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2013年10月15日火曜日

耳石の微量元素・同位体変動は何に影響されるか(Campana, 1999, MEPS_前半)

Chemistry and composition of fish otoliths: pathways, mechanisms and applications
Campana, 1999, MEPS

より。
魚の耳石に含まれる微量元素と安定・放射性同位体がどのように環境動態研究において用いられているか、またそれらはどのように測定されているかを広くレビューした論文。

いつもとはちょっと趣向を変え(手抜き)、箇条書きで論文中で気になった部分を列挙しておきます。水産屋・古気候屋をはじめとして耳石の化学分析をする人にはかなりオススメできます。

各章の要点ではなく、個人的に興味を持ったことのメモが大半なので注意してください。

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耳石の組成
・ニベ科の魚(Atlantic croaker)の場合、96.2%が炭酸塩、0.73%が微量元素で構成される不純物、3.1%が有機物(otolin)であると思われる。

・含まれる元素の比は必ずしも海水の比を反映しておらず、選択的に生物学的な濃集・希釈の効果が生じていると思われる。

・含まれる微量元素の濃度は桁で変化し、1999年時でまだ検出されていない元素も数多く存在する。

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耳石の鉱物学と結晶化
・耳石の炭酸塩中に含まれるわずかな有機物(酸性アミノ酸が多く含まれる)が石灰化において重要な役割を負っている。

・XRD分析から、耳石の炭酸塩の大部分は多結晶質のアラゴナイトであることが示されている。

・有機物がアラゴナイト/カルサイトのどちらの結晶形となるかを決定している。

・耳石は左右対称に存在する3つの部位(sagittae・lapilli・asteriscii)で構成され、前者2つはアラゴナイト、3つ目はバテライト(vaterite; ファーテル石)でできていることが大半である。

・元素によって結晶に入っているもの、間隙に捕獲されているものといろいろある。Sr・Mg・Li・Baなどは互いに相関が良いことから、似たようなプロセスで(おそらく結晶格子内に)取り込まれていると思われる。相関の悪いMnやZnなどはまた異なる方法で存在すると思われる。

・サンゴのアラゴナイト骨格と比較して耳石のSr濃度は低いため、おそらくSr2+がCa2+を置換する形で結晶格子内に取り込まれていると思われる。またCa2+よりもやや大きいが似た大きさのBa2+やPb2+もまた置換して取り込まれていると思われる。
こうした元素類は、温度が分別係数に影響することが期待される。

・一方、Naなどは共沈殿しているとは考えにくく、おそらく間隙に捕獲されている。

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海水起源の元素がどのようにして耳石に運ばれるか
・海水中の元素が魚の体内に入るルートとしては、鰓か腸(海水または食物)の2通りが考えられる。

・淡水魚の場合、鰓を起源とする取り込みが支配的で、逆に海水魚の場合は海水を飲むので、腸からの取り込みが支配的であると思われる。前者の場合、カルシウム濃度(つまり水の硬度)が鰓での取り込みを制限していると考えられる。後者の場合、浸透圧調整(osmoregulation)が重要と考えられる。

・海水から腸または鰓から取り込まれた元素はその後血漿に取り込まれ、さらにリンパ液に取り込まれ、最終的に耳石として沈殿する。
3つの配分面での配分のされ方は元素ごとに異なり、生理学的作用に影響されやすい元素(Na・K・S・P・Cl)とされにくい元素(Sr・Ba・Mn・Fe・Pb・Li・Mg・Cu・Ni)がある。

・海水の場合、Ca濃度は塩分によって強く影響を受けるため、「元素/Ca比」または「元素/塩分比」で見る必要がある。特に入り江や海水では塩分が著しく異なるが、元素/Ca比ではさほどの変動は見られない。

・溶媒中の元素の分配係数(DElement=[Element/Ca]otolith/[Element/Ca]solution)に着目した場合、DSrはサンゴでは1.0に近いのに対し、耳石では0.25程度である。分配はリンパ液からの石灰化作用の際に生じていると思われる。

・環境(水塊)中の濃度がそのまま耳石に反映されるわけではなく、ある元素は濃集し(DElement>1)、ある元素は希釈される(DElement<1)。P・Cu・Sなどは生理学プロセスに重要な元素であるため、環境には少なくとも耳石にはふんだんに存在する。Sr・Zn・Pb・Mn・Ba・Feは環境の違いをうまく反映する。またLi・Cd・Niは存在量が低く検出は難しいが、測定できれば環境記録として有望かもしれない。

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耳石中の微量元素変動を解釈するための基礎的概念
・Srの場合、環境中の濃度の違いは耳石中の濃度の違いには反映されず、あくまでSr/Ca比として考えた際に影響が見られる。

・海水のSr/Caが耳石のSr/Caに記録されることは、5つの独立した実験からも支持される。

温度の効果
・研究ごとの差異は大きいが、各種元素/Ca比において温度依存性が確認されている(Sr・Mg・K・Na・Mn・Zn・Fe)。

・特にSr/Ca比の温度依存性は正相関・負相関・相関なしという相対する結果が得られている。ただし、塩分依存性の方が環境中の温度変化よりも大きい場合がほとんどであるため、温度依存性は覆い隠されてしまう。

Sr/Caに対する様々な影響
・広く観測されていることとして、「石灰化作用はマトリックスとなるタンパク質の形成測度に比例しており、Sr/Caと反比例している」という事実が挙げられる。先に述べられたことと同じく、塩分の影響の方がはるかに大きい。

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安定同位体の変動
・OやSrの同位体(δ18Oと87/86Sr)は水と同位体平衡にあり、同位体分別はほとんど観察されていない。

・Cの同位体(δ13C)は10-30%が代謝由来(食物由来)であると考えられる。残りは水中の全炭酸(DIC)由来であると考えられる。

・δ18Oは深さ方向・緯度経度・他の要因(蒸発・降水・河川流入etc)によっても変化するため、水のδ18Oの情報なしに耳石のδ18Oを解釈することは危険である。

・δ13CはDICのδ13Cとは同位体不平衡にあり、特に石灰化の際に血漿からリンパ液へと代謝由来の炭酸イオンが取り込まれることが原因と思われる。

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放射性同位体の変動
自然同位体
・魚の年齢決定のツールとして、228Th/228Ra、210Po/210Pb・210Pb/226Raが用いられており、中でも210Pb/226Raが0〜50歳以内の魚の年齢決定に活躍している。

・放射性同位体を用いた年齢決定には4つの仮定が必要
ア)耳石の形成後は閉鎖系が維持されること
イ)親核種から生成される娘核種の濃度が、他のソースによる娘核種よりも十分に小さいこと
ウ)親・娘核種の取り込み速度が耳石の成長速度に比例すること
エ)耳石の成長速度が一定か、若しくは既知であること

核実験由来の同位体
・Kalish (1993)によって初めて耳石にて大気中核実験由来の14C(ボム・ピーク)が検出された。

・ボム・ピークもまた魚の年齢決定の推定に使えるものの、水塊中のΔ14Cの違いに留意する必要がある。例えば、河川水や表層水はΔ14Cが高く(若く)、地下水や深層水はΔ14Cが低い(古い)など。

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耳石のサンプリングの仕方と測定手法
・耳石全体を分析するものとして、
ア)AAS(Atomic Absorption Spectrometry; 原子吸光法)
イ)ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy; 誘導結合プラズマ発光分光分析装置)
ウ)ICPMS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry; 誘導結合プラズマ質量分析器)
などが挙げられる。
またICPMSの分派として、ID-ICPMS(Isotope Dilution-Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry;  同位体希釈-誘導結合プラズマ質量分析器)などもある。
※他にもTIMS(Thermal Ionization Mass Spectrometry; 表面電離型質量分析器)、MC-ICPMS(Multi-Collecter ICPMS; 多重検出器質量分析機)、SF-ICPMS(Sector Field-ICPMS; セクターフィールド質量分析器)など。

・耳石の一部を(通常は成長縞に沿って)局所分析するものとして、
ア)ED-EM(Energy-Dispersive  Electron Microprobes; エネルギー分散型電子マイクロプローブ)
イ)WD-EM(Wavelength-Dispersive  Electron Microprobes; 波長分散型電子マイクロプローブ)
ウ)PIXE(Particle Induced X-Ray Emission; 粒子励起X線分光)
エ)LA-ICPMS(Laser Ablation-Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry;  レーザーアブレーション-誘導結合プラズマ質量分析器)
などが挙げられる。
※他にもEPMA(Electron Probe Micro Analyzer; 電子線マイクロアナライザ)、SIMS(Secondary Ionized Mass Spectrometry;二次イオン質量分析器)など。

※分析法・機器類の詳細は西村屋日東分析センター東レリサーチセンターなどが詳しい。
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後半に続く。。