Main contents

☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年9月14日金曜日

新着論文(Nature#7415)

Nature
Volume 489 Number 7415 pp177-330 (13 September 2012)

RESEARCH HIGHLIGHTS
Seals see glowing prey
アザラシは光る獲物を見る
ゾウアザラシは生物の発する発光の最大波長を見ることで暗い深海でも獲物を捕ることができると考えられている。インド洋南部に棲息する4匹のメスのゾウアザラシ(Mirounga leonina)にロギング装置を付けて人工衛星を用いて行動を観察したところ、3,386回の潜水による獲物探しと生体発光センサーの光の感知回数との間には正の相関が確認されたという。

Tigers and people can coexist
トラと人は共存することができる
Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/ pnas.1210490109 (2012)
ネパールのChitwan国立公園にビデオカメラを設置し、ある地域において行動しているヒトとトラを観察したところ、同じ地域を共有しているものの争いはほとんど起きていないという。トラの80%は夜間に確認され、ヒトとは生活のリズムが異なっていることが争いが起きない理由として考えられる。国立公園から離れると、トラの95%が夜間に出現するという。

Engineered plants can use phosphite
作られた植物は亜リン酸塩を使うことができる
Nature Biotechnol. http://dx.doi. org/10.1038/nbt.2346 (2012)
ほとんどの作物はリン酸ベースの肥料に頼っており、また除草剤に耐性のある雑草の存在によっても生育が妨げられる。遺伝子組み換えによって別のリン酸から栄養を得ることのできる作物が作られれば、2つの問題を一度に解決できる可能性がある。遺伝子組み換えによって作られたモデル植物とタバコは、オルソ体のリン酸の存在下で亜リン酸から栄養を得ることができる。通常より必要なリンの量は30-50%少なくて済むだけでなく、雑草に対する耐性も上がるという。

Calm Sun promotes chilly winters
静かな太陽は寒い冬を促進する
Geophys. Res. Lett. http://dx.doi.org/10.1029/2012GL052412 (2012)
ここ2年間のヨーロッパの異常に寒冷な冬は太陽活動が減少したことによる大気循環の変化が原因かもしれない。黒点数の記録とライン川の結氷の歴史記録から、AD1780年以降の14回の結氷イベントのうち10回は太陽活動が弱い時期に対応しているらしいことが分かった。太陽活動の低下が北大西洋の気圧場を変化させ、北極からの冷たい空気塊をヨーロッパにもたらした結果と考えられている。

NEWS IN FOCUS
Ice loss shifts Arctic cycles
氷の減少が北極のサイクルをシフトさせる
Quirin Schiermeier
今年の夏にはどのモデルシミュレーションによっても再現できていなかった、ほとんどの科学者が想像もしていなかった程に北極の海氷面積が低下した。次のIPCCの報告書(AR5)にも採用されているモデルでも2030年までに夏の海氷がゼロになる予測はなされていないが、現在の減少の傾向はそれがあり得そうなことを示唆している。多年氷は減少し、1年しか持たない氷の量が増えており、そうした氷は脆く融けやすい、明らかに北極の海氷は従来のモードから変化してきているという。北極の海氷の変化は海水中の光量や物理循環も変化させ、既に生態系への影響も見えつつあるらしい(動物プランクトン、魚類、甲殻類、海鳥などへの影響)。近年の研究で海氷の減少と北大西洋の気候との関連も明らかになりつつある。

Europe on alert for flying invaders
空飛ぶ侵入者への警戒にヨーロッパが入っている
Declan Butler
感染病を運ぶ蚊の蔓延が監視強化のガイドラインを促している。

FEATURES
Dive master
潜水マスター
Richard Monastersky
アメリカの潜水艇の旗艦であるAlvinは現在部分的にアップグレードされつつある。しかしながら、深海探査は現在苦難に直面している。

NEWS & VIEWS
Drought and tropical soil emissions
干ばつと熱帯土壌からの放出
Cory C. Cleveland & Benjamin W. Sullivan
過去の研究によって、気候変動と土壌からの温室効果ガス排出という正のフィードバックが示唆されている。干ばつによってそうした放出は抑制され、気候変動を緩和する可能性が示された。従来温度ばかりが考慮されてきたが、水循環プロセスがより重要である可能性がある。干ばつが土壌中におけるメタン消費や脱窒を妨げる効果が働くのが原因らしい。特に脱窒による亜酸化二窒素(温室効果ガスの一つで、そのほとんどが熱帯雨林から放出されている)生成が妨げられることで、温室効果を打ち消す働きが大きいらしい。ただし微地形の効果や、モデル間のばらつきが大きいという問題も。
>>
Strong spatial variability in trace gasdynamics following experimental drought in a humid tropical forest
Wood, T. E., and W. L. Silver
Global Biogeochem. Cycles, 26, GB3005, doi:10.1029/2010GB004014
土壌中の水分量は生物地球化学的なプロセスを駆動する主要因の一つであり、炭素・栄養塩・微量気体(亜酸化二窒素など)の利用効率に影響している。樹冠通過雨量を制限するようなフィルターを用いて、プエルトリコの熱帯雨林において人工的に3ヶ月間の乾燥状態を作成し、微量気体放出・吸収量や栄養塩利用の変化を調査。地域的な不均質性を評価するために、尾根・斜面・谷の3つの地域で実施。一連の結果から乾燥が微量気体の放出量を減少させることが分かった。ただし地域的な差異が大きく、地形効果も正しく見積もることがモデルの改善に重要であるという。

The rainforest's water pump
Luiz E. O. C. Aragão
熱帯雨林における水循環はモデルも観測も最終的によく合うことが分かった。しかしそれは、森林破壊は熱帯における降水量を大きく低下させる可能性について警告している。
>>
Spracklen et al.の記事解説。

LETTERS
Observations of increased tropical rainfall preceded by air passage over forests
D. V. Spracklen, S. R. Arnold & C. M. Taylor
植生は、地表と大気の間の水分、エネルギー、微量ガスの流れを通して降水パターンに影響を与えている。森林が牧草や作物に置換されると、土壌や植生からの水分の蒸発散が減少することが多く、大気の湿度が低下して降水量が減少する可能性がある。熱帯の大規模な森林破壊によって降水量が局地的に減少することが気候モデルによって予測されているが、その影響の大きさはモデルやモデルの分解能によって異なっている。逆に観測研究では局地的な森林破壊と降水量の増加が結びつけられているが、より大規模な森林破壊の影響を調べることはできなかった。熱帯の降水量と植生に関する衛星リモートセンシングデータを利用し、大気輸送パターンのシミュレーションと組み合わせて森林が熱帯の降水に与える熱帯全体に与える影響を評価したところ、熱帯(南緯30度~北緯30度)の地表面の60%以上で、過去数日間に豊かな植生の上空を通過した大気は、貧弱な植生の上空を通過した大気と比較して、少なくとも2倍以上の降水を発生させていることが明らかになった。この経験的な相関は、森林による蒸発散が上空を通過する大気の水分量を維持することと整合的である。この経験的な関係をアマゾンの森林破壊の現在の動向と組み合わせると、水循環効率の低下によって、2050年までにアマゾン川流域全体で、雨季では12%、乾季では21%降水量が減少すると見積もられる。今回の観測に基づく結果は、(現実に起きている物理的な機構とフィードバックをさらに詳細に調べることのできる)気候モデルによる同様の見積もり結果を補完するものである。

Ploughing the deep sea floor
Pere Puig, Miquel Canals, Joan B. Company, Jacobo Martín, David Amblas, Galderic Lastras, Albert Palanques & Antoni M. Calafat
底引き網漁による魚類資源と底生生態系への直接的な影響は大きな注目を集めてきた。さらに底引き網漁は、海底堆積物の物理的性質、海水と堆積物の化学的交換、堆積物の流れを変える可能性もある。しかし物理的攪乱に取り組んだ研究のほとんどは、これまで沿岸や大陸棚の環境で行われている(堆積物の浸食、輸送、堆積過程が自然に起きている)。大陸斜面の上部において、底引きによって生じる堆積物の移動や除去によって深海底の地形が時間の経過とともに平坦になり、その本来の複雑さが低下することが分かった。この結果は、漁船団の工業化に続く最近数十年の間に、底引き網漁が深海地形の変化を大きく促進してきたことを示唆している。この種の漁業を全球規模で考えると、世界の海洋の多くの部分で大陸斜面の上部の地形が激しい底引き網漁によって変えられている可能性があり、陸上において農業耕作がもたらす影響に匹敵する影響が深海底に生じていると予想される。

Averting biodiversity collapse in tropical forest protected areas
William F. Laurance et al.
熱帯林の急速な破壊は、世界の生物多様性を危うくするものと考えられる。森林破壊が急激に進行する中で、保護区は絶滅危惧種および自然生態系プロセスを守る最後の砦となりつつある。しかし熱帯の保護区の多くは、それ自体が人類による侵食やその他の環境ストレスに対して脆弱である。圧力が高まる中、現在の保護区が生物多様性を維持することができるかどうかを知るのは重要なことである。この問題を解決するうえで重大な制約となっているのは、十分に大きく代表的な保護区の標本を用いた、幅広い生物群に関する生物多様性を表すデータが存在しないことである。世界の主要な熱帯地域全体から選んだ60か所の保護区の過去20~30年間の変化に関するデータセットの分析の結果、保護区の「健全性」には大きなばらつきが見いだされ、全保護区の半数ほどが効果的または及第点であったのに対し、残りの保護区では生物多様性の劣化が進んでおり、分類学的および機能的に驚くほど広い範囲で劣化が見られる場合が多いことがわかった。生息地の破壊、狩猟、および森林生産物の搾取が、保護区の健全性劣化の最も強力な予測因子であった。重要なこととして、保護区内の変化は保護区周辺の変化を強く反映しており、保護区の生態的運命を決定するうえで、保護区のすぐ外側の環境変化が、保護区内の環境変化と同じくらい重要であると考えられた。今回の知見から、熱帯の保護区は周辺環境と生態学的に密接に関係していることが多く、そうした環境の大規模な喪失および破壊を食い止めることができなければ、深刻な生物多様性の劣化が現実のものとなる公算が大幅に高まると考えられる。