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2013年10月20日日曜日

『海ゴミ』(小島あずさ&眞淳平、2007年)

海ゴミ〜拡大する地球環境汚染
小島あずさ、眞淳平
中公新書(2007年)¥820-

ダイバーとして、海洋や地球環境に関する研究を行うものとして、海岸清掃というのには常に興味を引かれる。
東京大学が学生・教職員・事務職員用に開催している東日本大震災のボランティア活動には一度だけ参加したが、募集項目に「海岸清掃」という言葉があったからこそ参加したようなものだ(実際には荒天のため海岸にはほとんど近づけなかったが)。

ただし、本書を通して知ったのは、海岸清掃というボランティア活動のあまりに過酷な現実だ。軽々しい気持ちで行うべきものでは決してない。

海岸に漂着するゴミには回収が比較的容易なペットボトルやビニール袋などのプラスチック製品ももちろんあるが、一方で細かすぎて回収しにくいペレット(プラスチックの細かい破片)から、回収に重機を必要とするような巨大な漁具・家電製品、中には衛生上非常に危険なおむつや医療用注射器(薬物摂取用でないことを祈るばかりだが)なども多く含まれるという。

さらにゴミは海流を介して他国からももたらされ、また先進国日本は滞留時間が長く、簡単には自然界で分解されない工業製品を多数太平洋へとばらまいている。

海岸からもたらされるものが大半かと思いきや、実際には市街地から、住宅地から、河川を通じて海へと流出するものが過半数を占めているという。
これは海岸部に住む人々だけでなく、すべての人々が海洋汚染の一端を担っていることを意味する。

またアクセスの悪い遠隔の景勝地・生態系のホットスポットに溜まるゴミもまた、景観を害するものとして、生態系に悪影響を与えるものとして問題となっている。
海鳥・カメ・海生哺乳類の胃の内容物にはしばしばごみが混入し、それがさらには彼らの死に繋がることもあるという。

もう一つの問題は、ごみを回収し、処分する際の費用だ。

軽々しく清掃をしても、それを処分するには多額の費用がかかり、その費用を誰が賄うかが問題となってしまう。集めるだけ集めて、(予算が潤沢でない)地方の自治体に処分を一任することは許されない。

出てしまったゴミは回収するより他ない。一方でさらに排出されるゴミのフラックスを減らさないことには環境中に蓄積するゴミは増える一方だ。

ゴミの処分・回収に関する課題だけでなく、これは生産・消費活動全般、ひいては大量生産・大量消費・大量廃棄という現在の日本の経済・消費活動のあり方にも直結する問題であることを意識しなければ、問題は改善の方向には向かわないと思われる。

今一度、自分の暮らしぶり、ヒトと地球の共存の仕方について、各々自問する必要がある。

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2012年8月10日号のサイエンス誌にはゴミ特集が組まれているので参照されたい。

サイエンス誌2012年8月10日号のカバー写真

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またNature Geoscienceの2013年4月号の社説もまたゴミに関するものである。
>Nature Geoscience (April 2013) "Editorial"
Message in a bottle
ボトルの中のメッセージ

海は文明の出したゴミを蓄積し続けてきた。海洋への投棄は禁止されているものの、海洋環境を保護するためにも沿岸部や河川のゴミをモニターしなければならない。

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またモントレー水族館研究所を中心とする研究グループが行った調査では、人間の活動圏に近い沿岸部のかなりの部分の海底でゴミが見つかることが指摘された。
>Nature#7454 (20 June 2013) "Research Highlights"
Marine dumping detailed
海洋へのゴミ投棄がより詳細に

Deep-Sea Res. I http://dx.doi. org/10.1016/j.dsr.2013.05.006 (2013)
モントレー水族館研究所(MBARI)の研究グループの22年間にわたる西海岸・ハワイ島周辺海域の潜水調査から、人為起源のゴミが調査海域の1.49%という広範囲で見つかった。主にプラスチックゴミ(32%)や金属ゴミ(23%)で、2,000mを超す深海でその大部分が発見された。こうしたゴミが深海生態系に与えている影響は過小評価されている可能性があるという。
>関連した記事(ナショナルジオグラフィック ニュース)
モントレー湾の海底ゴミ
>関連した記事(MBARIのプレスリリース、動画あり)
MBARI research shows where trash accumulates in the deep sea
>話題の論文
Debris in the deep: Using a 22-year video annotation database to survey marine litter in Monterey Canyon, central California, USA
Kyra Schlining, Susan von Thun, Linda Kuhnz, Brian Schlining, Lonny Lundsten, Nancy Jacobsen Stout, Lori Chaney, Judith Connor

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さらに、海氷の交代とともに北極海のゴミ汚染の問題も次第に明らかになりつつある。
>Nature#7423 (8 Nov 2012) "Research Highlights"
Litter bugs leave Arctic legacy
ゴミが北極に伝説を残す
Mar. Pollut. Bull. http:// dx.doi.org/10.1016/j. marpolbul.2012.09.018 (2012)
北極海の海底に存在するゴミの量が増えつつある。ほとんどはプラスチック製品であり、そのゴミの周りにイソギンチャクやカイメンが付着しコロニーを形成している。海氷の後退によって北大西洋海流によって運ばれるゴミが北極海にまで到達しているのが原因と考えられる。次第に蓄積しつつあるという。

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最近ちょっと目を引いたのが以下の記事だ。
>Nature#7465 (5 Sep 2013) "Research Highlights"
Marine plastic fantastic for microbes
微生物にとって素敵な海のプラスチック

Environ. Sci. Technol. http://doi.org/m4q (2013)
海に浮かぶプラスチックゴミが新たな生命圏(プラスチック生命圏; plastisphere)を生み出していることが海洋観測から示された。周囲の海水とは異なる、複雑な食物網を形成しており、多様性も大きいという。

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以下は気になった文言集。

よかれと思って海岸を清掃しても、集めたごみが有効に再利用されずに、埋立地に入るだけという構図は、清掃活動に汗するボランティアにとって辛い事実でもある。(pp. ⅴ)

海岸に落ちている漂着ゴミは、もとをたどれば、ほとんどが陸上から川に流入し、川をつうじて海に流れ出したものなのだ。(pp. 50)
てっきり海岸からのものが大半を占めているかと思いきや、河川からもたらされるものや漁具などが大半を占めているという。

ペレットが世界中の海で見つかるという調査結果は、まさしくプラスチック片が世界の海を覆いつつあるということを意味しているのである。(pp. 82)

海岸清掃のたびに注射器が見つかるという状況は、すでに現実となっている。(pp. 117)

日本から流出したごみは、海流などの関係で、国内に漂着したり太平洋上に広く拡散したりするため、海外への漂着状況などを示すデータが少ないだけで、日本もまた大きなごみ流出国なのである。(pp. 128)
日本に流れ着くごみの中に中国や韓国由来のものが多いからといって、日本があまりごみを出していないということにはならない。