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2012年2月23日木曜日

海水のpHの定義

海水のpHは海洋の炭素循環において重要な役割を負っており、人為起源の二酸化炭素放出を原因とする海洋酸性化が現在も進行している。しかしながら海水のpH測定は海水の化学特性のために複雑になっており、海洋化学の分野ではいくつものpHのスケールが存在する。
ここでは現在使われているpHのスケールを簡単にまとめてみたい(ほとんどwikiの和訳)。

※追記
1年後に書いた記事「海水のpHの定義(改)



海水のpHのスケールの定義について
1、NBSスケール
2、全水素イオン濃度スケール
3、解離水素イオン濃度スケール
4、海水スケール (SWS)

1、NBSスケール
IUPAC は広い範囲のpHにわたって緩衝溶液を定義している。これらはしばしばNBS/NIST緩衝溶液と称される。しかしこれらの緩衝溶液は海水と比べると低いイオン強度をもつため(NBS/NIST緩衝溶液:~0.1 海水:~0.7)、電極の電位の違い(いわゆる液間起電力差)を生むため、海水のpHを測定するのには推奨されていない。

この緩衝溶液を使って測定されたpHは通常「pHNBS」と表記される。
※ IUPAC (International Union of Pure and Applied Chemistry)
※ NBS (National Bureau of Standards)
※ NIST (National Institute for Standards and Technology
アメリカ国立標準技術研究所、NBSの現在の名称

2、全水素イオン濃度スケール
この問題を解決するため、人工海水をベースとする別の緩衝溶液が開発され、Tris-pH標準溶液と呼ばれている。この新しい緩衝溶液は測定したい試料と緩衝溶液の間のイオン強度を解決し、新たに導入されたpHのスケールは「total scale; pHtotal; 全水素イオン濃度スケール」と呼ばれている。全水素イオン濃度スケールは硫酸イオン(SO42-)を含んだ媒質を用いて定義される。亜硫酸イオン(HSO4-)は水中で解離することにより

HSO4- ⇌ H+ + SO42-

となる。そのため全水素イオン濃度スケールは亜硫酸イオンの解離に用いられる自由水素イオンの影響を考慮しているスケールということになる。

[H+]total = [H+]free + [HSO4-]

3、解離水素イオン濃度スケール
別のスケールは「free scale; pHfree; 解離水素イオン濃度スケール」と呼ばれ、上記の硫化物イオンの影響を差し引いて、純粋な解離水素([H+]free)だけに焦点を当てたものである。より単純に水素イオン濃度を表現できる表記となっている。測定の原理上、解離水素イオン濃度のみを測定することはできず、測定可能なのは全水素イオン濃度である。そのため解離水素イオン濃度を求めるには、硫酸イオン濃度(SO42-)と亜硫酸イオンの解離定数(KS*)から以下の式に示される計算によって求める必要がある。

[H+]free = [H+]total - [HSO4-]
= [H+]total* ( 1 + [SO42-]/KS*)-1

ここで

KS* = ([H+]free*[SO42-])/[HSO4-]
しかしながら、海水中の亜硫酸イオンの解離定数を見積もることは難しく、解離水素イオン濃度スケールの有用性を制限している。

4、海水スケール (SWS)
別のスケールは「SWS; pHSWS; 海水スケール」と呼ばれ、亜硫酸イオンに加えてフッ酸の解離も考慮している。フッ酸の解離は以下の式で表される。

HF ⇌ H+ + F-

従って海水スケールは以下の式で定義される。

[H+]SWS = [H+]free + [HSO4-] + [HF]
= [H+]free*(1 + [SO42-] / KS* + [F-]/KF* )

ここでフッ酸の解離定数 (KF*)は

KF* = ([H+]free*[F-])/[HF]

である。しかしこれほど複雑な部分まで考慮するべきか否かは媒質中のフッ素の存在量による。例えば海水中では亜硫酸イオンの濃度はフッ酸濃度の400倍と大きく異なる。結果として全水素濃度スケールと海水スケールの違いは非常に小さく、実用的には差はそれほど生まれない。


<まとめ>
3つのpHの定義をまとめると、

pHfree = - log ([H+]free)

pHtotal = - log ( [H+]free + [HSO4-] ) = - log ([H+]total)

pHSWS = - log ( [H+]free + [HSO4-] + [HF] ) = - log ([H+]SWS)

である。実用的にはpHのスケールの違いにより最大で0.12(※本当?)の差異が生まれる。この違いは海水の炭酸系の記述をするために求められるpHの測定精度よりもはるかに大きい。そのためスケールの違いには留意する必要がある。
解離水素イオン濃度スケールは亜硫酸イオンとフッ酸の効果を考えていないため、全水素濃度スケール・海水スケールとは大きく値が異なる。海水中におけるフッ酸の寄与は比較的小さいため、全水素濃度スケールと海水スケールはほんのわずかの違いしかない。

またNBSスケールと海水スケールの変換は以下の式に従う(ただし、T=25ºC、S=35のとき)

pHSWS = pHNBS - 0.147 [Millero, 1979]


Total scaleは他のスケールに比べて(T=20ºC、S=35のとき)、

  • free scaleより「0.09」小さい
  • 海水スケールより「0.01」高い
  • NBSスケールより「0.13」小さい

[Lewis & Wallace, 1998; http://cdiac.ornl.gov/oceans/co2rprt.html]


※文献によって違う。要確認。


※コメント
昔はNBSを使っていた。最近はSWSよりも寧ろtotal scaleが望ましいらしい。おそらく解離水素イオン濃度スケールは非実用的で今は使われていない。