷河はゆっくりとしか後退していないが、質量収支を計算する他の手法についての疑問を投げかけている。
Letters
Long-term decline of global atmospheric ethane concentrations and implications for methane
Isobel J. Simpson, Mads P. Sulbaek Andersen, Simone Meinardi, Lori Bruhwiler, Nicola J. Blake, Detlev Helmig, F. Sherwood Rowland & Donald R. Blake
エタンはメタンに次ぐ大気中に含まれる炭化水素であり、対流圏のオゾンの前駆体、OHラジカルとの反応を経て大気の酸化能を決めるという重要な性質を持つ。全球的なエタン放出量は1984年から2010年にかけて年間21%の割合で低下している。おそらくこの減少の原因は、「バイオ燃料の使用や森林火災の減少」ではなく、「化石燃料を産出する際のエタン放出や燃焼によるエタン放出(fugitive fossil fuel emissions)の量が減少したこと」と考えられる。エタンの放出源とメタンの放出源は類似しているが、エタンをもとにメタンの放出を推定すると、近年のメタン放出量の低下は30-70%はfugitive fossil fuel emissionsの減少によって説明され、1980年代中頃以降の大気中メタン濃度の上昇率の低下に有意に寄与していると考えられる。
Contrasting patterns of early twenty-first-century glacier mass change in the Himalayas
Andreas Kääb, Etienne Berthier, Christopher Nuth, Julie Gardelle & Yves Arnaud
山岳氷河は陸域の気候変動の指標として、山岳地帯の水資源を支えるものとして、全球の海水準上昇の主要因として重要である。Hindu Kush–Karakoram–Himalaya地域(HKKH)の山岳氷河の質量収支の理解は不足しているが、レーザーを用いた高度観測の記録や、モデルのデータから2003年から2008年にかけてHKKHの東部、中部、南西部において氷河量が低下していることが分かった。逆にカラコラム地域ではわずかながら氷河は厚みを増している(年間数センチ)。HKKH全体での質量収支は年間に0.21 ± 0.05 m/yrの割合で低下しており、現在の海水準上昇の1%に寄与している。重力観測に基づいた先行研究の見積もりでは「−5 ± 3 Gt/yr」という値が得られていたが、今回我々の見積もりでは「−12.8 ± 3.5 Gt/yr」というより大きな減少率が得られた。
Volume 488 Number 7412 pp429-550 (23 August 2012)
Editorials
Social dimensions to biodiversity
生物多様性に対する社会の側面
生物多様性が失われることを評価するために設立された国際管理機関は科学以上のものを考慮しなければならない。
'The desire of the IPCC to produce standardized assessments (it is now working on its fifth) has limited its success, the authors argue, because it has “overshadowed arguably more important tasks: synthesizing wider perspectives about changing climates and spurring action by multiple policy actors”.'
標準化された評価を設けるというIPCC(現在第5次報告書が作成されている)の目標そのものが成功を束縛したと、作者らは主張する。何故ならばIPCCはほぼ間違いなく、“より重要な課題の重要性を薄めたからである:その課題とは、変わりゆく気候に関する幅広い観点を総合的に扱い、様々な政策者による行動を促すことである。”
'Yet critics of the IPCC too often overlook its heterogeneous nature: goals and practices vary across the three separate working groups, so much so that some have argued convincingly that the IPCC should release not a combined report but three distinct ones.'
しかしIPCCに対する批判はあまりに頻繁にその不均質な性質を見落としている。中には「IPCCは結合された報告書ではなく、3つ別々の報告書を公表すべきだ」と確信を持って主張する人もいるほど、3つの異なる作業部会における目標と方法は異なるのである。
Research Highlights
Cigarette smoke boosts biofilms
タバコの煙が菌膜を増大させる
Infect. Immun. http://dx.doi. org/10.1128/IAI.00689-12 (2012)
タバコの煙に含まれる物質が鼻の粘膜中のバクテリアによる菌膜(バイオフィルム)の形成を促進し、感染症のリスクを高めるらしい。タバコの煙は免疫を弱め、肺の内側に炎症を起こさせることが知られているが、肺の細胞に対するバクテリアの粘着性も増す。この知見は、何故喫煙者や受動喫煙者が呼吸器系の感染症を起こしやすいのかという疑問に答えてくれるかもしれない。
Dark matter hugs the Sun
ダークマターが太陽を抱く
Mon. Not. R. Astron. Soc. http:// dx.doi.org/10.1111/j.1365-2966.2012.21608.x (2012)
宇宙における質量の85%はダークマターが占めているが、従来考えられていたよりも、ダークマターは太陽の近傍にあるかもしれない。ダークマターの球場の光輪が銀河を取り巻いているという従来の考えに食い違う観点が得られた。
Molecule blocks sperm production
分子が精子の生産を妨げる
Cell 150, 673–684 (2012)
精子の数を不可逆的に減らすことができ、精子を動かないようにすることのできる小さな分子は、男性の避妊具としての可能性を秘めている?JQ1と呼ばれる分子は精巣中のBRDTと呼ばれるタンパク質と結合するが、JQ1を注射されたオスのマウスはメスと交尾するものの睾丸が縮小し、精子数も減少、メスを妊娠させることはなかった。4ヶ月間JQ1の注射を控えると、生殖機能が回復したという。男性用の避妊薬として使えるかもしれない?
The spread of herpes in zoos
動物園におけるヘルペスの蔓延
Curr. Biol. http://dx.doi.org/10.1016/ j.cub.2012.07.035 (2012)
2010年にドイツの動物園で死んだシロクマの死因として、シマウマから感染したヘルペスウイルスの可能性が指摘されている。死んだシロクマと他のシロクマのウイルスの遺伝子を分析したところ、EHV1というシマウマのヘルペスウイルスが同定されたという。しかし完全には同一種ではなく、遺伝子を組み替えられた種であったことはウイルスが種を超えて感染したことを説明するかもしれない。げっ歯類の動物が檻から檻へとウイルスを伝搬させた可能性がある。動物園では他の動物にも感染していないかどうかを現在モニタリングしているという。
Textbook encoded in DNA
DNAの中に暗号化される教科書
Science http://dx.doi. org/10.1126/science.1226355 (2012)
53,000語の文字と11のデジタル化された画像を含む、5.27M bitの本とプログラムがDNAの中に暗号化された。それぞれ159個のヌクレオチドを組み合わせ、55,000のDNAを作成。うち96は「1」か「0」を表現し、19は並び順、残り44が読み方を表現しているらしい。現在は非実用的な段階であるが、従来法よりも密に情報を記録できる技術として期待されているらしい。
Graphene, heal thyself
グラフェン、自己修復機能
Nano. Lett. 12, 3936–3940 (2012)
単原子の厚みを持つグラフェンは非常に特異な性質を多数持つが、それにさらに「自己修復」機能が付け加わった。グラフェンのシートにある金属を置き、触媒作用によってグラフェンの分解を促進させ、穴を空ける。その後金属を取り去ると、穴は自動的に修復された。ただしこの時に他の炭化水素があると穴は様々な大きさを持つ他からやってきた炭素原子の輪っかで埋められてしまうが、炭化水素がない場合では元々の炭素原子が戻ることで、二次元構造が修復されたという。この知見はナノメートルスケールでのエッチング技術に応用が期待されている。
Melting triggers more melting
融解がさらなる融解を招く
Cryosphere 6, 821–839 (2012)
グリーンランド氷床に置ける過去12年間の夏のアルベド・気温・日射量の観測記録とモデル結果から、アルベドのポジティブ・フィードバックによって2000年以降の氷床表面の融解速度が倍増していることが示された。特に夏の気温上昇によって「雪の結晶が大きくなり、それが日射をあまり反射しない」、「雲量が減り、日射が地面を暖める効率が増す」、「夏の降雪量が低下したことで雪がより汚く(黒く)なる」などのフィードバックが働いている。そのため、今後の温暖な時代でもグリーンランド氷床は温度上昇に対して耐えるのではなく、むしろ融解するだろうという予測がなされている。今年7月には約97%の氷床表面の融解が起きていたと推定されている。
Seven Days
Gene patent boost
遺伝子特許が増大している
アメリカにおいて2回目となる、生体工学産業の遺伝子特許が認可された。「DNAは自然の産物であり、特許で制約を与えることはできない」とする反対意見もあったが、最終的に「単離したDNAを読む技術は自然の産物ではない」として、特許を認めた。
Tobacco control
タバコの制御
オーストラリア政府は、「タバコの包装からタバコ会社のロゴや商標をなくす」という法廷での戦いに勝利した。2012/12/1より、タバコ製品はタバコの健康被害の注意喚起が大きく書かれたオリーブグリーンの箱でのみ販売されることとなる。WHOは他国にもオーストラリアに従うよう、促しており、「“public health enters a brave new world of tobacco control” 公共衛生はタバコを制御する新しい勇敢な時代へと突入している」という声明を出している。
Telescope sale
望遠鏡セール
NSFは天文学者のパネルに対し、チリに建設予定の総観規模の望遠鏡の費用を捻出するためにも2017年までに6つの望遠鏡を売却するようアドバイスした。NSFの宇宙分野の責任者は施設そのものが閉鎖されないように、18ヶ月以内に望遠鏡を運営する候補を挙げるとしている。
Heliophysics plan
太陽物理学の計画
次の10年間のアメリカの太陽物理の研究計画は地球に宇宙天気が与える影響を調べることなどを含む、小-中規模のミッションに集中するという。
Amazon’s giant dam halted again
アマゾンの巨大ダムが再び建設中断に
ブラジルの連邦裁判所は、流域周辺の先住民族へのさらなる協議が必要だとして、Belo Monteダムの建設を一時的に中止させた。このダムは水力発電用の施設で、世界で3番目に大きい水力発電所となることが期待されている(総工費130億ドル、発電力11GW)。
West Nile virus
西ナイル・ウイルス
アメリカのダラス・テキサスにおいて西ナイル・ウイルスに対する非常事態宣言が出された。今年に入って693人が発症、26人が死亡している。このウイルスは元々1999年に初めてもたらされたもので、以来毎年発生している。US Centers for Disease Control and Preventionによれば、今年の発症者数は過去最多であるという。
Mars laser
火星のレーザー
火星探査機のCuriosityは「Coronation(戴冠式)」とニックネームを付けられた火星の岩石に対し、レーザー照射のテストを行い、発生した火花のスペクトルを記録した。このテストは探査機が移動する前の最終テストであり、この後探査機は3種類の地形が合流する地点に向けて、東〜南東方向に400mほどの移動を予定している。
Hypersonic flight
極超音速飛行
マッハ6の極超音速飛行のテスト飛行において、X-51A Waveriderが空中分解した。垂直尾翼の欠陥が原因だとされている。X-51は4機製造されたが、アメリカ空軍には残り1機しか残されていないという。
Forest emissions
森林の排出
ブラジルに置ける森林破壊の厳しい措置のおかげで、ブラジルアマゾンの森林破壊起源の二酸化炭素の排出は57%減少し、2004年から2011年にかけて986Mtから420Mtへと減少したことが、ブラジルのNational Institute for Space Researchの研究より分かった。森林破壊の減少率(77%)ほど早くは減少しておらず、これは土壌や植物中の炭素がそれほど速やかに大気中へと移動しないこと、また残りの森林破壊が炭素を多く貯蔵している密度の濃い森林へと移動していることが原因と考えられる。
(※コメント:密度が濃いというのは大気に放出されにくいという意味か?)
Next Mars mission
次の火星探査計画
2016年に火星の赤道に深部の振動を探知する探査機を送り込む、とNASAが発表した。InSight (Interior Exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transport:地震波を用いた内部調査、測地、熱輸送)と呼ばれる探査計画で、2年間のミッションの期間中にマグニチュード5程度の地震を対象に調査する予定。
NASA contract
NASAの契約
Curiosityが製造されたCalifornia Institute of Technology (Caltech)のJet Propulsion Laboratory (JPL)はゆく5年間はNASAが運営を継続することをNASAが公表した(運営費:約85億ドル)。JPLは1958年以来ずっとNASAによって運営されていたが、今後は5年ごとにopen competition(運営の競合?)することになるという。
News in Focus
Test lakes face closure
試験湖が閉鎖に直面している
カナダ・オンタリオ州の環境汚染の生態系への影響を調べる試験用の湖が、予算削減を受けて閉鎖の危機に瀕している。
US telescopes face up to agency cuts
アメリカの望遠鏡が機関の削減に直面している
NSFによって運営されている6つの天体望遠鏡施設は、新しい望遠鏡の建設を受けてNSFから運営放棄すべきだ、とNSFの宇宙部門に外から集められた天文学者パネルは主張する。
Space missions trigger map wars
宇宙探査が地図戦争を招く
惑星探査を行う科学者達は、従来の命名体型に反対している。「Vestaの地形に対して緯度・経度をどう定めるか、また子午線をどこに引くか」「火星の地形の名称をどうするか」などを巡る論争について。火星の山などの大規模な構造は、19世紀にそれらを色の明暗で発見した過去の天文学者にならって、ラテン語で名付けられる必要があるらしい。Curiosity計画の科学者の一人であるJohn Grotzingerは、法に触れたくはないが、人に馴染み深い名称にしたいと語る。例えば、火星探査機SpiritがColumbia Hillsを発見した時、その1年前のColumbia号のスペースシャトル事故を受けて、その追悼の意を表して「Columbia Hills」と名付けたように。ただしこの名称は非公式の名称であるという。
Companies set to fight food-label plan
企業は食品にラベルをつける計画に対する戦いを始めた
カリフォルニア州の議題番号37は遺伝子組み換えによって作られた作物すべてにラベルを付けるだろう。主に有機作物を作る農家や、環境保護主義者によって支持されている。一方でそれに反対するものたちは、そうしたラベルが消費者に対する警告として捉えられないか、遺伝子工学に対する警戒心を煽らないかと懸念している。アメリカで生産される大豆の94%、トウモロコシの88%が遺伝子組み換えによって除草剤や害虫に対する耐性を強化されており、アメリカ全土でこうしたラベリングが採用されればその影響はとてつもなく大きい。ラベルには遺伝子組み換えの方法や使用している遺伝子組み換え食品の内容量を明記する必要はない。また遺伝子組み換え作物を飼料として飼育された家畜の肉にはこうした表示は必要がないという。こうしたラベルに対して、干ばつに強い、栄養価の高い作物を作る技術に対する’反科学’だとする科学者もいれば、遺伝子組み換え食品の健康被害は長期にわたって常に警戒すべきだとしてラベリングの必要性を主張する科学者もいる。
Comment
Listen to the voices of experience
経験の声を聞け
Esther TurnhoutほかはIntergovernmental Platform on Biodiversity and Ecosystem Services (IPBES)はIPCC以上にはるかに幅広い知識と遥かに多い出資者を得なければならないと主張する。
Correspondence
Stricter management of organ transplants
臓器移植のより厳密な管理
臓器密売や臓器移植患者待機リストの改ざんなどの問題を受けて、臓器移植が人々の不信や臓器提供の提供の減少へと繋がっている。
News & Views
Himalayan glaciers in the balance
ヒマラヤ氷河は均衡している
J. Graham Cogley
人工衛星によって高度を測定した観測結果からは、ヒマラヤの氷河はゆっくりとしか後退していないが、質量収支を計算する他の手法についての疑問を投げかけている。
Letters
Long-term decline of global atmospheric ethane concentrations and implications for methane
Isobel J. Simpson, Mads P. Sulbaek Andersen, Simone Meinardi, Lori Bruhwiler, Nicola J. Blake, Detlev Helmig, F. Sherwood Rowland & Donald R. Blake
エタンはメタンに次ぐ大気中に含まれる炭化水素であり、対流圏のオゾンの前駆体、OHラジカルとの反応を経て大気の酸化能を決めるという重要な性質を持つ。全球的なエタン放出量は1984年から2010年にかけて年間21%の割合で低下している。おそらくこの減少の原因は、「バイオ燃料の使用や森林火災の減少」ではなく、「化石燃料を産出する際のエタン放出や燃焼によるエタン放出(fugitive fossil fuel emissions)の量が減少したこと」と考えられる。エタンの放出源とメタンの放出源は類似しているが、エタンをもとにメタンの放出を推定すると、近年のメタン放出量の低下は30-70%はfugitive fossil fuel emissionsの減少によって説明され、1980年代中頃以降の大気中メタン濃度の上昇率の低下に有意に寄与していると考えられる。
Simpson et al. (2012)を改変。
大気中のエタン濃度は緯度方向に濃度が大きく異なる。特に北半球の中〜高緯度で大きい。つまり陸源であることを示している。全体としては濃度は減少傾向にある。
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Contrasting patterns of early twenty-first-century glacier mass change in the Himalayas
Andreas Kääb, Etienne Berthier, Christopher Nuth, Julie Gardelle & Yves Arnaud
山岳氷河は陸域の気候変動の指標として、山岳地帯の水資源を支えるものとして、全球の海水準上昇の主要因として重要である。Hindu Kush–Karakoram–Himalaya地域(HKKH)の山岳氷河の質量収支の理解は不足しているが、レーザーを用いた高度観測の記録や、モデルのデータから2003年から2008年にかけてHKKHの東部、中部、南西部において氷河量が低下していることが分かった。逆にカラコラム地域ではわずかながら氷河は厚みを増している(年間数センチ)。HKKH全体での質量収支は年間に0.21 ± 0.05 m/yrの割合で低下しており、現在の海水準上昇の1%に寄与している。重力観測に基づいた先行研究の見積もりでは「−5 ± 3 Gt/yr」という値が得られていたが、今回我々の見積もりでは「−12.8 ± 3.5 Gt/yr」というより大きな減少率が得られた。
Kaab et al. (2012)を改変。 様々な地域における氷河量の推移。黒が氷河以外の地形の高度変化、赤が氷河の高度変化。 |
2012年8月24日金曜日
気候変動研究の説明責任と’地質学’
自分の研究分野を一般の人に聞かれることは多いし、それをきちんと説明することはとても大切だと思う。
人:「今は社会人ですか?」
僕:「いえ、大学院の博士課程の学生です。」
人:「何の研究をしているんですか?」
僕:「地球の過去の気候変動の研究をしています」
人:「へ〜。地球温暖化とかですか?いまホットな話題ですよね〜」
僕:「いや、地球温暖化というよりは海洋酸性化とか、或いはもっと古い時代の気候変動が専門です」
人:「…?」
こういったやり取りは至る所で繰り返されるわけだが、僕自身は何も地球温暖化が専門ではないし、’海洋酸性化’という言葉すら知っている人はほとんどいない。
下手に「地質学」とか「炭素循環の研究」とか言ってしまうと、余計相手に説明することが難しくなる。
本気で説明し始めると、それこそ2〜3時間の講義になってしまう。
業界の人には、「最終退氷期の炭素循環の研究を行っています。特にサンゴ骨格中のホウ素同位体をTIMSで測定して海水のpHを復元しています。」と言うと知っている人には
「ああ、pH計のやつね。使えそうなの?」
となり、議論が始まる。
場合によっては’最終退氷期’という言葉の意味を説明する必要があるが、
「前の氷期から今の間氷期までの移り変わりの部分で…」
と説明すれば分かってもらえる。
ただし、これは地質学や古気候・古海洋学の非常に狭〜〜〜〜〜い分野に限られる。
ある程度年を取ると、新しい学生以外もうほとんどが顔見知りっていうくらい狭い業界だ。
だいたい日本の教育で高校の地学を選択していない限り、地質学に触れるのは中学の理科の授業が最後だ。
よほど地質学に興味を持っていない限りは。恐竜でも化石でも鉱物でもなんでもいいけれど。
しかも中学理科で扱う地学の知識は
「マグマの粘性と火山の形状の関係」とか、「堆積岩と火山岩の違い」とか、「月や地球の天体運動」とか、「化石の示準化石と示相化石の区別」とか、その程度のものだ。
受験勉強で使ってそれ以降耳にすることは少ないのが現状ではないだろうか。
(僕のときもそうだったし、塾や家庭教師で指導していた中学生の教科書もだいたいそうだった)
僕自身、「新生代」とか「第四紀」とかいう地質学時代の時代区分を知ったのは大学学部の2〜3年生くらいが初めてで、地質学の時間軸の話というのはほとんどの人が知らないはず。
「白亜紀」とか「石炭紀」とか市民権を得ている時代は例外的にあるけれど。
中でも、地球の「気候変動」に対する一般の人の知識というのは誰もが知っている「地球温暖化」とか太陽活動の低下と地球の寒冷化との関係性が主張されている「小氷期」とかに限られるのだろう。例のテムズ川が凍って…というあの時期だ。
これらはたかだか400年前から現在にかけて起こった出来事で、完新世と呼ばれる温暖期(長い間氷期)の約11,000年の期間のほんの一部に過ぎない。
それはそれで本当に重要だけれど、もう少し時代を遡ると、「氷期-間氷期」という100,000年の周期で繰り返す、寒い時期-暖かい時期の繰り返しがあることが分かる。
(wikiなどに詳しい詳細があるので、図解などは省略)
この「氷期-間氷期」で特徴付けられるのが「第四紀」であり、さらに「第四紀(Quaternary)」は「新生代(Cenozoic)」の最近のほんの一部だ。
新生代の6,500万年間の地球の歴史を概観すると、恐竜が絶滅して以降、実は地球は寒冷化し続けており、現在はその中でも間氷期という比較的暖かい時期に相当する。
そうした時代背景の下で、人為起源の地球温暖化が進行している。
特に大気中の二酸化炭素濃度は氷期-間氷期の変動を遥かに超えており、それに伴う海水のpHの低下速度(海洋酸性化)は明らかに自然の変動を逸脱している。
よく「間氷期はもうすぐ終わり、次の氷期が訪れるから温暖化は一時的なものだ。だから二酸化炭素排出を削減することには意味がない」と主張する人がいるが、これは必ずしも正しくはない。
地球システムモデルを用いて、「人為起源の二酸化炭素がなかった場合に次に氷期に突入するのはいつか」を見積もる研究がなされている。それによれば本来の地球の気候変動の範疇では、あと数千年もすれば次の氷期に突入していたらしい。
現行の地球システムモデル(ESM)、大気海洋大循環モデル(AO-GCM)では、人為起源の二酸化炭素排出により(他の温室効果ガスやエアロゾルの効果も考慮されているものが多い)温暖化することが示されている。つまり次の氷期が訪れない可能性が高いことを示唆している。
ただし「二酸化炭素濃度が何ppm上昇した場合に、地表の気温が何℃上昇するか」という、気候感度の問題については残念ながら不確実性が大きく、モデル間でも予測値がばらつくということは認めなければならない。
ここでは、地球の放射収支やエネルギーバランス、種々の物理・化学・生物を考慮したモデルシミュレーションでは温暖化することが予測されているということを強調したい。
僕の専門は地球温暖化ではないので、すべての研究を把握しているわけではないし、それは不可能だが、ここで主張したいのは、長〜い視点で地球の歴史を知ることも案外重要だということだ。
地球温暖化にせよ、小氷期にせよ、太陽変調にせよ、重要なのはそうした現象があるということを知ったからといってそれを拠り所に闇雲に気候変動を語ることではなくて、「それが自然変動の範疇なのか」、「それとも異常現象なのか」、という判断基準を曖昧にでもいいから各人が持つことだと思う。
また著名な教授だの研究者だのが「地球温暖化は正しい」とか「地球温暖化は嘘だ」と言っていることにイチイチ振り回されるのではなく、地球の歴史をある程度知った上で、「これは過去に例がない異常事態ではないか…」とか「これは異常現象と呼ぶには早計では…」という認識の形があってもいいと思うわけで。
地球の歴史のすべてを知るために研究までするのは地質学者だけでいいけれど、かいつまんだ形でもいいから最近の(特に新生代の)地球の気候変動を知ってもらうのはとても重要だと思う。
特に地球温暖化が問題とされている現在においては。
ちょっと本来の話から逸れてしまったが、僕が自分の研究分野を説明するときにいつも実感するのが「地質学」というか「地球の歴史」についての一般の人との知識の乖離だ。
「だから地質学をもっと学ぼう!」と主張するのはあまりに押し付けがましいけれども、これだけ多くの気候変動のトピックが飛び交う情報化社会において、周りに振り回されるだけではなくて、少なからず自分なりの意見を持つために、「地球の歴史」という視点でもって気候変動を理解するのは直感的にも分かりやすいし、それほど難しいことでもないし、案外ありなんじゃなかろうか。
気候変動が何を変え、どう影響するか?すべてを正確に答えられる人は神様以外誰もいない。
けれど経済、産業、農業、生態系、水産業、林業、疫病、エネルギー問題etc…
ありとあらゆる分野に影響を与えることが予想される。だからこそ反対意見を強固に主張する人たちがいるのだが。
(議論を行うこと自体は歓迎すべきことだが、間違った或いは偏った知識を流布するのは間違った行いだと思っている)
これまで地質学者のみが独占していた「地球の歴史」に関する知識はもはや地質学者の頭の中だけに留めておくのではなく、もっと一般の人に分かりやすい形で、興味を持ってもらえる形で、外へ発信していくことが求められている。
僕らはそれをやる必要があるし、むしろ義務と言っていいくらいに重要性を増してきている。
だからこそ、このブログを通して、ちょっとでも一般の人にも興味をもってもらえそうな’地質学’の話題について精力的に取り上げていきたいと思っている。
(ちょっと話が発散気味。もう少し文章をまとめる能力を磨かなければ…。)
人:「今は社会人ですか?」
僕:「いえ、大学院の博士課程の学生です。」
人:「何の研究をしているんですか?」
僕:「地球の過去の気候変動の研究をしています」
人:「へ〜。地球温暖化とかですか?いまホットな話題ですよね〜」
僕:「いや、地球温暖化というよりは海洋酸性化とか、或いはもっと古い時代の気候変動が専門です」
人:「…?」
こういったやり取りは至る所で繰り返されるわけだが、僕自身は何も地球温暖化が専門ではないし、’海洋酸性化’という言葉すら知っている人はほとんどいない。
下手に「地質学」とか「炭素循環の研究」とか言ってしまうと、余計相手に説明することが難しくなる。
本気で説明し始めると、それこそ2〜3時間の講義になってしまう。
業界の人には、「最終退氷期の炭素循環の研究を行っています。特にサンゴ骨格中のホウ素同位体をTIMSで測定して海水のpHを復元しています。」と言うと知っている人には
「ああ、pH計のやつね。使えそうなの?」
となり、議論が始まる。
場合によっては’最終退氷期’という言葉の意味を説明する必要があるが、
「前の氷期から今の間氷期までの移り変わりの部分で…」
と説明すれば分かってもらえる。
ただし、これは地質学や古気候・古海洋学の非常に狭〜〜〜〜〜い分野に限られる。
ある程度年を取ると、新しい学生以外もうほとんどが顔見知りっていうくらい狭い業界だ。
だいたい日本の教育で高校の地学を選択していない限り、地質学に触れるのは中学の理科の授業が最後だ。
よほど地質学に興味を持っていない限りは。恐竜でも化石でも鉱物でもなんでもいいけれど。
しかも中学理科で扱う地学の知識は
「マグマの粘性と火山の形状の関係」とか、「堆積岩と火山岩の違い」とか、「月や地球の天体運動」とか、「化石の示準化石と示相化石の区別」とか、その程度のものだ。
受験勉強で使ってそれ以降耳にすることは少ないのが現状ではないだろうか。
(僕のときもそうだったし、塾や家庭教師で指導していた中学生の教科書もだいたいそうだった)
僕自身、「新生代」とか「第四紀」とかいう地質学時代の時代区分を知ったのは大学学部の2〜3年生くらいが初めてで、地質学の時間軸の話というのはほとんどの人が知らないはず。
「白亜紀」とか「石炭紀」とか市民権を得ている時代は例外的にあるけれど。
中でも、地球の「気候変動」に対する一般の人の知識というのは誰もが知っている「地球温暖化」とか太陽活動の低下と地球の寒冷化との関係性が主張されている「小氷期」とかに限られるのだろう。例のテムズ川が凍って…というあの時期だ。
これらはたかだか400年前から現在にかけて起こった出来事で、完新世と呼ばれる温暖期(長い間氷期)の約11,000年の期間のほんの一部に過ぎない。
それはそれで本当に重要だけれど、もう少し時代を遡ると、「氷期-間氷期」という100,000年の周期で繰り返す、寒い時期-暖かい時期の繰り返しがあることが分かる。
(wikiなどに詳しい詳細があるので、図解などは省略)
この「氷期-間氷期」で特徴付けられるのが「第四紀」であり、さらに「第四紀(Quaternary)」は「新生代(Cenozoic)」の最近のほんの一部だ。
新生代の6,500万年間の地球の歴史を概観すると、恐竜が絶滅して以降、実は地球は寒冷化し続けており、現在はその中でも間氷期という比較的暖かい時期に相当する。
そうした時代背景の下で、人為起源の地球温暖化が進行している。
特に大気中の二酸化炭素濃度は氷期-間氷期の変動を遥かに超えており、それに伴う海水のpHの低下速度(海洋酸性化)は明らかに自然の変動を逸脱している。
よく「間氷期はもうすぐ終わり、次の氷期が訪れるから温暖化は一時的なものだ。だから二酸化炭素排出を削減することには意味がない」と主張する人がいるが、これは必ずしも正しくはない。
地球システムモデルを用いて、「人為起源の二酸化炭素がなかった場合に次に氷期に突入するのはいつか」を見積もる研究がなされている。それによれば本来の地球の気候変動の範疇では、あと数千年もすれば次の氷期に突入していたらしい。
現行の地球システムモデル(ESM)、大気海洋大循環モデル(AO-GCM)では、人為起源の二酸化炭素排出により(他の温室効果ガスやエアロゾルの効果も考慮されているものが多い)温暖化することが示されている。つまり次の氷期が訪れない可能性が高いことを示唆している。
ただし「二酸化炭素濃度が何ppm上昇した場合に、地表の気温が何℃上昇するか」という、気候感度の問題については残念ながら不確実性が大きく、モデル間でも予測値がばらつくということは認めなければならない。
ここでは、地球の放射収支やエネルギーバランス、種々の物理・化学・生物を考慮したモデルシミュレーションでは温暖化することが予測されているということを強調したい。
僕の専門は地球温暖化ではないので、すべての研究を把握しているわけではないし、それは不可能だが、ここで主張したいのは、長〜い視点で地球の歴史を知ることも案外重要だということだ。
地球温暖化にせよ、小氷期にせよ、太陽変調にせよ、重要なのはそうした現象があるということを知ったからといってそれを拠り所に闇雲に気候変動を語ることではなくて、「それが自然変動の範疇なのか」、「それとも異常現象なのか」、という判断基準を曖昧にでもいいから各人が持つことだと思う。
また著名な教授だの研究者だのが「地球温暖化は正しい」とか「地球温暖化は嘘だ」と言っていることにイチイチ振り回されるのではなく、地球の歴史をある程度知った上で、「これは過去に例がない異常事態ではないか…」とか「これは異常現象と呼ぶには早計では…」という認識の形があってもいいと思うわけで。
地球の歴史のすべてを知るために研究までするのは地質学者だけでいいけれど、かいつまんだ形でもいいから最近の(特に新生代の)地球の気候変動を知ってもらうのはとても重要だと思う。
特に地球温暖化が問題とされている現在においては。
ちょっと本来の話から逸れてしまったが、僕が自分の研究分野を説明するときにいつも実感するのが「地質学」というか「地球の歴史」についての一般の人との知識の乖離だ。
「だから地質学をもっと学ぼう!」と主張するのはあまりに押し付けがましいけれども、これだけ多くの気候変動のトピックが飛び交う情報化社会において、周りに振り回されるだけではなくて、少なからず自分なりの意見を持つために、「地球の歴史」という視点でもって気候変動を理解するのは直感的にも分かりやすいし、それほど難しいことでもないし、案外ありなんじゃなかろうか。
気候変動が何を変え、どう影響するか?すべてを正確に答えられる人は神様以外誰もいない。
けれど経済、産業、農業、生態系、水産業、林業、疫病、エネルギー問題etc…
ありとあらゆる分野に影響を与えることが予想される。だからこそ反対意見を強固に主張する人たちがいるのだが。
(議論を行うこと自体は歓迎すべきことだが、間違った或いは偏った知識を流布するのは間違った行いだと思っている)
これまで地質学者のみが独占していた「地球の歴史」に関する知識はもはや地質学者の頭の中だけに留めておくのではなく、もっと一般の人に分かりやすい形で、興味を持ってもらえる形で、外へ発信していくことが求められている。
僕らはそれをやる必要があるし、むしろ義務と言っていいくらいに重要性を増してきている。
だからこそ、このブログを通して、ちょっとでも一般の人にも興味をもってもらえそうな’地質学’の話題について精力的に取り上げていきたいと思っている。
(ちょっと話が発散気味。もう少し文章をまとめる能力を磨かなければ…。)
2012年8月17日金曜日
新着論文(Science#6096)
Science
VOL 337, ISSUE 6096, PAGES 769-876 (17 August 2012)
EDITORIAL:
Capably Communicating Science
うまく科学を伝える
Alan I. Leshner
科学者が科学関連の仕事の意義や本質をうまく説明する能力を身につける必要性はますます増している。人々に科学をより理解してもらうことで、科学によって生まれた製品をうまく使えるようになるだけでなく、科学研究への支援の範囲も広がると期待される。人は自分に関わるものにしか基本的には興味を示さないため、それをうまく生かしたアプローチを行うことも重要である。また評価を下すのは話し手側ではなく聞き手側なので、個人的な価値観を入れずに客観的に事実を伝えることも大切である。
Editor's Choice
A Cascade of Consequences
結果の階層構造
Ecol. Lett. 15, 786 (2012).
寄生生物がホストの動物の行動様式を変化させ、それが生態系全体の構造を変える可能性がある。ある種の線虫はライフサイクルのある段階でコオロギに寄生するが、コオロギを水場に移動させる指令を出す。こうしたコオロギはマスのより良い餌となり、底性生物の補食圧が下がる。その結果、底性生物の活動が活発化し、その餌となる落ち葉や藻類の分解量が増える。全球的に見ても、こうした寄生生物が生態系に与える階層構造というのは普遍的かもしれない。
Chaotic Planets
カオス的な惑星
Astrophys. J. 755, L21 (2012).
我々の住む太陽系の惑星の軌道は500万年もすれば予測ができないほど、カオス的な振る舞いをする。そうした軌道予測が困難になるまでの時間を「Lyapunov time」という。Kepler-36という系外システムもまたカオス的な振る舞いをするが、Lyapunov timeは10年以下という短さらしい。人間が観測可能な時間スケールでカオス的振る舞いをする身近な惑星には、土星のプロメテウス(Prometheus)とパンドラ(Pandora)がある。とある2つの系外惑星はあまりに近い軌道を公転しており、それぞれ質量は地球の4倍と8倍。この異常な軌道は重力場の相互作用の結果だと考えられている。
News & Analysis
Negative Report on GM Crops Shakes Government's Food Agenda
遺伝子組換え作物に関する消極的な報告書が政府の食料政策を揺るがす
Pallava Bagla
インド議会のパネルは先週、インドにおけるいかなる遺伝子組み換え作物の試験培養も直ちに止め、農業作物の遺伝子組み換えの研究は厳しい規制の下でしかなされるべきでない、と推奨した。インドは2002年に初めて遺伝子組換え作物を導入し、ナスと綿花の栽培効率が飛躍的に向上した。しかしながら依然として懐疑的な立場は多いという。インドの人口のうち7割が農家で、彼らはそうした生産性の高い遺伝子組換え作物の種を買うほか手段がない。ここ数年で負債が原因で自殺した農家は数千人に及び、遺伝子組換え作物のせいだという指摘がされている。インド政府は現在、報告書を精査している。
News Focus
Mountains of Data
データの山
Robert F. Service
有名な登山家とMicrosoftの研究者が一緒になって、どのように気候変動がヒマラヤに影響を与えているのかを画像・データ・コンピュータモデルを組み合わせて調べている。
Perspectives
Reproduction in Early Amniotes
初期の有羊膜類の生殖
P. Martin Sander
生きた子供を生み出す有羊膜類は卵を産む有羊膜類よりもあとに出現したはずなのに、なぜ初期の有羊膜類化石記録は前者が支配的であるか、を説明する新たな証拠が得られた。
Water Vapor in the Lower Stratosphere
成層圏下部の水蒸気
A. R. Ravishankara
中緯度の対流圏上層において、成層圏へと水蒸気が輸送されることによって、成層圏下部の水蒸気量がときおり増加しているかもしれない。
An Ancient Portal to Proteolysis
古代のタンパク質加水分解の入り口
Andreas Matouschek and Daniel Finley
アーキアに発見された新たなプロテアソームがタンパク質分解の進化に対する新たな知見を与える。
Reports
Mixed-Phase Oxide Catalyst Based on Mn-Mullite (Sm, Gd)Mn2O5 for NO Oxidation in Diesel Exhaust
Weichao Wang et al.
ディーゼル燃料の燃焼から出てくる一酸化窒素の酸化を行うためのNOx除去装置には従来プラチナ触媒が用いられてきたが、非常に効率が悪く、コストがかかるという問題があった。それに代わる金属酸化物(マグネシウムムライト;Mn-mullite (Sm, Gd)Mn2O5)の触媒が有望であることが分かった。価格・熱耐性・高いNO酸化効率の点で特に優れているらしい。
UV Dosage Levels in Summer: Increased Risk of Ozone Loss from Convectively Injected Water Vapor
James G. Anderson, David M. Wilmouth, Jessica B. Smith, and David S. Sayres
アメリカ大陸の上空で成層圏の下部に注入される水蒸気が大気における塩素・臭素ラジカルの光化学反応を根本から変える可能性がある。特に夏における深い対流が水蒸気を運搬し、オゾンを破壊する反応へと連結している。二酸化炭素とメタンによる気候フォーシングの結果としてこうした水蒸気注入の強度や頻度が上昇するとしたら、オゾン破壊と紫外線の照射量は増加するだろう。
A Mechanism of Extreme Growth and Reliable Signaling in Sexually Selected Ornaments and Weapons
Douglas J. Emlen, Ian A. Warren, Annika Johns, Ian Dworkin, and Laura Corley Lavine
オスの生物の中には誇張された装飾や武器を巧みに操るものがいるが(例えば、カブトムシ、クワガタ、カニ、シカなど)、そうした極端な構造の成長にはインスリンやインスリン状の成長要因(insulin/insulin-like growth factor; IGF)が関連している可能性がある。成長には栄養状態とIGFとがかなり関係しており、それがオスの価値を決める?
VOL 337, ISSUE 6096, PAGES 769-876 (17 August 2012)
EDITORIAL:
Capably Communicating Science
うまく科学を伝える
Alan I. Leshner
科学者が科学関連の仕事の意義や本質をうまく説明する能力を身につける必要性はますます増している。人々に科学をより理解してもらうことで、科学によって生まれた製品をうまく使えるようになるだけでなく、科学研究への支援の範囲も広がると期待される。人は自分に関わるものにしか基本的には興味を示さないため、それをうまく生かしたアプローチを行うことも重要である。また評価を下すのは話し手側ではなく聞き手側なので、個人的な価値観を入れずに客観的に事実を伝えることも大切である。
Editor's Choice
A Cascade of Consequences
結果の階層構造
Ecol. Lett. 15, 786 (2012).
寄生生物がホストの動物の行動様式を変化させ、それが生態系全体の構造を変える可能性がある。ある種の線虫はライフサイクルのある段階でコオロギに寄生するが、コオロギを水場に移動させる指令を出す。こうしたコオロギはマスのより良い餌となり、底性生物の補食圧が下がる。その結果、底性生物の活動が活発化し、その餌となる落ち葉や藻類の分解量が増える。全球的に見ても、こうした寄生生物が生態系に与える階層構造というのは普遍的かもしれない。
Chaotic Planets
カオス的な惑星
Astrophys. J. 755, L21 (2012).
我々の住む太陽系の惑星の軌道は500万年もすれば予測ができないほど、カオス的な振る舞いをする。そうした軌道予測が困難になるまでの時間を「Lyapunov time」という。Kepler-36という系外システムもまたカオス的な振る舞いをするが、Lyapunov timeは10年以下という短さらしい。人間が観測可能な時間スケールでカオス的振る舞いをする身近な惑星には、土星のプロメテウス(Prometheus)とパンドラ(Pandora)がある。とある2つの系外惑星はあまりに近い軌道を公転しており、それぞれ質量は地球の4倍と8倍。この異常な軌道は重力場の相互作用の結果だと考えられている。
News & Analysis
Negative Report on GM Crops Shakes Government's Food Agenda
遺伝子組換え作物に関する消極的な報告書が政府の食料政策を揺るがす
Pallava Bagla
インド議会のパネルは先週、インドにおけるいかなる遺伝子組み換え作物の試験培養も直ちに止め、農業作物の遺伝子組み換えの研究は厳しい規制の下でしかなされるべきでない、と推奨した。インドは2002年に初めて遺伝子組換え作物を導入し、ナスと綿花の栽培効率が飛躍的に向上した。しかしながら依然として懐疑的な立場は多いという。インドの人口のうち7割が農家で、彼らはそうした生産性の高い遺伝子組換え作物の種を買うほか手段がない。ここ数年で負債が原因で自殺した農家は数千人に及び、遺伝子組換え作物のせいだという指摘がされている。インド政府は現在、報告書を精査している。
News Focus
Mountains of Data
データの山
Robert F. Service
有名な登山家とMicrosoftの研究者が一緒になって、どのように気候変動がヒマラヤに影響を与えているのかを画像・データ・コンピュータモデルを組み合わせて調べている。
Perspectives
Reproduction in Early Amniotes
初期の有羊膜類の生殖
P. Martin Sander
生きた子供を生み出す有羊膜類は卵を産む有羊膜類よりもあとに出現したはずなのに、なぜ初期の有羊膜類化石記録は前者が支配的であるか、を説明する新たな証拠が得られた。
Water Vapor in the Lower Stratosphere
成層圏下部の水蒸気
A. R. Ravishankara
中緯度の対流圏上層において、成層圏へと水蒸気が輸送されることによって、成層圏下部の水蒸気量がときおり増加しているかもしれない。
An Ancient Portal to Proteolysis
古代のタンパク質加水分解の入り口
Andreas Matouschek and Daniel Finley
アーキアに発見された新たなプロテアソームがタンパク質分解の進化に対する新たな知見を与える。
Reports
Mixed-Phase Oxide Catalyst Based on Mn-Mullite (Sm, Gd)Mn2O5 for NO Oxidation in Diesel Exhaust
Weichao Wang et al.
ディーゼル燃料の燃焼から出てくる一酸化窒素の酸化を行うためのNOx除去装置には従来プラチナ触媒が用いられてきたが、非常に効率が悪く、コストがかかるという問題があった。それに代わる金属酸化物(マグネシウムムライト;Mn-mullite (Sm, Gd)Mn2O5)の触媒が有望であることが分かった。価格・熱耐性・高いNO酸化効率の点で特に優れているらしい。
UV Dosage Levels in Summer: Increased Risk of Ozone Loss from Convectively Injected Water Vapor
James G. Anderson, David M. Wilmouth, Jessica B. Smith, and David S. Sayres
アメリカ大陸の上空で成層圏の下部に注入される水蒸気が大気における塩素・臭素ラジカルの光化学反応を根本から変える可能性がある。特に夏における深い対流が水蒸気を運搬し、オゾンを破壊する反応へと連結している。二酸化炭素とメタンによる気候フォーシングの結果としてこうした水蒸気注入の強度や頻度が上昇するとしたら、オゾン破壊と紫外線の照射量は増加するだろう。
A Mechanism of Extreme Growth and Reliable Signaling in Sexually Selected Ornaments and Weapons
Douglas J. Emlen, Ian A. Warren, Annika Johns, Ian Dworkin, and Laura Corley Lavine
オスの生物の中には誇張された装飾や武器を巧みに操るものがいるが(例えば、カブトムシ、クワガタ、カニ、シカなど)、そうした極端な構造の成長にはインスリンやインスリン状の成長要因(insulin/insulin-like growth factor; IGF)が関連している可能性がある。成長には栄養状態とIGFとがかなり関係しており、それがオスの価値を決める?
2012年8月16日木曜日
新着論文(Nature#7411特集)
Nature
Volume 488 Number 7411 pp253-424 (16 August 2012)
INSIGHT: CHEMISTRY AND ENERGY
「化学とエネルギー」特集
世界は今後のエネルギー需要に化石燃料だけに頼ることはできない。別のコストに見合う、持続可能な資源を見つけなければならない。この特集では太陽光発電、水に関連した電力生産、バイオ燃料に焦点を当てる。
※すべてオープンアクセスです。
Editorial
Chemistry and Energy
化学とエネルギー
Rosamund Daw, Joshua Finkelstein, Magdalena Helmer
生命は安価で豊富なエネルギーがなければ存続できないだろう。世界のエネルギーの85%は化石燃料の燃焼から賄われている。科学者は世界が温暖化していることを基本的には認めており、気候変動が海水準上昇や疫病の増加、化石燃料・水・食料を求めて人々が争うのではないかということを懸念している。明らかに、行動が必要とされている。エネルギー消費を抑え、より効率よく・より質素に生きることが第一であるが、他の道もあるかもしれない。この特集記事では、他のエネルギー源からエネルギーを引き出す技術革新についてその一部を紹介する(光電池、藻類の生産する燃料など)。これらの記事を見て、若い科学者やエンジニアが刺激を受け、持続可能なエネルギーに支えられた未来の創出へと繋がることを期待する。
Perspective
Opportunities and challenges for a sustainable energy future
未来の持続可能なエネルギーへ向けた見込みと挑戦
Steven Chu & Arun Majumdar
産業革命以降、綺麗で、安価で、信頼できるエネルギーは人類の繁栄を支え続けてきた。太陽光・水力・微生物を利用したバイオ燃料の生産などは今後のエネルギーを支えるものの一つである。電力の輸送から電力生産なども含めて、未来の持続的なエネルギーに向けてなされている試みや研究についてのレビュー。
Reviews
Materials interface engineering for solution-processed photovoltaics
Michael Graetzel, René A. J. Janssen, David B. Mitzi, Edward H. Sargent
発電効率を増加させ、コストを低下させるために、太陽光電池の改良が強く求められている。溶液で加工された太陽光電池はコストにも見合い、物理的な柔軟性もある。それらの急速な発展が太陽光発電の効率化を支えている。
Membrane-based processes for sustainable power generation using water
Bruce E. Logan, Menachem Elimelech
水は火力・水力発電の際に必要となるものであるが、実は水や汚水そのものが膜(membrane)を活用することでエネルギー源となり得る。海水を用いた発電法は浸透圧を利用するものと、電気透析を利用するものがある。他にも人工的に熱分解性の塩などの溶質を加えることで塩分勾配を作り出すこともできる。さらに、汚水中の有機物を起源とするエネルギー生産も可能であり、この方法は汚水処理とエネルギー生産の両方を同時に可能にする。
Microbial engineering for the production of advanced biofuels
Pamela P. Peralta-Yahya, Fuzhong Zhang, Stephen B. del Cardayre, Jay D. Keasling
微生物の生産するバイオ燃料は石油に似た性質を持つ燃料であり、現在のインフラに介入できる可能性を秘めている。しかし微生物の代謝をコントロールするのは必要があり、原料や生産を行う微生物本体が一つあればいいというわけでもない。燃料生産を最大限に効率化するにはデータに基づいた合成生物学(synthetic-biology)のアプローチが有効である。いくつか成功はあるものの、現行の燃料に張り合えるほどの商業化にはまだ多くの課題が残されている。
Exploiting diversity and synthetic biology for the production of algal biofuels
D. Ryan Georgianna, Stephen P. Mayfield
バイオ燃料は再生可能なエネルギーの中でも、より持続可能なものである。それは特に、耕作地などを必要としない藻類などの生物からつくられるものほどより効果を発揮する。藻類起源のバイオ燃料の実用化と経済化を行うための品種改良とプロセス工学が必要とされている。
Volume 488 Number 7411 pp253-424 (16 August 2012)
INSIGHT: CHEMISTRY AND ENERGY
「化学とエネルギー」特集
世界は今後のエネルギー需要に化石燃料だけに頼ることはできない。別のコストに見合う、持続可能な資源を見つけなければならない。この特集では太陽光発電、水に関連した電力生産、バイオ燃料に焦点を当てる。
※すべてオープンアクセスです。
Editorial
Chemistry and Energy
化学とエネルギー
Rosamund Daw, Joshua Finkelstein, Magdalena Helmer
生命は安価で豊富なエネルギーがなければ存続できないだろう。世界のエネルギーの85%は化石燃料の燃焼から賄われている。科学者は世界が温暖化していることを基本的には認めており、気候変動が海水準上昇や疫病の増加、化石燃料・水・食料を求めて人々が争うのではないかということを懸念している。明らかに、行動が必要とされている。エネルギー消費を抑え、より効率よく・より質素に生きることが第一であるが、他の道もあるかもしれない。この特集記事では、他のエネルギー源からエネルギーを引き出す技術革新についてその一部を紹介する(光電池、藻類の生産する燃料など)。これらの記事を見て、若い科学者やエンジニアが刺激を受け、持続可能なエネルギーに支えられた未来の創出へと繋がることを期待する。
Perspective
Opportunities and challenges for a sustainable energy future
未来の持続可能なエネルギーへ向けた見込みと挑戦
Steven Chu & Arun Majumdar
産業革命以降、綺麗で、安価で、信頼できるエネルギーは人類の繁栄を支え続けてきた。太陽光・水力・微生物を利用したバイオ燃料の生産などは今後のエネルギーを支えるものの一つである。電力の輸送から電力生産なども含めて、未来の持続的なエネルギーに向けてなされている試みや研究についてのレビュー。
Reviews
Materials interface engineering for solution-processed photovoltaics
Michael Graetzel, René A. J. Janssen, David B. Mitzi, Edward H. Sargent
発電効率を増加させ、コストを低下させるために、太陽光電池の改良が強く求められている。溶液で加工された太陽光電池はコストにも見合い、物理的な柔軟性もある。それらの急速な発展が太陽光発電の効率化を支えている。
Membrane-based processes for sustainable power generation using water
Bruce E. Logan, Menachem Elimelech
水は火力・水力発電の際に必要となるものであるが、実は水や汚水そのものが膜(membrane)を活用することでエネルギー源となり得る。海水を用いた発電法は浸透圧を利用するものと、電気透析を利用するものがある。他にも人工的に熱分解性の塩などの溶質を加えることで塩分勾配を作り出すこともできる。さらに、汚水中の有機物を起源とするエネルギー生産も可能であり、この方法は汚水処理とエネルギー生産の両方を同時に可能にする。
Microbial engineering for the production of advanced biofuels
Pamela P. Peralta-Yahya, Fuzhong Zhang, Stephen B. del Cardayre, Jay D. Keasling
微生物の生産するバイオ燃料は石油に似た性質を持つ燃料であり、現在のインフラに介入できる可能性を秘めている。しかし微生物の代謝をコントロールするのは必要があり、原料や生産を行う微生物本体が一つあればいいというわけでもない。燃料生産を最大限に効率化するにはデータに基づいた合成生物学(synthetic-biology)のアプローチが有効である。いくつか成功はあるものの、現行の燃料に張り合えるほどの商業化にはまだ多くの課題が残されている。
Exploiting diversity and synthetic biology for the production of algal biofuels
D. Ryan Georgianna, Stephen P. Mayfield
バイオ燃料は再生可能なエネルギーの中でも、より持続可能なものである。それは特に、耕作地などを必要としない藻類などの生物からつくられるものほどより効果を発揮する。藻類起源のバイオ燃料の実用化と経済化を行うための品種改良とプロセス工学が必要とされている。
新着論文(Nature#7411)
Nature
Volume 488 Number 7411 pp253-424 (16 August 2012)
World View
Why we are poles apart on climate change
何故我々は気候変動からかけ離れているのか
Dan Kahan
問題は一般大衆の理解力ではなく、歪められた科学にある。情報伝達の環境が人々を分裂させるのである。
'Positions on climate change have come to signify the kind of person one is.'
気候変動に対する立場は、個人がどういった人物であるかを示すものになりつつある。
'So whom should we ‘blame’ for the climate- change crisis? To borrow a phrase, it’s the ‘science- communication environment, stupid’ — not stupid people.'
それではいったい誰に気候変動の危機の責任をなすり付けるべきか?言葉を借りるなら、それは「愚かな人々ではなく、愚かなサイエンスコミュニケーションの環境だ」
…to apply the insights that social science has already given us, we will have to be smart enough to avoid reducing what we learn to catchy simplifications.
社会学が我々に既に教えてくれた考えを応用するためには、我々は学んだことをキャッチーな・単純化されたものへと劣化させることを回避できるくらい賢くなる必要がある。
Research Highlights
Curious hyenas crack puzzles
好奇心旺盛のハイエナがパズルを解く
Proc. R. Soc. B http://dx.doi.org/10.1098/ rspb.2012.1450 (2012)
ブチハイエナ(Spotted hyena)は高い問題解決能力を持つ。ミシガン州立大学の研究チームは餌の入った鉄柵でできた箱型パズルをケニアの草原に設置し、62匹のブチハイエナの行動を1年間観察した。彼らは様々な方法を試み、成熟したブチハイエナと若いブチハイエナの両方で、より幅広い方法を試したブチハイエナが見事パズルを解くことができた。
Sloth inner-ear diversity
ナマケモノの内耳の多様性
Proc. R. Soc. B http://dx.doi. org/10.1098/rspb.2012.1212 (2012)
ナマケモノの一種(Three-toed sloth)は驚くほど多様な半規管(内耳にあり、動感覚を司る)を持つ。通常ほ乳類は種間で半規管の構造は似ているが、ナマケモノの怠惰で動きも緩慢という性質がこうした多様化(形状、大きさ、向きなど)のきっかけとなった可能性がある。
Polymers track the Sun
太陽を追いかける高分子
Adv. Funct. Mater. http://dx.doi. org/10.1002/adfm.201202038 (2012)
太陽光発電パネルは太陽の方向を向いている時が最も効果的に発電できるが、それには余分の電力を使って向きをコントロールする必要がある。太陽の熱を吸収して形状を変える高分子をうまく利用することで、常に太陽の方向へと向きを変えられる素材が開発された。
Beetles walk underwater
昆虫は水中を歩く
Proc. R. Soc. B http://dx.doi. org/10.1098/rspb.2012.1297 (2012)
ハムシ(Leaf beetle)は脚の毛状の構造のおかげで水中を歩くことができる。この足は水中を歩くだけでなく、陸上で葉などにへばりつくのにも効果を発揮している。水中で垂直に小さなものを貼付けることのできる高分子が開発された。
>more read
Nanofibres foster blood vessels
ナノファイバーが血管を育てる
Sci. Transl. Med. 4, 146ra109 (2012)
自ら集合するナノファイバーは心臓発作で傷ついた心臓が回復する過程で血管の修復を助けるらしい。それにはVEGFと呼ばれるタンパク質も同時に投与してやる必要がある。
Heady dog genetics
向こう見ずな犬の遺伝子
人間による人工的な犬の交配が様々な頭の形をした犬を生み出した。異なる頭の形をした犬やオオカミについて頭蓋骨の比較やDNA分析を行ったところ、5つの遺伝子が頭の形状に関与している可能性が示唆された。そのうち、BMP3と呼ばれる遺伝子の変異が頭の丸い犬(ブルドッグやペキニーズ)において確認された。他にもパグ、ボストン・テリア、シーズーなどで見られたという。
News & Views
The trouble with the bubble
妄想に関するトラブル
Angelicque E. White
これまでの研究では、海洋の窒素収支では固定される窒素量が不足していることが示唆されてきている。だが、生物活動を介する窒素取り込みの速度が上方修正されたことで、この見方が変わりそうとのこと。
One of the first of the second stars
第二の星の初めのうちの一つ
John Cowan
天の川銀河の形成の比較的すぐ後に生まれた星の化学組成から、初期宇宙で星が形成された仕組みについての一般的な考え方に疑問が投げかけられることになった。
Letters
A massive, cooling-flow-induced starburst in the core of a luminous cluster of galaxies
M. McDonald et al.
X線、可視光、赤外線の観測から、極端に明るい銀河の中心で非常に早く星が形成されていることが明らかになった。銀河団内の濃いプラズマが流れ込むことによる冷却がきっかけとなって起こっているらしい。この銀河団の中心銀河にあるかなりの割合の星が、(現在考えられているように)もっぱら合体によって形成されたのではなく、銀河団内物質の降着を通して形成された可能性を示唆している。
Doubling of marine dinitrogen-fixation rates based on direct measurements
Tobias Großkopf, Wiebke Mohr, Tina Baustian, Harald Schunck, Diana Gill, Marcel M. M. Kuypers, Gaute Lavik, Ruth A. Schmitz, Douglas W. R. Wallace & Julie LaRoche
生物学的な窒素固定は、海洋への窒素の最大の供給源であり、したがって海洋の窒素貯蔵量や一次生産力に大きな影響を及ぼす。海洋堆積物から得られる窒素同位体データは、海洋窒素の貯蔵量は過去3000年間均衡がとれていることを示唆している。しかし、窒素の損失は窒素固定による増加を約200 TgN/yr 上回っており、直接測定に基づいて均衡のとれた海洋窒素収支を示すことは、これまで困難とされてきた。大西洋から得られたデータから、最も広く用いられている海洋の窒素固定速度の測定法は、新しく開発された方法に比べて窒素を固定する微生物(ジアゾ栄養生物; diazotrophs)の寄与を過小評価していることを示す。大西洋の海盆全体の窒素固定速度を計算すると、従来法では14 ± 1 TgN/yr、新しい方法では24 ± 1 TgN/yr となる。Trichodesmium 以外の窒素固定微生物の寄与がこれまでに考えられていたよりもはるかに重要であることが分かった。
More extreme swings of the South Pacific convergence zone due to greenhouse warming
Wenju Cai, Matthieu Lengaigne, Simon Borlace, Matthew Collins, Tim Cowan, Michael J. McPhaden, Axel Timmermann, Scott Power, Josephine Brown, Christophe Menkes, Arona Ngari, Emmanuel M. Vincent & Matthew J. Widlansky
南太平洋収束帯(SPCZ)は南半球において最も広大かつ持続性のある降雨帯であり、赤道西太平洋から南東方向に、フランス領ポリネシアまで広がっている。その降雨勾配が大きいため、SPCZの位置のわずかな変位が、水文気候条件や、その領域極端な気象現象の頻度に大きな変化をもたらす(例えば脆弱な島国における干ばつ・洪水・熱帯低気圧など)。SPCZの位置は、ENSOに伴って気候学的平均の位置から変動する。中程度のエルニーニョ現象が起きている場合は北方へ、ラニーニャ現象が起きている場合は南方へ数度移動する。しかし、強いエルニーニョ現象が起きると、SPCZは極端に揺れ動いて緯度にして最大10度赤道方向に移動し、崩れてより帯状の構造になり、気象に厳しい影響をもたらす。したがって、変化しつつある気候においてSPCZの特性がどう変化するかを解明することは、科学的にも社会経済的にも広く関心を集めている。本論文では、ENSOがどのように変化するかについて共通理解がなくても、地球温暖化に応答して、1891~1990年と、1991~2090年との間で、帯状のSPCZ現象の発生がほぼ倍増することを裏付ける気候モデルによる証拠を示す。我々は、結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP3とCMIP5)のマルチモデルデータベースの中の、SPCZのような現象をシミュレートできる気候モデルを集めて、SPCZ現象の増加を見積もっている。この変化は、予測されている赤道太平洋の温暖化の強化によって生じ、帯状のSPCZ現象の影響を最も受けやすい太平洋の島国全体にわたって、極端な気象現象の発生頻度を増加させる可能性がある。
Reconstructing Native American population history
David Reich et al.
南北アメリカ大陸の人類定住に関しては、遺伝学、考古学、および言語学の面から幅広く研究が行われてきたが、重要ないくつかの問題が解決されていない。意見が分かれているものの1つに、アメリカ大陸への定住が、シベリアからの1回の移動で成立したのか、それとも移動が複数回起こって成立したのかという問題がある。アメリカ先住民の52集団およびシベリアの17集団からDNAを採取し分析したところ、アメリカ先住民がアジアからの少なくとも3本の遺伝子流動に由来することが明らかになった。アメリカ先住民の多くは、我々が「ファースト・アメリカン」と呼ぶ単一の祖先集団を唯一の起源としている。しかし、北極圏のエスキモー・アレウト語族は、系統のほぼ半分をアジアからの第二の遺伝子流動から受け継ぎ、カナダのナデネ語族であるチペワイアン族は、系統の約10分の1を第三の遺伝子流動から受け継いでいる。また南アメリカでは分岐後の遺伝子流動がほとんど起こらなかったことがわかった。大きな例外の1つはパナマ地峡の両側に住むチブチャ語族で、南北両方のアメリカ大陸の系統を受け継いでいる。
Volume 488 Number 7411 pp253-424 (16 August 2012)
World View
Why we are poles apart on climate change
何故我々は気候変動からかけ離れているのか
Dan Kahan
問題は一般大衆の理解力ではなく、歪められた科学にある。情報伝達の環境が人々を分裂させるのである。
'Positions on climate change have come to signify the kind of person one is.'
気候変動に対する立場は、個人がどういった人物であるかを示すものになりつつある。
'So whom should we ‘blame’ for the climate- change crisis? To borrow a phrase, it’s the ‘science- communication environment, stupid’ — not stupid people.'
それではいったい誰に気候変動の危機の責任をなすり付けるべきか?言葉を借りるなら、それは「愚かな人々ではなく、愚かなサイエンスコミュニケーションの環境だ」
…to apply the insights that social science has already given us, we will have to be smart enough to avoid reducing what we learn to catchy simplifications.
社会学が我々に既に教えてくれた考えを応用するためには、我々は学んだことをキャッチーな・単純化されたものへと劣化させることを回避できるくらい賢くなる必要がある。
Research Highlights
Curious hyenas crack puzzles
好奇心旺盛のハイエナがパズルを解く
Proc. R. Soc. B http://dx.doi.org/10.1098/ rspb.2012.1450 (2012)
ブチハイエナ(Spotted hyena)は高い問題解決能力を持つ。ミシガン州立大学の研究チームは餌の入った鉄柵でできた箱型パズルをケニアの草原に設置し、62匹のブチハイエナの行動を1年間観察した。彼らは様々な方法を試み、成熟したブチハイエナと若いブチハイエナの両方で、より幅広い方法を試したブチハイエナが見事パズルを解くことができた。
Sloth inner-ear diversity
ナマケモノの内耳の多様性
Proc. R. Soc. B http://dx.doi. org/10.1098/rspb.2012.1212 (2012)
ナマケモノの一種(Three-toed sloth)は驚くほど多様な半規管(内耳にあり、動感覚を司る)を持つ。通常ほ乳類は種間で半規管の構造は似ているが、ナマケモノの怠惰で動きも緩慢という性質がこうした多様化(形状、大きさ、向きなど)のきっかけとなった可能性がある。
Polymers track the Sun
太陽を追いかける高分子
Adv. Funct. Mater. http://dx.doi. org/10.1002/adfm.201202038 (2012)
太陽光発電パネルは太陽の方向を向いている時が最も効果的に発電できるが、それには余分の電力を使って向きをコントロールする必要がある。太陽の熱を吸収して形状を変える高分子をうまく利用することで、常に太陽の方向へと向きを変えられる素材が開発された。
Beetles walk underwater
昆虫は水中を歩く
Proc. R. Soc. B http://dx.doi. org/10.1098/rspb.2012.1297 (2012)
ハムシ(Leaf beetle)は脚の毛状の構造のおかげで水中を歩くことができる。この足は水中を歩くだけでなく、陸上で葉などにへばりつくのにも効果を発揮している。水中で垂直に小さなものを貼付けることのできる高分子が開発された。
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Nanofibres foster blood vessels
ナノファイバーが血管を育てる
Sci. Transl. Med. 4, 146ra109 (2012)
自ら集合するナノファイバーは心臓発作で傷ついた心臓が回復する過程で血管の修復を助けるらしい。それにはVEGFと呼ばれるタンパク質も同時に投与してやる必要がある。
Heady dog genetics
向こう見ずな犬の遺伝子
人間による人工的な犬の交配が様々な頭の形をした犬を生み出した。異なる頭の形をした犬やオオカミについて頭蓋骨の比較やDNA分析を行ったところ、5つの遺伝子が頭の形状に関与している可能性が示唆された。そのうち、BMP3と呼ばれる遺伝子の変異が頭の丸い犬(ブルドッグやペキニーズ)において確認された。他にもパグ、ボストン・テリア、シーズーなどで見られたという。
News & Views
The trouble with the bubble
妄想に関するトラブル
Angelicque E. White
これまでの研究では、海洋の窒素収支では固定される窒素量が不足していることが示唆されてきている。だが、生物活動を介する窒素取り込みの速度が上方修正されたことで、この見方が変わりそうとのこと。
One of the first of the second stars
第二の星の初めのうちの一つ
John Cowan
天の川銀河の形成の比較的すぐ後に生まれた星の化学組成から、初期宇宙で星が形成された仕組みについての一般的な考え方に疑問が投げかけられることになった。
Letters
A massive, cooling-flow-induced starburst in the core of a luminous cluster of galaxies
M. McDonald et al.
X線、可視光、赤外線の観測から、極端に明るい銀河の中心で非常に早く星が形成されていることが明らかになった。銀河団内の濃いプラズマが流れ込むことによる冷却がきっかけとなって起こっているらしい。この銀河団の中心銀河にあるかなりの割合の星が、(現在考えられているように)もっぱら合体によって形成されたのではなく、銀河団内物質の降着を通して形成された可能性を示唆している。
Doubling of marine dinitrogen-fixation rates based on direct measurements
Tobias Großkopf, Wiebke Mohr, Tina Baustian, Harald Schunck, Diana Gill, Marcel M. M. Kuypers, Gaute Lavik, Ruth A. Schmitz, Douglas W. R. Wallace & Julie LaRoche
生物学的な窒素固定は、海洋への窒素の最大の供給源であり、したがって海洋の窒素貯蔵量や一次生産力に大きな影響を及ぼす。海洋堆積物から得られる窒素同位体データは、海洋窒素の貯蔵量は過去3000年間均衡がとれていることを示唆している。しかし、窒素の損失は窒素固定による増加を約200 TgN/yr 上回っており、直接測定に基づいて均衡のとれた海洋窒素収支を示すことは、これまで困難とされてきた。大西洋から得られたデータから、最も広く用いられている海洋の窒素固定速度の測定法は、新しく開発された方法に比べて窒素を固定する微生物(ジアゾ栄養生物; diazotrophs)の寄与を過小評価していることを示す。大西洋の海盆全体の窒素固定速度を計算すると、従来法では14 ± 1 TgN/yr、新しい方法では24 ± 1 TgN/yr となる。Trichodesmium 以外の窒素固定微生物の寄与がこれまでに考えられていたよりもはるかに重要であることが分かった。
More extreme swings of the South Pacific convergence zone due to greenhouse warming
Wenju Cai, Matthieu Lengaigne, Simon Borlace, Matthew Collins, Tim Cowan, Michael J. McPhaden, Axel Timmermann, Scott Power, Josephine Brown, Christophe Menkes, Arona Ngari, Emmanuel M. Vincent & Matthew J. Widlansky
南太平洋収束帯(SPCZ)は南半球において最も広大かつ持続性のある降雨帯であり、赤道西太平洋から南東方向に、フランス領ポリネシアまで広がっている。その降雨勾配が大きいため、SPCZの位置のわずかな変位が、水文気候条件や、その領域極端な気象現象の頻度に大きな変化をもたらす(例えば脆弱な島国における干ばつ・洪水・熱帯低気圧など)。SPCZの位置は、ENSOに伴って気候学的平均の位置から変動する。中程度のエルニーニョ現象が起きている場合は北方へ、ラニーニャ現象が起きている場合は南方へ数度移動する。しかし、強いエルニーニョ現象が起きると、SPCZは極端に揺れ動いて緯度にして最大10度赤道方向に移動し、崩れてより帯状の構造になり、気象に厳しい影響をもたらす。したがって、変化しつつある気候においてSPCZの特性がどう変化するかを解明することは、科学的にも社会経済的にも広く関心を集めている。本論文では、ENSOがどのように変化するかについて共通理解がなくても、地球温暖化に応答して、1891~1990年と、1991~2090年との間で、帯状のSPCZ現象の発生がほぼ倍増することを裏付ける気候モデルによる証拠を示す。我々は、結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP3とCMIP5)のマルチモデルデータベースの中の、SPCZのような現象をシミュレートできる気候モデルを集めて、SPCZ現象の増加を見積もっている。この変化は、予測されている赤道太平洋の温暖化の強化によって生じ、帯状のSPCZ現象の影響を最も受けやすい太平洋の島国全体にわたって、極端な気象現象の発生頻度を増加させる可能性がある。
Reconstructing Native American population history
David Reich et al.
南北アメリカ大陸の人類定住に関しては、遺伝学、考古学、および言語学の面から幅広く研究が行われてきたが、重要ないくつかの問題が解決されていない。意見が分かれているものの1つに、アメリカ大陸への定住が、シベリアからの1回の移動で成立したのか、それとも移動が複数回起こって成立したのかという問題がある。アメリカ先住民の52集団およびシベリアの17集団からDNAを採取し分析したところ、アメリカ先住民がアジアからの少なくとも3本の遺伝子流動に由来することが明らかになった。アメリカ先住民の多くは、我々が「ファースト・アメリカン」と呼ぶ単一の祖先集団を唯一の起源としている。しかし、北極圏のエスキモー・アレウト語族は、系統のほぼ半分をアジアからの第二の遺伝子流動から受け継ぎ、カナダのナデネ語族であるチペワイアン族は、系統の約10分の1を第三の遺伝子流動から受け継いでいる。また南アメリカでは分岐後の遺伝子流動がほとんど起こらなかったことがわかった。大きな例外の1つはパナマ地峡の両側に住むチブチャ語族で、南北両方のアメリカ大陸の系統を受け継いでいる。
2012年8月15日水曜日
気になった一文集(English ver. No.1)
... how science is a self-correcting process and that thousands of independent studies from various institutions and countries build on one another to form our current state of knowledge.
Ilissa B. Ocko、 Michael E. Mannの書籍紹介にて。Science 337 pp. 296
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
It's the future that doesn't look kind.
Robert F. Service (Science 13 July 2012) pp. 148
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Give me half a tanker of iron and I'll give you the next ice age.
John Martinの有名な言葉。Ken O. Buesseler (Nature 19 July 2012) pp. 305
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Probably the overall biggest risk is our lack of imagination.
Steven Lee、Natureの火星探査ローバー着陸の記事より。Nature 2 August 2012 pp. 16
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…the warming itself could be throwing a monkey wrench in the works by stressing plants and slowing their uptake of carbon dioxide. Some researchers have in fact reported a worrying slowing of carbon dioxide uptake in one part of the globe or another.
News of the weekの地球の二酸化炭素吸収に関する記事より。Science (3 August 2012) pp. 508
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…statistics let us say with a high degree of confidence that we would not have had such an extreme anomaly this summer in the absence of global warming
NASA/GISSのJames Hansenの言葉。
アメリカの夏の熱波が近年頻繁に起きていることを受けて。NASAのNews
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Because mineral production continues to be necessary for economic development, the recycling and reuse of mining and mineral-processing wastes are important management strategies now and in the future
Science 記事(Vol. 337 pp. 702-703)。鉱山開発とそれに伴う廃棄物の発生を受けて。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
We’re going to try to string together as many pearls as we think we can identify from orbit, and then explore them as we drive along
Nature記事(vol. 488 pp. 137-138) 探査機Curiocityの火星着陸成功を受けて。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Many fear that climate change will lead to coastal flooding, an increase in the prevalence of vector- and water-borne infectious diseases, and conflict over fossil fuels, water and food. Clearly, action is needed.
Nature記事(Vol. 488 pp. 293) 新たなエネルギー源のレビュー。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Because credibility is conferred by the audience, not the speaker, it is essential that scientists be seen as objective, citing the facts without an overlay of their own personal values.
Science記事(Vol. 337 pp. 777) 編集部。サイエンスコミュニケーションについて。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
More analytical development and more empirical validation is necessary to fully realize the potential of boron isotopes as a paleo-pH measure, but great care needs to be taken to insure we do not step backwards in this endeavor.
Barbel Honisch et al. (2007, GCA) pp. 1640
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Barbel Honisch et al. (2007, GCA) pp. 1640
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It's the future that doesn't look kind.
Robert F. Service (Science 13 July 2012) pp. 148
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Give me half a tanker of iron and I'll give you the next ice age.
John Martinの有名な言葉。Ken O. Buesseler (Nature 19 July 2012) pp. 305
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Probably the overall biggest risk is our lack of imagination.
Steven Lee、Natureの火星探査ローバー着陸の記事より。Nature 2 August 2012 pp. 16
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…the warming itself could be throwing a monkey wrench in the works by stressing plants and slowing their uptake of carbon dioxide. Some researchers have in fact reported a worrying slowing of carbon dioxide uptake in one part of the globe or another.
News of the weekの地球の二酸化炭素吸収に関する記事より。Science (3 August 2012) pp. 508
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…statistics let us say with a high degree of confidence that we would not have had such an extreme anomaly this summer in the absence of global warming
NASA/GISSのJames Hansenの言葉。
アメリカの夏の熱波が近年頻繁に起きていることを受けて。NASAのNews
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Because mineral production continues to be necessary for economic development, the recycling and reuse of mining and mineral-processing wastes are important management strategies now and in the future
Science 記事(Vol. 337 pp. 702-703)。鉱山開発とそれに伴う廃棄物の発生を受けて。
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We’re going to try to string together as many pearls as we think we can identify from orbit, and then explore them as we drive along
Nature記事(vol. 488 pp. 137-138) 探査機Curiocityの火星着陸成功を受けて。
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Many fear that climate change will lead to coastal flooding, an increase in the prevalence of vector- and water-borne infectious diseases, and conflict over fossil fuels, water and food. Clearly, action is needed.
Nature記事(Vol. 488 pp. 293) 新たなエネルギー源のレビュー。
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Because credibility is conferred by the audience, not the speaker, it is essential that scientists be seen as objective, citing the facts without an overlay of their own personal values.
Science記事(Vol. 337 pp. 777) 編集部。サイエンスコミュニケーションについて。
気になった一文集(English ver. No.1)
... how science is a self-correcting process and that thousands of independent studies from various institutions and countries build on one another to form our current state of knowledge.
Ilissa B. Ocko、 Michael E. Mannの書籍紹介にて。Science 337 pp. 296
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It's the future that doesn't look kind.
Robert F. Service (Science 13 July 2012) pp. 148
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Give me half a tanker of iron and I'll give you the next ice age.
John Martinの有名な言葉。Ken O. Buesseler (Nature 19 July 2012) pp. 305
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Probably the overall biggest risk is our lack of imagination.
Steven Lee、Natureの火星探査ローバー着陸の記事より。Nature 2 August 2012 pp. 16
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…the warming itself could be throwing a monkey wrench in the works by stressing plants and slowing their uptake of carbon dioxide. Some researchers have in fact reported a worrying slowing of carbon dioxide uptake in one part of the globe or another.
News of the weekの地球の二酸化炭素吸収に関する記事より。Science (3 August 2012) pp. 508
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…statistics let us say with a high degree of confidence that we would not have had such an extreme anomaly this summer in the absence of global warming
NASA/GISSのJames Hansenの言葉。
アメリカの夏の熱波が近年頻繁に起きていることを受けて。NASAのNews
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Because mineral production continues to be necessary for economic development, the recycling and reuse of mining and mineral-processing wastes are important management strategies now and in the future
Science 記事(Vol. 337 pp. 702-703)。鉱山開発とそれに伴う廃棄物の発生を受けて。
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We’re going to try to string together as many pearls as we think we can identify from orbit, and then explore them as we drive along
Nature記事(vol. 488 pp. 137-138) 探査機Curiocityの火星着陸成功を受けて。
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Many fear that climate change will lead to coastal flooding, an increase in the prevalence of vector- and water-borne infectious diseases, and conflict over fossil fuels, water and food. Clearly, action is needed.
Nature記事(Vol. 488 pp. 293) 新たなエネルギー源のレビュー。
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Because credibility is conferred by the audience, not the speaker, it is essential that scientists be seen as objective, citing the facts without an overlay of their own personal values.
Science記事(Vol. 337 pp. 777) 編集部。サイエンスコミュニケーションについて。
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More analytical development and more empirical validation is necessary to fully realize the potential of boron isotopes as a paleo-pH measure, but great care needs to be taken to insure we do not step backwards in this endeavor.
Barbel Honisch et al. (2007, GCA) pp. 1640
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Barbel Honisch et al. (2007, GCA) pp. 1640
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It's the future that doesn't look kind.
Robert F. Service (Science 13 July 2012) pp. 148
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Give me half a tanker of iron and I'll give you the next ice age.
John Martinの有名な言葉。Ken O. Buesseler (Nature 19 July 2012) pp. 305
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Probably the overall biggest risk is our lack of imagination.
Steven Lee、Natureの火星探査ローバー着陸の記事より。Nature 2 August 2012 pp. 16
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…the warming itself could be throwing a monkey wrench in the works by stressing plants and slowing their uptake of carbon dioxide. Some researchers have in fact reported a worrying slowing of carbon dioxide uptake in one part of the globe or another.
News of the weekの地球の二酸化炭素吸収に関する記事より。Science (3 August 2012) pp. 508
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…statistics let us say with a high degree of confidence that we would not have had such an extreme anomaly this summer in the absence of global warming
NASA/GISSのJames Hansenの言葉。
アメリカの夏の熱波が近年頻繁に起きていることを受けて。NASAのNews
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Because mineral production continues to be necessary for economic development, the recycling and reuse of mining and mineral-processing wastes are important management strategies now and in the future
Science 記事(Vol. 337 pp. 702-703)。鉱山開発とそれに伴う廃棄物の発生を受けて。
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We’re going to try to string together as many pearls as we think we can identify from orbit, and then explore them as we drive along
Nature記事(vol. 488 pp. 137-138) 探査機Curiocityの火星着陸成功を受けて。
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Many fear that climate change will lead to coastal flooding, an increase in the prevalence of vector- and water-borne infectious diseases, and conflict over fossil fuels, water and food. Clearly, action is needed.
Nature記事(Vol. 488 pp. 293) 新たなエネルギー源のレビュー。
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Because credibility is conferred by the audience, not the speaker, it is essential that scientists be seen as objective, citing the facts without an overlay of their own personal values.
Science記事(Vol. 337 pp. 777) 編集部。サイエンスコミュニケーションについて。
新着論文(Science#6095)
Science
VOL 337, ISSUE 6095, PAGES 613-768 (10 August 2012)
EDITORIAL
An End to Waste?
廃棄の終わり?
Janet G. Hering
現在工業国においてなされているゴミの扱いというのは持続不可能なものである。しかしながら我々は行いを変えようとはしていない。資源になる可能性のあるゴミをうまく利用する技術を発展させる必要がある。またゴミを重要な社会問題として取り上げる必要もある。社会がゴミの重要性を認識することが消費・生産の双方にとって重要である。
Editors' Choice
Redox Dragonflies
還元的なトンボ
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 109, 10.1073/ pnas.1207114109 (2012).
生物は種や性別を主張したり、カモフラージュをするために様々な色を用いる。例えば、昆虫・鳥・哺乳類の中には色で性的な成熟を表現するものもいる。Crocothemis、Sympetrumという属に属するトンボは性的な成熟の度合いで体表の色を変えることが知られており、それは表皮の酸化還元状態によって決まっているらしい。
Silk Replaces Refrigeration
絹が冷蔵に取って代わる
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 109, 10.1073/ pnas.1206210109 (2012).
ワクチンや抗生物質の効果を最大限に発揮するにはそれを低温状態で保管することが必要不可欠であるが、特に発展途上国においてワクチンを冷蔵保存することはコストがかかり負担となっている。絹のフィブロイン(fibroin)と呼ばれる構成成分はこうした物質を保護するのに非常に有用らしい。温度などによる劣化を防ぐ作用がある。
Understanding Past CO2
過去のCO2を理解する
Earth Planet. Sci. Lett. 341–344, 243 (2012).
新生代を通して地球の寒冷化とCO2濃度の減少とは一致して起きてきたが、突発的なCO2濃度の上昇イベントは現在の人為起源のCO2排出が気候に与える影響を評価するのに助けとなる可能性がある。15Maの中新世(Miocene)には地表面気温は3℃程度高く、海水準も上昇していたと考えられているが、海洋堆積物中の浮遊性有孔虫のホウ素同位体分析から大気中の二酸化炭素濃度は400ppm程度であったと推測されている。このことから、南極の氷床は従来考えられていたよりも二酸化炭素による温室効果に対して感度が高い(変動しやすい)可能性が示された。
※コメント
この研究は自分の研究とも非常に関係していますが、過去の大気中二酸化炭素濃度を見積もるのはそう簡単なことではありません。過去の海水のアルカリ度・水温の推定にも大きな誤差が含まれるためです。また海水中のホウ素同位体も変動していたと考えられています。まだまだ研究が必要な分野です。
Cover Stories: Seeing Waste in a New Light
表紙の物語:ゴミを新しい光の下で見る
芸術家は再利用可能な物質の美しさを再認識し、写真を通してそれらに生命を与える。
Perspectives
Ice Sheets in Transition
変遷しつつある氷床
Peter U. Clark
海洋底堆積物から復元された温度は過去150万年間、全球の氷床量が変動し続けてきたことを示している。
Low-Temperature Oxidation of Methane
低温でのメタンの酸化
Robert J. Farrauto
メタン酸化に有望な触媒について。
Research Article
Evolution of Ocean Temperature and Ice Volume Through the Mid-Pleistocene Climate Transition
H. Elderfield, P. Ferretti, M. Greaves, S. Crowhurst, I. N. McCave, D. Hodell, and A. M. Piotrowski
地球の気候は1.25-0.7Maの間に劇的な変化を経験した(MPT; mid-Pleistocene transition)。それまで卓越していた41ka周期が100ka周期へと変動した。それは海洋底堆積物中の底性有孔虫の殻のd18Oに記録されているが、d18Oは深層水の温度にも影響を受けてしまう。温度の変化と氷床量の変動に伴う海水のd18Oの変化を分けて評価したところ、MPTは南極氷床の0.9Maにおける大規模な崩壊がきっかけとなって起きていた可能性が示唆される。
Reports
Exceptional Activity for Methane Combustion over Modular Pd@CeO2 Subunits on Functionalized Al2O3
M. Cargnello, J. J. Delgado Jaén, J. C. Hernández Garrido, K. Bakhmutsky, T. Montini, J. J. Calvino Gámez, R. J. Gorte, and P. Fornasiero
メタンは二酸化炭素よりも強力な温室効果ガスであるが、特定の触媒の下では完全に燃焼させることができる。
The Provenances of Asteroids, and Their Contributions to the Volatile Inventories of the Terrestrial Planets
C. M. O’D. Alexander, R. Bowden, M. L. Fogel, K. T. Howard, C. D. K. Herd, and L. R. Nittler
地球上に存在する水素・炭素・窒素の起源を明らかにすることは惑星形成時の水と生命の起源を理解する上で重要である。炭酸塩質のコンドライト隕石中の水分のD/H比は土星の衛星:エンセラダスを起源とする隕石のD/H比とは全く異なっており、太陽系の中でも異なる領域において形成されたことを示唆している。またClコンドライトの水素・窒素同位体はそれらが地球の揮発性物質を起源としていることを示唆している。
Earthquake in a Maze: Compressional Rupture Branching During the 2012 Mw 8.6 Sumatra Earthquake
L. Meng, J.-P. Ampuero, J. Stock, Z. Duputel, Y. Luo, and V. C. Tsai
strike-slip型の地震としては最大のスマトラ沖地震はプレート境界内部で起こった地震のメカニズムを明らかにする上で助けとなるかもしれない。
VOL 337, ISSUE 6095, PAGES 613-768 (10 August 2012)
EDITORIAL
An End to Waste?
廃棄の終わり?
Janet G. Hering
現在工業国においてなされているゴミの扱いというのは持続不可能なものである。しかしながら我々は行いを変えようとはしていない。資源になる可能性のあるゴミをうまく利用する技術を発展させる必要がある。またゴミを重要な社会問題として取り上げる必要もある。社会がゴミの重要性を認識することが消費・生産の双方にとって重要である。
Editors' Choice
Redox Dragonflies
還元的なトンボ
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 109, 10.1073/ pnas.1207114109 (2012).
生物は種や性別を主張したり、カモフラージュをするために様々な色を用いる。例えば、昆虫・鳥・哺乳類の中には色で性的な成熟を表現するものもいる。Crocothemis、Sympetrumという属に属するトンボは性的な成熟の度合いで体表の色を変えることが知られており、それは表皮の酸化還元状態によって決まっているらしい。
Silk Replaces Refrigeration
絹が冷蔵に取って代わる
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 109, 10.1073/ pnas.1206210109 (2012).
ワクチンや抗生物質の効果を最大限に発揮するにはそれを低温状態で保管することが必要不可欠であるが、特に発展途上国においてワクチンを冷蔵保存することはコストがかかり負担となっている。絹のフィブロイン(fibroin)と呼ばれる構成成分はこうした物質を保護するのに非常に有用らしい。温度などによる劣化を防ぐ作用がある。
Understanding Past CO2
過去のCO2を理解する
Earth Planet. Sci. Lett. 341–344, 243 (2012).
新生代を通して地球の寒冷化とCO2濃度の減少とは一致して起きてきたが、突発的なCO2濃度の上昇イベントは現在の人為起源のCO2排出が気候に与える影響を評価するのに助けとなる可能性がある。15Maの中新世(Miocene)には地表面気温は3℃程度高く、海水準も上昇していたと考えられているが、海洋堆積物中の浮遊性有孔虫のホウ素同位体分析から大気中の二酸化炭素濃度は400ppm程度であったと推測されている。このことから、南極の氷床は従来考えられていたよりも二酸化炭素による温室効果に対して感度が高い(変動しやすい)可能性が示された。
※コメント
この研究は自分の研究とも非常に関係していますが、過去の大気中二酸化炭素濃度を見積もるのはそう簡単なことではありません。過去の海水のアルカリ度・水温の推定にも大きな誤差が含まれるためです。また海水中のホウ素同位体も変動していたと考えられています。まだまだ研究が必要な分野です。
Cover Stories: Seeing Waste in a New Light
表紙の物語:ゴミを新しい光の下で見る
芸術家は再利用可能な物質の美しさを再認識し、写真を通してそれらに生命を与える。
Perspectives
Ice Sheets in Transition
変遷しつつある氷床
Peter U. Clark
海洋底堆積物から復元された温度は過去150万年間、全球の氷床量が変動し続けてきたことを示している。
Low-Temperature Oxidation of Methane
低温でのメタンの酸化
Robert J. Farrauto
メタン酸化に有望な触媒について。
Research Article
Evolution of Ocean Temperature and Ice Volume Through the Mid-Pleistocene Climate Transition
H. Elderfield, P. Ferretti, M. Greaves, S. Crowhurst, I. N. McCave, D. Hodell, and A. M. Piotrowski
地球の気候は1.25-0.7Maの間に劇的な変化を経験した(MPT; mid-Pleistocene transition)。それまで卓越していた41ka周期が100ka周期へと変動した。それは海洋底堆積物中の底性有孔虫の殻のd18Oに記録されているが、d18Oは深層水の温度にも影響を受けてしまう。温度の変化と氷床量の変動に伴う海水のd18Oの変化を分けて評価したところ、MPTは南極氷床の0.9Maにおける大規模な崩壊がきっかけとなって起きていた可能性が示唆される。
Reports
Exceptional Activity for Methane Combustion over Modular Pd@CeO2 Subunits on Functionalized Al2O3
M. Cargnello, J. J. Delgado Jaén, J. C. Hernández Garrido, K. Bakhmutsky, T. Montini, J. J. Calvino Gámez, R. J. Gorte, and P. Fornasiero
メタンは二酸化炭素よりも強力な温室効果ガスであるが、特定の触媒の下では完全に燃焼させることができる。
The Provenances of Asteroids, and Their Contributions to the Volatile Inventories of the Terrestrial Planets
C. M. O’D. Alexander, R. Bowden, M. L. Fogel, K. T. Howard, C. D. K. Herd, and L. R. Nittler
地球上に存在する水素・炭素・窒素の起源を明らかにすることは惑星形成時の水と生命の起源を理解する上で重要である。炭酸塩質のコンドライト隕石中の水分のD/H比は土星の衛星:エンセラダスを起源とする隕石のD/H比とは全く異なっており、太陽系の中でも異なる領域において形成されたことを示唆している。またClコンドライトの水素・窒素同位体はそれらが地球の揮発性物質を起源としていることを示唆している。
Earthquake in a Maze: Compressional Rupture Branching During the 2012 Mw 8.6 Sumatra Earthquake
L. Meng, J.-P. Ampuero, J. Stock, Z. Duputel, Y. Luo, and V. C. Tsai
strike-slip型の地震としては最大のスマトラ沖地震はプレート境界内部で起こった地震のメカニズムを明らかにする上で助けとなるかもしれない。
新着論文(PNAS, EPSL)
PNAS
☆31 July 2012; Vol. 109, No. 31
Earth, Atmospheric, and Planetary Sciences
Hot days induced by precipitation deficits at the global scale
Brigitte Mueller and Sonia I. Seneviratne
温暖化によって熱波の頻度が増加すると考えられている。原因は水分量の低下と考えられているが、そうした減少が全球的かどうかを評価してみたところ、極端に暑い日の日数と降水量の減少との間に強い相関があることが分かった。土壌水分と気温との間の相関は従来考えられていたよりも普遍的かもしれない。
☆7 August 2012; Vol. 109, No. 32
Earth, Atmospheric, and Planetary Sciences
Developed and developing world responsibilities for historical climate change and CO2 mitigation
Ting Wei et al.
2010年11月にメキシコ・カンクンにおいて行われた国連の気候変動に関する枠組みを話し合う会議では、温暖化を産業革命前の気温に比べて2℃の温度上昇に食い止めるという目標が設定されたが、今後排出されるであろう温室効果ガスの削減を各国が均等に責任を負うべきか、或いはどういった割合で負うべきかについては交渉がうまくいっていない。その理由の一つが、現在の温暖化がこれまでに先進国が排出した温室効果ガスが主な原因だからである。2つの地球システムモデルを用いてこれまでの温暖化とこれからの温暖化をモデリングしたところ、2005年までの気温上昇・海面温度上昇・海氷減少のうち、60-80%は先進国が原因であり、発展途上国は20-40%であることが分かった。カンクンにおいて定められた目標を達成すれば、温度上昇を’business as usual’モデルの温度上昇に比べて3分の1から3分の2に減らすことができると考えられる。
EPSL
☆Volumes 333–334, Pages 1-332, 1 June 2012
Magnetotactic bacterial response to Antarctic dust supply during the Palaeocene–Eocene thermal maximum
Juan C. Larrasoaña, Andrew P. Roberts, Liao Chang, Stephen A. Schellenberg, John D. Fitz Gerald, Richard D. Norris, James C. Zachos
PETMの海洋堆積物において磁性が大きく変動することは、気温上昇に伴う風化促進と海底下のバクテリアによる磁化との関連によって説明されることがある。しかしKergulen Plateauの南部で得られた堆積物コアではPETMの前後でもこの特徴が見られる。これは南極からもたらされるダストに含まれる鉄による肥沃化→有機物沈降→鉄還元が起きやすい環境の形成→磁性バクテリアによる磁性鉱物形成という一連のプロセスによって説明される。
Uranium-236 as a new oceanic tracer: A first depth profile in the Japan Sea and comparison with caesium-137
Aya Sakaguchi, Akinobu Kadokura, Peter Steier, Yoshio Takahashi, Kiyoshi Shizuma, Masaharu Hoshi, Tomoeki Nakakuki, Masayoshi Yamamoto
1960年代の大気中核実験の結果放出された放射性核種(137Cs、236U)が海洋循環のトレーサーとして使えるかを日本海の海水について検証。236Uは深度とともに減少し、137Csと似たような分布をした。しかし、137Cs/236U比は深度2,000m以降小さくなった。堆積物の懸濁物質中の236Uは無視できる程度しか含まれていないため、236Uは海洋循環のトレーサーとして有望である。測定はAMSで行うらしい。
Calibrated prediction of Pine Island Glacier retreat during the 21st and 22nd centuries with a coupled flowline model
Rupert M. Gladstone, Victoria Lee, Jonathan Rougier, Antony J. Payne, Hartmut Hellmer, Anne Le Brocq, Andrew Shepherd, Tamsin L. Edwards, Jonathan Gregory, Stephen L. Cornford
氷床モデルとボックスモデルを組み合わせて南極Pine Islandの氷河の融解をモデリング。「A1B排出シナリオ(business as usual)」に基づいてAD1900からAD2200にわたって5,000回アンサンブルシミュレーションしたところ、融解の速度は不確実であるものの次の200年間で単調に融解することが分かった。22世紀に完全に崩壊する可能性も捨てきれない。
Timing and origin of recent regional ice-mass loss in Greenland
Ingo Sasgen, Michiel van den Broeke, Jonathan L. Bamber, Eric Rignot, Louise Sandberg Sørensen, Bert Wouters, Zdeněk Martinec, Isabella Velicogna, Sebastian B. Simonsen
ここ数十年、グリーンランド氷床は高い表面温度、氷床の融解範囲の拡大、夏に海氷の張り出す範囲の縮小などを経験している。GRACEによる重力場の観測データとInSARによる氷河の速度の観測データ、IceSATによる氷床の高度・雲・陸の高度の観測データから7つの氷河流出域について氷の流れを定量化。複雑なメカニズムが係わり合っていながら、全体としてグリーンランド氷床がここ数十年で徐々に融解していることが分かった。特に1958年・2010年に融けたらしい。
Boundary scavenging at the East Atlantic margin does not negate use of 231Pa/230Th to trace Atlantic overturning
Jörg Lippold, Stefan Mulitza, Gesine Mollenhauer, Stefan Weyer, David Heslop, Marcus Christl
231Pa/230Thは氷期間氷期スケールの海洋深層水循環(特にAMOC)を復元するためのツールとして広く用いられているが、北大西洋以外の海域で上から沈降してくる231Paの影響を受けてしまう可能性がある。NamibiaとSenegalで得られた堆積物を用いて過去35kaの231Pa/230Thを復元したところ、この海域においては基本的にAMOCによって231Pa/230Thは支配されているものの、粒子フラックスにも影響されていることが分かった。少なくとも30kaから現在までは沈降してくる231Paの寄与は無視でき、231Pa/230Thの有用性は保証されるという。
☆31 July 2012; Vol. 109, No. 31
Earth, Atmospheric, and Planetary Sciences
Hot days induced by precipitation deficits at the global scale
Brigitte Mueller and Sonia I. Seneviratne
温暖化によって熱波の頻度が増加すると考えられている。原因は水分量の低下と考えられているが、そうした減少が全球的かどうかを評価してみたところ、極端に暑い日の日数と降水量の減少との間に強い相関があることが分かった。土壌水分と気温との間の相関は従来考えられていたよりも普遍的かもしれない。
☆7 August 2012; Vol. 109, No. 32
Earth, Atmospheric, and Planetary Sciences
Developed and developing world responsibilities for historical climate change and CO2 mitigation
Ting Wei et al.
2010年11月にメキシコ・カンクンにおいて行われた国連の気候変動に関する枠組みを話し合う会議では、温暖化を産業革命前の気温に比べて2℃の温度上昇に食い止めるという目標が設定されたが、今後排出されるであろう温室効果ガスの削減を各国が均等に責任を負うべきか、或いはどういった割合で負うべきかについては交渉がうまくいっていない。その理由の一つが、現在の温暖化がこれまでに先進国が排出した温室効果ガスが主な原因だからである。2つの地球システムモデルを用いてこれまでの温暖化とこれからの温暖化をモデリングしたところ、2005年までの気温上昇・海面温度上昇・海氷減少のうち、60-80%は先進国が原因であり、発展途上国は20-40%であることが分かった。カンクンにおいて定められた目標を達成すれば、温度上昇を’business as usual’モデルの温度上昇に比べて3分の1から3分の2に減らすことができると考えられる。
Wei et al. (2012)を改変。 これまでの二酸化炭素放出量とそれによる温暖化予測。下2つはモデルによる気温の偏差の予測結果で、どういった排出シナリオに基づくかで温度上昇は全く異なることが分かる。またモデル依存性もわずかながら存在する。 |
EPSL
☆Volumes 333–334, Pages 1-332, 1 June 2012
Magnetotactic bacterial response to Antarctic dust supply during the Palaeocene–Eocene thermal maximum
Juan C. Larrasoaña, Andrew P. Roberts, Liao Chang, Stephen A. Schellenberg, John D. Fitz Gerald, Richard D. Norris, James C. Zachos
PETMの海洋堆積物において磁性が大きく変動することは、気温上昇に伴う風化促進と海底下のバクテリアによる磁化との関連によって説明されることがある。しかしKergulen Plateauの南部で得られた堆積物コアではPETMの前後でもこの特徴が見られる。これは南極からもたらされるダストに含まれる鉄による肥沃化→有機物沈降→鉄還元が起きやすい環境の形成→磁性バクテリアによる磁性鉱物形成という一連のプロセスによって説明される。
Uranium-236 as a new oceanic tracer: A first depth profile in the Japan Sea and comparison with caesium-137
Aya Sakaguchi, Akinobu Kadokura, Peter Steier, Yoshio Takahashi, Kiyoshi Shizuma, Masaharu Hoshi, Tomoeki Nakakuki, Masayoshi Yamamoto
1960年代の大気中核実験の結果放出された放射性核種(137Cs、236U)が海洋循環のトレーサーとして使えるかを日本海の海水について検証。236Uは深度とともに減少し、137Csと似たような分布をした。しかし、137Cs/236U比は深度2,000m以降小さくなった。堆積物の懸濁物質中の236Uは無視できる程度しか含まれていないため、236Uは海洋循環のトレーサーとして有望である。測定はAMSで行うらしい。
Calibrated prediction of Pine Island Glacier retreat during the 21st and 22nd centuries with a coupled flowline model
Rupert M. Gladstone, Victoria Lee, Jonathan Rougier, Antony J. Payne, Hartmut Hellmer, Anne Le Brocq, Andrew Shepherd, Tamsin L. Edwards, Jonathan Gregory, Stephen L. Cornford
氷床モデルとボックスモデルを組み合わせて南極Pine Islandの氷河の融解をモデリング。「A1B排出シナリオ(business as usual)」に基づいてAD1900からAD2200にわたって5,000回アンサンブルシミュレーションしたところ、融解の速度は不確実であるものの次の200年間で単調に融解することが分かった。22世紀に完全に崩壊する可能性も捨てきれない。
Timing and origin of recent regional ice-mass loss in Greenland
Ingo Sasgen, Michiel van den Broeke, Jonathan L. Bamber, Eric Rignot, Louise Sandberg Sørensen, Bert Wouters, Zdeněk Martinec, Isabella Velicogna, Sebastian B. Simonsen
ここ数十年、グリーンランド氷床は高い表面温度、氷床の融解範囲の拡大、夏に海氷の張り出す範囲の縮小などを経験している。GRACEによる重力場の観測データとInSARによる氷河の速度の観測データ、IceSATによる氷床の高度・雲・陸の高度の観測データから7つの氷河流出域について氷の流れを定量化。複雑なメカニズムが係わり合っていながら、全体としてグリーンランド氷床がここ数十年で徐々に融解していることが分かった。特に1958年・2010年に融けたらしい。
Sasgen et al. (2012)を改変。 グリーンランド氷床の各地域ごとにこれまで氷河流出によって氷床がどれほど減少したかを示した図。 |
Boundary scavenging at the East Atlantic margin does not negate use of 231Pa/230Th to trace Atlantic overturning
Jörg Lippold, Stefan Mulitza, Gesine Mollenhauer, Stefan Weyer, David Heslop, Marcus Christl
231Pa/230Thは氷期間氷期スケールの海洋深層水循環(特にAMOC)を復元するためのツールとして広く用いられているが、北大西洋以外の海域で上から沈降してくる231Paの影響を受けてしまう可能性がある。NamibiaとSenegalで得られた堆積物を用いて過去35kaの231Pa/230Thを復元したところ、この海域においては基本的にAMOCによって231Pa/230Thは支配されているものの、粒子フラックスにも影響されていることが分かった。少なくとも30kaから現在までは沈降してくる231Paの寄与は無視でき、231Pa/230Thの有用性は保証されるという。
2012年8月11日土曜日
気になった一文集(日本語 ver. No.2)
「リーダーになる人に知ってほしいこと」 松下幸之助(述)
- やると決めたからには、日本一、世界一を目指す。世間の常識は必要、しかしそれにとらわれていては、大事はなせない。
pp. 102
- 物事を変えるには「きっかけ」がいる。「これをやるべきだ」「これをやりたい」と言い出す人になる。その志が、道を切りひらく。
pp. 107
- 腹の底から得心できないことが世の中のほとんどである。だから、適当なところで結論を出さないといけない。その説明のできない一種の悟りの境地で「適当なところ」を見極めることが肝要である。
pp. ?
- 仕事の勝負と賭け事は違う。絶対に成功するということを確実にしてやるべきだ。これはやるべきだと思い、行動の善なることを信じてやる。そのために勉強もする。
pp. 68
- 何もかも思うとおりになるなど考えないこと。辛抱、苦労があって当然と割り切ってやる。いずれその苦労は、生きがいとなる。
pp. ?
- 迷うだけ迷えばいい。けれどもそのあいだはじっとしていること。公明が見えるまで、迷いながらも勉強し研究し続けること。その迷いが大きいほど、偉大なものが生まれるはず。でも迷わないでいいことでは、決して迷わないように。
pp. 49
- 人間は大きな運命の流れの中で生きている。その流れに素直に乗るには、まずはその日その日を充実させて生きていくことが大切である。
pp. 48
- 一事に成功すれば万事に成功する。一事に成功できない者が、あせって万事に手を出してもそうそう成功するものではない。まずは成功のコツをつかむまで努力をやめない。そして、使命感と気力、この二つなくして真の成功はない。
pp. 43
- 考えても答えのでないものはある。しかし、志のある人は、歩いて尋ねて教えを請い、いずれ答えを出すだろう。自分から進んで学ぶ。教えてくれるなど思ってはいけない。
pp. 38
- 自分の主観で見ると、たいていはまちがう。客観的に物事を見る。つまり、素直にものを見ることが大切である。
pp. 22
- 知識は道具である。知識の奴隷になってはいけない。知識の"主人公"になる。縦横無尽に知識を使いこなす。
pp. 32
2012年8月10日金曜日
新着論文(Science#6095特集)
Science
VOL 337, ISSUE 6095, PAGES 613-768 (10 August 2012)
〜Special issue〜
Working with Waste
ゴミを手がける
INTRODUCTION
More Treasure Than Trash
ゴミ以上の宝ものへ
Nick Wigginton, Jake Yeston, and David Malakoff
現在の社会からは日々大量のゴミが放出されるが、ゴミは使いようによっては重要な資源になり得る。例えば、穀物の食べ残しや芝刈りのカスなどは日用化学品の原料にもなるし、プラスチックや金属は何度も再利用できる。さらに二酸化炭素でさえうまく捕獲し、利用する方法が模索されている。さらに排水もエネルギー源になり、汚水処理の効率も上がりつつある。ゴミを最小限に抑えるために必要なのは単に科学だけでなく、心理学・政治・経済が重要になってくる。
News
Infographic: World of Waste
図解:ゴミの世界
各国のゴミの排出状況を簡単に図解。
Garbology 101: Getting a Grip on Waste
ゴミ学101:ゴミを把握する
Jeffrey Mervis
ほとんどの人は無視する方を選択するが、ゴミを管理することは緊急かつ議論を要する問題である。
Modern-Day Waste Pickers
現在のゴミを拾い上げる人たち
Jeffrey Mervis
社会がゴミを出す限り、人々はゴミを選別し続けて来た。しかし、ほとんどの人にとってはそれはガラクタに過ぎない。
Finding a New Way To Go
進むべき新しい道を探す
Gretchen Vogel
水洗トイレは変形力のある発明であったが、専門家はそれは過去のものであり、今は人の排出するものからエネルギーや栄養塩を回収する革新的な方法が必要とされていると語る。
Water Reclamation Going Green
水の回復に青信号が出ている
Elizabeth Pennisi
排水処理施設は資源回収施設として変革を遂げつつある。エネルギーを節約し、時には生み出し、処理の過程で汚染を少なくしている。
A Better Way to Denitrify Wastewater
排水から栄養塩を除去するよりよい方法
Elizabeth Pennisi
嫌気的アンモニア酸化細菌(annamox bacteria)は酸素がなくてもアンモニアを窒素ガスに変えることができ、排水からアンモニアを除去する方法を格段に改善することができると考えられている。
(Save) Pave the World
世界を整える(救う)
Robert F. Service
二酸化炭素は産業界からの究極の廃棄物である。熱帯のサンゴはハイウェイから出される二酸化炭素を捕えるうまいやり方になり得るか?
※まだ冒頭しか読んでいませんが、サンゴの石灰化に着目して二酸化炭素を固定して作った石灰質コンクリートを舗装道路に使うことのようです。
Getting Minds Out of the Sewer
排水から頭を離す
Greg Miller
人間心理学はいかにして排水リサイクルに関する懸命な方法を見つけ出すか。
Reviews
Taking the “Waste” Out of “Wastewater” for Human Water Security and Ecosystem Sustainability
Stanley B. Grant et al.
排水の再利用と排水生産を最小に抑える試みについてのレビュー。この補完的なオプションは淡水を最大限に活用し、先進国・発展途上国の常に変わる水需要に応え、環境への恩恵をもたらす。
Conversion of Wastes into Bioelectricity and Chemicals by Using Microbial Electrochemical Technologies
Bruce E. Logan and Korneel Rabaey
細胞外で発電できる微生物にとってはバイオマスゴミは安く、そして量も豊富にある電気の資源である。微生物の発電を利用した発電・化学合成技術は将来の持続可能なエネルギーを支える一部となる可能性を秘めている。バイオ燃料・水素・メタン・他の価値の高い有機/無機物質を作ることのできる’エクソ電子発生微生物(exoelectrogenic microorganisms)’の使用を支える重要な発展についてレビューする。既に応用段階にある技術もあるが、今後更なる効率性・拡張性・システムの寿命・信頼性に関する研究が必要である。
Challenges in Metal Recycling
Barbara K. Reck and T. E. Graedel
原理上、金属は永久にリサイクル可能であるが、実用的には社会行動、製品のデザイン、リサイクル技術、分離の熱力学などの制限がある関係で不十分か、あるいは全く存在しないことが多い。リサイクル率を高めるには、「ゴミの回収効率を上げること」、「リサイクルに適したデザインに改良すること」、「現在のリサイクル技術をより配備すること」などの行動が最も重要である。現在の物質消費の形態はループが閉じておらず、完全に閉じたループの実現は不可能ではないものの、テクノロジー以外の様々な種類の制限がある。
Valorization of Biomass: Deriving More Value from Waste
Christopher O. Tuck et al.
現在、炭化水素化合物のほとんどは石油から生産されている。石油の価格の上昇を受けて、バイオマスから化学物質・燃料・触媒などを作る道がないかと注目が集まっている。それを受けて、多くの研究は化学物質を作るために生産される様々な作物のメリット・デメリットを評価している。現在余っているバイオマス(農業や食料生産過程において出てくる副産物)を利用する方法についてレビューする。
Perspectives
Recycling of the #5 Polymer
#5ポリマーを再利用する
Marino Xanthos
ポリプロピレンは食品包装や自動車のバッテリーの外装など、非常に広く使われているプラスチック素材である。ポリプロピレンのリサイクル率について簡単にレビューする。回収・仕分けの効率、化学合成、リサイクルされた商品の市場力学などの話題を含む。
The Challenges of Reusing Mining and Mineral-Processing Wastes
鉱業・鉱物生産過程において出てくる廃棄物を再利用するという挑戦
Zhengfu Bian et al.
鉱業・鉱物生産過程において出てくる廃棄物は世界でも最大の慢性的に残存する廃棄物の一つである。従って、それらの再利用は将来の持続可能な発展の計画に含まれるべきである。しかしながら、環境に与える影響は様々で、完全に評価しなければならないものである。素となる母岩の化学組成と地球工学的特性がその石をどう使うのが最も適しているか、どう再利用するのが経済的に最も見込みがあるかを決めている。もし適切に評価がなされれば、鉱業廃棄物は「鉱物を再度抽出すること」、「発電所のさらなる原料にすること」、「建築材にすること」、「鉱業そのものによって変えられた陸の表面/地下構造の修繕に使うこと」などに再利用可能である。
VOL 337, ISSUE 6095, PAGES 613-768 (10 August 2012)
〜Special issue〜
Working with Waste
ゴミを手がける
INTRODUCTION
More Treasure Than Trash
ゴミ以上の宝ものへ
Nick Wigginton, Jake Yeston, and David Malakoff
現在の社会からは日々大量のゴミが放出されるが、ゴミは使いようによっては重要な資源になり得る。例えば、穀物の食べ残しや芝刈りのカスなどは日用化学品の原料にもなるし、プラスチックや金属は何度も再利用できる。さらに二酸化炭素でさえうまく捕獲し、利用する方法が模索されている。さらに排水もエネルギー源になり、汚水処理の効率も上がりつつある。ゴミを最小限に抑えるために必要なのは単に科学だけでなく、心理学・政治・経済が重要になってくる。
News
Infographic: World of Waste
図解:ゴミの世界
各国のゴミの排出状況を簡単に図解。
Garbology 101: Getting a Grip on Waste
ゴミ学101:ゴミを把握する
Jeffrey Mervis
ほとんどの人は無視する方を選択するが、ゴミを管理することは緊急かつ議論を要する問題である。
Modern-Day Waste Pickers
現在のゴミを拾い上げる人たち
Jeffrey Mervis
社会がゴミを出す限り、人々はゴミを選別し続けて来た。しかし、ほとんどの人にとってはそれはガラクタに過ぎない。
Finding a New Way To Go
進むべき新しい道を探す
Gretchen Vogel
水洗トイレは変形力のある発明であったが、専門家はそれは過去のものであり、今は人の排出するものからエネルギーや栄養塩を回収する革新的な方法が必要とされていると語る。
Water Reclamation Going Green
水の回復に青信号が出ている
Elizabeth Pennisi
排水処理施設は資源回収施設として変革を遂げつつある。エネルギーを節約し、時には生み出し、処理の過程で汚染を少なくしている。
A Better Way to Denitrify Wastewater
排水から栄養塩を除去するよりよい方法
Elizabeth Pennisi
嫌気的アンモニア酸化細菌(annamox bacteria)は酸素がなくてもアンモニアを窒素ガスに変えることができ、排水からアンモニアを除去する方法を格段に改善することができると考えられている。
(Save) Pave the World
世界を整える(救う)
Robert F. Service
二酸化炭素は産業界からの究極の廃棄物である。熱帯のサンゴはハイウェイから出される二酸化炭素を捕えるうまいやり方になり得るか?
※まだ冒頭しか読んでいませんが、サンゴの石灰化に着目して二酸化炭素を固定して作った石灰質コンクリートを舗装道路に使うことのようです。
Getting Minds Out of the Sewer
排水から頭を離す
Greg Miller
人間心理学はいかにして排水リサイクルに関する懸命な方法を見つけ出すか。
Reviews
Taking the “Waste” Out of “Wastewater” for Human Water Security and Ecosystem Sustainability
Stanley B. Grant et al.
排水の再利用と排水生産を最小に抑える試みについてのレビュー。この補完的なオプションは淡水を最大限に活用し、先進国・発展途上国の常に変わる水需要に応え、環境への恩恵をもたらす。
Conversion of Wastes into Bioelectricity and Chemicals by Using Microbial Electrochemical Technologies
Bruce E. Logan and Korneel Rabaey
細胞外で発電できる微生物にとってはバイオマスゴミは安く、そして量も豊富にある電気の資源である。微生物の発電を利用した発電・化学合成技術は将来の持続可能なエネルギーを支える一部となる可能性を秘めている。バイオ燃料・水素・メタン・他の価値の高い有機/無機物質を作ることのできる’エクソ電子発生微生物(exoelectrogenic microorganisms)’の使用を支える重要な発展についてレビューする。既に応用段階にある技術もあるが、今後更なる効率性・拡張性・システムの寿命・信頼性に関する研究が必要である。
Challenges in Metal Recycling
Barbara K. Reck and T. E. Graedel
原理上、金属は永久にリサイクル可能であるが、実用的には社会行動、製品のデザイン、リサイクル技術、分離の熱力学などの制限がある関係で不十分か、あるいは全く存在しないことが多い。リサイクル率を高めるには、「ゴミの回収効率を上げること」、「リサイクルに適したデザインに改良すること」、「現在のリサイクル技術をより配備すること」などの行動が最も重要である。現在の物質消費の形態はループが閉じておらず、完全に閉じたループの実現は不可能ではないものの、テクノロジー以外の様々な種類の制限がある。
Valorization of Biomass: Deriving More Value from Waste
Christopher O. Tuck et al.
現在、炭化水素化合物のほとんどは石油から生産されている。石油の価格の上昇を受けて、バイオマスから化学物質・燃料・触媒などを作る道がないかと注目が集まっている。それを受けて、多くの研究は化学物質を作るために生産される様々な作物のメリット・デメリットを評価している。現在余っているバイオマス(農業や食料生産過程において出てくる副産物)を利用する方法についてレビューする。
Perspectives
Recycling of the #5 Polymer
#5ポリマーを再利用する
Marino Xanthos
ポリプロピレンは食品包装や自動車のバッテリーの外装など、非常に広く使われているプラスチック素材である。ポリプロピレンのリサイクル率について簡単にレビューする。回収・仕分けの効率、化学合成、リサイクルされた商品の市場力学などの話題を含む。
The Challenges of Reusing Mining and Mineral-Processing Wastes
鉱業・鉱物生産過程において出てくる廃棄物を再利用するという挑戦
Zhengfu Bian et al.
鉱業・鉱物生産過程において出てくる廃棄物は世界でも最大の慢性的に残存する廃棄物の一つである。従って、それらの再利用は将来の持続可能な発展の計画に含まれるべきである。しかしながら、環境に与える影響は様々で、完全に評価しなければならないものである。素となる母岩の化学組成と地球工学的特性がその石をどう使うのが最も適しているか、どう再利用するのが経済的に最も見込みがあるかを決めている。もし適切に評価がなされれば、鉱業廃棄物は「鉱物を再度抽出すること」、「発電所のさらなる原料にすること」、「建築材にすること」、「鉱業そのものによって変えられた陸の表面/地下構造の修繕に使うこと」などに再利用可能である。
2012年8月9日木曜日
新着論文(Nature#7410)
Nature
Volume 488 Number 7410 pp129-246 (9 August 2012)
Research Highlights
Star dines on young planet
星が若い惑星を食らう
Astrophys. J. 755, 42 (2012)
できて間もない(~270万年)系外惑星が発見された。惑星形成プロセスの理解に繋がるかもしれない。質量は木星の5.5倍で、11時間で恒星の周りを一周している。しかし距離が近すぎるため、恒星に吸収されつつあるかもしれないという。
Plants changed water cycle
植物が水循環を変えた
Geology http://dx.doi. org/10.1130/G33334.1 (2012)
2億年前、大気中の二酸化炭素濃度が2倍になっていたことで、植物の水の摂取・排出が減っており、それは地域的な水循環をも変化させ、生物多様性の低下にも繋がった可能性がある。植物化石の気孔を調べたところ、三畳紀/ジュラ紀境界において気孔の密度と大きさが激減していたことが分かった。植物の蒸散によって大気に放出される水分量は50-60%も減少したと考えられる。水収支や浸食の変化は土壌をも変化させ、生物多様性も減少させた?
Abrupt changes in Greenland ice cycles
グリーンランド氷床の氷サイクルの急激な変化
Science 337, 569–573 (2012)
1985年前から現在にかけてのグリーンランド氷床の南東部の空中写真から、3次元の氷床モデルを構築し、過去の氷床変動を復元したところ、過去に2回の大きな氷の融解があったことが分かった(1回目:1985-1993、2回目:2005-2010年)。原因は夏の気温と海水温の上昇と考えられている。
Bats sound out frisky flies
コウモリは浮かれたハエを探る
Curr. Biol. 22, R563–R564 (2012)
コウモリの一種(Natterer’s bats;Myotis nattereri)は交尾中のハエ(Musca domestica)を選択的に狙っているかもしれない。牛小屋の天井付近を飛んでいるハエとコウモリをビデオ撮影して調査したところ、独りのハエはコウモリによってほとんど検知されず安全だが、交尾中のハエは超音波を出すためコウモリによって検知され攻撃されやすいことが分かった。この事実は「交尾が他の生物に襲われる危険を高める」という理論を初めて裏付けるものである。
Modern thinking gets older
現在の考えは古くなりつつある
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1204213109; http://dx.doi. org/10.1073/pnas.1202629109 (2012)
芸術や言語などといったヒトの文化的な革命は従来考えられていたよりも数千年早く、アフリカ南部において始まっていた可能性がある。「象徴的な振る舞いは8万年前に既に見られ、その後いったん消え、2万年前には骨の彫刻や他の人工物を作る文化が現れた」というのが従来の通説であった。しかしながら南アフリカのBorder洞窟において新たに発見された貝やダチョウの卵の殻でできたビーズなどの放射性炭素年代測定から、それらが44,000年前に作られたものであることが分かった。その後のヒトに特徴的な振る舞いである、両面石刃や火打石の鏃などの製作がこの頃から始まっていたらしい。
Pregnancy alters gut microbes
妊娠が腸内細菌を変化させる
Cell 150, 470–480 (2012)
91人の妊婦の腸内細菌を調査したところ、妊娠3ヶ月までは妊娠していない女性と同じような腸内細菌が見られたが、その後変化が見られた。その変化はメタボリックシンドローム(糖尿病の兆し)のマウスの腸内細菌と類似していた。妊婦6-9ヶ月の腸内細菌をマウスに投与したところ、マウスは太り、インシュリンにより鈍感になったという。ほ乳類は腸内の生理を操作することで、胎児を育てるのに有利な状態へと変化を促すことができるのかもしれない。
Seven Days
Deforestation down
森林破壊が減った
ブラジルのNational Institute for Space Researchによって出された不確実なデータに基づくと、ブラジルのアマゾン熱帯雨林の森林破壊は20%以上低下したという。ただし非常に解像度の荒い衛星観測データに基づいているという。
India’s Mars hopes
インドの火星に対する希望
インド内閣は早ければ2013年11月に火星を周回する衛星を打ち上げる計画を承認した。2008年に月への探査に用いられた国産ロケット(Chandrayaan-1)を再度用いて、インド初となる惑星間の探査になる予定である。
Primate transport
霊長類の輸送
エアーチャイナ(Air China)は7/31にヒト以外の霊長類を空輸することを止めると宣言した。 動物の権利を保護する団体、People for the Ethical Treatment of Animals (PETA)のキャンペーンに支えられている。同団体はこれまでにも数多くの航空会社が霊長類の輸送を止めることに影響を及ぼしてきた。チャイナイースタン(China Eastern)のみが現在中国国内から霊長類を海外(70%はアメリカの研究所へ)へ空輸しているという。
Italian dog-breeding facility at risk
イタリアの犬を養う施設が危機にさらされている
人間用の製薬の治験を行うためのビーグル犬を提供しているヨーロッパ最大の施設の一つが、イタリア裁判所から閉鎖の要請を受け、さらにはビーグル犬の保護権が動物の権利を保護する団体へと移され、施設は生き残りをかけて奮闘している。1,400頭のビーグル犬は施設からプライベートホームへと移され、病原体を施設に持ち込むわけにはいかないため、今後施設に戻されることはないという。
Bernard Lovell dies
Bernard Lovellが死ぬ
イギリスのマンチェスター大学のJodrell Bank Observatoryを設立した、物理学者・電波天文学者であったBernard Lovellが8/6に98歳で亡くなった。観測所の望遠鏡は建設された1957年には完全に方向を変えることのできる望遠鏡としては世界最大で、世界初の人工衛星であるSputnik 1の打ち上げにも貢献した。電波天文学への貢献から1961年に騎士の称号が与えられた。
Mars landing
火星着陸
8/6にNASAは火星探査機「Curiosity」が8ヶ月の宇宙旅行と7分間の破壊的な大気突入を耐えて、Galeクレーターに着陸することに成功したと報告した。
DECLINE OF THE SINGLE AUTHOR
単独著者の減少
Thomson ReuterのScienceWatch newsletterによると、単独著者の論文数は減少傾向にある。現在全体の20%程度である。最近の論文の著者数は平均して4人ほどらしい。
News in Focus
Mars rover sizes up the field
火星の探査機がフィールドを見る
Eric Hand
火星への完璧な着陸を終え、Curiosityの研究チームはGaleクレーターへどう移動するかを熟考している。
Stem-cell pioneer banks on future therapies
幹細胞のパイオニアが将来の治療法をあてにしている
David Cyranoski
日本の研究者(山中さん)が幹細胞を臨床試験に供給するための計画を立てている。
Britain’s big bet on graphene
イギリスのグラフェンへの大きな賭け
Geoff Brumfiel
イギリス・マンチェスターの研究所が単原子の厚さの炭素シート(グラフェン)の商業的な応用に着目している。
Heatwaves blamed on global warming
地球温暖化のせいにされている熱波
Jeff Tollefson
熱波が普通に比べて頻繁すぎることが、人間の影響を疑わせる。
Comment
Let's talk about sex
性について話そう
メディアは動物の性的な振る舞いについての研究をセンセーショナルに取り上げることが好きであるため、発言には気をつけなければならない、とAndrew B. BarronとMark J. F. Brownは警告する。
News & Views
Frontier or fiction
最先端か、摩擦か
宇宙生物学(Astrobiology)は宇宙における生命を研究する学問であるが、流行に便乗して研究分野の新しいイメージを売り込んでいるとして批判されることも多い。しかしながら専門家はこの学問が生物の最先端の知見を生み、大きな枠組みを与えるとしている。生物学者と惑星科学者が彼らのものの見方を紹介してくれる。
Facing up to complexity
複雑さに直面する
3つの新たに得られた化石の解剖は「我々のホモ属には人類進化の過程で平行して進化していた血統が少なくとも2つは存在した可能性がある」という仮説を支持している。
The X factor
X要素
フィンランドの森林の大気の化学分析から、森林の硫酸の発生源として振る舞う未知の酸化物が発見された。硫酸はエアロゾルや雲の形成に重要な先駆体の一つである。
Articles
Gut microbiota composition correlates with diet and health in the elderly
Marcus J. Claesson et al.
腸内微生物コミュニティーの変化は、肥満や炎症性疾患などのいくつかの慢性疾患に関連している。高齢者の微生物コミュニティーは、若い成人よりも個人間の変動が大きい。178人の高齢者を対象にした調査から、食事、微生物コミュニティーおよび健康状態の間に関係性があることが分かった。食事による微生物相コミュニティーの変化が老化に伴う健康の衰えの早さも決めている?
Letters
A new atmospherically relevant oxidant of sulphur dioxide
R. L. Mauldin III, T. Berndt, M. Sipilä, P. Paasonen, T. Petäjä, S. Kim, T. Kurtén, F. Stratmann, V.-M. Kerminen & M. Kulmala
大気中の酸化反応は世界的な課題である環境問題(気候変動、成層圏のオゾン消失、土壌と水の酸性化、空気の質の健康への影響など)と大気化学を関連付ける重要な現象である。オゾン、ヒドロキシルラジカル、硝酸ラジカルは、汚染物質を含む微量気体の除去反応を駆動する主要な酸化剤であると一般的に考えられている。フィンランドの森林においてなされた大気観測から、もう一つ別の化合物(おそらく’クリーギー中間体’、カルボニル酸化物の一種)もしくはその誘導体が検出され、この化合物は二酸化硫黄を酸化させる能力を持ち、ほかの微量気体も酸化できる可能性があることが分かった。大気中エアロゾルの形成を促進する役割を担っていると考えられる。この新たな酸化経路は、少なくともヒドロキシルラジカルの濃度が中程度である場合には、ヒドロキシラジカルによる酸化に関して重要であることを示唆している。さらに、この化合物の酸化反応は、生物起源のアルケンの存在とも密接に関連しているらしい。
Water balance of global aquifers revealed by groundwater footprint
Tom Gleeson, Yoshihide Wada, Marc F. P. Bierkens & Ludovicus P. H. van Beek
地下水は生命を支える資源であり、何十億人もの人々に水を供給して、灌漑農業において中心的役割を果たし、多くの生態系に影響を及ぼす。全球の水資源評価のほとんどは地表を流れる水に重点を置いているが、地下水の持続不可能な枯渇が地域・全球規模の双方で最近報告され出している。しかしながら、全球の地下水枯渇の速度と、自然回復速度や生態系を維持するために必要な供給量をどのように比較すべきかは、よくわかっていない。地下水フットプリント(地下水利用と地下水に依存した生態系への供給を維持するのに必要な面積)の大きさの計算から、農業にとって重要な大規模な帯水層(特にアジアと北米)の多くで、人類が地下水を過剰開発していることが分かった。地下水フットプリントは、地下水の利用、回復、生態系の要求を帯水層のスケールで一貫して評価するのに適した最初の手段である。これと、ウォーターフットプリントと仮想水の計算とを組み合わせれば、回復可能な地下水により農業の収穫高が増加する可能性を評価するのに用いることができる。さらにこの方法を修正して、漁場、森林、土壌などの回復速度が遅く空間的に不均質なほかの資源も評価できる可能性がある。
New fossils from Koobi Fora in northern Kenya confirm taxonomic diversity in early Homo
Meave G. Leakey, Fred Spoor, M. Christopher Dean, Craig S. Feibel, Susan C. Antón, Christopher Kiarie & Louise N. Leakey
1972年の発見以来、頭蓋骨の化石標本KNM-ER1470は、更新世初期のアフリカ東部に存在した初期ヒト属(Homo)の種数をめぐる議論の中心となってきた。KNM-ER1470は、初期ヒト属のものとされる他の標本と比較して大きく、上顎骨の頬骨根(zygomatic root)が前方に位置し、顔面が平らで鼻下の顎が前方に突き出ていない点が際立っている。こうした特異な形態および不完全な保存状態のため、KNM-ER 1470は、初期ヒト属の単一種に組み入れられるのか、それとも、種の多様性の証拠となるのかどうかに関して、さまざまな見解を生んでいる。新たに発見された195万~178万年前の化石にはこれまで知られていなかった形態が保存されている。更新世初期のアフリカ東部には、ホモ・エレクトゥス(Homo erectus)のほかに2つの初期ヒト属種が同時期に存在していたことを示している。
A transitional snake from the Late Cretaceous period of North America
Nicholas R. Longrich, Bhart-Anjan S. Bhullar & Jacques A. Gauthier
ヘビ類は爬虫類有鱗目の中でもきわめて多様な分類群だが、移行段階の形態が不足しているため、起源および初期進化の解明は進展していない。起源が海洋環境なのか陸上環境なのか、独特の摂餌機構はどのように進化したのかなど、重要な問題がいくつか未解決のまま残されている。最初に発見された中生代ヘビ類の1つである白亜紀のConiophis precedensはこれまでに椎骨の一部しか記載報告されていなかったが、新しく上顎、歯骨、およびさらなる椎骨などの化石が得られた。Coniophisは従来考えられていたようにパイプヘビ上科ではなく、ヘビ亜目の系統分析を見直した結果、知られるうちで最も原始的なヘビであることがわかった。化石は大陸の氾濫原環境で見つかり、そのことは海洋ではなく陸上を起源とすることを示唆している。さらに、体が小型で神経棘(neural spines)が小さいことは地中に穴を掘る習性を示しており、ヘビ類が地中に棲むトカゲ類から進化したことが示唆される。頭蓋骨はトカゲ類とヘビ類との中間形態である。鉤状の歯および下顎内関節は、 Coniophisが比較的大型で体の軟らかい獲物を捕食していたことを示唆している。しかし、上顎は頭蓋と固く結合しており、このことから下顎は非可動性であると考えられる。Coniophisは進化的移行段階にあるヘビであり、ヘビ様の胴体とトカゲ様の頭部とを併せ持っている。ヘビ類は、細長くて曲がりくねる胴体および肉食性の進化に続き、高度に特殊化した可動性の頭蓋を進化させ、その後に白亜紀初期の大規模な適応放散(adaptive radiation)が起こった。このパターンは、可動性の頭蓋骨が重要な発明となり、それによってヘビ類の多様化が可能になったことを示唆している。
Atmospheric CO2 forces abrupt vegetation shifts locally, but not globally
Steven I. Higgins & Simon Scheiter
人為的な気候変動によって地球のシステムが全く異なる状態へと遷移することは可能である。しかしながら様々な不確実性が我々のリスク評価の妨げとなっている。地球システム科学者は小さな擾乱によって異なる状態への遷移を起こし得る構成要素が何であるかを探っている。その中で、植生の大きな変化がそうした要因になり得るかどうかはよく分かっていない。熱帯の草原、サバンナ、森林の生態系が地球システムに大きな影響を与え、異なる状態へと変移する可能性があることを示す。特に大気中の二酸化炭素濃度が駆動力となるらしい。ただし変移が起きるタイミングは場所ごとに異なり、さらに温度の上昇率や森林火災・降水の発生率にも依存する。しかしながら陸上生態系の変移は地域的な規模では起きると考えられるものの、地域ごとのタイミングが同調しないことが全球への影響を鈍化させるらしい。
The banana (Musa acuminata) genome and the evolution of monocotyledonous plants
Angélique D’Hont et al.
デザート用と調理用が含まれるバナナ(バショウ属 Musa 種;)は、ショウガ目に属する巨大な多年生単子葉類の植物である。ショウガ目は、詳しく研究されているイネ目(穀類が含まれる)の姉妹分類群である。バナナは、多くの熱帯、亜熱帯諸国の食料確保に不可欠な食物となっており、先進工業国では最も人気のある果物である。しかし近年、害虫や病気がしだいに適応してきており、世界のバナナ生産には危機が迫っている。バナナの遺伝子の解読が遺伝改良の重要な足がかりとなる可能性がある。イネ目以外の単子葉類では初めての遺伝子解読らしい。
Volume 488 Number 7410 pp129-246 (9 August 2012)
Research Highlights
Star dines on young planet
星が若い惑星を食らう
Astrophys. J. 755, 42 (2012)
できて間もない(~270万年)系外惑星が発見された。惑星形成プロセスの理解に繋がるかもしれない。質量は木星の5.5倍で、11時間で恒星の周りを一周している。しかし距離が近すぎるため、恒星に吸収されつつあるかもしれないという。
Plants changed water cycle
植物が水循環を変えた
Geology http://dx.doi. org/10.1130/G33334.1 (2012)
2億年前、大気中の二酸化炭素濃度が2倍になっていたことで、植物の水の摂取・排出が減っており、それは地域的な水循環をも変化させ、生物多様性の低下にも繋がった可能性がある。植物化石の気孔を調べたところ、三畳紀/ジュラ紀境界において気孔の密度と大きさが激減していたことが分かった。植物の蒸散によって大気に放出される水分量は50-60%も減少したと考えられる。水収支や浸食の変化は土壌をも変化させ、生物多様性も減少させた?
Abrupt changes in Greenland ice cycles
グリーンランド氷床の氷サイクルの急激な変化
Science 337, 569–573 (2012)
1985年前から現在にかけてのグリーンランド氷床の南東部の空中写真から、3次元の氷床モデルを構築し、過去の氷床変動を復元したところ、過去に2回の大きな氷の融解があったことが分かった(1回目:1985-1993、2回目:2005-2010年)。原因は夏の気温と海水温の上昇と考えられている。
Bats sound out frisky flies
コウモリは浮かれたハエを探る
Curr. Biol. 22, R563–R564 (2012)
コウモリの一種(Natterer’s bats;Myotis nattereri)は交尾中のハエ(Musca domestica)を選択的に狙っているかもしれない。牛小屋の天井付近を飛んでいるハエとコウモリをビデオ撮影して調査したところ、独りのハエはコウモリによってほとんど検知されず安全だが、交尾中のハエは超音波を出すためコウモリによって検知され攻撃されやすいことが分かった。この事実は「交尾が他の生物に襲われる危険を高める」という理論を初めて裏付けるものである。
Modern thinking gets older
現在の考えは古くなりつつある
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1204213109; http://dx.doi. org/10.1073/pnas.1202629109 (2012)
芸術や言語などといったヒトの文化的な革命は従来考えられていたよりも数千年早く、アフリカ南部において始まっていた可能性がある。「象徴的な振る舞いは8万年前に既に見られ、その後いったん消え、2万年前には骨の彫刻や他の人工物を作る文化が現れた」というのが従来の通説であった。しかしながら南アフリカのBorder洞窟において新たに発見された貝やダチョウの卵の殻でできたビーズなどの放射性炭素年代測定から、それらが44,000年前に作られたものであることが分かった。その後のヒトに特徴的な振る舞いである、両面石刃や火打石の鏃などの製作がこの頃から始まっていたらしい。
Pregnancy alters gut microbes
妊娠が腸内細菌を変化させる
Cell 150, 470–480 (2012)
91人の妊婦の腸内細菌を調査したところ、妊娠3ヶ月までは妊娠していない女性と同じような腸内細菌が見られたが、その後変化が見られた。その変化はメタボリックシンドローム(糖尿病の兆し)のマウスの腸内細菌と類似していた。妊婦6-9ヶ月の腸内細菌をマウスに投与したところ、マウスは太り、インシュリンにより鈍感になったという。ほ乳類は腸内の生理を操作することで、胎児を育てるのに有利な状態へと変化を促すことができるのかもしれない。
Seven Days
Deforestation down
森林破壊が減った
ブラジルのNational Institute for Space Researchによって出された不確実なデータに基づくと、ブラジルのアマゾン熱帯雨林の森林破壊は20%以上低下したという。ただし非常に解像度の荒い衛星観測データに基づいているという。
India’s Mars hopes
インドの火星に対する希望
インド内閣は早ければ2013年11月に火星を周回する衛星を打ち上げる計画を承認した。2008年に月への探査に用いられた国産ロケット(Chandrayaan-1)を再度用いて、インド初となる惑星間の探査になる予定である。
Primate transport
霊長類の輸送
エアーチャイナ(Air China)は7/31にヒト以外の霊長類を空輸することを止めると宣言した。 動物の権利を保護する団体、People for the Ethical Treatment of Animals (PETA)のキャンペーンに支えられている。同団体はこれまでにも数多くの航空会社が霊長類の輸送を止めることに影響を及ぼしてきた。チャイナイースタン(China Eastern)のみが現在中国国内から霊長類を海外(70%はアメリカの研究所へ)へ空輸しているという。
Italian dog-breeding facility at risk
イタリアの犬を養う施設が危機にさらされている
人間用の製薬の治験を行うためのビーグル犬を提供しているヨーロッパ最大の施設の一つが、イタリア裁判所から閉鎖の要請を受け、さらにはビーグル犬の保護権が動物の権利を保護する団体へと移され、施設は生き残りをかけて奮闘している。1,400頭のビーグル犬は施設からプライベートホームへと移され、病原体を施設に持ち込むわけにはいかないため、今後施設に戻されることはないという。
Bernard Lovell dies
Bernard Lovellが死ぬ
イギリスのマンチェスター大学のJodrell Bank Observatoryを設立した、物理学者・電波天文学者であったBernard Lovellが8/6に98歳で亡くなった。観測所の望遠鏡は建設された1957年には完全に方向を変えることのできる望遠鏡としては世界最大で、世界初の人工衛星であるSputnik 1の打ち上げにも貢献した。電波天文学への貢献から1961年に騎士の称号が与えられた。
Mars landing
火星着陸
8/6にNASAは火星探査機「Curiosity」が8ヶ月の宇宙旅行と7分間の破壊的な大気突入を耐えて、Galeクレーターに着陸することに成功したと報告した。
DECLINE OF THE SINGLE AUTHOR
単独著者の減少
Thomson ReuterのScienceWatch newsletterによると、単独著者の論文数は減少傾向にある。現在全体の20%程度である。最近の論文の著者数は平均して4人ほどらしい。
News in Focus
Mars rover sizes up the field
火星の探査機がフィールドを見る
Eric Hand
火星への完璧な着陸を終え、Curiosityの研究チームはGaleクレーターへどう移動するかを熟考している。
Stem-cell pioneer banks on future therapies
幹細胞のパイオニアが将来の治療法をあてにしている
David Cyranoski
日本の研究者(山中さん)が幹細胞を臨床試験に供給するための計画を立てている。
Britain’s big bet on graphene
イギリスのグラフェンへの大きな賭け
Geoff Brumfiel
イギリス・マンチェスターの研究所が単原子の厚さの炭素シート(グラフェン)の商業的な応用に着目している。
Heatwaves blamed on global warming
地球温暖化のせいにされている熱波
Jeff Tollefson
熱波が普通に比べて頻繁すぎることが、人間の影響を疑わせる。
Comment
Let's talk about sex
性について話そう
メディアは動物の性的な振る舞いについての研究をセンセーショナルに取り上げることが好きであるため、発言には気をつけなければならない、とAndrew B. BarronとMark J. F. Brownは警告する。
News & Views
Frontier or fiction
最先端か、摩擦か
宇宙生物学(Astrobiology)は宇宙における生命を研究する学問であるが、流行に便乗して研究分野の新しいイメージを売り込んでいるとして批判されることも多い。しかしながら専門家はこの学問が生物の最先端の知見を生み、大きな枠組みを与えるとしている。生物学者と惑星科学者が彼らのものの見方を紹介してくれる。
Facing up to complexity
複雑さに直面する
3つの新たに得られた化石の解剖は「我々のホモ属には人類進化の過程で平行して進化していた血統が少なくとも2つは存在した可能性がある」という仮説を支持している。
The X factor
X要素
フィンランドの森林の大気の化学分析から、森林の硫酸の発生源として振る舞う未知の酸化物が発見された。硫酸はエアロゾルや雲の形成に重要な先駆体の一つである。
Articles
Gut microbiota composition correlates with diet and health in the elderly
Marcus J. Claesson et al.
腸内微生物コミュニティーの変化は、肥満や炎症性疾患などのいくつかの慢性疾患に関連している。高齢者の微生物コミュニティーは、若い成人よりも個人間の変動が大きい。178人の高齢者を対象にした調査から、食事、微生物コミュニティーおよび健康状態の間に関係性があることが分かった。食事による微生物相コミュニティーの変化が老化に伴う健康の衰えの早さも決めている?
Letters
A new atmospherically relevant oxidant of sulphur dioxide
R. L. Mauldin III, T. Berndt, M. Sipilä, P. Paasonen, T. Petäjä, S. Kim, T. Kurtén, F. Stratmann, V.-M. Kerminen & M. Kulmala
大気中の酸化反応は世界的な課題である環境問題(気候変動、成層圏のオゾン消失、土壌と水の酸性化、空気の質の健康への影響など)と大気化学を関連付ける重要な現象である。オゾン、ヒドロキシルラジカル、硝酸ラジカルは、汚染物質を含む微量気体の除去反応を駆動する主要な酸化剤であると一般的に考えられている。フィンランドの森林においてなされた大気観測から、もう一つ別の化合物(おそらく’クリーギー中間体’、カルボニル酸化物の一種)もしくはその誘導体が検出され、この化合物は二酸化硫黄を酸化させる能力を持ち、ほかの微量気体も酸化できる可能性があることが分かった。大気中エアロゾルの形成を促進する役割を担っていると考えられる。この新たな酸化経路は、少なくともヒドロキシルラジカルの濃度が中程度である場合には、ヒドロキシラジカルによる酸化に関して重要であることを示唆している。さらに、この化合物の酸化反応は、生物起源のアルケンの存在とも密接に関連しているらしい。
Water balance of global aquifers revealed by groundwater footprint
Tom Gleeson, Yoshihide Wada, Marc F. P. Bierkens & Ludovicus P. H. van Beek
地下水は生命を支える資源であり、何十億人もの人々に水を供給して、灌漑農業において中心的役割を果たし、多くの生態系に影響を及ぼす。全球の水資源評価のほとんどは地表を流れる水に重点を置いているが、地下水の持続不可能な枯渇が地域・全球規模の双方で最近報告され出している。しかしながら、全球の地下水枯渇の速度と、自然回復速度や生態系を維持するために必要な供給量をどのように比較すべきかは、よくわかっていない。地下水フットプリント(地下水利用と地下水に依存した生態系への供給を維持するのに必要な面積)の大きさの計算から、農業にとって重要な大規模な帯水層(特にアジアと北米)の多くで、人類が地下水を過剰開発していることが分かった。地下水フットプリントは、地下水の利用、回復、生態系の要求を帯水層のスケールで一貫して評価するのに適した最初の手段である。これと、ウォーターフットプリントと仮想水の計算とを組み合わせれば、回復可能な地下水により農業の収穫高が増加する可能性を評価するのに用いることができる。さらにこの方法を修正して、漁場、森林、土壌などの回復速度が遅く空間的に不均質なほかの資源も評価できる可能性がある。
New fossils from Koobi Fora in northern Kenya confirm taxonomic diversity in early Homo
Meave G. Leakey, Fred Spoor, M. Christopher Dean, Craig S. Feibel, Susan C. Antón, Christopher Kiarie & Louise N. Leakey
1972年の発見以来、頭蓋骨の化石標本KNM-ER1470は、更新世初期のアフリカ東部に存在した初期ヒト属(Homo)の種数をめぐる議論の中心となってきた。KNM-ER1470は、初期ヒト属のものとされる他の標本と比較して大きく、上顎骨の頬骨根(zygomatic root)が前方に位置し、顔面が平らで鼻下の顎が前方に突き出ていない点が際立っている。こうした特異な形態および不完全な保存状態のため、KNM-ER 1470は、初期ヒト属の単一種に組み入れられるのか、それとも、種の多様性の証拠となるのかどうかに関して、さまざまな見解を生んでいる。新たに発見された195万~178万年前の化石にはこれまで知られていなかった形態が保存されている。更新世初期のアフリカ東部には、ホモ・エレクトゥス(Homo erectus)のほかに2つの初期ヒト属種が同時期に存在していたことを示している。
A transitional snake from the Late Cretaceous period of North America
Nicholas R. Longrich, Bhart-Anjan S. Bhullar & Jacques A. Gauthier
ヘビ類は爬虫類有鱗目の中でもきわめて多様な分類群だが、移行段階の形態が不足しているため、起源および初期進化の解明は進展していない。起源が海洋環境なのか陸上環境なのか、独特の摂餌機構はどのように進化したのかなど、重要な問題がいくつか未解決のまま残されている。最初に発見された中生代ヘビ類の1つである白亜紀のConiophis precedensはこれまでに椎骨の一部しか記載報告されていなかったが、新しく上顎、歯骨、およびさらなる椎骨などの化石が得られた。Coniophisは従来考えられていたようにパイプヘビ上科ではなく、ヘビ亜目の系統分析を見直した結果、知られるうちで最も原始的なヘビであることがわかった。化石は大陸の氾濫原環境で見つかり、そのことは海洋ではなく陸上を起源とすることを示唆している。さらに、体が小型で神経棘(neural spines)が小さいことは地中に穴を掘る習性を示しており、ヘビ類が地中に棲むトカゲ類から進化したことが示唆される。頭蓋骨はトカゲ類とヘビ類との中間形態である。鉤状の歯および下顎内関節は、 Coniophisが比較的大型で体の軟らかい獲物を捕食していたことを示唆している。しかし、上顎は頭蓋と固く結合しており、このことから下顎は非可動性であると考えられる。Coniophisは進化的移行段階にあるヘビであり、ヘビ様の胴体とトカゲ様の頭部とを併せ持っている。ヘビ類は、細長くて曲がりくねる胴体および肉食性の進化に続き、高度に特殊化した可動性の頭蓋を進化させ、その後に白亜紀初期の大規模な適応放散(adaptive radiation)が起こった。このパターンは、可動性の頭蓋骨が重要な発明となり、それによってヘビ類の多様化が可能になったことを示唆している。
Atmospheric CO2 forces abrupt vegetation shifts locally, but not globally
Steven I. Higgins & Simon Scheiter
人為的な気候変動によって地球のシステムが全く異なる状態へと遷移することは可能である。しかしながら様々な不確実性が我々のリスク評価の妨げとなっている。地球システム科学者は小さな擾乱によって異なる状態への遷移を起こし得る構成要素が何であるかを探っている。その中で、植生の大きな変化がそうした要因になり得るかどうかはよく分かっていない。熱帯の草原、サバンナ、森林の生態系が地球システムに大きな影響を与え、異なる状態へと変移する可能性があることを示す。特に大気中の二酸化炭素濃度が駆動力となるらしい。ただし変移が起きるタイミングは場所ごとに異なり、さらに温度の上昇率や森林火災・降水の発生率にも依存する。しかしながら陸上生態系の変移は地域的な規模では起きると考えられるものの、地域ごとのタイミングが同調しないことが全球への影響を鈍化させるらしい。
The banana (Musa acuminata) genome and the evolution of monocotyledonous plants
Angélique D’Hont et al.
デザート用と調理用が含まれるバナナ(バショウ属 Musa 種;)は、ショウガ目に属する巨大な多年生単子葉類の植物である。ショウガ目は、詳しく研究されているイネ目(穀類が含まれる)の姉妹分類群である。バナナは、多くの熱帯、亜熱帯諸国の食料確保に不可欠な食物となっており、先進工業国では最も人気のある果物である。しかし近年、害虫や病気がしだいに適応してきており、世界のバナナ生産には危機が迫っている。バナナの遺伝子の解読が遺伝改良の重要な足がかりとなる可能性がある。イネ目以外の単子葉類では初めての遺伝子解読らしい。
2012年8月5日日曜日
気になった一文集(日本語 ver. No.1)
いいと思った日本語の名言・格言集。適宜追加予定。
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多忙とは怠け者の遁辞である
ジャーナリスト・徳冨蘇峰@沖野郷子先生の居室の壁
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後にも先にも ひとつだけ ひとつだけ その腕で ギュッと 抱えて 離すな 世の中に ひとつだけ かけがえのない 生きてる自分
弱い部分 強い部分 その実 両方が かけがえのない自分
誰よりも 何よりも それをまず ギュッと強く 抱きしめてくれ
「ダイヤモンド」(Bump of Chicken・藤原基央)
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生まれてきたことに意味があるのさ 1秒も無駄にしちゃいけないよ
嵐が来ようが雨が降ろうが いつでも全力で 空を見上げて 笑い飛ばしてやる
ガラスのブルース(Bump of Chicken・藤原基央)
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多忙とは怠け者の遁辞である
ジャーナリスト・徳冨蘇峰@沖野郷子先生の居室の壁
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後にも先にも ひとつだけ ひとつだけ その腕で ギュッと 抱えて 離すな 世の中に ひとつだけ かけがえのない 生きてる自分
弱い部分 強い部分 その実 両方が かけがえのない自分
誰よりも 何よりも それをまず ギュッと強く 抱きしめてくれ
「ダイヤモンド」(Bump of Chicken・藤原基央)
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生まれてきたことに意味があるのさ 1秒も無駄にしちゃいけないよ
嵐が来ようが雨が降ろうが いつでも全力で 空を見上げて 笑い飛ばしてやる
ガラスのブルース(Bump of Chicken・藤原基央)
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生きてゆく事は掛けて行く事 僕「らしく」意味を追い掛けて
どんなにチャンスがめぐってきても 僕が「ゼロ」なら意味がない。
あの青をこえて(19;ジューク・326;ミツル)
どんなにチャンスがめぐってきても 僕が「ゼロ」なら意味がない。
あの青をこえて(19;ジューク・326;ミツル)
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かんがえるとウキウキ なんだかゾクゾク ニヤニヤしちゃうよ
(こんなこと そんなこと あんなこと!)
ぜったいぜったい できるよね ほんとにほんとに できるよね みらいは すぐそこだよ
清水建設コマーシャルソング『いつかきっと』
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スパイスは “どう今日君が生きる?” 自分次第 walkin' in the rhythm
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多くの分野がそうだが、地球科学という学問には長年にわたり日が当たらなかった。けれども、ようやく表舞台に躍進する時が来たのだ。地球科学により、今では自然災害、気候や環境変動を予測し対処できる可能性が高い。さらに、メタンは将来のエネルギー問題の解決策になるだろう。地球科学はマスコミの脚光を浴び、研究者たちは初めは戸惑いながらも研究成果を一般の人に伝えようと、新しいブームを利用する方法を学んだ。
深海のYrr(上) pp. 190
マシンは、人間の感覚や本能には代われない
深海のYrr(中) pp. 64 有人潜水艇で自ら深海に赴いたゲーアハルト・ボアマンの言葉
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時間をかけて努力しなくては結果は生まれないものだけど、でも、もし誰かかがプロセス抜きで結果だけ得られたとしても、最終的にはその人には何も残らないと思う
イチロー名言集
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…オゾン層が危機的状況になる前に対応がちゃんとなされたということで、「オゾンホール問題」は科学者と各国政府・行政がうまく対応できた「環境問題の優等生」と言われている。
JGL vol.8 No. 3 (2012) 「観測史上初の2011年北極オゾンホール」より
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気候変動の研究は、未解決の課題を多数提示しただけでなく、今後の地球科学の発展にどのように取り組んだらいいのかといった、地球科学研究の本質にせまるような大問題を投げかけている。(pp. 123)
また、太古代の岩石の縞模様には、太陽活動、ENSO、地震や火山噴火など、本書の最初の方で紹介したリズムやイベントが刻まれている可能性もある。これらの時間スケールの短いリズムの歴史を復元するには、いきなり古い時代の試料を用いるのではなく、観測データや記録の残っている現在から過去へ向かって地球史を読んでいく方が賢明であろう。樹木年輪、湖成堆積物や熱帯サンゴ礁のサンゴから過去の歴史を読み出して、地球システムの変動像を明らかにすることは、古い時代を調べる指針となるだけでなく、地球環境問題にも重要な視点を提供できるものと期待される。(pp. 246 - 247)
「縞縞学」:川上紳一 著
(こんなこと そんなこと あんなこと!)
ぜったいぜったい できるよね ほんとにほんとに できるよね みらいは すぐそこだよ
清水建設コマーシャルソング『いつかきっと』
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スパイスは “どう今日君が生きる?” 自分次第 walkin' in the rhythm
日々は短く早い 黙って死んだように生きたくはない
だから人は夢を語り 感じてたいんだ胸の高鳴り
Dragon Ash(作詞:Kj)「Walk with Dreams」
Dragon Ash(作詞:Kj)「Walk with Dreams」
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多くの分野がそうだが、地球科学という学問には長年にわたり日が当たらなかった。けれども、ようやく表舞台に躍進する時が来たのだ。地球科学により、今では自然災害、気候や環境変動を予測し対処できる可能性が高い。さらに、メタンは将来のエネルギー問題の解決策になるだろう。地球科学はマスコミの脚光を浴び、研究者たちは初めは戸惑いながらも研究成果を一般の人に伝えようと、新しいブームを利用する方法を学んだ。
深海のYrr(上) pp. 190
マシンは、人間の感覚や本能には代われない
深海のYrr(中) pp. 64 有人潜水艇で自ら深海に赴いたゲーアハルト・ボアマンの言葉
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時間をかけて努力しなくては結果は生まれないものだけど、でも、もし誰かかがプロセス抜きで結果だけ得られたとしても、最終的にはその人には何も残らないと思う
イチロー名言集
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…オゾン層が危機的状況になる前に対応がちゃんとなされたということで、「オゾンホール問題」は科学者と各国政府・行政がうまく対応できた「環境問題の優等生」と言われている。
JGL vol.8 No. 3 (2012) 「観測史上初の2011年北極オゾンホール」より
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気候変動の研究は、未解決の課題を多数提示しただけでなく、今後の地球科学の発展にどのように取り組んだらいいのかといった、地球科学研究の本質にせまるような大問題を投げかけている。(pp. 123)
また、太古代の岩石の縞模様には、太陽活動、ENSO、地震や火山噴火など、本書の最初の方で紹介したリズムやイベントが刻まれている可能性もある。これらの時間スケールの短いリズムの歴史を復元するには、いきなり古い時代の試料を用いるのではなく、観測データや記録の残っている現在から過去へ向かって地球史を読んでいく方が賢明であろう。樹木年輪、湖成堆積物や熱帯サンゴ礁のサンゴから過去の歴史を読み出して、地球システムの変動像を明らかにすることは、古い時代を調べる指針となるだけでなく、地球環境問題にも重要な視点を提供できるものと期待される。(pp. 246 - 247)
「縞縞学」:川上紳一 著
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