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2013年4月26日金曜日

過去2,000年間の地表気温と地球温暖化(PAGES 2k Network, 2013, Ngeo)

Continental-scale temperature variability during the past two millennia
過去2,000年間の大陸スケールの温度変動

PAGES 2k Network
Nature Geoscience, advanced online publication (2013)

PAGESとはPast Global Changesの略称で、古気候学の国際コミュニティーの一つです。

日本人も多く関わっており、横山祐典准教授も現在、科学策定委員(Science Steering Comittee; SSC)の一人です。

今回の論文はPAGESの中でも過去2,000年間に対象を絞ったワーキング・グループ(PAGES 2k)による成果で、特に太陽活動・火山噴火・人為起源温室効果ガスなどが気候にどのような影響を与えているかを比較的最近の地質学記録から評価しているコミュニティーになります。

近年の温暖化が本当に異常な現象であるかを判断するには、観測記録を超えたより長い時間スケールの記録が必要となります。

最近古気候記録をコンパイルし、温暖化を論じる論文が多数報告されています。
例えば、以下の重要な2例が挙げられます。

Global warming in an independent record of the last 130 years
過去130年間の独立した記録の中の地球温暖化
Anderson, D. M., E. M. Mauk, E. R. Wahl, C. Morrill, A. Wagner, D. R. Easterling, and T. Rutishauser
GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, doi:10.1029/2012GL054271 (2013)

Recent temperature extremes at high northern latitudes unprecedented in the past 600 years
過去600年間で例を見ない近年の北半球高緯度域の温度異常

Martin P. Tingley & Peter Huybers
Nature, 496, 201–205 (11 April 2013)


以下に各章の要点をまとめておきます。

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The PAGES 2k Network and temperature reconstructions
PAGES 2kネットワークと温度復元

PAGESは世界の各地域(北米×2・南米・アジア・ヨーロッパ・オーストラリア・北極圏・南極)についてそれぞれのコミュニティーによって構成され、それぞれの地域には古気候記録の解釈に精通した専門家がいる。

地表のおよそ36%の古気候記録をカバーしているが、アフリカのみはまだ信頼に足るデータが不足している。

古気候記録として用いられているものとしては、511例の木の年輪、花粉、サンゴ骨格、湖の堆積物、海洋堆積物、山岳氷河、鍾乳石、歴史文書などが含まれ、時間解像度は一般に1年スケールである。
それらはNOAAの気候データベース(NOAA NCDC Paleoclimate Data)で公表されている。

各ワーキング・グループにおいてそれぞれ個別に温度復元がなされている。プロキシ(間接記録)によっては時間解像度が甘かったり、年平均というよりも特定の時期の温度復元になっていたり、海と陸の記録が混在していたりする。
例えば、アジア地域の記録は夏の年輪に基づいた記録のみ、など。

数十年変動の評価の際には、記録を30年平均した。

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Millennial Cooling
千年スケールの寒冷化

南極を除き、すべての地域で過去千年間は寒冷化の傾向にあり、近年は温暖化している。長期的な寒冷化は統計的にも有意である。
北米の記録のみ、木の年輪の場合弱い有意性、花粉記録の場合、有意性は見られない。

独立した、海のワーキング・グループ(PAGES Ocean2k)から得られている過去2,000年間の海水温の変化の傾向とも整合的である。

16世紀〜10世紀の寒冷化が顕著。原因としては総日射量・火山活動・地表の変化・軌道要素による日射量変動などが地球システムモデルなどからも示唆されている。

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Multi-decadal to centennial variability
数十年から百年スケールの変動

数十年スケールの温度の変動は地域間で大きく食い違った。均一の放射強制力と言うよりはむしろ大気の変動のモードの違いなどを反映していると思われる(北極振動など?)。

AD1580年には南極を除くすべての地域が寒冷な時期に入る。

過去1,000年間の気候はよく
中世気候変調期(温暖期), Medieval warm Period, MWP」
小氷期(寒冷期), Little Ice Age, LIA」
に大別されるが、その時空間変動は不均質である。

今回のコンパイルからは全球的な温暖化・寒冷化といった傾向は見られなかった。全体的な寒冷化の傾向の上に、各地域ごとの数十年スケールの変動が見られている。

寒冷な時期の放射強制力としては太陽活動火山活動の2つが主たる要因として挙げられる。しかし大きな放射強制力にも関わらず、全球が均質に寒冷化したわけではなかったようである。例えば、オーストラリア・南米・北米の木の年輪記録には、AD1251-1310における顕著な温度変化は見られない。

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Twentieth-century reconstructed temperature
20世紀の復元温度

南極を除き、20世紀の温度は最も温暖な時期に相当する。南極の温暖化が顕著でないのは、周囲の海洋の莫大な熱容量が原因と考えられる。
全球平均に比べ、北半球は約2倍、北極圏は3倍温暖化している。

ただし、30年平均値を比較した場合、
北極圏だと最近のAD1971-2000の30年間よりも、AD1941-1970の30年間の方が温暖であり、
南米だとAD1971-2000の30年間はAD1251-1280の30年間と同程度であり、
ヨーロッパだとAD1971-2000の30年間よりもAD21-80の方が温暖である。

AD1500まで遡ることができる323例の個々のプロキシごとに最近のAD1971-2000が最も温暖かどうかを評価したところ、半数以上がそうであった。
またAD500まで遡れる52例のプロキシもまた半数以上がそうであった。

まとめると、19世紀頃から始まる地球温暖化は、(南極を除き)全球的に見られる長期的な寒冷化の傾向を打ち消している。

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