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2013年10月20日日曜日

『松井教授の東大駒場講義録』『地球システムの崩壊』(松井孝典、2005・2007年)

松井教授の東大駒場講義録
松井孝典
集英社新書 (2005年) ¥700-

地球システムの崩壊
松井孝典
新潮選書(2007年)¥1,100-

東京大学名誉教授であり、現在は千葉工業大学・惑星探査研究センター所長を務める松井孝典氏の最近2つの書籍。後者は毎日出版文化賞を受賞したとのことらしい。

前者は駒場における学部1・2年生を対象にした講義「惑星地球科学Ⅱ」の内容を文章に起こしたもの。(確かこの授業を僕も受講した)

後者は「」「考える人」に連載された記事をもとに一部加筆したもの。世界各国への会議参加などの紀行なども、松井氏の文明観・哲学などとともに綴られており、非常に興味深い。

内容としては重複する部分が多いが、惑星探査の歴史・惑星形成論・文明観に関する内容が主であり、一部では現在の文明の持続可能性にも触れられる。

地球と知求をかけて智球(チキュウ)学という新たな学術分野を提唱しており、科学・文明・哲学の融合が試みられていることが非常にユニークである。

非常に内容が濃く、かなり集中しないと内容を読み解くことは難しいが、惑星科学に携わる人には是非一読をオススメしたい。
惑星形成史のおさらいという意味での教科書的な使い方も可能である。

日本の、いや世界の太陽系・惑星形成に関する現在の基礎を作った人といっても過言ではないが、驚かされるのは研究以外の、例えば文学・哲学といった分野の知識にも明るいことである。
松井氏のような鮮烈な存在感・思想を持った科学者に自分もなりたいと思った。

以下は気になった文言集。今回はちょっとだけ。。
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◎松井教授の東大駒場講義録

この話は科学者にとって極めて教訓的です。天文学に限らず、我々は経験やそれまでの情報をもとにして大脳皮質に内部モデルを作り、それに基づいて思考していますが、そうした「常識」を捨てたときに、科学の大発見があるわけです。(pp. 18)
常識の中にこそ非常識があり、それまでの常識を疑うことが科学的な革命へと繋がることも(海底下生命圏・プレートテクトニクス・地動説・進化論・天変地異説etc)。

今、文明に関する問題として語られているなかで、いちばん大きい問題は地球環境問題です。(中略)我々がもっている共同幻想の最たるものが右上がりという幻想ですが、それが近い未来に破れるわけですね。それによって人間圏のいろいろなところで現在のシステムの崩壊が始まるでしょう。(pp. 59)

我々はつい最近まで太陽系が一般的な惑星系と思っていました。しかし、じつは系外惑星系のほうが一般的かもしれないということです。(pp. 145)
「我々は何処から来て、何もので、何処に行くのか」を考える上で、系外惑星系にまで思考を延長することで、その答えに近づくことができるのかもしれません。

◎地球システムの崩壊
我々は、地球から材料を借りて、自分のからだを構成するさまざまな臓器をつくり、その機能を使って生きている。機能を使って生きることが重要なのであって、からだそのものが物として意味があるわけではない。我々が生きていくのに、本当に必要としているのは物ではなく、その機能なのだ。すべてを所有する必要などないのである。その機能を利用することが本質なのだと認識を改める必要がある。(pp. 37)
「経済発展や利潤の追求こそ国家や個人の最大目標である」と考える現在の先進国・途上国の認識を改めることが、真の持続的文明社会の形成へと向けた第一歩になるかもしれない。