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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年8月10日土曜日

新着論文(Ngeo#August 2013)

Nature Geoscience
August 2013, Volume 6 No 8 pp585-672

Focus issue: Shaken crust
特集:揺さぶられる地殻
※専門外なので今回は割愛

Commentary
Appropriate protection of Mars
適切な火星保護
Catharine A. Conley & John D. Rummel
地球では、地質学的・生物学的なプロセスによって初期生命の痕跡はほとんどわずかしか残されていない。生命の起源を知るためには他の惑星を調査する必要があるが、それにはまず他の惑星を地球の生命でコンタミしないことが最重要である。

In the press
Troubling milestone for CO2
CO2に対する困った重要事件
Nicola Jones
2013年5月9日、大気中のCO2濃度がついに400ppmに達したことがハワイのマウナロア観測所にて報告され、人類が地上を歩き始めて移行もっとも高い数値となった(もっと言えば過去数百万年間でもっとも高い数値、鮮新世頃と同程度)。CO2は季節変動があるので、5月に最も高い値を取るが、年平均値は2017年には400ppmに達するだろうと見込まれている。
「450ppm」という数値が文明にとって危機的な気候変化へと繋がるCO2濃度の上限であると考える研究者も多いが、一方で元NASAの気候学者James Hansenらは350ppmが上限だと考えている。
[以下は引用文]
In the early 1960s, humans released about 2.5 billion tonnes of carbon into the air each year, and CO2 levels rose about 0.8 ppm annually; today, we spew out more than 10 billion tonnes, and CO2 is climbing at about 2 ppm per year.
1960年代初頭には、人類は年間25億トンの炭素を大気中へ放出していて、CO2濃度は年間約0.8ppmずつ上昇していた。今や、我々は年間100億トンを排出しており、CO2濃度は年間約2ppmの割合で上昇し続けている。

Our current climate has not yet had a chance to catch up with our high CO2 levels.
我々の現在の気候は高いCO2濃度にまだ追いつけていないのである。

Research Highlights
Magmatic Vesta
マグマ的なVesta
Meteorit. Planet. Sci. http://doi.org/m68 (2013)
小惑星Vestaを起源とする隕石の化学進化をモデリングしたところ、初期のマグマオーシャンが結晶化し、残ったメルトがマグマチャンバーの浅部で固化したと考えるとうまく説明ができることが分かった。Vestaの隕石はほとんどが浅い部分(上部・下部地殻)からもたらされており、マントル深部のものは含まれていない?

Mineral line-up
鉱物ラインナップ
Earth Planet. Sci. Lett. http://doi.org/m69 (2013)
マントル最上部の結晶は揃っているが、それが最近のものか古いものかはよく分かっていない。地震波データの解析から、それが地質学的に最近のプレート運動によるものであることが示唆された。

Acidification and acclimation
酸性化と順応
Proc. Natl Acad. Sci. USA 110, 11044–11049 (2013)
大西洋赤道域に生息する造礁サンゴ(Porites astreoides)のCTスキャンを用いた分析から、自然の海洋酸性化が起きている海域では66%年間の石灰化速度が低下していることが示された。そうした海水に生涯を通して浸されていながら、炭酸イオン濃度が低い海水中では石灰化をうまくできないことを示唆している。また浸食や補食の程度も増加していることが示された。
>話題の論文
Reduced calcification and lack of acclimatization by coral colonies growing in areas of persistent natural acidification
Elizabeth D. Crook, Anne L. Cohen, Mario Rebolledo-Vieyra, Laura Hernandez, and Adina Paytan
ユカタン半島に生息するPorites astreoidesの石灰化速度が酸性度が増すごとに低下していることがCTスキャンを用いた高精度の分析から明らかに。また穿孔動物による骨格浸食の影響も酸性化するほどに増加することが示された。室内の酸性化実験の結果と整合的であることから、Porites astreoidesは生まれたときから常に酸性化した海水に曝されていながら、低いΩargの海水に適応できていないことが示された。
>関連した記事(Nature#7454 "Research Highlights")
Acidic waters do not toughen corals
酸性化した水はサンゴを堅くしない
海洋酸性化によって石灰化生物に負の影響が生じると考えられている。メキシコ・ユカタン半島における天然の酸性化した海水に生息するハマサンゴの一種(Porites astreoides)に対する調査から、周囲の酸性化海水に侵されていないサンゴに比べると、成長速度が低く、穿孔動物による浸食度が大きいことが示された。酸性化した海水に生息していながら、2100年に訪れるであろう海洋酸性化の規模には適応できないだろうと推測されている。
>関連した記事(Science#6142 "Editors' Choice")
Corals Under Threat
危機にさらされているサンゴ
カリブ海に棲息する重要な造礁サンゴ(Porites astreoides)の成長速度を評価したところ、酸性化した海水(飽和度が低い海水)に棲息しているサンゴほど成長速度が小さいことが示された。この観測事実は実験室内で確認されている酸性化実験の知見とも整合的である。サンゴがローカルな酸性化に対して迅速に応答できないことを示しており、’海洋酸性化に対してサンゴが適応できるかもしれない’という希望に翳りをもたらすものである。

Miocene melt-down
中新世のメルトダウン
Geology http://doi.org/m7b (2013)
約23Maに南極氷床がほぼ現在の範囲にまで発達したが、海洋底堆積物中の底性有孔虫の殻の元素分析から、それが深層水の温度低下と有機炭素埋没量の増加を伴っていたことが分かった。それらは2段階にわたって生じていた。また寒冷化の最後には急激な温暖化とそれに伴う氷床後退・堆積物中の炭酸塩の溶解が起きていた。これは生物生産が促進された結果、低層での有機物酸化が促進され、CO2が放出されたためと考えられている。
>話題の論文
Carbon cycle feedbacks during the Oligocene-Miocene transient glaciation
始新世-中新世境界の氷河化における炭素循環フィードバック
Elaine M. Mawbey and Caroline H. Lear

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Research
News and Views
Ocean–atmosphere coupling: Mesoscale eddy effects
海洋-大気の結合:中規模渦の効果
Dudley Chelton
Frenger et al.の解説記事。
大気と海洋は複雑に相互作用している。南大洋における人工衛星観測記録の解析から、100kmという水平スケールで表層風と海洋循環を修正するような、海洋と大気の強い繋がりが見られることが分かった。

Palaeontology: Extinction promoted fire
古生物学:絶滅が火事を促進する
Beverly Johnson
Lopes dos Santos et al.の解説記事。
最終氷期におけるオーストラリアの大型動物の絶滅は、植生と火事のレジームが変化した時期におおまかに対応していることが、堆積物記録から明らかに。草を食む大型生物が絶滅したことで、植生が変化し、より火事が増えたと考えることができる。

Review
Anthropogenic perturbation of the carbon fluxes from land to ocean
陸から海への炭素フラックスに対する人為的な擾乱
Pierre Regnier, Pierre Friedlingstein, Philippe Ciais, Fred T. Mackenzie, Nicolas Gruber, Ivan A. Janssens, Goulven G. Laruelle, Ronny Lauerwald, Sebastiaan Luyssaert, Andreas J. Andersson, Sandra Arndt, Carol Arnosti, Alberto V. Borges, Andrew W. Dale, Angela Gallego-Sala, Yves Goddéris, Nicolas Goossens, Jens Hartmann, Christoph Heinze, Tatiana Ilyina, Fortunat Joos, Douglas E. LaRowe, Jens Leifeld, Filip J. R. Meysman, Guy Munhoven, Peter A. Raymond, Renato Spahni, Parvadha Suntharalingam & Martin Thullner
光合成や化学風化を通じて大気から吸収された陸上炭素は河川などを通じて海へと供給されている。これまで、そうした海への炭素輸送には人為的な影響はほとんどないと考えられていたものの、これまでの研究のまとめから、産業革命以降変化していることが分かった。主に土壌からの炭素輸送量が増加したことで、年間1.0PgCという大きな割合でフラックスが増加していることが分かった。しかしそれらは大気へと散逸する分(~0.4 PgC/yr)、堆積物中に保存される分(~0.5 PgC/yr)を考慮すると、最終的に外洋へともたらされるのは0.1 PgC/yrとわずかである。しかし、こうした炭素の水平輸送(lateral carbon flux)は全球の二酸化炭素収支を考える上で考慮する必要がある。

Letters
Imprint of Southern Ocean eddies on winds, clouds and rainfall
南大洋の渦が風・雲・降水に与える影響の痕跡
I. Frenger, N. Gruber, R. Knutti & M. Münnich
 乱流としての性質から、海洋は渦にあふれている。しかし、それが熱のやり取りなどを通じて大気へと与える影響(風の駆動や雲形成など)はよく分かっていない。
 南大洋における60万点の渦に対する人工衛星観測記録から、渦が表層の風、雲の特性、降水に影響していることが明らかに。低気圧性の渦の場合、風が弱まり、雲の割合と含水率が低下し、結果として降水量が低下する。中規模の渦がそれよりも大きな大気の低気圧システムにまで影響していると考えられる。
>関連した記事(Nature関連誌 注目のハイライト)
風、雲、雨に刻み込まれた海洋の渦

Limits in detecting acceleration of ice sheet mass loss due to climate variability
気候変動による氷床の質量損失の加速の検出限界
B. Wouters, J. L. Bamber, M. R. van den Broeke, J. T. M. Lenaerts & I. Sasgen
 グリーンランド・南極氷床は加速度的な割合で質量を損失している。このままの加速度の場合、2100年には海水準が43cm上昇すると計算される。しかしながら、こうした加速度の傾向が自然の変動によるものなのか、また今後も持続するのか、などに関する科学的なコンセンサスは得られていない。
 2003年1月から2012年9月までのGRACEの人工衛星観測記録と氷床の質量収支モデルから、重力観測記録はまだ十分な期間得られておらず、質量損失の加速の長期傾向と短期変動とを見分けることができないことを示す。例えば、±10 Gt/yrという精度で加速度の変化を知るためには、南極氷床の場合で10年間、グリーンランド氷床の場合で20年間は測定を続けなければならない。従って、将来の質量収支と海水準上昇の予測には不確実性が依然として大きく、今後も連続して人工衛星観測を続ける必要がある。
※紛らわしいのですが、質量損失ではなく、その加速度に関する解析です。加速度が増加すれば、その分早く氷床が後退し、海水準が上昇することになります。
>関連した記事(Nature関連誌 注目のハイライト)
氷損失の検出限界

Variable North Pacific influence on drought in southwestern North America since AD 854
AD854以降の北米南西部の干ばつに対する北太平洋のさまざまな影響
Staryl McCabe-Glynn, Kathleen R. Johnson, Courtenay Strong, Max Berkelhammer, Ashish Sinha, Hai Cheng & R. Lawrence Edwards
過去数千年間にわたって、北米南西部の降水は太平洋や大西洋の海水温変動が大気循環に与える影響と関連していると考えられてきた。20世紀を通して北太平洋のSST変動が北米南西部の干ばつと関連していると報告されている。しかし、その詳細なメカニズムについては不確かなままである。
 カリフォルニア南部で得られた鍾乳石のδ18Oから、黒潮続流における水蒸気のδ18Oと大気の軌跡とがカリフォルニアの降水のδ18O組成を決定していることが示された。黒潮続流のSSTの周期解析から22年周期が検出され、太陽活動が北太平洋の数十年変動に影響していると考えられる。また過去150年間に長期的なSSTの増加傾向が見られ、人為起源の温室効果ガスの影響と考えられる。

Transient stratification as the cause of the North Pacific productivity spike during deglaciation
最終退氷期の北太平洋の生産性のスパイクの原因としての一時的な成層化
Phoebe J. Lam, Laura F. Robinson, Jerzy Blusztajn, Camille Li, Mea S. Cook, Jerry F. McManus & Lloyd D. Keigwin
最終退氷期のB/Aには北太平洋の生物生産が急激に上昇するが、それは海水準の上昇による氾濫した大陸棚から微量栄養塩である鉄が供給されたことが原因と考えられている。北太平洋の亜寒帯域から得られた堆積物コアを用いてこの仮説を検証したところ、鉄の供給が急増した証拠は見られないことが分かった。代わりに、生物生産のピークは2回生じており、1回目は深い対流によって、2回目は北米氷床からの融水による表層の成層化によって、有光層の栄養塩量と光の利用度の相互作用が生物生産にとって有利な状況になったと考えられる。鉄は二次的な役割を負っていたと思われる。

Abrupt vegetation change after the Late Quaternary megafaunal extinction in southeastern Australia
オーストラリア南東部における第四紀後期の大型動物の絶滅のあとの急激な植生変化
Raquel A. Lopes dos Santos, Patrick De Deckker, Ellen C. Hopmans, John W. Magee, Anchelique Mets, Jaap S. Sinninghe Damsté & Stefan Schouten
オーストラリアにおいては50-45kaに大型動物の多くの絶滅が生じたが、同時に植生も大きく変化していた。それが人類のオーストラリア大陸到達と火の利用などとどのように関連していたのかについてはよく分かっていない。
 オーストラリア南東部沖で採取された堆積物コアのバイオマーカー分析から、44-43ka頃に植生が大規模に変化したことが示唆される。このタイミングは大型動物が絶滅した48.9-43.6kaよりもあとであり、絶滅によって植生の変化が起きた可能性を物語っている。結果として森林火災に弱い植生へとシフトした。

Frictional-faulting model for harmonic tremor before Redoubt Volcano eruptions
Ksenia Dmitrieva, Alicia J. Hotovec-Ellis, Stephanie Prejean & Eric M. Dunham

Seismic imaging of melt in a displaced Hawaiian plume
Catherine A. Rychert, Gabi Laske, Nicholas Harmon & Peter M. Shearer

Articles
Low simulated radiation limit for runaway greenhouse climates
低くシミュレーションされた暴走温暖気候の放射限界
Colin Goldblatt, Tyler D. Robinson, Kevin J. Zahnle & David Crisp
大気中の水蒸気量があまりに多いと惑星は暴走温暖化へと発展することが知られているが、新たな計算から、その水蒸気量の閾値が従来考えられていたよりもはるかに小さいことが示された。極端なケースでは、現在と同程度の太陽放射でも暴走温暖化へと繋がることが示唆されている。
>関連した記事(Nature関連誌 注目のハイライト)
改訂された温室効果の暴走

Lithium isotope evidence for enhanced weathering during Oceanic Anoxic Event 2
海洋無酸素事変2における風化促進に対するリチウム同位体の証拠
Philip A. E. Pogge von Strandmann, Hugh C. Jenkyns & Richard G. Woodfine
93.5Maに起きたOAE2は全球の温暖化、海洋無酸素で、大量絶滅で特徴付けられるが、その際に珪質岩の風化も促進していたことがリチウム同位体分析から明らかに(おそらく水循環の強化が原因)。また、地球化学モデルから、LIPsからの大量のCO2放出がOAEの原因であることが示唆される。風化の促進は河川を介した栄養塩供給によって海洋の一次生産を促進し、有機物を埋没させた。そのため、OAEからの回復や大気中CO2濃度の安定化において風化が重要であったと考えられる。