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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English

2012年8月25日土曜日

新着論文(Nature#7412)

Nature
Volume 488 Number 7412 pp429-550 (23 August 2012)

Editorials
Social dimensions to biodiversity
生物多様性に対する社会の側面
生物多様性が失われることを評価するために設立された国際管理機関は科学以上のものを考慮しなければならない。

'The desire of the IPCC to produce standardized assessments (it is now working on its fifth) has limited its success, the authors argue, because it has “overshadowed arguably more important tasks: synthesizing wider perspectives about changing climates and spurring action by multiple policy actors”.'
標準化された評価を設けるというIPCC(現在第5次報告書が作成されている)の目標そのものが成功を束縛したと、作者らは主張する。何故ならばIPCCはほぼ間違いなく、“より重要な課題の重要性を薄めたからである:その課題とは、変わりゆく気候に関する幅広い観点を総合的に扱い、様々な政策者による行動を促すことである。”

'Yet critics of the IPCC too often overlook its heterogeneous nature: goals and practices vary across the three separate working groups, so much so that some have argued convincingly that the IPCC should release not a combined report but three distinct ones.'
しかしIPCCに対する批判はあまりに頻繁にその不均質な性質を見落としている。中には「IPCCは結合された報告書ではなく、3つ別々の報告書を公表すべきだ」と確信を持って主張する人もいるほど、3つの異なる作業部会における目標と方法は異なるのである。

Research Highlights
Cigarette smoke boosts biofilms
タバコの煙が菌膜を増大させる
Infect. Immun. http://dx.doi. org/10.1128/IAI.00689-12 (2012)
タバコの煙に含まれる物質が鼻の粘膜中のバクテリアによる菌膜(バイオフィルム)の形成を促進し、感染症のリスクを高めるらしい。タバコの煙は免疫を弱め、肺の内側に炎症を起こさせることが知られているが、肺の細胞に対するバクテリアの粘着性も増す。この知見は、何故喫煙者や受動喫煙者が呼吸器系の感染症を起こしやすいのかという疑問に答えてくれるかもしれない。

Dark matter hugs the Sun
ダークマターが太陽を抱く
Mon. Not. R. Astron. Soc. http:// dx.doi.org/10.1111/j.1365-2966.2012.21608.x (2012)
宇宙における質量の85%はダークマターが占めているが、従来考えられていたよりも、ダークマターは太陽の近傍にあるかもしれない。ダークマターの球場の光輪が銀河を取り巻いているという従来の考えに食い違う観点が得られた。

Molecule blocks sperm production
分子が精子の生産を妨げる
Cell 150, 673–684 (2012)
精子の数を不可逆的に減らすことができ、精子を動かないようにすることのできる小さな分子は、男性の避妊具としての可能性を秘めている?JQ1と呼ばれる分子は精巣中のBRDTと呼ばれるタンパク質と結合するが、JQ1を注射されたオスのマウスはメスと交尾するものの睾丸が縮小し、精子数も減少、メスを妊娠させることはなかった。4ヶ月間JQ1の注射を控えると、生殖機能が回復したという。男性用の避妊薬として使えるかもしれない?

The spread of herpes in zoos
動物園におけるヘルペスの蔓延
Curr. Biol. http://dx.doi.org/10.1016/ j.cub.2012.07.035 (2012)
2010年にドイツの動物園で死んだシロクマの死因として、シマウマから感染したヘルペスウイルスの可能性が指摘されている。死んだシロクマと他のシロクマのウイルスの遺伝子を分析したところ、EHV1というシマウマのヘルペスウイルスが同定されたという。しかし完全には同一種ではなく、遺伝子を組み替えられた種であったことはウイルスが種を超えて感染したことを説明するかもしれない。げっ歯類の動物が檻から檻へとウイルスを伝搬させた可能性がある。動物園では他の動物にも感染していないかどうかを現在モニタリングしているという。

Textbook encoded in DNA
DNAの中に暗号化される教科書
Science http://dx.doi. org/10.1126/science.1226355 (2012)
53,000語の文字と11のデジタル化された画像を含む、5.27M bitの本とプログラムがDNAの中に暗号化された。それぞれ159個のヌクレオチドを組み合わせ、55,000のDNAを作成。うち96は「1」か「0」を表現し、19は並び順、残り44が読み方を表現しているらしい。現在は非実用的な段階であるが、従来法よりも密に情報を記録できる技術として期待されているらしい。

Graphene, heal thyself
グラフェン、自己修復機能
Nano. Lett. 12, 3936–3940 (2012)
単原子の厚みを持つグラフェンは非常に特異な性質を多数持つが、それにさらに「自己修復」機能が付け加わった。グラフェンのシートにある金属を置き、触媒作用によってグラフェンの分解を促進させ、穴を空ける。その後金属を取り去ると、穴は自動的に修復された。ただしこの時に他の炭化水素があると穴は様々な大きさを持つ他からやってきた炭素原子の輪っかで埋められてしまうが、炭化水素がない場合では元々の炭素原子が戻ることで、二次元構造が修復されたという。この知見はナノメートルスケールでのエッチング技術に応用が期待されている。

Melting triggers more melting
融解がさらなる融解を招く
Cryosphere 6, 821–839 (2012)
グリーンランド氷床に置ける過去12年間の夏のアルベド・気温・日射量の観測記録とモデル結果から、アルベドのポジティブ・フィードバックによって2000年以降の氷床表面の融解速度が倍増していることが示された。特に夏の気温上昇によって「雪の結晶が大きくなり、それが日射をあまり反射しない」、「雲量が減り、日射が地面を暖める効率が増す」、「夏の降雪量が低下したことで雪がより汚く(黒く)なる」などのフィードバックが働いている。そのため、今後の温暖な時代でもグリーンランド氷床は温度上昇に対して耐えるのではなく、むしろ融解するだろうという予測がなされている。今年7月には約97%の氷床表面の融解が起きていたと推定されている。

Seven Days
Gene patent boost
遺伝子特許が増大している
アメリカにおいて2回目となる、生体工学産業の遺伝子特許が認可された。「DNAは自然の産物であり、特許で制約を与えることはできない」とする反対意見もあったが、最終的に「単離したDNAを読む技術は自然の産物ではない」として、特許を認めた。

Tobacco control
タバコの制御
オーストラリア政府は、「タバコの包装からタバコ会社のロゴや商標をなくす」という法廷での戦いに勝利した。2012/12/1より、タバコ製品はタバコの健康被害の注意喚起が大きく書かれたオリーブグリーンの箱でのみ販売されることとなる。WHOは他国にもオーストラリアに従うよう、促しており、「“public health enters a brave new world of tobacco control” 公共衛生はタバコを制御する新しい勇敢な時代へと突入している」という声明を出している。

Telescope sale
望遠鏡セール
NSFは天文学者のパネルに対し、チリに建設予定の総観規模の望遠鏡の費用を捻出するためにも2017年までに6つの望遠鏡を売却するようアドバイスした。NSFの宇宙分野の責任者は施設そのものが閉鎖されないように、18ヶ月以内に望遠鏡を運営する候補を挙げるとしている。

Heliophysics plan
太陽物理学の計画
次の10年間のアメリカの太陽物理の研究計画は地球に宇宙天気が与える影響を調べることなどを含む、小-中規模のミッションに集中するという。

Amazon’s giant dam halted again
アマゾンの巨大ダムが再び建設中断に
ブラジルの連邦裁判所は、流域周辺の先住民族へのさらなる協議が必要だとして、Belo Monteダムの建設を一時的に中止させた。このダムは水力発電用の施設で、世界で3番目に大きい水力発電所となることが期待されている(総工費130億ドル、発電力11GW)。

West Nile virus
西ナイル・ウイルス
アメリカのダラス・テキサスにおいて西ナイル・ウイルスに対する非常事態宣言が出された。今年に入って693人が発症、26人が死亡している。このウイルスは元々1999年に初めてもたらされたもので、以来毎年発生している。US Centers for Disease Control and Preventionによれば、今年の発症者数は過去最多であるという。

Mars laser
火星のレーザー
火星探査機のCuriosityは「Coronation(戴冠式)」とニックネームを付けられた火星の岩石に対し、レーザー照射のテストを行い、発生した火花のスペクトルを記録した。このテストは探査機が移動する前の最終テストであり、この後探査機は3種類の地形が合流する地点に向けて、東〜南東方向に400mほどの移動を予定している。

Hypersonic flight
極超音速飛行
マッハ6の極超音速飛行のテスト飛行において、X-51A Waveriderが空中分解した。垂直尾翼の欠陥が原因だとされている。X-51は4機製造されたが、アメリカ空軍には残り1機しか残されていないという。

Forest emissions
森林の排出
ブラジルに置ける森林破壊の厳しい措置のおかげで、ブラジルアマゾンの森林破壊起源の二酸化炭素の排出は57%減少し、2004年から2011年にかけて986Mtから420Mtへと減少したことが、ブラジルのNational Institute for Space Researchの研究より分かった。森林破壊の減少率(77%)ほど早くは減少しておらず、これは土壌や植物中の炭素がそれほど速やかに大気中へと移動しないこと、また残りの森林破壊が炭素を多く貯蔵している密度の濃い森林へと移動していることが原因と考えられる。
(※コメント:密度が濃いというのは大気に放出されにくいという意味か?)

Next Mars mission
次の火星探査計画
2016年に火星の赤道に深部の振動を探知する探査機を送り込む、とNASAが発表した。InSight (Interior Exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transport:地震波を用いた内部調査、測地、熱輸送)と呼ばれる探査計画で、2年間のミッションの期間中にマグニチュード5程度の地震を対象に調査する予定。

NASA contract
NASAの契約
Curiosityが製造されたCalifornia Institute of Technology (Caltech)のJet Propulsion Laboratory (JPL)はゆく5年間はNASAが運営を継続することをNASAが公表した(運営費:約85億ドル)。JPLは1958年以来ずっとNASAによって運営されていたが、今後は5年ごとにopen competition(運営の競合?)することになるという。

News in Focus
Test lakes face closure
試験湖が閉鎖に直面している
カナダ・オンタリオ州の環境汚染の生態系への影響を調べる試験用の湖が、予算削減を受けて閉鎖の危機に瀕している。

US telescopes face up to agency cuts
アメリカの望遠鏡が機関の削減に直面している
NSFによって運営されている6つの天体望遠鏡施設は、新しい望遠鏡の建設を受けてNSFから運営放棄すべきだ、とNSFの宇宙部門に外から集められた天文学者パネルは主張する。

Space missions trigger map wars
宇宙探査が地図戦争を招く
惑星探査を行う科学者達は、従来の命名体型に反対している。「Vestaの地形に対して緯度・経度をどう定めるか、また子午線をどこに引くか」「火星の地形の名称をどうするか」などを巡る論争について。火星の山などの大規模な構造は、19世紀にそれらを色の明暗で発見した過去の天文学者にならって、ラテン語で名付けられる必要があるらしい。Curiosity計画の科学者の一人であるJohn Grotzingerは、法に触れたくはないが、人に馴染み深い名称にしたいと語る。例えば、火星探査機SpiritがColumbia Hillsを発見した時、その1年前のColumbia号のスペースシャトル事故を受けて、その追悼の意を表して「Columbia Hills」と名付けたように。ただしこの名称は非公式の名称であるという。

Companies set to fight food-label plan
企業は食品にラベルをつける計画に対する戦いを始めた
カリフォルニア州の議題番号37は遺伝子組み換えによって作られた作物すべてにラベルを付けるだろう。主に有機作物を作る農家や、環境保護主義者によって支持されている。一方でそれに反対するものたちは、そうしたラベルが消費者に対する警告として捉えられないか、遺伝子工学に対する警戒心を煽らないかと懸念している。アメリカで生産される大豆の94%、トウモロコシの88%が遺伝子組み換えによって除草剤や害虫に対する耐性を強化されており、アメリカ全土でこうしたラベリングが採用されればその影響はとてつもなく大きい。ラベルには遺伝子組み換えの方法や使用している遺伝子組み換え食品の内容量を明記する必要はない。また遺伝子組み換え作物を飼料として飼育された家畜の肉にはこうした表示は必要がないという。こうしたラベルに対して、干ばつに強い、栄養価の高い作物を作る技術に対する’反科学’だとする科学者もいれば、遺伝子組み換え食品の健康被害は長期にわたって常に警戒すべきだとしてラベリングの必要性を主張する科学者もいる。

Comment
Listen to the voices of experience
経験の声を聞け
Esther TurnhoutほかはIntergovernmental Platform on Biodiversity and Ecosystem Services (IPBES)はIPCC以上にはるかに幅広い知識と遥かに多い出資者を得なければならないと主張する。

Correspondence
Stricter management of organ transplants
臓器移植のより厳密な管理
臓器密売や臓器移植患者待機リストの改ざんなどの問題を受けて、臓器移植が人々の不信や臓器提供の提供の減少へと繋がっている。

News & Views
Himalayan glaciers in the balance
ヒマラヤ氷河は均衡している
J. Graham Cogley
人工衛星によって高度を測定した観測結果からは、ヒマラヤの氷河はゆっくりとしか後退していないが、質量収支を計算する他の手法についての疑問を投げかけている。

Letters
Long-term decline of global atmospheric ethane concentrations and implications for methane
Isobel J. Simpson, Mads P. Sulbaek Andersen, Simone Meinardi, Lori Bruhwiler, Nicola J. Blake, Detlev Helmig, F. Sherwood Rowland & Donald R. Blake
エタンはメタンに次ぐ大気中に含まれる炭化水素であり、対流圏のオゾンの前駆体、OHラジカルとの反応を経て大気の酸化能を決めるという重要な性質を持つ。全球的なエタン放出量は1984年から2010年にかけて年間21%の割合で低下している。おそらくこの減少の原因は、「バイオ燃料の使用や森林火災の減少」ではなく、「化石燃料を産出する際のエタン放出や燃焼によるエタン放出(fugitive fossil fuel emissions)の量が減少したこと」と考えられる。エタンの放出源とメタンの放出源は類似しているが、エタンをもとにメタンの放出を推定すると、近年のメタン放出量の低下は30-70%はfugitive fossil fuel emissionsの減少によって説明され、1980年代中頃以降の大気中メタン濃度の上昇率の低下に有意に寄与していると考えられる。
Simpson et al. (2012)を改変。
大気中のエタン濃度は緯度方向に濃度が大きく異なる。特に北半球の中〜高緯度で大きい。つまり陸源であることを示している。全体としては濃度は減少傾向にある。
Simpson et al. (2012)を改変。
大気中のエタン濃度はメタン濃度の増加率とほぼ同期して変動している。つまりfugitive fossil fuel emissionsという同じメカニズムによってそれぞれが支配されていることを示唆している。軸の定義が異なるため、エタンは減少傾向、メタン濃度は増加傾向だが現在はほぼ頭打ちという形となる(メタンの放出源は生物源、湿地源、ツンドラ源など他にもあるため)。

Contrasting patterns of early twenty-first-century glacier mass change in the Himalayas
Andreas Kääb, Etienne Berthier, Christopher Nuth, Julie Gardelle & Yves Arnaud
山岳氷河は陸域の気候変動の指標として、山岳地帯の水資源を支えるものとして、全球の海水準上昇の主要因として重要である。Hindu Kush–Karakoram–Himalaya地域(HKKH)の山岳氷河の質量収支の理解は不足しているが、レーザーを用いた高度観測の記録や、モデルのデータから2003年から2008年にかけてHKKHの東部、中部、南西部において氷河量が低下していることが分かった。逆にカラコラム地域ではわずかながら氷河は厚みを増している(年間数センチ)。HKKH全体での質量収支は年間に0.21 ± 0.05 m/yrの割合で低下しており、現在の海水準上昇の1%に寄与している。重力観測に基づいた先行研究の見積もりでは「−5 ± 3 Gt/yr」という値が得られていたが、今回我々の見積もりでは「−12.8 ± 3.5 Gt/yr」というより大きな減少率が得られた。
Kaab et al. (2012)を改変。
様々な地域における氷河量の推移。黒が氷河以外の地形の高度変化、赤が氷河の高度変化。