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2014年1月11日土曜日

『地球環境を映す鏡:南極の科学』(神沼克伊、2009年、ブルーバックス)

地球環境を映す鏡:南極の科学
神沼克伊
ブルーバックス、2009年(¥900-)

著者は極地研・総合研究大学院大学名誉教授の神沼克伊 氏。
固体地球科学の専門で、これまでに何度も南極を訪れている。

本書はこれまでの南極探検誌、これまでに得られた重要な科学的知見、南極の暮らしを紹介する。


固体地球に話が偏っているかと思いきや、実は南極の生態系、氷底湖の存在、オゾンホール、隕石の発見史、火山活動、化石発掘など、幅広い話題に触れられていることが特徴的である。

本書を通じて南極のことを学ぶことで、より南極が身近に感じられるかもしれない。


飲料水・トイレの確保の話題など、日本での生活とは全く異なる暮らしを想像するのも面白い。

すべてが有限であることを自覚して我慢するのも悪くなく、私はその感覚が身についたことも、南極に行って得た財産の一つだと考えている。(pp. 197)


僕自身が期待していたような、気候変化に関する話題にはそれほど多くは触れられていない。
著者自身、南極における環境変化の原因についてはほとんど私見を述べておらず、あくまで慎重な態度で臨んでいるという印象を受けた。

南極の気候変化について、大きな話題を呼んでいる研究成果を以下に列挙しておく。

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1、西南極における急速な温暖化
Central West Antarctica among the most rapidly warming regions on Earth
地球で最も急速に温暖化している西南極の中央部
David H. Bromwich, Julien P. Nicolas, Andrew J. Monaghan, Matthew A. Lazzara, Linda M. Keller, George A. Weidner & Aaron B. Wilson
Nature Geosci. http://dx.doi. org/10.1038/ngeo1671 (2012)
西南極中央部に位置するByrd基地における記録は、1958年から2010年にかけて同地の気温が「2.4 ± 1.2 ℃」上昇したことを示している。南半球の夏にも有意に温暖化している(特に12月から1月にかけて)ことが初めて示され、融解が起きる季節と一致している。西南極氷床の融解は海水準上昇に大きく寄与すると考えられているため、しっかりと監視しなければならず、観測をより強化する必要がある。
>関連した記事(Nature#7431 "RESEARCH HIGHLIGHTS")
West Antarctic warming hotspot
西南極の温暖化のホットスポット
西南極は1958年から2010年の間に約2.4℃温暖化し、地球で最も早く温暖化している地域の一つとなっている。Bromwich et al.は散在する気温の観測データ(Byrd基地で得られたもの)をもとにモデリングも組み合わせて西南極の気温データを作成した。1年を通じて気温が上昇していることが分かり、融解を招いていることが予想されている。
>関連した記事(Nature Geoscience#Feb 2013 "News and Views")
The heat is on in Antarctica
南極において温暖化のスイッチが入る
Eric J. Steig & Anais J. Orsi
南極半島のみが近年温暖化をしていると考えられていたが、西南極も同様に温暖化していることが注意深い研究から明らかに。

2、東南極氷床の不安定性が示唆?
Dynamic behaviour of the East Antarctic ice sheet during Pliocene warmth
鮮新世の温暖期における東南極氷床の動的な振る舞い
Carys P. Cook et al.
Nature Geoscience 6, 765–769 (2013)
IODP318が東南極のAdélie Landで採取した堆積物コアから、5.3-3.3Maに南大洋のSSTが上昇し、高い生物生産を伴っていたことが示された。また同時にWilkes Subglacial Basinの浸食が強化されており、氷床が数100m内陸に後退していた可能性が示唆される。鮮新世の温暖期には東南極氷床は温暖化に対して敏感であったと考えられる。
>関連した記事(Nature Geoscience#Sep2013 "News and Views")
Palaeoclimate: East Antarctica's Achilles' heel
古気候:東南極のアキレス腱
Claus-Dieter Hillenbrand
Cook et al.の解説記事。
東南極氷床は地球の氷床の中でもっとも安定だと信じられてきた。東南極沖の堆積物コアの地球化学的な組成の変化から、氷床の縁辺部が5.3-3.3Maの間に350-550kmにわたって繰り返し後退していたことが示唆されている。
>関連した記事(Sciene#6144 "News of the Week")
East Antarctic Ice Sheet Not So Stable?
東南極氷床はそれほど安定でない?
 グリーンランド・南極氷床の融解は海水準上昇へと繋がる。科学者らはこれらの氷床の安定性を評価するために、地球が現在よりも温暖であったPliocene(鮮新世;5.3-2.6Ma)に着目している。当時、海水準は22m高かったと推定されており、氷床が現在よりも大規模に縮小していた可能性を物語っている。
 一般に西南極氷床は不安定で、現在も融解が確認されているが、東南極氷床は安定だと考えられていた。しかしながら、ロンドンのImperial Collegeの学生Carys Cookらの研究グループが東南極氷床沖で採取された堆積物コア中のPlioceneのSr・Nd同位体記録を調べたところ、氷河が大きく後退していたと思われる記録が見つかった。
>関連した記事(Science NOW)
East Antarctica's Ice Sheet Not as Stable as Thought
考えられていたほど安定でない東南極の氷床
 長く’安定’だと思われていた東南極氷床が温暖化に対して敏感かもしれないことを示唆する研究結果が得られた。British Antarctic SurveyのClaus-Dieter Hillenbrandによれば、「Plioceneは大気中CO2濃度が高く、温暖であった時期のため、地球温暖化の最も最近のアナログとなる」という。
 IODP318が2009年に東南極沖で採取した堆積物コアのSr・Nd同位体記録には、現在は氷で覆われているWilkes Subglacial Basinが浸食を受け、沖まで運ばれていた期間が複数あることが記録されている。これはいくつかのモデルが示唆するような、東南極氷床が安定であることを否定する結果となった。ただし、堆積物コア記録の時間解像度は荒く、現時点では数百年・数千年といった時間スケールで東南極氷床が融解するかは判断がつけられないという。また氷河が前進・後退を繰り返したのか、或いはしばらくの間露出していたのかもまだ分かっていない。より多くの堆積物コアが必要とされている。

3、南極半島における急速な温暖化
Recent Antarctic Peninsula warming relative to Holocene climate and ice-shelf history
完新世の気候と比較した最近の南極半島の温暖化と棚氷史
Robert Mulvaney, Nerilie J. Abram, Richard C. A. Hindmarsh, Carol Arrowsmith, Louise Fleet, Jack Triest, Louise C. Sime, Olivier Alemany & Susan Foord
Nature 489, 141–144 (06 September 2012)
ここ50年間で南極の温暖化と複数の棚氷の崩壊や氷河の後退が確認されているが、温暖化は東南極に顕著な特徴で、西南極ではあまり確認されておらず、西南極から得られる古気候記録は南極半島の気温を代表していない可能性があった。今回南極半島先端近くに位置するJames Ross島から得られたアイスコアの水素同位体(δD)から過去14kaの気温を復元したところ、南極の気温は完新世初期の温暖期のあと、9.2-2.5kaは比較的安定しており、その後2.5-0.6kaに寒冷期を迎え、この時に棚氷が発達したと考えられる。現在の温暖化のペースは明らかに自然の変動を逸脱している(前例がない)。現在間氷期の安定期と同程度にある気温が将来も上がり続けると、棚氷を不安定化させ、さらなる溶解へと導くと考えられる。またそうした不安定はより南下し南極半島の深奥部まで広がっていくだろう。
>関連した記事(Nature#7414 "NEWS & VIEWS")
Brief but warm Antarctic summer
短いが暖かい南極の夏
Eric J. Steig
南極のJames Ross島で掘削された氷床コアの酸素・水素同位体の測定から得られた気温記録は、南極半島における最近の温暖化傾向の原因について再考の必要性を示している。これまで南極の昇温の原因はオゾンホールの形成に伴う大気循環の変化と考えられてきたが、温暖化の傾向は人類がCFCsを排出するよりも前の1920年代から始まっている。またこのタイミングは南極の他の地域や南半球の温暖化のタイミングとも一致している。統計的にもこれが自然変動とするには無理があるため、確信を持って異常な温度上昇であると結論づけられる。将来の温度上昇についてはまだ不明なところが多いが、二酸化炭素によるわずかな放射強制力が南極の温度上昇には大きく効いている可能性が高い。

4、南極周辺の海氷拡大
Important role for ocean warming and increased ice-shelf melt in Antarctic sea-ice expansion
南極の海氷拡大における海の温暖化と棚氷の融解量増加の重要な役割
R. Bintanja, G. J. van Oldenborgh, S. S. Drijfhout, B. Wouters & C. A. Katsman
 氷は高い反射率と熱に対する絶縁性をもつため、海氷の変化は気候にも大きな影響を及ぼす。北極は海氷が後退しているが、逆に南極周辺は拡大している。その原因は従来大気循環の変化であると考えられてきた。
 棚氷の融解が最も大きく寄与していることを観測から示す。特に表面を覆う融水が下層で棚氷を融かしている暖水(気温が極端に低いため、南極では表層水が冷たく、深層水が暖かい)との混合を遮断していると考えられる。このプロセスは気候モデルからも再現された。この負のフィードバックは南半球の温暖化を抑える働きがある。地域的には大気循環が重要だが、全体的には棚氷の融水が大きく寄与しているらしい。海氷拡大で南極の降雪量は低下し、海水準にも影響するかも?
>ナショナルジオグラフィック ニュース
南極の海氷面積増加、その意味は?(October 15, 2012)
南極で海氷拡大、主因は棚氷の融解?(April 2, 2013)