Main contents

☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年4月26日金曜日

過去2,000年間の地表気温と地球温暖化(PAGES 2k Network, 2013, Ngeo)

Continental-scale temperature variability during the past two millennia
過去2,000年間の大陸スケールの温度変動

PAGES 2k Network
Nature Geoscience, advanced online publication (2013)

PAGESとはPast Global Changesの略称で、古気候学の国際コミュニティーの一つです。

日本人も多く関わっており、横山祐典准教授も現在、科学策定委員(Science Steering Comittee; SSC)の一人です。

今回の論文はPAGESの中でも過去2,000年間に対象を絞ったワーキング・グループ(PAGES 2k)による成果で、特に太陽活動・火山噴火・人為起源温室効果ガスなどが気候にどのような影響を与えているかを比較的最近の地質学記録から評価しているコミュニティーになります。

近年の温暖化が本当に異常な現象であるかを判断するには、観測記録を超えたより長い時間スケールの記録が必要となります。

最近古気候記録をコンパイルし、温暖化を論じる論文が多数報告されています。
例えば、以下の重要な2例が挙げられます。

Global warming in an independent record of the last 130 years
過去130年間の独立した記録の中の地球温暖化
Anderson, D. M., E. M. Mauk, E. R. Wahl, C. Morrill, A. Wagner, D. R. Easterling, and T. Rutishauser
GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, doi:10.1029/2012GL054271 (2013)

Recent temperature extremes at high northern latitudes unprecedented in the past 600 years
過去600年間で例を見ない近年の北半球高緯度域の温度異常

Martin P. Tingley & Peter Huybers
Nature, 496, 201–205 (11 April 2013)


以下に各章の要点をまとめておきます。

新着論文(Science#6131)

Science
VOL 340, ISSUE 6131, PAGES 397-516 (26 APRIL 2013)

EDITORIAL
Young Researchers in Japan
日本の若手研究者
Naoki Nagata and Shinya Yamanaka

以下は引用文
...there is a need to establish a variety of career paths for graduate students and
other young researchers that enable them to feel secure enough to concentrate on their studies and training, whether they remain in Japan or benefit from being in an international arena.
日本に残ろうが国際的な舞台で研鑽しようが、研究や訓練に安心して集中できるように、大学院生や若手研究者に対する種々のキャリアパスを構築する必要がある。

One issue is Japan’s vast underutilization of female talent.
日本の1つ目の問題は、女性の才能を生かしきれていないことである。

The second major problem is a lack of independence for beginning researchers that hinders creativity.
2つ目の大きな問題は初心者の研究者が独立できないことであり、それが独創性を妨げている。(始めから終身雇用制度が必要)

Because a vast number of researchers are expected to retire over the next few years, Japan has a unique opportunity to restructure its academic environment.
今後数年間で大量の研究者が引退すると予測されるため、日本は学術環境を再構築する好機を得る。

The most important thing for building a solid foundation for the development of Japanese science is to support the success of all of our most talented researchers—whether upcoming or established, female or male, Japanese-born or not.
日本の科学を発展させるための強固な礎を築く上で最も重要なのは、新進気鋭の人/既に認められた人、男性/女性、日本人/外国人を問わず、才能ある科学者の成功をサポートすることである。

Editors' Choice
Lost N Found
失われた窒素が見つかった
Environ. Sci. Technol. 10.1021/es304842r (2013)
人為起源の反応性が大きい窒素の環境汚染が湖沼や海洋沿岸部における富栄養化などを招いている。微生物によってそうした窒素が脱窒あるいは嫌気的アンモニア酸化されて消費されるが、どちらの反応が卓越するかはよく分かっていない。室内実験から、有機物量よりもむしろ反応性の高い窒素の量が2つの寄与率に影響していることが示された。どうやら入ってくる反応性の高い窒素は速やかに微生物によって生態系から大気へと放出されているらしい。

News of the Week
Longmenshan Fault Ruptures Again
龍門山断層が再び滑る
中国・四川省において4/20にM6.6の地震が発生した。原因となったのは四川大地震の際にも滑った龍門山断層と考えられている。5年前は北部が、今回は南部が破壊されたようである。

Ocean Fertilization Experiment Still Making Waves
海を肥沃化させる実験がまだ波乱を呼んでいる
カナダのHaida Gwaii諸島西部にて行われた鉄散布実験の合法性を巡る議論が未だ燃え広がっている。

How Low Can They Go?
どこまで低くなれるのだろうか?
アメリカのHuron湖とMichigan湖の水位が1860年からの観測以来、最低となった。原因は1998年以降の異常な水温上昇と乾燥化と考えられている。漁業や大型船舶の運航への影響が出ている。

News & Analysis
Deep Dig Shows Maya Architecture Arose Independently of Olmec's
深い掘削からマヤ文明の建築技術はオルメカ文明のものとは独立に発展したことが示された
Heather Pringle
都市部の儀式用の空間の配置の仕方は、マヤ文明がそれをオルメカ文明から引き継いだのではなく、独立に洗練させたことを示している。

Dark-Matter Mystery Nears Its Moment of Truth
ダークマターの謎が真実が明らかになる瞬間に近づく
Adrian Cho
地下深くに存在する超高感度の粒子検出機を用いて研究を行っている物理学者が、ダークマター粒子と思しき3つの変動を捉えた。

News Focus
Public Enemy Number One
公共の敵ナンバーワン
Richard Stone
北朝鮮はアフリカのサハラ周辺諸国以上に結核の感染率が高く、多剤耐性という問題を抱えている。

When Early Hominins Got a Grip
初期のヒト族がものを握ったとき
Ann Gibbons
140万年前の手の骨には現生人類に似た特徴が見られるため、いつヒトが道具を作り始めたかを物語っている。

Following the Males' Trail, 1.5 Million Years Later
150万年後、男の足跡を追う
Michael Balter
150万年前、ケニアを歩いていた6人のヒトの足跡が発見された。おそらく男性の集団が狩りか見回りをしていたものと思われ、チンパンジーにも見られる組織行動の一例と思われる。

Ardi's a Hominin—But How Did She Move?
Ardiはヒトである—しかし彼女はどうやって移動したのだろう?
Ann Gibbons
最も古く、完全な形で骨格が残されている女性のArdiは、これまでヒト族の祖先と考えられていたが、ヒトであったという新たな認識が得られた。おそらく直立歩行をしており、歯や頭蓋骨もヒトのそれに類似している。

Letters
Japan's Lagging Gender Equality
日本の性の平等の遅れ
Miwako Kato Homma, Reiko Motohashi, and Hisako Ohtsubo

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Research
Perspectives
Animal Conformists
動物の順応
Frans B. M. de Waal
野外調査から、クジラもvervet monkeyも共に社会を通して食べ方を学んでいることが示された。

Irreversible Does Not Mean Unavoidable
不可逆性は不可避性を意味しない
H. Damon Matthews and Susan Solomon
 「全球気温の上昇はもはや避けられない」「これまでに出されたCO2が原因で起きている温暖化は1,000年は打ち消せない」といった誤解があるが、過去の変化が打ち消せないことは、将来のさらなる温暖化が避けられないということにはならない。
 炭素循環・気候の慣性(inertia)を考える必要がある。海によるCO2の吸収には時間がかかるため、現在CO2の排出を停止すれば、次第に大気中のCO2濃度は低下するはずである。例えば現在CO2の排出が急激にゼロになったとしても、気温は数世紀はおおよそ現在のレベルに維持されるだろうと思われるが、少なくとも上昇することは考えにくい。CO2の排出量が低下した場合、最悪のシナリオに比べて温暖化が抑えられることになり、温暖化がなくなるわけではない。つまりこれまでの排出を打ち消すことは難しいが、これからの排出とそれに伴うさらなる温暖化はコントールすることができる。
 将来の温暖化は全体を通して排出されたCO2の総量によるが、現在は先進国が途上国に比べて多くのCO2を放出している。しかしあと数十年でその関係は逆転すると考えられている。うまく低炭素社会が先進国・途上国で実現すれば破滅的な地球温暖化は防げるが、うまくいかないか、或いは対応が遅れた場合、地球はよりいっそう温暖化する。
 排出削減だけで産業革命以前のレベルまで気温を低下させることは不可能だが、将来の温暖化の程度は現在の排出によって決まるのであって、もはや人間が手の届かないところにあるというわけではない。
※コメント
色々と考えさせられる記事です。炭素循環の理解一つとっても人間の理解は十分でないことをきちんと理解していなければならないと思います。現行の気候モデルに組み込まれていない・組み込むことのできない素過程は多く存在します。

Melting Earth's Core
融けている地球の核
Yingwei Fei
超高温・高圧で鉄を融かす実験によって、地球の核の温度をより正しく理解することができる。

Research Articles
A Massive Pulsar in a Compact Relativistic Binary
John Antoniadis

Reports
Observations of Ejecta Clouds Produced by Impacts onto Saturn’s Rings
土星の輪への衝突によって放出されるイジェクタ雲の観測
Matthew S. Tiscareno et al.
カッシーニによる観測から土星の輪への隕石衝突の証拠が得られた。

Melting of Iron at Earth’s Inner Core Boundary Based on Fast X-ray Diffraction
早いX線回折に基づいた地球の内核境界における鉄の溶融
S. Anzellini, A. Dewaele, M. Mezouar, P. Loubeyre, and G. Morard
高温高圧実験から、地球の核の鉄の溶融が模擬実験された。

Early Ceremonial Constructions at Ceibal, Guatemala, and the Origins of Lowland Maya Civilization
グアテマラ・Ceibalにおける初期の儀式用の建造物と低地マヤ文明の起源
Takeshi Inomata, Daniela Triadan, Kazuo Aoyama, Victor Castillo, and Hitoshi Yonenobu
マヤ文明の古代都市であるグアテマラのCeibalにおける発掘から、広場やピラミッドの初期の証拠が得られた。

Potent Social Learning and Conformity Shape a Wild Primate’s Foraging Decisions
潜在的な社会学習と順応が野生の霊長類の餌の決定に影響する
Erica van de Waal, Christèle Borgeaud, and Andrew Whiten
野外実験から、他から移動してきたvervet monkeyは餌探しにおいてはその地域のルールに従うことが示された。

Network-Based Diffusion Analysis Reveals Cultural Transmission of Lobtail Feeding in Humpback Whales
ネットワークに基づいた伝播分析がザトウクジラのLobtail餌取りの文化的な伝播を明らかに
Jenny Allen, Mason Weinrich, Will Hoppitt, and Luke Rendell
クジラは周囲の仲間から尾びれを使って獲物を捕る方法を学んでいるらしい。

Population Growth in a Wild Bird Is Buffered Against Phenological Mismatch
生物季節学的な不均衡に対して野生の鳥の個体数の増加が緩和される
Thomas E. Reed, Vidar Grøtan, Stephanie Jenouvrier, Bernt-Erik Sæther, and Marcel E. Visser
広範囲の環境の変化は野生動物の自然淘汰のパターンに影響する。40年間の観測記録から、気候変化による生物季節学的な変化が野生の鳥の個体数を減少させるかどうかを調べた。春がより暖かいと、交尾時期と食料が最も得られる時期とが食い違い、卵を産む時期が早まることが示された。しかし不均衡が個体数に与える影響は見られず、他の生物との競合が和らいだことが原因と考えられる。

新着論文(Ngeo, Ncc, SR)

Nature Climate Change
ADVANCE ONLINE PUBLICATION
Pace of shifts in climate regions increases with global temperature
気候区分のシフトの速度が全球の温度とともに上昇する

Irina Mahlstein, John S. Daniel and Susan Solomon
気候変化の結果、ケッペンの気候区分が今世紀末には変化すると予測されている。しかしそうした変化の速度や、変化の速度が加速するかどうかについてはよく分かっていない。RCP8.5シナリオの下では速度は2倍にも増加し、陸地面積の20%が気候区分の変化を経験すると予想される。これは生物が変化に適応する時間が徐々に失われることを意味し、絶滅のリスクが高まると思われる。

Nature Geosciences
ADVANCE ONLINE PUBLICATION
Continental-scale temperature variability during the past two millennia
過去2,000年間の大陸スケールの温度変動
PAGES 2k Network
過去2,000年間の各大陸において得られた古気候記録をコンパイルし、それぞれの過去の気温を復元した。全体的に顕著なのは長期的な寒冷化の傾向で、それは19世紀末に終わった。数十年〜数百年という時間スケールで各大陸ごとに様々な変動が見られ、各半球では比較的一致した。数十年スケールで全球的に同期して変動する気候変動(小氷期や中世気候変調期など)は確認されなかったが、AD1580-1880は概して寒冷であったようである。AD1971-2000の近年の温暖化は長期的な寒冷化を打ち消すように寄与しており、平均気温は過去1,400年間で最も高くなっている。
※コメント
過去2,000年間ではなく、過去1,400年というのは古い記録が少ないからでしょうか。

Robust direct effect of carbon dioxide on tropical circulation and regional precipitation
熱帯循環と地域的な降水に対する二酸化炭素の厳密な直接効果
Sandrine Bony, Gilles Bellon, Daniel Klocke, Steven Sherwood, Solange Fermepin and Sébastien Denvil
全球気温の増加は大気中の水蒸気量を増加させ、水循環にも影響すると考えられている。しかし地域的な降水の変化については大気循環に依存し、それは温暖化した世界では弱まると考えられている。複数の気候モデル(CMIP5)を用いて温暖化によって熱帯域の大気循環や降水がどのように変化するかを評価したところ、今世紀末に大きく変化することが予想されたが、それは全球の気温の上昇とは関係のない現象であることが示された。むしろ熱帯域の大気上層における放射強制が大気の鉛直運動に影響することが最も大きな原因であると考えられる。従って、例えば地球工学で大気中のCO2濃度をそのままに地球を寒冷化させようとしても、熱帯域の降水はやはり変化すると予想される。

Scientific Reports
2013年4月24日号
Preliminary evidence for a 1000-year-old tsunami in the South China Sea
1000年前に南シナ海で起きた津波の予察的な証拠
Liguang Sun, Xin Zhou, Wen Huang, Xiaodong Liu, Hong Yan, Zhouqing Xie, Zijun Wu, Sanping Zhao, Da Shao & Wenqing Yang
湖の堆積物の砂岩層や地球化学分析から、南シナ海の西沙諸島においてAD1024年に巨大な津波が起きていたことが分かった。文献にはAD1076年に大きな災害があったという記録が残っている。巨大なサンゴや貝などが海岸から200m内陸に運搬されている証拠も見つかった。この地域の津波の危険性は過小評価されているかもしれない。

Correlating the Ancient Maya and Modern European Calendars with High-Precision AMS 14C Dating
古代マヤ文明のカレンダーと現在のヨーロッパの暦年代とを高精度の加速器14C年代測定で一致させる
Douglas J. Kennett, Irka Hajdas, Brendan J. Culleton, Soumaya Belmecheri, Simon Martin, Hector Neff, Jaime Awe, Heather V. Graham, Katherine H. Freeman, Lee Newsom, David L. Lentz, Flavio S. Anselmetti, Mark Robinson, Norbert Marwan, John Southon, David A. Hodell & Gerald H. Haug
マヤ文明崩壊の原因は未だによく分かっていない。木製のまぐさの高精度の14C年代測定を用いてマヤのカレンダーと暦年代とを較正した。文明の崩壊には気候変動が重要な役割を負っていたかも?

2013年4月25日木曜日

新着論文(Nature#7446)

Nature
Volume 496 Number 7446 pp397-542 (25 April 2013)

RESEARCH HIGHLIGHTS
Dogs and owners share microbes
犬と飼い主は細菌を共有する
eLIFE 2, e00458 (2013)
60世帯で人の口内、皮膚、腸内にいる細菌を調査したところ、特に皮膚上の細菌群集は配偶者と子供と共有していることが分かった。さらに、犬を飼っている場合、ペットにもその傾向が見られた。ただし、犬の場合口内と腸内は異なったという。犬を買っている家で子供のアレルギーが少ないことの説明になるかもしれないという。

Babies of stressed squirrels grow faster
ストレスを受けたリスの子供ほど早く育つ
Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1235765 (2013)
22年間にわたる研究から、アカリス(red squirrel; Tamiasciurus hudsonicus)は個体数密度が大きい場合、子供の成長がより早まり、冬を生き残る確率が上がっていることが実験から示された。社会ストレスによるホルモンバランスの乱れが原因と考えられている。

‘Hobbit’ brains not so small
'小人族'の脳はそんなに小さくなかった
Proc. R. Soc. B 280, 20130338 (2013)
東京大学の研究グループは、Homo erectusから分岐したと考えられているHomo floresiensisの頭蓋骨から脳のサイズを見積もったところ、従来考えられてきたよりも小さくないことを示した(現生人類の3分の1ほど)。

Seeds travel on unpaved roads
舗装されていない道路における種の旅
J. Appl. Ecol. http://dx.doi. org/10.1111/1365-2664.12080 (2013)
スペインのDoñana国立公園における、動物(ウサギ、肉食動物、有蹄類など)の糞のパターンと植物の種の散らばりの調査から、ウサギや肉食動物は人の作った道で、逆に有蹄類は周囲の薮で糞をする傾向が見られた。前者の方が生きた種が多かったという。つまり、人による道路の舗装が植物の種の散布にも影響を与えていることを示している。それは植物の保全にも寄与する一方、外来種の侵入をも招く可能性がある。

Evolution in acidic oceans
酸性化した海における進化
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1220673110 (2013)
ムラサキウニ(purple sea urchins; Strongylocentrotus purpuratus)の海洋酸性化実験において、骨格成長自体にはそれほど顕著な変化が見られないが、殻形成や代謝・pH調整に関連した遺伝子に大きな変化が起きていることが示された。たった1世代でも、遺伝的多様性の選択が悪化した環境における生き残りを助けるように働いていることを意味している。
>問題の論文
Evolutionary change during experimental ocean acidification
実験的な海洋酸性化の際の進化的な変化
Melissa H. Pespeni, Eric Sanford, Brian Gaylord, Tessa M. Hill, Jessica D. Hosfelt, Hannah K. Jaris, Michèle LaVigne, Elizabeth A. Lenz, Ann D. Russell, Megan K. Young, and Stephen R. Palumbi
海洋酸性化は生物種ごとに様々な影響を与える。ムラサキウニの幼生を用いた酸性化実験から、ウニの幼生の発達や形態には際立った変化は見られないことが示された。逆に遺伝子に際立った変化が見られ、それは生物硬化作用、脂質代謝、イオン・ホメオスタシス(一定状態に維持する作用)に関連する遺伝子であった。外形に変化が見られないような生物は内部でこうした変化が起きているかもしれず、これまでの研究で見落とされている可能性がある。急速な環境の変化にも潜在的な遺伝的多様性によって進化することで適応できる生物がいることを示している。

Dusty galaxies come into view
埃っぽい銀河がようやく見えた
Astrophys. J. 768, 91 (2013)
より遠くの星ほど古いため、初期宇宙を知るにはより遠くを見る必要があるが、一般に遠くにいくほど電磁波が霞むため、なかなかその姿を捉えることは難しい。チリの宇宙望遠鏡Atacama Large Millimeter/submillimeter Array (ALMA)によって、星ができつつある銀河の姿が初めて信頼できる精度で捉えられた。

SEVEN DAYS
$674 bn
6,740億ドル
去年新たな化石燃料の探査および採掘に使用された金額。

Energy spending
エネルギー使用
国際エネルギー機関(IEA)の報告書によると、気候を安定化させるのに必要な再生可能エネルギーへの投資額は不足している。2012年には太陽光発電と風力発電への世界の投資額は前年比でそれぞれ42%、19%増加したものの、石炭発電所による発電量増加がそれを打ち消しているらしい。

CARBON-MARKET COLLAPSE
炭素市場の崩壊
景気後退を受けて、ヨーロッパにおける二酸化炭素の排出価格が2020年まで低く維持されそうである(1トンあたり2.7ユーロ;3.5米ドル)。これは低炭素エネルギーへの市場の投資が不活性化することを意味する。
>より詳細な記事
Europe’s politicians leave carbon market in coma
ヨーロッパの政治家が炭素市場を昏睡状態に
Richard Van Noorden
景気後退を受けて、ヨーロッパ議会は炭素排出取引価格を2020年まで低く維持するとコンサルタント会社Thomson Reuters Point Carbonは分析している。このような低価格が維持された場合、低炭素エネルギーの開発への投資は見込めないという。価格が高ければ企業が炭素排出を低く抑える方向へと向かうことが期待されるが、低ければそうしたインセンティブは生まれない。

NEWS IN FOCUS
Experiment aims to steep rainforest in carbon dioxide
熱帯雨林を二酸化炭素で満たすことを目的とした実験
Jeff Tollefson
アマゾンの熱帯雨林にセンサーを多数設置することで、二酸化炭素による森林の肥沃化の効果を見積もることができる。

Moon and planet names spark battle
月と惑星の名前をめぐる闘いが激化
Alexandra Witze
系外惑星の名称をめぐって、企業が国際宇宙連合(International Astronomical Union)と争いを繰り広げている。

Japanese test coaxes fire from ice
日本の試験によって氷から火がもたらされる
David Cyranoski
日本近海の海底下からハイドレートを採掘する世界初の試みが成功し、資源採掘の可能性が約束された。

Ancient crust rises from the deep
古代の地殻が深部から沸き上がる
Sid Perkins
地表岩石の残存物が長い時間をかけて地球の内部から出てきた。

COMMENT
Hurricane Sandy: After the deluge
ハリケーンSandy: 大洪水の後
ハリケーンSandyによってもたらされた破壊の後、Gordon Fishellがいかにしてネズミ研究プログラムを再建したかを述懐する。

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RESEARCH
LETTERS
Anomalous sulphur isotopes in plume lavas reveal deep mantle storage of Archaean crust
上昇する溶岩の異常な硫黄同位体がマントル深部に始生代の近くが保存されていることを示している
Rita A. Cabral, Matthew G. Jackson, Estelle F. Rose-Koga, Kenneth T. Koga, Martin J. Whitehouse, Michael A. Antonelli, James Farquhar, James M. D. Day & Erik H. Hauri
Cook諸島における玄武岩の硫黄同位体の非質量依存同位体分別(MIF)は、始生代(24億5千万年前以前)に沈み込んだ海洋地殻とリソスフェアが、ホットスポット火山の下にまだ残っていることを示唆している。「海洋地殻がリサイクルされる時間」や「マントル対流の時間スケール」を推定するのにも新たな知見が得られる可能性がある。

The global distribution and burden of dengue
デング熱の全球分布と負担
Samir Bhatt et al.
デング熱の全球・地域的分布と各国に与える負担が推定された。年間3億9千万人が感染しており、WHOの推定値の3倍の数値となっている。

2013年4月24日水曜日

「南極海 極限の海から(永延幹男、2003年)」

南極海 極限の海から
永延幹男
集英社新書(2003年、680円)

基本的には南大洋の気候とそれに適応して棲み分けを行っているオキアミ、さらにはオキアミに支えられる生態系をめぐる話が中心となっている。

さらには近年のオゾン層破壊・温暖化が南大洋に与えている影響にも触れ、小さいながらも警鐘を鳴らす。

自分自身、気候という視点でしか南大洋を勉強してこなかったため、プランクトンの分布という新たな視点で海を捉えることもできるという、目からウロコ的な感覚を覚えた。

氷期-間氷期スケール、さらにはそれよりももっと長いスケールでも地球システムにとって重要な役割を負っていた南大洋。興味は尽きない。

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南極海は、自然としての環境も極限ならば、環境の異変も切迫した状態です。(pp. 12)

船乗りの言い習わしでは、南半球の暴風圏の荒々しさを、緯度にあわせてこう表現します。「吼える40度、狂暴の50度、号泣の60度」(pp. 18)
※昔から、南大洋の海の荒さは有名です。

仮に、南極大陸の氷床がすべて融けて、海に流れ込んだとしたら、現在の地球の海面水位は、70〜90m上昇するといわれています。そうなれば、地球各地のヒトの生活地帯の多くはもちろん、大都市のほとんどが水没することになりますが、たとえ地球温暖化が進んだとしても、21世紀中に融け出すことはないだろうと考えられています。(pp. 37)

温暖化が進むと、海面の冷却が弱まり、水温が低下せず、水が重たくなりません。すると、南極底層水としての沈み込みが少なくなります。南極底層水の減少は、地球規模の深層大循環に異変をきたします。さらに温暖化は、冷却による海水と大気との混合を減少させて、大気中からの二酸化炭素の取り込み量を減らします。これは、地球環境にとっていっそうのマイナス材料となります。(pp. 50)
※これら2つの現象は最近でも頻繁に報告されています。南大洋の深層水循環・炭素循環は、実は熱帯域をはじめとする世界中の海に影響を与えていることが知られています。

オキアミは、南極自然生態系の食物連鎖の要としてばかりでなく、ヒトの食糧資源としても大きな期待があります。地球最大級の動物性タンパク資源として、人口爆発による食糧危機を救う、生物資源であるという熱い期待です。ヒトの利用による枯渇の心配がないほどに、莫大な資源量があると考えられているからです。(pp. 67)
※しかし海洋酸性化をはじめとする気候変化で食物連鎖に今後どのような影響が出るんでしょうね?オキアミを原料にした魚肉ソーセージもあるとか。ちなみに食糧不足を見越して、人口肉の生産も盛んに研究がなされているそうです。

今のところオキアミ利用は、ヒトの食糧危機を救済するといった、高邁な理念とはほど遠い状態です。しかし近い将来の地球人口の大増加にそなえて、オキアミに対する世界の潜在的な期待は、いっそう深まっているようにみえます。世界的に需要が高まれば、供給のために漁獲が一気に増大する可能性があります。(pp. 70)

ただし、一部では森林増加、農作物生産の増加、降水量増大による水不足解消、冬季温暖化などの好影響も考えられる。(pp. 119)
※地球温暖化は必ずしも悪いことばかりではありません。海洋酸性化も同じことです。どちらが好ましいかを決めるのは、結局はヒトであって生態系はそれに従って変化し続けるだけです。

南極海の水温上昇は、海氷を融かし、オキアミなどの南極生態系に影響することはもちろんのこと、ギルも論文の中でも述べていますが、その影響は地球規模におよぶ可能性があります。(pp. 128)
※ただし、最近では南極からの融水の増加に伴う海氷範囲の’拡大’が報告されるなど、事態はより複雑化しています。海氷に支えられる南大洋の生態系にはどのような影響が出るんでしょうか?

南極半島域の棚氷変動を追跡している、南極調査所の氷河学のD・ボーンは、「温暖化が進むにつれて、南極半島の棚氷が近い将来に壊滅することは、1998年に予測していたが、これほど速いスピードで崩壊が進むとは唖然とさせられる。わずか1ヶ月半たらずで、5000億トンもの棚氷が崩壊したとは、とても信じ難いことだ」とコメントしています。(pp. 132)
※もちろん我々がいま見ているのはたかが数十年間の姿でしかありません。特に高緯度域は観測期間も短く、ダイナミックな現象が起きているので、いま起きていることが本当に異常現象なのかは常に批判的に見る必要があります。少なくとも、グリーンランドも、北極の海氷も、我々の期待よりもはるかに早く気候変化(変動?)を経験しているようです。

「疑わしき程度では罰せず」という、長い間の危うい道草でした。もし、モントリオール議定書がなければ、オゾン層破壊物質の量は、2050年までに現在の5倍となっていただろうと言われています。(pp. 135)
※実は成層圏のオゾンの量も南大洋の気候に影響を与えています。オゾン破壊の原因となったCFCs(いわゆるフロンガス)は自然には存在しない人口物質だったため、悪い物質なのだという認識が広がりやすく、迅速な排出規制ができました。しかしCO2の場合、自然にもとからある物質でもあるので(当然エネルギー問題とのからみもあり)、なかなか温暖化の原因物質であるという認識が浸透しなかったのではないでしょうか。あくまで個人的な考えですが。

人為的な水槽実験と、自然界の野外フィールドとでは、環境が異なります。野外の環境の複雑さを考慮する必要があります。(pp. 149)
※海洋酸性化実験にも同じことが言えます。

統計学的に有意な相関関係が見いだせたとしても、原因と結果を示す因果関係を説明したことにはなりません。(pp. 154)
※地球システムには往々にして原因不明の相関関係が見いだされます。

オゾン層を破壊したのがヒトならば、それを刻々とモニターできるのもヒトです。(pp. 162)

2013年4月22日月曜日

新着論文(Geology, PNAS, Ncom)

Geology
1 May 2013; Vol. 41, No. 5
Articles
Evidence for atmospheric carbon injection during the end-Permian extinction
Elke Schneebeli-Hermann, Wolfram M. Kürschner, Peter A. Hochuli, David Ware, Helmut Weissert, Stefano M. Bernasconi, Ghazala Roohi, Khalil ur-Rehman, Nicolas Goudemand, and Hugo Bucher
P/T境界においては陸上・海洋生物の大部分が大きな変革を経験し、炭素循環に大きな擾乱があったことがδ13Cの大きな負のエクスカージョンにも現れている。パキスタンの地層から得られた陸上植物や木の破片などのδ13Cを測定したところ、大気中のCO2のδ13Cが約5.5‰変化していた可能性が示唆される。

Cenozoic boron isotope variations in benthic foraminifers
Markus Raitzsch and Bärbel Hönisch
底性有孔虫のδ11B分析から、新生代を通しての海水のδ11B変動を復元。従来のモデルによる結果とは整合的だが、蒸発岩から復元されたものとは大きく食い違った。

Marine radiocarbon reservoir age variation in Donax obesulus shells from northern Peru: Late Holocene evidence for extended El Niño
Miguel F. Etayo-Cadavid, C. Fred T. Andrus, Kevin B. Jones, Gregory W.L. Hodgins, Daniel H. Sandweiss, Santiago Uceda-Castillo, and Jeffrey Quilter
ペルーの二枚貝(surf clam)の殻のΔ14C測定から、完新世後期のENSOの強度を復元。文明の盛衰とも関連?

Climate change increases frequency of shallow spring landslides in the French Alps
Jérôme Lopez Saez, Christophe Corona, Markus Stoffel, and Frédéric Berger
フランス南東部に位置するアルプスの麓のRiou Bourdoux集水域において木の年輪を用いて過去の冬の降雪量や温度異常を復元。1990年代始め以降、地滑りの頻度が増加しており、春の気温の変化にともなう雪解け性の地滑りが増加していることが原因と考えられる。今後さらに増加する?

Proceedings of the National Academy of Sciences 
9 April 2013; Vol. 110, No. 15
特になし

16 April 2013; Vol. 110, No. 16
Environmental Sciences
Signs of critical transition in the Everglades wetlands in response to climate and anthropogenic changes
Romano Foti, Manuel del Jesus, Andrea Rinaldo, and Ignacio Rodriguez-Iturbe
気候変化によって影響を受ける生態系の中でも、湿地は特に脆弱だと考えられている。フロリダのEverglades国立公園において植生への影響を評価したところ、水循環の変化が種の相対的な割合に影響していることが分かった。

Sustainability Science
Record-setting algal bloom in Lake Erie caused by agricultural and meteorological trends consistent with expected future conditions
Anna M. Michalak et al.
2011年、五大湖の一つであるErie湖において観測史上最大の有毒な藻類の大発生が起きた。農業活動に由来する周囲からのリンの流入が最も寄与していると考えられる。さらにブルーミングの後に湖の流れが淀み、表層温度が高く保たれていたことも大増殖に寄与していたと考えられる。栄養塩流入量の管理・気候変化緩和なくしては将来もさらに大発生の頻度は増すと考えられる。

Nature Communications
09 April 2013
Early Cretaceous chalks from the North Sea giving evidence for global change
Jörg Mutterlose and Cinzia Bottini
ジュラ紀と白亜紀において海洋一次生産を担っていたnannoconidsは石灰質ナノプランクトンの重要種である。North SeaのOAE-1aに相当する堆積物記録の地球化学分析およびナノ化石記録から、nannoconidが減少するタイミングと、Ontong Java海台の形成のタイミングとが一致していることが示された。温室世界における河川流入量の増大と関係あり?

Ancient DNA reveals that bowhead whale lineages survived Late Pleistocene climate change and habitat shifts
Andrew D. Foote et al.
氷期-間氷期サイクルで多くの陸上生物が絶滅したが、海洋生物についてはよく分かっていない。ホッキョククジラ(bowhead whale; Balaena mysticetus)は自らに適した生息域を更新世から完新世への変遷期(~11.7ka)に北の海域へと大きく変化させることで適応していたらしい。しかし将来の気候変化は生息域をほぼ半減させるため、個体数には影響が生じるかもしれない。

Ocean lead at the termination of the Younger Dryas cold spell
Christof Pearce, Marit-Solveig Seidenkrantz, Antoon Kuijpers, Guillaume Massé, Njáll F. Reynisson and Søren M. Kristiansen
北大西洋のNew Fandland沖で採取された高時間解像度の堆積物から、海氷の指標となるIP25バイオマーカー、暖水の指標とアンル珪藻、IRDなどを復元。YDの終わりを告げる温暖化が、グリーンランドなどの気温の変化よりも早く海で起きていたことが示された。つまりAMOCの弱化から復活したのちにシグナルが大気へと伝播したことになる。
※コメント
この論文では14Cの年代決定を頼りにしているんですが、貝や底性有孔虫を用いているところに疑問を感じます。特に海洋リザーバー年代が大西洋では中層・低層水を中心に劇的に変化したことが多く報告されているので、年代モデルが本当に正しいのか、心配です。

16 April 2013
Initialized near-term regional climate change prediction
F. J. Doblas-Reyes, I. Andreu-Burillo, Y. Chikamoto, J. García-Serrano, V. Guemas, M. Kimoto, T. Mochizuki, L. R. L. Rodrigues and G. J. van Oldenborgh
気候モデルによる予測は検証不可能なように見えるが、ここ10年間程度であれば観測もあるので可能である。特に短期間の気候予測は政策決定にも大きな影響を与えるため重要である。CMIP5の気候予測結果は過去50年間では非常によく地球の地表温度を再現できており、信頼に足るものである。

A troodontid dinosaur from the latest Cretaceous of India
A. Goswami, G. V. R. Prasad, O. Verma, J. J. Flynn and R. B. J. Benson

2013年4月21日日曜日

新着論文(BG, CP)

Global ocean storage of anthropogenic carbon
S. Khatiwala, T. Tanhua, S. Mikaloff Fletcher, M. Gerber, S. C. Doney, H. D. Graven, N. Gruber, G. A. McKinley, A. Murata, A. F. Ríos, and C. L. Sabine
Biogeosciences, 10, 2169-2191, 2013
人為起源の二酸化炭素がどのように・どれだけの量、海水に溶けたかを見積もることは重要である。観測・モデルの双方のアプローチによる推定をレビュー。手法ごとに大きく異なること、長期的な観測が依然として必要であること、を強調。最も良い推定値は今のところ2010年までで「155 ± 31 PgC」である。

The non-steady state oceanic CO2 signal: its importance, magnitude and a novel way to detect it
B. I. McNeil and R. J. Matear
Biogeosciences, 10, 2219-2228, 2013
近年の観測から、海が吸収できるCO2の量は減少していることが示されている。現在海が吸収できるCO2を推定する場合、海洋循環や生物活動が安定状態にあることを暗に仮定しているが、それが食い違いの原因と思われる。新たな手法で’安定状態でない’CO2の量を見積もったところ、産業革命以降、全体の9%が海から大気への放出に相当するが、近年(1989-2007年)は18%に増加していることが示された。今後さらなる観測と手法開発が必要。
McNeil & Matear (2013)を改変。
安定状態での海によるCO2吸収の推定値(黒)と実際の観測(赤)

Impact of global change on coastal oxygen dynamics and risk of hypoxia
L. Meire, K. E. R. Soetaert, and F. J. R. Meysman
Biogeosciences, 10, 2633-2653, 2013
気候変化や人間活動による栄養塩供給の変化の結果、沿岸部の酸素濃度が著しく低下すると考えられているが、次の数十年にそれぞれがどれほど寄与するかはよく分かっていない。北海のカキの産地(Oyster Grounds)でモデルシミュレーションを行ったところ、2100年には夏の終わりの底層水の酸素濃度が24μMまで低下することが示された。その大部分は海の成層化に起因し、続いて温度上昇による酸素の溶存量の低下である。栄養塩の供給量も大きく影響し、流入量を抑えることで貧酸素のリスクを軽減できる。

Climatic impacts of fresh water hosing under Last Glacial Maximum conditions: a multi-model study
M. Kageyama, U. Merkel, B. Otto-Bliesner, M. Prange, A. Abe-Ouchi, G. Lohmann, R. Ohgaito, D. M. Roche, J. Singarayer, D. Swingedouw, and X Zhang
Climate of the Past, 9, 935-953, 2013
将来のグリーンランド氷床融解のAMOCへの影響および過去の千年スケールの気候変動におけるAMOCの重要性を評価するために、北大西洋への’水撒き実験’が頻繁に行われている。6つの異なるモデルによる北大西洋の中〜高緯度域へのLGMの背景場の水撒き実験の結果を評価したところ、共通してみられた特徴として、「北大西洋の寒冷化」「亜熱帯循環の拡大」「ITCZの南下」が確認された。しかし、バイポーラー・シーソーについてはモデル感で結果が大きく食い違った。また北大西洋の変動がインド・アジアやアフリカへとテレコネクションする過程はモデル間で異なった。

Model sensitivity to North Atlantic freshwater forcing at 8.2 ka
C. Morrill, A. N. LeGrande, H. Renssen, P. Bakker, and B. L. Otto-Bliesner
Climate of the Past, 9, 955-968, 2013
モデルシミュレーションで8.2kaイベントを再現。Hudson BayまたはLabrador Seaに年間2.5Svで水撒きを行ったところ、AMOCへの擾乱と全球への気候変動のシグナルの伝播が確認された。しかし温度変化は間接指標の半分程度しか再現されなかった。さらに継続期間も数十年と、間接指標から示されている150年と比べて非常に短かった。食い違いの原因は「完新世初期の気候場の再現」と「水撒きの仕方」にあるかもしれない。

2013年4月19日金曜日

新着論文(Science#6130)

Science
VOL 340, ISSUE 6130, PAGES 237-396 (19 APRIL 2013)

Editors' Choice
Poor Replacements
不適切な置き換え
Conserv. Biol. 10.1111/cobi.12038 (2013).
草食動物の損失は生態系全体に大きな波及効果をもたらすため、似た草食生物を補うことで本来の働きを取り戻させるという方法が存在する(ecological equivalency)。しかし、生態系においては予想外のことがよく起きるため、その実行には注意が必要である。ガラパゴス島のPinta島において、絶滅したゾウガメの代わりに別の2種のゾウガメを運んで生態系への影響をモニタリングしたところ、驚くことに2種は棲み分けを行い、そのうちの1種は絶滅した種(トゲのあるサボテンを食べ、種をばらまくのに一役買っていた)にうまく置き換われることが示された。

Simulating Titan’s Atmosphere
タイタンの大気をシミュレーションする
Nat. Comm. 4, 1648 (2013).
土星の衛星の一つ、タイタンは窒素とメタンの厚い大気を持ち、大気上層における光化学反応によって生成される重合体(tholin)がタイタン特有の黄色の色を発するもととなっている。タイタンに存在するdicyanoacetylene (C4N2)を実験室内で合成し、光の吸収をシミュレーションしたところ、波長355nm付近で光化学反応によってtholinが合成されることが示された。

News of the Week
Long-Lost Mars Lander Found?
長い間迷子になっていた火星の着陸船が見つかった?
1971年に旧ソ連の無人探査機Mars 2が火星に衝突した。その後継機であるMars 3は無事着陸できたものの、その15秒後に急に通信が途絶えた。今年4/11にNASAの Mars Reconnaissance OrbiterがMars 3の部品の一部と思しきものを発見した(パラシュートや熱シールドなど)。

More Hints of Dark Matter?
ダークマターにより大きなヒント?
ミネソタ州北部の713深に存在するSuper Cryogenic Dark Mat- ter Search (SuperCDMS)の実験施設において、ダークマター粒子が原子核と衝突したかもしれない3回のイベントが検出された。しかし全く確証は得られておらず、大発見とは言えない段階だと言う。ライバルであるXENON Dark Matter Projectもまた曖昧ながら類似したシグナルを検出しており、もしかしたら1〜2年内に大発見が生まれるかもしれないという。

News & Analysis
Archaeologists Say the ‘Anthropocene’ Is Here—But It Began Long Ago
考古学者は’人類の時代’は今だと言うが、それはかなり前から始まったものだ
Michael Balter
地質学者をはじめとする科学者は声高に人類による環境への影響で特徴付けられる昨今を新たな地質時代(’人類の時代’)として定義しようとしている。ホノルルで行われたアメリカ考古学学会(Society for American Archaeology)のミーティングで、地質時代の人類と人間活動を研究する考古学の分野も、議論において発言権を発揮すべきだという意見が出た。

Kepler Snags Super-Earth-Size Planet Squarely in a Habitable Zone
ケプラーが生命存在可能帯に存在する超地球サイズの惑星をはっきりと捉えた
Richard A. Kerr
ケプラー宇宙望遠鏡を使って系外惑星を探っている研究チームが、ついに地球の1.41倍のサイズの岩石型惑星を発見した。そこには栄養があり、暖かい大気があり、湖があり、小川があるかもしれない。しかしまだ想像の段階に過ぎず、そうでない可能性もある。系外惑星探査ではサイズや惑星の年齢は推定できるが、大気組成まではまだ分からないからである。ハビタブルゾーンの中にあったとしても、地球と同じような大気組成で、さらに二酸化炭素による温室効果が適度に機能している必要がある。Kepler-62fは「系外惑星探査の聖杯(Holy Grail of exoplanetology)」になるかもしれないと期待が高まっている。

Survey of Peers in Fieldwork Highlights an Unspoken Risk
John Bohannon
野外調査をする女性に対するセクハラのリスクが極めて大きいという結果が。

News Focus
Chasing Ants—and Robots—to Understand How Societies Evolve
どのように社会が進化するのかを理解するために蟻とロボットを追いかける
Elizabeth Pennisi
Laurent Kellerの進化に対する熱意は蟻からさらには遺伝子、ロボット、たのアプローチへと広がる。

The Private Lives of Ants
蟻の私生活
Elizabeth Pennisi
6年前、Laurent Kellerの学生であったDanielle Merschは火アリ(fire ants)の社会システムを解明した。

Letters
Drought and China's Cave Species
乾燥化と中国の洞窟の生物種
Shu-Sen Shu, Wan-Sheng Jiang, Tony Whitten, Jun-Xing Yang, and Xiao-Yong Chen

Little Emperors Pose Behavioral Challenges
小さな皇帝が行動の問題をもたらす
Lisa Cameron, Nisvan Erkal, Lata Gangadharan, and Xin Meng
小さな皇帝=中国の一人っ子

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Research
Perspectives
Climate's Dark Forcings
気候の暗い力
Meinrat O. Andreae and V. Ramanathan
大気中のブラック・カーボン(煤)の特性と量に関する不確実性が、我々が地域的な・全球的な気候を理解しようとする努力を妨げている。

Great Apes and Zoonoses
大型類人猿と人獣共通感染症
Paul M. Sharp, Julian C. Rayner, and Beatrice H. Hahn
エイズとマラリアの起源を比較することで、将来の猿から人への感染症の伝染に対する予測が得られるかもしれない。

Research Article
Pervasive Externalities at the Population, Consumption, and Environment Nexus
Partha S. Dasgupta and Paul R. Ehrlich
人口増加と大量消費によってもたらされる経済的な結果がもたらす課題解決には、社会全体の行動が必要である。

Reports
Reorganization of Southern Ocean Plankton Ecosystem at the Onset of Antarctic Glaciation
南極の氷河化の始まりにおける南大洋のプランクトン生態系の再編成
Alexander J. P. Houben, Peter K. Bijl, Jörg Pross, Steven M. Bohaty, Sandra Passchier, Catherine E. Stickley, Ursula Röhl, Saiko Sugisaki, Lisa Tauxe, Tina van de Flierdt, Matthew Olney, Francesca Sangiorgi, Appy Sluijs, Carlota Escutia, Henk Brinkhuis, and and the Expedition 318 Scientists
南極を取り巻く南大洋は生態系と炭素循環にとって非常に重要な地域である。しかしながら、そうした特異的な生態系の開始時期はよく制約できていない。dinoflagellate cystの化石記録から、南大洋のプランクトン生態系の形成時期はOligocene初期の南極の氷河化のタイミングと一致していること(33.6Ma)が示された。氷河化に伴う氷床の成長、海氷の形成が栄養塩に富み、季節的に生産性が強化される環境を形成し、生態系のシフトに重要な役割を負っていたと考えられる。

Global Charcoal Mobilization from Soils via Dissolution and Riverine Transport to the Oceans
溶解と河川による輸送を介した全球的な炭の土壌から海への流動化
Rudolf Jaffé, Yan Ding, Jutta Niggemann, Anssi V. Vähätalo, Aron Stubbins, Robert G. M. Spencer, John Campbell, and Thorsten Dittmar
森林火災・草原火災などによって生じる大量の炭(charcoal)が土壌や堆積物に保存されるが、そうした炭の溶存成分が河川などを通じて海へともたらされる割合を定量化した。DOCの10%に相当する量が溶存態の炭として運ばれていることが分かった(年間26.5 ± 1.8 Mt)。炭とDOCとは機械的に結合して流出している可能性がある。

Resilience and Recovery of Overexploited Marine Populations
過度に漁獲された海の個体群の耐性と回復力
Philipp Neubauer, Olaf P. Jensen, Jeffrey A. Hutchings, and Julia K. Baum
過度に漁獲された海洋個体群の回復は遅く、ほとんどが目標とするレベルよりも低く収まっている。それが果たして人類による漁業の規制が不足している(魚穫量が大きい)ことが原因なのか、それとも個体群の耐性が弱まったことが原因なのかはよく分かっていない。過度な漁獲の程度が比較的小さいと回復は早いが、大きいと再建に時間がかかるだけでなくその回復に要する時間も不確実性が大きくなることが分かった。頃合いを見計らった、決定的な漁獲量の削減を行うことで不確実性が大幅に低下する。逆に言えば、現在破壊し尽くされた漁場の回復は見込みが薄いということになる。

2013年4月18日木曜日

新着論文(Nature#7445)

Nature
Volume 496 Number 7445 pp269-392 (18 April 2013)

RESEARCH HIGHLIGHTS
Desert plants reap no rewards
砂漠の植物はご褒美をもらえない
Glob. Change Biol. http://dx.doi.org/10.1111/ gcb.12177 (2013)
大気中のCO2濃度の増加は植物の一次生産を刺激すると考えられている。しかしながら一方で乾燥化は植物の成長を阻害する。アメリカ南西部のMojave砂漠に生える植物を10年間にわたりCO2を増やした状態に維持したところ、低木や草の支配的な種はより成長することが示された。しかし乾燥化しているとそうではないことが分かった。大陸の3分の1を覆う砂漠の生態系は、CO2よりもむしろ水によってコントロールされているかもしれない。

Old evidence for fewer fish
より少なかった魚の古い証拠
Fish Fish. http://dx.doi. org/10.1111/faf.12034 (2013)
イギリスにおける白身魚の過去の漁獲量の調査から、19世紀にトローリング漁法によって魚の個体数が64%も低下した可能性が示された。このことは、科学的なモニタリングがスタートするよりもはるか昔から、トローリングが魚の資源量に影響を与えていたことを物語っている。
>より詳細な記事
Fishermen report on stocks from beyond the grave
Daniel Cressey

Symbionts set squid’s clock
共生者がイカの時計をセットする
mBio 4, e00167-13 (2013)
コウイカの近縁であるHawaiian bobtail squidEuprymna scolopes)の腹部にはバクテリア(Vibrio fischeri)が共生しており、夜間に成長している。光を発するバクテリアと共生するイカには光に反応する遺伝子(escry1)が発現し、日々のリズムが見られることが示された。他のほ乳類などでも同様の関係があるかもしれない。

Cheap, colourful solar cells
安くてカラフルな太陽電池
Nano Lett. http://dx.doi.org/10.1021/nl400349b (2013)
韓国の研究グループは、金属と有機物の合成物質(鉛、メチルアンモニウム、ヨウ素/臭素)を新たに開発し、それは太陽電池として機能する。ヨウ素/臭素比を変えることで安定性と光吸収能力が変化し、様々な波長の光を透過させることができることが分かった(つまり色が様々に変化する)。さらに太陽光からのエネルギー変換効率も非常に高く、現在の安いコストのものと比肩するほどらしい。

SEVEN DAYS
The costs of storms
嵐のコスト
アメリカにおける巨大な雷雨(2億5千万ドル以上の被害をもたらすもの)の経済損失は1970年から2009年にかけて2倍に増加したことが、ドイツの保険会社Munich ReによってEGUにて報告された。雷雨へと繋がる気象状態の頻度が増していることが原因だと彼らは主張している。
>より詳細な記事
Climate change brings stormier weather to the US
気候変化がアメリカにより嵐的な気象をもたらす
Quirin Schiermeier

Telescope go-ahead
望遠鏡にゴーサインが出る
ハワイのマウナケアの山頂に30mの巨大望遠鏡( Thirty Meter Telescope; TMT)を建設する計画に許可が下りた。ちなみにケック望遠鏡は10m。
>より詳細な記事
Giant Hawaiian telescope gets go-ahead for construction
Alexandra Witze

Publishing deal
出版社の取引
ElsevierがMendeleyを買収した。Mendeleyは200万人のユーザを持つ研究者用のSNSで、論文に対するコメントなどをシェアすることのできるサービスである。両社ともに買収額は公表していないが、6,900万ドルという話も。

To steal a ship
船を盗むために
スクリップス海洋研究所に属する全長52mの研究船New Horizonを盗もうとした女性が逮捕された。船の運航スタッフは全員寝ていて気づいていなかったという。

NEWS IN FOCUS
Synthetic biologists and conservationists open talks
合成生物学者と環境保護論者がオープンに話す
Ewen Callaway
しかしながら、自然をいじくり回した結果生じる、意図しない結果には常に心配が伴う。

‘Living fossil’ genome unlocked
'生きた化石'のゲノムが明らかに
Chris Woolston
古代魚シーラカンスの遺伝子ははるかな古代のことを多く記録している。

Climate models fail to ‘predict’ US droughts
気候モデルがアメリカの干ばつを’予想’するのに失敗する
Quirin Schiermeier
シミュレーションは過去の大きな干ばつを再現することはできたが、時期が間違っていた。

FEATURES
Forest ecology: Splinters of the Amazon
森林生態学:アマゾンのスプリンター
生態学者のThomas Lovejoyがブラジルの熱帯雨林に人工の実験場を設置してから数10年が経過したが、現在世界中の様々な地域で同様の実験がなされている。

COMMENT
Sustainability: Choose satellites to monitor deforestation
持続可能性:森林破壊をモニタリングするために人工衛星を選ぶ
違法な森林伐採が熱帯地域の森林とそこに眠る炭素を脅かしている。「政府は結束して初期警告システムを構築すべきだ」、とJim Lynchほかは言う。

Phylogenetics: Heed the father of cladistics
系統学分岐学の父のことを心に留める
「系統学の創始者であるWilli Hennigが発見した、進化の関係性に関する方法は忘れてはいけない」、とLeandro AssisとOlivier Rieppelは言う。

CORRESPONDENCE
Marine ecosystems: Overfishing in west Africa by EU vessels
海洋生態系:EUの船による西アフリカの過漁獲
Raül Ramos & David Grémillet
中国だけがアフリカ西部の海洋生態系を脅かしているわけではない。1960年代以降、ヨーロッパもまた過度な漁獲を行い続けてきたのであり、さらに現在EUはアフリカの国家との漁業の取り決めを見直そうとしている。その見直しは怪しげなものであり、アフリカからEUへと漁業資源を大量にもたすことを目的としている。Canary諸島周辺の生態系はひどく傷つけられており、EU政府は取り決めを見直すべきだ。

Environment: Scale of global road map is impractical
環境:全球的なロードマップの物差しは非実用的だ
Malgorzata Blicharska

Contamination: Uphold standards for lab reagents
汚染:研究室の試薬の基準を確認せよ
Sally Roberts, Heidi Fuller & Bruce Caterson
科学者は購入した試薬類の純度が厳しくテストされていると思いがちだが、その思い込みはリスクが大きいかもしれない。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Archaeology: A potted history of Japan
考古学:日本の簡略化した歴史
Simon Kaner
縄文時代の土器の破片に付着した脂質の発見から、その土器が料理に使われていたことが分かった。人類の発明の歴史に関して再考する必要があるかもしれない。

Astronomy: A cosmic growth spurt in an infant galaxy
天文学:銀河の子供から突然噴き出す宇宙の成長
Desika Narayanan & Chris Carilli

Biogeochemistry: Nitrogen deposition and forest carbon
生物地球化学:窒素の沈降と森林の炭素
Beverly Law
人間活動(農業用の肥料の使用など)に伴い、大気を通じて森林へともたらされる窒素の量が増加している。全球的な常緑針葉樹林にもたらされる窒素に対する光合成の応答が定量化された。

ARTICLES
The African coelacanth genome provides insights into tetrapod evolution
アフリカのシーラカンスのゲノムが四肢動物の進化に関する洞察を与える
Chris T. Amemiya et al.
シーラカンスは魚の祖先の姿に非常に似ており、初めて陸上に進出した魚に対する知見を与えてくれる。アフリカのシーラカンス(Latimeria chalumnae)のゲノム解読から様々なことが分かった。1つ目は四肢動物に近いのはシーラカンスよりもむしろ肺魚であること。2つ目はシーラカンスのタンパク質翻訳は四肢動物や肺魚よりも遅く進化したこと。3つ目は脊椎動物が陸へと進出する際に変化を経験した遺伝子や制御エレメント(regulatory element)が新たな環境への適応を反映していることである。

LETTERS
A dust-obscured massive maximum-starburst galaxy at a redshift of 6.34
赤方偏移6.34にある塵に隠された大質量で最高形成率のスターバースト銀河
Dominik A. Riechers et al.

Terrestrial water fluxes dominated by transpiration
蒸発散に支配される陸域の水フラックス
Scott Jasechko, Zachary D. Sharp, John J. Gibson, S. Jean Birks, Yi Yi & Peter J. Fawcett
陸の水は雨や植物の蒸発散によってリサイクルしている。しかし全球的な蒸発散の規模については気候モデルでもよく再現できず、推定値もばらついている。湖や河川の水の酸素・水素同位体データから、陸上の水フラックスの80-90%は蒸発散が担っていることが示された。年間に62,000 ± 8,000 km3の水がリサイクルされており、地表にもたらされる日光のエネルギーの半分が使われていると考えられる。さらに陸上植物による一次生産量を見積もったところ、年間129±32GtCと推定された。物理的なフラックス(蒸発など)よりも、生物的なフラックスの方が重要であり、この知見は水資源の予測、気候変化予測などのモデルを改善することに繋がることが期待される。

Earliest evidence for the use of pottery
土器の使用の最も古い証拠
O. E. Craig, H. Saul, A. Lucquin, Y. Nishida, K. Taché, L. Clarke, A. Thompson, D. T. Altoft, J. Uchiyama, M. Ajimoto, K. Gibbs, S. Isaksson, C. P. Heron & P. Jordan
土器は20-12kaに狩猟採集時代の東アジアにおいて発明されたと考えられている。縄文時代に相当する日本の遺跡から発掘された最古の土器の破片(15-11.8ka)に付着した食べ物の残りかすの窒素・炭素同位体分析から、それが淡水と海の生物を調理するのに使われたものであることが示された。水生態系の上位捕食者のものであったと推定される。

Slower recovery in space before collapse of connected populations
連結された集団の崩壊の前には空間的回復が遅くなる
Lei Dai, Kirill S. Korolev & Jeff Gore

2013年4月17日水曜日

安くて軽いスキャナー買いました

そうそう、最近個人用のスキャナを購入しました!

CanonのLiDE210という機種です。意外にも1万円以内で購入できます。

横に寝かすのではなく、縦置きができるのでスペースもそんなにとりません。

持ち運びを念頭においているものなので、とても軽いです。(僕は持ち運ぶ気はありませんがw)

ボタンでも操作できるし、パソコンの画面からでも操作できます。
(※補足 今のところボタンの操作確認できてませんw)

ちなみに電源はUSBでパソコンからとってます。

これで印刷代が節約できるともに、AORI6階のコピー機までわざわざ行く手間が省けましたwww(AORIは偶数階にしかコピー機がなく、さらにコピーカードを借りないとコピーができないのです)

机の角、パソコンのモニターの横に縦置き。

開けるとこんな感じ。下の隙間に紙を挟むようにしてスキャンできる。A4まで。

ちょっと作動音がうるさいけど、便利☆

Elsevierの新着論文をチェックするのに、メールアラートからRSSへ変更してみる

これまでElsevier社から発行される新着論文(僕らの分野でいうEPSLやGCAなど)はメールアラートで各号ごとにまとめてチェックしていたのですが、

このメールアラートサービスが頻繁にエラーを起こし、ちょっと手間取ることが多かったので、最近になってRSSでチェックする方針に変えました。
例えば以下のようなエラーが起きていました。

・同じ号を3日連続で送りつけてくる
・設定上は号ごとにアラートしてくれることになっているのに、in pressも送ってくる

など。

なんで、AGUやEGUなどの雑誌をチェックしているようにGoogle ReaderのRSSでチェックすると、わりと抵抗感無く、空いた時間に(電車やトイレwなど)さくさくっとチェックできることが分かりました。


僕のお気に入りのiPhoneアプリは「Feeddler RSS」というものなんですが、お気に入りの☆ボタンを押すだけで、Google Readerの「お気に入り」にすべて同期されるので、パソコンから改めてチェックすることもできます。


アブストと図に目を通し、pdfをEvernoteにダウンロードしたところで、「お気に入りの☆」を外せば、一仕事終了。(さらにブログの新着論文に日本語の要約をアップする)

僕らの分野の場合、非常に多くの関連論文が怒濤の勢いで出版されるため、全部を読んでいたらそれだけで時間がなくなってしまいます。
なので気になる論文のみ、改めて全文に目を通すというような感じでやってます。
(それでも多いんですけどね…)


最近とても気になっているのは、ここ1年間継続してきた新着論文のアップを続けるかどうか、ということ。
NatureやScienceは忙しかろうが何だろうが、どのみち目を通しますし、見逃してはいけない論文が多いので、今後も継続しようとは思っているのですが、
一方で専門雑誌は自分の興味が広がり続け、かつ掲載論文数もうなぎ上りに増え続けていることを考えると、ちょっと今のままでやり続けると作業量が多くなりすぎて、結局チェックが滞るという本末転倒なことになってしまいそうなので、少し分量を減らそうかとも思っています。そもそも読者もほとんどいないですしw

もう一つ気になっているのは、Google Readerが今年7月にサービスを停止するという問題。
記事によると「最近はFacebookやTwitterなどで情報を収集する人が多く、RSSの需要が減っていることがサービス停止の主たる原因」ということらしいんですが、思いとどまってくれないですかねえ。。

一応反対に向けた署名活動もあるので、よろしかったらご協力ください。

探せば他のRSS対応アプリもいっぱいあるんでしょうけどね。。Feedlyとか。

2013年4月16日火曜日

新着論文(JGRほか)

G3
Incorporation of uranium in benthic foraminiferal calcite reflects seawater carbonate ion concentration
Nina Keul, Gerald Langer, Lennart Jan Nooijer, Gernot Nehrke, Gert-Jan Reichart, Jelle Bijma
底性有孔虫(Ammonia spp.)を飼育実験し、殻の同位体分析からU/Caが炭酸系のプロキシかどうかを評価。深層水の炭酸イオン濃度のプロキシになる可能性がある。

Limnology & Oceanography
The responses of eight coral reef calcifiers to increasing partial pressure of CO2 do not exhibit a tipping point
Comeau S., Edmunds P. J., Spindel N. B. & Carpenter R. C.
様々なサンゴ(Acropora pulchraPorites rusPocillopora damicornisPavona cactus)と石灰藻(Hydrolithon onkodesLithophyllum flavescensHalimeda macrolobaHalimeda minima)について酸性化実験を行った。炭酸塩飽和度が1前後では成長量が最大となり、それ以降は低下した。P. damicornisH. macrolobaは酸性化するほど成長量が増加し、酸性化がサンゴ礁に悪影響をもたらすという大方の予測に反する結果となった。しかし全体としては劣化へと向かうと思われる。

Reviews of Geophysics
Ice sheet sources of sea level rise and freshwater discharge during the last deglaciation
Anders E. Carlson, Peter U. Clark
最終氷期以降の海水準上昇のレビュー。YD、HS1、8.2kaイベントなどの気候変動と氷床変動との関連や、急激な海水準上昇イベントである19ka、MWP-1Aなど。72ページと非常に長いw

Enhanced Chemical Weathering as a Geoengineering Strategy to Reduce Atmospheric Carbon Dioxide, a Nutrient Source and to Mitigate Ocean Acidification
Jens Hartmann, Josh West, Phil Renforth, Peter Köhler, Christina L. De La Rocha, Dieter A. Wolf-Gladrow, Hans Dürr, Jürgen Scheffran
人間による土地利用の変化は風化速度にも影響している。例えばケイ質岩の風化はアルカリ度を河川にもたらし、pHを上げる働きがある。それらはさらに沿岸部や外洋にももたらされ、生態系に消費されるだけでなく、海洋酸性化を打ち消す働きもあると考えられる。また同時に供給されるケイ素・リン・カリウムなどもまた生物活動を刺激し、炭素吸収能力を高めるかもしれない。これらの風化と生態系、さらには炭素循環に与える影響を広くレビューする。

JGR-Ocean
From the subtropics to the central equatorial Pacific Ocean: Neodymium isotopic composition and rare earth element concentration variations
Mélanie Grenier, Catherine Jeandel, François Lacan, Derek Vance, Célia Venchiarutti, Alexandre Cros, Sophie Cravatte
赤道太平洋周辺の海水のεNdやREEの濃度などを報告。サモア・ソロモン諸島・パプアニューギニアなどを通過する水塊には大きな変動が見られた。また東赤道太平洋に到達する水塊はガラパゴスや南米西海岸などの火山性のεNdの影響を被っている(boundary exchange)。火山灰による大気からのインプットも見逃せない。

JGR-Atmosphere
Monsoons in a changing world: a regional perspective in a global context
Akio Kitoh, Hirokazu Endo, K. Krishna Kumar, Iracema F. A. Cavalcanti, Prashant Goswami, Tianjun Zhou
29の気候モデルを用いて21世紀の世界のモンスーンの降水の変化を評価。降水の強度と降水量の両方が強化することが予想された。中でもアジアモンスーンは特に強化が顕著らしい。また夏モンスーンの期間も長くなることが予想される。ただし、モデル間のばらつきや再現性に問題があり、予想にはまだ大きな不確実性が伴う。

2013年4月14日日曜日

新着論文(GPC, CG, GCA, EPSL)

Global and Planetary Change
☆Volume 104, Pages 1-74, May 2013
A 400-year tree-ring δ18O chronology for the southeastern Tibetan Plateau: Implications for inferring variations of the regional hydroclimate
Xiaohong Liu, Xiaomin Zeng, Steven W. Leavitt, Wenzhi Wang, Wenling An, Guobao Xu, Weizhen Sun, Yu Wang, Dahe Qin, Jiawen Ren
チベット平原から得られた木の年輪に沿った過去400年間のδ18O記録。温度、日照時間との相関が確認された。さらに夏の雲被覆量、相対湿度、降水量とも負の相関が確認された。地域的な水気候の指標だけでなく、夏モンスーンの指標にもなるかもしれない。ヒマラヤから得られているアイスコアのδ18Oともよく対応しているという。

Revisiting the Indian summer monsoon–ENSO links in the IPCC AR4 projections: A cautionary outlook 
Mathew Roxy, Nitin Patil, K. Aparna, Karumuri Ashok
IPCC AR4に採用された複数のモデル(20C3M)のうち、4分の1しかENSOもどきを再現できていない。さらにそのうちの2つしかENSOとENSOもどきの両方を再現できていない。現行のモデルではモンスーンやENSOの変動を捉えきれていない。将来の温室効果ガス・エアロゾルによる気候変化の予測精度を向上するためにも、モデルを改善する必要がある。

Chemical Geology 
☆Volume 343,  Pages 1-110, 8 April 2013
No discernible effect of Mg2+ ions on the equilibrium oxygen isotope fractionation in the CO2–H2O system
Joji Uchikawa, Richard E. Zeebe
BaCO3の無機沈殿実験から、水-炭酸塩におけるδ18Oの同位体分別を評価。Mg2+イオンの濃度は同位体分別にほとんど影響しないことが示された。つまり、淡水に対して決定された同位体分別係数が海水にも適用できることを示唆している。

Coupling between suboxic condition in sediments of the western Bay of Bengal and southwest monsoon intensification: A geochemical study
J.N. Pattan, Ishfaq Ahmad Mir, G. Parthiban, Supriya G. Karapurkar, V.M. Matta, P.D. Naidu, S.W.A. Naqvi
ベンガル湾から採取された堆積物コアの過去45kaにわたる地球化学的分析の結果について。9.5ka頃に貧酸素の状態が起き、モリブデンやジルコニウムが濃集。北半球の夏の日射量増大に伴う夏モンスーンの強化が原因と考えられる。一次生産は増加していないため、陸源物質の輸送量が増加した結果、低層に有機物が多くもたらされ分解されたことが貧酸素の原因?さらに、δ15NにはD/Oイベントやハインリッヒ・イベントなどとも対応が見られる。

Geochimica et Cosmochimica Acta 
☆Volume 109,  Pages 1-414, 15 May 2013
Determination of low-level mercury in coralline aragonite by calcination-isotope dilution-inductively coupled plasma-mass spectrometry and its application to Diploria specimens from Castle Harbour, Bermuda
Carl H. Lamborg, Gretchen Swarr, Konrad Hughen, Ross J. Jones, Scot Birdwhistell, Kathryn Furby, Sujata A. Murty, Nancy Prouty, Chun-Mao Tseng
新たなサンゴ骨格中のHg測定法を紹介。バミューダで採取された脳サンゴ(Diploria labyrinthiformis)に対して1949年から2008年にかけてのHgの変動を復元したところ、長期的な減少傾向が見られた。港における産業廃棄物の投棄などの影響は特に見られなかった。

Reactivity of neodymium carriers in deep sea sediments: Implications for boundary exchange and paleoceanography
David J. Wilson, Alexander M. Piotrowski, Albert Galy, Josephine A. Clegg
深層水のNd同位体が過去の風化速度や海洋循環の指標として使用されているが、固相-液相間の交換についてはよく分かっていないことが多い。堆積物のリーチング実験から同位体への影響を評価。

Calibrating the glycerol dialkyl glycerol tetraether temperature signal in speleothems 
Alison J. Blyth, Stefan Schouten
世界中から得られた鍾乳石のGDGTが気温の指標になるかどうかを評価。TEX86、MBT/CBTともに気温との相関が確認された(それぞれ、2.3℃、2.7℃の精度で気温を復元可能)。解決すべき課題は多いが、陸域の気温指標として有望かも?

Organic carbon export from the Greenland ice sheet
Maya P. Bhatia, Sarah B. Das, Li Xu, Matthew A. Charette, Jemma L. Wadham, Elizabeth B. Kujawinski
グリーンランド氷床から海へと運ばれる溶存+粒子状有機物の炭素同位体(δ13C+Δ14C)を測定。輸送されるDOCは北極圏の小さい河川に匹敵するほど、POCは北極圏の大きな河川に匹敵するほどの量であることが分かった。DOCのΔ14Cは時間変動を示したが、POCは示さなかった。異なるメカニズムによってコントロールされていると考えられる。

☆Volume 108,  Pages 1-202, 1 May 2013
Calibration and application of the ‘clumped isotope’ thermometer to foraminifera for high-resolution climate reconstructions
Anna-Lena Grauel, Thomas W. Schmid, Bin Hu, Caterina Bergami, Lucilla Capotondi, Liping Zhou, Stefano M. Bernasconi
古気候学研究において温度プロキシの開発は極めて重要であり、生体効果を受けないとされるclumped isotopeには大きな期待が寄せられている。幅広い温度(2-28℃)に生息する浮遊性・底性有孔虫に対して行われた測定結果をもとに、温度復元の不確実性および不確実性をもたらすメカニズムを考察。地中海で得られた堆積物コアのG. ruberに対する測定結果はここ700年でも大きくばらつき、正しい温度を得るには数多くの結果を平均化する必要がある。現在のところ、大きな温度変化に対しては適用可能だが、小さな変化にはまだ技術開発が必要かもしれない。

Earth and Planetary Science Letters
☆Volume 368, 15 April 2013, Pages 20-32 
Rapid changes in meridional advection of Southern Ocean intermediate waters to the tropical Pacific during the last 30 kyr    
L.D. Pena, S.L. Goldstein, S.R. Hemming, K.M. Jones, E. Calvo, C. Pelejero, I. Cacho
氷期間氷期の気候変動において南大洋のプロセスが大きく寄与していたと考えられている。特に、SAMW/AAIWを介した高緯度から低緯度へのパス(oceanic tunnelling)も高緯度のシグナルを低緯度に伝播する上で重要だったと考えられている。しかし最終退氷期のパスについては証拠が断片的でよく分かっていないことが多い。東赤道太平洋から得られた堆積物コア中のN. dutertreiの殻のεNdからEUCの水のもとになった水を調査したところ、最終退氷期の寒い時期(H0, H1, H2, LGM)によりSAMW/AAIWが強まっていたことが示唆される。南大洋で湧昇した氷期の古い深層水は、低緯度へと伝播したと考えられる。

2013年4月12日金曜日

気になった一文集(English ver. No. 12)

Science itself is changing rapidly; the means by which it is shared must keep up.
科学そのものが急速に変化している。そのため、それをシェアする方法もまた追いつく必要がある。

The future of publishing: A new page」Nature 495, pp. 425 (28 Mar 2013)
オープン・アクセスをめぐるNature誌の特集
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Communicating the science of climate change provides one example where the scientific community must do more. Climate change affects everyone, so everyone should understand why the climate is changing and what it means for them, their children, and generations to follow.

Implicit in this resource is the message that the world must make adaptations to changes that have already occurred and that reducing emissions is required to avoid a warmer planet.

“Isn't it the responsibility of scientists, if you believe that you have found something that can affect the environment, isn't it your responsibility to do something about it, enough so that action actually takes place?...If not us, who? If not now, when?”
F. Sherwood Rowland

Climate Change Conversations」by B. Z. Shakhashiri & J. A. Bell
Science 340, pp. 9 (5 April 2013)
気候変化をアウトリーチする必要性、科学市民を作る必要性

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Is it the ‘rogue’ geoengineer Russ George, who wants to fertilize the oceans with iron so that he can generate carbon credits to sell? Is it the eccentric Russian Yuri Izrael, who is experimenting with aerosol spraying? How about oil giants such as ExxonMobil, which for years funded climate-science disinformation and is now talking up the prospects of geoengineering. Does ‘we’ mean the Chinese or US military, the organizations with the best access to the equipment needed to deploy a sulphate aerosol shield?

So the call to ‘do the research’ entrenches a situation in which geoengineering is often carried out by the wrong people, for the wrong reasons and with no oversight, and in the process is creating a lobby group that is likely to press for deployment because it is in its financial or professional interests to do so.

We are entertaining the idea of intervening in the climate system to prevent climatic disaster because of the inability of our political and social systems to implement sharp reductions in greenhouse-gas emissions.

No, we should not just ‘at least do the research’」by Clive Hamilton
Nature 496, 139 (11 April 2013)
地球工学分野における研究の姿勢、管理団体、是非などをめぐる議論。

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It is an inescapable fact that if you are trying to track changes over time, you only get one chance to measure each point. To prove you got it right, you must take mea- surements in multiple ways.

Recording Earth’s Vital Signs」by R. F. Keeling
Science 319, pp. 1771-1772 (28 Mar 2008)
マウナロアにおける大気中CO2濃度の連続観測の50周年記念。D. Keelingの息子、R. Keelingによる解説記事。

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The prospect of ocean acidification is potentially the most serious of all predicted outcomes of anthropogenic carbon dioxide increase. This study concludes that acidi- fication has the potential to trigger a sixth mass extinction event and to do so independently of anthropogenic extinctions that are currently taking place.

Mass extinctions and ocean acidification: biological constraints on geological dilemmas」Veron, 2008, Coral Reef
地質時代の海洋酸性化とサンゴの大量絶滅イベント

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The increasing complexity of recent model versions does not necessarily imply improved model skill.

...the discussion about BC and other short-lived climate forcers must not obscure the 38-billion-ton and growing gorilla in the room—the amount of CO2 emitted annually into the atmosphere—which needs to be cut sharply and promptly to avoid accelerating climate change.


Climate’s Dark Forcings」Science 340, pp. 280-281 (19 April 2013)
ブラック・カーボン(煤)が気候に与える影響の評価の大きな不確実性

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Although low levels of nitrogen deposition might mitigate the effects of increased atmospheric CO2 to some degree, 53–76% of this coincidental benefit is itself estimated to be offset globally. This is because nitrogen deposition can stimulate net emissions of other greenhouse gases (methane and nitrous oxide) that are products of microbial activity in the soils of many ecosystems.

They found that, for evergreen needleleaf forests in temperate and boreal zones, maximal  photosynthesis under optimal environmental conditions increased with continuous nitrogen-deposition rates up to a threshold of about 8 kg of nitrogen deposition per hectare per year. Above this value, no further increase in photosynthesis was observed.

A better understanding of how the connections between carbon and nitrogen in the environment could change in the future is also required.

Nitrogen deposition and forest carbon」Nature 496, 307–308 (18 April 2013)
人為起源の窒素によって光合成が活発化する北半球の森林。

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Carbon-emitting infrastructure is designed to benefit humankind for many decades; each year’s additional infrastructure implies added stock intended to last and emit CO2 for many decades. It is this dependence on CO2-emitting technology that generates a commitment to current and near-future emissions. Cleaner alternatives are being developed and carbon capture and storage technologies are being tested, but technological development and diffusion are subject to substantial inertia. Societal inertia, rather than the inertia of the climate system, is thus the critical challenge if we wish to begin to decrease the rate of CO2-induced global warming in the near future.


If technological investments and innovation increase the availability of reduced-carbon sources of energy that are competitive in price, development can continue to improve the lives of people in emerging economies without driving global climate change to increasingly dangerous levels. If reduced-carbon energy sources are not advanced rapidly, a great deal of carbon-intensive infrastructure is likely to be put in place in the developing world, implying a large and ongoing societal commitment to further global CO2 emissions and consequent climate warming.


Although emissions reductions cannot return global temperatures to preindustrial levels, they do have the power to avert additional warming on the same time scale as the emissions reductions themselves. Climate warming tomorrow, this year, this decade, or this century is not predetermined by past CO2 emissions; it is yet to be determined by future emissions. The climate benefits of emissions reductions would thus occur on the same time scale as the political decisions that lead to the reductions.

Irreversible Does Not Mean Unavoidable」Science 340, 438-439 (26 April 2013)
今後の温暖化の程度を決めるのは、これからの温室効果ガスの排出量に依存する。既に人間に手がつけられない状態にあるわけではない。

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The number of US probes is likely to dwindle from 23 to just 6 by 2020, threatening to degrade scientists’ ability to track climate change, forecast weather and monitor natural disasters.
アメリカの宇宙探査機の数は現在の23から2020年にはたったの6へと徐々に減少すると思われ、科学者が気候変化や気象予測、自然災害をモニタリングする能力を脅かしている。

Researchers who warned for years of this slow-moving disaster are now left to watch it unfold. And it comes at a time when concern is growing about the pace of climate change and the pressure that the world’s burgeoning population is placing on limited natural resources.
長年このゆっくりと進行する災害(気候変化)について警告を出していた研究者は現在それが明らかになるのを見るのを任されている。そして気候変化の速度に対する関心が高まり、世界の急増する人口が限られた自然資源に期待を寄せる時代がやってきた。

Progress depends on the United States making hard decisions about what Earth observations it needs and how best to provide them. For scientists, and society, the dilemma is clear: we cannot manage what we cannot measure.
進展があるかどうかはアメリカが何の地球観測を必要とし、どのようにしてそれを実行するかについて強固な決断を下せるかどうかに依る。科学者と社会にとってのジレンマは明らかである:私たちは測定できないものには対処できないのである。

Plan for the future」Nature 497 (2 May 2013)
地球観測の未来。

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Near the moonscape summit of the Mauna Loa volcano in Hawaii, an infrared analyser will soon make history. Sometime in the next month, it is expected to record a daily concentration of carbon dioxide in the atmosphere of more than 400 parts per million (p.p.m.), a value not reached at this key surveillance point for a few million years.
ハワイのマウナロア火山の月のような頂上付近で、赤外分析器がもうまもなく歴史を作ろうとしている。来月の未明、大気中の二酸化炭素濃度が400ppm以上を記録すると予想されている。過去数百万年間においてこの重要な観測拠点で達したことのない数値である。

There will be no balloons or noisemakers to celebrate the event. Researchers who monitor greenhouse gases will regard it more as a disturbing marker of humanity’s power to alter the chemistry of the atmosphere and by extension, the climate of the planet.
そのイベントを祝う風船や騒がしい音はないだろう。温室効果ガスをモニターする研究者は、それを「人類が大気組成を変え、さらには惑星の気候すらも変えてしまう力」の現れとしてより捉えるようになるだろう。

“It’s a time to take stock of where we are and where we’re going,” says Ralph Keeling.
"我々が「今どこにいて」、そして「どこに向かうのか」について吟味する時が来ている"と、Ralph Keelingは語る。

“The real question now is: how will the sinks behave in the future?” says Gregg Marland. (...) But climate models suggest that the land and ocean will not keep pace for long.
"現在の真の疑問は、そうした(CO2の)吸収源(海や陸上の植生)が将来どのように振る舞うか、ということだ"とGregg Marlandは語る。(中略)しかし、気候モデルは陸と海は(人間のCO2放出に)長くは追いついていけないことを示唆している。

“At some point the planet can’t keep doing us a favour, particularly the terrestrial biosphere,” says Jim White. (…) As the sinks slow down and more emitted CO2 stays in the atmosphere, levels will rise even faster.
"どこかで地球は我々に親切にしてくれなくなるだろう。特に陸上の生物圏は"とJim Whiteは語る。(中略)吸収源が遅くなるにつれて、より多くの排出されたCO2が大気中に留まることになり、さらに(大気中のCO2)濃度上昇は加速するだろう。

Global carbon dioxide levels near worrisome milestone」Nature 497 (2 May 2013)
大気中CO2濃度がもう間もなく400ppmという危険なレベルに達する。

新着論文(Science#6129)

Science
VOL 340, ISSUE 6129, PAGES 109-236 (12 APRIL 2013)

Special Issue 'Australopithecus sediba'
特集 'アウストラロピテクス・セディバ'

Editors' Choice
Where’s Warming?
どこが温暖化している?
Geophys. Res. Lett. 10.1002/grl.50382 (2013).
地表温度は1975年頃から2000年頃にかけて急速に温暖化したが、ここ10年間は顕著には温暖化していない。問題は「温暖化が停止したかどうか」ではなく、「どこへ過剰の熱が吸収されたか」にある。1958年から2009年にかけての海水温の観測記録を解析したところ、表層よりも700mよりも深い部分での温暖化が顕著に起きていることが示された。従って、最近の温暖化は我々の知らないところで進行しているということになる。
>問題の論文

Distinctive climate signals in reanalysis of global ocean heat content
Magdalena A. Balmaseda, Kevin E. Trenberth, Erland Källén
1958年〜2009年にかけての海水温の観測をもとに、温暖化の傾向と2004年以降の表層水の温暖化の停止(the recent upper-ocean-warming hiatus)の原因を評価。ここ10年間は700mよりも深い部分で温暖化が起きており、風の変化に伴う海洋鉛直構造の変化が原因と考えられる。

News of the Week
Next Up for NASA: Exoplanets And Neutron Stars
NASAの次の一手:系外惑星と中性子星
NASAは2017年の打ち上げを目指す次のミッションとして「系外惑星を探査する人工衛星(Transiting Exoplanet Survey Satellite; TESS)」と「中性子星の発するX線を観測するための国際宇宙ステーションに備え付けられる機器(Neutron Star Interior Composition Explorer; NICER)」の2つを採用すると4/5に公表した。

Klamath Dams Should Go, Interior Dept. Says
Klamathダムはどこかにやるべきだと内務省は言う
1918年〜1962年にかけてKlamath川に沿って建設された老朽化した4つのダムは水温や藻類の濃度に大きな影響を及ぼし、サケの遡上を妨げることから、撤去するようアメリカ内務省は忠告した。

Dengue More Prevalent Than Thought
従来考えられていたよりも感染拡大しているデング熱
蚊が媒介し、’骨を壊す熱(breakbone fever)’の異名を持つデング熱(dengue)に対するワクチンは今のところ存在しない。テング熱をもたらす蚊の分布や人口増加率などを考慮した新たなモデル試算から、WHOの試算よりもはるかに多い、3億9千万件という数字が得られた。

Game of Habitable Zones
生命存在可能な領域の遊び
ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)という物語の中では「夏が数年間、冬が数十年間にわたって続く」という設定になっているが、Johns Hopkins大の天文学者によると、そうした極端な季節は中心星が2つある連星系であれば可能であるという。1年間が700日で、2つの太陽が互いを100日ごとに公転するような軌道だという。

News & Analysis
A Human Smile and Funny Walk for Australopithecus sediba
アウストラロピテクス・セディバに対する人類の笑みと面白い歩行
Ann Gibbons
我々ホモサピエンスと似た特徴を有する種族の詳細について。

Two-Billion-Dollar Cosmic Ray Detector Sees Signs of Something
200億ドルの銀河宇宙線検出器が何かの兆候を見る
Adrian Cho
物理学者は以前報告されていた宇宙から飛来する過剰の反物質がダークマターに由来する可能性を指摘している。

News Focus
From Cosmic Dawn to Milkomeda, and Beyond
宇宙の夜明けから天の川銀河とアンドロメダ銀河の衝突、そしてその先
Robert Irion
ハーバード大の理論物理学者Avi Loebの考えが宇宙の過去と未来をめぐり、そして彼は若者に大胆であれ、と勧める。

The Mystery of Our Moon's Gravitational Bumps Solved?
我々の月の重力的なデコボコの謎は解決したのだろうか?
Richard A. Kerr
月の重力場に見られるデコボコな構造は、月が何億年もの間繰り返された隕石衝突に対して、わずかに調整をした結果である、とある研究グループは報告している。

Pesky Perchlorates All Over Mars
火星全体に存在するやっかいな過塩素酸塩
Richard A. Kerr
5年前、Phoenixは火星の極に過塩素酸塩が存在することを発見していたが、さらにキュリオシティーは赤道付近のGaleクレーターにも発見した。つまり火星の土壌は全球的に過塩素酸塩を含むことを暗示している。さらに有機物無くしてキュリオシティーの質量分析の結果を説明できないことが示された。有機物は古代の火星にいた生命の痕跡?それとも無機的に合成された?

More Support for an Ocean in Enceladus
エンセラダスに海があることのさらなる証拠
Richard A. Kerr
『土星の衛星の一つ、エンセラダスの氷の外殻の内部には深い海があり、南極の殻の割れ目から液体の水が吹き出していると考えるとカッシーニによる観測結果を説明できる』と研究者は主張している。

Snapshots From the Meeting
会合からのスナップショット
Richard A. Kerr
>Hot time on the ol’ Mars? 
古代の火成の熱い時代?
キュリオシティーは火星にて’生命を構成する’有機物の痕跡を見つけたが、それは生命がいなくても生成されるものである。また地球に最近落ちた火星を起源とするTissent隕石を高温で熱した時に発生する揮発性物質に類似したものが、キュリオシティーの現場実験でも確認されている。しかしそれもまた有機物からも生成されるが、火星の岩石と水とが高温で反応したと考える方が可能性が高いらしい。

>A messenger from Mercury?
水星から来たメッセンジャー?
不思議な隕石がアフリカ北西部で見つかった。水星の表面の特性と似た点はあるものの、形成年代も水星にしては古すぎるし、化学組成の中には水星には似ても似つかない特徴も見られている。水星のものであったら…という期待は高いが、疑問を呈する科学者は多い。

Letters
Drawbacks to Natural Gas
天然ガスの欠点
Sara Souther
エネルギー依存型の社会を維持するために天然ガスの使用が’クリーン’だとしてもてはやされているものの、天然ガスは確かに石油や石炭よりも燃やした時にはよりクリーンだが、生産から消費までの一連の流れの中で発生する炭素の量(carbon footprint)は従来法よりも多い。さらに近年急増するシェールガス生産も近隣の淡水汚染を引き起こしており、アメリカ・ワイオミング州などでは飲料用の井戸水に毒性のある、発がん性の物質が検出されている。

China's Nuclear Power Goals Surge Ahead
中国の原子力目標が急上昇する
X. Jin Yang, Donghui Zhang, Mi Xu, and Jinying Li
チェルノブイリや福島の原発事故の後、原発から離脱する国が続出したが、中国は世界でもっとも原子力エネルギーを推進している。2000年当時2.1GWだった発電量は2020年までに少なくとも70GWに増強される計画となっている。現在17基が稼働しているが、29基が建設中である。さらに2030年には200GW、2050年には400GWになる計画だが、その中には様々なタイプの原発が含まれ、共通した安全基準作成などの課題が残されている。原発は多いにCO2排出削減に寄与し国内のエネルギー需要をより安定にするものの、過度に原発に依存することは危険である。

TECHNICAL COMMENT ABSTRACTS
Comment on “Apatite 4He/3He and (U-Th)/He Evidence for an Ancient Grand Canyon”
”アパタイトの4He/3Heと(U-Th)/Heによる古代のグランドキャニオンの証拠”に対するコメント
Ivo Lucchitta
Flowers & Farley (2012, Science)はグランドキャニオンの形成年代が70Maと古かったことを化学分析から示唆しているが、下流の堆積物の岩相などは17-5Ma頃の形成を示唆している。

Comment on “Apatite 4He/3He and (U-Th)/He Evidence for an Ancient Grand Canyon”
”アパタイトの4He/3Heと(U-Th)/Heによる古代のグランドキャニオンの証拠”に対するコメント
Karl E. Karlstrom, John Lee, Shari Kelley, Ryan Crow, Richard A. Young, Ivo Lucchitta, L. Sue Beard, Rebecca Dorsey, Jason W. Ricketts, William R. Dickinson, Laura Crossey
冷却モデル(cooling model)と地質学データは5-6Ma頃に形成されたことを示唆している。

Response to Comments on “Apatite 4He/3He and (U-Th)/He Evidence for an Ancient Grand Canyon”
”アパタイトの4He/3Heと(U-Th)/Heによる古代のグランドキャニオンの証拠”に対するコメントへの返答
R. M. Flowers and K. A. Farley
2つの研究機関での測定は6つの試料に対する29の一致した結果をもたらした。繰り返すが、グランドキャニオンは非常に古い時代に形成されたことは揺るがない。

Policy Forum
Latin America's Nitrogen Challenge
ラテンアメリカの窒素の課題
A. T. Austin, M. M. C. Bustamante, G. B. Nardoto, S. K. Mitre, T. Pérez, J. P. H. B. Ometto, N. L. Ascarrunz, M. C. Forti, K. Longo, M. E. Gavito, A. Enrich-Prast, and L. A. Martinelli
窒素循環に対する人間活動の影響は、生態系と人間の健康を同時に保護するような持続可能な解決策を必要としている。

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Research
Review
Deep Homology of Arthropod Central Complex and Vertebrate Basal Ganglia
Nicholas J. Strausfeld and Frank Hirth

Reports
Evidence for Two Distinct Populations of Type Ia Supernovae
Type Ia超新星爆発の際立った2つの集団の証拠
Xiaofeng Wang, Lifan Wang, Alexei V. Filippenko, Tianmeng Zhang, and Xulin Zhao

Speleothems Reveal 500,000-Year History of Siberian Permafrost
石筍がシベリアの永久凍土の50万年間の歴史を明らかにする
A. Vaks, O. S. Gutareva, S. F. M. Breitenbach, E. Avirmed, A. J. Mason, A. L. Thomas, A. V. Osinzev, A. M. Kononov, and G. M. Henderson
北半球高緯度の永久凍土には大気中の炭素量の2倍にも及ぶ莫大な炭素が眠っている。温暖化に対する永久凍土の感度については観測期間を超えてはよく分かっていない。シベリアの洞窟から採取された石筍を年代決定したところ、石筍の成長は間氷期のみに限られていた。現在の間氷期と性質が似たMIS11の間氷期には、最北に位置する洞窟の石筍の成長は確認されず、現在よりは温暖だったが、永久凍土を融かすほどには暖かくなかったことも示唆している。

A Long-Lived Relativistic Electron Storage Ring Embedded in Earth’s Outer Van Allen Belt
D. N. Baker, S. G. Kanekal, V. C. Hoxie, M. G. Henderson, X. Li, H. E. Spence, S. R. Elkington, R. H. W. Friedel, J. Goldstein, M. K. Hudson, G. D. Reeves, R. M. Thorne, C. A. Kletzing, and S. G. Claudepierre

2013年4月11日木曜日

新着論文(Nature#7444)

Nature
Volume 496 Number 7444 pp137-264 (11 April 2013)

EDITORIALS
Energy crossroads
エネルギーの分かれ道
ドイツは今世紀中頃までに自国のエネルギー生産の80%を再生可能エネルギーで賄う目標を立てている。国民の理解や技術進展の早さを考えると、目標は計画よりも早く実現するかもしれない。現在は福島第一原発事故を受けて原発は次々に閉鎖され、ドイツは火力発電に頼っているため、短期的な排出削減目標は達成することは難しいだろうが、長期的には可能かもしれない。ただし一方で懐疑的な人は「ドイツがグリーン化に成功できなければ、世界全体がグリーン化に向かうことは難しい」とも指摘している。また国民に対して自宅の屋根に太陽光パネルを設置し、電気自動車に切り替えるなどのインセンティブをどのように与えるかについても明確な見通しは立っていない。

WORLD VIEW
No, we should not just ‘at least do the research’
いいや、私たちは’少なくとも研究はする’という立場でいるわけにはいかない
「気候変化を緩和するために地球工学を採用するという考えはこれまでに考え抜かれたものではない」、とClive Hamiltonは主張する。地球工学に対する様々な疑問・方針・解決すべき課題などを提示。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Lizards hatch early to flee
トカゲは危険から逃れるために早く孵化する
Copeia 2013, 159–164 (2013)
トカゲの一種(delicate skinks; Lampropholis delicata)の卵を刺激し、さも捕食者から攻撃を受けているように実験すると、何も刺激を受けていない卵に比べて数日間も早く孵化することが示された。しかしそのコストは大きく、栄養を卵のなかで十分に使い切れず、体長も4%ほど小さくなるらしい。こうした行動は他の両生類や魚類、無脊椎動物などで確認されているという。

Diamonds tick like atomic clocks
ダイアモンドが原子時計のように時を刻む
Phys. Rev. A 87, 032118 (2013)
窒素の不純物を含んだダイアモンドは原子時計のように時間を正確に刻むことが、レーザー照射によって励起される光を検出することで明らかに。他の原子時計に比べてより運びやすく、生産しやすくなる可能性があるという。

Quake linked to drilling
掘削と関連した地震
Geology http://dx.doi.org/10.1130/G34045.1 (2013)
2011年11月、オクラホマにおいて生じたM5.7の地震は、石油・天然ガス掘削のために地中に穴を開け、流体を注入したことが直接の原因であったことが、余震の詳細な分析から明らかになった。18年間にわたって行われた流体注入用のシャフトから200m以内に最初に破壊された断層が位置していた。

More rain for the Central Plains
中央平原により多くの雨
Geophys. Res. Lett. http://dx.doi.org/10.1002/grl.50262 (2013).
1918年から2007年にかけての観測記録から、アメリア中央平原の夏の降水量が増加しており、ミシシッピ川上流の流量が増加していることが示された。モデルシミュレーションから、耕作地のために切り開かれた土地が流量を増加させた地域もあるものの、全体としては水循環の変化が原因であることが示された。ミシシッピ川は大量の窒素をメキシコ湾へと運び、生物の生きられない貧酸素水塊を作るため、窒素流入量の管理が必要になるかもしれない。
>問題の論文
Are climatic or land cover changes the dominant cause of runoff trends in the Upper Mississippi River Basin?
気候の変化と土地被覆の変化のどちらがミシシッピ川上流の流量の変化傾向にとって支配的な原因になっているのだろう?
Chris Frans, Erkan Istanbulluoglu, Vimal Mishra, Francisco Munoz-Arriola, Dennis P. Lettenmaier

SEVEN DAYS
ESA puts focus on biomass
ESAがバイオマスに重点を置く
全球の森林バイオマス量をこれまでで最も良い精度で測定するための人工衛星打ち上げがヨーロッパの宇宙局(European Space Agency; ESA)によって計画されている(BIOMASS計画)。計画の最終判断は5月になされ、2020年頃に打ち上げが行われる予定となっている。

NEWS IN FOCUS
Wild weather can send greenhouse gases spiralling
強烈な気象が温室効果ガスのスパイラルを招く可能性がある
Quirin Schiermeier
熱波・干ばつ・嵐が炭素放出に与える影響が次第に分かりつつある。

FEATURES
Germany’s energy gamble
ドイツのエネルギー・ギャンブル
Quirin Schiermeier
温室効果ガスの排出を大幅に削減するというドイツの野心的な計画は、高くそびえる技術的・経済的ハードルを超えるに違いない。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Intraterrestrial lifestyles
土の中の生活スタイル
David L. Valentine
Lloyd et al.の解説記事。海底堆積物の遺伝子分析から、古細菌の2つの優先種の代謝の詳細が明らかに。たんぱく質を分解し、地球深部(堆積物及びマントル)へと埋没させる上で重要な役割を負っているかもしれない。

Saturn's ring rain
土星の輪の雨
Jack Connerney
O’Donoghue et al.の解説記事。土星の大気には氷でできた土星の輪の潜像が存在する。電荷を持った氷は輪から発生する磁力線に沿って土星の上層大気へと輸送されているらしい。

LETTERS
The domination of Saturn’s low-latitude ionosphere by ring ‘rain’
輪の「雨」によって支配される土星の低緯度の電離圏
J. O’Donoghue, T. S. Stallard, H. Melin, G. H. Jones, S. W. H. Cowley, S. Miller, K. H. Baines & J. S. D. Blake

Recent temperature extremes at high northern latitudes unprecedented in the past 600 years
過去600年間で例を見ない近年の北半球高緯度域の温度異常
Martin P. Tingley & Peter Huybers
自然と人為起源の温度変化を正しく理解するためにも、より長い時間の温度復元が重要である。観測記録・間接指標(木・アイスコア・堆積物)による過去600年間の温度記録から、近年の温度が異常であることを示す。ロシア西部・グリーンランド西部・カナダ北極圏では2010年の夏が過去600年間では最も温度が高かったことが示された。

Climatic control of bedrock river incision
河川による基盤岩の下刻に対する気候のコントロール
Ken L. Ferrier, Kimberly L. Huppert & J. Taylor Perron
河川による基盤岩の下刻が地球表層の地形発達を支配している。しかしこれまで降水量が下刻にどのような影響を及ぼしているかを定量的に評価することは困難であった。ハワイ島の降水量が大きく異なる斜面において下刻の影響を評価したところ、上流の降水量と下刻量の間に正相関が確認された。さらに理論的な背景を提案する。

Embryology of Early Jurassic dinosaur from China with evidence of preserved organic remains
保存された有機物の名残の証拠とともに中国から得られたジュラ紀初期の恐竜の発生学
Robert R. Reisz, Timothy D. Huang, Eric M. Roberts, ShinRung Peng, Corwin Sullivan, Koen Stein, Aaron R. H. LeBlanc, DarBin Shieh, RongSeng Chang, ChengCheng Chiang, Chuanwei Yang & Shiming Zhong
恐竜の胚の化石はきわめてまれであり、その成長パターンについてはほとんど分かっていない。ジュラ紀前期に相当する地層から発掘された竜脚形亜目(おそらくルーフェンゴサウルス; Lufengosaurus)の骨の分析から、初期の成長が早く、孵卵期間の短さが竜脚形類の特徴であったことが示された。

Predominant archaea in marine sediments degrade detrital proteins
海洋堆積物で支配的な古細菌が砕屑タンパク質を分解する
Karen G. Lloyd, Lars Schreiber, Dorthe G. Petersen, Kasper U. Kjeldsen, Mark A. Lever, Andrew D. Steen, Ramunas Stepanauskas, Michael Richter, Sara Kleindienst, Sabine Lenk, Andreas Schramm & Bo Barker Jørgensen
海洋堆積物中にいる古細菌の優先種には「Miscellaneous crenarchaeotal group; MCG」と「marine benthic group-D; MBG-D」がいる。遺伝子分析から、これらの古細菌は進化系統樹の中の新たな枝に位置することが分かり、貧酸素の海洋堆積物中のタンパク質分解に重要な役割を負っていることが示唆される。