H. Elderfield, P. Ferretti, M. Greaves, S. Crowhurst, I. N. McCave, D. Hodell, A. M. Piotrowski
Science 337, 704-709 (2012)
とその解説記事
Ice Sheets in Transition
Peter U. Clark
Science 337, 656-658 (2012) "Perspective"
より。
ニュージーランド沖のChatham Riseから得られた堆積物コア(ODP1123)の底性有孔虫δ18OとMg/Ca分析を通して、過去1.5Maの深層水の温度・氷床量の変動とその変動メカニズムを考察。
これまでに全球の底性有孔虫δ18Oをスタックしたことで知られる、もっとも有名な’LR04曲線’はしばしば氷床量の指標とされ、それがMid Pleistocene Transition(MPT; ~1.0Ma)に4万年周期から10万年周期が卓越する氷期-間氷期サイクルへと変遷することが多くの古気候・古海洋学者によって認識されている。
(MPTを挟んで、軌道要素には大きな変化がなく、さらに10万年周期は最も弱い日射量変動をもたらすのに何故更新世後期に卓越するのかが大きな謎とされている。最近提示された説明はこちら;Abe-Ouchi et al., 2013, Nature)
ただし、底性有孔虫のδ18Oは過去の氷床量の間接指標になるとされているが、実際には’深層水の温度’の変化もまた影響しているはずである。
この問題はもう40年もの長きに渡って議論され続けているという。
そこで、本論文では、δ18Oの変動のうち温度によるものの成分(δT)を底性有孔虫Uvigerina spp.のMg/Caを用いて求めることで、氷床変動によるもの(すなわち海水のδ18Oの変化によるもの;δw)と分けて、更新世後期の気候変動やMPTのメカニズムを考察している。
「LR04曲線は北大西洋と東赤道太平洋から得られた記録がほとんどを占めているため、全球的な平均を反映していない」と指摘し、さらに「コンパイルによって真のシグナルがなめされている可能性」があるとしている。
彼らの考察のもとになっている堆積物コアが得られたのは3290m深で、現在はCircumporlar Deep Water (CDW)に満たされており、南大洋の深層水の代表として見なすことができる。
また、南大洋における傾きの大きな等密度線と表層・深層の混合過程を考えると、南極の気温として置き換えることが可能であり、これは過去800kaにおける南極アイスコアから得られている気温指標(δD)と底性有孔虫δ18Oの見事な一致からも支持される。
海水の炭酸系の変化がδ18OやMg/Ca温度計に与える影響はまだよく精査されていないものの、δ18Oの変動要因が主に「δT」と「δw」とした上で、以下の考察を行っている。
一応Uvigerina spp.については無視できる程度であるらしい。
1、深層水の温度・氷床量・海水準
一般に氷期-間氷期変動に伴う海水準の変動は「130 m(元論文中では120 m)」であり、それに伴う海水δ18Oの変化は「1.1 ‰」と推定されている。
δTとδwとを比較して興味深いのは、氷期-間氷期サイクルのうち、δTは比較的振幅が一定していて、さらに氷期の開始後、すみやかに低温状態へと達すること。このときの温度は-1.5℃程度と推定され、海水の氷結点に近い。
逆に言えば、氷結点が下限を支配していることになる。
一方のδwは1Ma以降はδ18Oの変動の半分以上を説明するものの、1Ma以前は氷床量そのものが小さく、δwの寄与率は小さかった。
また氷期-間氷期サイクルでδw(氷床量)の振幅が安定していない。
またδTと異なり、氷期の開始後、ゆっくりと値が変化する(氷床が成長する)。
まとめると、南大洋の深層水が急速に寒冷化し、その後氷床が成長することを示唆している。
2、MPTの開始時期とそのメカニズム
一般にMPTは1Maをはさむ、ゆっくりとした変遷とされているものの、彼らの記録はMIS22(~900ka)において急激に気候システムが変化したことを示唆している。
δTには長期的な低下傾向は見られないため、少なくとも深層水の寒冷化が氷床量発達の直接的な原因であったとはいいがたい。
ただし、1Ma以降の10万年周期が卓越する状態においては、より深層水の温度が氷結点近くにある状態が長期化していた傾向が見られる。
またウェーブレット解析からは、δwの10万年周期のスペクトルパワーが最大となるのは650ka頃であり、900kaの急激な変化とは時間的な遅れが見られる。
何故900kaに急激な変化が起きたかの説明は、一つ前の間氷期(MIS23)において氷床がそれほど大きく後退せず、その後のMIS22における発達を支えたこと(120mの海水準低下に相当)によって、新たな気候状態へのシフトを誘発したことである。またその時に南半球の日射量が小さかったことが、南極氷床の発達を促した可能性がある。
「LR04曲線は北大西洋と東赤道太平洋から得られた記録がほとんどを占めているため、全球的な平均を反映していない」と指摘し、さらに「コンパイルによって真のシグナルがなめされている可能性」があるとしている。
彼らの考察のもとになっている堆積物コアが得られたのは3290m深で、現在はCircumporlar Deep Water (CDW)に満たされており、南大洋の深層水の代表として見なすことができる。
また、南大洋における傾きの大きな等密度線と表層・深層の混合過程を考えると、南極の気温として置き換えることが可能であり、これは過去800kaにおける南極アイスコアから得られている気温指標(δD)と底性有孔虫δ18Oの見事な一致からも支持される。
海水の炭酸系の変化がδ18OやMg/Ca温度計に与える影響はまだよく精査されていないものの、δ18Oの変動要因が主に「δT」と「δw」とした上で、以下の考察を行っている。
一応Uvigerina spp.については無視できる程度であるらしい。
1、深層水の温度・氷床量・海水準
一般に氷期-間氷期変動に伴う海水準の変動は「130 m(元論文中では120 m)」であり、それに伴う海水δ18Oの変化は「1.1 ‰」と推定されている。
δTとδwとを比較して興味深いのは、氷期-間氷期サイクルのうち、δTは比較的振幅が一定していて、さらに氷期の開始後、すみやかに低温状態へと達すること。このときの温度は-1.5℃程度と推定され、海水の氷結点に近い。
逆に言えば、氷結点が下限を支配していることになる。
一方のδwは1Ma以降はδ18Oの変動の半分以上を説明するものの、1Ma以前は氷床量そのものが小さく、δwの寄与率は小さかった。
また氷期-間氷期サイクルでδw(氷床量)の振幅が安定していない。
またδTと異なり、氷期の開始後、ゆっくりと値が変化する(氷床が成長する)。
まとめると、南大洋の深層水が急速に寒冷化し、その後氷床が成長することを示唆している。
2、MPTの開始時期とそのメカニズム
一般にMPTは1Maをはさむ、ゆっくりとした変遷とされているものの、彼らの記録はMIS22(~900ka)において急激に気候システムが変化したことを示唆している。
δTには長期的な低下傾向は見られないため、少なくとも深層水の寒冷化が氷床量発達の直接的な原因であったとはいいがたい。
ただし、1Ma以降の10万年周期が卓越する状態においては、より深層水の温度が氷結点近くにある状態が長期化していた傾向が見られる。
またウェーブレット解析からは、δwの10万年周期のスペクトルパワーが最大となるのは650ka頃であり、900kaの急激な変化とは時間的な遅れが見られる。
何故900kaに急激な変化が起きたかの説明は、一つ前の間氷期(MIS23)において氷床がそれほど大きく後退せず、その後のMIS22における発達を支えたこと(120mの海水準低下に相当)によって、新たな気候状態へのシフトを誘発したことである。またその時に南半球の日射量が小さかったことが、南極氷床の発達を促した可能性がある。