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2012年4月23日月曜日

「低炭素エコノミー」(茅陽一ほか、2008年)

「低炭素エコノミー 〜温暖化対策目標と国民負担〜」
茅陽一、秋元圭吾、永田豊 著
日本経済新聞出版社
2008年11月出版


やや前に出版された本だが、温暖化対策を実際に行った場合にどれほどの現実性があるのか、どれほどの国民負担があるのか、を論じた本。

単刀直入な感想は、かなり専門的でGDPだの二酸化炭素の価格だのといった数字を見るのが慣れている人向けという印象。(正直なところ僕自身、第5章はほとんど読み飛ばした)

3.11東北沖地震前に書かれた本だけあって原発をいま以上に稼働させる或いは新設することで温暖化抑制に役立てるという考え方が見られるが、夏の電力需要ピークに備えた原発の再稼働についてさえもめている今の現状を考えると、原発の立場が今後好転しないことは目に見えているだろう。

僕の最大の懸念は、原発の相次ぐ閉鎖によって火力発電が再び主要発電法となり、日本をはじめとする世界の温暖化抑制への動きが鈍化することである。
むろん原発に頼らざるとも他の再生可能エネルギーが安定に、十分量の電力を供給できるのならばそれに越したことはないが、炭素貯留技術(CCS)も太陽発電も技術開発が遅れている現状を鑑みると、今は原発に頼らざるを得ないのではないだろうか(バイオ燃料やメタンハイドレートは救世主になり得るか?)。

各章ごとにまとめが用意されているので、自分の意見も交えてそれをさらに簡単にまとめておく。

1、温暖化対策の基本姿勢
地球温暖化は確実に進行している。
その原因は人為起源の温室効果ガス、その中でも特に二酸化炭素の放出であり、二酸化炭素の排出規制は現実的に行動可能である。
また排出規制と経済発展とは相互に矛盾しない。排出規制をうまく経済の仕組みに組み込んで、社会全体として取り組む必要がある。

しかしながら、排出規制は大きな努力とコストを伴う。しかも温暖化を完全に食い止める(+0℃に抑える)ことはもはや不可能であり、現実的には
(1)許容可能な温暖化の程度を定めること
(2)実現可能は抑制努力を行うこと
の2つが重要である。

2、温室効果ガス排出抑制目標とその評価
EUは温暖化を産業革命前に比べて「2℃以内の上昇」に食い止めることを目標にしているが、この目標を実行することはほとんど不可能に近い。
例えば、エネルギー生産の大部分をバイオマスに切り替え、発生する二酸化炭素をすべてCCSの技術によって貯留する必要がある(現実的に無理がある)。
大気中の二酸化炭素濃度は350-400ppmに維持する必要がある(すでに390ppmを上回り、今後落ち込む傾向は一切見られない)。

2050年までに二酸化炭素排出量を半減させるためには、今後発展途上国が排出すると考えられる二酸化炭素を大幅に抑制する必要があるが、途上国がこれを受け入れる可能性は極めて小さい

3、日本の温暖化抑制目標は達成できるか
2008年6月に発表された福田ビジョンでは、現在に比して2050年までに温室効果ガスの60-80%削減が提案されたが、EUのビジョンと同じく、実行は現実味を帯びていない。
省エネ技術の向上による一次エネルギー需要の1割低減、原子力発電所の新設によるエネルギー転換(※これは今後実現するか?)が大前提となる。
長期目標「現在に比して2050年までに温室効果ガスの60-80%削減」は実現可能な最大のシナリオかもしれない。

4、温暖化対策にどの程度のコストが必要か
(ア)2050年までに二酸化炭素の世界排出量を半減するために必要なコストは国民一人当たり
先進国:年間8万円、途上国:年間3万円
程度であり、非常に大きな負担である。

(イ)2050年までに二酸化炭素排出量を現在の程度に抑える場合、必要なコストは国民一人当たり
先進国:年間3万円、途上国:年間数千円
程度であり、現実性を帯びている?

いずれにせよ、国民一人一人に費用負担が発生することをよく認識しておくべきである

国際間で削減費用に偏りが見られると、産業の国際移転が起こりやすいというデメリットが考えられる。そのため、国際的にバランスの取れた削減目標を決めることが重要である。

地球温暖化の抑制に闇雲に躍起になるのではなく、無謀な削減目標も莫大な費用負担という形で後世に負の遺産となることも認識すべきである

5、経済的手段による温暖化抑制シミュレーション
環境税を日本において導入した場合のメリット、デメリット、そして具体的な費用負担のシミュレーションによる予測結果について。

メリット:二酸化炭素はエネルギーを消費する限りその燃料の量に比例して発生するため、燃焼形態に依らず容易に課税することができる。

デメリット:産業の国際競争力の低下、低所得層の負担増、既存のエネルギー税制と重複、炭素リーケージ

費用負担:福田ビジョンによる削減目標を達成するために環境税を導入したとすると、2025年において炭素1トンあたり数万円以上という高額の税が必要となり、経済的に大きなマイナス影響が生じる。
エネルギー効率が既に高い日本においては環境税の導入は費用負担が大きくなることを常に銘記すべきである。