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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年4月19日金曜日

新着論文(Science#6130)

Science
VOL 340, ISSUE 6130, PAGES 237-396 (19 APRIL 2013)

Editors' Choice
Poor Replacements
不適切な置き換え
Conserv. Biol. 10.1111/cobi.12038 (2013).
草食動物の損失は生態系全体に大きな波及効果をもたらすため、似た草食生物を補うことで本来の働きを取り戻させるという方法が存在する(ecological equivalency)。しかし、生態系においては予想外のことがよく起きるため、その実行には注意が必要である。ガラパゴス島のPinta島において、絶滅したゾウガメの代わりに別の2種のゾウガメを運んで生態系への影響をモニタリングしたところ、驚くことに2種は棲み分けを行い、そのうちの1種は絶滅した種(トゲのあるサボテンを食べ、種をばらまくのに一役買っていた)にうまく置き換われることが示された。

Simulating Titan’s Atmosphere
タイタンの大気をシミュレーションする
Nat. Comm. 4, 1648 (2013).
土星の衛星の一つ、タイタンは窒素とメタンの厚い大気を持ち、大気上層における光化学反応によって生成される重合体(tholin)がタイタン特有の黄色の色を発するもととなっている。タイタンに存在するdicyanoacetylene (C4N2)を実験室内で合成し、光の吸収をシミュレーションしたところ、波長355nm付近で光化学反応によってtholinが合成されることが示された。

News of the Week
Long-Lost Mars Lander Found?
長い間迷子になっていた火星の着陸船が見つかった?
1971年に旧ソ連の無人探査機Mars 2が火星に衝突した。その後継機であるMars 3は無事着陸できたものの、その15秒後に急に通信が途絶えた。今年4/11にNASAの Mars Reconnaissance OrbiterがMars 3の部品の一部と思しきものを発見した(パラシュートや熱シールドなど)。

More Hints of Dark Matter?
ダークマターにより大きなヒント?
ミネソタ州北部の713深に存在するSuper Cryogenic Dark Mat- ter Search (SuperCDMS)の実験施設において、ダークマター粒子が原子核と衝突したかもしれない3回のイベントが検出された。しかし全く確証は得られておらず、大発見とは言えない段階だと言う。ライバルであるXENON Dark Matter Projectもまた曖昧ながら類似したシグナルを検出しており、もしかしたら1〜2年内に大発見が生まれるかもしれないという。

News & Analysis
Archaeologists Say the ‘Anthropocene’ Is Here—But It Began Long Ago
考古学者は’人類の時代’は今だと言うが、それはかなり前から始まったものだ
Michael Balter
地質学者をはじめとする科学者は声高に人類による環境への影響で特徴付けられる昨今を新たな地質時代(’人類の時代’)として定義しようとしている。ホノルルで行われたアメリカ考古学学会(Society for American Archaeology)のミーティングで、地質時代の人類と人間活動を研究する考古学の分野も、議論において発言権を発揮すべきだという意見が出た。

Kepler Snags Super-Earth-Size Planet Squarely in a Habitable Zone
ケプラーが生命存在可能帯に存在する超地球サイズの惑星をはっきりと捉えた
Richard A. Kerr
ケプラー宇宙望遠鏡を使って系外惑星を探っている研究チームが、ついに地球の1.41倍のサイズの岩石型惑星を発見した。そこには栄養があり、暖かい大気があり、湖があり、小川があるかもしれない。しかしまだ想像の段階に過ぎず、そうでない可能性もある。系外惑星探査ではサイズや惑星の年齢は推定できるが、大気組成まではまだ分からないからである。ハビタブルゾーンの中にあったとしても、地球と同じような大気組成で、さらに二酸化炭素による温室効果が適度に機能している必要がある。Kepler-62fは「系外惑星探査の聖杯(Holy Grail of exoplanetology)」になるかもしれないと期待が高まっている。

Survey of Peers in Fieldwork Highlights an Unspoken Risk
John Bohannon
野外調査をする女性に対するセクハラのリスクが極めて大きいという結果が。

News Focus
Chasing Ants—and Robots—to Understand How Societies Evolve
どのように社会が進化するのかを理解するために蟻とロボットを追いかける
Elizabeth Pennisi
Laurent Kellerの進化に対する熱意は蟻からさらには遺伝子、ロボット、たのアプローチへと広がる。

The Private Lives of Ants
蟻の私生活
Elizabeth Pennisi
6年前、Laurent Kellerの学生であったDanielle Merschは火アリ(fire ants)の社会システムを解明した。

Letters
Drought and China's Cave Species
乾燥化と中国の洞窟の生物種
Shu-Sen Shu, Wan-Sheng Jiang, Tony Whitten, Jun-Xing Yang, and Xiao-Yong Chen

Little Emperors Pose Behavioral Challenges
小さな皇帝が行動の問題をもたらす
Lisa Cameron, Nisvan Erkal, Lata Gangadharan, and Xin Meng
小さな皇帝=中国の一人っ子

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Research
Perspectives
Climate's Dark Forcings
気候の暗い力
Meinrat O. Andreae and V. Ramanathan
大気中のブラック・カーボン(煤)の特性と量に関する不確実性が、我々が地域的な・全球的な気候を理解しようとする努力を妨げている。

Great Apes and Zoonoses
大型類人猿と人獣共通感染症
Paul M. Sharp, Julian C. Rayner, and Beatrice H. Hahn
エイズとマラリアの起源を比較することで、将来の猿から人への感染症の伝染に対する予測が得られるかもしれない。

Research Article
Pervasive Externalities at the Population, Consumption, and Environment Nexus
Partha S. Dasgupta and Paul R. Ehrlich
人口増加と大量消費によってもたらされる経済的な結果がもたらす課題解決には、社会全体の行動が必要である。

Reports
Reorganization of Southern Ocean Plankton Ecosystem at the Onset of Antarctic Glaciation
南極の氷河化の始まりにおける南大洋のプランクトン生態系の再編成
Alexander J. P. Houben, Peter K. Bijl, Jörg Pross, Steven M. Bohaty, Sandra Passchier, Catherine E. Stickley, Ursula Röhl, Saiko Sugisaki, Lisa Tauxe, Tina van de Flierdt, Matthew Olney, Francesca Sangiorgi, Appy Sluijs, Carlota Escutia, Henk Brinkhuis, and and the Expedition 318 Scientists
南極を取り巻く南大洋は生態系と炭素循環にとって非常に重要な地域である。しかしながら、そうした特異的な生態系の開始時期はよく制約できていない。dinoflagellate cystの化石記録から、南大洋のプランクトン生態系の形成時期はOligocene初期の南極の氷河化のタイミングと一致していること(33.6Ma)が示された。氷河化に伴う氷床の成長、海氷の形成が栄養塩に富み、季節的に生産性が強化される環境を形成し、生態系のシフトに重要な役割を負っていたと考えられる。

Global Charcoal Mobilization from Soils via Dissolution and Riverine Transport to the Oceans
溶解と河川による輸送を介した全球的な炭の土壌から海への流動化
Rudolf Jaffé, Yan Ding, Jutta Niggemann, Anssi V. Vähätalo, Aron Stubbins, Robert G. M. Spencer, John Campbell, and Thorsten Dittmar
森林火災・草原火災などによって生じる大量の炭(charcoal)が土壌や堆積物に保存されるが、そうした炭の溶存成分が河川などを通じて海へともたらされる割合を定量化した。DOCの10%に相当する量が溶存態の炭として運ばれていることが分かった(年間26.5 ± 1.8 Mt)。炭とDOCとは機械的に結合して流出している可能性がある。

Resilience and Recovery of Overexploited Marine Populations
過度に漁獲された海の個体群の耐性と回復力
Philipp Neubauer, Olaf P. Jensen, Jeffrey A. Hutchings, and Julia K. Baum
過度に漁獲された海洋個体群の回復は遅く、ほとんどが目標とするレベルよりも低く収まっている。それが果たして人類による漁業の規制が不足している(魚穫量が大きい)ことが原因なのか、それとも個体群の耐性が弱まったことが原因なのかはよく分かっていない。過度な漁獲の程度が比較的小さいと回復は早いが、大きいと再建に時間がかかるだけでなくその回復に要する時間も不確実性が大きくなることが分かった。頃合いを見計らった、決定的な漁獲量の削減を行うことで不確実性が大幅に低下する。逆に言えば、現在破壊し尽くされた漁場の回復は見込みが薄いということになる。