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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English

2012年8月2日木曜日

新着論文(Nature#7409)

Nature
Volume 488 Number 7409 pp5-124 (2 August 2012)

Research Highlights
Blind mice can sense light
盲目のマウスが光を感じることができる
Neuron 75, 271–282 (2012)
網膜の光を感じる細胞が生成されず、盲目となってしまう病気(retinitis pigmentosa)のマウスに対して、AAQと呼ばれる分子(健康なマウスの細胞から採取したもの)を盲目のマウスの網膜に注射したところ、光に反応する動作が見られたという。

Skin bacteria boost immunity
肌のバクテリアが免疫を強化する
Science http://dx.doi. org/10.1126/science.1225152 (2012)
ほ乳類の腸に生息する細菌類が免疫に重要な役割を負っているのと同様に、肌に住む細菌類も免疫を高める作用があるらしい。肌に微生物を飼うマウスと飼わないマウスで実験したところ、前者の方が免疫を刺激する分子が多く生成されることが分かった。また肌に寄生生物を感染させたところ、後者の方が肌の単位面積あたりの寄生生物数が多くなったという。

Rechargeable Li–air battery
再充電可能なリチウム-空気電池
Science http://dx.doi. org/10.1126/science.1223985 (2012)
リチウムイオン電池のエネルギー保有力を凌ぐ能力を持つ「リチウム-空気」電池は100回の再充電の後も最初の95%のエネルギー保有力を維持するらしい。空気中の酸素との化学反応を利用して発電する方法らしく、リチウム電池のように酸化剤を必要としない。電解液にジメチルスルホキシド、陽極に多孔性の金を使用することで、副反応も抑えられるらしい。

Sex is costly for squid
イカにとってSEXは高くつく
Biol. Lett. http://dx.doi. org/10.1098/rsbl.2012.0556 (2012)
イカの交尾は3時間にも及び、エネルギーを非常に消費するため捕食の危険が高まるとともに、食料探しの時間も割かれる。水流を調整できる水槽内でイカの一種(dumpling squid ;Euprymna tasmanica)の交尾の前後で泳ぐ能力を調べたところ、明らかに交尾後の方が体力が半分に落ちたが、30分で回復したという。イカの乱交などの生殖行動の進化の理解に繋がる可能性がある。

Hunter-gatherer genes
狩猟採集民族の遺伝子
Cell http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2012.07.009 (2012)
カメルーンのPygmie族とHadza族、タンザニアのSandawe族の遺伝子を調べたところ、非常に多くの違い(高い多様性)が見られた。これはそれぞれの種族が地域的な環境下で独立に進化してきたことを物語っている。そのルーツは今は絶滅してしまった種に行き着くらしいが、こうした特徴はアフリカ以外の種族によく見られる特徴で、様々な種族間での交配が一般的であったことを示唆している。

Aerosols keep down monsoon rain
エアロゾルがモンスーンの雨を弱める
J. Geophys. Res. http://dx.doi.org/10.1029/2012JD017508 (2012)
エアロゾルが南アジアのモンスーンの時期の降水量を減らしている。解像度を落とした大気-海洋循環モデルを用いてシミュレーションを行ったところ、ブラックカーボンといったエアロゾルが太陽光を吸収し、雲被覆を減らす効果によって、モンスーン性の降水が減少することが分かった。またこのエアロゾルは南アジアから排出されるものだけでなく、より遠くから運ばれてくるものも寄与しているという。森林火災や野火が減少している北西インドのみ逆に降水量は増加したという。

Seven days
India curbs tiger tourism
インドはトラの観光を減らす
インドの最高裁判所は観光客に対し絶滅が危ぶまれている約40頭のトラが棲息しているインド中部へのトラ観光を禁止する法案を仮決定した。8/22に見直されるらしい。インドには約1,700頭の野生のトラが生息しており、世界の頭数の半分を占めるらしい。

Greenland melt
グリーンランドの融解
NASAの衛星観測から、先月のグリーンランド氷床の表層での融解量が非常に大きかったことが分かった。観測は限られているものの、特に7/8-12にかけては過去数10年間で最大の融解であった。氷床全体の40%ほどが現在融解しつつあるが、この時は全体の97%が融解していたという。しかしこれは自然の変動の中にあるようで、アイスコアの記録からは150年に1回の割合で繰り返し起きているらしい。前回は1889年に起きていた。

Warming redux
温暖化の復古
The Berkeley Earth Surface Temperature (BEST)は最新の地球表層の温度上昇の推定値を公開した。人為的な影響によってここ250年間で温暖化しているという結論であったが、それ自体は気候学者にとっては新しい事実ではない。それよりも問題であったのは、この結果がピアレビューされる前に公表されたことである。雑誌にはまだ結果は載っていないが、オンライン版には去年の10月に結果が投稿されてしまっていた。

Antarctica upgrade
南極のアップグレード
砕氷船Polar Star icebreakerなどの南極研究の施設設備は修繕が必要らしい。アメリカの南極プログラムは予算の6%ほどを科学研究費から削減し、インフラの整備に充てることを計画している。しばらくは整備に予算と時間ともに割かれるが、修繕後は元のバランスに戻される。

Nuclear safety
核の安全性
日本の新しい原子力保安委員会は原子物理学者の田中俊一氏がトップに立つことになった。田中氏は上・下院議員によって推薦され、9月に設立予定の新しい委員会は環境省に属することになる。しかし原子力産業寄りすぎるため、健康被害を軽視してしまうのではないかとする批判も存在する。

Museum head
博物館の館長
スミソニアン博物館の次の館長が「Kirk Johnson」に決定した。彼は現在デンバーの自然博物館の首席学芸員を務めており、白亜紀の植物化石が専門の地質学者である。現在館長を務めるCristián Samperは来年1/23にニューヨークの自然生物保護協会の会長になることが決まっている。

News in Focus
7 minutes of terror
7分間の恐怖
Eric Hand
8/6 UTC05:24におよそ8ヶ月に渡って旅を続けていた火星探査機が火星に降り立つ瞬間を迎える。技術向上によって目標地点から20km半径内に着陸できる見込みであるという。Galeクレーターに降り立った地上探査機ローバーは5.5kmもの横たわった地層を横断し、火星の歴史を数億年分遡り、火星に生命がいたのかどうかを調査する。ローバーは重量が900kgと重すぎるため、従来のエアバック式の着陸方式ではなく、クレーンでつり下げるシステムを採用している。探査機と火星の環境を綿密にモデリングして、失敗率はわずか1.7%と見積もられている。

Comment
Let academia lead space science
アカデミック界に宇宙科学を牽引させよ
NASAはより多くの予算を13の原理科学ミッションに割くべきだ、とDaniel N. Bakerは言う。

Correspondence
Improve access to sanitation in China
中国の公衆衛生へのアクセスを改善する
先月中国の飲料水の環境基準は引き上げられたが、公衆衛生の改善も同様に期待する。インドと同じく、急速に発展する国においては公衆衛生が追いついていない。WHOの調査によると(WHO/ UNICEF Progress on Drinking Water and Sanitation, 2012)、中国の36%の人々はろくに公衆衛生(水洗トイレなど)へのアクセスがない。中国の統計からは都市部で74%、地方で56%がこうしたアクセスがないとされているが、数字は食い違っている。都市部では73%の下水整備がされているが、地方の下水の95%はそのまま河川や湖に流入している。

Bat deaths from wind turbine blades
風力発電のプロペラが招くコウモリの死
プロペラ回転によって生じる気圧差によってコウモリが死ぬこと(barotrauma仮説)を想像するかもしれないが、こうした死に方は非常に稀である。コウモリの死骸の傷などを詳細に調査すると、プロペラそのものによる外傷が死因の主要因である。

News & Views
An insect to fill the gap
溝を埋める昆虫
William A. Shear
デボン紀の完全な昆虫化石の候補の発見が昆虫の進化に対する知識を飛躍的に向上させるかもしれない。

The balance of the carbon budget
炭素収支のバランス
Ingeborg Levin
注意深い解析から、人為起源の二酸化炭素を自然が吸収する割合はここ50年間で2倍になったことが明らかになった。しかし陸上と海によってそれぞれどれほどの炭素が吸収されたかは未だ不確かなままである。
大気中の二酸化炭素濃度(青)は、人間が出した二酸化炭素(赤)のうち、陸や海によって吸収された分(緑)を差し引いたものになります。

Letters
Increase in observed net carbon dioxide uptake by land and oceans during the past 50 years
A. P. Ballantyne, C. B. Alden, J. B. Miller, P. P. Tans & J. W. C. White
全球の炭素循環の理解は将来の気候変動に対する予測能力を高めることが期待される。人為起源の二酸化炭素排出のうち約半分が陸と海によって吸収されていると考えられているが、将来この二酸化炭素吸収が減少すると予測されており、それは大気に残留する二酸化炭素が増えるということを意味する(正のフィードバック:温室効果を加速させる)。世界中の大気中の二酸化炭素濃度の測定データから、ここ50年間の二酸化炭素の放出源・吸収源を質量収支計算したところ、年々吸収量が0.05PgC/yrの割合で増加しており、1960年の吸収量が2.4±0.8PgCであったのに対し、2010年の吸収量は5.0±0.9PgCとほぼ倍増したことが分かった。これは1959年以来排出されてきた人為起源の二酸化炭素のうち55%は陸と海によって吸収されており、またこうした吸収源の吸収能力は減少していないことを意味する。この吸収メカニズムの理解と吸収場所の特定が現在の炭素循環研究にとって非常に重要な課題である。
Ballantyne et al. (2012)を改変。
1960年以降の二酸化炭素の放出量(青)
化石燃料の燃焼起源の二酸化炭素(赤)
森林破壊起源の二酸化炭素放出量(黄)
自然の炭素吸収量(黒)
※補足
この海による吸収分が’海洋酸性化’を招いています。この研究では大気中の二酸化炭素濃度から海洋の吸収分を見積もっていますが、海洋観測によって直接吸収量が見積もられており、およそ25-30%と報告されています。見ているものは基本的には同じ二酸化炭素です。

Persistent near-tropical warmth on the Antarctic continent during the early Eocene epoch
Jörg Pross, Lineth Contreras, Peter K. Bijl, David R. Greenwood, Steven M. Bohaty, Stefan Schouten, James A. Bendle, Ursula Röhl, Lisa Tauxe, J. Ian Raine, Claire E. Huck, Tina van de Flierdt, Stewart S. R. Jamieson, Catherine E. Stickley, Bas van de Schootbrugge, Carlota Escutia, Henk Brinkhuis & Integrated Ocean Drilling Program Expedition 318 Scientists
過去6500万年間における最も温暖な気候は始新世初期(約5500万~4800万年前)に起こり、当時は赤道と極の間の温度勾配が今日よりもずっと小さく、大気中の二酸化炭素濃度は単位体積当たり1,000 ppmを超えていたと推定されている。しかし、始新世初期の温暖化した世界の気候状態については南極においてはほとんどわかっていない。東南極のウィルクスランド沖で採取された海洋堆積物コアから得られた生物的な気候の間接指標(花粉・胞子)と有機地球化学的な間接指標(TEX86)は、ウィルクスランド沿岸(古緯度で南緯約70度)の低地環境がヤシやパンヤ亜科を含む、温帯から熱帯の植物相で特徴付けられる、きわめて多様で熱帯林に似た森林であったことを示唆している。冬は非常に温暖で(10℃以上)、極夜の存在にもかかわらず霜が降りなかった程度であったと考えられる。

Universal species–area and endemics–area relationships at continental scales
David Storch, Petr Keil & Walter Jetz
種や固有種の数が面積とともにどう変化するかは、概念および応用面に幅広く関連するが、これらのパターンの分類群や地域を超えた普遍性や浸透性に関する理解は進んでいない。世界の主要な大陸にわたる両生類、鳥類、および哺乳類で指数関数的な関係性が見いだされた。

A complete insect from the Late Devonian period
Romain Garrouste, Gaël Clément, Patricia Nel, Michael S. Engel, Philippe Grandcolas, Cyrille D’Haese, Linda Lagebro, Julien Denayer, Pierre Gueriau, Patrick Lafaite, Sébastien Olive, Cyrille Prestianni & André Nel
陸上進出以降、節足動物および脊椎動物の多様化は2つの異なる段階で生じたと考えられている。その第一は、シルル紀からフラスニアン期(デボン紀後期)(4億2500万~3億8500万年前)であり、第二は、多数の新しい主要分類群の出現を特徴とする石炭紀後期(3億4500万年前以降)である。この2つの多様化の時期は、脊椎動物の化石が少ない時期を囲む形になっているが、こうした空白期は生物そのものが存在しなかったことを示しているというよりは、保存がなされなかった結果だと考えられる。デボン紀後期の地層から発見された最古の昆虫化石は、この昆虫が陸棲種で、「直翅目様」の大顎は雑食型であったことを物語っている。この化石が節足動物・脊椎動物の多様化に対する知見を与えてくれるだろう。