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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
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2012年9月22日土曜日

新着論文(Science#6101)

Science
VOL 337, ISSUE 6101, PAGES 1425-1572 (21 September 2012)

Editors' Choice
Surprising Origins
驚くべき起源
Nat. Commun. 3, 1041 (2012).
人間と魚の内耳の有毛細胞は非常に類似している。また多くの有羊膜類が傍鼓膜器官(PTO:paratympanic organ)を持つが、その進化的由来はこれまで明らかになっていなかった。ニワトリ胚を用いた実験で、PTOが魚類の呼吸孔器官に由来することを明らかになった。
>理化研・発生再生科学総合研究センターのプレスリリース

The Right Time and Place
正しい時と場所
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 109, 15066 (2012).
感染症の広がりのモデリングについて。特に西ナイルウイルスがアメリカで大発生したのには「鳥の渡り」や「人間による蚊の輸送」などの「稀に起こる長距離輸送」が感染症拡大の原因となった可能性がある。

Heavyweight Measurements
重い重量の測定
Geophys. Res. Lett. 39, L17602 (2012).
地球温暖化がもたらす大問題のうちの一つは、高緯度の氷床が縮小することによって生じる海水準上昇である。暖かい水ほど体積が大きくなるため、海水準上昇の一部の原因は温度上昇であるが、海水の温度は測定できるが、海水の重量を測定することはこれまで難しいとされていた。しかし、海には海洋循環・潮汐・気圧の変化などの水圧に影響する諸効果を受けにくい海域が存在し、そうした海の海底に水圧を精密測定する機器を設置することで海水の重量の変化を測定することができるようになるかもしれない。太平洋で候補地がいくつか挙がっているらしい。

Dissolving CO2 in Brine
塩水へのCO2の溶け込み
Environ. Sci. Technol. 10.1021/es301598t (2012).
大気中の二酸化炭素捕獲・貯蔵の候補の一つは大陸に多数存在する高塩分地下水である。こうした高塩分水は過去の水循環の名残で、何百〜何千万年にわたって継続して存在してきたものがほとんどである。モデル研究から、そうした高塩分地下水にCO2を吹き込むと、初めは高塩分水を置換するが、徐々に溶け、理想的な貯蔵庫になることが分かった。同時に密度も増加させるためより安定な状態になるという。

News & Analysis
Warped Light Reveals Infant Galaxy on the Brink of the 'Cosmic Dawn'
歪んだ光が銀河の夜明け(Cosmic Dawn)に産まれたばかりの銀河の子供の姿を明らかにする。
Yudhijit Bhattacharjee
天文学者は最近ビックバン後生まれて間もない(5億年後)銀河を発見した。天文学者が発見した物体としては最も遠いところにある新たな記録となった。

Did Neandertals Truly Bury Their Dead?
ネアンデルタール人は本当に死者を埋葬したのか?
Michael Balter
フランスにおける新たな発掘は、「ネアンデルタール人は本当に死後に死者を埋葬していたのか?」という問題に疑問を投げかけている。

Ignition Facility Misses Goal, Ponders New Course
点火施設は目標を達成することができず、新たな道を熟考している
Daniel Clery
ローレンスリバモア国立研究所の国立点火施設(National Ignition Facility: NIF)は今月末に自発的な核融合点火(点火に必要なエネルギー以上のエネルギーを生む)を実現するという期限に間に合わないだろう。
※NIF は史上最大のエネルギーを有するレーザー装置。192本の NIF ビームのエネルギーを数ミリのターゲットに集中させることで、従来の実験室では到底作り出すことができなかった極限環境、具体的には惑星や星の内部に匹敵する1億度以上の温度、1,000 g/cm3 以上の密度、1,000億気圧の圧力の状態を作り出すことができる。

Cancers Join List of Illnesses Linked to 9/11 Attacks
「ガン」が9.11に関連した病気のリストに追加された
Jocelyn Kaiser
世界貿易センタービルの崩壊後の塵にさらされた結果ガンになった50人以上の消防士やその他の人に医療を施すことを、先週アメリカ政府が決定した。

Letters
Friends in Fungi
真菌類の中の友達
Gijsbert D. A. Werner and E. Toby Kiers
真菌類は作物や森林の生育を及ぼしているが、中には人間の役に立つフレンドリーな真菌類も存在する。菌根菌(Mycorrhizal fungi)は多くのメリットをもたらしている。例えば、
1、植物の成長に必要な栄養塩を供給する
2、乾燥に強くする
3、重金属を植物に取り込ませる
4、感染症を予防する
5、真菌類による病気を防ぐ
などが挙げられる。また炭素を吸収する上でも機能しており、「炭素循環」と「栄養塩循環」の2つの点で非常に重要である。菌根菌を有効活用することで必要な肥料の量を減らすことができ(世界は重篤なリン酸不足に陥っている)、収穫量を増大させることができる。真菌類を根絶するのではなく、敵と味方を区別する必要がある。

Perspectives
A Measurable Planetary Boundary for the Biosphere
測定可能な生物圏に対する’惑星の限界’
Steven W. Running
陸上植物の一次生産量は、人間による地球の生物資源(総一次生産量)消費限界を測定可能なものにする。現在人間は全体の約38%の総一次生産量を消費している。2050年には世界の総人口が40%増加することが予測されているが、残された資源のうち人類が利用可能な生物資源は全体の10%程度という見積もりもなされている。
…the obvious policy question must be whether the biosphere can support the 40% increase in global population projected for 2050 and beyond.
Crop production exceeds the natural ecosystem when augmented with irrigation and fertilizer applications. Cropland under irrigation has roughly doubled in the last 50 years, and fertilizer use has increased by 500%.
As some rivers are completely drained for agriculture and groundwater withdrawal limits are reached in some regions, irrigated crop area could decrease in coming decades.
The question is thus not whether humans will reach the global NPP boundary but when we will do so.

Reports
Kepler-47: A Transiting Circumbinary Multiplanet System
ケプラー47:通過する周連星・多惑星システム
Jerome A. Orosz et al.
ケプラー宇宙望遠鏡が2つの軽い星の周りを周回する2つの小さな惑星を発見した。大きさはそれぞれ地球の3.0、4.6倍。地球に似てはいないが、いわゆる’生命存在可能ゾーン(habitable zone)’に位置し、液体の水が存在する可能性がある。

Unicellular Cyanobacterium Symbiotic with a Single-Celled Eukaryotic Alga
単細胞の真核性の藻類と共生する単細胞のシアノバクテリア
Anne W. Thompson, Rachel A. Foster, Andreas Krupke, Brandon J. Carter, Niculina Musat, Daniel Vaulot, Marcel M. M. Kuypers, and Jonathan P. Zehr
窒素が欠乏した環境下で窒素を得るには「窒素固定が可能な原核生物」と「光合成が可能な真核生物」の’共生’が重要である。最近、世界に普遍的に存在する浮遊性シアノバクテリアに前例にないほどの遺伝子欠乏が確認され、共生の可能性が浮上した。UCYN-A(uncultured nitrogen-fixing cyanobacterium)と名付けられたシアノバクテリアはrymnesiophyte(化石記録に残っている石灰化をする種の近縁)と相利共生していることが分かった。この珍しい関係性は共生のモデルとなり、プラスチド(色素体)や生命体の進化のアナログになるかもしれない。