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2013年4月24日水曜日

「南極海 極限の海から(永延幹男、2003年)」

南極海 極限の海から
永延幹男
集英社新書(2003年、680円)

基本的には南大洋の気候とそれに適応して棲み分けを行っているオキアミ、さらにはオキアミに支えられる生態系をめぐる話が中心となっている。

さらには近年のオゾン層破壊・温暖化が南大洋に与えている影響にも触れ、小さいながらも警鐘を鳴らす。

自分自身、気候という視点でしか南大洋を勉強してこなかったため、プランクトンの分布という新たな視点で海を捉えることもできるという、目からウロコ的な感覚を覚えた。

氷期-間氷期スケール、さらにはそれよりももっと長いスケールでも地球システムにとって重要な役割を負っていた南大洋。興味は尽きない。

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南極海は、自然としての環境も極限ならば、環境の異変も切迫した状態です。(pp. 12)

船乗りの言い習わしでは、南半球の暴風圏の荒々しさを、緯度にあわせてこう表現します。「吼える40度、狂暴の50度、号泣の60度」(pp. 18)
※昔から、南大洋の海の荒さは有名です。

仮に、南極大陸の氷床がすべて融けて、海に流れ込んだとしたら、現在の地球の海面水位は、70〜90m上昇するといわれています。そうなれば、地球各地のヒトの生活地帯の多くはもちろん、大都市のほとんどが水没することになりますが、たとえ地球温暖化が進んだとしても、21世紀中に融け出すことはないだろうと考えられています。(pp. 37)

温暖化が進むと、海面の冷却が弱まり、水温が低下せず、水が重たくなりません。すると、南極底層水としての沈み込みが少なくなります。南極底層水の減少は、地球規模の深層大循環に異変をきたします。さらに温暖化は、冷却による海水と大気との混合を減少させて、大気中からの二酸化炭素の取り込み量を減らします。これは、地球環境にとっていっそうのマイナス材料となります。(pp. 50)
※これら2つの現象は最近でも頻繁に報告されています。南大洋の深層水循環・炭素循環は、実は熱帯域をはじめとする世界中の海に影響を与えていることが知られています。

オキアミは、南極自然生態系の食物連鎖の要としてばかりでなく、ヒトの食糧資源としても大きな期待があります。地球最大級の動物性タンパク資源として、人口爆発による食糧危機を救う、生物資源であるという熱い期待です。ヒトの利用による枯渇の心配がないほどに、莫大な資源量があると考えられているからです。(pp. 67)
※しかし海洋酸性化をはじめとする気候変化で食物連鎖に今後どのような影響が出るんでしょうね?オキアミを原料にした魚肉ソーセージもあるとか。ちなみに食糧不足を見越して、人口肉の生産も盛んに研究がなされているそうです。

今のところオキアミ利用は、ヒトの食糧危機を救済するといった、高邁な理念とはほど遠い状態です。しかし近い将来の地球人口の大増加にそなえて、オキアミに対する世界の潜在的な期待は、いっそう深まっているようにみえます。世界的に需要が高まれば、供給のために漁獲が一気に増大する可能性があります。(pp. 70)

ただし、一部では森林増加、農作物生産の増加、降水量増大による水不足解消、冬季温暖化などの好影響も考えられる。(pp. 119)
※地球温暖化は必ずしも悪いことばかりではありません。海洋酸性化も同じことです。どちらが好ましいかを決めるのは、結局はヒトであって生態系はそれに従って変化し続けるだけです。

南極海の水温上昇は、海氷を融かし、オキアミなどの南極生態系に影響することはもちろんのこと、ギルも論文の中でも述べていますが、その影響は地球規模におよぶ可能性があります。(pp. 128)
※ただし、最近では南極からの融水の増加に伴う海氷範囲の’拡大’が報告されるなど、事態はより複雑化しています。海氷に支えられる南大洋の生態系にはどのような影響が出るんでしょうか?

南極半島域の棚氷変動を追跡している、南極調査所の氷河学のD・ボーンは、「温暖化が進むにつれて、南極半島の棚氷が近い将来に壊滅することは、1998年に予測していたが、これほど速いスピードで崩壊が進むとは唖然とさせられる。わずか1ヶ月半たらずで、5000億トンもの棚氷が崩壊したとは、とても信じ難いことだ」とコメントしています。(pp. 132)
※もちろん我々がいま見ているのはたかが数十年間の姿でしかありません。特に高緯度域は観測期間も短く、ダイナミックな現象が起きているので、いま起きていることが本当に異常現象なのかは常に批判的に見る必要があります。少なくとも、グリーンランドも、北極の海氷も、我々の期待よりもはるかに早く気候変化(変動?)を経験しているようです。

「疑わしき程度では罰せず」という、長い間の危うい道草でした。もし、モントリオール議定書がなければ、オゾン層破壊物質の量は、2050年までに現在の5倍となっていただろうと言われています。(pp. 135)
※実は成層圏のオゾンの量も南大洋の気候に影響を与えています。オゾン破壊の原因となったCFCs(いわゆるフロンガス)は自然には存在しない人口物質だったため、悪い物質なのだという認識が広がりやすく、迅速な排出規制ができました。しかしCO2の場合、自然にもとからある物質でもあるので(当然エネルギー問題とのからみもあり)、なかなか温暖化の原因物質であるという認識が浸透しなかったのではないでしょうか。あくまで個人的な考えですが。

人為的な水槽実験と、自然界の野外フィールドとでは、環境が異なります。野外の環境の複雑さを考慮する必要があります。(pp. 149)
※海洋酸性化実験にも同じことが言えます。

統計学的に有意な相関関係が見いだせたとしても、原因と結果を示す因果関係を説明したことにはなりません。(pp. 154)
※地球システムには往々にして原因不明の相関関係が見いだされます。

オゾン層を破壊したのがヒトならば、それを刻々とモニターできるのもヒトです。(pp. 162)