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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年9月16日日曜日

新着論文(Science#6100)

Science
VOL 337, ISSUE 6100, PAGES 1265-1424 (14 September 2012)

Editors' Choice
Humans Mitigate Climate Change Effects
人間が気候変動の影響を和らげる
Proc. R. Soc. London Ser. B. 279, 10.1098/rspb.2012.1301 (2012).
20世紀初頭にJoseph Grinnellらによって収集されたカリフォルニアにおける脊椎動物の古典的な記録は、現在我々が気候変動がリス(Belding's ground squirrel; Urocitellus beldingi)に与えた影響を評価するのに貴重な情報を提供してくれている。74種のうち31種は既に絶滅しており、彼らの棲息範囲は縮小していた。縮小の原因を解析したところ、「冬の寒さ」が非常に重要であるらしい。興味深いのは、人間活動が水や食料を供給するので、気候変動が山岳の生物に与える負の影響に対して緩衝剤として働いてきたことである。最悪の場合、2080年までにこのリスの棲息に適したカリフォルニアの場所は99%失われてしまうと予想されている。

News & Analysis
Before the Dinosaurs' Demise, a Clambake Extinction?
恐竜の絶滅の前に、貝焼きの絶滅(Clambake Extinction)?
Richard A. Kerr
南極周辺から得られた記録から、6,500万年前の隕石衝突による恐竜を始めとする生物の大量絶滅よりも’わずかに前に’別の大量絶滅が起きていた新しい証拠が得られた。従来インドのデカン高原の洪水玄武岩を生む元となった大規模な火山活動が有毒かつ温室効果を持ったガスの排出を通して大量絶滅を起こしたという説があるが、隕石衝突が全球で普遍的に見られることから隕石衝突説が有力であった。南極半島の先端に位置するSeymour島における堆積物中の炭酸塩化石のδ18Oの測定から、デカン高原の火山活動がきっかけとなって急激に低層水温が7℃程上昇し、40%の低層の巻貝や二枚貝が絶滅したという。年代は地磁気逆転で得られており、「隕石衝突よりも20万年前にデカン高原における火山活動が開始し、その後4万年後には低層水温の上昇が始まった」というシナリオが提唱されている。

Charges Fly, Confusion Reigns Over Golden Rice Study in Chinese Children
Mara Hvistendahl and Martin Enserink
4年前に行われたアメリカを資金源とする研究で、中国の学徒達に遺伝子組み換えによって作られた米を食べさせていた事実の発覚が、中国メディアに波乱を呼んでいる。

News Focus
The Sound in the Silence: Discovering a Fish's Soundscape
静寂の中の音:魚の音景を発見する
Jane J. Lee
生物音響学(Bioacoustics)の第一人者であるArthur Popperは引退の用意を始めたが、「魚が音をどう認識しているのか」に関する彼の研究が霞むことはない。

Perspectives
Sir Bernard Lovell (1913–2012)
電波天文学(radio astronomy)の発展に貢献し、世界最大の電波望遠鏡の一つの設立も手がけたBernard Lovellについて。

Brevia
Adaptive Prolonged Postreproductive Life Span in Killer Whales
適応によって延長されたシャチの生殖活動停止後の寿命
Emma A. Foster, Daniel W. Franks, Sonia Mazzi, Safi K. Darden, Ken C. Balcomb, John K. B. Ford, and Darren P. Croft
閉経後のヒトの寿命が長いこととの関連で、生殖活動を終えた後の生物の寿命に注目が集まっている。閉経後の女性の存在が子孫の生存に有利に働く証拠は多いが、ヒト以外の生物ではほとんど分かっていない。ヒト以外で生殖能力を失った後の寿命が最も長いシャチ(killer whale)の母親は、生殖能力を失った後もずっとオスの子供が生き残れるように手助けをし続けるらしい。

Reports
Glacier Extent During the Younger Dryas and 8.2-ka Event on Baffin Island, Arctic Canada
Nicolás E. Young, Jason P. Briner, Dylan H. Rood, and Robert C. Finkel
グリーンランドのアイスコアの記録によれば、YDと8.2kaイベント時の寒冷化はそれぞれ~15℃、3~4℃であったと推定されている。ローレンタイド氷床の氷河の拡大とそれから独立した北極圏カナダ・Buffin島における山岳氷河の拡大の証拠から、8.2ka時の氷河拡大はYDのそれに比べて大きかったことを示す。YDの寒冷化は冬期に顕著であったのに対し、8.2kaイベント時は季節を問わない寒冷化であったらしい。

Technical Comments
Comment on “Climate Sensitivity Estimated from Temperature Reconstructions of the Last Glacial Maximum”
J. Fyke and M. Eby
Schmittner et al. (Science Vol. 334, pp. 1385 (2011))はLGMにおける感度実験と古気候記録を用いた気候感度実験から低い感度を報告しているが、疑いの余地がある比較点の除外とモデルデザインの’建設的な’変更が気候感度の推定値を変える可能性について報告する。

Response to Comment on “Climate Sensitivity Estimated from Temperature Reconstructions of the Last Glacial Maximum”
Andreas Schmittner, Nathan M. Urban, Jeremy D. Shakun, Natalie M. Mahowald, Peter U. Clark, Patrick J. Bartlein, Alan C. Mix, and Antoni Rosell-Melé
Fyle & Edyによるデータの除外はほとんど正当化されず、彼らの統計はあまりに単純だ。しかしながら、モデルの構造の不確実性(特に大気の熱フラックスに関する式)が気候感度を低く見積もる可能性の指摘については称賛に値し、今後の研究で明らかにする必要があるだろう。