Main contents

☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年10月31日木曜日

新着論文(Nature#7473)

Nature
Volume 502 Number 7473 pp593-716 (31 October 2013)

EDITORIALS
All together now
今や全て一緒に
HFCsをモントリオール議定書が排出を規制する人為起源大気物質に含めるという提案は、国際コミュニティーが気候変化に対処しようとしているかどうかのシンプルなテストとなる。
>関連した記事(Science#6151 "News of the Week")
New Curbs on Greenhouse Gases
温室効果ガスに関する新たな束縛

G20は1987年に採択されたモントリオール議定書に基づいて、温室効果の一種である、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)の排出削減を行うことに同意した。HFCsはフロンガスの代替物質として近年排出量が増加しつつあり、オゾン層を破壊する化学物質である。
>関連した記事(Nature#7466 "SEVEN DAYS")
Gas phase-down
ガスの段階的縮小

9/6に、G20がモントリオール議定書のもとHFCsの排出削減に同意することを決定した。バンコクにおいて10月に開かれる会議にて条約の修正がさらに議論されることとなっている。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Illicit gold rush in Peruvian Amazon
ペルー・アマゾンにおける不法なゴールド・ラッシュ
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1318271110 (2013)
人工衛星観測と現地調査から、ペルーのアマゾン熱帯雨林の金の採掘量は1999年から2012年にかけて400%増加し、それが森林破壊の主要因となっていることが示された。2008年に金の価格が上昇すると森林の破壊量も3倍以上になっていた。

Hunting leads to a leap in lizards
狩りがトカゲの飛躍的な増加に繋がる
Proc. R. Soc. B 280, 20132297 (2013)
オーストラリアの砂漠における調査において、トカゲの一種(sand monitor lizards; Varanus gouldii)の個体数が、狩りが盛んなところと盛んでないところとで比較したところ、前者の方が大きいことが示された。先住民族アボリジニーが狩りのために小規模の野焼きをすることが彼らの好む生息地となり、個体数の増加が狩られる数を上回っていることが原因と思われる。

Meandering winds precede heat spells
暑い時期に先立って風が曲がりくねる
Nature Geosci. http://doi.org/ pnt (2013)
NCARの研究者らは、12,000年間の大気循環シミュレーションから、アメリカの熱波の発生の15-20日前に偏西風が曲がりくねっていることを見つけた。このことは、中緯度の大気力学をモニタリングすることによって、より正確に気象現象の長期予測をすることができる可能性があることを意味している。
>より詳細な記事(Nature NEWS)
Air-movement pattern portends US heatwaves
空気の動きのパターンがアメリカの熱波の前触れとなる
Richard A. Lovett
>話題の論文
Probability of US heat waves affected by a subseasonal planetary wave pattern
準季節的な惑星波のパターンによって影響されるアメリカの熱波の発生確率
Haiyan Teng, Grant Branstator, Hailan Wang, Gerald A. Meehl & Warren M. Washington

Why Martian craters are flat
なぜ火星のクレーターは平らなのか
Icarus http://doi.org/pd2 (2013)
 火星のクレーターは不思議なほどに平らであるが、一つの可能性は堆積物で覆われていることである。しかしながら衛星観測からはクレーター内部は岩石に富み、さらに鉱物組成も堆積物のそれとは異なることが示唆されており、矛盾していた。
 Cal Tecの研究者らは隕石衝突によって、火星の地殻が破壊され、深部からマグマが噴き出し、クレーターの底を覆ったのではないかという仮説を提出した。

Human ancestor had small thumbs
人類の祖先は小さい親指を持っていた
Am. J. Phys. Anthropol. 152, 393–406 (2013)
アウストラロピテクス・アファレンシスAustralopithecus afarensis)の指の化石の分析から、従来考えられていたよりも、親指の長さが短かったことが示された。割合的にはゴリラのものに近いらしい。石器をうまく作れるほどには正確にものを握ることができなかったことを示唆している。
※有名な’ルーシー’もアファレンシスらしい。

SEVEN DAYS
※今回は省略

NEWS IN FOCUS
Black holes shrink but endure
ブラックホールは縮むが持ちこたえる
Ron Cowen

Lightning network tested out in Guinea
ギニアにおいて雷ネットワークの試験がスタート
Jeff Tollefson
アフリカで雷を用いて嵐を予報する低コストの計画が、レーダーに基づいた気象サービスに取って代わるかもしれない。

Astronomers revisit dwarf stars’ promise
天文学者は矮星の約束を再考する
Eugenie Samuel Reich
ケプラー宇宙望遠鏡のデータは、小さく、温度の低い星の周りにも生命存在が可能な星がある可能性を物語っている。

Farmers dig into soil quality
農耕従事者は土壌の質を熱心に調べる
Quirin Schiermeier
肥料を土壌に最適化することで、アフリカの農業生産を加速することが可能になるかもしれない。

FEATURE
Astronomy: Southern star
天文学:南の星
Linda Nordling
アフリカ南部に建設される予定の巨大望遠鏡は期待に答えるだろうか?

COMMENT
Environment: Waste production must peak this century
廃棄物の量は今世紀にピークを迎えるに違いない
「劇的な行動なしには、人口増加と都市化がゴミ削減の努力に勝る」と、Daniel Hoornweg、Perinaz Bhada-Tata、Chris Kennedyらは警告する。
>Nature ハイライト
もの言うごみ:廃棄物ピークの見通しは早急な対策を促している

Climate change: Melting glaciers bring energy uncertainty
気候変化:融解する氷河がエネルギーの不確かさをもたらす
「ヒマラヤの氷の融解が水力発電に与える影響について、国家同士が一緒になってその理解に努めなければならない」と、Javaid R. Laghariは言う。
※ヒマラヤの山岳氷河は従来考えられていたよりも急速には融解していないというのが共通理解だったと思います。
>関連した記事(Nature#7412 "News & Views")
Himalayan glaciers in the balance
ヒマラヤ氷河は均衡している
J. Graham Cogley
人工衛星によって高度を測定した観測結果からは、ヒマラヤの氷河はゆっくりとしか後退していないが、質量収支を計算する他の手法についての疑問を投げかけている。
>関連した論文
Rising river flows throughout the twenty-first century in two Himalayan glacierized watersheds
2つのヒマラヤ氷河水系における21世紀を通して上昇する河川流量
W. W. Immerzeel, F. Pellicciotti & M. F. P. Bierkens
Nature Geoscience (Sep 2013) "Articles"
ヒマラヤ氷河は後退しつつあり、質量が失われつつある。気候モデルのアンサンブルから、ヒマラヤ山脈の対照的な2つの水系において、少なくとも2050年までは、氷河は後退しても流量は増加する傾向にあることが示された。
>関連した論文
The State and Fate of Himalayan Glaciers
ヒマラヤ氷河の状態と運命
T. Bolch, A. Kulkarni, A. Kääb, C. Huggel, F. Paul, J. G. Cogley, H. Frey, J. S. Kargel, K. Fujita, M. Scheel, S. Bajracharya,and M. Stoffel
Science (20 April 2012) "Reviews"
ヒマラヤの山岳氷河は他の氷河と同じく後退しつつあるが、カラコルム氷河のように安定しているものもある。地域差が大きく予測は困難だが、総流量に劇的な変化が起こる可能性は低いように思われる。しかし、ゆくゆくは後退し、河川流量の季節差を増大させ、灌漑・水力発電に影響し、災害の引き金となるだろう。

CORRESPONDENCE
Anthropocene: keep the guard up
人類の時代:兜の緒を締める
Tim Caro
Chris Thomasは先日、「気候の温暖化による生物の種数の減少は増加と均衡するはずだ」と述べているが、生物の豊かさは必ずしも数だけでなく、生態系機能としても計られるべきである。

Anthropocene: action makes sense
人類の時代:行動は理にかなっている
Daniel Simberloff & Piero Genovesi
Chris Thomasは先日、「固有種と外来種の混合によって、予期せぬ恩恵が生態系にもたらされる可能性もある」と述べているが、外来種が生態系と経済に与える影響は数十年経ってから顕在化する可能性もあり、過小評価すべきではない。

>話題の記事(Nature#7469 "World View")
The Anthropocene could raise biological diversity
人類の時代は生物多様性を上げるかもしれない
Chris Thomas

IPCC: Climate panel is ripe for examination
IPCC:気候パネルは調査をするのに機が熟している
Mike Hulme & Martin Mahony
IPCCは気候変化の評価に関する世界最高の権威であるものの、その内情は外側には開けていない。IPCCという組織そのものを外部から学術的に研究・検証すべきである。

City trees: Urban greening needs better data
都市の木:都市の緑化はよりよいデータを必要としている
Diane E. Pataki

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Ecology: Drivers of decoupling in drylands
生態学:乾燥地域での分離の駆動力
David A. Wardle
Delgado-Baquerizo et al.の解説記事。
乾燥化が進むとともに土壌中の炭素・窒素・リン循環が変化することが明らかに。いかにして気候変化が土壌の豊かさ・生態系サービスに影響するかに新たな知見が得られた。

Water management: The data gap
水管理:データのギャップ
Blanca Jiménez Cisneros
世界の排水の生産量・処理・利用に関するデータは不足している。こうした状況を打開することで、政策決定者がこの貴重な資源をよりうまく管理する手助けとなるかもしれない。

Marine biology: Coral animals combat stress with sulphur
海洋生物学:動物であるサンゴは硫黄を使ってストレスに対処する
Graham Jones
Raina et al.の解説記事。
サンゴに共生する褐虫藻は光合成とともに硫黄を含んだ物質(DMSPやDMS)を放出するが、その物質は海水温のコントロールに関係している。サンゴもまた同じ物質を生成していることが明らかに。

LETTERS
A uniform metal distribution in the intergalactic medium of the Perseus cluster of galaxies
ペルセウス銀河団の銀河間における均質な金属の分布
Norbert Werner, Ondrej Urban, Aurora Simionescu & Steven W. Allen
ペルセウス銀河団の銀河間ガス中の金属が均質に分布していることは、それが銀河団の形成後と言うよりは、形成前にすでに(おそらく100億年以上前に)金属が濃集していたことを示唆している。
>Nature ハイライト
銀河間に早期に出現した金属

Gradual demise of a thin southern Laurentide ice sheet recorded by Mississippi drainage
ミシシッピ川に記録された厚いローレンタイド氷床南部のゆっくりとした衰退
Andrew D. Wickert, Jerry X. Mitrovica, Carlie Williams & Robert S. Anderson
 最終氷期(LGM; ~21 ka)には北米大陸に巨大な氷床(ローレンタイド氷床)が存在し、全球の海水準はおおよそ130m低下していた。しかしながら、北米氷床の正確な分布は未だ明らかにはなっていない。
 メキシコ湾のミシシッピ川河口域で採取された堆積物コア中の浮遊性有孔虫のδ18Oと氷床・地殻モデルとを組み合わせることによって、最終退氷期の融水の量や氷床分布を推定。
 14.65 - 14.31 kaのMWP-1aには急速に海水準が5.4m上昇したことが知られているが、そのうちローレンタイド氷床南部からミシシッピ川を経由して海へともたらされた融水の量は、δ18Oから推定すると、海水準換算でわずか0.66 ± 0.07m程度であったと推定される。しかしモデルから推定すると、1.6 - 3.6倍も大きな海水準上昇が予測され食い違った。北米氷床の総量(LGMの海水準低下)までうまく再現するにはモデルの結果がもっとも良い推定であると思われる。

Decoupling of soil nutrient cycles as a function of aridity in global drylands
全球の乾燥地域における乾燥度によって変化する土壌の栄養塩循環の分離
Manuel Delgado-Baquerizo et al.
世界各地の224の乾燥地域から得られた土壌サンプルから、乾燥度が土壌の有機炭素量・全窒素量に負に影響する一方で、無機リンの濃度には正に影響することが明らかに。気候変化に伴う乾燥化の増大によって乾燥地域の炭素・窒素・リン循環が分離されることを示唆しており、乾燥地の生態系サービスに悪影響が生じることを示している。
>Nature ハイライト
乾燥は乾燥生態系の栄養バランスを脅かす

DMSP biosynthesis by an animal and its role in coral thermal stress response
動物によるDMSPの生体合成とサンゴの熱ストレス応答における役割
Jean-Baptiste Raina, Dianne M. Tapiolas, Sylvain Forêt, Adrian Lutz, David Abrego, Janja Ceh, François O. Seneca, Peta L. Clode, David G. Bourne, Bette L. Willis & Cherie A. Motti
硫黄循環において重要なDMSP(dimethylsulphoniopropionate; DMSの前駆物質)の生成はこれまで藻類や植物の一部のみしか可能でないと考えられてきたが、動物であるサンゴの幼生もまた共生褐虫藻とともに生成に寄与していることが明らかに。熱ストレスを受けた幼生ほどDMSPを生成することが分かり、最近特定されたDMSPの生体合成に関与する遺伝子の相同分子種も検出された。全球的にサンゴの被覆度は現象傾向にあるが、このDMSP生産によって温暖化による熱ストレスを一部軽減することができると思われる。
>Nature ハイライト
動物であるサンゴも行うDMSP生合成

新着論文(Geology)

Geology
1 November 2013; Vol. 41, No. 11

Articles
Localized tsunamigenic earthquakes inferred from preferential distribution of coastal boulders on the Ryukyu Islands, Japan
Kazuhisa Goto, Kunimasa Miyagi, and Fumihiko Imamura
Multidecadal rainfall variability in South Pacific Convergence Zone as revealed by stalagmite geochemistry
J.W. Partin, T.M. Quinn, C-C Shen, J. Emile-Geay, F.W. Taylor, C.R. Maupin, K. Lin, C.S. Jackson, J.L. Banner, D.J. Sinclair, and C.-A. Huh
バヌアツから得られた鍾乳石のδ18Oから過去446年間にわたる降水量変動(SPCZ変動)を復元。おおよそ50年の長期変動と、5-10年の短期的な変動が確認された。小氷期・太陽活動変動などに起因するITCZの変動との明確な関係性は見いだせなかった。

Iron formation carbonates: Paleoceanographic proxy or recorder of microbial diagenesis?
Clark M. Johnson, James M. Ludois, Brian L. Beard, Nicolas J. Beukes, and Adriana Heimann

Carbon dioxide emission to Earth’s surface by deep-sea volcanism
Satoshi Okumura and Naoto Hirano
火山性のCO2の放出は地質学的時間スケールにおいて気候に大きく影響している。これまでその推定は島弧やホットスポット火山、中央海嶺のものをもとになされてきたが、深海底のプチスポット火山のものは考えられてこなかった。日本列島東北沖の火山からの放出量を推定したところ、従来考えられてきたよりも大きいことが示された。

Shaping post-orogenic landscapes by climate and chemical weathering
Oliver A. Chadwick, Josh J. Roering, Arjun M. Heimsath, Shaun R. Levick, Gregory P. Asner, and Lesego Khomo

The influence of reefs on the rise of Mesozoic marine crustaceans
Adiël A. Klompmaker, Carrie E. Schweitzer, Rodney M. Feldmann, and Michal Kowalewski
中生代にはエビ・カニ類といった甲殻類が劇的に進化したが、生物多様性が地質学的時間スケールでどのように定量的に変動してきたかはあまりよくわかっていない。十脚目革命(decapod revolution)はジュラ紀後期の礁の急速拡大の時期と一致していることが分かった。その後の礁の環境悪化とともに十脚目の多様性も減少していた。

Rapid high-amplitude variability in Baltic Sea hypoxia during the Holocene
Tom Jilbert and Caroline P. Slomp

High-flying diatoms: Widespread dispersal of microorganisms in an explosive volcanic eruption
Alexa R. Van Eaton, Margaret A. Harper, and Colin J.N. Wilson

Tsunami-generated turbidity current of the 2011 Tohoku-Oki earthquake
Kazuno Arai, Hajime Naruse, Ryo Miura, Kiichiro Kawamura, Ryota Hino, Yoshihiro Ito, Daisuke Inazu, Miwa Yokokawa, Norihiro Izumi, Masafumi Murayama, and Takafumi Kasaya

2013年10月28日月曜日

新着論文(AGU・EGU)

G3
Westerly jet–East Asian summer monsoon connection during the holocene
Kana Nagashima, Ryuji Tada, Shin Toyoda 
日本海から得られた堆積物中のダストの化学分析から、完新世の東アジアモンスーンと偏西風の変動を復元。ゴビ砂漠とタクラマカン砂漠起源のダストが千年〜数千年スケールで変動を示している。偏西風の位置の変動が東アジアモンスーンの降水にも影響をしており、中国大陸の南北での対照的な変動を生み出していると思われる。

GRL
Unprecedented recent summer warmth in Arctic Canada
Gifford H. Miller, Scott J. Lehman, Kurt A. Refsnider, John R. Southon, Yafang Zhong 
近年北極海においては海氷・氷河の後退などが報告されているが、それが自然変動の範疇にあるかははっきりとしていない。ツンドラに自生する植物の放射性炭素年代測定から、カナダ北極圏東部においては最近が過去44kaで最も温暖であり、過去5kaの寒冷化の傾向を打ち消していることが示唆された(完新世初期に特に温暖だった)。

Efficient gas exchange between a boreal river and the atmosphere
Jussi Huotari, Sami Haapanala, Jukka Pumpanen, Timo Vesala, Anne Ojala
河川における炭素循環はあまりよく分かっていない。フィンランドにおける30日間に渡る炭酸系の観測から、二酸化炭素に関するガス輸送速度を推定したところ、従来考えられていたよりも高い値が得られ、河川からのCO2フラックスが大きいことが示唆された。

JGR-Oceans
Wave power variability and trends across the North Pacific
Peter D. Bromirski, Daniel R. Cayan, John Helly, Paul Wittmann
1948年以降の北太平洋における波の力(wave power)の変動を議論。ENSO・レジームシフト・PDOなどとの関連性。

New zealand 20th century sea level rise: Resolving the vertical land motion using space geodetic and geological data
Abdelali Fadil, Paul Denys, Robert Tenzer, Hugh R. Grenfell, Pascal Willis
20世紀のニュージーランドの海水準は1.46±0.10 mm/yrで上昇している。潮位計と海水面の衛星観測記録から土地の隆起の影響を評価。海水準上昇には数十年スケールの3つのフェーズが見られることが分かった。

Temporal variability of transformation, formation and subduction rates of upper Southern Ocean waters
Eun Young Kwon
南大洋の表層・中層水の挙動を動力学的・熱力学的に評価し、海洋循環モデルを用いて亜南極モード水(SAMW)の数十年規模のモデリングを行った。冬季に混合層の水が収束し、それに続く春に等密度線に沿って沈み込み、さらに春の表層水の温暖化によって密度的に蓋をされるプロセス(成層化)がSAMWの形成に重要であることが分かった。SAMWは年々変動を示し、主に混合層の深さと関連が大きいことが分かった。また、SAMとは直接的に関係していないものの、エクマン沈降・湧昇プロセスを通じて間接的に関係していると思われる。

Widespread freshening in the seasonal ice zone near 140°E off the Adélie Land Coast, Antarctica, from 1994 to 2012
S. Aoki, Y. Kitade, K. Shimada, K.I. Ohshima, T. Tamura, C.C. Bajish, M. Moteki, S.R. Rintoul
南極沖の140ºE線で行われている1994-2012年の定期観測記録から、近年の表層水から底層水のすべてに淡水化の傾向が見られた。2012年には底層水塊の厚さが異常に薄く、Mertz氷舌(glacier tongue; 氷河末端)の急激な崩壊とそれに伴う海氷形成の減少との関連が示唆される。

Paleoceanography
Influence of seawater exchanges across the Bab-el-Mandab Strait on sedimentation in the Southern Red Sea during the last 60 ka.
Alexandra Bouilloux, Jean-Pierre Valet, Franck Bassinot, Jean-Louis Joron, Fabien Dewilde, Marie-Madeleine Blanc-Valleron, Eva Moreno
紅海の南端で得られた堆積物コアのMS・TOC・浮遊性有孔虫δ13Cなどから、過去60kaの気候変動を復元。氷期-間氷期スケールの変動、D/Oイベント・最終退氷期の海水準上昇に伴う大陸棚の浸水と岩屑物の堆積イベントなどが見られる。

Recovering the true size of an Eocene hyperthermal from the marine sedimentary record
Sandra Kirtland Turner, Andy Ridgwell 
地球システムモデル(cGENIE)を用いて小規模なMECO(Cnn2H3; ~49.2Ma)温暖化イベントの規模・継続期間、炭素インプット速度などを推定。さらに堆積プロセスのモデル化も行い、真の炭素擾乱を推定。ODP1258コアの底性有孔虫δ13Cの-0.95‰のエクスカージョンは大気中CO2のδ13Cの-1.45‰の変化があれば説明できることが示された。従来法の推定から得られる量よりも2/3大きい炭素インプットが必要であると思われる。

GBC
Variability of the Oxygen Minimum Zone in the Tropical North Pacific during the Late 20th Century
Takamitsu Ito, Curtis Deutsch
海洋物理・生物地球化学モデルを用いて1980年代以降の東太平洋熱帯域の酸素極小層(OMZ)の拡大の原因を評価。

Climate of the Past
Holocene climate variability in the winter rainfall zone of South Africa
S. Weldeab, J.-B. W. Stuut, R. R. Schneider, and W. Siebel
アフリカ南東部沖で得られた堆積物コアの浮遊性有孔虫δ18O・δ13C・87/86Sr・εNdを用いて完新世の気候変動を復元。小氷期に最も湿潤な期間があり、南半球の偏西風の北方シフトと関連していると思われる。さらにAgulhas leakageや南極氷床へのダスト量などとの関係性も議論。

Pre-LGM Northern Hemisphere ice sheet topography
J. Kleman, J. Fastook, K. Ebert, J. Nilsson, and R. Caballero
地質調査や数値モデルなどを組み合わせてMIS5bとMIS4の北半球氷床の高度・範囲などを推定。MIS5bから徐々に北半球の氷床が成長し4つほどとなり、MIS4には大規模氷床の数はほぼMIS5b時と同じで、その後LGMに北米氷床は一つに融合したと思われる。

Eurasian Arctic climate over the past millennium as recorded in the Akademii Nauk ice core (Severnaya Zemlya)
T. Opel, D. Fritzsche, and H. Meyer
ロシアのセヴェルナヤ・ゼムリャ諸島において得られたアイスコアのδ18OとNaなどから過去1100年間の気候変動を復元。AD1800頃に最も寒冷であった。20世紀初頭には異常な2つのピークが確認された。δ18Oには小氷期も中世気候変調期の変動も検出されなかったが、他の時期には温暖化・寒冷化イベントなどが確認され、大気循環の変動と関連していると思われる。

Re-evaluation of the age model for North Atlantic Ocean Site 982 – arguments for a return to the original chronology
K. T. Lawrence, I. Bailey, and M. E. Raymo
ODP982の年代モデルの再考。Gauss–Matuyamaクロンの位置には影響はないが、3.2-3.0Maにハイエタスが確認された。

Biogeosciences
Technical Note: Precise quantitative measurements of total dissolved inorganic carbon from small amounts of seawater using a gas chromatographic system
T. Hansen, B. Gardeler, and B. Matthiessen
クロマトグラフィーを用いて海水中の全炭酸を精度良く測ることのできる新手法を開発。

Global atmospheric carbon budget: results from an ensemble of atmospheric CO2 inversions
P. Peylin, R. M. Law, K. R. Gurney, F. Chevallier, A. R. Jacobson, T. Maki, Y. Niwa, P. K. Patra, W. Peters, P. J. Rayner, C. Rödenbeck, I. T. van der Laan-Luijkx, and X. Zhang
大気CO2観測記録から過去20年間の炭素のソース・シンクなどについて議論。

新着論文(Science#6157)

Science
VOL 342, ISSUE 6157, PAGES 393-520 (25 OCTOBER 2013)
Editors' Choice
Historical Carbon Uptake
歴史的な炭素取り込み
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 16730 (2013).
>関連した記事(Nature#7469 "RESEARCH HIGHLIGHTS")
How plants helped Earth to stay cool
いかにして植物が地球を冷たく保つのを助けたのか
プリンストン大学の研究グループは地球システムモデル(ESM2G)を用いて、産業革命以降のCO2排出や土地利用の変化を再現した。「大気中CO2濃度の上昇が植物の生育を促進する」という効果を組み込んだところ、植物の炭素取り込みの促進なしには大気中CO2濃度がさらに85ppmほど増加していた(0.31℃の温暖化に寄与)可能性が示唆された。
>話題の論文
Historical warming reduced due to enhanced land carbon uptake
Elena Shevliakova, Ronald J. Stouffer, Sergey Malyshev, John P. Krasting, George C. Hurtt, and Stephen W. Pacala

News of the Week
※今回は省略

News & Analysis
Ancient DNA Links Native Americans With Europe
古代のDNAがアメリカ先住民とヨーロッパ人とを結びつける
Michael Balter
古代に生きたシベリアの少年のDNA分析から最初のアメリカ人を特定するための驚くべきヒントが得られた。

U.S. Shutdown Ends, but Not Budget Anxiety
アメリカのシャットダウンは終わったが、予算の心配は消えない
Jeffrey Mervis
アメリカのシャットダウンは終わったが、将来の科学予算の規模に関する懸念は続く。

Earliest Known Galaxy Formed Stars at a Breakneck Pace
知られている中で最も初期の銀河は危険な早さで星を形成していた
Yudhijit Bhattacharjee
ハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測から、これまででもっとも古い(遠い)銀河の画像が得られた。ビッグバンからたったの7億年後でしかなく(131億年前)、現在の天の川銀河の星の形成速度に比べて100倍もの早さで星を形成していることが示された。
>関連した記事(Nature#7472 "NEWS & VIEWS")
Astronomy: New distance record for galaxies
天文学:銀河に対する新たな距離の記録
Dominik A. Riechers
Finkelstein et al.の解説記事。
スペクトル分析から、これまででもっとも遠くに位置する銀河の位置が特定された。そこでは天の川銀河の100倍という早さで星が形成されているらしい。
>関連した記事(ナショナルジオグラフィック ニュース)
観測史上最遠、131億光年先の銀河
>関連した記事(Nature ハイライト)
確認された最も遠方の星形成銀河

Letters
Ecosystem Services: Accounting Standards
生態系サービス:基準を説明する
Carl Obst, Bram Edens, and Lars Hein

Ecosystem Services: The Farmers' Challenge
生態系サービス:牧場主の課題
Andrea Graham, Helen Ferrier, Diane Mitchell, Ceris Jones, and Philip Bicknell

Ecosystem Services: Nature's Balance Sheet
生態系サービス:自然のバランス・シート
Richard Aspinall and Peter Gregory

Ecosystem Services: Response
生態系サービス:返答
Ian J. Bateman et al.

Policy Forum
Biodiversity Risks from Fossil Fuel Extraction
化石燃料の抽出による生物多様性のリスク
N. Butt, H. L. Beyer, J. R. Bennett, D. Biggs, R. Maggini, M. Mills, A. R. Renwick, L. M. Seabrook, and H. P. Possingham
豊かな生物多様性と化石燃料の貯蔵庫とがかぶっているような地域は高いリスクを持っていると言える。

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Research
Perspectives
The New Core Paradox
コアの新たなパラドックス
Peter Olson
地球のコアは大きな熱伝導度を持っていることが明らかになり、いかにしてダイナモが進化したのかについて疑問が投げかけられている。

Blooms Bite the Hand That Feeds Them
ブルームが恩を仇で返す
Hans W. Paerl and Timothy G. Otten
富栄養化と毒性のある物質を生産するシアノバクテリアの大繁殖の全球的な繁栄との間には正のフィードバックが存在する。

Reports
Mass-Independent Oxygen Isotopic Partitioning During Gas-Phase SiO2 Formation
ガス相のSiO2形成時の質量比依存の酸素同位体分別
Subrata Chakraborty, Petia Yanchulova, and Mark H. Thiemens
太陽系で最も初期の固体はガス相のSiOとOHの反応によって形成されたのかもしれない。

Strong Premelting Effect in the Elastic Properties of hcp-Fe Under Inner-Core Conditions
Benjamí Martorell, Lidunka Vočadlo, John Brodholt, and Ian G. Wood
融解直前の鉄の弾性的な弱化によって、地球の内核の地震波構造の変動を説明できるかもしれない。

2000 Years of Parallel Societies in Stone Age Central Europe
石器時代の中部ヨーロッパにおける2000年間平行した社会
Ruth Bollongino, Olaf Nehlich, Michael P. Richards, Jörg Orschiedt, Mark G. Thomas, Christian Sell, Zuzana Fajkošová, Adam Powell, and Joachim Burger
遺伝学的、同位体的証拠から、中部ヨーロッパにおける変化は新石器時代に起きていたことが示唆。

2013年10月27日日曜日

新着論文(Nature#7472)

Nature
Volume 502 Number 7472 pp409-586 (24 October 2013)

RESEARCH HIGHLIGHTS
Florida panthers keep their heads
フロリダ・パンサーは慌てない
J. Mammal. 94, 1037–1047 (2013)
フロリダ半島の南端に棲息するピューマの亜種であるフロリダ・パンサーの個体数は20世紀から減少し始め、現在絶滅の危機にある。絶滅を防ぐ目的で、近縁のテキサス・ピューマ8頭がフロリダ半島に放たれた。40頭のフロリダ・パンサーについて、異種交配が彼らの頭蓋骨の形状や表情に与える影響を調べたところ、彼らを特徴付ける‘Roman nose’などの特徴に有為な変化は見られないことが示された。

Counting trees in the Amazon
アマゾンで木を数える
Science http://doi.org/pb2 (2013)
600万平方キロメートルという広大な面積を持つアマゾン熱帯雨林には16,000種もの木が生えているが、そのうちのたった227種のみが全体の大半を支配していることが衛星・地上観測記録から示された。総数は3,900億本と推定されている。
>話題の論文(Science #6156 "Research Articles")
Hyperdominance in the Amazonian Tree Flora
アマゾンの植物相の過剰支配
Hans ter Steege et al.
アマゾン熱帯雨林には16,000種もの木が存在するが、そのうちの1.4%の種だけが全体の半数を占めている。

Pollution alters cloud reflection
汚染が雲の反射率を変える
Geophys. Res. Lett. 40, 1–4 (2013)
コンピューターシミュレーションから塵や海塩といった自然エアロゾルが雲の反射率に与える影響が、車や発電所から排出される人為起源エアロゾルによって変化することが示された。北半球では雲の反射率に対する影響を半減するが、南半球ではほとんど影響はないらしい。

SEVEN DAYS
※今回は省略

NEWS IN FOCUS
Pain of US shutdown lingers
アメリカの封鎖の痛みがなかなか消えない
Lauren Morello, Heidi Ledford, Helen Shen, Jeff Tollefson, Alexandra Witze & Sarah Zhang
予算をめぐる長引く闘いが政府によって支えられている科学をさらに害するのではないかと研究者らは懸念している。

Europe debates fisheries funding
ヨーロッパは漁業の基金を議論している
Daniel Cressey
キャンペーンを行う人々は資金が保全活動に充当されることを望んでいる。

Volcanic-ash sensor to take flight
火山灰センサーが離陸
Alexandra Witze
人工的に散布される火山灰を航空機を使って観測することで、安全装置の試験が行われようとしている。

FEATURES
Palaeontology: The truth about T. rex
古生物学:ティラノサウルスの真実
Brian Switek
最もよく知られた恐竜でさえ秘密を持っている。古生物学者が知りたがっているティラノサウルスの秘密を紹介。

COMMENT
Politics: The long shadow of the shutdown
政治:シャットダウンの長い影
「アメリカの政府封鎖の影響で南極の野外調査が停止を余儀なくされていることで、若手研究者とその科学計画が危機にさらされている」とGretchen E. Hofmannは言う。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Palaeoanthropology: Small-brained and big-mouthed
古人類学:小さな脳で大きな口
Fred Spoor

Astrophysics: Recipe for regularity
天文物理学:規則性のレシピ
Ellen Zweibel

Palaeontology: Inside-out turned upside-down
古生物学:表裏が上下に転ずる
Philippe Janvier
Murdock et al.の解説記事。
コノドントの微細構造観察から、従来考えていたのとは異なり、それらが脊椎動物の歯の前駆物質ではないことが示唆された。

Astronomy: New distance record for galaxies
天文学:銀河に対する新たな距離の記録
Dominik A. Riechers
Finkelstein et al.の解説記事。
スペクトル分析から、これまででもっとも遠くに位置する銀河の位置が特定された。そこでは天の川銀河の100倍という早さで星が形成されているらしい。
>関連した記事(ナショナルジオグラフィック ニュース)
観測史上最遠、131億光年先の銀河

LETTERS
A galaxy rapidly forming stars 700 million years after the Big Bang at redshift 7.51
ビッグバン後7億年の赤方偏移7.51にある、急激に星を形成する銀河
S. L. Finkelstein et al.
>Nature ハイライト
確認された最も遠方の星形成銀河

Robust twenty-first-century projections of El Niño and related precipitation variability
21世紀のエルニーニョと関連する降水変動の確かな予測
Scott Power, François Delage, Christine Chung, Greg Kociuba & Kevin Keay
ENSOの気候変化に対する応答はよく分かっていない。2つの気候モデルから、エルニーニョに起因するSSTと降水の年々変動が再現され、将来変化があることが確認された。21世紀中頃から後半にかけて、西赤道太平洋では乾燥化が、東赤道太平洋では降水量の増加が強化されると思われる。

The origin of conodonts and of vertebrate mineralized skeletons
コノドントの起源と脊椎動物の石灰化した骨格の由来
Duncan J. E. Murdock, Xi-Ping Dong, John E. Repetski, Federica Marone, Marco Stampanoni & Philip C. J. Donoghue
>Nature ハイライト
歯の進化的起源

Microbial production of short-chain alkanes
微生物による短鎖アルカン類の生産
Yong Jun Choi & Sang Yup Lee
再生可能な資源から持続可能なバイオ燃料を開発する必要性が高まっている。脂肪酸アシルから脂肪酸、脂肪酸アシルCoAへの経路により、短鎖アルカン(SCA;ガソリン)、遊離脂肪酸(FFA)、脂肪酸エステル、脂肪アルコールを生産する能力を持つプラットフォーム大腸菌株群を開発。
>Nature ハイライト
燃料産生細胞:再生可能な資源からガソリンを作り出す改造細菌

2013年10月21日月曜日

新着論文(Science#6156)

Science
VOL 342, ISSUE 6156, PAGES 281-392 (18 OCTOBER 2013)

Editors' Choice
An Extrasolar Perspective
太陽系外の観点
Astrophys. J. 775, L41 (2013).
太陽状の星の最後の姿である白色矮星の大気の観測から、鉄/アルミニウム比に100倍ものバリエーションがあることが確認された。白色矮星に落ち込む星の火成活動による分化や微惑星衝突などに原因があると推測されている。

News of the Week
※今回は省略

News & Analysis
Stunning Skull Gives a Fresh Portrait of Early Humans
驚くべき頭蓋骨が初期人類の新たな姿を浮き彫りに
Ann Gibbons
中東のDmanisiにおいて、初期のホモ族のこれまでで最も完璧な頭蓋骨が見つかり、我々の遺伝子に対する新知見が得られた。

News Focus
Roving Into Martian Waters
火星の水を求めて彷徨う
Richard A. Kerr
キュリオシティーは火星の初期が「温かく湿潤で生命を育む星だったのか」それとも「冷たく凍っていて、生命存在は不可能だったのか」を明らかにしてくれるのだろうか?

Dr. Cool
クール先生
Eli Kintisch
David Keithは地球工学が日の目を見る手助けをした。次は地球を冷やす手段を実行することが彼の大きな目標となっている。

Letters
China's Rapid Urbanization
中国の急速な都市化
X. Jin Yang

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Research
Perspectives
Did the Denisovans Cross Wallace's Line?
デニソワ人はウォレス線を横断したのだろうか?
A. Cooper and C. B. Stringer
現代人に残るデニソワ人のDNAの分布から、彼ら古代人がどこに住んでいて、どこで現生人類と交配したのかに関する疑問が生じている。

Research Articles
Hyperdominance in the Amazonian Tree Flora
アマゾンの植物相の過剰支配
Hans ter Steege et al.
アマゾン熱帯雨林には16,000種もの木が存在するが、そのうちの1.4%の種だけが全体の半数を占めている。

A Complete Skull from Dmanisi, Georgia, and the Evolutionary Biology of Early Homo
GeorgiaのDmanisiから発掘された完全な頭蓋骨と初期ホモ族の進化生物学
David Lordkipanidze, Marcia S. Ponce de León, Ann Margvelashvili, Yoel Rak, G. Philip Rightmire, Abesalom Vekua, and Christoph P. E. Zollikofer
更新世初期の成人の頭蓋骨がアフリカを旅立った初期人類の進化と形態学を明らかにする。

Reports
Stellar Spin-Orbit Misalignment in a Multiplanet System
複数惑星系における星の自転と軌道の整合不良
Daniel Huber et al.
ケプラー宇宙望遠鏡による観測から、星の自転と軌道との整合不良は、ホット・ジュピターを有する惑星系にのみ限られた性質ではないことが示されている。

Gravitational-Wave Limits from Pulsar Timing Constrain Supermassive Black Hole Evolution
R. M. Shannon et al.

Low Upper Limit to Methane Abundance on Mars
火星のメタン濃度の低い上限値
Christopher R. Webster, Paul R. Mahaffy, Sushil K. Atreya, Gregory J. Flesch, Kenneth A. Farley, and MSL Science Team
キュリオシティー探査ローバーによるデータから、火星の大気中のメタン濃度の上限値はせいぜい1.3ppbであることが明らかに。

Rapid Adaptation to Climate Facilitates Range Expansion of an Invasive Plant
気候に対する急速な適応が外来植物の分布拡大を容易にする
Robert I. Colautti and Spencer C. H. Barrett
北米大陸の東部で見られる外来植物ミソハギ(purple loosestrife)は、浸食フロントにおける適応度を増加させるよう進化してきたらしい。

The Invasive Chytrid Fungus of Amphibians Paralyzes Lymphocyte Responses
両生類に対する侵入型のツボカビはリンパ球応答の活動を止める
J. Scott Fites et al.
カエルに対する真菌感染の全球的な蔓延は、それが免疫クリアランスを阻害できる能力によって説明できるかもしれない。

2013年10月20日日曜日

『海ゴミ』(小島あずさ&眞淳平、2007年)

海ゴミ〜拡大する地球環境汚染
小島あずさ、眞淳平
中公新書(2007年)¥820-

ダイバーとして、海洋や地球環境に関する研究を行うものとして、海岸清掃というのには常に興味を引かれる。
東京大学が学生・教職員・事務職員用に開催している東日本大震災のボランティア活動には一度だけ参加したが、募集項目に「海岸清掃」という言葉があったからこそ参加したようなものだ(実際には荒天のため海岸にはほとんど近づけなかったが)。

ただし、本書を通して知ったのは、海岸清掃というボランティア活動のあまりに過酷な現実だ。軽々しい気持ちで行うべきものでは決してない。

海岸に漂着するゴミには回収が比較的容易なペットボトルやビニール袋などのプラスチック製品ももちろんあるが、一方で細かすぎて回収しにくいペレット(プラスチックの細かい破片)から、回収に重機を必要とするような巨大な漁具・家電製品、中には衛生上非常に危険なおむつや医療用注射器(薬物摂取用でないことを祈るばかりだが)なども多く含まれるという。

さらにゴミは海流を介して他国からももたらされ、また先進国日本は滞留時間が長く、簡単には自然界で分解されない工業製品を多数太平洋へとばらまいている。

海岸からもたらされるものが大半かと思いきや、実際には市街地から、住宅地から、河川を通じて海へと流出するものが過半数を占めているという。
これは海岸部に住む人々だけでなく、すべての人々が海洋汚染の一端を担っていることを意味する。

またアクセスの悪い遠隔の景勝地・生態系のホットスポットに溜まるゴミもまた、景観を害するものとして、生態系に悪影響を与えるものとして問題となっている。
海鳥・カメ・海生哺乳類の胃の内容物にはしばしばごみが混入し、それがさらには彼らの死に繋がることもあるという。

もう一つの問題は、ごみを回収し、処分する際の費用だ。

軽々しく清掃をしても、それを処分するには多額の費用がかかり、その費用を誰が賄うかが問題となってしまう。集めるだけ集めて、(予算が潤沢でない)地方の自治体に処分を一任することは許されない。

出てしまったゴミは回収するより他ない。一方でさらに排出されるゴミのフラックスを減らさないことには環境中に蓄積するゴミは増える一方だ。

ゴミの処分・回収に関する課題だけでなく、これは生産・消費活動全般、ひいては大量生産・大量消費・大量廃棄という現在の日本の経済・消費活動のあり方にも直結する問題であることを意識しなければ、問題は改善の方向には向かわないと思われる。

今一度、自分の暮らしぶり、ヒトと地球の共存の仕方について、各々自問する必要がある。

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2012年8月10日号のサイエンス誌にはゴミ特集が組まれているので参照されたい。

サイエンス誌2012年8月10日号のカバー写真

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またNature Geoscienceの2013年4月号の社説もまたゴミに関するものである。
>Nature Geoscience (April 2013) "Editorial"
Message in a bottle
ボトルの中のメッセージ

海は文明の出したゴミを蓄積し続けてきた。海洋への投棄は禁止されているものの、海洋環境を保護するためにも沿岸部や河川のゴミをモニターしなければならない。

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またモントレー水族館研究所を中心とする研究グループが行った調査では、人間の活動圏に近い沿岸部のかなりの部分の海底でゴミが見つかることが指摘された。
>Nature#7454 (20 June 2013) "Research Highlights"
Marine dumping detailed
海洋へのゴミ投棄がより詳細に

Deep-Sea Res. I http://dx.doi. org/10.1016/j.dsr.2013.05.006 (2013)
モントレー水族館研究所(MBARI)の研究グループの22年間にわたる西海岸・ハワイ島周辺海域の潜水調査から、人為起源のゴミが調査海域の1.49%という広範囲で見つかった。主にプラスチックゴミ(32%)や金属ゴミ(23%)で、2,000mを超す深海でその大部分が発見された。こうしたゴミが深海生態系に与えている影響は過小評価されている可能性があるという。
>関連した記事(ナショナルジオグラフィック ニュース)
モントレー湾の海底ゴミ
>関連した記事(MBARIのプレスリリース、動画あり)
MBARI research shows where trash accumulates in the deep sea
>話題の論文
Debris in the deep: Using a 22-year video annotation database to survey marine litter in Monterey Canyon, central California, USA
Kyra Schlining, Susan von Thun, Linda Kuhnz, Brian Schlining, Lonny Lundsten, Nancy Jacobsen Stout, Lori Chaney, Judith Connor

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さらに、海氷の交代とともに北極海のゴミ汚染の問題も次第に明らかになりつつある。
>Nature#7423 (8 Nov 2012) "Research Highlights"
Litter bugs leave Arctic legacy
ゴミが北極に伝説を残す
Mar. Pollut. Bull. http:// dx.doi.org/10.1016/j. marpolbul.2012.09.018 (2012)
北極海の海底に存在するゴミの量が増えつつある。ほとんどはプラスチック製品であり、そのゴミの周りにイソギンチャクやカイメンが付着しコロニーを形成している。海氷の後退によって北大西洋海流によって運ばれるゴミが北極海にまで到達しているのが原因と考えられる。次第に蓄積しつつあるという。

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最近ちょっと目を引いたのが以下の記事だ。
>Nature#7465 (5 Sep 2013) "Research Highlights"
Marine plastic fantastic for microbes
微生物にとって素敵な海のプラスチック

Environ. Sci. Technol. http://doi.org/m4q (2013)
海に浮かぶプラスチックゴミが新たな生命圏(プラスチック生命圏; plastisphere)を生み出していることが海洋観測から示された。周囲の海水とは異なる、複雑な食物網を形成しており、多様性も大きいという。

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以下は気になった文言集。

よかれと思って海岸を清掃しても、集めたごみが有効に再利用されずに、埋立地に入るだけという構図は、清掃活動に汗するボランティアにとって辛い事実でもある。(pp. ⅴ)

海岸に落ちている漂着ゴミは、もとをたどれば、ほとんどが陸上から川に流入し、川をつうじて海に流れ出したものなのだ。(pp. 50)
てっきり海岸からのものが大半を占めているかと思いきや、河川からもたらされるものや漁具などが大半を占めているという。

ペレットが世界中の海で見つかるという調査結果は、まさしくプラスチック片が世界の海を覆いつつあるということを意味しているのである。(pp. 82)

海岸清掃のたびに注射器が見つかるという状況は、すでに現実となっている。(pp. 117)

日本から流出したごみは、海流などの関係で、国内に漂着したり太平洋上に広く拡散したりするため、海外への漂着状況などを示すデータが少ないだけで、日本もまた大きなごみ流出国なのである。(pp. 128)
日本に流れ着くごみの中に中国や韓国由来のものが多いからといって、日本があまりごみを出していないということにはならない。

『松井教授の東大駒場講義録』『地球システムの崩壊』(松井孝典、2005・2007年)

松井教授の東大駒場講義録
松井孝典
集英社新書 (2005年) ¥700-

地球システムの崩壊
松井孝典
新潮選書(2007年)¥1,100-

東京大学名誉教授であり、現在は千葉工業大学・惑星探査研究センター所長を務める松井孝典氏の最近2つの書籍。後者は毎日出版文化賞を受賞したとのことらしい。

前者は駒場における学部1・2年生を対象にした講義「惑星地球科学Ⅱ」の内容を文章に起こしたもの。(確かこの授業を僕も受講した)

後者は「」「考える人」に連載された記事をもとに一部加筆したもの。世界各国への会議参加などの紀行なども、松井氏の文明観・哲学などとともに綴られており、非常に興味深い。

内容としては重複する部分が多いが、惑星探査の歴史・惑星形成論・文明観に関する内容が主であり、一部では現在の文明の持続可能性にも触れられる。

地球と知求をかけて智球(チキュウ)学という新たな学術分野を提唱しており、科学・文明・哲学の融合が試みられていることが非常にユニークである。

非常に内容が濃く、かなり集中しないと内容を読み解くことは難しいが、惑星科学に携わる人には是非一読をオススメしたい。
惑星形成史のおさらいという意味での教科書的な使い方も可能である。

日本の、いや世界の太陽系・惑星形成に関する現在の基礎を作った人といっても過言ではないが、驚かされるのは研究以外の、例えば文学・哲学といった分野の知識にも明るいことである。
松井氏のような鮮烈な存在感・思想を持った科学者に自分もなりたいと思った。

以下は気になった文言集。今回はちょっとだけ。。
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◎松井教授の東大駒場講義録

この話は科学者にとって極めて教訓的です。天文学に限らず、我々は経験やそれまでの情報をもとにして大脳皮質に内部モデルを作り、それに基づいて思考していますが、そうした「常識」を捨てたときに、科学の大発見があるわけです。(pp. 18)
常識の中にこそ非常識があり、それまでの常識を疑うことが科学的な革命へと繋がることも(海底下生命圏・プレートテクトニクス・地動説・進化論・天変地異説etc)。

今、文明に関する問題として語られているなかで、いちばん大きい問題は地球環境問題です。(中略)我々がもっている共同幻想の最たるものが右上がりという幻想ですが、それが近い未来に破れるわけですね。それによって人間圏のいろいろなところで現在のシステムの崩壊が始まるでしょう。(pp. 59)

我々はつい最近まで太陽系が一般的な惑星系と思っていました。しかし、じつは系外惑星系のほうが一般的かもしれないということです。(pp. 145)
「我々は何処から来て、何もので、何処に行くのか」を考える上で、系外惑星系にまで思考を延長することで、その答えに近づくことができるのかもしれません。

◎地球システムの崩壊
我々は、地球から材料を借りて、自分のからだを構成するさまざまな臓器をつくり、その機能を使って生きている。機能を使って生きることが重要なのであって、からだそのものが物として意味があるわけではない。我々が生きていくのに、本当に必要としているのは物ではなく、その機能なのだ。すべてを所有する必要などないのである。その機能を利用することが本質なのだと認識を改める必要がある。(pp. 37)
「経済発展や利潤の追求こそ国家や個人の最大目標である」と考える現在の先進国・途上国の認識を改めることが、真の持続的文明社会の形成へと向けた第一歩になるかもしれない。

2013年10月17日木曜日

新着論文(Nature#7471)

Nature
Volume 502 Number 7471 pp271-402 (17 October 2013)

EDITORIALS
The maze of impact metrics
インパクトの判断基準の迷路
研究のインパクトをいかに判断するかを決める中で、研究を評価する人は独特の手段を強調することの効果を考慮に入れなければならない。そしてその手法を真摯に受け止めるべきである。

Searching for life
生命探査
過去を見ることが、地球外生命を発見しようとする我々の努力の礎となる。
[以下は引用文]
Life is still the hypothesis of last resort for astrobiologists. But if they find none, they will not be disillusioned. It would be just as interesting, they say, to find that habitable-looking environments do not all sprout life, and that Earth is unique in being so full of it.

RESEARCH HIGHLIGHTS
Why bee colonies collapse
なぜハチのコロニーが崩壊するのか
Ecol. Lett. http://dx.doi.org/10.1111/ele.12188 (2013)
生息地の減少や殺虫剤の影響によってハチのコロニーが次々と崩壊しているが、個々の原因だけでは説明できないことがある。環境ストレスがハチに与える影響がある閾値を超えることで、たとえストレスが個々のハチを殺すことはなくとも、コロニー全体としては衰退することが示された。ハチの学習能力や食料集めと言った機能に影響することが原因と考えられている。

Shining light on cold turtles
冷たいカメに当たる眩しい光
Biol. Lett. 9, 20130602 (2013)
淡水ガメの一種(Trachemys scripta)は、冬に凍った、酸素が全くない湖の底にいても生き残れることが示された。また彼らは冬眠のような昏睡状態にも陥っていないらしい。その状態では温度や光には反応を示すが、振動や酸素濃度上昇に対しては反応しなかった。おそらく省エネで活動しているものの、警戒は怠っていないようである。

Reflections from a black hole
ブラックホールからの反射
Astron. Astrophys. 558, A32 (2013)
NASAのチャンドラX線望遠鏡による観測から、天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホール(サジタリウスA)における放射が、数年前に放たれた放射が周囲の雲によって、反射しているものであることが明らかに。

Ozone hole fans African heat
オゾンホールがアフリカを煽って熱くする
Nature Geosci. http://doi.org/n8x (2013)
1993年のオゾン層の低下前後のアフリカ南部の気候状態を調べたところ、地表の熱波と大気循環との間に強い相関が認められた。おそらく気圧配置の変化が熱帯の熱をより南へと運んだことが原因と考えられる。2050年にオゾンホールが消滅すれば、地球温暖化を軽減する効果があると期待されている。
>より詳細な記事(Nature News)
Ozone loss warmed southern Africa
オゾンの低下がアフリカ南部を暖める
Hannah Hoag
>話題の論文
Link between Antarctic ozone depletion and summer warming over southern Africa
南極のオゾン低下とアフリカ南部におよぶ夏の温暖化とのリンク
Desmond Manatsa, Yushi Morioka, Swadhin K. Behera, Toshi Yamagata & Caxton H. Matarira
>Nature関連誌 ハイライト
オゾン損失により影響を受けるアフリカの温暖化

SEVEN DAYS
※今回は省略

NEWS IN FOCUS
Study aims to put IPCC under a lens
研究がIPCCをレンズの下に置こうとしている
Jeff Tollefson
社会学者は気候パネル内部の力学が結果にどういった影響を及ぼすのかを研究したがっている。

FEATURES
Research evaluation: Impact
研究評価:インパクト
研究成果を評価し、どの研究を助成するかの判断はより難しくなりつつある。
>Nature ハイライト
研究のインパクト:価値ありと見なされる科学研究を探す

Research assessments: Judgement day
研究評価:審判の日
Brian Owens
研究者の中にはそれを聞いて落胆するものもいるかもしれないが、多くの政府が大学における研究の質を評価し始めている。

Science publishing: The golden club
科学出版:ゴールデンクラブ
もっとも権威のある科学雑誌から論文が公表されることで道が開けるが、一方でその高い名声は非難の対象でもある。

COMMENT
Publishing: Open citations
出版:開かれた引用
「自らの出版リストを完全に無料で閲覧可能な形にすることでかなりの利益が見込める」と、Open Citations Corpusの代表であるDavid Shottonは語る。

Referencing: The reuse factor
引用:再利用ファクター
「引用は死んでいない−研究成果はプログラムコードの列から動画までの幅の広いものへと急速に変化しつつある。」と、Mark Hahnelは説明する。

CORRESPONDENCE
Ecology: Genetic engineering in conservation
生態学:保全における遺伝子工学
Philip W. Hedrick, Fred W. Allendorf & Robin S. Waples

Biodiversity: Safeguard species in warming flatlands
生物多様性:温暖化する平地における保護生物
Josef Settele, Ingolf Kühn & Jeremy A. Thomas

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Astrophysics: Super-luminous supernovae on the rise
宇宙物理学:超高輝度スーパーノバが増加している
Daniel Kasen
Nicholl et al.の解説記事。
新たな観測から、極度に明るい超新星の一部は、質量が非常に大きい星の核爆発ではない可能性が示唆されている。そうではなく、中心部からの強力な磁気エネルギーが供給されることで起きる通常質量の星の現象であるらしい。

ARTICLES
Olivine crystals align during diffusion creep of Earth’s upper mantle
地球上部マントルの拡散クリープ下で結晶方位がそろうカンラン石
Tomonori Miyazaki, Kenta Sueyoshi & Takehiko Hiraga
>Nature ハイライト
拡散クリープ下でのカンラン石の結晶軸の整列

LETTERS
Slowly fading super-luminous supernovae that are not pair-instability explosions
対不安定型超新星爆発ではない、ゆっくりと暗くなる超高輝度超新星
M. Nicholl et al.
>Nature ハイライト
マグネターがエネルギー供給する超高輝度超新星

Molecular understanding of sulphuric acid–amine particle nucleation in the atmosphere <OPEN>
大気中での硫酸-アミン粒子核形成の分子論的理解
João Almeida et al.
対流圏に数pptレベルで含まれるアミンは硫酸と結合することで、大気下層で観察されるような速度で非常に安定なエアロゾルを形成していることが示された。
>Nature ハイライト
人為起源のアミンの大気化学

Chelicerate neural ground pattern in a Cambrian great appendage arthropod
カンブリア紀の大付属肢節足動物に見られる鋏角類神経の基本パターン
Gengo Tanaka, Xianguang Hou, Xiaoya Ma, Gregory D. Edgecombe & Nicholas J. Strausfeld
>Nature ハイライト
位置付けの決まった「大付属肢」節足動物

2013年10月15日火曜日

耳石の微量元素・同位体変動は何に使えるか(Campana, 1999, MEPS_後半)

長くなったので、2つに分割します。
前半部分の論文概説(メモ)はこちら

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応用例(1)〜資源量決定〜
・耳石の微量元素変動から魚の棲息地の違いを明らかにするには以下の2つの仮定が必要
ア)耳石の形成後、再吸収などによって耳石の元素組成が変化しないこと
イ)環境中の物理的・化学的要因によって耳石の元素組成が決定されること
そういった観点からは、Sr・Ba・Mn・Fe・Pb(おそらくLi・Mg・Cu・Niも?)が水塊の組成・温度の影響を受けやすく、適した元素である。一方で生理学プロセスに影響を受けやすいNa・K・S・P・Clは2番目の仮定が満たされず、環境復元としては適していない。

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応用例(2)〜回遊履歴〜
・魚の回遊履歴を調べる上で力を発揮するのは、環境中の元素/Ca比が大きく変化する場合であり、特に河川⇄海の回遊で顕著。中でもSr/Ca比は鋭敏に反応する。

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応用例(3)〜年齢決定〜
・耳石のSr/Ca変動の環状構造(日輪・年輪など)は「温度の季節・年々変動」「回遊パターン」「分布」「性的な成熟度」「成長速度」「生理学的要因」などによって規定されると思われ、多くの研究で変動があることが報告されている。

・成長縞とSr/Ca変動とが一致しないものもある。

・耳石の元素濃度・同位体にサイクルが見られるものがあるものの、年齢決定のツールとしては目に見える縞のほうを採用した方が確実かもしれない。

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応用例(4)〜環境復元〜
・耳石のδ18Oは水のδ18Oと同位体平衡にあり、温度計として使える。
異なる耳石のδ18Oを比較する際には、水のδ18Oが一定であれば、温度の差異について言及することが可能。ただしその際には絶対値は決定できないことに注意しなければならない。

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応用例(5)〜汚染〜
・汚染に関連した元素は石灰化に関連した他の組織に比べ、耳石にはあまり取り込まれないため、汚染の間接指標としては耳石はあまり適していない。

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応用例(6)〜生理学プロセスの指標〜
δ13C
・もっとも生理学プロセスを明瞭に反映するものはδ13Cである。

・耳石のδ13Cのピークや山なりになった部分は性的な成熟を反映している。

・食事やDICのδ13Cも耳石のδ13Cに影響するものの、代謝速度の影響もまた大きいため、明瞭なシグナルとして見えるかもしれない。例えば年齢とともに代謝が衰えるため、一般にδ13Cは年齢とともに重くなる傾向がある。

Sr/Ca
・ウナギについてはレプトセファルス幼生からガラスウナギへと変態する際に耳石のSr/Caに明瞭な変化が生じることが報告されているものの、一般には確認されておらず、ウナギにのみ例外的に生じている可能性が高い。

・ストレスや生殖活動もまたSr/Caへの影響が報告されているが、予め分かっていない限り、個々のピークの原因をそれらに求めることは難しいと思われる。

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応用例(7)〜化学物質を利用したマーキング〜
・耳石にマークを付けるための方法として、以下の2つがある。どちらもうまくいくことが示されている。
ア)染料または蛍光塗料を利用し、視覚的にマーキングを行う方法
 塩酸オキシテトラサイクリン、アリザリン・レッド、オルセイン、アセタゾラミドなど
イ)高濃度試薬や同位体を用いて化学的なマーキングを行う方法
ストロンチウムやカルシウムなどの同位体が一般に使われている。

・耳石の形成後、マークが外れるという報告はなく、耳石の安定性をさらに支持する。

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今後の展望(※1999年当時)
・Sr同位体は陸の近くでは威力を発揮するかも?
※現に、河川内のSr同位体変動を利用することで孵化地域の解析に有力であることが示されている。例えば、Amano et al (2013, Aquatic Biology)など。

・U同位体は塩分の指標になる?
※どういう使われ方かはよく分かりませんが、河川水・海水の同位体比の差を利用するということでしょうか?

・Pb同位体は汚染源の特定に使える?
※サンゴ骨格などでは既に報告あり。Inoue et al. (2006, Environmental Pollution)など。

耳石の微量元素・同位体変動は何に影響されるか(Campana, 1999, MEPS_前半)

Chemistry and composition of fish otoliths: pathways, mechanisms and applications
Campana, 1999, MEPS

より。
魚の耳石に含まれる微量元素と安定・放射性同位体がどのように環境動態研究において用いられているか、またそれらはどのように測定されているかを広くレビューした論文。

いつもとはちょっと趣向を変え(手抜き)、箇条書きで論文中で気になった部分を列挙しておきます。水産屋・古気候屋をはじめとして耳石の化学分析をする人にはかなりオススメできます。

各章の要点ではなく、個人的に興味を持ったことのメモが大半なので注意してください。

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耳石の組成
・ニベ科の魚(Atlantic croaker)の場合、96.2%が炭酸塩、0.73%が微量元素で構成される不純物、3.1%が有機物(otolin)であると思われる。

・含まれる元素の比は必ずしも海水の比を反映しておらず、選択的に生物学的な濃集・希釈の効果が生じていると思われる。

・含まれる微量元素の濃度は桁で変化し、1999年時でまだ検出されていない元素も数多く存在する。

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耳石の鉱物学と結晶化
・耳石の炭酸塩中に含まれるわずかな有機物(酸性アミノ酸が多く含まれる)が石灰化において重要な役割を負っている。

・XRD分析から、耳石の炭酸塩の大部分は多結晶質のアラゴナイトであることが示されている。

・有機物がアラゴナイト/カルサイトのどちらの結晶形となるかを決定している。

・耳石は左右対称に存在する3つの部位(sagittae・lapilli・asteriscii)で構成され、前者2つはアラゴナイト、3つ目はバテライト(vaterite; ファーテル石)でできていることが大半である。

・元素によって結晶に入っているもの、間隙に捕獲されているものといろいろある。Sr・Mg・Li・Baなどは互いに相関が良いことから、似たようなプロセスで(おそらく結晶格子内に)取り込まれていると思われる。相関の悪いMnやZnなどはまた異なる方法で存在すると思われる。

・サンゴのアラゴナイト骨格と比較して耳石のSr濃度は低いため、おそらくSr2+がCa2+を置換する形で結晶格子内に取り込まれていると思われる。またCa2+よりもやや大きいが似た大きさのBa2+やPb2+もまた置換して取り込まれていると思われる。
こうした元素類は、温度が分別係数に影響することが期待される。

・一方、Naなどは共沈殿しているとは考えにくく、おそらく間隙に捕獲されている。

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海水起源の元素がどのようにして耳石に運ばれるか
・海水中の元素が魚の体内に入るルートとしては、鰓か腸(海水または食物)の2通りが考えられる。

・淡水魚の場合、鰓を起源とする取り込みが支配的で、逆に海水魚の場合は海水を飲むので、腸からの取り込みが支配的であると思われる。前者の場合、カルシウム濃度(つまり水の硬度)が鰓での取り込みを制限していると考えられる。後者の場合、浸透圧調整(osmoregulation)が重要と考えられる。

・海水から腸または鰓から取り込まれた元素はその後血漿に取り込まれ、さらにリンパ液に取り込まれ、最終的に耳石として沈殿する。
3つの配分面での配分のされ方は元素ごとに異なり、生理学的作用に影響されやすい元素(Na・K・S・P・Cl)とされにくい元素(Sr・Ba・Mn・Fe・Pb・Li・Mg・Cu・Ni)がある。

・海水の場合、Ca濃度は塩分によって強く影響を受けるため、「元素/Ca比」または「元素/塩分比」で見る必要がある。特に入り江や海水では塩分が著しく異なるが、元素/Ca比ではさほどの変動は見られない。

・溶媒中の元素の分配係数(DElement=[Element/Ca]otolith/[Element/Ca]solution)に着目した場合、DSrはサンゴでは1.0に近いのに対し、耳石では0.25程度である。分配はリンパ液からの石灰化作用の際に生じていると思われる。

・環境(水塊)中の濃度がそのまま耳石に反映されるわけではなく、ある元素は濃集し(DElement>1)、ある元素は希釈される(DElement<1)。P・Cu・Sなどは生理学プロセスに重要な元素であるため、環境には少なくとも耳石にはふんだんに存在する。Sr・Zn・Pb・Mn・Ba・Feは環境の違いをうまく反映する。またLi・Cd・Niは存在量が低く検出は難しいが、測定できれば環境記録として有望かもしれない。

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耳石中の微量元素変動を解釈するための基礎的概念
・Srの場合、環境中の濃度の違いは耳石中の濃度の違いには反映されず、あくまでSr/Ca比として考えた際に影響が見られる。

・海水のSr/Caが耳石のSr/Caに記録されることは、5つの独立した実験からも支持される。

温度の効果
・研究ごとの差異は大きいが、各種元素/Ca比において温度依存性が確認されている(Sr・Mg・K・Na・Mn・Zn・Fe)。

・特にSr/Ca比の温度依存性は正相関・負相関・相関なしという相対する結果が得られている。ただし、塩分依存性の方が環境中の温度変化よりも大きい場合がほとんどであるため、温度依存性は覆い隠されてしまう。

Sr/Caに対する様々な影響
・広く観測されていることとして、「石灰化作用はマトリックスとなるタンパク質の形成測度に比例しており、Sr/Caと反比例している」という事実が挙げられる。先に述べられたことと同じく、塩分の影響の方がはるかに大きい。

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安定同位体の変動
・OやSrの同位体(δ18Oと87/86Sr)は水と同位体平衡にあり、同位体分別はほとんど観察されていない。

・Cの同位体(δ13C)は10-30%が代謝由来(食物由来)であると考えられる。残りは水中の全炭酸(DIC)由来であると考えられる。

・δ18Oは深さ方向・緯度経度・他の要因(蒸発・降水・河川流入etc)によっても変化するため、水のδ18Oの情報なしに耳石のδ18Oを解釈することは危険である。

・δ13CはDICのδ13Cとは同位体不平衡にあり、特に石灰化の際に血漿からリンパ液へと代謝由来の炭酸イオンが取り込まれることが原因と思われる。

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放射性同位体の変動
自然同位体
・魚の年齢決定のツールとして、228Th/228Ra、210Po/210Pb・210Pb/226Raが用いられており、中でも210Pb/226Raが0〜50歳以内の魚の年齢決定に活躍している。

・放射性同位体を用いた年齢決定には4つの仮定が必要
ア)耳石の形成後は閉鎖系が維持されること
イ)親核種から生成される娘核種の濃度が、他のソースによる娘核種よりも十分に小さいこと
ウ)親・娘核種の取り込み速度が耳石の成長速度に比例すること
エ)耳石の成長速度が一定か、若しくは既知であること

核実験由来の同位体
・Kalish (1993)によって初めて耳石にて大気中核実験由来の14C(ボム・ピーク)が検出された。

・ボム・ピークもまた魚の年齢決定の推定に使えるものの、水塊中のΔ14Cの違いに留意する必要がある。例えば、河川水や表層水はΔ14Cが高く(若く)、地下水や深層水はΔ14Cが低い(古い)など。

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耳石のサンプリングの仕方と測定手法
・耳石全体を分析するものとして、
ア)AAS(Atomic Absorption Spectrometry; 原子吸光法)
イ)ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy; 誘導結合プラズマ発光分光分析装置)
ウ)ICPMS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry; 誘導結合プラズマ質量分析器)
などが挙げられる。
またICPMSの分派として、ID-ICPMS(Isotope Dilution-Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry;  同位体希釈-誘導結合プラズマ質量分析器)などもある。
※他にもTIMS(Thermal Ionization Mass Spectrometry; 表面電離型質量分析器)、MC-ICPMS(Multi-Collecter ICPMS; 多重検出器質量分析機)、SF-ICPMS(Sector Field-ICPMS; セクターフィールド質量分析器)など。

・耳石の一部を(通常は成長縞に沿って)局所分析するものとして、
ア)ED-EM(Energy-Dispersive  Electron Microprobes; エネルギー分散型電子マイクロプローブ)
イ)WD-EM(Wavelength-Dispersive  Electron Microprobes; 波長分散型電子マイクロプローブ)
ウ)PIXE(Particle Induced X-Ray Emission; 粒子励起X線分光)
エ)LA-ICPMS(Laser Ablation-Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry;  レーザーアブレーション-誘導結合プラズマ質量分析器)
などが挙げられる。
※他にもEPMA(Electron Probe Micro Analyzer; 電子線マイクロアナライザ)、SIMS(Secondary Ionized Mass Spectrometry;二次イオン質量分析器)など。

※分析法・機器類の詳細は西村屋日東分析センター東レリサーチセンターなどが詳しい。
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後半に続く。。

新着論文(SR, Ncom, PNAS)

Scientific Reports <OPEN>
8 October 2013
How ecological restoration alters ecosystem services: an analysis of carbon sequestration in China's Loess Plateau
Xiaoming Feng, Bojie Fu, Nan Lu, Yuan Zeng & Bingfang Wu

The paradox of enrichment in phytoplankton by induced competitive interactions
Jerrold M. Tubay, Hiromu Ito, Takashi Uehara, Satoshi Kakishima, Satoru Morita, Tatsuya Togashi, Kei-ichi Tainaka, Mohan P. Niraula, Beatriz E. Casareto, Yoshimi Suzuki & Jin Yoshimura

Diesel exhaust rapidly degrades floral odours used by honeybees
Robbie D. Girling, Inka Lusebrink, Emily Farthing, Tracey A. Newman & Guy M. Poppy
>Nature姉妹紙 注目のハイライト
ディーゼル排ガス汚染でミツバチが花のにおいを認識しづらくなる

Anthropogenic noise causes body malformations and delays development in marine larvae
Natacha Aguilar de Soto, Natali Delorme, John Atkins, Sunkita Howard, James Williams & Mark Johnson

Ancient carbon from a melting glacier gives high 14C age in living pioneer invertebrates
Sigmund Hågvar & Mikael Ohlson


Proceedings of the National Academy of Sciences
8 October 2013; Vol. 110, No. 41
Letters (Online Only)
Cosmic impact or natural fires at the Allerød–Younger Dryas boundary: A matter of dating and calibration
Annelies van Hoesel, Wim Z. Hoek, Johannes van der Plicht, Gillian M. Pennock, and Martyn R. Drury

Reply to van Hoesel et al.: Impact-related Younger Dryas boundary nanodiamonds from The Netherlands
James H. Wittke, Ted E. Bunch, James P. Kennett, Douglas J. Kennett, Brendan J. Culleton, Kenneth B. Tankersley, I. Randolph Daniel, Jr., Johan B. Kloosterman, Gunther Kletetschka, Allen West, and Richard B. Firestone

The Chobot site (Alberta, Canada) cannot provide evidence of a cosmic impact 12,800 y ago
John W. Ives and Duane Froese

Reply to Ives and Froese: Regarding the impact-related Younger Dryas boundary layer at Chobot site, Alberta, Canada
James H. Wittke, Ted E. Bunch, Kenneth B. Tankersley, I. Randolph Daniel, Jr., Johan B. Kloosterman, Gunther Kletetschka, Allen West, and Richard B. Firestone

Reports
Iceberg discharges of the last glacial period driven by oceanic circulation changes
Jorge Alvarez-Solas, Alexander Robinson, Marisa Montoya, and Catherine Ritz
これまで氷期の北大西洋における氷山流出イベントとIRDの堆積(ハインリッヒイベント)は氷床そのものの自励振動が原因と考えられてきたが、次第に海洋のフォーシングが重要であったことを示唆する証拠が得られつつある。モデルシミュレーションから、観測される海水温やIRDの分布をうまく再現できるような結果が得られたことから、海洋が重要な役割を負っていたことが示唆される。

Robust increases in severe thunderstorm environments in response to greenhouse forcing <OPEN>
Noah S. Diffenbaugh, Martin Scherer, and Robert J. Trapp
CMIP5のモデルシミュレーションから、アメリカ東部における雷雨の頻度が温暖化とともに増加することが示された。また大気の状態もより不安定になることから、竜巻の頻度も増すと思われる。

Benefits, costs, and livelihood implications of a regional payment for ecosystem service program <OPEN>
Hua Zheng, Brian E. Robinson, Yi-Cheng Liang, Stephen Polasky, Dong-Chun Ma, Feng-Chun Wang, Mary Ruckelshaus, Zhi-Yun Ouyang, and Gretchen C. Daily


Nature Communications
9 October 2013
First evidence of a 200-day non-stop flight in a bird
Felix Liechti, Willem Witvliet, Roger Weber and Erich Bächler
飛行には非常に多くのエネルギーを必要とすることから、多くの渡り鳥は地面で休む時間が多い。シロハラアマツバメ(Alpine swift; Tachymarptis melba)は200日間連続して飛行する能力を有することが明らかに。飛行しながら眠っているらしい。
>Nature姉妹紙 注目のハイライト
200日間ノンストップの高速飛翔

Enhanced biofuel production through coupled acetic acid and xylose consumption by engineered yeast
Na Wei, Josh Quarterman, Soo Rin Kim, Jamie H.D. Cate and Yong-Su Jin
>Nature姉妹紙 注目のハイライト
バイオ燃料の増産に役立つ方法

Exceptional fossil preservation demonstrates a new mode of axial skeleton elongation in early ray-finned fishes
Erin E. Maxwell, Heinz Furrer and Marcelo R. Sánchez-Villagra

Cobalt phosphate-modified barium-doped tantalum nitride nanorod photoanode with 1.5% solar energy conversion efficiency
Yanbo Li, Li Zhang, Almudena Torres-Pardo, Jose M. González-Calbet, Yanhang Ma, Peter Oleynikov, Osamu Terasaki, Shunsuke Asahina, Masahide Shima, Dongkyu Cha, Lan Zhao, Kazuhiro Takanabe, Jun Kubota and Kazunari Domen

2013年10月11日金曜日

新着論文(Science#6155)

Science
VOL 342, ISSUE 6155, PAGES 149-280 (11 OCTOBER 2013)

EDITORIAL:
Shutdown!
シャットダウン!
Marcia McNutt

Editors' Choice
Magma Writ Small
Nat. Commun. 4, 2405 (2013).

News of the Week
※今回は省略

News & Analysis
U.S. Shutdown Tightens Its Grip on Research
アメリカのシャットダウンが研究に対する影響力を強める
David Malakoff
アメリカ政府機関の閉鎖も2週目にさしかかり、科学者らはそれが長期にわたって研究に与える影響をよりいっそう心配している。

NASA Meeting Bars Chinese Students
NASAの研究集会が中国の学生の参加を禁止する
Jeffrey Mervis
NASAはアメリカの大学に在籍する中国人の学生らに来月Ames Research Centerにて開かれる宇宙物理学の研究集会への参加を禁止すると伝えている。

Farming's Tangled European Roots
もつれからまった農耕のヨーロッパのルーツ
Michael Balter
今週報告される2つの研究によれば、ヨーロッパにおける狩猟採集から農耕への変遷は長期間に及び、複雑であったらしい。

Windfall for Tiny University With Outsized Ambitions
特大の目標によって棚ぼたの小さな大学
Dennis Normile
来年度の沖縄科学技術大学院大学に対する予算は2倍になることが見込まれている。

News Focus
Impact Theory Gets Whacked
衝突理論がへたる
Daniel Clery
惑星科学者は月の成因について説明できたと思っていたが、これまででもっとも優れたコンピューター・シミュレーションと岩石の分析から、真相はもっと複雑であることが示唆されている。

Letters
Working Together to Prepare for Disasters
災害に備えるために共に働く
Kristin L. Rising and Nicole Lurie

A Model of Strength
強さのモデル
Douglas H. Johnson and R. Dennis Cook

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Research
Perspectives
Cleaner Lakes Are Dirtier Lakes
より綺麗な湖がより汚い湖に
Emily S. Bernhardt
Finlay et al.の解説記事。
リン酸の湖への流入を減らす努力は藻類の異常繁殖を抑制するが、一方で窒素汚染をより悪化させる。

Reports
Evidence for Water in the Rocky Debris of a Disrupted Extrasolar Minor Planet
太陽系外の小惑星の岩石デブリの中の水の証拠
J. Farihi, B. T. Gänsicke, and D. Koester
デブリが集積してできた星の成長後期のスペクトル分析から、水があったときの名残が明らかに。

Waveform Tomography Reveals Channeled Flow at the Base of the Oceanic Asthenosphere
波形トモグラフィーが海洋アセノスフェアの底におけるチャネル化した流れを明らかに
Scott French, Vedran Lekic, and Barbara Romanowicz
マントル対流が短い波長の、プレートの動きと平行に走る、指上の構造を作り出している。

Human Influences on Nitrogen Removal in Lakes
湖における人間が窒素除去に与える影響
Jacques C. Finlay, Gaston E. Small, and Robert W. Sterner
地球上の大きな湖においては、リン酸濃度の上手なコントロールがかえって窒素の蓄積に繋がることが明らかに。

Ancient DNA Reveals Key Stages in the Formation of Central European Mitochondrial Genetic Diversity
古代のDNAがヨーロッパ中部のミトコンドリアの遺伝的多様性の形成において重要な段階を明らかに
Guido Brandt, Wolfgang Haak, Christina J. Adler, Christina Roth, Anna Szécsényi-Nagy, Sarah Karimnia, Sabine Möller-Rieker, Harald Meller, Robert Ganslmeier, Susanne Friederich, Veit Dresely, Nicole Nicklisch, Joseph K. Pickrell, Frank Sirocko, David Reich, Alan Cooper, Kurt W. Alt, and The Genographic Consortium
364人の先史時代のヒトのミトコンドリアDNA分析から、新石器時代のドイツにおける人口統計と移動パターンが明らかに。

2013年10月10日木曜日

新着論文(Nature#7470)

Nature
Volume 502 Number 7470 pp141-264 (10 October 2013)

EDITORIALS
Closed question
閉じた疑問
アメリカ政府機関のシャットダウンは科学を傷つけている。アメリカ議会は説明を求められている。
>関連した記事(ナショナルジオグラフィック ニュース)
米政府機関の閉鎖、NASAにも打撃
政府閉鎖問題、アップルの教訓

RESEARCH HIGHLIGHTS
Cosmic jets trigger star birth
銀河のジェットが星の誕生を促す
Astron. Astrophys. 558, A5 (2013)
銀河中心から吹き出すガスのジェットによって、圧力のポケットが生まれ、その中で星の誕生に適した場所が生まれる可能性が観測から示唆されている。

Big weapons have little downside
大きな武器にはほとんど代償はない
Anim. Behav. http://doi.org/n34 (2013)
カブトムシ(Trypoxylus dichotomus)のオスの大きな角は交尾相手を得るための手段の一つであるが、その代償は驚くほど小さいことが実験などから示された。大きな角は飛行能力・生存力・免疫力・他の部位の成長に対して何ら影響を与えていないらしい。逆に代償がないからこそ、角の大きな多様性が生まれている可能性もある。

Seabird stress response is oceans apart
海鳥のストレスに対する応答は大きく違っている
Proc. R. Soc. B 280, 20132090 (2013)

New bacteria from the bowels
新たなバクテリアが腸から
eLife 2, e01102 (2013)

Dirty water gets squeezed clean
汚水が絞られて綺麗に
Environ. Sci. Technol. 47, 9363−9371 (2013)

SEVEN DAYS
※今回は省略

NEWS IN FOCUS
Congo carbon plan kicks off
コンゴの炭素計画が始まる
Jeff Tollefson
コンゴ民主主義共和国が炭素クレジットを誘因するために、森林バイオマスのマッピングを開始。

FEATURES
Amazon ecology: Footprints in the forest
アマゾン生態系:森林の足跡
Jeff Tollefson
研究者たちは、アマゾンの先住民が熱帯雨林にどれほどの影響を与えてきたのかを明らかにしようとしている。

COMMENT
Ocean sciences: Follow the fish
海洋科学:魚に続く
「海洋の健康状態を追跡するために、全球的な、長期間にわたる生態系モニタリング計画が必要とされている」とJ. Anthony KoslowとJennifer Coutureは言う。

CORRESPONDENCE
Sustainability: Reduce, reuse and recycle lab waste
持続可能性:研究室のゴミを減らし、再利用し、リサイクルせよ
Gaia Bistulfi

Environment: Understanding our destructive choices
我々の破壊的な選択を理解する
Kenneth Worthy

Biodiversity: Oil-palm replanting raises ecology issues
生物多様性:パーム油の連作が生態系の問題を引き起こす
Jake L. Snaddon, Katherine J. Willis & David W. Macdonald

Horizon 2020: A call to forge biodiversity links
ホライズン2020:生物多様性のリンクを強化する必要性
Alex Hardisty

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Research
NEWS & VIEWS
Earth science: The timing of climate change
地球科学:気候変化のタイミング
Mora et al.の2つの解説記事。フォーラム。
気候変化の革新的な評価方法によって、地球温暖化がこれまでの気候変動の範疇を超える年が計算された。3人の専門家がこの計算手法の重要性、従来法との違い、生物多様性との関連性について説明する。それは今世紀中頃の初めと予想されており、またその変化は(従来の気候変動が小さく、生物多様性が極めて大きい)熱帯域から起きると思われる。

Beyond historical variability
歴史的な変動を超えて
Chris Huntingford, Lina Mercado

Tropical diversity countdown
熱帯域の生物多様性のカウントダウン
Eric Post

Palaeontology: A jaw-dropping fossil fish
古生物学:空いた口が塞がらない化石の魚
Matt Friedman & Martin D. Brazeau
Zhu et al.の解説記事。
現代のアゴを持つ脊椎動物の祖先は、サメのような見た目の魚類として描かれることが一般的である。しかし、中国から得られた化石群の驚くほどの多様性は、アゴのある脊椎動物の起源に対して新たな一面を垣間見せている。

ARTICLES
The projected timing of climate departure from recent variability
最近の変動からの気候の逸脱の予測されるタイミング
Camilo Mora, Abby G. Frazier, Ryan J. Longman, Rachel S. Dacks, Maya M. Walton, Eric J. Tong, Joseph J. Sanchez, Lauren R. Kaiser, Yuko O. Stender, James M. Anderson, Christine M. Ambrosino, Iria Fernandez-Silva, Louise M. Giuseffi & Thomas W. Giambelluca
ある地点における人為的気候変化が従来の気候変動の範疇を統計的に超える年を予測するための新たな指標を紹介。全球平均が範疇を超えるのは安定化シナリオ(stabilization scenario)の場合で2069±18年、現状維持シナリオ(business-as-usual scenario)の場合で2047±14年と予測される。さらに最も早く訪れるのは生物多様性が大きく、低所得国が多い熱帯地域であり、気候変化に対処する能力が生態系・政府ともに低い地域でもある。生態系と社会に対する悪影響を軽減するという意味においても、迅速に温室効果ガスを削減する努力が必要とされている。
>Natureハイライト
最初に気候変動の災難を被るのは熱帯である

A Silurian placoderm with osteichthyan-like marginal jaw bones
硬骨魚類様の辺縁顎骨を持つシルル紀の板皮類
Min Zhu, Xiaobo Yu, Per Erik Ahlberg, Brian Choo, Jing Lu, Tuo Qiao, Qingming Qu, Wenjin Zhao, Liantao Jia, Henning Blom & You’an Zhu
>Natureハイライト
脊椎動物の「顔」の進化

LETTERS
Bottom-up control of geomagnetic secular variation by the Earth’s inner core
地球内核による地磁気永年変化の下から上への制御
Julien Aubert, Christopher C. Finlay & Alexandre Fournier
>Natureハイライト
地球表面で見られる地磁気変動の内幕

Key role of symbiotic dinitrogen fixation in tropical forest secondary succession
熱帯林の二次遷移に共生的窒素固定が果たす重要な役割
Sarah A. Batterman, Lars O. Hedin, Michiel van Breugel, Johannes Ransijn, Dylan J. Craven & Jefferson S. Hall

Genome-wide signatures of convergent evolution in echolocating mammals <OPEN>
エコロケーションを行う哺乳類のゲノム全体に見られる収斂進化の証拠
Joe Parker, Georgia Tsagkogeorga, James A. Cotton, Yuan Liu, Paolo Provero, Elia Stupka & Stephen J. Rossiter

2013年10月7日月曜日

新着論文(SR, PNAS, Ncom)

Scientific Reports
☆1 October 2013
High-resolution summer precipitation variations in the western Chinese Loess Plateau during the last glacial <OPEN>
Zhiguo Rao, Fahu Chen, Hai Cheng, Weiguo Liu, Guo'an Wang, Zhongping Lai & Jan Bloemendal
中国黄土平原から得られたレスのδ13C(降水量の指標)を用いて過去75kaの環境変動を復元。

Solar forcing of the Indian summer monsoon variability during the Ållerød period <OPEN>
Anil K. Gupta, Kuppusamy Mohan, Moumita Das & Raj K. Singh
アラビア海から採取された堆積物コア中のG. bulloidesの存在量(湧昇の指標)から過去14-8kaの高解像度記録を得た。特にB/Aに焦点を当てて解析したところ、13.5-13.3kaにピークを持つ寒冷化イベントが検出された。このときの記録をスペクトル解析したところ、208年の太陽活動の周期が確認された(de Vries / Suess cycle)。

Nature Communications
25 September 2013
Human impacts drive a global topographic signature in tree cover
Brody Sandel and Jens-Christian Svenning

1 October 2013
Regional population collapse followed initial agriculture booms in mid-Holocene Europe <OPEN>
Stephen Shennan, Sean S. Downey, Adrian Timpson, Kevan Edinborough, Sue Colledge, Tim Kerig, Katie Manning and Mark G. Thomas

Advancing plant phenology and reduced herbivore production in a terrestrial system associated with sea ice decline
Jeffrey T. Kerby and Eric Post

PNAS
24 September 2013(Vol. 110, No. 39)
Reports
Regional and seasonal response of a West Nile virus vector to climate change
Cory W. Morin and Andrew C. Comrie

Broad-scale predictability of carbohydrates and exopolymers in Antarctic and Arctic sea ice
Graham J. C. Underwood, Shazia N. Aslam, Christine Michel, Andrea Niemi, Louiza Norman, Klaus M. Meiners, Johanna Laybourn-Parry, Harriet Paterson, and David N. Thomas

1 October 2013(Vol. 110, No. 40)
Commentaries
Forecasting fisheries collapse
Steven D. Gaines and Christopher Costello

Reports
Evidence for a rapid release of carbon at the Paleocene-Eocene thermal maximum
James D. Wright and Morgan F. Schaller

Predicting overfishing and extinction threats in multispecies fisheries
Matthew G. Burgess, Stephen Polasky, and David Tilman

2013年10月4日金曜日

新着論文(Science#6154)

Science
VOL 342, ISSUE 6154, PAGES 1-148 (4 OCTOBER 2013)

Special Issue ~Communication in Science Pressures and Predators~
※直接ScienceのHPを参照してください

EDITORIAL:
Improving Scientific Communication
科学コミュニケーションを改善する
Marcia McNutt

Editors' Choice
Dessicated Dispersal
乾燥した散布
Proc. R. Soc. B 280, 10.1098/ rspb.2013.1465 (2013).
トクサ科の植物(horsetail; Equisetum)は古生代から存在する胞子で繁殖する植物であるが、その胞子は4つの脚を持っている。その脚は湿度に応じて閉じたり開いたりするが、それは2層構造によって引き起こされていることが分かった。こうした開閉が胞子が拡散する上で重要なプロセスとなっている。

News of the Week
※今回は省略

News & Analysis
The IPCC Gains Confidence in Key Forecast
IPCCがカギとなる予測に対する確信を得る
Richard A. Kerr
IPCC第5次報告書で公表された気候感度は「1.5-4.5℃」であるが、この値は1979年にモデルを用いて初めて得られたものと同じであり、以来それほど大きな改善は見られていない。ただし、その値を得るための手段ははるかに改善されており、その中で古気候学研究の貢献も大きい。
[以下は引用文]
The report now assigns "high confidence" to climate sensitivity falling in the canonical range. And whereas the previous report could not exclude sensitivities even higher than 4.5ºC, the new one finds that sensitivities above 6ºC are very unlikely.

And the transient response is of far more use to policymakers; it can give them an idea of how bad things are likely to get within a comprehensible time horizon.

"That has big political implications." One big one: The world has already emitted more than half the CO2 needed for a doubling that could bring the transient warming to dangerous levels well before the end of the century.

>関連した記事(Nature#7469 "SEVEN DAYS")
Climate report
気候の報告書
IPCCの最新の報告書が9/27に公表された。報告書の中では、地球温暖化を2℃以下に抑えるためにには、CO2排出の総量を1,800Gt以内に抑える必要があることが示されている。現在の排出速度のままだと、50年以内に訪れることになる。
>より詳細な記事(Nature NEWS
IPCC: Despite hiatus, climate change here to stay
IPCC: ハイエタスにも関わらず、気候変化は依然続いたまま
Quirin Schiermeier

A Stronger IPCC Report
より強いIPCC報告書
Richard A. Kerr
先週公表されたIPCC第5次報告書は、すでに確信を得ていた3つの科学的なコンセンサスに対する確信をいっそう強めたが、一方で物議をかもす他の3つの点については穏健な態度を示した。
◎IPCC AR4からのコンセンサス
1、温暖化には地域性がある
2、温暖化の影響は人類活動である可能性が極めて高い
※IPCC AR4の「very likely」→「extremely likely」へと表現が変更
3、もっとも野心的な排出削減でも今世紀末の1.5-2.0℃の温暖化は避けがたい
※この「2.0℃」という数値は文明社会が極めて危険な状態に陥ると考えられる温暖化の最低値として認識されている。
◎今回穏健な態度で扱われたもの
1、将来の海水準上昇予測
※IPCC AR4よりは高く見積もられたが、専門家の中には数m上昇する危険性が過小評価されていると指摘するものもいる。
2、北極海の海氷の消失
※IPCC AR4の予測よりも50年早く、今世紀の半ば頃にも夏の海氷は消失する可能性がある。2030年という予測は確率は低い?
3、異常気象
※すでに人間活動の影響により、世界各地で熱波や激しい雨といった異常気象の頻度・継続期間が増加している。将来のさらなる温暖化とともにそれらもさらに悪化すると思われる。
>関連した記事(ナショナルジオグラフィック ニュース)
IPCCの気候変動報告書、5つの要点

For Researchers, IPCC Leaves a Deep Impression
研究者にとっては、IPCCは深い印象を残した
Eli Kintisch
IPCCによってあらゆる国際的な共同研究の機会が得られ、重要な論文が生まれたことも事実であるが、報告書をまとめるためのプロセスには非常に時間がかかり、今や参加する科学者・引用される論文数・ページ数などは膨れ上がっている。次のIPCCを作成するか否かについても議論が始まっている。
[以下は引用文]
Although scholars debate just how much influence the voluminous documents have had on the world's policymakers– their main target audience–there's little doubt about the deep stamp they've left on global science. Not only does the process make a major claim on the time of scientists in dozens of disciplines, it also spurs research collaborations, ties up years of expensive supercomputing time, and prompts a deluge of submissions to key journals.

Climate modeling also gets a unique boost from the report's 6-year publication cycle. Although the IPCC sponsors no research itself, it catalyzes an international effort called the Coupled Model Intercomparison Project (CMIP), involving some 26 modeling teams. All do the same experiments, allowing comparisons. These "IPCC runs" can tie up supercomputers for a year before the reports are due but have been used in more than 900 papers since 2007.

The IPCC's prestige drives researchers to finish work. To have a chance of being cited in last week's report, researchers had to submit their papers to a journal by 31 July 2012. In the months before the deadline, Nature Geoscience received a surge of papers: about 170 per month, or 24% above average. But there was a downside to the scramble, the editors noted in a recent editorial: papers not "as carefully thought through" as desired.

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Large-Scale Gene Comparisons Boost Tree of Life Studies
大規模な遺伝子比較が生命の樹の研究を加速させる
Elizabeth Pennisi
比較可能な遺伝子マーカーを何百も引き出すという新手法によって、生命の樹の作成がかなり容易になりつつある。

Policy Forum
Managing Forests and Fire in Changing Climates
変化し続ける気候のもとで森林と火災に対処する
S. L. Stephens, J. K. Agee, P. Z. Fulé, M. P. North, W. H. Romme, T. W. Swetnam, and M. G. Turner
森林火災の抑制に傾注するような政策は避けがたい運命を先延ばしにしているだけに過ぎない。

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Research
Perspectives
Future Science
未来の科学
James A. Evans
Wang et al.の解説記事。
投稿論文の成功を予測することが科学を変えるだろうか?

A Looser Clock to Cure Jet Lag
時差ボケを治すためのより緩やかな時計
Michael H. Hastings
Yamaguchi et al.の解説記事。

Research Articles
Mice Genetically Deficient in Vasopressin V1a and V1b Receptors Are Resistant to Jet Lag
Yoshiaki Yamaguchi et al.
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時差ぼけの仕組み解明=治療薬開発に期待―京大

Reports
Nitrogen Isotopic Composition and Density of the Archean Atmosphere
窒素同位体組成と始生代の大気密度
Bernard Marty, Laurent Zimmermann, Magali Pujol, Ray Burgess, and Pascal Philippot
熱水性の石英中の流体包有物のアルゴン・窒素同位体記録から、始生代の大気(35-30億年前)密度は0.5barほどであり、窒素同位体は現在と同程度であったことが示唆される。またCO2分圧も0.7bar以下であったと推測される。

Surviving in a Marine Desert: The Sponge Loop Retains Resources Within Coral Reefs
海の砂漠で生き残る:スポンジ・ループがサンゴ礁内の資源を保持する
Jasper M. de Goeij, Dick van Oevelen, Mark J. A. Vermeij, Ronald Osinga, Jack J. Middelburg, Anton F. P. M. de Goeij, and Wim Admiraal
サンゴ礁は海水中の栄養塩濃度が極めて小さいにも関わらず、高い生物多様性と一次生産量が実現しており、ダーウィンの時代から謎とされてきた。スポンジ類が溶存有機物を取り込み、他の生物が消費可能な形へと変換していることが同位体ラベリングした飼育実験から明らかに。

Quantifying Long-Term Scientific Impact
長期的な科学的インパクトを定量化する
Dashun Wang, Chaoming Song, and Albert-László Barabási
投稿されてからすぐの引用のされ方が、将来のその論文が何回引用されるかのモデル化や、科学雑誌の比較検討に使えるかもしれない。