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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English

2012年9月28日金曜日

新着論文(Nature#7417)

Nature
Volume 489 Number 7417 pp473-596 (27 September 2012)

EDITORIALS
A second wind for the president
大統領に対する2回目の追い風
気候変動緩和に取り組むリーダーシップが不足している。アメリカ大統領・バラクオバマ氏が2回目の大統領選に勝利したら、果たして彼は気候変動に取り組むエネルギーを得られるのだろうか?

RESEARCH HIGHLIGHTS
Artificial marshes fall short
人工の湿地は上手くいかない
J. Appl. Ecol. http://dx.doi.org/10.1111/j.1365- 2664.2012.02198.x (2012)
人工の塩沢(salt marsh)は自然のものに比べて生物多様性が少ない。EUでは失われた沿岸の塩沢を復元しなければならないという条例を制定したが、うまく元の状態には戻すことができず失敗に終わっている。別途必要な植物を植える必要がある。

Symbiosis may fertilize seas
共生は海を豊かにするかもしれない
Science 337, 1546–1550 (2012)
通常では考えられない単細胞の藻類とシアノバクテリアとの共生関係は海洋生物の窒素の重要な供給源として寄与しており、光合成を行う生物がどのように進化してきたのかを解き明かすカギとなるかもしれない。光合成と代謝に関する遺伝子に欠落したシアノバクテリアの遺伝子を調べたところ、窒素を他の生物が利用できる形に変換できることが分かった。そこで共生している生物を特定したところ、単細胞の藻類であることが分かった。共生は全球の炭素・窒素循環にとって必要不可欠であり、植物が葉緑体を得るまでの進化の過程を解き明かせるかもしれない。

Arctic snow lost faster than ice
北極の雪は氷よりも早く失われている
Geophys. Res. Lett. http://dx.doi. org/10.1029/2012GL053387 (2012)
北極における積雪の低下速度は海氷の融解速度よりも早いらしい。1979年から現在にかけての4-6月の積雪量と海氷量を比較したところ、それぞれ10年に20%、10%の割合で失われているという。最新の気候モデルは2005年以降の加速的な積雪・海氷量の低下を低く見積もっていると筆者らは指摘している。

Salamanders heal like embryos grow
サンショウウオは胚細胞が育つように治癒する
Dev. Biol. 370, 42–51 (2012)
失われた四肢を回復することで知られるウーパールーパー(Mexican axolotl salamander)は、胚細胞が成長するように切断面に細胞をプログラムし直すことで四肢を回復しているのかもしれない。四肢を切断されたサンショウウオ(Ambystoma mexicanum)は四肢の回復の過程でPL1とPL2と呼ばれる遺伝子(精子と卵、胚細胞に見られる)を発現させていることが分かった。表皮の傷だけではそうした遺伝子は発現しなかった。PL1とPL2の生成を阻害したところ、細胞の壊死と四肢の成長阻害が確認されたという。人間の四肢の回復にもこの知見が応用できるかもしれない。

SEVEN DAYS
Stem-cell funds
幹細胞の基金
ヨーロッパ議会は人間の幹細胞を用いた研究で特許を取得できないものに対して、European Union’s upcoming Horizon 2020 research programmeの支援はすべきでないという推奨をしている。

Rainforest threat
熱帯雨林の脅威
ブラジルにおける熱帯雨林の破壊が再び増加した。2011年の4月以来、低下傾向にあったが、今年の8月の伐採量が去年よりも増加した模様。

First light for dark-energy lens
ダークエナジーのレンズに対する最初の光
ダークエナジーを捉えるために開発されたカメラが9/12に初めてその光を捉えた。そのカメラはチリに設置された4mのBlanco望遠鏡で、昨年12月に終了する予定のテスト段階であった。

Arsenic in rice
米の中のヒ素
9/19のアメリカの消費者組合とアメリカ食品医薬品局の報告書の中で、米の中に無機的なヒ素が検出されたと報告された。過去に綿花栽培に使用されていた殺虫剤が原因として考えられる。

Arctic drilling stops
北極の掘削が中止に
アラスカの沿岸部において石油と天然ガス資源を掘削する石油会社・Shellの計画が中止に。Arctic Challengerの石油タンクの損傷が原因だという。この掘削自体は安全面での要求を満たさないため今後掘削が行われることはないが、代わりにChukchi海における掘削孔の準備は継続して行われると思われる(ただし2013年まで延期されている)。

TREND WATCH
Shrinking Arctic Sea Ice
縮小する北極の海氷
北極の海氷量はこの夏(9/16)に33年間の衛星観測期間内で、少なくともここ5,000年間で、最低の量になった。海氷の覆っている面積は北極海の15%であるという。

CORRESPONDENCE
Redirect research to control coffee pest
コーヒーの害虫をコントロールするために研究の方向を転換する
Francisco Infante, Jeanneth Pérez & Fernando E. Vega
コーヒーの実に穴をあける害虫(Hypothenemus hampei)は1913年にブラジルに侵入し、その後南米や中央アメリカ、メキシコ、カリブ海などにも侵入し、現在も莫大な損害を与えている。これまでに1,600もの関連する論文が出版されたものの、実用的な成果は得られておらず、研究の方向性を変える必要がある。

Follow the money on climate controversy
Thomas E. DeCoursey
Dan Kahanによる「気候変動の矛盾」に対する考察(Nature 488, 255; 2012)は非常に洞察に富んでいるが、一つだけ欠けている視点が存在する。それは「金銭」である。気候変動の矛盾は非常に狭い裕福層によって作られてきた。例えば石油やその副産物産業が彼らを非常に裕福にし、それが「化石燃料の使用が気候変動の原因である」とする考えにヤジを飛ばすきっかけとなっている。非常に大きな富に支えられたキャンペーンによって科学コミュニケーション環境が侵されており、民衆が餌食となっている。またアメリカの最高裁判所もキャンペーンに対し出費を惜しまないと宣言し、間接的にキャンペーンを支援しているのである。

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RESEARCH
NEWS & VIEWS
Skin, heal thyself
皮膚よ、自らを治せ
Elly M. Tanaka
トゲマウス(African spiny mouse)は、単に掴まれただけで背中の皮膚が最大60%剥がれて失くなってしまう。このネズミの驚くべき切断・治癒能力を調べることで、組織再生機構についての手がかりが得られる。

LETTERS
Ocean oxygenation in the wake of the Marinoan glaciation
Marinoan氷河期に続く、海洋の酸素化
Swapan K. Sahoo, Noah J. Planavsky, Brian Kendall, Xinqiang Wang, Xiaoying Shi, Clint Scott, Ariel D. Anbar, Timothy W. Lyons & Ganqing Jiang
 後生動物の祖先はCryogenian に現れたと思われるが、Cryogenian後期(マリノアン氷河期)の氷河作用が終わった少し後の約6億3500万年前に、新種の動物と藻類の化石の出現が著しく増加している。過酷なマリノアン氷河期の後に起きた酸素化イベントが、後生動物のこのような初期の多様化と生態系の複雑さの変化を駆動した要因であると示唆されてきた。しかし、マリノアン氷河期の後の海洋と大気の酸素の増加の証拠や、初期の動物進化と一般的な酸化還元状態の直接的な関連を示す証拠はほとんどない。そのため、初期の生物進化の傾向と地球システムの過程の変化に結びつけるモデルは依然として議論の的になっている。
 中国南部のドゥシャンツァオ累層基部から得られたエディアカラ紀初期(約6億3500万~6億3000万年前)の有機物に富んだ黒色頁岩のモリブデンとバナジウム濃度が高く、また黄鉄鉱の硫黄同位体の値が低い(Δ34Sの値が65 ‰以上)ことは、広く酸素化された海洋に応答して、酸化還元状態に敏感な金属と硫黄の海洋への蓄積量が増大したことを示している。これらはエディアカラ紀初期の酸素化イベントの証拠を示すものであり、マリノアン氷河期以後の酸素化に対するこれまでの推定よりも5000万年以上先行している。今回の知見は、「地球の歴史における最も厳しい氷河作用」、「地球の表層環境の酸素化」、「動物の最も初期の多様化」の間の関連を裏付けていると思われる。

Response of salt-marsh carbon accumulation to climate change
気候変動に対する塩沢の炭素蓄積の応答
Matthew L. Kirwan & Simon M. Mudd
 海洋における炭素の年間埋没量のうち約半分は浅海生態系で生じている。気候変動に対する陸域と深海の炭素リザーバーの感度は数十年間にわたって研究されてきたが、沿岸部の炭素蓄積速度が今後気候の変化とともにどのように変化し、フィードバックする可能性があるかに関してはほとんど理解されていない。
 生物生産や有機物分解の近年の測定結果をもとに塩沼の進化の数値モデルを開発し、「鉱物の土砂堆積」と「有機物の蓄積」との競合が炭素蓄積における正味の影響を決めることが分かった。海水準上昇の増加速度が大きくなるにつれて温暖化の影響が大きくなるが、温暖化が土壌炭素の蓄積速度へ与える直接的な影響は海水準上昇の影響よりもわずかである。今回のシミュレーション結果から、気候変動は21世紀前半においては炭素の埋没速度を増加させるが、炭素-気候フィードバックは時間とともに減少する可能性があることが示唆される。

Delayed phenology and reduced fitness associated with climate change in a wild hibernator
野生の冬眠動物に見られる気候変動に関連した生物季節学的な特性と適応能力の低下
Jeffrey E. Lane, Loeske E. B. Kruuk, Anne Charmantier, Jan O. Murie & F. Stephen Dobson
 気候変動が生態に及ぼす影響として最も多く報告されているのは、生物季節の変化であり、特に春季の気温上昇関連した事象の前倒しである。しかし動物では、鳥類はよく調べられているものの、哺乳類の冬眠などに関して知られているものはまだ比較的少ない。
 カナダのアルバータ州に生息するメスのコロンビアジリス(Columbian ground squirrel)の冬眠明けが20年間に渡って遅れ続けていることが分かった。それは温暖化による温度上昇というよりは気候状態の変化に関係していると考えられる。春季の気温には有意な温暖化傾向は認められなかったが、時季遅れの吹雪が多くなったために雪解けの時期はしだいに遅くなってきている。また個体の適応度(個体数)も低下傾向にあるという。気温上昇以外にも気候の変化が個体の適応度を低下させ、個体そのものの生存能力を低下させる可能性があることが示唆される。

Evidence for dietary change but not landscape use in South African early hominins
南アフリカの初期人類の土地利用の変化ではなく食事の変化の証拠
Vincent Balter, José Braga, Philippe Télouk & J. Francis Thackeray
 初期のヒト属の歯のエナメルのSr/Ca、Ba/Ca、87Sr/86SrをLA-ICPMSで分析したところ、行動圏の広さがヒト属(Homo)、パラントロプス属(Paranthropus)、アウストラロピテクス属(Australopithecus)で同程度であったのに対し、食事の幅広さはアウストラロピテクス属が他に比べてはるかに大きかったことが分かった。またパラントロプス属は植物系の食料に対する依存度がヒト属よりも大きかった。