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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English

2013年8月12日月曜日

新着論文(NCC#August 2013)

Nature Climate Change
Volume 3 Number 8 (August 2013)

Editorial
Certain uncertainty
確かな不確実さ
7月に世界気象機関が最近10年間の異常現象を分析した報告書”The Global Climate 2001–2010: A Decade of Climate Extremes”を公表した。報告書によれば、2010年は観測記録上最も暖かかっただけでなく、同時に降水も多かったらしい。2001-2010年の間でもっとも洪水が起き、その傾向は今後も継続しそうである。
 気象と気候とは別物だが、密接に関連している。例えば、北半球のジェット気流は低気圧システムを駆動しているが、近年、北極圏が温暖化するに連れて低緯度・高緯度の温度差が小さくなることでジェット気流は弱まっている。その結果南北の蛇行が大きくなり、ヨーロッパをはじめとする北半球各地で例にない気象パターンが確認されている。
[以下は引用文]
Weather is often at the forefront of the general public’s mind, influencing their thoughts on climate change. But such anthropogenic effects cannot be considered in the short term. They are expected to manifest as changing patterns outside the normal range of variability, such as that associated with long-term natural climate cycles, and an increase in the frequency and intensity of extreme weather events. But attributing individual events, or even runs of such events, to climate change is ill advised without a deep understanding of underlying physical causes and an appreciation of the statistical probability of these events given long-term natural variability.
気象はしばしば一般市民の最重要事であり、気候変化に対する考えに影響を与えている。しかしそうした人為的な影響は短期的には認識されない。長期的な自然の気候サイクルとともに異常な気象現象の頻度や強度が増すなどして、自然の変動の範囲を変化のパターンが逸脱する事ではじめて明らかになることである。しかし、「その下に潜む物理的な原因の理解」や「長期的な自然変動を考慮した上でのそうしたイベントの統計的確率の認識」なしに、個々のイベント(或いは一連のイベントである場合も)を気候変化に結びつけるのはあさはかである。

Even armed with knowledge of the historical climate system and how driving mechanisms work, it is difficult to predict how it will behave on short and long timescales.
歴史的な気候システムやどのようにしてそれを駆動するメカニズムが働いているのかの知識で身を固めていても、短期的・長期的時間スケールで気候がどのように振る舞うかを予測することは難しい。

The only sure thing is that the climate and weather in the coming years will continue to have a degree of uncertainty and surprise us.
一つだけ確かなことは、気候と気象は将来ある程度の不確かさを持ち続けることであり、我々を驚かせ続けることである。

Correspondence
Transformation is adaptation
変革は適応
Lauren Rickards

US maize adaptability
アメリカのトウモロコシの適応可能性
Wolfram Schlenker, Michael J. Roberts & David B. Lobell

Reply to 'US maize adaptability'
’アメリカのトウモロコシの適応可能性’への返答
Ethan E. Butler & Peter Huybers

Commentaries
Triple transformation
3つの変革
Farrukh I. Khan & Dustin S. Schinn
「政治改革」「国内・国際間の資源の自由化」「資源へのアクセスの改善」の3つを可能にする新たなビジネスプランによって、Green Climate Fundが発展目標と気候変化に対する行動を統合することが可能になるだろう。

Loss and damage attribution
消失とダメージの原因
Christian Huggel, Dáithí Stone, Maximilian Auffhammer & Gerrit Hansen
もし異常気象の原因を探る研究が、顕在化しつつある気候変化の政策を一般に周知させることであるならば、リスクの構成要素すべてを診断する必要がある。

Interview
The scientist politician
科学政治家
Nicola Jones
Andrew Weaverへのインタビュー。

Market Watch
The city-sized lab in the sky
都市サイズの空中実験室
メキシコシティーは27年間にわたる大気の質のデータを有する、急速に発展するメガ都市の一つである。そこから学べるものは何だろうか?

Research Highlights
Ocean carbon
海の炭素
Glob. Biogeochem. Cycles http://doi.org/m6n (2013)
1981-2010年における海洋観測記録から、海水のpCO2が大気のCO2濃度とほぼ同程度の早さか、やや遅く上昇していることが示された。短い時間スケールでは上昇速度に地域性が大きいという。また北大西洋の温暖化に伴うCO2の溶解度低下によって海のCO2吸収力が弱まることが懸念されている
>話題の論文
Global trends in surface ocean pCO2 from in situ data
A. R. Fay, G. A. McKinley

Adapting at pace
ペースを合わせて適応
Ecol. Lett. http://doi.org/m6k (2013)
生物は環境の変化に応じて適応するが、気候変化の速度に生態系が追いつけるかどうかが大きな関心を呼んでいる。2100年に予想されている気候変化に対して主要な脊椎動物が適応できるかどうかを推定したところ、過去の進化速度と今後の変化との間に大きなギャップがあることが示された。うまく適応するためには通常の1万倍という例にない速度で進化する必要がある

Monsoon arrives early
モンスーンが早く到達する
Geophys. Res. Lett. http://doi.org/m6p (2013)
 アジアモンスーンは世界人口の3分の1ほどを占める多くの人々の暮らしに影響する。1950-1999年にかけてインドの中部・北部の夏の降水量が増加し、モンスーンの始まりが10-20日早まっていることが示されている。
 エアロゾル排出も考慮された気候モデルから、ベンガル湾やインドシナ半島上空のエアロゾルがその下のSSTを低下させており、大気を安定化させることでモンスーンを阻害していることが示された。結果として変化した大気循環によって、インド北西部の地表温度が上昇しており、6月の風の吹き込みを強めていることが分かった。こうしたエアロゾル-降水-大気循環の相互作用がモンスーン時期の早まりの理解に重要かもしれない。
>話題の論文
Earlier onset of the Indian monsoon in the late twentieth century: The role of anthropogenic aerosols
Massimo A. Bollasina, Yi Ming, V. Ramaswamy

Uneven benefits
不平等な恩恵
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://doi.org/m29 (2013)
太陽光・風力発電などの自然エネルギーはCO2排出削減に効果がある。アメリカにおける33,000地点の風力発電タービン、900地点の太陽光パネルに関する分析から、そうした削減効果には地域性があることが分かった。健康・環境影響なども考慮すると、削減による恩恵は地域により異なり、高いエネルギー生産が必ずしも大きな社会的恩恵へと直結していないことが示された。
>話題の論文
Regional variations in the health, environmental, and climate benefits of wind and solar generation
Kyle Siler-Evans, Inês Lima Azevedo, M. Granger Morgan, and Jay Apt
>関連した記事(Science#6145 "Editors' Choice")
Renewable Benefits
再生可能な恩恵
太陽光発電や風力発電がCO2排出削減に大きく寄与することを疑う人はいないが、これらの発電には地域性が大きく影響することを知る必要がある。アメリカにおける従来型の発電所を風力・太陽光発電に置き換えた際の地域性・恩恵・健康被害などが評価された。

Usable science
使える科学
Glob. Environ. Change http://doi.org/m6m (2013)
社会に対する気候変化のリスクをカタログ化することにおいて'使える科学(Usable science)'が必要とされている。特に環境変化研究などで広く採用されつつあるが、現実の政策決定ではまだケーススタディが少ない。モデル研究から、その有用性が評価された。

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Research
News and Views
Policy: Carbon emissions in China's trade
政策:中国の貿易の炭素排出
Valerie J. Karplus
中国の大きな炭素排出は中国国内で発展した省内と海外における消費と関連がある。
>話題の論文
Outsourcing CO2 within China
中国国内におけるCO2のアウトソーシング
Kuishuang Feng, Steven J. Davis, Laixiang Sun, Xin Li, Dabo Guan, Weidong Liu, Zhu Liu, and Klaus Hubacek
中国の国内外のCO2排出量のうち、57%は生産された省とは別のところで消費されている商品に関連した排出であることが分かった。例えば、炭素排出量の大きい・低品位の商品が中国の富裕な沿岸部で生産され、中部・西部へと輸送されていることなどが示された。こうした省をまたいだ消費活動に関連した炭素の漏れ(leakage)に対しての注目が集まらないと、あまり発展していない地域が排出量を削減するのがより難しくなると思われる。

Climate projection: Refining global warming projections
気候予測:地球温暖化の予測を刷新する
Chris Huntingford
Roger W. Bodman et al.の解説記事。
温室効果ガスの排出シナリオに沿って地球がどのように温暖化するかを正確に決定することは気候モデリングの重要課題であり続けている。新たな研究は極端な温暖化予測はありそうになさそうなことを示唆している。

Ecological impacts: Variance and ecological transitions
生態学的な影響:変動と生態学的な移行
Guy Midgley
Milena Holmgren et al.の解説記事。
降水の変動が多種多様な熱帯域の森林被覆の空間パターンの重要な決定要因かもしれない。

Perspectives
The urgency of assessing the greenhouse gas budgets of hydroelectric reservoirs in China
中国における水力発電貯水池の温室効果ガス収支を評価することの緊急性
Yuanan Hu & Hefa Cheng
中国はすでに世界で最も水力発電を行っているが、今後もダム建設を加速させる計画を立てている。しかし、ダムから排出される温室効果ガス(特にメタン)は「地球温暖化の時限爆弾」になる可能性を秘めている。世界最大の三峡ダム(Three Gorges Reservoir)における排出の証拠をレビューし、そうした懸念が排除できないことを示す。
[Wikipediaより引用]
三峡ダム水力発電所は、70万kW発電機32台を設置し、2,250万kWの発電が可能。これは最新の原子力発電所や大型火力発電所では16基分に相当し、世界最大の水力発電ダムとなる。三峡ダム水力発電所の年間発生電力量は1,000億kWhであり、中国の電気エネルギー消費量が年間約1兆kWhであるから、三峡ダムだけで中国の電気の1割弱を賄えることとなる。
>関連した記事(Nature Geoscience, Dec 2012 "Correspondence")
Hydroelectric carbon sequestration
水力発電の炭素貯留
Raquel Mendonça, Sarian Kosten, Sebastian Sobek, Nathan Barros, Jonathan J. Cole, Lars Tranvik & Fábio Roland
水力発電用のダムはメタンの重要な放出源となっており、温暖化にかなり寄与していると考えられているが、一方でダムの底に溜まる大量の有機物は大気のCO2の吸収源としても寄与している。
>関連した記事(Nature Climate Change, June 2012 "Commentaries")
Greenhouse-gas emissions from tropical dams
熱帯のダムからの温室効果ガスの放出
Philip M. Fearnside &  Salvador Pueyo
熱帯域の水力発電用のダムから出てくる温室効果ガスの量は低く見積もりすぎており、時として数十年間の化石燃料燃焼による排出を上回っている。

Promoting interdisciplinarity through climate change education
気候変化教育を通して学術横断性を推進する
Aaron M. McCright, Brian W. O'Shea, Ryan D. Sweeder, Gerald R. Urquhart & Aklilu Zeleke
ほとんどのアメリカ国内の気候変化教育は資金援助を受けている。大学レベルの気候変化教育によって、学術横断性を推進でき、才能ある若者を科学・技術・工学・数学的パイプラインにつなぎ止めることができ、学生の科学的・定量的・気候リテラシーを養うことができる。

Letters
Projections of seasonal patterns in temperature- related deaths for Manhattan, New York
ニューヨーク・マンハッタンにおける温度に関連した死の季節パターンの予測
Tiantian Li, Radley M. Horton & Patrick L. Kinney
気候変化の結果、暑さや寒さがきっかけとなった死者数の割合が変化すると考えられるものの、年間の死亡率がどのように変化するかは不確かなままである。ニューヨーク・マンハッタンにおける温度に関連した死亡率の季節パターンが評価され、将来予測された。死亡率は暑い時期に増え、寒い時期に減り、年平均値は総じて増加すると予想された。

The social cost of CO2 in a low-growth world
ゆっくり成長する世界における社会的なCO2のコスト
Chris Hope & Mat Hope
CO2排出の主要国の経済が停滞すると気候変化削減は鈍化する。新たな研究から、景気が後退すると、貧困国への影響を通じて、追加のCO2排出に対するコストが上昇することが示された。遅い成長の際にも気候変化緩和を再重要項目として捉える必要があることを示唆している。

Uncertainty in temperature projections reduced using carbon cycle and climate observations
炭素循環と気候観測を用いることで減少する温度予測の不確実性
Roger W. Bodman, Peter J. Rayner & David J. Karoly
気候変化に対する炭素循環の応答(炭素フラックスを含む)が温暖化予測の際の2番目に大きな不確実性の原因であることが示された。1番目は気候感度、3番目はエアロゾルの影響と推定されている。
 温度とCO2濃度の観測記録を用いた単純な気候モデルは、それぞれを独立変数として扱うよりも、一緒に扱う方が不確実性をはるかに軽減できることを実証している。2100年までの2℃を越す可能性が高まり、逆に6℃以上になる可能性は軽減された。

Mitigation of short-lived climate pollutants slows sea-level rise
短寿命の気候汚染物質の削減が海水準上昇を遅らせる
Aixue Hu, Yangyang Xu, Claudia Tebaldi, Warren M. Washington & Veerabhadran Ramanathan
短寿命の気候汚染物質(short-lived climate pollutants; SLCPs)にはメタン、対流圏オゾン、フロンガス、ブラック・カーボンが含まれるが、それらを削減することで2050年までの温暖化を半減できることが示唆されている。温暖化に伴う海水の熱膨張が海水準上昇に与える影響をモデルを用いて評価したところ、これらSLCPsの削減によって、2100年までに海水準上昇速度を24-50%軽減でき、積算の上昇を22-42%軽減できることが示された。削減が25年間遅れると、軽減の程度が3分の1減少することも分かった。

Semi-empirical versus process-based sea-level projections for the twenty-first century
21世紀に対する半経験的 対 プロセス的な海水準予測
Mirko Orlić & Zoran Pasarić
 半経験的な手法と、プロセスに基づいた手法との2つを用いて21世紀の海水準上昇予測がなされた。しかし前者は後者よりも3倍ほど大きい見積もりをした。
 プロセスに基づいた手法の厳密さを評価したところ、モデルで考量される力学や陸上の水循環(地下水やダムの貯水量の変化など)に敏感であることが分かった。B1排出シナリオで半経験的手法の場合には、21世紀の海水準上昇の最小値は62 ± 14 cmと推定された。

Pace of shifts in climate regions increases with global temperature
気候区分のシフトの速度が全球の温度とともに上昇する
Irina Mahlstein, John S. Daniel and Susan Solomon
気候変化の結果、ケッペンの気候区分が今世紀末には変化すると予測されている。しかしそうした変化の速度や、変化の速度が加速するかどうかについてはよく分かっていない。RCP8.5シナリオの下では速度は2倍にも増加し、陸地面積の20%が気候区分の変化を経験すると予想される。これは生物が変化に適応する時間が徐々に失われることを意味し、絶滅のリスクが高まると思われる。

Springtime atmospheric energy transport and the control of Arctic summer sea-ice extent
春の大気エネルギー輸送と北極海の夏の海氷範囲のコントロール
Marie-Luise Kapsch, Rune Grand Graversen & Michael Tjernström
北極海の海氷範囲は気候変化の影響で年々急速に減少しているが、一方で年々変動も大きい。しかしそうした年々変動の原因についてはよく分かっていない。近年の温室効果ガス排出に伴って変化する、春の「雲被覆(cloudiness)」と「湿度」の増加が温室効果を通して、その後の季節の海氷の発展に重要であることが分かった。太陽からの下向き短波放射は直接的には海氷後退には影響しておらず、むしろフィードバックとして寄与しているらしい。

Projected increase in tropical cyclones near Hawaii
予想されるハワイ近くの熱帯低気圧の増加
Hiroyuki Murakami, Bin Wang, Tim Li & Akio Kitoh
気候変化とそれに伴う熱帯低気圧の変化を正確に予想するには、複数のモデルを用いて物理的な設計を変えたり、複数の海水温変化のシナリオを用いたりする必要がある。大循環モデルを用いて2075-2100年の気候変化予測を行ったところ、ハワイ島に到達するサイクロンの数が増加することが予想された。ハワイの南東部の外洋によりサイクロンが進行できる通路が形成されることが原因と考えられる。また亜熱帯太平洋中央部の環境も台風を成長させるのに適した状態へと変化すると考えられる。ハワイ島において社会経済的・生態学的ダメージをもたらすと思われる。
>関連した記事(Nature#7449 "RESEARCH HIGHLIGHTS")
More cyclones for Hawaiian Islands
ハワイ島により多くのサイクロン
気象研(+SOEST)の村上裕之らの研究グリープは、地球温暖化によって海水温上昇とハワイに到達するサイクロンの数が2075-2100年に現在の2倍に増加することをモデルシミュレーションから示した。ハワイのサイクロンはメキシコ湾を起源とするが、地球温暖化とともにサイクロンの進路が変化することが原因と考えられる。発生するサイクロンの数自体は減少するものの、ハワイに到達するほどに勢力を増すことが予想されている。

Effects of interannual climate variability on tropical tree cover
年々の気候変動が熱帯の森林被覆に与える影響
Milena Holmgren, Marina Hirota, Egbert H. van Nes & Marten Scheffer
気候が温暖化するにつれて水循環も強化されると考えられている。人工衛星観測記録から、年々の気候変動が大きくなるにつれ、現在湿潤な熱帯雨林の森林被覆が減少しつつあることが分かった。一方、比較的乾燥した地域(南米など)では、極端な雨に支えられて、逆に被覆は増加することが分かった。地域ごとの違いは、草食動物コミュニティーや森林火災などとも関連が深いと考えられる。

Shorter flowering seasons and declining abundance of flower visitors in a warmer Arctic
温暖化した北極圏における開花時期の短期化と花に訪れるものの豊富さの減少
Toke T. Høye, Eric Post, Niels M. Schmidt, Kristian Trøjelsgaard & Mads C. Forchhammer
気候が変化することによって生物季節学的な変化が時間的に同期した食物網の関係性を乱すと考えられるものの、特に北極圏ではその関係性がよく分かっていない。グリーンランド北極圏における1996-2009年の長期観測記録から、花が咲く季節が短くなっており、さらに花を訪れる生物が減少していることが分かった。