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1、新着論文 2、論文概説 3、コラム 4、本のレビュー 5、雑記(PC・研究関連)
6、気になった一文集(日本語English) 7、日記(日本語English) おまけTwilog

2012年11月6日火曜日

新着論文(GRL, JGR, PO, BG)

※横山研の新着論文担当箇所より

○G3
Dynamic process of turbidity generation triggered by the 2011 Tohoku-Oki earthquake
Noguchi, T., W. Tanikawa, T. Hirose, W. Lin, S. Kawagucci, Y. Yoshida-Takashima, M. C. Honda, K. Takai, H. Kitazato, and K. Okamura
東北沖地震の1ヶ月後に震源域の直上付近で非常に懸濁した底層水が確認され(地震前の10倍程度)、地震による地滑りによって生じたと考えられる。堆積物が薄くても非常に早い加速度を持った地震であれば海底地滑りが発生することを示している。

○GRL
Recent changes in the dynamic properties of declining Arctic sea ice: A model study
Zhang, J., R. Lindsay, A. Schweiger, and I. Rigor
1979-2006年平均と比べると、2007-2011年平均の北極の海氷量は体積が33%減少し、厚さも特に西部で薄くなっている。その結果、氷の流出速度と崩壊速度がそれぞれ13%、17%早まっている。海氷の物理特性は複雑で、海氷の端を正確に予測するのは難しいらしい。

Sea level trends, interannual and decadal variability in the Pacific Ocean
Zhang, X., and J. A. Church
1993年から行われているほぼ全球の海水面の高度計のデータを用いて、太平洋における海水準の経年変動・数十年変動を分けて議論。赤道西太平洋で海水準の上昇速度が特に早いのは、数十年スケールの気候変動の結果と考えられる。また東赤道太平洋やアメリカ西海岸の海水準の上昇率は無視できる程度である。変動の大部分はENSOとPDOによって説明可能らしい。

The fingerprint of human-induced changes in the ocean's salinity and temperature fields
Pierce, D. W., P. J. Gleckler, T. P. Barnett, B. D. Santer, and P. J. Durack
海洋の塩分分布は主に蒸発・降水・河川流入によってコントロールされているが、近年人間活動によって変化しつつある。1955-2004年の60ºS-60ºNに挟まれた地域で得られたデータをもとにモデルと観測データの解析を行ったところ、気候の内部変動(ENSOやPDOなど)や外部強制力(太陽活動や火山噴火など)では説明できない変動成分があることが分かった。

Sensitivity of equatorial mesopause temperatures to the 27-day solar cycle
von Savigny, C., K.-U. Eichmann, C. E. Robert, J. P. Burrows, and M. Weber
赤道域の中間圏のOHの回転温度(OH rotational temperatures)に27日の太陽周期が確認された。また11年周期の感度とも非常に良く一致するため、同様のメカニズムによって太陽の27日・11年周期が中間圏の温度の変動を駆動していると考えられる。

○JGR-Oceans
Improving sea level reconstructions using non-sea level measurements
Hamlington, B. D., R. R. Leben, and K.-Y. Kim
潮位計・人工衛星の高度計・水温データを併せて1900年から現在までの太平洋の海水準変動を復元。PDOや赤道太平洋のENSOの成分も海水準変動にはっきり現れており、特に水温変動を含めたほうがここ50年間の変動復元が改善するという。

Oxygen trends over five decades in the North Atlantic
Stendardo, I., and N. Gruber
CARINA、GLODAP、World Ocean Databaseの海水の酸素濃度の測定データから、1960年から2009年までの北大西洋の酸素濃度の長期トレンドを調査。表層水・モード水・中層水はすべて酸素濃度が低下しているのに対し、中層水下部・ラブラドル海水は酸素濃度が増加していた。大気交換や溶解度の変化が原因として考えられる。

○Paleoceanography
Vital effects in coccolith calcite: Cenozoic climate-pCO2 drove the diversity of carbon acquisition strategies in coccolithophores?
Bolton, C. T., H. M. Stoll, and A. Mendez-Vicente
円石藻のカルサイトの殻はサイズによって酸素・炭素同位体の値が異なることが報告されており、いわゆる生体効果と考えられている。しかし二酸化炭素濃度が高い状態で飼育を行うと生体効果が小さくなることが示されており、この事実はPaleoceneの温暖期(CO2濃度が高かったと考えられている)の円石藻の生体効果が小さかったこととも整合的である。Paleocene-Eocene thermal maximum (PETM)、last glacial maximum (LGM)、Plio-Pleistocene transition (PPT)の堆積物コアから産出する円石藻の殻をサイズごとに分け、同位体分析を行ったところ、PETMには生体効果が小さく、LGMとPPTには大きい(~2‰)ことが示された。円石藻の生体効果の殻サイズ依存性でpCO2を復元するのは難しそう。PETM後のpCO2の減少(新生代の寒冷化)に適応するための炭素取り込みの多様化が起こった結果かもしれない?

○Biogeosciences
Influence of CO2 and nitrogen limitation on the coccolith volume of Emiliania huxleyi (Haptophyta)
M. N. Müller, L. Beaufort, O. Bernard, M. L. Pedrotti, A. Talec, and A. Sciandra
栄養塩をふんだんに与え、窒素を制限した状態でpCO2を変えた水槽下で円石藻(Emiliania huxleyi)を飼育実験。pCO2が高いほど有機物の生産量は増えるが、一方で石灰化量は減少した。円石藻のサイズとpCO2との間に明瞭な相関は見られず、堆積物コアなどから得られた化石の円石藻のサイズの変化を解釈する際には注意が必要である。

N2O emissions from the global agricultural nitrogen cycle – current state and future scenarios
B. L. Bodirsky, A. Popp, I. Weindl, J. P. Dietrich, S. Rolinski, L. Scheiffele, C. Schmitz, and H. Lotze-Campen
反応性の高い窒素(Nr)は植物の生育に重要であるだけでなく、自然の生態系に大きな擾乱を与える。人為起源の汚染を抑制するためにも農業を起源とするNrの長期的な変動を理解することは重要である。モデルシミュレーションから、農業起源のNrのほとんどが自然へ流出していることが示され(人類に摂取されているのは10%以下に過ぎない)、将来の一酸化二窒素(N2O;温室効果ガスの一つ)排出量も2095年までに大きく増加することが予想される。

Silicon stable isotope distribution traces Southern Ocean export of Si to the eastern South Pacific thermocline
G. F. de Souza, B. C. Reynolds, G. C. Johnson, J. L. Bullister, and B. Bourdon
南太平洋の103ºW線に沿ってδ30Siを測定。冬期の混合層のδ30Siが高い値を示すのは珪藻の生物生産の強化が原因で、その高い値はさらにSAMW/AAIWの沈み込みに伴い中層水へ取り込まれる。中層水のδ30Siは保存されているため、南大洋の表層から低緯度へSiが輸送されていることを物語っている。一方で東赤道太平洋のδ30Siは低い値を示し、「北太平洋を起源とする中層水の混合」と「表層で生産されたSiの再鉱物化(remineralization)」を示唆している。また太平洋の深層水全体でδ30Siの値が均質なのは、Siの溶解プロセスのδ30Siに対する寄与が無視できる程度であることを暗示している。