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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English

2012年9月22日土曜日

新着論文(Ngeo#Sep 2012)

Nature Geosciences
September 2012 - Vol 5 No 9

Editorials
Focus: End of a glaciation
Stop-and-go deglaciation
進んでは止まる融氷
前回の氷期から現在の間氷期への気候の変遷は必ずしも滑らかなものではなく、B/A(ACR)やYDといった千年スケールの大規模な気候変動が存在していた。そして高緯度域への熱の伝播が氷床を融かし、その結果、海水準は1万年間に120mほど上昇したことが知られている。しかしそうした海水準の上昇も数百年に数10mという規模の融氷イベントを介して起きており、その原因となったのは大陸に安定に存在していた氷床よりはむしろ海に接した氷床(氷河、棚氷など)であり、また8.2kaのアガシ湖の決壊による海水準上昇も精度が上がりつつある測定のおかげで数cmの海水準上昇の証拠が得られつつある。
融氷期のきっかけは地球にもたらされる太陽の熱のわずかな変化であると考えられており、それは非常に長い時間スケールで起きた現象である。一方で現在の温暖化は人為起源の温室効果ガスがきっかけとなって起きている非常に短い時間スケールで起きている現象であり、両者は必ずしも1対1では対応しない。しかしながら、融けつつあるグリーンランドと南極の氷床の挙動を異なる時間スライスで研究することには大きな意義があり、魅力的でもある。

Commentary
Earth science for sustainability
持続可能なための地球科学
Peter Schlosser & Stephanie Pfirman
ほんのわずかな例を挙げると、人間活動はますます気候変動・水資源の過剰利用・災害・生物多様性の破壊を促進している。地球科学者は、工学・社会学・人文科学の分野と結託して、これらの話題を一般社会に提供する努力をする必要がある。

In the press
Trees and temperature
木と気温
Mark Schrope
過去数千年間の気温を復元するのに、木の年輪幅が使われてきたが、それによると過去2,000年間はほとんど気温が変化していなかったことになる。そのため木の年輪ではなく、「密度」に着目した研究が登場した。フィンランドとスウェーデンの600本の埋没林(湖に沈んだ木)の年輪の密度から過去2,200年間の気温を復元したところ、アイスコアの気泡の記録から得られているものと類似した地表面気温が復元された。1900年以降の人為起源の温暖化も確認されたが、同様の手法でその他の地域の気温の変化についても明らかにする必要がある。

The journalist’s take
ジャーナリストの見解
埋没林の年輪を用いた古気候復元は多くの記者や編集者の目を引く可能性が高いが、それは同時に数年前にメディアに旋風をもたらした’ホッケースティック状のグラフ(hockeystick graph)’を想起させる。そのグラフは我々に「過去2,000年間の気温の変動がどのようなものであったか」、「現在の気温上昇がいかに異常か」を印象づけた。しかしながら、この科学的な知見は当初広くは受け入れることはなかった。発見に懐疑的な立場のメディアも多かった。科学の発見は新聞やニュースが報道するような毎日知るべきニュース(a day-to-day essential)ではなかったというのも原因の一つである。

Research Highlights
Dry heat
乾いた熱
Proc. Natl Acad. Sci. USA 109, 12398–12403 (2012)
1979-2010年における全球の観測データから、土壌水分量が低下した3ヶ月間のあとには極端に暑い日の日数が上昇することが分かった。北米・南米・オーストラリア・ヨーロッパ南部と東部・アジアの一部の地域で顕著らしい。極端に暑い日や熱波は21世紀の後半は頻繁になると考えられている。

Tasman eddy express
タスマン渦急行
Geophys. Res. Lett. http://doi.org/h58 (2012)
東オーストラリア海流がタスマニア海に向かって流れることでTasman eddyが生じることが知られているが、特に流速が高いeddy列があることが分かった(Eddy Avenue)。周囲に比べて海表面温度も高く、クロロフィルa濃度も高い(光合成プランクトンが多いことの指標)らしい。列には低気圧性の渦と高気圧性の渦が含まれ、そうしたメソスケールの渦がタスマニア海の海洋物理や生物地球化学に重要だと考えられる。

Gold from destruction
破壊からもたらされる金
Earth Planet. Sci. Lett. 349–350, 26–37 (2012)
従来、大規模な金鉱床は安定大陸(craton)の内部にて形成されると考えられてきたが、北中国の金鉱床は地殻が部分的に破壊されたことで形成された可能性があることが分かった。金鉱床の年代測定から、北中国安定大陸形成後(1.7Ga)、火山活動が活発化しそれによって中国東部が引き延ばされた比較的最近の時代(154Ma-119Ma)に鉱床ができたことが分かった。安定大陸の地下深部からホットプリュームが上昇することで下からの破壊が起こり、それが金を濃集させる可能性が示唆された。大陸の他の地域でもこうしたプロセスで金鉱床が形成されている可能性がある。

News and Views
Supply and demand
需要と供給
Anna Armstrong
このまま70億人の人口が増加し、将来も食料と水需要を賄うためには限りある資源を持続可能利用する必要がある。例えば地球上の様々な地域で地下水位が低下し、地下水資源は枯渇しつつある。中国やインドではおよそ60%の生活圏で水資源は持続’不可能’な利用をされている。Gleesonほか(Nature 488, 197–200; 2012)によって提唱された’groundwater footprint’という概念は農業計画や水資源管理を行う上で役に立つ。Gleesonほかは、もしガンジス川の上流域と下流域でほんの数%地下水利用を削減できれば、地下水に対するストレスは緩和されると指摘している。問題は浮き彫りになり、あとは行動に移すのみである。

Slowed by sulphide
硫化物によって遅くなる
Katja Meyer
三畳紀・ジュラ紀境界(T/J boundary)における絶滅は海洋生物の種の激変で特徴付けられる。海成堆積物のバイオマーカーはジュラ紀初期の海洋の回復過程において海洋表層水に毒性の強い硫化物が多く存在したことを示唆している。

Focus: End of a glaciation
Pacific and Atlantic synchronized
太平洋と大西洋の同期
Samuel L. Jaccard
現在の北太平洋では深い対流(表層水の深層への沈み込み)は通常起きていないが、最終退氷期にはそれが起きていたかもしれない。高緯度の海水は「塩分」が沈み込みに重要な要素となっているが、北太平洋の表層には低塩分の海水が存在し、強い塩分躍層の存在が表層水の深層への沈み込みを抑制している。またsubpolar Pacific gyreもまた水蒸気とアジアモンスーンの河川流入起源の淡水を保持する性質がある。北太平洋における堆積物コアを用いて海氷の位置とSSTを復元したところ、特にSSTが低下していたHS1(17.5-14.7ka)とYD(12.7-11.7ka)において、AMOCの弱化と’同期して’太平洋における子午面循環も弱化していた証拠が得られた。つまり、最終退氷期において北太平洋における北向きの熱輸送は低下していたことになる。従来AMOCの低下は太平洋の子午面循環を’強化’すると期待されてきた。

Focus: End of a glaciation
Ice-free emigration
氷に解放された移住
Alicia Newton
アフリカで生まれたヒトがアジア・ヨーロッパを経てアメリカに移動するきっかけとなったのはベーリング海にかつて存在した’Beringia’という陸橋の存在と考えられている。しかし氷期に発達した氷床はヒトの移動を拒む存在でもあった。或いはヒトは海を渡ったのかもしれない。アリューシャン諸島とアラスカ半島にあった氷床が後退したのは約17kaと考えられている。

Reanimating eastern Tibet
チベット東部を生き返らせる
Michael E. Oskin
チベット高原の東部は下部地殻の物質がもたらされたことが原因で形成されたと考えられている。しかし、高原の縁辺部で発見された露岩は成長はより長期間にわたって、何段階かに分かれて成長し、断層運動が大きな役割を負っていたことを示している。

Unexpectedly abiotic
予想しない程の生物の欠如
Boswell Wing
地球の硫黄循環は微生物の活動と一般的には関連づけて考えられてきた。しかしながら、35-32億年前の岩石の硫黄同位体は、火山が放出する二酸化硫黄が紫外線によって壊変する過程が中心的であったことを物語っている。

Progress Article
Focus: End of a glaciation
Links between early Holocene ice-sheet decay, sea-level rise and abrupt climate change
完新世初期の氷床の崩壊・海水準上昇・劇的な気候変動の関連
Torbjörn E. Törnqvist & Marc P. Hijma
完新世初期(12-7ka)のアガシ湖(ローレンタイド氷床の縁辺に存在した巨大氷河湖)の崩壊と気候変動との関係のレビュー。
氷期-間氷期サイクルの温暖期である完新世に入ってもなお氷床の後退は続いており、完新世の初期には劇的な海水準上昇が8.5-8.2kaの間に2回起きたことが知られている。北米のアガシ湖の崩壊がもたらした海水準上昇はミシシッピ川とRhine-Meuse川の河口域でそれぞれ0.4m、2.1mの上昇の記録を刻んだ。北大西洋への融水流入とそれに伴う大西洋子午面循環(AMOC)への擾乱がきっかけとなって北半球の寒冷イベント(8.2kaイベント)が起きたと考えられている。近年数10cm-数mの海水準変動は自信を持って復元されるようになり、完新世初期の劇的な気候変動はAMOCへの淡水擾乱が原因であったことが明らかになりつつある。

Review
Focus: End of a glaciation
Northern Hemisphere ice-sheet responses to past climate warming
過去の気候の温暖化に対する北半球の氷床の応答
Anders E. Carlson & Kelsey Winsor
2つの退氷期(最終退氷期・ターミネーションⅡ)における氷床後退の復元記録によると、北半球の陸上の氷床(中でも特に南縁)は北半球高緯度域の夏の日射量の増加に対して迅速に応答し、北半球の気温上昇とほぼ同期して融解したが、海底に着氷した氷床はより遅れて・より劇的に崩壊した。温暖化しつつある世界で現在残された2つの氷床(南極氷床・グリーンランド氷床)がどう応答するのかに関心が寄せられている。過去を鑑みると陸上のグリーンランド氷床は不安定で、温暖化とともに融解し続けるかもしれない。また海底に着氷している西南極の氷床は劇的に崩壊する可能性もあるが、より予想が難しい。

Letters
Continuous flux of dissolved black carbon from a vanished tropical forest biome
消滅した熱帯雨林の生物から放出される溶存性のブラックカーボンの連続した流れ
Thorsten Dittmar, Carlos Eduardo de Rezende, Marcus Manecki, Jutta Niggemann, Alvaro Ramon Coelho Ovalle, Aron Stubbins & Marcelo Correa Bernardes
陸域の被覆の歴史記録や衛星観測記録などから大西洋周辺の森林から排出されるブラックカーボンの量を推定。1973年以前は2〜5億トンものブラックカーボンが生成されていたと考えられる。さらに、1973年には大規模な焼畑は終了したものの、溶存性のブラックカーボンは毎年雨期には5〜7万トンほど海へ流入していると考えられる。深海底に不溶物として堆積していると考えられる。

Motion of an Antarctic glacier by repeated tidally modulated earthquakes
繰り返す潮汐によって調整される地震によって引き起こされる南極の氷河の動き
Lucas K. Zoet, Sridhar Anandakrishnan, Richard B. Alley, Andrew A. Nyblade & Douglas A. Wiens
南極の氷河の河口において地震波を繰り返し測定したところ、海の潮汐の周期と同期して氷河が滑っていることが観測された。

Focus: End of a glaciation
Regional climate control of glaciers in New Zealand and Europe during the pre-industrial Holocene
産業革命前の完新世におけるニュージーランドとヨーロッパの氷河に対する地域的な気候の制御
Aaron E. Putnam, Joerg M. Schaefer, George H. Denton, David J. A. Barrell, Robert C. Finkel, Bjørn G. Andersen, Roseanne Schwartz, Trevor J. H. Chinn & Alice M. Doughty
世界中の山岳氷河がこの数世紀の間に後退しているが、それが自然起源か人為起源の温暖化が原因なのかは不確実なままである。10Beの露出年代測定からヨーロッパアルプス・アルプス南部・ニュージーランドの山岳氷河の雪線は数世紀にわたって同期して後退していることが分かった。ITCZの変動が原因?過去数百年の山岳氷河の後退と気候の温暖化は完新世初期における自然変動とは異質のもので、人為起源の温室効果ガス排出に関連していると考えられる。

Focus: End of a glaciation
Deep Arctic Ocean warming during the last glacial cycle
最終氷期サイクルにおける北極海の深層水の温度上昇
T. M. Cronin, G. S. Dwyer, J. Farmer, H. A. Bauch, R. F. Spielhagen, M. Jakobsson, J. Nilsson, W. M. Briggs Jr & A. Stepanova
北極海の海水は塩分躍層によって下層の暖かく・塩分の高い海水と上層の海水が隔てられている。今後の海氷後退と北極の温暖化は塩分躍層の不安定を引き起こし、海氷をより後退させると考えられるが、過去の塩分躍層の安定性はよく分かっていない。31の北極海の海底堆積物コアの貝形虫のMg/CaとSr/Caから過去5万年間の中層水の温度を推定。50-11kaの間、中層はGlacial Arctic Intermediate Waterに覆われていた。この水塊は現在のArctic Intermediate Waterに比べると1〜2℃ほど高い。またハインリッヒイベントとヤンガードリアスの北半球の寒冷期には中層水の温度は一時的に上昇していたことが分かった。原因としては北極海への淡水フラックスの減少により塩分躍層が深くなり、暖かい下層水が中層へと押し込まれたことがモデルからは示唆される。また大陸棚における深層水形成が弱化したことも一因として考えられる。

Two-phase growth of high topography in eastern Tibet during the Cenozoic
新生代におけるチベット東部の2段階の高地形成
E. Wang, E. Kirby, K. P. Furlong, M. van Soest, G. Xu, X. Shi, P. J. J. Kamp & K. V. Hodges
チベット東部の高地は下部地殻がチベット高原に流れ、隆起によって地殻が厚くなった結果だと考えられてきた。チベット東部に露出した岩石の熱史の分析から、インドとアジア大陸衝突の初期において山が成長したことが分かり、下部地殻の流れだけでは高地は形成できなかったことを物語っている。

Coseismic fault rupture at the trench axis during the 2011 Tohoku-oki earthquake
2011東北沖地震の海溝軸における同時性断層破壊(Coseismic fault rupture)
Shuichi Kodaira, Tetsuo No, Yasuyuki Nakamura, Toshiya Fujiwara, Yuka Kaiho, Seiichi Miura, Narumi Takahashi, Yoshiyuki Kaneda & Asahiko Taira
沈み込み帯における地震モデルではプレート接合面の最も浅い部分は地震を起こさないと考えられてきたが、2011.3の東北沖地震の11日後に得られた地震波反射面のデータと1999年に得られたデータを比較すると、海溝に隣接する堆積物に変形構造(厚さ350m、長さ3km)が見られ、断層滑りが海底まで到達したことを物語っている。

Articles
Groundwater arsenic concentrations in Vietnam controlled by sediment age
堆積物の年代によってコントロールされるベトナムの地下水のヒ素濃度
Dieke Postma, Flemming Larsen, Nguyen Thi Thai, Pham Thi Kim Trang, Rasmus Jakobsen, Pham Quy Nhan, Tran Vu Long, Pham Hung Viet & Andrew S. Murray
東南アジアにおいては地下水のヒ素汚染が何百万もの人々の健康を脅かしている。ヒ素を含む鉄酸化物の還元と有機物の酸化がヒ素の生成に関与していると考えられている。しかし砒素濃度分布は空間的な変動が大きく、そうした広がりを生む原因についてはよく分かっていない。ベトナムのRed River流域における調査から堆積物の年代が古いものほど有機炭素の活性度も低く、ヒ素の含有量も低いことが分かった。

Hydrogen sulphide poisoning of shallow seas following the end-Triassic extinction
三畳紀の終わりの大量絶滅に続く浅海の硫化水素汚染
Sylvain Richoz, Bas van de Schootbrugge, Jörg Pross, Wilhelm Püttmann, Tracy M. Quan, Sofie Lindström, Carmen Heunisch, Jens Fiebig, Robert Maquil, Stefan Schouten, Christoph A. Hauzenberger & Paul B. Wignall
三畳紀の終わりの大量絶滅時には大気中の二酸化炭素濃度が高かったことが知られているが、その原因としては火山活動の活発化と森林火災が挙げられている。ドイツとルクセンブルクに露出している過去のテチス海の浅海の堆積物(黒色頁岩;black shale)から三畳紀-ジュラ紀境界における海の酸化還元状態と海洋生態系を復元。緑色硫黄細菌(green sulphur bacteria)の存在を示すイソレニエラタン(isorenieratane)というバイオマーカーの濃度が増加していることが分かり、有光層に硫化水素が多く存在したことを物語っている。また無酸素状態を示す緑藻も急増していた。テチス海の浅海は生物多様性のホットスポットでもあるため、硫化水素による毒が大量絶滅後の海洋生態系の回復を遅らせた可能性がある。

Variations in atmospheric sulphur chemistry on early Earth linked to volcanic activity
火山活動と関連する初期地球の硫黄の大気化学の変動
Pascal Philippot, Mark van Zuilen & Claire Rollion-Bard
過去の地球の火山活動は大気化学に大きな影響を及ぼしたと考えられるが、それらを復元することは難しい。南アフリカにある32億年前の地層(Mapepe Formation)中の火山灰層の岩石の硫黄同位体の特徴から、何段階かに分かれて起きた短期的な火山活動の増加が大量の二酸化硫黄を大気にもたらしたことが分かった。二酸化硫黄は紫外線による光分解反応によって分解されたと考えられる。