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2012年8月24日金曜日

気候変動研究の説明責任と’地質学’

自分の研究分野を一般の人に聞かれることは多いし、それをきちんと説明することはとても大切だと思う。

人:「今は社会人ですか?」

僕:「いえ、大学院の博士課程の学生です。」

人:「何の研究をしているんですか?」

僕:「地球の過去の気候変動の研究をしています」

人:「へ〜。地球温暖化とかですか?いまホットな話題ですよね〜」

僕:「いや、地球温暖化というよりは海洋酸性化とか、或いはもっと古い時代の気候変動が専門です」

人:「…?」



こういったやり取りは至る所で繰り返されるわけだが、僕自身は何も地球温暖化が専門ではないし、’海洋酸性化’という言葉すら知っている人はほとんどいない。

下手に「地質学」とか「炭素循環の研究」とか言ってしまうと、余計相手に説明することが難しくなる。
本気で説明し始めると、それこそ2〜3時間の講義になってしまう。



業界の人には、「最終退氷期の炭素循環の研究を行っています。特にサンゴ骨格中のホウ素同位体をTIMSで測定して海水のpHを復元しています。」と言うと知っている人には

「ああ、pH計のやつね。使えそうなの?」

となり、議論が始まる。

場合によっては’最終退氷期’という言葉の意味を説明する必要があるが、

「前の氷期から今の間氷期までの移り変わりの部分で…」

と説明すれば分かってもらえる。



ただし、これは地質学や古気候・古海洋学の非常に狭〜〜〜〜〜い分野に限られる。

ある程度年を取ると、新しい学生以外もうほとんどが顔見知りっていうくらい狭い業界だ。




だいたい日本の教育で高校の地学を選択していない限り、地質学に触れるのは中学の理科の授業が最後だ。

よほど地質学に興味を持っていない限りは。恐竜でも化石でも鉱物でもなんでもいいけれど。



しかも中学理科で扱う地学の知識は

「マグマの粘性と火山の形状の関係」とか、「堆積岩と火山岩の違い」とか、「月や地球の天体運動」とか、「化石の示準化石と示相化石の区別」とか、その程度のものだ。

受験勉強で使ってそれ以降耳にすることは少ないのが現状ではないだろうか。
(僕のときもそうだったし、塾や家庭教師で指導していた中学生の教科書もだいたいそうだった)

僕自身、「新生代」とか「第四紀」とかいう地質学時代の時代区分を知ったのは大学学部の2〜3年生くらいが初めてで、地質学の時間軸の話というのはほとんどの人が知らないはず。

白亜紀」とか「石炭紀」とか市民権を得ている時代は例外的にあるけれど。




中でも、地球の「気候変動」に対する一般の人の知識というのは誰もが知っている「地球温暖化」とか太陽活動の低下と地球の寒冷化との関係性が主張されている「小氷期」とかに限られるのだろう。例のテムズ川が凍って…というあの時期だ。


これらはたかだか400年前から現在にかけて起こった出来事で、完新世と呼ばれる温暖期(長い間氷期)の約11,000年の期間のほんの一部に過ぎない。
それはそれで本当に重要だけれど、もう少し時代を遡ると、「氷期-間氷期」という100,000年の周期で繰り返す、寒い時期-暖かい時期の繰り返しがあることが分かる。
(wikiなどに詳しい詳細があるので、図解などは省略)

この「氷期-間氷期」で特徴付けられるのが「第四紀」であり、さらに「第四紀(Quaternary)」は「新生代(Cenozoic)」の最近のほんの一部だ。


新生代の6,500万年間の地球の歴史を概観すると、恐竜が絶滅して以降、実は地球は寒冷化し続けており、現在はその中でも間氷期という比較的暖かい時期に相当する。


そうした時代背景の下で、人為起源の地球温暖化が進行している。

特に大気中の二酸化炭素濃度は氷期-間氷期の変動を遥かに超えており、それに伴う海水のpHの低下速度(海洋酸性化)は明らかに自然の変動を逸脱している。



よく「間氷期はもうすぐ終わり、次の氷期が訪れるから温暖化は一時的なものだ。だから二酸化炭素排出を削減することには意味がない」と主張する人がいるが、これは必ずしも正しくはない

地球システムモデルを用いて、「人為起源の二酸化炭素がなかった場合に次に氷期に突入するのはいつか」を見積もる研究がなされている。それによれば本来の地球の気候変動の範疇では、あと数千年もすれば次の氷期に突入していたらしい。
現行の地球システムモデル(ESM)、大気海洋大循環モデル(AO-GCM)では、人為起源の二酸化炭素排出により(他の温室効果ガスやエアロゾルの効果も考慮されているものが多い)温暖化することが示されている。つまり次の氷期が訪れない可能性が高いことを示唆している。
ただし「二酸化炭素濃度が何ppm上昇した場合に、地表の気温が何℃上昇するか」という、気候感度の問題については残念ながら不確実性が大きく、モデル間でも予測値がばらつくということは認めなければならない。
ここでは、地球の放射収支やエネルギーバランス、種々の物理・化学・生物を考慮したモデルシミュレーションでは温暖化することが予測されているということを強調したい。



僕の専門は地球温暖化ではないので、すべての研究を把握しているわけではないし、それは不可能だが、ここで主張したいのは、長〜い視点で地球の歴史を知ることも案外重要だということだ



地球温暖化にせよ、小氷期にせよ、太陽変調にせよ、重要なのはそうした現象があるということを知ったからといってそれを拠り所に闇雲に気候変動を語ることではなくて、「それが自然変動の範疇なのか」、「それとも異常現象なのか」、という判断基準を曖昧にでもいいから各人が持つことだと思う。

また著名な教授だの研究者だのが「地球温暖化は正しい」とか「地球温暖化は嘘だ」と言っていることにイチイチ振り回されるのではなく、地球の歴史をある程度知った上で、「これは過去に例がない異常事態ではないか…」とか「これは異常現象と呼ぶには早計では…」という認識の形があってもいいと思うわけで。


地球の歴史のすべてを知るために研究までするのは地質学者だけでいいけれど、かいつまんだ形でもいいから最近の(特に新生代の)地球の気候変動を知ってもらうのはとても重要だと思う
特に地球温暖化が問題とされている現在においては。



ちょっと本来の話から逸れてしまったが、僕が自分の研究分野を説明するときにいつも実感するのが「地質学」というか「地球の歴史」についての一般の人との知識の乖離だ。

「だから地質学をもっと学ぼう!」と主張するのはあまりに押し付けがましいけれども、これだけ多くの気候変動のトピックが飛び交う情報化社会において、周りに振り回されるだけではなくて、少なからず自分なりの意見を持つために、「地球の歴史」という視点でもって気候変動を理解するのは直感的にも分かりやすいし、それほど難しいことでもないし、案外ありなんじゃなかろうか。




気候変動が何を変え、どう影響するか?すべてを正確に答えられる人は神様以外誰もいない。

けれど経済、産業、農業、生態系、水産業、林業、疫病、エネルギー問題etc…
ありとあらゆる分野に影響を与えることが予想される。だからこそ反対意見を強固に主張する人たちがいるのだが。
(議論を行うこと自体は歓迎すべきことだが、間違った或いは偏った知識を流布するのは間違った行いだと思っている)


これまで地質学者のみが独占していた「地球の歴史」に関する知識はもはや地質学者の頭の中だけに留めておくのではなく、もっと一般の人に分かりやすい形で、興味を持ってもらえる形で、外へ発信していくことが求められている。

僕らはそれをやる必要があるし、むしろ義務と言っていいくらいに重要性を増してきている。

だからこそ、このブログを通して、ちょっとでも一般の人にも興味をもってもらえそうな’地質学’の話題について精力的に取り上げていきたいと思っている。



(ちょっと話が発散気味。もう少し文章をまとめる能力を磨かなければ…。)