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2013年9月18日水曜日

Nature Geoscienceからリジェクト、その反省と分析

昨晩、先生から「残念です」とのメールが。

僕が筆頭で書いていた論文のリジェクト(掲載拒否)の知らせでした。
Nature Geoscience誌に投稿してから10日以上が経過し、「便りがないのは逆にいい知らせ…これはreviewに回るかも…」と先生や他の共著者の方々と期待に胸を膨らませていたのですが、残念ながら今回は力及ばず。

反省の意味もこめて、編集者からのコメントを振り返って、どこがダメだったのか考えてみたいと思います。


メールの本文はここでは載せることはできませんが、非常に丁寧な文体で(おそらく数多くのリジェクトになった研究者に送るためのテンプレートだとは思いますが)、後半に少しだけ論文の内容に触れた部分がありました。
一応投稿された論文のほとんどにはきちんと目を通しているのかな?という印象を持ちましたが、後半の方で「最近は投稿数も非常に多く、また発行できる論文数にも限りがあることから…」などと、返答が遅れたことに関しても謝罪の文がありました。

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※補足
The paper trail
2014年1月号のNature Geoscience誌の社説で、投稿された論文がどのように査読プロセスを経たかを説明したもの。2013年には2,000件を超す投稿があり、うち受諾されたのはわずか「177」件。
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Nature誌(姉妹紙含む)の最大の特徴としては、
  • アクセプト(受理)率が非常に低いこと(目安14本に1本)
  • 科学的に飛躍的な進歩が期待され、より広い分野に影響を及ぼしうる研究結果であることが求められる

今回、僕らの研究がリジェクトになった理由は2つ目の特徴と大きく関係があります。

これは共著者であるPDからも投稿前に指摘されたことですが、「この研究結果がなくても、先行研究だけで話が作れて、科学的な進展はそんなに大きくない。驚きもそれほど大きくない」ということ。
  • 研究に使っている試料は世界でも指折りの一級品(特に統合深海掘削計画:IODPのものなので数億〜の国費が投入されている)
  • 国際的な交渉の席で先生が試料の取得にかなり腐心し、極めて良質な試料が得られた
  • 研究に用いた測定手法も世界最高水準
  • 分析そのものが困難であり、研究手法の開発には数年を要した(僕自身2年かけてようやく取得できた、なけなしのデータ)
この辺りが僕らの推しどころであり強みなのですが、ただ、それはもちろん論文には基本的には記載はされていませんし、雑誌の編集部にとってみれば判断材料にも挙がらないのかもしれません。

出版社はあくまで学会に影響を与える雑誌を多く掲載することでお金を稼ぐ営利団体なので、そのあたりの背景はほとんど意味をなさないということなのでしょう。
それは科学に厳しく、極めて広い読者層を持つNature誌だからこそ、ともいえます。

逆に大型プロジェクト(惑星探査計画など)が載りやすいScience誌などをはじめからターゲットにしておいた方が正解だったのかもしれない…仮定の話ですが。

ある意味で、測定値が得られた段階で、既にNature誌に載るかどうかの分かれ道が決まっていたとも言えます。
そう考えると、偶然性も関係してくるので、今回のリジェクトに対する悲壮感が多少軽減されます(いい地質学試料に巡り会うかどうかも、結局運次第…的な)。

結局のところ、考察や解析手法の新規性にはほとんど価値を見い出してもらえず(プロジェクト自体は僕が研究室に配属される以前から走り始めていたので、ここが僕の貢献できた箇所です)、共著者の懸念が正しく、我々が今回新たに得た結果がすべてだったわけです。

これがもし、「分析技術の飛躍的な向上によって初めて見分けることのできた新事実が浮かび上がった」
だったらどうだったのでしょうか?それはかなりいい推しどころです。
しかし、それを全面に押し出せるほどにはまだ手法そのものに不確実性が大きく、さらに大きな自然変動もそれを隠してしまうと思います。

或いは
「データそのものの新規性よりも、解析手法を変えて先行研究を否定する結果が得られた」
「別の独立した解析手法を用いて、先行研究で示唆された推定をいっそう補強する結果が得られた」
というのであれば?
これらは一番分かりやすいアピールの仕方だと思います。
ただし、今回僕らが得たデータは、’残念なことに’先行研究と非常に整合的な記録でした。
今回用いられた手法は、細部は厳密には違いますが、大きくは同じ同位体(δ11B)を用いた手法であって先行研究とほとんど変わりありません。

僕ら地球化学者は新たなデータを取得することが基本的な仕事であり、これまでのデータのコンパイルではあまり評価されません。
データが何を物語っているかを最終的に判断するのは人間ですが、結局のところ試料は自然物であって、真理との巡り会わせには先見の明だけでなく偶然性も大きく関与します(もどかしいことに)。

また2003年と2010年に似た研究手法、近い研究対象地で既に先行研究があったのも今回のリジェクトの原因の1つとコメントにありました(2003年のものはScience誌に論文が掲載)。
しかし逆にその2例が先に道筋を示してくれていなければ、僕が解釈を深めることが難しかったのも事実です。
でも結局それが編集部が僕らの研究を評価するに至らないと判断した最大の理由です。

解釈や書き方ももちろん重要。だけどもっと重要なのはデータそのもの。

今回得た教訓です。