Metagenomic analysis of a permafrost microbial community reveals a rapid response to thaw
Rachel Mackelprang, Mark P. Waldrop, Kristen M. DeAngelis, Maude M. David, Krystle L. Chavarria,Steven J. Blazewicz, Edward M. Rubin & Janet K. Jansson
Nature 480, 368–371 (15 December 2011) doi:10.1038/nature10576
Rachel Mackelprang, Mark P. Waldrop, Kristen M. DeAngelis, Maude M. David, Krystle L. Chavarria,Steven J. Blazewicz, Edward M. Rubin & Janet K. Jansson
Nature 480, 368–371 (15 December 2011) doi:10.1038/nature10576
とその解説記事
High risk of permafrost thaw
Edward A. G. Schuur & Benjamin Abbott
自分自身、「永久凍土」については知識が全くないので、ほとんどこれらの和訳。
Edward A. G. Schuur & Benjamin Abbott
より
永久凍土は陸域の主に高緯度地方の寒いところに存在する文字通り凍った土のことで、北半球の陸地面積の4分の1を占める(主にロシア、カナダ)。 近年の温暖化に伴いこれらの1年を通して融けることのなかった凍土が融け始めている。
ただ融けて水を放出するだけの土なら問題ない(※語弊があるかも)が、永久凍土には分解されずに残った有機物が豊富に存在する。
通常の森林であれば土壌中の落ち葉や生物の死骸はバクテリアや真菌類の活動によって速やかに分解され、主にメタンや二酸化炭素として大気中に放出される(いわゆる炭素のsource ;放出域)。
一方で永久凍土が発達するような寒帯では分解者の働きが抑制され、数千年~数万年もの間、有機物が溜まり続ける場(いわゆる炭素のsink;保存域)だった。今までは。
近年の研究で、
- ツンドラでの火災がより北方で起こるようになった
- 永久凍土に保存されていた古い炭素が放出され始めた
- 高緯度域の湖からメタンが泡になって出てきている
- 永久凍土に固定されている炭素量が従来考えられていたよりも莫大である
ことなどが新たに報告されてきたらしい。
永久凍土がこれまで注目されて来なかった背景としては、「人が住みにくい厳しい環境に存在すること」が挙げられる。
そのため今のツンドラで何が起こっているかを明らかにする研究も、モデルシミュレーションを通して将来どうなるかの予測もまだまだ発展途上で、不確実性が大きいことは断っておかなければならない。
最近の推定ではこうした永久凍土に保存されている炭素量は1,700Gt(ギガトン)で、現在大気中にある二酸化炭素量の2倍に相当。
単純にこれらの炭素が100%大気中に放出された場合、大気中の二酸化炭素量は現在の3倍の約1200ppmに達するということになる。
※恐竜が闊歩していた白亜紀頃と同じくらいの濃度
これらの見積もり量は従来の予想よりもはるかに多い。というのも、これまでの調査は永久凍土の表層数メートルに対してしかなされていなかったが、より深部に大量の有機物が存在することが明らかになったためである。
何千年もの間の炭素の蓄積と、凍っては融けてを繰り返すことで物理的に深くに埋没していくようだ(メカニズムの詳細は不明)。
永久凍土に保存されている炭素は暖かくなるとメタン+二酸化炭素の形で大気中に放出される。 それまで抑制されていた主にバクテリアの有機物分解が促進されるためだ。
しかしながら微生物がすべての有機物を分解できるわけではないので、これらの一部が分解され気体として放出されるということになる。
実はメタンも強力な温室効果気体の1つで、その効果は二酸化炭素の25倍。
しかしながらメタンは大気中で速やかに(10日程で)酸化されて二酸化炭素へと形を変える。
これらの有機物がどのように分解され、そして大気中に蓄積し、どれほどの温室効果をどれくらいの速さ・期間で発揮するかをもっと定量的に評価する必要があり、現在なお研究が続けられているようだ。
カギになるのは
- 気温
- 土壌の構成物質
- 土壌中の湿度
らしい。
やはり極限環境のため質の良いデータが得にくいのがこの分野の研究の最大の問題のようだ。
では将来の予測の話。
※不確実性を大いに含んだデータだということに注意が必要
現在IPCC(気候変動に関する政府間パネル)をもとに様々な二酸化炭素排出シナリオが想定され、色々な研究分野においてモデルシミュレーションが行われているが、 その中でも最も排出量が抑えられた場合(完全に人為的な排出がなくなった場合※まずあり得ない!)でも
北極の気温は2040年には1.5℃、2100年には2.0℃上昇する
と考えられている。
一方排出量がこれからも増加するような場合で
2040年には2.5℃、2100年で7.5℃(!)の上昇になる
と予測されている。
後者のシナリオの場合、表層3メートルの永久凍土の有機物の9-15% (炭素量にして30-63 Gt)が2040年までに融け、47-61% (232-380 Gt)が2100年までに、その後温度上昇がなかったと仮定した場合も67-79% (549-865 Gt)が分解されると予測されている。
最新の予測結果は従来の予測の1.7-5.2倍の炭素が放出されることを予測していて、
種々のプロセスを正しく理解することと、現在存在する永久凍土深部の有機物量を正しく見積もることが非常に重要であることを物語っている。
恐ろしいことに永久凍土の融解はすでに始まっていて、それを止める手だては地球の平均気温を下げるより他ない。
今後技術が発展することで発電所や自動車などから排出される二酸化炭素は特殊な装置でトラップできるようになることが期待される。最近しきりに有望な物質が次々に発表されている。
また地下或いは深海に二酸化炭素を貯留する「Carbon storage」が現実のものになることも考えられる。
しかし永久凍土の問題点は一度温度が上がると数十年から場合によっては数百年の期間に渡って炭素を放出し続けることにあり、また人工的に排出を抑えることが難しい地域にこれらが広がっていることにある。
人為的な二酸化炭素排出が抑えられた場合のシナリオでも排出がこのまま増加し続けた場合の3分の1程の炭素が放出されると予測されている。
それらはさらなる温室効果をもたらす。さらにこれらの予測結果は野外調査のデータからも支持されており、現実味を帯びているのだとか。
人類は化石燃料を燃焼(+森林破壊)することで大気中に二酸化炭素を放出し続けているが、実は永久凍土から出てくる二酸化酸素量(メタンも考慮)の放出速度は、それには及ばない。
依然として二酸化炭素の放出源は主に人類の化石燃料の燃焼であり、ただちに放出を抑える行動が必要なのは言うまでもない。