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2012年8月4日土曜日

新着論文(Ngeo#August2012)

Nature Geoscience
August 2012, Volume 5 No 8 pp517-584

Research Highlights
Titan renewed
見直されるタイタン
J.Geophys. Res. http://doi.org/h3r (2012)
土星の衛星タイタンの表面は割と新しい年代(10億年ほど)を示す。氷火山の影響で浸食が起き、表層の再生産プロセスが働いていると考えられているが、流跡を詳細に観測してみると、浸食がほとんど起こっていない地域も存在することが分かった。タイタンの浸食のメカニズムを説明するには他のプロセスを考える必要があるかもしれない。

Microbes on the edge
縁辺部の微生物
Biogeosciences 9, 2431–2442 (2012)
グリーンランド氷床の表面付近に生息する微生物が生物地球化学的にどのような役割を負っているかはあまりよく分かっていない。Leverett氷河の河口から氷床内部に向かって79kmに渡って調査を行い、氷床に空いた穴の氷や水、土壌などの化学分析を行った。氷河の河口付近では微生物がアセチレンを消費している(窒素固定の指標とされる)ことが分かった。しかし河口から7.5km内陸では窒素固定は行われていなかった。窒素固定により生物が利用可能な窒素へと形が変わるため、こうした微生物の働きが氷床の縁辺部での他の生物(微生物、植物など)の活動を支えていることが示唆される。

Minimal ice growth
わずかな氷の成長
Earth Planet. Sci. Lett. 337–338, 243–251 (2012)
過去500万年間西南極氷床の高度はほとんど増加していないことが露出年代より判明した。西南極では降水や雪が多く降った時代には高度は現在と同じか、逆に高度が下がっていたらしい。海面下の基底部における融解が西南極氷床を薄くし、崩壊させる働きを持っていたらしい。

Letters
Seismic imaging of a large horizontal vortex at abyssal depths beneath the Sub-Antarctic Front
K. L. Sheen, N. J. White, C. P. Caulfield & R. W. Hobbs
南大洋の海洋循環が全球の気候に与える影響は大きい。しかしながら南大西洋の亜熱帯域においてNADWとACCの海水の海水交換はよく分かっていない。音波探査によって水柱の熱塩構造を調べたところ、表層2.5kmでは海水交換はほとんど無視できる程度にしか起こっていないが、2.5kmよりも深いところでは幅10kmほどの渦巻き構造が確認された。この渦は水平方向に平均0.3±0.1 m/sで回転しており、貫入(intrusion)か転覆(overturning)のいずれかによって引き起こされていると考えられる。
Sheen et al. (2012)を改変。
南大洋の大西洋セクターにおける海水混合の模式図。高密度のNADWと相対的に低密度の南大洋の海水が複雑な物理メカニズムで混合している。

Global rates of water-column denitrification derived from nitrogen gas measurements
Tim DeVries, Curtis Deutsch, François Primeau, Bonnie Chang & Allan Devol
ほとんどの海洋において生物的に利用可能な窒素の量が光合成植物プランクトンの成長を制限している。しかしながら窒素が脱窒を行うバクテリアによって海洋から除去される過程はよく分かっていない。外洋の貧酸素の海域における気体の窒素の挙動をGCMを用いて再現。全球の水柱における脱窒の速度は66 ± 6 TgN/yrと見積もられた。さらに堆積物と海水から窒素が失われる速度は同位体の情報から合計で230 ± 60 TgN/yrと見積もられた。全体として20 ± 70 Tg/yrの速度で窒素が失われており、ほとんど平衡に達していると見なすことができる。
DeVries et al. (2012)を改変。
研究対象となった貧酸素水塊が存在する海域と海水のN2の観測値が存在する地点(赤)。

Reduction in carbon uptake during turn of the century drought in western North America
Christopher R. Schwalm, Christopher A. Williams, Kevin Schaefer, Dennis Baldocchi, T. Andrew Black, Allen H. Goldstein, Beverly E. Law, Walter C. Oechel, Kyaw Tha Paw U & Russel L. Scott
化石燃料の二酸化炭素放出をさておくと、北米は二酸化炭素の吸収源となっている。近年の地球温暖化に伴い、干ばつなどを含む異常気象の頻度や程度が増している。面積あたりの二酸化炭素の吸収能は2000年から2004年の間、30 - 298 PgC/yrの割合で低下したことが再解析データとリモセンのデータから分かった。過去には800年前に同様の規模の干ばつが起きていたらしい。また将来の降水量と干ばつの程度の予測に基づくと、北米西部の二酸化炭素吸収源は今世紀末には完全に無くなってしまうかもしれない。

Hydrologic cycling over Antarctica during the middle Miocene warming
Sarah J. Feakins, Sophie Warny & Jung-Eun Lee
20-15Maの間は全球的に温暖であり、南極氷床は成長から後退へと転じた。西南極・東南極氷床ともに後退したと考えられている。15.7Maには南極沿岸に既に植生が存在したと考えられているが、植生を支えた水循環はよく分かっていない。Ross海で採取された堆積物コア中の葉のワックス(leaf wax)のdDと花粉分析とモデルシミュレーションを組み合わせて中新世中期の南極の植生、気温、降水量を復元。dDは20-15.5Maに現在よりも降水量が多かったことを示唆しており、その際に植生も豊かで、特に16.4-15.7Maに繁栄していたと考えられる。夏の気温は現在よりも11℃高く、南大洋からの水蒸気の運搬も増加していたようである。

Articles
Localized subduction of anthropogenic carbon dioxide in the Southern Hemisphere oceans
Jean-Baptiste Sallée, Richard J. Matear, Stephen R. Rintoul & Andrew Lenton
人為起源の二酸化炭素排出のうち25%は海に吸収されており、そのうち40%が南大洋の40ºSよりも高緯度の海域において吸収されている。この二酸化炭素の吸収が気候変動を緩和していると考えられる。吸収速度を決めるのは表層海水から海洋内部へと炭素が輸送される過程(沈み込み;subduction)であるが、その物理メカニズムはよく分かっていない。海洋観測から、南大洋の35ºSと海氷の張り出す南限までの海域における沈み込み量は0.42 ± 0.2 PgC/yrと見積もられた。この沈み込みは風によるエクマン輸送・渦フラックス・混合層の深さの変動の相互作用の結果として生じていると考えられる。海洋の炭素吸収は種々の海洋物理過程に強く依存しており、気候変動や気候変化にも敏感である可能性があると結論づける。
Sallee et al. (2012)を改変。
人為起源の二酸化炭素が沈み込み、貯蔵されている水塊の場所を示したもの(赤)。縦軸は海水密度で表現した深度、横軸は経度。南大洋のインド洋セクターで非常に多くの炭素が溶け込んでいる。