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2013年10月15日火曜日

耳石の微量元素・同位体変動は何に使えるか(Campana, 1999, MEPS_後半)

長くなったので、2つに分割します。
前半部分の論文概説(メモ)はこちら。

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応用例(1)〜資源量決定〜
・耳石の微量元素変動から魚の棲息地の違いを明らかにするには以下の2つの仮定が必要
ア)耳石の形成後、再吸収などによって耳石の元素組成が変化しないこと
イ)環境中の物理的・化学的要因によって耳石の元素組成が決定されること
そういった観点からは、Sr・Ba・Mn・Fe・Pb(おそらくLi・Mg・Cu・Niも?)が水塊の組成・温度の影響を受けやすく、適した元素である。一方で生理学プロセスに影響を受けやすいNa・K・S・P・Clは2番目の仮定が満たされず、環境復元としては適していない。

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応用例(2)〜回遊履歴〜
・魚の回遊履歴を調べる上で力を発揮するのは、環境中の元素/Ca比が大きく変化する場合であり、特に河川⇄海の回遊で顕著。中でもSr/Ca比は鋭敏に反応する。

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応用例(3)〜年齢決定〜
・耳石のSr/Ca変動の環状構造(日輪・年輪など)は「温度の季節・年々変動」「回遊パターン」「分布」「性的な成熟度」「成長速度」「生理学的要因」などによって規定されると思われ、多くの研究で変動があることが報告されている。

・成長縞とSr/Ca変動とが一致しないものもある。

・耳石の元素濃度・同位体にサイクルが見られるものがあるものの、年齢決定のツールとしては目に見える縞のほうを採用した方が確実かもしれない。

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応用例(4)〜環境復元〜
・耳石のδ18Oは水のδ18Oと同位体平衡にあり、温度計として使える。
異なる耳石のδ18Oを比較する際には、水のδ18Oが一定であれば、温度の差異について言及することが可能。ただしその際には絶対値は決定できないことに注意しなければならない。

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応用例(5)〜汚染〜
・汚染に関連した元素は石灰化に関連した他の組織に比べ、耳石にはあまり取り込まれないため、汚染の間接指標としては耳石はあまり適していない。

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応用例(6)〜生理学プロセスの指標〜
δ13C
・もっとも生理学プロセスを明瞭に反映するものはδ13Cである。

・耳石のδ13Cのピークや山なりになった部分は性的な成熟を反映している。

・食事やDICのδ13Cも耳石のδ13Cに影響するものの、代謝速度の影響もまた大きいため、明瞭なシグナルとして見えるかもしれない。例えば年齢とともに代謝が衰えるため、一般にδ13Cは年齢とともに重くなる傾向がある。

Sr/Ca
・ウナギについてはレプトセファルス幼生からガラスウナギへと変態する際に耳石のSr/Caに明瞭な変化が生じることが報告されているものの、一般には確認されておらず、ウナギにのみ例外的に生じている可能性が高い。

・ストレスや生殖活動もまたSr/Caへの影響が報告されているが、予め分かっていない限り、個々のピークの原因をそれらに求めることは難しいと思われる。

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応用例(7)〜化学物質を利用したマーキング〜
・耳石にマークを付けるための方法として、以下の2つがある。どちらもうまくいくことが示されている。
ア)染料または蛍光塗料を利用し、視覚的にマーキングを行う方法
 塩酸オキシテトラサイクリン、アリザリン・レッド、オルセイン、アセタゾラミドなど
イ)高濃度試薬や同位体を用いて化学的なマーキングを行う方法
ストロンチウムやカルシウムなどの同位体が一般に使われている。

・耳石の形成後、マークが外れるという報告はなく、耳石の安定性をさらに支持する。

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今後の展望(※1999年当時)
・Sr同位体は陸の近くでは威力を発揮するかも?
※現に、河川内のSr同位体変動を利用することで孵化地域の解析に有力であることが示されている。例えば、Amano et al (2013, Aquatic Biology)など。

・U同位体は塩分の指標になる?
※どういう使われ方かはよく分かりませんが、河川水・海水の同位体比の差を利用するということでしょうか?

・Pb同位体は汚染源の特定に使える?
※サンゴ骨格などでは既に報告あり。Inoue et al. (2006, Environmental Pollution)など。

耳石の微量元素・同位体変動は何に影響されるか(Campana, 1999, MEPS_前半)

Chemistry and composition of fish otoliths: pathways, mechanisms and applications
Campana, 1999, MEPS

より。
魚の耳石に含まれる微量元素と安定・放射性同位体がどのように環境動態研究において用いられているか、またそれらはどのように測定されているかを広くレビューした論文。

いつもとはちょっと趣向を変え(手抜き)、箇条書きで論文中で気になった部分を列挙しておきます。水産屋・古気候屋をはじめとして耳石の化学分析をする人にはかなりオススメできます。

各章の要点ではなく、個人的に興味を持ったことのメモが大半なので注意してください。

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耳石の組成
・ニベ科の魚(Atlantic croaker)の場合、96.2%が炭酸塩、0.73%が微量元素で構成される不純物、3.1%が有機物(otolin)であると思われる。

・含まれる元素の比は必ずしも海水の比を反映しておらず、選択的に生物学的な濃集・希釈の効果が生じていると思われる。

・含まれる微量元素の濃度は桁で変化し、1999年時でまだ検出されていない元素も数多く存在する。

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耳石の鉱物学と結晶化
・耳石の炭酸塩中に含まれるわずかな有機物(酸性アミノ酸が多く含まれる)が石灰化において重要な役割を負っている。

・XRD分析から、耳石の炭酸塩の大部分は多結晶質のアラゴナイトであることが示されている。

・有機物がアラゴナイト/カルサイトのどちらの結晶形となるかを決定している。

・耳石は左右対称に存在する3つの部位(sagittae・lapilli・asteriscii)で構成され、前者2つはアラゴナイト、3つ目はバテライト(vaterite; ファーテル石)でできていることが大半である。

・元素によって結晶に入っているもの、間隙に捕獲されているものといろいろある。Sr・Mg・Li・Baなどは互いに相関が良いことから、似たようなプロセスで(おそらく結晶格子内に)取り込まれていると思われる。相関の悪いMnやZnなどはまた異なる方法で存在すると思われる。

・サンゴのアラゴナイト骨格と比較して耳石のSr濃度は低いため、おそらくSr2+がCa2+を置換する形で結晶格子内に取り込まれていると思われる。またCa2+よりもやや大きいが似た大きさのBa2+やPb2+もまた置換して取り込まれていると思われる。
こうした元素類は、温度が分別係数に影響することが期待される。

・一方、Naなどは共沈殿しているとは考えにくく、おそらく間隙に捕獲されている。

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海水起源の元素がどのようにして耳石に運ばれるか
・海水中の元素が魚の体内に入るルートとしては、鰓か腸(海水または食物)の2通りが考えられる。

・淡水魚の場合、鰓を起源とする取り込みが支配的で、逆に海水魚の場合は海水を飲むので、腸からの取り込みが支配的であると思われる。前者の場合、カルシウム濃度(つまり水の硬度)が鰓での取り込みを制限していると考えられる。後者の場合、浸透圧調整(osmoregulation)が重要と考えられる。

・海水から腸または鰓から取り込まれた元素はその後血漿に取り込まれ、さらにリンパ液に取り込まれ、最終的に耳石として沈殿する。
3つの配分面での配分のされ方は元素ごとに異なり、生理学的作用に影響されやすい元素(Na・K・S・P・Cl)とされにくい元素(Sr・Ba・Mn・Fe・Pb・Li・Mg・Cu・Ni)がある。

・海水の場合、Ca濃度は塩分によって強く影響を受けるため、「元素/Ca比」または「元素/塩分比」で見る必要がある。特に入り江や海水では塩分が著しく異なるが、元素/Ca比ではさほどの変動は見られない。

・溶媒中の元素の分配係数(DElement=[Element/Ca]otolith/[Element/Ca]solution)に着目した場合、DSrはサンゴでは1.0に近いのに対し、耳石では0.25程度である。分配はリンパ液からの石灰化作用の際に生じていると思われる。

・環境(水塊)中の濃度がそのまま耳石に反映されるわけではなく、ある元素は濃集し(DElement>1)、ある元素は希釈される(DElement<1)。P・Cu・Sなどは生理学プロセスに重要な元素であるため、環境には少なくとも耳石にはふんだんに存在する。Sr・Zn・Pb・Mn・Ba・Feは環境の違いをうまく反映する。またLi・Cd・Niは存在量が低く検出は難しいが、測定できれば環境記録として有望かもしれない。

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耳石中の微量元素変動を解釈するための基礎的概念
・Srの場合、環境中の濃度の違いは耳石中の濃度の違いには反映されず、あくまでSr/Ca比として考えた際に影響が見られる。

・海水のSr/Caが耳石のSr/Caに記録されることは、5つの独立した実験からも支持される。

温度の効果
・研究ごとの差異は大きいが、各種元素/Ca比において温度依存性が確認されている(Sr・Mg・K・Na・Mn・Zn・Fe)。

・特にSr/Ca比の温度依存性は正相関・負相関・相関なしという相対する結果が得られている。ただし、塩分依存性の方が環境中の温度変化よりも大きい場合がほとんどであるため、温度依存性は覆い隠されてしまう。

Sr/Caに対する様々な影響
・広く観測されていることとして、「石灰化作用はマトリックスとなるタンパク質の形成測度に比例しており、Sr/Caと反比例している」という事実が挙げられる。先に述べられたことと同じく、塩分の影響の方がはるかに大きい。

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安定同位体の変動
・OやSrの同位体(δ18Oと87/86Sr)は水と同位体平衡にあり、同位体分別はほとんど観察されていない。

・Cの同位体(δ13C)は10-30%が代謝由来(食物由来)であると考えられる。残りは水中の全炭酸(DIC)由来であると考えられる。

・δ18Oは深さ方向・緯度経度・他の要因(蒸発・降水・河川流入etc)によっても変化するため、水のδ18Oの情報なしに耳石のδ18Oを解釈することは危険である。

・δ13CはDICのδ13Cとは同位体不平衡にあり、特に石灰化の際に血漿からリンパ液へと代謝由来の炭酸イオンが取り込まれることが原因と思われる。

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放射性同位体の変動
自然同位体
・魚の年齢決定のツールとして、228Th/228Ra、210Po/210Pb・210Pb/226Raが用いられており、中でも210Pb/226Raが0〜50歳以内の魚の年齢決定に活躍している。

・放射性同位体を用いた年齢決定には4つの仮定が必要
ア)耳石の形成後は閉鎖系が維持されること
イ)親核種から生成される娘核種の濃度が、他のソースによる娘核種よりも十分に小さいこと
ウ)親・娘核種の取り込み速度が耳石の成長速度に比例すること
エ)耳石の成長速度が一定か、若しくは既知であること

核実験由来の同位体
・Kalish (1993)によって初めて耳石にて大気中核実験由来の14C(ボム・ピーク)が検出された。

・ボム・ピークもまた魚の年齢決定の推定に使えるものの、水塊中のΔ14Cの違いに留意する必要がある。例えば、河川水や表層水はΔ14Cが高く(若く)、地下水や深層水はΔ14Cが低い(古い)など。

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耳石のサンプリングの仕方と測定手法
・耳石全体を分析するものとして、
ア)AAS(Atomic Absorption Spectrometry; 原子吸光法)
イ)ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy; 誘導結合プラズマ発光分光分析装置)
ウ)ICPMS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry; 誘導結合プラズマ質量分析器)
などが挙げられる。
またICPMSの分派として、ID-ICPMS(Isotope Dilution-Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry;  同位体希釈-誘導結合プラズマ質量分析器)などもある。
※他にもTIMS(Thermal Ionization Mass Spectrometry; 表面電離型質量分析器)、MC-ICPMS(Multi-Collecter ICPMS; 多重検出器質量分析機)、SF-ICPMS(Sector Field-ICPMS; セクターフィールド質量分析器)など。

・耳石の一部を(通常は成長縞に沿って)局所分析するものとして、
ア)ED-EM(Energy-Dispersive  Electron Microprobes; エネルギー分散型電子マイクロプローブ)
イ)WD-EM(Wavelength-Dispersive  Electron Microprobes; 波長分散型電子マイクロプローブ)
ウ)PIXE(Particle Induced X-Ray Emission; 粒子励起X線分光)
エ)LA-ICPMS(Laser Ablation-Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry;  レーザーアブレーション-誘導結合プラズマ質量分析器)
などが挙げられる。
※他にもEPMA(Electron Probe Micro Analyzer; 電子線マイクロアナライザ)、SIMS(Secondary Ionized Mass Spectrometry;二次イオン質量分析器)など。

※分析法・機器類の詳細は西村屋、日東分析センター、東レリサーチセンターなどが詳しい。
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後半に続く。。

2013年6月25日火曜日

新着論文(G3, JGR, MEPS, CP)

◎G3
A core-top study of dissolution effect on B/Ca in Globigerinoides sacculifer from the tropical Atlantic: Potential bias for paleo-reconstruction of seawater carbonate chemistry
R. Coadic, F. Bassinot, E. Douville, E. Michel, D. Dissard, M. Greaves
東赤道大西洋のSierra Leone Riseから得られた堆積物コア中のG. saccliferの殻のB/CaとMg/Caが深度が増すごとに(溶解が進むごとに)値が低下することが分かった。2,640m深と4,950m深でB/Caは14 μmol/mol(pHに換算して0.11程度)、Mg/Caは0.7 mmol/mol変化した。従って、氷期-間氷期のpH復元(0.10-0.15の変化)において非常に大きな障壁になると思われる。

Oceanographic variability in the South Pacific Convergence Zone region over the last 210 years from multi-site coral Sr/Ca records
Henry C. Wu, Braddock K. Linsley, Emilie P. Dassié, and Peter B. deMenocal, Benedetto Schiraldi
トンガとフィジーで得られたハマサンゴSr/Caの測定結果について。1981-2004年までは観測SSTとの相関が良いが、時代をさかのぼるごとにSSTとの相関が悪化する。δ18Oは塩分指標になるが、降水量というよりは異なる水塊との混合によって説明される。過去100年間では最近の20年間はWPWPの拡大とSPCZによる表層水の低塩分化が確認された。さらに偏西風の強化に伴い、南太平洋亜熱帯循環が強化され南下したことで、SPCZが南東部へと拡大していると考えられる。

◎JGR-atm
Atmospheric CH4 in the first decade of the 21st century: Inverse modeling analysis using SCIAMACHY satellite retrievals and NOAA surface measurements
P. Bergamaschi, S. Houweling, A. Segers, M. Krol, C. Frankenberg, R. A. Scheepmaker, E. Dlugokencky, S. C. Wofsy, E. A. Kort, C. Sweeney, T. Schuck, C. Brenninkmeijer, H. Chen, V. Beck, and C. Gerbig
近年大気中のメタン濃度は急増しているが、その放出源についてはまだ議論が分かれている。2000年代以降の人工衛星観測と地上観測記録からメタン放出を逆算したところ、2003-2005年平均に比べて2007-2010年平均の排出量が16-20 TgCH4/yr増加していた。増加しているのは北半球の低・中緯度がメインで、北極圏からの排出に有為な増加傾向は見られなかった。人為起源のメタン排出増加に上乗せされる形で、自然の大きなメタン変動も観察された(湿地や森林火災を起源とするもの)。

The relationship between the ITCZ and the Southern Hemispheric eddy-driven jet
Paulo Ceppi, Yen-Ting Hwang, Xiaojuan Liu, Dargan M. W. Frierson, and Dennis L. Hartmann
北半球の温暖化(寒冷化)がITCZや南半球のジェット・偏西風に与える影響を評価。また古気候研究において提案されているメカニズムを議論。

◎MEPS
Effects of ocean acidification on the calcification of otoliths of larval Atlantic cod Gadus morhua
Maneja R. H., Frommel A. Y., Geffen A. J., Folkvord A., Piatkowski U., Chang M. Y. & Clemmesen C.
海洋酸性化がタイセイヨウダラ(Atlantic cod; Gadus morhua L.)の耳石形成に与える影響を2ヶ月の酸性化実験で評価。sagittaeとlapilliがpCO2が高いものほど大きくなった。耳石の形や対称性に対する影響は見られなかった。

◎Climate of the Past
Spatial gradients of temperature, accumulation and δ18O-ice in Greenland over a series of Dansgaard–Oeschger events
M. Guillevic, L. Bazin, A. Landais, P. Kindler, A. Orsi, V. Masson-Delmotte, T. Blunier, S. L. Buchardt, E. Capron, M. Leuenberger, P. Martinerie, F. Prié, and B. M. Vinther
グリーンランドから得られている4本のアイスコア(GRIP・GISP2・NGRIP・NEEM)のDO8・9・10に相当する時期の温度変化の違いについて。亜氷期-亜間氷期の温度変化は北西部よりも中央部で2℃ほど高いことが示された。δ18O-温度関係式の傾きもNEEMの掘削地点では大きく、おそらく降水量の季節性を反映していると思われる。

Abrupt shifts of the Sahara–Sahel boundary during Heinrich stadials
J. A. Collins, A. Govin, S. Mulitza, D. Heslop, M. Zabel, J. Hartmann, U. Röhl, and G. Wefer
アフリカ大陸北西岸の南北トランゼクトで得られた堆積物コアの主成分分析から、氷期のハインリッヒ・イベント時のサハラ砂漠のダストフラックスを復元。ハインリッヒ・イベント時にはサハラ-サヘル境界がより赤道側に南下し、最大で13ºNまで(現在は20ºN)到達していたと考えられる。同時期に北大西洋が寒冷化していることから(AMOCの弱化)、乾燥化と風の強化が原因と考えられる。

◎その他
Could some coral reefs become sponge reefs as our climate changes?
Bell J. J., Davy S. K., Jones T., Taylor M. W. & Webster N. S.
Global Change Biology (in press)
現在の温暖化と海洋酸性化がサンゴ礁を脅かしているが、過去にもサンゴは何度も絶滅を経験してきた。例えば三畳紀末の大量絶滅時には石灰化生物の多くが絶滅したが、その後カイメン類が栄えた。カイメンが支配する環境は安定的に長期間継続したことから、将来のサンゴ礁の姿としてカイメン礁というのも十分あり得るかもしれない。この仮説を検証するために、
(ⅰ)地質学時代のカイメン礁の存在
(ⅱ)サンゴからカイメンにシフトしていることが報告されている生態系
(ⅲ)スポンジ共同体(holobiont)の温度・pH変化に対する応答
を紹介し、議論する。将来の気候変化シナリオにおいてはカイメンが恩恵を被り、多くのサンゴ礁で優先種になる可能性がある。サンゴ礁全体としての機能に大きな変化が生じると思われる。

2013年5月14日火曜日

新着論文(JGR, Coral Reefs, MEPS)

JGR-O (Journal of Geophysical Research, Oceans)
Subantarctic mode water in the southeast Pacific: Effect of exchange across the Subantarctic Front
J. W. Holte, L. D. Talley, T. K. Chereskin, B. M. Sloyan
太平洋南東部のSAFにおけるSAMWの形成メカニズムについて。混合層の下部で形成されており、大気-海間の力はあまり受けてなさそう。渦や貫入によってSAFの北にもPFZの水がエクマン輸送によって混入している。

Assessment of Southern Ocean water mass circulation and characteristics in CMIP5 models: Historical bias and forcing response
J.-B. Sallée, E. Shuckburgh, N. Bruneau, A. J. S. Meijers, T. J. Bracegirdle, Z. Wang, T. Roy
CMIP5のモデルのバイアスを南大洋の水塊に焦点を当てて評価。特に暖かく・密度を小さく見積もる傾向がある。特にモード水・中層水の気体交換層(ventilated layers)に最大のバイアスが見られる。この層はCO2や温暖化による熱の吸収という点でも非常に重要な層である。観測よりもやや強く子午面循環が再現されている。

Enhanced gas fluxes in small sea ice leads and cracks: Effects on CO2 exchange and ocean acidification
N. S. Steiner, W. G. Lee, J. R. Christian
地球システムモデルでは、海氷に覆われた海域のCO2フラックスはゼロと見なされるが、実際には小さな割れ目などを通して大気と海のCO2交換が起きていることが観測されている。そのため荒い解像度のモデルでは、将来の海氷後退と、それに続く海洋酸性化の進行を過小評価してしまう可能性がある。カナダの地球システムモデル(CanESM2)を用いて海氷後退とCO2交換を評価。北極海の中心部ではフラックスの見積もり方で21%も年間のCO2吸収量が変化し、その結果、海洋酸性化によるアラゴナイト不飽和も10-20年早く起きると考えられる。逆にCO2が放出される南極周辺では、海氷の後退は海洋酸性化を和らげる働きをすると予想される。

Variations in the Pacific Decadal Oscillation since 1853 in a coral record from the northern South China Sea
Wenfeng Deng, Gangjian Wei, Luhua Xie, Ting Ke, Zhibing Wang, Ti Zeng, Ying Liu
南シナ海のサンゴ骨格中の地球化学分析(Sr/Ca・δ13C・δ18O)を用いて初めて1853年以降のPDO記録を得た。特にPDOは降水パターンの変化として現れているらしい。またδ13CにはSuess効果も見られた。

Coral Reefs
Light availability determines susceptibility of reef building corals to ocean acidification
D. J. Suggett • L. F. Dong • T. Lawson • E. Lawrenz • L. Torres • D. J. Smith
気候変化とともに温度や濁度が変化することで、光量も変化すると思われるが、それが海洋酸性化とともにサンゴ骨格の成長にどのような影響を与えるかについてはよく分かっていない。飼育実験からヤセミドリイシ(Acropora horrida)とユビエダハマサンゴ(Porites cylindrica)に対する影響を評価したところ、特に前者の場合、強い光の下では海洋酸性化による骨格成長阻害の影響が弱まることが分かった。これまでの研究を総括すると、ミドリイシ類への光の影響は大きいが、ハマサンゴ類にはそうでもないことが分かった。光が弱い海域は温度・光に弱いサンゴの避難場所になると考えられてきたが、我々の研究は光が弱いと海洋酸性化の影響が増幅される可能性があることを示している。

Calcification by juvenile corals under heterotrophy and elevated CO2
E. J. Drenkard • A. L. Cohen • D. C. McCorkle • S. J. de Putron • V. R. Starczak • A. E. Zicht
溶存無機栄養塩の濃度が増加することで、海洋酸性化によるサンゴ骨格の溶解が抑えられることを示す研究もある。ゴルフボールサンゴ(golf ball coral, Favia fragum)の幼生の飼育実験を通して栄養塩の有無が石灰化阻害に与える影響を評価したところ、餌を与えたサンゴの方が与えられていないサンゴよりもよく成長した。将来海洋酸性化の進行とともに骨格成長は阻害されるが、栄養が不足した海域と比較すると、栄養がある海域のほうが耐性は強いかもしれない。

Marine Ecology Progress Series (MEPS) 
Temperature affects the early life history stages of corals more than near future ocean acidification
Chia Miin Chua, William Leggat, Aurelie Moya, Andrew H. Baird
今世紀末には少なくとも海水温は2℃上昇(地球温暖化)、pHは0.2ほど低下する(海洋酸性化)と考えられている。これらは別々にはよく研究されているが、両方が同時に生物に与える影響はよく分かっていない。グレートバリアリーフのハイマツミドリイシ(Acropora millepora)とウスエダミドリイシ(Acropora tenuis)の幼生について「+2℃」と「+300μatm」の環境下で飼育実験を行い、サンゴの生存や変態に与える影響を評価。pCO2の上昇が受精・発達・生存・変態に与える影響は明確には見られなかったが、温度上昇は発達速度に大きく影響した。これらのサンゴの初期の生育段階においては海洋酸性化は大きな脅威にはならないが、温度がサンゴの種力学に影響する可能性が示唆される。

New Phytologist
Dissecting the impact of CO2 and pH on the mechanisms of photosynthesis and calcification in the coccolithophore Emiliania huxleyi
Lennart T. Bach, Luke C. M. Mackinder, Kai G. Schulz, Glen Wheeler, Declan C. Schroeder, Colin Brownlee and Ulf Riebesell
円石藻は海洋一次生産を担う重要な植物プランクトンであるが、それが海洋酸性化に伴う海水炭酸系の変化によって、生理学的にどのような影響を被るかについてはよく分かっていない。炭酸系を変えた実験から、Emiliania huxleyiは低いCO2濃度(光合成による有機物生成を阻害)、低い重炭酸イオン濃度(石灰化阻害)、低いpH(殻の溶解)に対して敏感であることが分かった。上昇したCO2というよりもむしろ低いCO2に適応してきた結果、必要な遺伝子を獲得してきたものと思われる。細胞レベルで炭素蓄積機能(carbon-concentrating mechanism; CCM)が作用していると思われる。