The effect of skeletal mass accumulation in Porites on coral Sr/Ca and d18O paleothermometry
産総研・鈴木淳さんも共著の論文。
ハマサンゴ(Porites spp.)のSr/Ca温度計が有孔虫のMg/Ca、アルケノン温度計などと比べて古水温を’低く’見積もる傾向がある原因について。
サンゴは一瞬で石灰化をするのではなくある程度の時間をかけて(あるものは数ヶ月、あるものは1年程度)石灰化をするため、実際の古環境記録がなめされてしまう。
この効果を「bio-smoothing」と呼ぶ。
骨格の成長速度と有機物付着部の深度(石灰化が起こっている範囲)が関数らしい。
そのため例えばよく用いられる夏冬の水温の極値を利用したSr/Ca-SST補正をするとbio-smoothingの影響を被った補正式ができてしまう。
これをそのまま化石試料に応用した場合、平均値が実際の水温よりも低く見積もられることになる。
この「bio-smoothing」の効果は川久保さんがやっているような長尺ハマサンゴを用いた水温の季節変動復元の際にはほとんど影響しない(bio-smoothingの効果が現在も過去も一定ならば)が、自分や関さん、俵がやっているような化石ハマサンゴの平均値や夏/冬の最高/最低水温を比較するような場合、biasがかかってしまう。
これまで一般にCorrege (2006, PALAEO3)の「-0.0607 mmol/mol/℃」という傾きが使用されてきたが、「-0.084」という傾きがbio-smoothingの効果を補正したのちの値として推奨される。
ただし個人的には「-0.084」がすべてのハマサンゴに共通するとは思えない。各海域の各ハマサンゴごとに厳密に検討した上で化石試料に適用する必要がある。
自分が研究で使っているタヒチの化石ハマサンゴのSr/Caも傾きを「-0.08」に近づけた方がより堆積物コアのMg/Ca温度計を使った古水温復元結果と整合的だった。従来の「-0.06」では低くなりすぎる。
Kiefer & Kienast (2005, QSR)の太平洋の最終退氷期の古水温復元のレビュー論文でもYDやH1のような大西洋高緯度域で顕著な寒冷化は赤道・亜赤道太平洋の堆積物コアから復元した古水温(Mg/Ca、有孔虫群衆組成のtransfer function、アルケノン等)には見られない。またLGMでも水温低下はせいぜい2-3℃。Asami et al. (2009, EPSL)が報告しているようなYDの5-6℃の温度低下があったとは考えにくい。またDeLong et al. (2010, G3)、Inoue et al. (2010, Marine Geology)の古水温復元結果も温度が低すぎる。
サンゴのSr/Ca古水温計を使う上で必ず考慮しなければならないのは
Michael K. Gagan, Gavin B. Dunbar, and Atsushi Suzuki
PALEOCEANOGRAPHY, VOL. 27, PA1203, doi:10.1029/2011PA002215, 2012
ハマサンゴ(Porites spp.)のSr/Ca温度計が有孔虫のMg/Ca、アルケノン温度計などと比べて古水温を’低く’見積もる傾向がある原因について。
サンゴは一瞬で石灰化をするのではなくある程度の時間をかけて(あるものは数ヶ月、あるものは1年程度)石灰化をするため、実際の古環境記録がなめされてしまう。
この効果を「bio-smoothing」と呼ぶ。
骨格の成長速度と有機物付着部の深度(石灰化が起こっている範囲)が関数らしい。
Gagan et al. (2012) Fig.5を改変 ハマサンゴの中には「Sharp」に(直ちに)石灰化をするものと「Smooth」に(ゆっくり)石灰化をするものがあり、骨格の成長速度が遅いハマサンゴの場合、長期間の環境情報がなめされてしまう(「bio-smoothing」) |
そのため例えばよく用いられる夏冬の水温の極値を利用したSr/Ca-SST補正をするとbio-smoothingの影響を被った補正式ができてしまう。
これをそのまま化石試料に応用した場合、平均値が実際の水温よりも低く見積もられることになる。
この「bio-smoothing」の効果は川久保さんがやっているような長尺ハマサンゴを用いた水温の季節変動復元の際にはほとんど影響しない(bio-smoothingの効果が現在も過去も一定ならば)が、自分や関さん、俵がやっているような化石ハマサンゴの平均値や夏/冬の最高/最低水温を比較するような場合、biasがかかってしまう。
これまで一般にCorrege (2006, PALAEO3)の「-0.0607 mmol/mol/℃」という傾きが使用されてきたが、「-0.084」という傾きがbio-smoothingの効果を補正したのちの値として推奨される。
ただし個人的には「-0.084」がすべてのハマサンゴに共通するとは思えない。各海域の各ハマサンゴごとに厳密に検討した上で化石試料に適用する必要がある。
自分が研究で使っているタヒチの化石ハマサンゴのSr/Caも傾きを「-0.08」に近づけた方がより堆積物コアのMg/Ca温度計を使った古水温復元結果と整合的だった。従来の「-0.06」では低くなりすぎる。
Kiefer & Kienast (2005, QSR)の太平洋の最終退氷期の古水温復元のレビュー論文でもYDやH1のような大西洋高緯度域で顕著な寒冷化は赤道・亜赤道太平洋の堆積物コアから復元した古水温(Mg/Ca、有孔虫群衆組成のtransfer function、アルケノン等)には見られない。またLGMでも水温低下はせいぜい2-3℃。Asami et al. (2009, EPSL)が報告しているようなYDの5-6℃の温度低下があったとは考えにくい。またDeLong et al. (2010, G3)、Inoue et al. (2010, Marine Geology)の古水温復元結果も温度が低すぎる。
サンゴのSr/Ca古水温計を使う上で必ず考慮しなければならないのは
- 補正式の傾き
- 現生試料の群体間の平均値の違い
- 過去の海水のSr濃度
- 正しく最大成長軸方向を削っているか