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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2013年8月15日木曜日

新着論文(Nature#7462)

Nature
Volume 500 Number 7462 pp253-372 (15 August 2013)

EDITORIALS
In addition
追加して
興味の不一致とデータのギャップとがアメリカの食品添加物に対する監視に悪影響を及ぼす。

RESEARCH HIGHLIGHTS
Sinking ground poisons wells
沈む土地が井戸を毒する
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1300503110 (2013)
東南アジアのヒ素汚染は一般的には150m以下の浅い井戸において発生しており、深い井戸は安全だとされていた。しかし、ベトナムにおける調査から、汚染が確認された。汚染地では1988年以降、地下水のくみ上げによって土地が27cm沈降しており、その結果汚染された地下水がより深部へと移動したのではないかと推定されている。
>話題の論文
Release of arsenic to deep groundwater in the Mekong Delta, Vietnam, linked to pumping-induced land subsidence
Laura E. Erban, Steven M. Gorelick, Howard A. Zebker, and Scott Fendorf

Sand collisions kick up storms
砂の衝突が嵐を起こす
Phys. Rev. Lett. 111, 058001 (2013)
砂漠の砂嵐は砂粒同士の衝突によって強化されているらしい。砂粒が他の砂粒と衝突することでより高い場所へと巻き上げられていることが確認された。そうした砂粒の相互作用が砂漠の地形形成にも影響しているのかもしれない。

Climate tracking by smartphone
スマートフォンで追跡する気候
Geophys. Res. Lett. http:// dx.doi.org/10.1002/grl.50786 (2013)
スマートフォンによるアプリを利用して、世界8カ国の都市部に置ける気温をモニタリングする試験が行われた。各都市1日に800の報告値が得られた。ただしポケットなどに入っている場合、服や体温の温度補正が必要になる。現在の気象観測所における測定よりもより多くのデータを低コストで得られる可能性があるという。
>話題の論文
Crowdsourcing urban air temperatures from smartphone battery temperatures
A. Overeem, J. C. R. Robinson, H. Leijnse, G. J. Steeneveld, B. K. P. Horn, R. Uijlenhoet

SEVEN DAYS
Stormy Atlantic
嵐の多い大西洋
NOAAが8/8にアップデートした長期気象予報によると、今年のハリケーンは特に活発である可能性があるという。30年平均では12個(うち巨大なものが3個)であるが、今年は70%の確率で13-19個(うち巨大なものが3-5個)と予想されている。
>関連した記事(Nature#7451 "SEVEN DAYS")
Eye of the storm
嵐の目
NOAAが5/23に発表した大きなハリケーンのスパコンを用いた予測によると、7/1-11/30にかけて、7割の確率で7〜11回(うち3〜6回は巨大)のハリケーンの襲来が予想されるらしい。

Landsat woes
ランドサットの悲鳴
世界最長の運用年数を誇る地球観測衛星ランドサットの未来は危ういかもしれない。現在の管理と資金獲得の方法では立ち行かなくなるだろうと報告書の中で警告されている。

Astronomers image pink exoplanet
天文学者がピンクの系外惑星を撮影
地球から17.5パーセク離れたところにある、マゼンタ色の系外惑星(GJ 504b)がハワイのすばる望遠鏡によって直接撮像された。木星よりも4倍大きく、表面温度は237℃、1億6千万年前に生まれた時からピンク色をしていると推定されている。43.5AUというはるかに恒星から離れたところを周回している軽い部類の星と言うことで、現在の惑星形成理論に挑戦状を叩き付けている。
>関連した記事(ナショナルジオグラフィック ニュース)
ピンク色の系外惑星、すばるが直接観測

US biofuel quotas
アメリカのバイオ燃料の内訳
アメリカのEnvironmental Protection Agency(EPA)が2013年の国内のバイオ燃料製造目標の内訳を報告した。国内のエネルギー生産のうちバイオ燃料の占める割合を、9.74%以上にすることを目標と定めた(ちなみに2012年は9.23%)。

TREND WATCH
RECORD MEASUREMENT OF GREENHOUSE GASES
温室効果ガスの記録的な測定
NOAAによる報告によると、2012年における温室効果ガス(CO2・メタン・一酸化二窒素)排出量は観測史上最大となった。1990年以降、温室効果ポテンシャルとしてはCO2が80%を担っている。また今年5月には大気中CO2濃度が400ppmを超えた。
>関連した記事(Nature#7447 "NEWS IN FOCUS")
Global carbon dioxide levels near worrisome milestone
全球の二酸化炭素濃度が気がかりなレベルに近づく
Richard Monastersky
大気中のCO2濃度はまもなく400ppmに達する。少なくとも過去300万年間は経験したことのない濃度である(※補足すると、その上昇速度は地球史上前例がない)。海や陸上植生をはじめとする吸収源(sink)の吸収能が低下していると報告する研究者もいれば、それを否定する研究者もいる。
 予算削減などが原因で、主に熱帯域の観測は不足している。人工衛星からのモニタリングも試みられている。マウナロアにおける最長の観測もまた予算逼迫を受けて困窮しているという。
>関連した記事(Nature Geoscience#August2013 "In the press")
Troubling milestone for CO2
CO2に対する困った重要事件
Nicola Jones
2013年5月9日、大気中のCO2濃度がついに400ppmに達したことがハワイのマウナロア観測所にて報告され、人類が地上を歩き始めて移行もっとも高い数値となった(もっと言えば過去数百万年間でもっとも高い数値、鮮新世頃と同程度)。CO2は季節変動があるので、5月に最も高い値を取るが、年平均値は2017年には400ppmに達するだろうと見込まれている。
「450ppm」という数値が文明にとって危機的な気候変化へと繋がるCO2濃度の上限であると考える研究者も多いが、一方で元NASAの気候学者James Hansenらは350ppmが上限だと考えている。

COMMENT
Ecosystems: Climate change must not blow conservation off course
生態系:気候変化が保全の努力をを吹き消すわけではい
「地球温暖化を考慮して保全の優先度を再修正することはあまり役に立たないか、逆に害があるかもしれない」と、Morgan W. Tingley、Lyndon D. Estes、David S. Wilcoveらは言う。

CORRESPONDENCE
Environment: Curb clearance for oil-palm plantations
環境:パーム油プランテーションの認可を抑える
Finn Danielsen & Faizal Parish

Wildlife protection: Seize diplomats smuggling ivory
野生生物保護:象牙密輸をする外交官を捕らえよ
Kelvin S.-H. Peh

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Materials science: Composite for smarter windows
物質科学:よりスマートな窓の合成
Llordés et al.の解説記事。
電圧をかけると可視・近赤外線を選択的に吸収するようなガラスが開発されてきている。こうした素材が透明性を損なわずに熱を状況に応じて遮断するスマートな窓の開発に繋がった。
>関連した記事(Nature ダイジェスト)
窓をアップグレードする:ナノ結晶を埋め込んだスマートなコンポジットガラスは光と熱の透過の両方を調節できる

Microbiology: A weapon for bacterial warfare
微生物学:バクテリアの戦争のための兵器
Alain Filloux
Shneider et al.の解説記事。
バクテリアは他の微生物と争うために鋭い針を使った毒を使用していること、そのメカニズムがバクテリオファージと共に進化したことの2つの発見が、バクテリアの分泌系に対する新たな視点を提供している。

PERSPECTIVES
Climate extremes and the carbon cycle
気候の異常と炭素循環
Markus Reichstein, Michael Bahn, Philippe Ciais, Dorothea Frank, Miguel D. Mahecha, Sonia I. Seneviratne, Jakob Zscheischler, Christian Beer, Nina Buchmann, David C. Frank, Dario Papale, Anja Rammig, Pete Smith, Kirsten Thonicke, Marijn van der Velde, Sara Vicca, Ariane Walz & Martin Wattenbach
陸上の生物圏は全球の炭素循環における重要な構成要素であり、その炭素収支は気候によって大きく左右される。現在の気候変化は陸域の炭素取り込みを増加させると考えられているが、干ばつや嵐などといった極端な現象が地域的にはそれを打ち消し、期待される炭素取り込みを抑制するかもしれない。そうした極端な現象が陸域の炭素循環に与える影響とそのメカニズムを調査し、現在と未来の影響の理解をより良くするための方法を新たに提案する。

LETTERS
A variable absorption feature in the X-ray spectrum of a magnetar
マグネターのX線スペクトルに見られる変動する吸収特性
Andrea Tiengo, Paolo Esposito, Sandro Mereghetti, Roberto Turolla, Luciano Nobili, Fabio Gastaldello, Diego Götz, Gian Luca Israel, Nanda Rea, Luigi Stella, Silvia Zane & Giovanni F. Bignami
中性子星の一種である軟γ線リピーター(SGR 0418+5729)のX線スペクトルに関して。
>関連した記事(Nature ダイジェスト)
自転するマグネターのスペクトル解析

No increase in global temperature variability despite changing regional patterns
地域的な気温のパターンは変化しても全球的な気温の変動性は増大しない
Chris Huntingford, Philip D. Jones, Valerie N. Livina, Timothy M. Lenton & Peter M. Cox
 グリーンランドのアイスコアから気温の年々変動が大きくなっていた時期があったことが分かり、人為起源の気候変化において年々変動がどのように変化するかに注目が寄せられている。平均的な気候が変化すること以上に、異常気候へと社会が適応することが難しいからである。
 過去50年間の観測記録から、全球平均で見ると気温のアノマリの時間進化は安定していることが分かった。北米やヨーロッパなどの限られた地域では年々変動が見られる。しかし、多くの気候モデルが気温の変動性は小さくなると予測しており、温暖化によって気候の変動性が大きくなるという見方に疑問を投げかける結果となった。
>関連した記事(Nature ダイジェスト)
気温が上昇しても、気候は予測できる

The role of behaviour in adaptive morphological evolution of African proboscideans
アフリカのゾウ目の適応的形態進化における行動の役割
Adrian M. Lister
2千万年前から現在にかけて東アフリカに棲息する象の歯の化石の同位体分析をもとに形態学的な進化と生態の変化を調べたところ、象は現在のように牙が長くなる前は牧草を食べるために使われていたことが明らかに。行動の変化が形態学的な進化に繋がったと考えられる?

Oil palm genome sequence reveals divergence of interfertile species in Old and New worlds
アブラヤシのゲノム塩基配列から明らかになる旧世界および新世界での交配可能な種の分岐
Rajinder Singh et al.
パーム油は、世界で生産される植物油の33%および食用油の45%を占める。アフリカ原産のギニアアブラヤシ(Elaeis guineensis)のゲノム塩基配列を報告。今回得られた知見は、バイオ燃料や食用油の持続利用や、プランテーションによる熱帯雨林破壊の減少にも役立つかもしれない。
>関連した記事(Nature ダイジェスト)
アブラヤシのゲノムから明らかになったその栽培史