Recent contributions of glaciers and ice caps to sea level rise
Thomas Jacob, John Wahr1, W. Tad Pfeffer & Sean Swenson
Nature 482, 514–518 (23 February 2012) doi:10.1038/nature10847
と、その解説記事
Shrinking glaciers under scrutiny
JONATHAN BAMBER より。
氷河(glacier)や氷帽(ice cap)は観光や水資源の面で重要であるばかりか、それが融解することで海水準の上昇にも寄与すると考えられる。
しかしながら世界に160,000カ所ある氷河・氷床のうち、現場でモニタリングがなされているのはわずか200カ所ほど。しかもここ30年程度のデータが揃っているのはそのうち37カ所しかない。
そうした事情もあり、氷河・氷帽の観測は遅れており、気候変動に対するそれらの振る舞いの予測にも大きな不確実性が依然として存在する。
そのような現場の観測を補間する上で大きな役割を担うのが「衛星観測によるデータ」である。
Jaccob et al. (2012, nature)は衛星観測によって得られた重力データの変化から氷河・氷帽量の変化を見積もった(南極・グリーンランド氷床近傍は除く)。
もちろん衛星データから現場のデータを補間する際には様々な問題がある。
例えば
- 大きさ
- 微地形
- 高度
- aspect(様子?外観?)
- 微気候
などである。
また氷河の変動には局地的な気温や、降水量も大きく影響し、また流出した水は氷河湖に蓄えられたり海に流れ出たりとその振る舞いも複雑である。
2002年に発足したGRACE計画(Gravity Recovery and Climate Experiment)では衛星観測と現場観測によって重力の変動を観測し続け、特に南極・グリーンランドの氷床量変動などの研究に寄与してきたが、彼らの研究のように広範囲に氷河・氷帽の変動が解析されたことはなかった。
GRACEの欠点は空間解像度が荒く、氷河・氷帽1つ1つを区別できないことにある。
また観測される重力は氷の重量だけでなく
- 土壌水分量
- 大気の量(空気も積算すると大きな重量を持つ)
- 陸(地中の岩石の量)
- 海水量
などすべての総和のため、それらを区別する操作が必要なのは言うまでもない。
彼らは2003年から2010年までの8年間のGRACEの観測データに特殊な計算を施すことでそれらを上手く区別し、氷の量の変動だけを引き出した。
彼らの解析データから、これまで考えられていた量の半分以下しか氷河・氷帽は海水準の上昇に寄与しておらず(0.41 mm/yr)、特にヒマラヤ山系の氷河・氷帽はほとんど寄与していないこと(0.01 mm/yr)が分かった。
またグリーンランド・南極氷床の寄与は1.06 mm/yrと計算され、総合計は1.48 mm/yrとなり、現場で氷の量の変動を見積もった他の研究とも整合的となった。
Jaccob et al. (2012, nature) Table. 1を改変。 Rateは氷の重量の変化速度を表す。グリーンランド氷床、南極氷床、Alaska氷河の順に氷が溶けている。 |
しかしながら8年間の観測はやはり短い。
例えばアラスカの氷河の氷の量は大きく季節変動することが知られており、降水量が大きく関係するらしい。
そのためヒマラヤ山系の氷河・氷帽の変動も降水量が大きく影響するとも考えられる。
いずれにせよ、将来の氷河・氷帽の変動とそれに伴う海水準の変動を予測するためにも、今後も現場観測と衛星観測を継続してゆく必要がある。
彼らの研究は我々の氷河・氷帽に対する従来の考えを正し、将来予測をする上で重要な知見を与えたという意味で意義深い。