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2013年7月19日金曜日

セミナーメモ(2013.7.19)

今回は海外からのビジターを招いての、特別セミナー。

1人目はイギリスBangor Universityの博士課程の学生Sophie Wardさん

2人目はLDEOからOxford Universityに移ったSamar Khatiwala博士

◎1人目
Wardさんは潮汐や風のモデリングをしている。
基本的には将来の海水準上昇が潮汐に与える影響まで考慮して、沿岸部に及ぼす悪影響や、潮汐発電のポテンシャル(潮位差が直接発電量につながるため)を評価したいというのが研究のモチベーション。

将来予測では、海水準が2m上昇した際に、イギリス沿岸部の潮位差が世界的に見ても大きい湾でどのように潮汐が変化するかをモデルシミュレーションしていた。
その影響は20〜30cm程度。

2mの海水準上昇というのはかなり大きい推定だとは思うけれど、沿岸部の場合は海水準の上昇が潮汐にそれほどの影響が生じ得るというのには興味深かった。

またLGM以降の海水準上昇もまた潮汐を変化させたということ。
彼らの研究グループ(九州大のグループも共同研究している)では、モデル(氷床+地殻変動+海水準変動)を使ってLGM以降の各時代の氷床量、海水準、潮汐の変化を再現していた。
対象地はイギリスで、北部にBritish-Irish氷床があり、やや離れた北東にスカンディナビア氷床があったために、near-fieldで海水準の変動が氷床による地殻への荷重や氷床そのものの重力、マントル流動などによってより複雑化する場所でもある。

モデルの結果は12ka以降しか示していなかったが、氷床の存在が潮汐に与える影響を再現するのが難しいのかもしれない。氷床が融け終わってからの潮汐の差を示していた。

モデルの精度を高めるために、堆積物コアを使ってなんとか潮位を復元したいと考えていて、今のところ使えそうな’粒度分析’に着目している。
潮位差が大きいと流速が大きくなり、砂粒がより細かくなる、といった論理だったと思う。
ただ、誰もが思ったことだとは思うけれど、粒径分布を支配するのはおそらく流速だけではないはずなので、かなり難しいのではないかと感じた。
また放射性炭素年代測定の結果が1年待たないと出ないこと、コアの記載が間違っていてコアが反転している可能性があること、モデルにどうやって過去の風速などをインプットすればいいのか、などかなり多くの問題に直面しているようだった。
GHG・日射量・エアロゾル・etcをモデルに組み込みたいということで、阿部彩子さんにアドバイスを仰いでいたが、そこまで複雑化したい理由があまり分からなかった。

自分の研究対象地であるタヒチのすぐそばには無潮位点があり、どうやらLGMにも無潮位だったらしい。それはいい知らせだ。

◎2人目
Khatiwalaさんはどこかで聞いた名前だな、と思っていたら、何本か論文をチェックしている、海水への人為起源炭素の取り込みをモデリングしている方だった。

Reconstruction of the history of anthropogenic CO2 concentrations in the ocean
S. Khatiwala, F. Primeau & T. Hall
Nature 462, 346-349 (19 November 2009)

Global ocean storage of anthropogenic carbon
S. Khatiwala, T. Tanhua, S. Mikaloff Fletcher, M. Gerber, S. C. Doney, H. D. Graven, N. Gruber, G. A. McKinley, A. Murata, A. F. Rıos, and C. L. Sabine
Biogeosciences, 10, 2169–2191, 2013


グリーン関数(Green Function)という数学的手法を用いて、海水中の人為起源CO2の分布を求めていた。
横山先生の話によると、海水準変動のモデリングでは比較的よく使われる手法らしいが、海洋循環に応用された例は初めて見たという。

中身はさっぱり分からないが、海洋内部のある地点(緯度・経度・深度)にものが運ばれてくるまでの時間の確率密度をもとにした手法らしい。
種々の化学トレーサーや物理量(CFC・栄養塩・塩分など)をインプットにすることで、海水の流れが分かり、それをもとに生物を介した炭素輸送がないことを仮定して(※かなり大胆な過程だと思うが)、海水面から炭素が内部へと運ばれるさまをモデリングするのだそうだ。
彼のHPにも話していた内容が細かく書かれていたので驚いた。

計算は産業革命前から現在までを対象にしており、その間の生物活動の変化・大気海洋循環の変化は一切考慮されていない。
これまでに得られた他の推定結果とも整合的ということらしい。
Takahashi et al. (2009)による表層pCO2による方法、
Sabine et al. (2004)による人為起源DICとバックグラウンドのDIC(GLODAPデータ)の差異化による方法など。

何故アウトプットが正しく(?)出てくるのかはよく分からないが、そんな手法もあるのだということで、興味深かった。
岡顕さんの質問で、「最近南大洋でも偏西風や、それに伴う海洋循環の変化が報告されているが、それが人為起源炭素に与える影響はないのか」というものがあったが、答えは’ほとんど影響しない’であった。
あとで横山先生とも軽く話したが、おそらく影響はあって、原理上、海洋循環はモデルに組み込めていないために影響がないと言うしかないのか、
或いは影響はあるかもしれないが、それを実証できるほどにモデルの精度がないのか、が正しいのではなかろうか。

最後に、産業革命前の海洋表層水のpHの推定法について尋ねてみた。
GLODAPではバックグラウンドのDIC(人為起源のDICを差し引いたもの)を報告していて、それを使えば計算で求まるということらしい。
また彼のモデルの結果もメールでくれると言っていた。ちょっと連絡してみよう。

あとはちょっとしたメモ。

・海における炭素の交換の時間スケールは、表層だと1週間〜1ヶ月だが、深層水だと1,000-2,000年と桁が大きく違う

・海洋のDICリザーバーは非常に大きいため、海洋酸性化は招いているが、人為起源のDICの追加分は、バックグラウンド2,300 μmol/kgにたいして’わずか’50 μmol/kgの変化だということ。シグナル/ノイズ比が小さい。

・陸域生物圏が吸収した炭素量を見積もれる手段はあまり多くない。化石燃料排出量と海水が吸収した量、大気への蓄積量から推定することができるが、化石燃料排出量は各国の統計値に基づくため、もともと誤差が大きい。また海洋の炭素取り込み量も手法によって値がばらつくため誤差がある程度大きい。結果として、陸域の炭素吸収量の推定にも大きな誤差が伴う。