John E. Dore, Roger Lukas, Daniel W. Sadler, Matthew J. Church, and David M. Karl
PNAS vol. 106 No. 30 (28 July 2009)
より。邦題をつけると「北太平洋中部における海洋酸性化の物理・生物地球化学的な調整」という感じ?
北太平洋に位置するハワイでは長期的に海洋の炭酸系をはじめとする種々の観測が継続して行われている。
ハワイでは大気中二酸化炭素濃度の長期モニタリングも行っているが、北半球の太平洋のほぼ真ん中に位置するため、人工的な大気汚染や海洋汚染が顕著な都市部の周辺海域と違い、全球的な気候変化を捉えやすいというメリットがある。
HOTではほぼ毎月のように決まった観測海域(ここではstation ALOHAの例を紹介)において表層から深層までの海水を採取し、様々な項目をある決まった手法に従って連続観測している。
この論文では主に
- CTD(温度、塩分、圧力)
- 全炭酸(DIC)
- 全アルカリ度(TA)
- pH
- pCO2
- リン酸濃度
- 硝酸濃度
- ケイ酸濃度
- 溶存酸素濃度
の測定値から、近年の海洋酸性化の影響を各深度ごとに議論している。
その中でも特に重要な発見は、「必ずしも表層が最も酸性化しているわけではない」ということ。
論文中では「pH」を海洋酸性化の指標として議論を行っているが、pHは直接測定される場合と、全炭酸・全アルカリ度(種々の栄養塩の寄与も考慮)から計算によって求める場合の2通りがある。
これら2通りのやり方に基づいて求められたpHの結果は極めて良く一致する(一般に0.01以下)。
一般に前者は25℃における測定値、後者は現場の(in situ)温度・圧力における値であるが、ハワイの年平均気温は25.1℃であるため、これらはほとんど一致することになる(pHには強い温度依存性がある)。
Dore et al. (2009) Fig.1 を改変。
上から、「海水の二酸化炭素分圧の変化」「表層水:0-30m のpHの時系列変化」「中層水:235-265m のpHの時系列変化」「深層水:970-1030m のpHの時系列変化」
中層水までは酸性化の影響が及んでいるが、深層水にはまだ影響は見られない。
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pHの季節変動は主に水温の季節変動が支配的であるため、水温変動を差し引いてやると、混合層の深度変化に対応する変動が見られる。
一般に深層水はpHが低いため、混合層が浅くなる冬はpHの低い深層水がより表層に貫入しやすくなり、表層のpHは低くなる。
逆に夏は表層が成層化し混合層が深くなるため、深層水の貫入が抑制され、pHは上昇する。
またここまでは物理的な過程だけを説明したが、実際には生物活動の寄与もある。
例えば、有光層には植物プランクトンやシアノバクテリアをはじめとする種々の光合成生物が棲息しているが、
- 呼吸 (CH2O + O2 → CO2 + H2O)
- 光合成 (呼吸の逆反応)
- 石灰化 (Ca2+ + CO32- → CaCO3)
- 炭酸塩の溶解 (石灰化の逆反応)
などが複雑に関係し、海水の炭酸系や栄養塩濃度に影響を与える。
また海洋表層で光合成によって生産された有機物は、より深層へ輸送さる過程で中層水で酸化分解されることで、海洋の中層水は酸素が消費され、二酸化炭素濃度が上昇し、より酸性度が増す(pHが低下する)ことになる。
Dore et al. (2009) Fig.1 を改変。 中層水で有機物が酸化分解される結果、酸素濃度は低下し、pHは低下する。 |
そのために最もpHが低い水は一般に深層ではなく中層水に存在する。
ハワイで捉えられた海洋表層水の酸性化の進行速度(年間0.0019の割合で低下)は大気中の二酸化炭素濃度の上昇率とほぼ一致しており、これは他の海域(バミューダ、大西洋中緯度域など)で捉えられた海洋酸性化の進行速度とも整合的である。
つまり、大気と海洋表層水の二酸化炭素の交換が効率よく行われていることを意味する。
中層水のpHには大きな季節変動が見られるが、これは物理過程と生物過程(特に生物源炭素の再石灰化と異なる水塊の移流による混合)が複雑に関与している結果と考えられる。
※コメント
案外大事な論文を読み落していたりする。
この論文は歴史上最も長いpHの直接観測記録をもとに海洋酸性化の影響を議論している。
海洋酸性化のほとんどの論文で目にするものの、実はまだ読んだことがなかったという。
僕が研究対象としているタヒチはハワイとは南北半球で対称的な海域に位置するため、ハワイ周辺の炭酸系の知見はタヒチにもかなりの部分が当てはまると考えられる。
どちらも深い太平洋に突き出た火山島、という意味でも海洋を支配する物理過程は似ている。
タヒチでは炭酸系の長期モニタリングは行われていないため、ハワイは重要な鑑となることが期待される。
中層水のpHには大きな季節変動が見られるが、これは物理過程と生物過程(特に生物源炭素の再石灰化と異なる水塊の移流による混合)が複雑に関与している結果と考えられる。
※コメント
案外大事な論文を読み落していたりする。
この論文は歴史上最も長いpHの直接観測記録をもとに海洋酸性化の影響を議論している。
海洋酸性化のほとんどの論文で目にするものの、実はまだ読んだことがなかったという。
僕が研究対象としているタヒチはハワイとは南北半球で対称的な海域に位置するため、ハワイ周辺の炭酸系の知見はタヒチにもかなりの部分が当てはまると考えられる。
どちらも深い太平洋に突き出た火山島、という意味でも海洋を支配する物理過程は似ている。
タヒチでは炭酸系の長期モニタリングは行われていないため、ハワイは重要な鑑となることが期待される。