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☆主なコンテンツ
1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English

2012年9月29日土曜日

新着論文(Science#6102)

Science
VOL 337, ISSUE 6102, PAGES 1573-1716 (28 SEPTEMBER 2012)

Editors' Choice
Conservation Calculation
生物保全の計算
Ecol. Lett.15, 10.1111/j.1461-0248.2012.01847.x (2012).
生物多様性の保護にはお金がかかる。長期的に生息域の保護・保全を行うには投資が必要であり、また土地の確保にも費用がかかる。保護の優先度を設定する場合、生物多様性の価値(種数、絶滅に対する危険度)や環境の健全度(森林や水の質)などは考慮されるものの、経済的なコストと投資に対する見返りが考慮されることは少ない。それらも考慮されたモデルが最近開発され、そうしたアプローチの仕方は保全の努力を改善することが期待される。もちろん地域的なイニシアチブが根本的に重要であることは言うまでもない。

A Drop in the Ocean
海における低下
Geophys. Res. Lett. 10.1029/2012GL053055 (2012).
130年間にわたる観測では海水準は年間1.7mmの割合で上昇しつつあり、特に過去20年間では年間3mmの上昇速度であることが分かっている。気候が温暖になるほど氷床・氷河の融解によって淡水が海に流入し、また熱膨張によって海水そのものが膨張することでも海水準は上昇するため、将来も海水準は上昇し続けるという予測がなされている。しかしそれは自然変動に覆い被さる形で存在しており、ENSOのような大気海洋の変動によっても変化する。Boeningほかは2010-2011年には全球の海水準は5mm低下したことを報告している。原因として考えられているのは、2009-2010年の強いエルニーニョから2010-2011年の強いラニーニャへと変化した結果全球の降水が変化し、陸水の貯蔵量が増加したことが原因として考えられる(特にオーストラリア・南米北部・東南アジア)。しかし海水準低下は一時的なもので、陸水はそのうち海へと帰るだろう。

The 2011 La Niña: So Strong, the Oceans Fell
Carmen Boening, Josh K. Willis, Felix Wolfram Landerer, R. Steven Nerem, John Fasullo (in press)

A Positive Influence
正の影響
Astrophys. J. 757, L26 (2012).
多くの銀河が中心にブラックホールを持つと考えられているが、それらブラックホールの存在が周囲の星の進化に正の影響を与えているのか、負の影響を与えているのかについては議論が分かれている。NASAのSpitzer宇宙望遠鏡を用いたスペクトル分布の観測から、中心にブラックホールを有する3つの巨大な銀河については非常に早く成長していることが分かった。少なくとも大きな銀河については、大きなブラックホールが銀河の中心で成長していても星は活発に成長できることが分かった。

Around the World
France, E.U. to Review Controversial GM Food Study
フランス、EUは遺伝子組み換え食品に関する研究の議論をレビューする予定
遺伝子組み換えのトウモロコシが腫瘍や死を招くというマウスの実験は多くの研究者によって酷評されたが、政治的には大きなインパクトがあった。Gilles- Eric Séralini率いる研究チームは、2年間遺伝子組み換えトウモロコシを与えられたマウスは普通の餌を与えられているマウスよりも早死にし、また腫瘍やホルモンバランスの崩れに悩まされた、と報告している。しかしながらこの研究は重篤な統計上の誤りや、その他の問題があるという批判が存在する。フランスでは数名のジャーナリストがこの実験結果を他の科学者が読むのを妨げた結果、批判的な意見が述べらないまま公表されてしまった。現在フランスの2つの機関とヨーロッパ食品安全機関がこの研究を調査している。その一方、「カリフォルニアの遺伝子組み換え食品すべてにラベリングを付ける法案」は活気づいている。

Mann Wins Latest Climate Court Battle
Michael Mannは最近の気候に関する裁判に勝利した
Pennsylvania州立大学の気候学者、Michael Mannは彼がVirginia州立大学の教授を務めていた時の電子メールや書簡をすべて公表するよう求めていたAmerican Tradition Instituteとの裁判に勝利した。裁判官はその必要はないと結論したが、裁判はさらに上の裁判所に控訴されている。

Dispute Over Islets Threatens Scientific Exchanges—Again
小島を巡る議論が再び科学的な交換を脅かしている
東シナ海の無人島(尖閣諸島)の領有権を巡る議論が日中の科学協力を再度落ち込ませている。 中国科学技術協会とその傘下の160以上の専門家の団体は日本の尖閣諸島の国有化を強く非難している。また9月の中国と日本の大学のフェアとフォーラムは延期するよう要請している、さらに日本のトキの保護プログラムに対するトキ(crested ibises)の寄贈も延期するよう計画している。

Mouse Saves Its Skin By Shedding It
マウスは切り離すことで自分自身の皮膚を守る
トビネズミ(African spiny mice)は背中の皮膚を60%失っても生き残ることができる。彼らの皮膚は補食者に噛まれてもすぐに逃げ出せるように剥がれやすいようにできており、それだけでなく直ちに毛穴や体毛腺を回復できる能力も持っている。これは他のほ乳類にはできないことである。そうした戦略はトカゲ類にも似たものが見られるが、体表の外側の部分だけを脱ぐだけである。しかしトビネズミは筋肉を残して皮膚全体を脱落させており、回復はよりいっそう大変なプロセスである。人間への応用に期待。

News & Analysis
Ice-Free Arctic Sea May Be Years, Not Decades, Away
海氷のない北極海は数十年先ではなく数年先かもしれない
Richard A. Kerr
北極海の夏の海氷は研究者の予想を遥かに超えた速度で減少しており、誰の目にも残り数年で完全に消失してしまいそうな印象を与えている。「ホッキョクグマの絶滅」から「中緯度域の異常気象の増加」まで、人の一生において訪れる可能性が出てきた。どの最新の気候モデルもこれほど速い海氷の融解を予測していなかったが、モデルのどの部分が間違っているのかについてはまだ議論が閉じていない。モデルでは「今世紀末に消失する」という予測がなされていたが、「2030年から2040年の間に消失する」と予測する研究者、「2020年までに消失する」と予測する科学者もいる。人工衛星観測では海氷の面積は分かるが、海氷の厚さについては現場観測を行うよりほかない。限られた観測結果をもとに海氷の体積を計算すると、1979年に比べて2012年の海氷量は76%も減少しているらしい。海氷の性質は明らかに変化しており、夏の嵐や温度上昇に対する脆弱性もますます増している。また海氷が融けることでより太陽光が海水に吸収され、温度上昇に寄与していると考えられている(正のフィードバック)。こうした変化し続ける海氷の性質をモデルに組み込む努力がなされている。

Turning From War to Peace in Papua New Guinea
パプアニューギニアにおける戦争から平和への転換
Elizabeth Culotta
暴力的な闘争で悪名高いパプアニューギニアの一族が驚くことに平和へと向かっていると研究者は報告している。

News Focus
Roots of Empire
帝国の起源
Mara Hvistendahl
モンゴルにおける古気候記録はチンギス・ハンを駆り立てた予想だにしない状態を記録している。

Where Asia's Monsoons Go to Die
アジアモンスーンはどこで死に絶えたのか
Christina Larson
過去の気候状態を復元するためにアジア全土で木の年輪の試料が採取されている。

Letters
Curiosity and Contamination
キュリオシティーと汚染
Jeffrey L. Bada
R. A. KerrがNews Focusに宛てた記事("In the hunter for the red planet's dirtiest secret" 31 August, pp.1032)では火星起源の有機物をGCMSで分析することについて述べられているが、探査機由来のコンタミ(潤滑油、樹脂、排気ガスなど)という重要な問題については触れられていない。キュリオシティー搭載のSample Analyses at Mars (SAM)の検出限界は数ppbであり、わずかなコンタミが分析結果に影響する。火星の物質をしっかりと検出するにはコンタミをきちんと議論する必要がある。

Religiously Protecting Myanmar's Environment
宗教的に保護されているミャンマーの環境
Kwek Y. Chong
先日ダライラマが初めて仏教徒として初めて気候変動に対する声明を出した。ミャンマー・タイ・チベットなどの仏教国においては修道僧が非常に尊敬されているが、仏教の考えでは「万物は相互作用して」おり、そうした考え方は環境保護を訴える科学者の考えと一致するものである。宗教は科学の力が及ばないところで非常に大きな求心力がある

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Perspectives
Suppression of Sleep for Mating
交尾のための睡眠の抑制
Jerome M. Siegel
動物の睡眠パターンは環境によって決定されており、適応の結果である。

How Oblate Is the Sun?
太陽はどれくらい扁球なのだろうか?
Douglas Gough
太陽は現在理解されているよりも丸いことが最近の測定から分かった。

Insecticide Resistance After Silent Spring
沈黙の春の後の殺虫剤に対する耐性
David G. Heckel
殺虫剤に耐性のある昆虫との戦いは伝統的な作物・遺伝子組み換え作物の両方に対しての挑戦であり続けている。

Life in a Contaminated World
汚染された世界における生活
Louis J. Guillette Jr. and Taisen Iguchi
殺虫剤や他の化学物質に長期間さらされることで複雑で長期的な健康被害が生じる。

Research Articles
Out of the Tropics: The Pacific, Great Basin Lakes, and Late Pleistocene Water Cycle in the Western United States
熱帯から:太平洋、Great Basin湖、そしてアメリカ西海岸の更新世後期の水循環
Mitchell Lyle, Linda Heusser, Christina Ravelo, Masanobu Yamamoto, John Barron, Noah S. Diffenbaugh, Timothy Herbert, and Dyke Andreasen
 氷期-間氷期サイクルでアメリカ西部の水循環は劇的に変化した。過去20kaの中では高い降水量が(現在は干上がってしまった)砂漠湖(desert lake)を形成した。こうした降水量の増加は太平洋の冬の低気圧の通り道が南側にシフトした結果と従来考えられてきた。
 アメリカ西海岸で得られた堆積物コアのアルケノン古水温計と放散虫群集組成を用いてLGM以降の海水面温度を復元し、それと過去の湖の古水面とを比較。Great Basinにおける湖の古水面が最も高い位置にあった時期はアメリカ西海岸の湿潤期よりも古いことが分かり、西からもたらされる降水は古水面上昇の原因ではなかった可能性が高い。カリフォルニア周辺を乾燥させたままGreat Basinのみを湿潤にするには赤道太平洋を起源とする水蒸気を運ぶ必要がある。最終退氷期の気候変動によって降水のもととなる水蒸気の生成域が変化し、地域的な水循環を大きく変えたと考えられる。

Reports
The Precise Solar Shape and Its Variability
正確な太陽の形とその変動
J. R. Kuhn, R. Bush, M. Emilio, and I. F. Scholl
 太陽の正確な外縁の形は半世紀もの間正確には測定されておらず、太陽内部のプロセスや太陽大気の変化に応じてわずかながら変化していると予想されている。
 NASAのSolar Dynamics Observatoryの長期観測結果は、太陽の形はほとんど不変で、表面で顕著に見られる11年周期でも変化していないことを示している。

Adaptive Sleep Loss in Polygynous Pectoral Sandpipers
一夫多妻のアメリカウズラシギの適応行動的な睡眠不足
John A. Lesku, Niels C. Rattenborg, Mihai Valcu, Alexei L. Vyssotski, Sylvia Kuhn, Franz Kuemmeth, Wolfgang Heidrich, and Bart Kempenaers
 睡眠という行動の機能についてはよく理解されていない。「脳の機能を向上させるための回復過程」、「エネルギーを節約するための適応戦略」などの案が提唱されている。後者の仮説の下では起きた状態で生物活動を営む必要がある場合には睡眠を減らすことができるように生物は進化してきたはずである。
 オスのアメリカウズラシギ(pectoral sandpiper; Calidris melanotos)はオス同士のメス争いを行い、いつでも交尾できるように、3週間ものあいだ睡眠時間を削減しながらも脳の活性を維持できるらしい。つまり睡眠時間が短いほど子孫を多く持つことができる。この観測事実は「睡眠不足による(脳の)機能低下を抑える」という適応戦略に対して疑問を投げかけるものである。